電子行政研究会ワークショップ「オバマ陣営のメディア戦略と戸別訪問」 海野素央明治大学教授

電子行政研究会では、参議院選挙におけるインターネット選挙運動を検証し選挙制度の改革を提言する目的で、勉強会(ワークショップ)を連続して開催しています。20131126日には明治大学海野素央教授に「オバマ陣営のメディア戦略と戸別訪問」について講演いただきました。勉強会には20名が参加し、活発な意見交換が行われました。

海野教授の主な主張点は次の通りです。

  • 2008年と2012年の大統領選挙、2010年の中間選挙で、オバマ陣営に選挙ボランティアとして参加した。特にコネがあったわけではなく、選挙事務所に出向いて申し出たのだが、オバマ陣営は多様性や包含(インクルージョン)を標榜していたので、快く受け入れてもらえた。
  • オバマのネット選挙は情報を受信することから始まる。年齢・性別・人種・大統領への親近感などを絞り込んだうえで、カスタマイズされたメッセージを発信する。日本では情報発信チャンネルが増えたと解釈され、「今日も頑張ります」の類のメッセージをやたらと発信していたが、オバマは違った。相手が大学生なら「学資ローンの利上げを阻止しよう」というのがカスタマイズされたメッセージである。医療制度・移民制度・学資ローン・気候変動などについて、相手に合わせてメッセージを送っていた。
  • ネットの利活用は若者を取り込む。2008年には、誰を副大統領に指名したかをメディアより先にネットに流した。2012年には、有権者登録をした若者の50%が投票した。オバマは人々の意見を傾聴する。そのうえで政治的なアクションを取る。だから、「僕らが進めてきた医療制度改革を止めてはならない」というように「僕ら(We)」を強調する言い方になる。それで、若者が燃え上がる。
  • 選挙運動のもう一つの柱が戸別訪問。選挙管理委員会から過去の投票行動情報付きで有権者名簿を入手し、たとえば民主党支持者だが時々しか投票に行かない人に狙いを絞り、戸別訪問する。戸別訪問も、相手の意見を傾聴し受容し、共通する価値観を見出すように行う。相手が自ら進んで投票に出向くようにするのだ。コミットメント(投票に行く約束)を得たら、サインをもらい、投票日の1週間前にコミットメントカード(約束カード)を相手に郵送する。過去の投票行動情報付きで有権者名簿など日本なら個人情報保護の対象となるだろうが、米国では入手は容易で、州によっては無償である。
  • 民主党支持者だが時々しか投票に行かない人のフェースブック友達を探し、友達から話をするという方法も取る。ネット選挙運動と戸別訪問はこのようにして連動・融合している。
  • 戸別訪問でどんな政治課題に関心があるか、どんな意見を持っているかを聞く。それが、政策立案に利用される。ここにも傾聴の姿勢がある。それが有権者の政治意識を高め、積極的参加をもたらす。戸別訪問の利点は、教育的側面・投票率アップ・政治意識と参加・ボランティア運動家の育成・若者の参加・ネットとの連動などである。選挙ボランティアの大半は若者であり、大学を一年間休学しているものもいる。活動することの意義を若者が理解して、ボランティアとして参加するのだ。
  • 戸別訪問は組織政党に有利という意見もあるが、実際は、組織政党の壁を破るのが戸別訪問である。顔を合わせて政治の話をすることで有権者の意識が変わり、政治家への親近度を強め、それで組織政党の壁を破ることができるのだ。
  • わが国で戸別訪問が認められていないのは間違っている。そんな国は中国とサウジアラビア位。戸別訪問には買収の危険があるなどと言う意見もあるが、すぐにツイッターで拡散するから歯止めがかけられる。ビッグデータ解析・有権者名簿の活用・戸別訪問、それにネット選挙運動が連動し、政治家と有権者が双方向でコミュニケーションをとるように変革していかなければならない。