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セミナー「医療分野でのICTの活用:IT企業の貢献」

主催:情報通信政策フォーラム
日時:1010日(水曜日)1830分から2030
場所:ワイム貸会議室四谷三丁目 会議室B
講師:浜田 哲(日本電気株式会社 社会公共BU未来都市づくり推進本部シニアマネージャー)
司会:山田 肇(ICPF 

浜田氏の講演資料はこちらにあります

冒頭、浜田氏は概略次のように講演した。

ヘルスケア分野のトレンド

  • ヘルスケア(健康・医療・介護分野全般)は、未曾有の超少子高齢化と人口減少により改革待ったなしの状態にある。医療費・介護費の適正化や新産業の創出など、次世代ヘルスケア産業の創出が期待されている。
  • 政府は次世代ヘルスケア・システムの構築を掲げ、『未来投資戦略2018』にも明記された。すべてを公的保険に頼るのではなく保険外サービスを活用することや、オンライン医療・ケアの充実させていくためには、ICTの技術革新をフル活用していくことが重要となっている。
  • ヘルスケア分野には国、自治体、民間企業など多くのステークホルダーがおり、それぞれ関心の高いキーワードがある。国が掲げるデータヘルス改革関連の政策には10の改革メニューがあり、AIや医療等分野における識別子といったテーマが列記されている。自治体はEBPMに注目している。
  • ヘルスケア分野でのICT活用は「健康寿命の延伸」と「持続可能な社会保障制度」といった社会的課題解決につなげていくことが必要である。未病・予防のケア、0次予防、EBxEvidence-Based XXX)、セルフケアやウェルネス志向の行動変容などを進めるべきである。

ヘルスケア分野におけるICT活用事例

  • NECが取り組んでいる事例では、AIやビッグデータ(BD)分析といった技術を活用している。
  • 倉敷中央病院では来年6月に予定している「予防医療プラザ」オープンに向け、健診結果をAI分析し、予測シミュレーションを行うNEC健診結果予測シミュレーションを活用した共同活動を開始している。健診結果データと生活習慣データを基に、AI技術を使って1年後・2年後といったスパンで健診結果の予測(リスク)をシミュレーションする。生活改善シミュレーションでは、例えば「食べるのが速い」と言う受診者には「食べないとこんな病気の発症リスクが上がる」「もっとゆっくり食べてみてはどうか」といった指導を行い生活改善につなげる。ICTツールを使って見える化することで、保健指導を受ける人を増やし効果をあげている。
  • 医療法人社団KNI(北原国際病院)とは、医療の現場での課題解決にAIを活用することに取り組んでいる。現在取り組んでいるのは、ベッドにいる患者の転倒等「不穏行動」の予兆を事前検知することで事故防止につなげており、実証では不穏が起きる40分前の時点で71%が検知可能となった。また、退院支援の退院予測も行っており、このようなケアを行うとどれくらいで退院できるかを予測することで、入院期間を短くしベッド調整もやりやすくなる。
  • 湘南慶育病院では外来待合室で問診をタブレットで行っている。いずれは自宅からも同様の問診や診療を受けられるようにする「Hospital in the Home」の実現につながるサービスになると考えている。
  • 国立がん研究センターとはAIを活用したリアルタイム内視鏡診断サポートシステムの開発に取り組んでいる。深層学習型AIにより、内視鏡の画像から「ポリープの確度○○%」といった情報がリアルタイムで表示され、医師の診断をサポートする。
  • 0次予防、社会疫学的な視点では千葉大学予防医学センターの近藤教授と共同研究を行っている。近藤教授らが行っているJAGES(日本老年学的評価研究)は、3年に1回、自治体を通じて高齢者を対象に独自調査を行っており、厚労省の調査(介護予防・日常生活圏域ニーズ調査)に不足しているデータを収集している。2016年の最新調査では、41自治体、20万人からデータを収集し、延べ50万人分のデータを蓄積している。JAGESの研究成果の一例として、スポーツ等の社会参加が高い割合の地域は転倒や認知症・うつのリスクが低いといった傾向が明らかになった。前期高齢者のIADL低下者の割合は市町村で2倍以上の格差があり、郊外で悪化者が多いことが分かった。都市部は歩く人が多く、郊外ではある人が少ないことが影響しており、エビデンスが積みあがってきた。また、単に社会参加といっても、コミュニティ内で何らかの「役職」を持った活動(特に定年退職後の男性が顕著!)や、比較的会話の少ないジョギングやカラオケよりも会話が弾む旅行やゴルフなどの活動の方が、認知症等のリスクが低い傾向にあるという、興味深い結果も出している。
  • JAGESでは地域ごとに分析した結果から地域診断書を作成し、エビデンスをベースにして地域ごとに適切な支援事業を行うことができるよう、PDCAサイクルを回していこうとしている。
  • 自治体などが保有しているデータだけの分析ではなく、バイタルデータも加えてより深い分析をしたいというニーズに対応するため、ヘルスケアベンチャー企業であるFiNCと共同研究している。靴やインソールに搭載したセンサーから歩行の様態を把握して健康状態を知るという研究に取り組んでいる。歩数や歩速だけでなく、歩容からいろいろなことがわかるのではないかと考えている。

ICT企業にとっての課題

  • 個人情報保護法改正のポイントを整理すると、第一に個人データ利活用が目的としてより明確になったことがある。第二に「要配慮個人情報」が新設されて、機微情報のグレーゾーンが明確になった。また、匿名加工情報が新設されたことでデータ活用や第三者提供がしやすくなった面もある。
  • k-匿名化は、個人が特定される確率をk分の1に低減して、他情報との照合から個人を特定することを防ぐ技術のひとつである。匿名加工データを利用することで、病院、製薬会社、保険事業者等が新しい価値を創造していくことができる。
  • NECではデータ匿名化ソリューションを開発し、適正な匿名化を簡易化している。過度な匿名化はデータ価値を損なうこともあるため、適切な匿名加工のチューニングが求められている。
  • IT企業としては改正個人情報保護法によりグレーゾーンが小さくなり、利活用を委縮してしまうということから開放された部分もある。一方で、個人情報保有組織のICTリテラシーを高めることについてIT企業として支援していくことも重要である。
  • 産官学の連携も増えており、官が保有するデータを利用して分析することも多くなっている。しかし、学術研究を生業とする学術機関と異なり民間企業ではデータの取り扱いで配慮すべきことが多い。例えば自治体のデータを民間企業が取り扱うには、自治体の条例改正や議会審議会が必要な例もあり、ハードルが高いことは確かである。

ICT活用に期待されること

  • ICTが定常事務作業を自動化するRPAClass1)により、職員はより高度な業務に時間が割くことができるようになる。また、属人的な専門スキルをICTが補填することも可能で、EPA:Enhanced AutimationClass2)と言われる、医療現場の意思決定を支援するAI技術の実用化が進んでいる。CA:Cognitive AutomationClass3)と言われる、意思決定まで自動化する技術はコールセンターの自動応答などで始まっているが、医療現場での導入はまだ難しい。
  • 次世代ヘルスケアでは、すべての施策で「エビデンス」が必須となっている。現在は、行政機関が自ら保有しているデータをフル活用するということになっているが、最終的にはそれでは足りないと思われる。価値を生むために必要なデータをどう収集するかが重要であるが、住民や利用者の本人同意が得られることが必須となる。また、情報銀行と呼ばれる構想のように、個人が信頼できる機関にデータ(資産)を預託し、適正なインセンティブが付与されることも進めていくべきであろう。

講演の後、以下のような質疑があった。

データ収集について
Q(質問):収集する目的を最初から設定しておかないと、いくら集めてもゴミになってしまう。ビジネスとしてのデータ収集はしているのか?
A(回答):今回紹介したFiNCのような企業は、利用者向けサービスや広報等を充実化させて個人の健康志向の意欲やニーズを高めながら、利用者が測定したバイタルデータや体組成計のデータをクラウドにあげてもらうことで大量データを収集できるビジネスモデルを確立しつつある。民間でデータ収集するビジネスは国内で次々と生まれている。一方で、GAFAに対抗するには1企業レベルではなく、国レベルでも、どのように質の高いデータを収集したり連結したりするかを検討しないと、社会課題を解決するための十分な量を得ることは難しいだろう。
C(コメント):ドコモから「カラダのキモチ」というアプリがでているが、女性の基礎体温データを収集し、それに基づくアドバイスしている。数百万人のユーザがおり、本人のメリットもありながらデータ収集も可能なビジネスモデルになっている。今後は、このようなデータと医療機関の持つ医療データを結びつけるといったことを考えていくことが必要になる。また、バイオバンクを構築している国立がん研究センターでは、外来患者すべてにバイオバンクの登録を依頼し生体試料を収集している。未来のがん治療のためにという目的を理解して、ほとんどの患者が協力してくれているという。
QNECでは医療情報を俯瞰した報告書を出していたが、目的ごとにDBができてしまっていて連携ができていない。精緻なデータ分析のために、何をキーにしてデータをつなぐかが見えてきていない。国のやり方はまだ足りないと思うが?
A:国のデータヘルス改革では、「医療等分野における識別子」が議論されており、被保険者番号を世帯単位から個人単位化するとともに、「公的医療保険加入(被保険者番号)の履歴」を国が一元的に収集して、これをマスターにすることが決まっている。生活保護受給者や外国人は含まれないが、12000万人強のインデックスは把握できるはずである。しかし、過去に蓄積されたデータは十分に連結して分析することはできない。今後蓄積されていくデータはこれから長い年月をかけた新たなコホート研究にも活かせる可能性がある。民間としては、国としてこういう取り組みを期待したい。
QPDSや情報銀行では過去の情報を預けることになるが、どのような利用シーンでのインセンティブが考えられるか。
A 学術研究や製薬等での利用も考えられるが、本人同意が原則なので、PHRやセルフケアのために自分で自分の情報を預け、自分の受益のために自分の判断でデータを利用することが分かりやすいケースだと考える。なお、情報銀行の名のとおり、データという資産の預託には信頼が重要なので、金融機関が参画するケースがでてきている。 

AIの信頼性について
Q:米国FDAは、AIを利用した医療用ソフトウェア等に対しては、利用を重ねると改善されるのが前提になるため、ソフトウェアそのものではなく、改善努力を重ねる開発組織を認可する方向に転換した。日本はどうだろうか?
A:日本には現行の医師法の下、AIシステムはあくまで医療従事者の支援に限定されることになる。AIが診断等の結果責任や改善責任を負うことまで求めるのは難しいのではないかと思う。皆さんのご意見もお聞きしたい。
C:米国では最終判断までAIができる場合もあると聞いている。
C:哲学論に近くなるが、「AIがどこまでやるか」を「誰が決めるのか」ということになる。最終的には、患者が「どこまで受けたいのか」になるのではないか。「医師の判断とAIの判断、どっちがいい?」と患者が聞かれたら「AI」と回答する人もいるかもしれない。倫理面の問題はあるが風邪など軽微なものはAIに任せる、がんではAIは支援にとどめるといった切り分けがエビデンスを蓄積することでできるようになるのかもしれない。
C:総合科学技術イノベーション会議の下に設置された人工知能技術戦略会議では、人間中心のAI社会原則がとりまとめられている。その中では、開発者の社会に対する説明責任も掲げられている。
C:富士通が開発しているAIでは、AIが提示した回答の根拠を示すことできるとあったが、今後はそのようなことが重要になるのかもしれない。
ANECもすでに「異種混合学習」というAIエンジンを持っており、なぜそのような結果を導き出したかというロジック・説明因子を説明できるホワイトボックス型のAIを実用化している。今後、このようなAI技術は重要になる。 

開発中のサービスについて
Q:お話を聞くとケア(予防)でなくキュア(治療)に注力されているように思うが、将来的にはケアが重要になると思う。ケアのためのサービスの部分の議論はどうか?
A:今日は医療現場の事例を多く挙げさせていただいたが、ケアに関連する取り組みも増えている。今後はキュアよりケアが重要になるのは先述のとおり。自治体と協働している事例でも、地元のフィットネスセンターや薬局チェーンといった地域産業を活性化していく政策立案に対してエビデンスを提供することがある。
また、今回紹介した健診データを利用した従業員の健康予防の事例は、健康経営の視点で、会社の中の各事業部の残業時間、ストレスチェックの結果などを数値化し、働き方改革につなげるケアの例である。
高齢者向け、特に独居生活の方向けには、フレイル予防や認知症予防のためタブレットを使ってコミュニケーションを支援するロボットの実用化を計画している。利用者の顔の画像や音声等を収集・分析し、体調や行動の変容に気づいてフォローしてあげれるようになるかもしれない。 

ヘルスケアビジネスの可能性について
Q:医療機関と協働しているが事例があったが、ビジネスとして考えると医療機関からお金をいただくという形がメインになるのか?
A:これは難しい問題である。医療機関と協働している事例は、かなり先進的なもので、全国の医療機関で導入(投資)するには難しい点もあると思っている。その一つの要因としては、日本では公的保険制度(医療の場合は診療報酬や公費負担、地方単独助成等)の恩恵が手厚すぎることが挙げられる。将来のビジネスとして成立できるようになるには、国が進める公的保険外のサービスをどう増やすかという部分にも大きく関連してくると思われる。
C:経済産業省は、予防・健康管理に投資することでトータルの医療・介護費を減らしていこうとしている。そのためにもヘルスケア産業の創出が重要と考えているので、IT企業のビジネスが予防・健康管理に力を入れればチャンスが出てくるだろう。
QIT企業の貢献と観点で、AIによるケアはやってみても結果がわからないということも多い。私もIT企業勤務だが、無駄なことをやるのが大きなIT企業の役割だったりするのではないかという話もある。どう考えるか?
A:ケアはアウトカムを定量的に測りにくい(その評価指標が目下の課題)であり、足の長い取り組みである。個人的には、すぐにビジネスに結びつく話ばかりではないと思う。中長期的に社会に役立つ貢献活動も重要であると考えている。
C:前回の講演にあったが、国連SDG’sへの貢献が企業として重要になっている。投資ファンドには、SDG’sに貢献している企業を対象とするファンドを組んでいる例もある。株式市場での企業評価を高める意味でも重要だ。
Q:現状の医療システムがいつまで維持できるかは怪しい。希望になってしまうが、合理的な形で医療費削減につなげることができるのがICTであるので、IT企業に頑張ってもらいたいと思っている。
A:公的なサービスで提供されていたものを「自分で支払ってください」という方向に転換するのは急には難しいと思う。現在の日本の公的保険制度が手厚すぎるため、それに甘えてしまう習慣が根強いためだ。しかし、近年はアウトカムが重視され、介護では予防への取り組みに対する努力支援制度、医療保険でもインセンティブ制度が導入されるようになってきており、効率化や適正化へ取り組みを後押ししている。
C:国保データを地域ごとに分析し公開するようになって、自治体が自分たちの姿を見つめ直すことにつながっている。ビッグデータ分析レベルではあるが、こういうことが重要である。
Q:地方自治体の職員だが、困っているのは健康無関心層へのアプローチである。健診を受けない、病院に行かない人たちのデータをどうやって集めるか、彼らに対する政策をエビデンスベースで行いたいが暗中模索である。
A:確かに大変難しい政策課題の一つだと思う。その中でも、JAGESではポピュレーション・アプローチとして要介護認定を受けていない65歳以上を対象としているが、70%もの回答率は関心の高さを表しているように思う。ご指摘のように、課題となるのは若年層である。特に社会保険加入者(会社の従業員)は健診勧奨が効きやすいが、国保の方は難しい。今回紹介した健診結果のシミュレーションは自治体でも期待が広がりつつあるが、健診率向上等の施策にICTを活用して貢献できることは現状限りがあると感じている。
C:弘前大学COIでは、2週間後に結果が送られても行動変容につながらないとの仮説から、健康診断のその場で結果が出てアドバイスをすることで効果をあげようとしている。中小企業が多い荒川区では、パチンコ屋さんの前で短い時間で健康診断するなど「押しかけ」型の施策を取って健康無関心層にアプローチできないか考えていた。

セミナー「医療分野でのAI・IoTの活用:欧米の動向を中心に」

主催:情報通信政策フォーラム(ICPF
日時:823日木曜日1830分から2030
場所:ワイム貸会議室四谷三丁目 会議室B
東京メトロ四谷三丁目駅前、スーパー丸正6
講師:笹原英司(ヘルスケアクラウド研究会理事)
司会:山田 肇(ICPF 

笹原氏の講演資料はこちらにあります。

冒頭、笹原氏は次のように講演した。

  •  わが国の場合、ヘルスケア関連の実証実験でデータを収集しても、政府からの助成金が途切れるとそこで終了するケースが多い。一方、グローバル・プラットフォーマーは継続的に大容量のデータを蓄積しており、データマネタイゼーションの強みを活かしながら、AIIoTの持続的成長につなげることが可能である。。
  • ヘルスケア分野ではWell-beingがキーワードで、国連が設定したSDG’sの達成目標にも健康長寿やヘルスケアデータ利活用が含まれる。これを達成するためにはICTが必要であり、グローバル・プラットフォーマーはそれを理解した上で企業戦略を立て、研究開発や事業化を進めている。
  • 米国では、最初はクラウド環境を利用したSaaSSoftware as a Service)型医用画像分析プラットフォームの形でFDAの承認を取得し、その延長線で、AIをアドオン導入することによって、医療機器としてのAI承認の実績作りが行われている。
  • 23andMeという遺伝子検査のベンチャー企業がFDAからサービス停止命令が発出されたことがあったが、後日、欧州でCEマークを取得し、それを基に米国FDAの承認を受けている。ヘルスケア関連の新しい技術は米国から出てくることが多いが、レギュレーションの動きは、英国など、欧州の方が早いケースも多い。
  • オバマ政権時代に成立した21世紀医療法に基づいて、Breakthrough Devicesの規定ができた。この仕組みを利用して、2018411日、FDAAIを利用した眼底画像分析ソフトウェアを医療機器として承認している。リスクが「低」~「中」レベルの医療機器については、Breakthrough Devices規定で迅速承認ができるようになった。こうして、FDAは規制当局からイノベーション当局に変わろうとしている。
  • 医療AIは、眼科の領域からでてくることが多い、非侵襲検査が多いことと、検査から治療に至るまでのプロセスが明確化されていることが背景にある。医療AIは、検査・診療プロセスが標準化・機械化されたところから導入しやすい。2016年には、googleが深層学習による眼底写真解析結果を論文発表し、エビデンスとして認められている。英国もNHS傘下の医療施設を中心に、放射線科や眼科でAI利活用を進め、組織全体のデジタルトランスフォーメーションの契機にしようとしている。
  • ITUは、2018年にSDG’sの一環として 、医療へのAI適用について会合を開いた。医療関係団体ではなくITUが会合を開いたということからも、IT業界がグローバルに取り組むトピックに医療が組み込まれていることがわかる。日本の医療業界のスピードは2年ごとの診療報酬改定をサイクルとして回ってきたが、デジタルヘルスは情報通信業界のスピードで速く動いている。
  • モバイルヘルスの取組は特に糖尿病領域で進んでいる。ただし、最近、米国NISから、モバイル型電子カルテのセキュリティガイドラインが発行されたように、クラウド利用を前提とした多層防護型のセキュリティ体制構築が必須となっている。
  • AppleOSのバージョンアップを契機に、ヘルスケアの新機能を追加してくるのが特徴である。現行のiOSは、HL7で開発された相互運用性を重視した規格であるFHIR準拠の機能を備えている。この機能を軸に、米国内の主要医療機関との連携を進め、パートナーの医療機関によりPHRサービスがリリースされている。
  • メガプラットフォーマーは、APIを介したデータ連携が特徴であり、これをどう標準化するのかという政策を米国は進めている。英国も、電子政府の共通基盤をベースに、医療APIの標準化を進めている。
  • IoTは個々のデバイスに注目が集まるが、そこで収集したデータをどう活用するかでマネタイズできるかの分かれ目になる。日本は、個別技術は高いが、分析フェーズにおいて複数分野にまたがるデータを統合・分析するところが遅れている。今後は、API標準化が鍵である。
  • 米国保健福祉省(HHS)傘下で、医療の質に関する研究を担う医療研究・品質調査機構(AHRQ)は、電子健康記録(EHR)に蓄積されたデータや患者生成データ、モバイルデバイスから収集されたデータといった「リアルワールドデータ(RWD)」から、「リアルワールドエビデンス(RWE)」を創出するための評価研究に取り組んでいる。このような取組が進むと、データの付加価値が上がり、マネタイズしやすいものになっていくからである。
  • FDAはデータを集めただけではダメで、IoTデータの質が重要であることを強調している。収集モデルの設計段階から検討しなければ、質の高いデータは集められない。
  • AHRQが糖尿病のモバイルヘルスアプリを調査した結果、エビデンスの質と量が課題であることがわかった。例えば、11のアプリのうち、糖尿病の重要な検査指標であるHBA1cがモニタリングされているものは5つのみであり、これでは十分な結果を出すことができないとしている。プライバシーに関しても、iOSAndroidではプライバシーポリシーが異なり、開発者からのデータ保護に関しても取扱が異なるケースが見られるなど、課題が多い。
  • 糖尿病は合併症が多いため、心疾患、脳卒中などの患者データや医療支出データを合わせて収集・分析することが多い。複数変数を有するソーシャルデータの分析に長けたGAFAが、その経験・ノウハウを活かせる領域として、糖尿病関連領域を注視するのも当然と言える。
  • ヘルスケア分野のドローン利用は、人道支援から入ってきている。ロボットも災害支援から入ってくることが多く、その視点で見ていかないといけない。医療でのドローン利用は、米国ジョンホプキンス大学が進んでいる。
  • インドでもドローン利用の実証実験が行われているが、最終ターゲットとしてアフリカ市場を狙っている。医療インフラがない過疎地域では、ドローンやロボットが必要となる。ドローンによる医薬品輸送では、医療科学アウトカムに加えて、医療経済アウトカムのエビデンス化に向けた研究も進んでいる。
  • 海外では、デジタルヘルス・ディスラプションが推進されており、欧州は、域内で構築したプラットフォームを域外へパッケージ輸出する戦略を採っており、エストニアはその先鋒的な役割を担っている。米国では、メディケア・メディケイドにおける電子カルテ普及推進のために実施してきたMUMeaningful Use)のインセンティブプログラムを「相互運用性の促進(Promoting Interoperability)」に転換しようとしている。
  • WHO20185月に発表した「Digital Health Resolution」はインドが主導的立場を果たし、エストニア、イスラエルといったテクノロジー先進国に加えて、発展途上国・新興国も参加している。WHOは、国際的にデジタルヘルスを推進するための計画を策定し、優先領域を特定することになっている。
  • FDA21世紀医療法に基づき、20177月、医療ソフトウェア(SaMDSoftware as a Medical Device)規定を明確化するためにガイドラインを発行した。このSaMDガイドラインは、もともとEUがスタンドアローンを前提に提案し、採択されたものであるが、米国はネットワーク接続を前提にしたガイドラインに仕立てている。
  • またFDAでは、デジタルヘルス関連ソリューションに対し、従来の製品評価ではなく、それを開発する企業のプロセス評価に移行することを念頭に置いて、「ソフトウェア事前認証プログラムを開始した。FDAでは、医療機器の市販前審査を担当する部門と市販後安全対策を担当する部門が分かれているが、これを統合する方針を打ち出すなど、組織全体のデジタルトランスフォーメーションにつなげようとしている。
  • FDAの事前認証プログラムは、20184月に公表した作業プログラムで、構成要素に「リアルワールドパフォーマンス」を追加した。ここでは、パフォーマンスデータに加え、UIUXやインクルージョンの視点が必要となる。
  • AI開発で考えると、学習用インプットデータ、解析アルゴリズム、学習済みモデルとなり、学習用インプットデータは著作権で、解析アルゴリズムは特許で、学習済みモデルは営業秘密の三段階で守ることになる。解析アルゴリズムの特許が切れても、学習用インプットデータを押さえていれば、競合他社が事実上困難なケースが想定される。

最後に笹原氏は講演を以下のようにまとめた。

  •  GAFAにとって、AIIoTは新技術の一部でしかなく、プラットフォーム上でどのようにしてマネタイズ・事業化するかに注力している。その上で、健康医療分野におけるSDG’sの目標達成に活用しようとしている。
  • AIに対する医療機器承認は、きちんとエビデンスを出せるものから、どんどん進んでいる。
  • 医療IoTでは米国+新興国市場と糖尿病領域をベンチマークする必要がある。
  • 医療分野のAIIoT活用は相互運用性とAPIの標準化がカギとなる。

講演の後、以下のような質疑があった。

SDG’sに関連して
Q(質問):SDG’sの話はAIIoTという話の流れからは非常に異質に感じたが、どのような背景なのかをもう少し教えてもらいたい。
A(回答):Green by ITという話でも、GAFAは、北欧に次々とデータセンターを作っている。北欧は、税金の高い国であるが、再生可能エネルギー100%で電力を生み出す体制が整備されており、DNA解析など、非常に電気を使う領域でも、環境に配慮したデータセンターを運営できる。このようなインフラを活用すれば、SDG’sに対するパフォーマンスも相対的に高くなり、株価に反映されやすくなる。一見コスト高だが、全体でみれば企業価値を押し上げるという視点である。日本のICTベンダーもやるべきことはある。カルフォルニアの巨大投資ファンドは、SDG’sの貢献で企業を評価するとしており、大きく変わってきている。日本の大きな機関投資家は、保険会社であるが、日本も変わっていくかもしれない。
C(コメント):日本ではまだSDG’sに対して理解が少ない。欧米では、SDG’sが共通の評価指標になっている。 

AIIoT活用に関連して
Q23andMeは、FDAに中止されるまで格安で遺伝子検査サービスを提供し、赤字でも大量のデータを収集した。これは、学習用データセットを押さえたということになるのか?
A:その通りである。医療データは学会ごとに収集するケースが多く、従来のメディカル企業では消費者から直接データを収集するのは難しい。消費者と直接コンタクトできるgoogleだからこそできた。
C23andMeの保有する特許の数は非常に少ない。学習用データセットを押さえ他社がマネできない状況にするほうに企業として力を入れている。
Q:佐賀大学のメディカルノベーション研究所では、眼底写真により内蔵疾患も発見できるということで画像データを大量に収取し、AI分析することを始めている。しかし今は実験である。このようなことは欧米ではもう診療の中でやられているのか?
A:診療用医療機器の要素技術として位置づけるべきだが、日本の場合、事業化の前で止まってしまっていることが多い。
Q:心臓のペースメーカなどの通信も標準化されているのか?
A:サイバーセキュリティ対策で注目される分野となっていることから、医療機器メーカーと医療施設が連携して標準化・効率化に取組む動きが加速している。
QIoTで収集したデータをAI解析し、異常があれば介入するということになるのか?
A:そうである。糖尿病は合併症が多いという話をしたが、これは多変量解析が必要な領域となるということであり、データソースが増えて、データの複雑さが増せばAIのニーズは大きくなる。
Q:米国の進んだ医療機器が日本市場を席捲してしまうという可能性はないのか?FDAで承認されていれば、PDMAですぐに通過するということになりそうである。
APDMAは製薬・医療機器メーカーをリタイヤしたエンジニアでカバーしてきたが、AIなどの先進的な医療機器について仕組みを深く理解している人が圧倒的に不足している。特に問題なのはセキュリティで、問題が起きてからでは遅い。日本で承認された医療AIFDAで審査する場合、セキュリティ対策の詳細が説明できないと駄目である。メイヨークリニックやカイザーパーマネンテは独自で医療機器調達のセキュリティ基準を策定している。韓国の医療機器規制当局も、眼科領域の新製品開発などでは、当局自らベンチャー企業に働きかけて、革新的な医療機器として申請するための支援を積極的に行ったと聞いている。新しい医療機器が申請されなければ、規制当局自身の仕事がなくなるということから、危機感も大きい。
QMSWindowsは製品として完成しておらず、日々、パッチがでて更新されるものである。FDAの事前認証プログラムも、AIなどを使った医療機器はどんどんと変わっていくという意味で同じ考えである。ここから、製品ではなく、企業のプロセスを評価するという形に変えていったのか?
A:もともと、米国では、FDAが、医療分野で利用される汎用OSのセキュリティガイドラインを出しており、OS側の責任とアプリ側の責任の境界をはっきりさせている。 

医療データ規制に関連して
QAppleOSPHRのサービス機能がでてきているとあったが、患者データはクラウドにあるのか?
A:クラウドを想定している。汎用OSのケースと同様に、OS側の責任とアプリ側の責任の境界を明確化している。
Q:個人を識別する番号が重要だと思うが、米国ではどうしているのか?
ASSN(社会保険番号)を利用することが多いが、保険会社や医療グループが独自に附番しているケースもある。ただし、昨今は、サイバー攻撃の標的となっており、注意が必要だ。
Q:日本では医療データは医療機関のサーバー内に格納されているが、欧米ではクラウドにデータが保管されているのか?
A:米国はオバマ政権の時に中小企業向けに、コストが安く、専門家がいなくても運用できるクラウドの方が優位性があるとのことで推進してきた。
Q:日本もそうなるのか?
A:厚労省も含めた政府機関全体が、「クラウド・バイ・デフォルト原則」の方向性であると聞いている。
Q:メイヨークリニックなどは独自セキュリティポリシーがあるとのことであるが、日本の医療機関が米国のソフトウェアを導入したらどうなるのか?
A:米国の主要医療機関の場合、インハウスにエンジニアがおり、プログラム開発や実運用ができる体制を持っている。日本は医療機関内にエンジニアがいないケースが多く、導入しても、米国内のように現場で運用できない可能性がある。。
Q:データの二次利用について、医療機関が持つ大量のデータを、後から、別の目的に使いたいということになるとどうしたらいいのか?
A:英国のDeepMindは、IC(インフォームドコンセント)の取得に不備がある状態で、データを利用していたことが発覚し、データ保護委員会から違反を指摘されている。ICを取る際には、一次利用と二次利用を明確に分けて取ったほうが望ましい。日本はここが曖昧である。また、結果のフィードバックも重要である。欧州はデータ保護規則が発効し、「忘れられる権利」がある。当初、データ提供していた人が「辞めるのでデータを消去してくれ」ということがないようにつなぎとめていかないといけない。コミュニティマネジメントが重要である。消費者参加型のオンラインコミュニティ運営は、GAFAが強い分野でもある。米国では、サイバー攻撃でデータ流出したインシデントが続発しており、100億円以上の損害賠償金を科せられたケースもある。
QWHOのデジタルヘルスの推進活動は、アナログのUHCもできていない発展途上国が参加していた。彼らは、先進国が通った道でヘルスケアインフラの構築はできないと思っているのか?
A:発展途上国はスマートフォンの普及率が高く、そこからモバイルヘルスとなっている。銀行もない、電気もないというインフラ不十分の状況だからこそ、モバイルヘルスが重要となる。
QPHRの国際標準はあるのか?
A:世界共通の規格はないが、米国は積極的にやろうとしている。
Q:米国FDAがイノベーション当局になろうとしているとあったが、もう少し教えてほしい。
A:オバマ政権でと話したが、これについてはトランプ政権も、保健医療行政機関のデジタルトランスフォーメーションにおける目玉施策として積極的に取り組んでいる。トランプ大統領は自分自身が起業家であることもあり、ビジネスを広げる話は関心があるのかもしれない。
Q:日本政府がやるべき一手は?
A:日本一国では無理である。日本と組みたい国・地域はたくさんある。このような国・地域と一緒にやる仕組みを作ることである。

 

シンポジウム「放送制度改革の行方」

主催:情報通信政策フォーラム(ICPF)
日時:7月10日火曜日18時30分から20時30分
場所:ワイム貸会議室四谷三丁目 会議室A
東京メトロ四谷三丁目駅前、スーパー丸正6階
講師
原 英史(規制改革推進会議投資等ワーキング・グループ座長)
小池政秀(株式会社サイバーエージェント常務取締役)
鈴木祐司(次世代メディア研究所所長)
司会:山田 肇(ICPF) 

冒頭、原氏が講演資料を用いて次のように講演した。

  • 所掌ごとに府省が分かれているため、「ここはわが省だが、これは別」というように各府省が反応して大きな改革が進まない。放送制度改革も総務省、経済産業省、文化庁などにまたがっているので、一向に進まない。そこで、規制改革推進会議では、関係府省と折衝し、どこが何をいつまでにやるのか改革の工程表を確定する仕組みにしている。
  • 放送制度改革は、通信と放送のさらなる融合といった技術革新と国境を越えたコンテンツ流通という国際競争に対応して、放送の事業環境や制作現場の課題を解決し、Society 5.0における放送の未来像を切り開くためのものである。
  • 投資等WGで検討の間、「放送が政権に逆らえないようにするための改悪だ」といったような記事が多く出ていたが、われわれは政治的公平を求める放送法第4条の改正などは一切議論していなかった。
  • 通信と放送の枠を超えたビジネスモデルの構築、グローバル展開・コンテンツの有効利用、制作現場が最大限力を発揮できる環境整備、電波の有効利用の四本柱が答申された。

次に小池氏が講演資料を用いて次のように講演した。

  •  AbemaTVは、ネットを使って、20チャネルのプロコンテンツを無料で24時間配信している。今、流れているコンテンツを楽しむリニア型の視聴にもオンデマンド型の視聴にも対応する。
  • AbemaTVアプリのダウンロードは3000万、月間利用者数(MAU)は1100万を超えている。35歳以下が過半数を占める。視聴形態はリニア視聴がメインで、21時から23時の視聴が多い。多くはWiFi環境で接続し、スマホでの視聴が65%を占める。他のデバイスでも視聴できるようにマルチデバイス化に動き、リモコンにAbemaTVのボタンが付いたテレビが最近発売された。
  • リリース期、立ち上げ期、成長期とビジネス戦略を変えてきた。リリース期には他の動画配信に埋もれないようにファン軸を形成するのが重要だった。立ち上げ期には看板コンテンツを作り出すとともに、チャネルごとの編成力強化に動いた。成長期には、内製帯のバラエティ・ドラマのヒット数を増やすように、また定期的に話題となるコンテンツを流すようにしている。
  • その先で、オリジナルコンテンツの強化・ニュースの充実などを図っていきたい。「麻雀見るならAbemaTV」というように一番目に想起されるメディアになるのが目標である。また、AbemaTVがプラットフォームの役割を果たすというのも目標で、外部パートナーが制作した優秀な外部コンテンツが流せれるようにしたい。

最後に鈴木氏が講演資料を用いて次のように講演した。

  • 放送の導入当時には文化の機会均等・教育の社会化・経済機能の敏活などに役割を担っていた。その後は、公共の福祉への貢献、民主主義の健全な発展などが強調された。そして今、新しい時代の放送の在り方が問われている。
  • 放送制度改革の第一歩はNHKのEテレをBSにあげることと、Eテレ番組の同時配信と見逃しアーカイブを実現することである。衛星とネット配信で「あまねく」という要求に対応できる。Eテレは99%全国コンテツであり、約2000の中継局を介した放送は非合理である。小中学校の講義で使う教育的コンテツこそVODが相応しい。
  • Eテレの地上波跡地は、ローカル局などが全国向けに週一回1時間の番組を送信するのに利用できる。ローカル局に全国発信の機会を提供するとともに、新ビシネスへの挑戦を可能にする。地域情報の全国発信の先には海外へ発信がある。放送時間枠をオークションにかけることもできる。
  • Eテレ跡地での番組の送出は地上波ネットワーク会社が行う。やがてはハードとソフトが分離され、コスト減・安定運用・新規ビジネスに結びついていく。

次いで会場参加者も加わり議論が行われた。主要点を記録する。

通信と放送の融合は進むのか

  •  AbemaTVのような動画配信がビジネスとして成長し、若者はスマホでコンテンツを視聴する時代である。NHK番組の同時配信も、できる限り多くの国民に届けるというNHKの本来意義に応えるものである。
  • スポンサーは効果に比例してしか広告費を投じない。県域放送で視聴世帯数が限られれば広告費は集まらない。民放は費用が掛かることなどを懸念しているが、県域を越えてネット配信して新しい視聴者を獲得する可能性は理解している。
  • 沖縄の民放が観光案内を流せば国内観光客が増えるかもしれないし、インバウンドも増加する可能性がある。そのようなことが新ビジネスに結びついていく。

地上波放送への新規参入は起きるのか

  • EテレをBSに上げることについて学校現場は抵抗しないだろう。見逃し配信・VODがあれば、授業の中での利用に便利だからだ。
  • できる限り多くの視聴者にリーチしたいと考えれば、動画配信事業者が地上波の跡地に参入する可能性もある。また、地上波ネットワーク会社のようにハード専門の事業者が生まれれば、ハードとソフトの分離につながっていく。
  • 電波は有効利用する必要がある。跡地は放送に利用させると限定する必要はなく、そのほうが有効なのであれば通信に用いてもよい。

放送と著作権

  • 動画配信の場合にはバックグラウンドで流す音楽一つから使用許可が必要で、テレビ局がJASRACと包括契約を結んでいるのと比べて不利な状況にある。著作権法の改正が必要である。
  • 無線放送、有線放送と技術が進歩するごとに条文を付け足して著作権法はひどい状態になっている。動画配信でまた条文を付け足すのは適切ではない。

動画配信のコンテンツ規制

  • テレビでは過剰な性表現や暴力は放送法第4条によって許されない。一方、動画配信事業者も過剰な性表現や暴力を慎む自主規制をしている。
  • コンテンツごとに、必要性に応じて、性表現や暴力の表現の程度を変える自主規制を行い、視聴者の声に耳を傾けていけば、大きな問題は生じない。

セミナー「ICTで獲得する学習に困難のある子どもの学び」

主催:情報通信政策フォーラム(ICPF)
共催:ウェブアクセシビリティ推進協会(JWAC)
日時:5月25日金曜日14時から16時
場所:ワイム貸会議室四谷三丁目 会議室C
東京メトロ四谷三丁目駅前、スーパー丸正6階
講師:
近藤武夫(東京大学先端科学技術研究センター准教授)
大島友子(日本マイクロソフト株式会社プリンシパルアドバイザー)

近藤氏の資料はこちらにあります。 大島氏の資料はこちらにあります。

冒頭、近藤氏は概略次の通り説明した。

  • LD等読み書きに障害のある児童・生徒の読み書き訓練の教材として教師がICTを使うのではなく、児童・生徒自身が教室や試験に参加するなど社会的障壁を乗り越えるために、ICT活用能力を身に着ける必要がある。
  • 多様な障害のある児童・生徒が通常の教育過程で学び,高等教育へ進学し,キャリア就労を目指す(メインストリーミング)を通じて,将来の社会のリーダーを育成するDO-IT Japanプロジェクトを2007年に開始。また、アクセシブルな音声教材を提供するAccessReadingの事業を継続中。昨年度からはPHED(障害と高等教育に関するプラットフォーム形成事業)にも取り組んでいる。
  • 多様な児童・生徒に通常の子供と同じ方法で読み書き計算ができるように訓練する治療教育アプローチと、代替的な手段でたとえば「読む」ことができるようにする機能代替アプローチがあり、両者は相互に補完するが、この講演の中心は機能代替アプローチである。
  • 児童・生徒・学生は本人が学びたいこと、達成したい目標を自己決定し、そのために代替機能を活用する。代替機能には読むに対して「音声読み上げ」、書くに対して「キーボード入力」、計算するに対して「計算機を使う」、考えをまとめるに対して「概念マッピングを利用する」など多様なものがある。これらの代替機能にはICTが利用され、それらが動くためには、アクセシブルな教科書・教材を用意する、アクセシブルでない教材を電子化するといった環境整備が必要になる。こうして、代替機能を活用できるようになった児童・生徒・学生が,自己権利を主張し擁護できるようになることも必要。
  • ICT利用の目的は、教科書・読みを読み、宿題・予習・復習、ノートを取る,作文書く、調べ学習を行う、ドリル・小テストを受ける、入学・学力・資格試験を受けるという多様な教育活動への参加を平等に保障することである。
  • 全国の通常の教室で学ぶ小中学生の約6.5%68万人に発達障害の可能性があるといわれている。自閉症スペクトラム、多動・衝動・不注意(ADHD)、学習困難など多様な障害が存在する。立ち歩きや強いこだわりのある児童生徒では本人よりもまず教員や周囲が困ることで,教育的ニーズがあることが発見されやすい。これに対して、学習面に著しい困難を抱えた子どもでも,教室でおとなしく座っていた場合,本人が困っていることが発見されにくい。これらの子供を発見して適切な代替手段を提供する必要がある。
  • わが国では特別支援教育を受けている子供の比率は2.9%である。これに対して米国では13%。この大きな差は、法制度の違いも影響している。米国にはIndividuals with Disabilities Education ActIDEA)が存在し、障害のある子供を発見することが学校の義務となっている。わが国ではLDがあり、特別支援学級に通級する児童生徒数は12千人だが、米国では240万人。高等教育を受けている障害を持つ大学生のうち,大学で支援を受けている学生はわが国では11507人で、米国では200万人である。そこには多様な支援ニーズが存在するが, ICT活用は代表的なニーズのひとつである。
  • わが国では障害者差別解消法の施行以来、教育機関には障害のある子供に合理的配慮を提供することが求められるようになった。しかし、まだ、統計数値で見るように米国や英国に比べるとメインストリームの教育過程での支援の比率は少ない。幸い教育界の関心も高まっているので、ICTを活用した支援技術がいっそう利用されるように期待している。
  • (自分の子供にLDがうたがわれるとき、どうしたらよいのかという質問に対して)各学校に、呼び名は地域で異なる場合もあるが「特別支援教育コーディネータ」が配置されるようになっている。このコーディネータは担任を持たず、障害を持つ子供の支援専門に働いている場合も出てきている。担任を経由し,読み書き計算の支援ニーズがあることをコーディネータに相談するのが第一歩である。

続いて大島氏が実演を交えて次のように説明した。

  • マイクロソフトは学習に困難のある子どもの学びに役立つテクノロジーを、パソコンやタブレット、スマートフォン向けに提供している。それらの多くはWordPower Pointに、あるいはWindowsに基本機能として組み込まれ、スマートフォン向けのアプリも多い。
  • 読むことの困難に対応するためにWindowsには拡大鏡の機能があり、多様な形での読み上げ機能も提供されている。たとえば、Office LensというアプリにはOCR機能があり、読み取った画像からテキストを抽出して読み上げるようになっている。WordTalkerでは読み上げ箇所がハイライトされるようになっており、きめ細かい読み上げ設定ができる。
  • 書くことの困難さを補完するためにカメラを活用したり、デジタルノートのアプリが有効なケースもある。マウスやキーボードの困難も音声入力や視線入力で支援できる。実際に、視線入力などを活用することで大学生活を送る学生もおり、また、障害を持つマイクロソフト社員にもこれらの支援技術を活用して仕事をしている者もいる。
  • マイクロソフトは障害を持つ子供たちへのプログラミング教育も、NPO団体と協力して支援している。
  • (このような支援技術の開発にマイクロソフトはどう取り組んでいるのか、という質問に対して)本社の調整の元で各ソフト・アプリの開発担当者がアクセシビリティを考慮しながら開発している。一つのプログラムで各国語版に対応するように開発が行われている。
  • (マイクロソフトが支援技術を多く開発し、その中にはWordなどの基本機能となっているものがあると初めて聞いた。もっと周知が必要ではないか、という意見に対して)その通り。広報に努め今日もその機会を得たが、いっそう広報に努めたい。

その後、質疑応答で次のような議論があった。

  •  学校における通信環境の整備について。今までは通信環境の整備が遅れてきた。国はそのために地方交付税交付金を配ってきたが、必ずしも利用されていなかった。そこで最近、国は基準を見直し、通信環境を整備する方向に動いている。
  • 教科書や教材、図書をデジタル化することについて、障害を持つ子供の必要性に対応して図書館にデジタル版を準備するなどといった動きがある。また、著作権法における紙の教科書に関する特例をデジタル教科書にも適用できるようにする法律改正も進んでいる。
  • 障害を持つ子供も含めて、子供たちは多様である。居住地も都会から離島まで分かれている。どのような子供にも教育機会を平等に提供する必要があり、国も遠隔教育を許容する方向に動き出している。一方で、教育機会を平等にすることは均質の教育を受けるということではない。子供たちの個性や得手不得手に対応して教育プログラムを多様化することを同時に進めていく必要がある。
  • 現職教員、あるいは教員養成大学の学生の多くはICTを活用した支援で多様な子供たちが救われるということを知らない。学習における困難を支援するICT活用についていっそう周知していくとともに、たとえば教員養成大学で必修科目とするといった改善が求められる。