2014年3月26日、東洋大学大手町サテライトにて、第6回セミナー「東京都知事選挙におけるインターネット選挙運動」を開催しました。
当日は、講師を含め40名を超える参加者にお集まりいただき、3人の講師によるプレゼンテーションと参加者全員での全体討論が行われました。
はじめに、松田馨氏(選挙プランナー/株式会社ダイアログ代表取締役社長)から、家入一真陣営の取り組みについて講演をいただきました。
- 選挙プランナーとして、2006年の滋賀県知事選挙(嘉田候補)以来、多くの選挙に関わってきた。滋賀県知事選挙では、ネットの効果は限定的だったが、Google Analyticsなどを使って効果測定はできた。新人候補が現職に勝利し、翌日のテレビ報道からアクセス数が急増した。
- 今回は、告知日の二日前に家入一真陣営から依頼があり、違反者を出さない、ボランティアに参加してもらう、参加して楽しかったと言ってもらう、の三つを目標に選挙活動を展開した。普段は100%勝つのが目的で仕事を請けるが、今回は勝つ気がないからできたことである。
- 西田先生の主張する漸進的改良主義で選挙運動を展開した。Twitterハッシュタグで政策を募集し、「ぼくらの政策」としてまとめあげたのも、それである。スタッフは20代後半が多く、彼らには漸進的改良主義は当たり前の感覚だったようだ。Code for Japanのメンバー等、プログラミングスキルのある人たちがボランティアで応援してくれ、選挙ポスターを張るためのアプリ「ポスター祭り」(1万4千カ所をGoogleマップで表示)、「期日前投票祭り」などが次々生まれた。これらは、次の選挙でどの候補も自由に利用できる。
- 発信より受信に力を入れた。受信に力をいれている候補者は今まで少なかったが、家入陣営はキャッチボールを重視した。Twitterでやり取りするのは、有権者との双方向のコミュニケーションであり、候補者は握手のかわりという位置づけで行っていた。
- クラウドファンディングは目標500万円に対して、744万円(692人賛同)を集めることができた。政治資金規正法に違反しないため、寄附ではなく、売買契約という形にした。500円(イベントへの参加)、8000円(選挙カーで候補者とドライブ)、50万円(講演+グッズセット)などが商品で、50万円の講演を6名(内、候補者の友人が3名)が購入してくれた。小口購入よりも本人の人脈が生きた形である。魅力的なギフトをどうつくるのかが課題である。
- オープン、フラット、フリーが家入選対の理念であり、「面白いから参加」から「参加から行動へ」と、有権者が移行するように促した。選挙は候補者から有権者、有権者から他の有権者への熱伝導であり、ネット選挙運動もそれを重視した。
続いて、音喜多駿氏(東京都議会議員/みんなの党東京都議会第6支部支部長)から「ITの活用で 政治と政治家はどのように変わるか」と題した講演をいただきました。
- 政治家になりたいと始めたブログの経歴は10年で、BLOGOSでは地方議員トップブロガーになった。2013年の東京都議会選挙では、ネットを駆使してボランティア400名を動員し、寄附も400万円集めることができ、初当選した。
- 時には炎上することもあるが、その中から勉強できるし、次に発信する際には備えられるので、政治家はネット利用をためらうべきではない。政治家の役割は、人々の声を集約し政策形成に反映することだ。選挙運動は政治活動の一部であり、普段からネットを使うことが必要である。インターネットはツールであると同時に新しい政治空間であり、いつも街頭演説している駅の数、事務所の数が一つ増えたと認識すれば、利用に対するためらいは減る。
- ネットで発すべき情報は、近況報告のようなすぐに忘れられるフロー型ではなく、ストック型の主張、考察、分析記事であるべきだ。それを積み上げていけば、記事はいつの間にか一人歩きし、発信した政治家への注目度が自然に醸成される。FacebookやTwitterは、検索エンジンと同様に、ブログに誘導するために利用すべきである。政治家という立場だからこそ語られる情報を発信すべきである。ネット上では都議会の情報は少ないので、有意なポジションを占めることができた。
- 東京都知事選挙を見て、ネットだけで勝てるものではない、地上戦につなげる導線にすべきだったと感じた。民主主義における選挙は、最良の候補を選ぶのではなく、相対的にましな候補を選ぶものだ。舛添候補はネットでも地上戦でも一番まともだったので、当選した。一方で、「突撃!おときた駿がゆく!都知事候補者に全員会いますプロジェクト」で、講演者は多数な反響を集めることができた。
続いて、立命館大学の西田亮介特別招聘准教授から講演をいただきました。
西田亮介氏(立命館大学特別招聘准教授)の講演資料はこちらにあります。
- 情報社会論をテーマに、データを元に、研究している。ネット選挙運動の解禁についても毎日新聞と共同でデータ分析するなど、研究を進めている。本人の基本的立場を要約すると、ネット選挙運動解禁はさらに進めるべき、クラウドファンディングはグレーゾーンで政治資金規正法改正が必要、電子投票については慎重などである。
- ネット選挙運動解禁には二つの側面がある。動員のためのネット選挙運動とネット選挙運動を切り口にした政策過程の透明化であり、個人的な興味は後者である。ネット選挙運動は公職選挙法を改正して実現したが、それによって、均質な公平性とする旧来の選挙運動と斬進的改良主義を旨とするネット選挙運動が一つの法律の中に併存することになった。その結果、法律を横断した大局的な知見はなくなり、また、この先、放送法の下での放送とネット動画との関係や、領域横断が容易なウェブサービスの規制が困難である問題などが起きてくると思われる。
- クラウドファンディングについて、実質的に寄付ではないのか、楽天LoveJapanが献金者のデータを渡しているのは問題ないのかといった見方ができる。政治資金規正法上はグレーゾーンであるが、クラウドファンディングを進めたいと考えているので、むしろ政治資金規正法の改正を求めたい。
- 2014年東京都知事選挙について毎日新聞との共同研究し記事になった。記事にも書いたが、発信力、拡散力、話題力、メディア露出、注目度、関心度などといった項目で、主要候補はそれぞれ異なる特性を持っていた。また、世論調査では知事選の争点の関心では景気と雇用だったが、Twitterで候補に関連して投稿された内容の多くは原発・エネルギーであった。世論調査とのずれは、仲間の間でコミュニケーションが連続しやすい主題の総量が増えているためと解釈できる。原発、憲法、安全保障がそれに相当する。
- Google Trendsの動向では、家入陣営は検索対象にもなりきれなかったし、10万票と得票率2%の壁を超えられたわけでもない。しかし、政治家のつぶやきの「くだならさ」がネット以外の媒体でも報道できるようになったという点(ネットの衆人環境性)は、政治の透明化に役立った。この先、時間が経過し、情報が蓄積すればより有益なものになるだろう。
後半は、山田肇東洋大学教授(電子行政研究会副委員長)の司会で、参加者も含めた全体討論、意見交換が行われました。
ネットを介した政治家と有権者の双方向的な関係の構築について
- ネッ選挙運動トと従来型選挙運動にどちらに力をいれるべきかについて、当面は従来型優先で一致した。しかし、ネット選挙運動にはコストをかけずに最低限のことができるという特質があり、優先度はいずれ変わっていくだろうという意見が大勢を占めた。
- どの選挙に出るつもりか、当選ラインを見極めたうえで、ネット選挙運動を実践すべきだという意見が多かった。参議院全国比例や東京地方区が適していると意見や、国政選挙は政党支持率に左右されるので全国比例区が有効とは言えないという意見、23区内の区議選に可能性があるという意見、政令指定都市の首長選挙が適しているといった意見が交錯した。
- 家入陣営はネットで政策を募集したが、政策の整合性をどうするのかという指摘があった。政治家の活動は日々有権者の声を集めることであり、政治活動として告知日前に取り組んだのであれば評価できたという意見も出た。政治家の役割の一つに苦渋の決断をするということがあるという指摘に対しては、政治家の決断は大事な仕事だが、有権者に納得してもらうことが必要で、そのためには対話が欠かせないという意見もあった。
- 双方向性について、ターゲット広告の手法を導入するといった、今後の可能性にも議論が及んだ。自民党がIPアドレスを読み取ってトップページを組み替えたなど、すでに工夫は始っている。メールマガジンの配信などについて、より新しい戦術が開発される余地があるという結論になった。
- 日本では匿名が当たり前だが、そんな状況でも双方向性は実現できるのかという質問が出た。これに対して、匿名なアカウントには返信はせず、身元が明確な場合は丁寧に返すといった実践例が紹介されたが、一方で、政治家は公人であり、非対称性は当然で、政治家は匿名を気にするべきではないという意見も出た。わが国では党議拘束が強いため党所属議員は独自意見を言いにくいということが、双方向性の支障になるという意見も出た。
クラウドファンディングについて
- 日本には個人献金の習慣がないので、クラウドファンディングは迂回ルートとも考えられる、という意見が出た。現行の政治資金規正法をきちんと読めば、クラウドファンディングは寄付にあたるのではないかという意見が出た。これは、クラウドファンディングを否定するものではなく、限りなくグレーなので、公権力が恣意的に運用する恐れがあると指摘するものであった。
- 政治資金パーティーと比較して、政治資金パーティーで集められない人がクラウドファンディングを使うという指摘が出た。ただし、クラウドファンディングを寄付として扱うと、政治資金規正法に基づく規制がかかり、匿名献金の排除、外国人献金の排除などの反映に三ヶ月もかかるため、今は寄付ではなく売買契約として扱うしかないという説明もあった。
公職選挙法の改正について
- 日常的な政治活動でいくら金を使っても規制されず、選挙期間にだけ総額規制がかかるのはおかしい。日常を含め、グロスで規制する必要があるとの意見が出た。公職選挙法が時代に追いついていない、選挙運動期間の再定義が必要であるとの意見が強かった。
- 国会議員は今のルールで当選してきているので、自ら変えるインセンティブがない。それを変えるためには、メディアを動かす必要がある、という意見も出た。関連して、新人候補はどのように選挙運動をしていくのか、投票行動のパラメータを数値化できるのかといった質問も出た。これについて、ネットは数値化できるので効果測定しやすいという一般論の上で、リスティング広告での誘導が最後の三日間でのアクセス数の増加に結び付いたという川崎市長選の実績などが報告された。ネットの可能性を信じるべきで、黎明期だからチャンスがあるという意見も出た。
- ネット利用は、ニコニコ動画で立候補会見を放送するのが常識化したように、模倣されやすい。だから、ネット利用では横並びになるの、それ以外のリソースでの影響が必要となる。マスメディアで報道されやすい現職が有利なのはそのためだ、という説明があった。一方で、事前の世論調査では政策が第一で、人柄は第二と回答する有権者が、出口調査では人柄(総合的な判断)を重視したと回答するという傾向が指摘された。ネットでの政策に関わる言論活動はまだ信頼されていないという指摘があった。
討論によって、ネット選挙運動には政治の透明化をはじめ様々な可能性があるものの、まだ有効に活用されているとは言い難く、法改正も含めたさらなる取り組みが必要との認識が共有された。