投稿者「ICPF」のアーカイブ

関連セミナー「欧州アクセシビリティ法が拓く未来」 L.ロヴァーシ国連障害者権利委員会元委員

日時:2024年2月28日(水)午後1時~3時
場所:参議院議員会館102会議室
主催:日本障害フォーラム(JDF)
協力:障害学会
講師:ラースロー・ロヴァーシ国連障害者権利委員会元委員
記録者:内田 斉(ICPF監事)

講演の主な内容は次のとおりである。

  • EU域内で、1億100万人が何らかの障害を持っている。45歳~65歳の人々の27%近い人が障害を持っている。アクセシビリティの問題は社会の中で非常に大きな意味を持っている。
  • EUで障害戦略ができたのは2010年。そこから10年間でバリアフリーなヨーロッパをつくるため、障壁の除去に向けて取り組んできた。EUがさらに大きな単一市場をつくっていくため、オーディオビジュアルメディアサービス、ユニバーサルサービス、イーコマースに関してはEU指令ができた。策定に当たっては、アメリカの法律を参考にした。
  • 欧州アクセシビリティ法は2019年にEU指令として作成された。欧州アクセシビリティ法の目的はEUの加盟諸国でアクセシビリティ上の障壁を除去して、国際的な市場における製品やサービスが統一的な機能を持てるようにすることである。この法律の狙いは、ヨーロッパの顧客に対してサービスや商品を提供する企業が、ヨーロッパの法律に基づいた規格を遵守し、企業と顧客、双方が利益を得るようにすることである。新しいイノベーションによって商業のチャンスが広がるだけでなくEUに住んでいるあらゆる人がアクセシブルに商品やサービスを使うことで社会的に包摂されるようにする。
  • 欧州アクセシビリティ法は、欧州でビジネスを行う企業、加盟諸国がそれぞれの国の中で法制度を通じて実現することになっている。欧州でビジネスを行う者はこの法に従う必要があり、その最終的なデッドラインは2025年6月である。つまり、来年の夏には欧州アクセシビリティ法が求める共通のアクセシビリティ要件について、EU加盟諸国は確実に法律を施行するようになり、またそこでビジネスを行う者は、その法規制に従って商品やサービスをアクセシブルなものとし、利用する各人がどのように使うのか、トラブルがあったときにどこが責任を持つかについても明確にする必要がある。
  • 国連は「人権の促進と保護に関する新しいデジタル技術の展望」という注目すべきレポートをまとめた。このレポートでは、新技術とは、今まであった実空間、仮想空間、生物学的空間の境界を超えて新しく作られるものだと指摘している。こうした新技術が、今後、リハビリテーションや教育、ソーシャルサービス、介護においてどのように使われるかについても注意が必要である。
  • 今後、技術を使った解決方法がますます重要になる。そこで必要になるのは、創造性と市場、社会的価値(障害者のために、障害者とともにそして障害者自身が取り組むこと)、そして適切な法律である。これらの認識に基づく、新たなアクセシビリティ法が必要になっている。その法律をどう作っていくかということになるが、まずアクセシビリティの課題についてのリサーチが重要である。
  • 未来のアクセシビリティ法を進めていくうえで、3つの重要な技術分野がある。1つ目は、装着できるデバイス(ウエアラブルデバイス)の日常的な活用。2つ目は、安全な侵襲型機器。体につける機器で、データを伴う侵襲型機器。3つ目は、AIとロボティックス、ロボット工学。これらは日々の生活で、ヘルスケアだけでなくあらゆる面で、障害者の生活の質を向上させていく。
  • EUの法律だけでブレイクスルーを起こすことはできない。国際的な協力が必要である。高齢化社会とアクセシビリティにおいて、日本は、良い例を示すことができる。日本の技術とイノベーションが障害のある人たちにとってアクセシブルな形になることを期待している。

オンラインセミナー「データ駆動型社会への転換」 谷脇康彦インターネットイニシアティブ副社長

開催日時:2024年4月12日金曜日 午後7時から1時間程度
講演者:谷脇康彦・インターネットイニシアティブ取締役副社長
司会:山田 肇ICPF理事長

谷脇氏の講演資料はこちらにあります。

谷脇氏の講演ビデオ(一部)はこちらにあります。

冒頭、谷脇氏は次のように講演した。

  • リアル空間には国際連合憲章をはじめ国際的ルールが存在するが、サイバー空間にはない。サイバー空間は民間投資によって構築されてきたので、サイバー空間における民間の活動は可能な限り自由に行われるのがよく、政府の規制は最小限にと欧米や日本は主張してきた。これに対して、中国、ロシアなどは国家主権の名の下に国が管理することが必要であるとしている。サイバー攻撃の危険にさらされている途上国も中露よりである。
  • 民間重要インフラ等への国境を越えたサイバー攻撃、偽情報拡散等を通じた情報戦等が恒常的に発生し、有事と平時の境目はますます曖昧になってきている。国家安全保障の対象は非軍事的とされてきた分野にまでに拡大し、軍事と非軍事の境目も曖昧になっている。まさに、インターネット運営のあり方(internet governance)が問われている。
  • IETF等の団体はトップダウンデザインは有害であり、ネットワークの孤島化、相互接続を損ない、相互運用性を混乱させると主張している。これに対して、中国はITU-Tで、長期的な視点をもって、将来のネットワークのためのトップダウンのデザインを責任をもって開発するのがよいとしている。
  • しかし、⽶外交問題評議会は2022年の報告書で、オープンでグローバルなインターネットを促した米国の政策は失敗だったと評価し、政策はぶれ始めている。背景には巨大プラットフォーマへの警戒が根底にある。
  • そんな政策背景の下で、物理層と論理層を中心としたインターネットガバナンスから、サービス層のデジタルガバナンスに関心が移行し始めている。IGFは「インターネットは引き続きデジタル社会におけるコアな構成要素であり続けるだろうが、これらの議論は、データに関する権利、AI倫理、その他のより広いデジタルエコシステムのように、デジタル技術が社会にインパクトをどのように与えるかといった、従来よりも広い視野まで広げていく必要がある」とのメッセージを2023年に発出した。
  • デジタルガバナンスには、データガバナンス、AIガバナンス、セキュリティガバナンスの三要素がある。
  • まずはデータガバナンス。現実社会がIoTによってモニターされ、データがサイバー空間に送信される。データはAIによって解析され、現実社会にフィードバックされて、介護負担の軽減、資源枯渇への対応など、社会問題の解決に利用される。これがデータ駆動型社会である。データが国民の行動変容や新たな富を生み出す時代に対応した新たな社会ルールの構築が必要である。
  • データ駆動社会を考える3つの視点は次のとおりである。データの量の増加とそれに対応したデータ連携の促進、データの質の向上とデータセキュリティの強化、そして、データの流通速度の向上・サイバー国際ルールの整備である。
  • データ連携によって事業モデルの変⾰がおきている。これに対応し、欧州の競争力強化のために、欧州はデータ戦略を加速している。2025年施行予定のデータ法では、IoTデータの適正な対価での共有促進、大企業と中小企業との間のデータ契約の適正化を確保、クラウドサービス間の円滑な乗り換えを義務化などが規定されている。2023年にデータガバナンス法が施行され、データ仲介事業者(情報銀行、データ取引市場、データ協同組合)を届出制とし、データのセキュリティ確保を要件化した。AI法もまもなく発効する。
  • 一方、日本では法制度の整備が進んでいない。欧州が5億人の市場規模で規制を始めるとグローバル企業がそれに対応する結果、欧州ルールが世界的にデファクトとなるブリュッセル効果が起きる。GDPRが実例である。遅れたままでは、日本は実質的に欧州ルールを適用せざるを得ない状況に陥るだろう。
  • AIは経済全体(通常は国家レベルまたは国際的なレベル)に影響を与える技術(General Purpose Technology)であり、既存の社会経済構造にインパクトをもたらすことで社会を劇的に変える力を有している。
  • AIに対するサイバー攻撃が起きている。たとえば、学習データに間違った出力を生じさせる汚染データを挿入し、モデルが悪意をもって機能するように修正して、AIの信頼性を喪失させるData Poisoning(データ汚染)攻撃。同時に、AIを利用したサイバー攻撃も始まっている。たとえば、AIを用いたシステムの脆弱性の探索やマルウェアの作成、AIによる偽音声・偽動画を用いて取引先と誤認させ金銭の振込をさせるビジネスメール詐欺など。
  • 中国は2023年に「生成人工知能サービスの管理のための規則」を施行し、実質的に海外生成AIを排除した。欧州は2023年に欧州議会が「AI法案」を採択し、リスクベースでAIを4段階に分類し、規制を適用するとした。禁止4類型として、サブリミナルな手法のAIシステム、年齢、身体的障害、精神的障害による脆弱性を利用するAIシステム、ソーシャルスコアを公的機関が用いるAIシステム、法執行を目的としたリアルタイムでの遠隔生体識別システムも規定されている。米国も2023年にAIに関する大統領令を公表し、超党派でAI関連法案の策定について協議を始めている。
  • 日本は、人間中心のAI社会原則や、各府省が作成したガイドラインを統合して、AI事業者ガイドラインをまもなく公表するが、他国に比べて規制色は薄い。
  • 米国は「人工的な領域ではあるものの、自然に形成された陸、海、空、そして宇宙と同様に、サイバー空間は国防省の活動にとって重要な領域だ:として、サイバー空間を作戦領域として取り扱うと2011年に宣言した。そして、サイバー抑⽌戦略を打ち出している。わが国でも、能動的サイバー防御の導入が2022年に国家安全保障戦略に組み込まれた。セキュリティ分野では、わが国は他国と足並みをそろえている。
  • セキュリティ、プライバシーと利便性は相互に二律背反の関係にあり、バランスが重要である。AIによって三者のバランスが急速かつ劇的に変化しようとしている今、AIガバナンスの具体的ルールを早急に確立する必要性に迫られている。ルールの確立によって、サイバー空間におけるトラスト(信頼)が実現するだろう。

講演後、次のような質疑があった。

質問(Q):データガバナンス、AIガバナンス、セキュリティガバナンスの三要素について法制度を構築する必要があり、わが国は欧米に比べて遅れているという主張はよく理解できた。法制度の構築を国民が支持するためには、データ駆動型社会化で国民がどのような利益を得るか、社会問題の解決にどう資するのかの説明が求められるのではないか。
回答(A):今日の講演では省略したことだが、個別化・最適化・自動化がデータ駆動型社会で期待できる国民の利益である。しかし、例えば個別化が「差別化」をもたらさないようにすべきで、それを支援するのがデジタルガバナンスの法制度である。データ駆動型社会で国民が利益を享受するということと、デジタルガバナンスの法制度は車の両輪と理解していただきたい。
Q:欧州では法整備が進んでいるが、それが欧州市民にどのように役立つと言われているのか、あるいは考えられているのか?
A:欧州が法整備を進めているが、そこには人権を守るという理由の他にGAFA対抗という側面がある。それゆえ、法整備でどのような利益が欧州市民にもたらされるかはまだはっきりしていない。特にAI法がうまく働くのかは誰にもわからない。
Q:欧州のAI法で年齢、身体的障害、精神的障害による脆弱性を利用するAIシステムは禁止という話があった。買い物を支援するAIロボットは高齢者の日常生活を支える。しかし、高齢者の判断能力がさらに低下して深夜に買い物に行きたいと言い出しAIロボットがそれに応じたら、それは高齢者を傷つける。支援と危害というAIロボットの二面性を考えると、年齢、身体的障害、精神的障害による脆弱性を利用するAIシステムは禁止というのも容易ではないのではないか?
A:欧州のAI法には禁止四類型が書いてあるが、なぜこの四類型なのかは理解できない。また、年齢による脆弱性を補うAIも当然認められるべきと思う。その点で欧州AI法は運用がとてもむずかしいことになると評価している。一方、わが国自民党のAI法素案には禁止する類型は書かれていない。個別にリスクを評価するとなっていて、そのアプローチの方が正しいと考えている。「車は便利だが人を殺す」と似た話で、きちんと議論し法体系を組み立てないとまずい。
Q:脳血管障害で変わった歩き方をする人がいる。空港の保安AIシステムが、その人は怪しいと特定したらそれは差別である。脆弱性を利用するAIシステムは禁止にも一理はあるのではないか。
A:AIは学習して成長していく。その過程で変わった歩き方をしているというだけで怪しいと判断しないように、AIを教育していく必要がある。AI法を施行していく際には、規則やガイドラインを整備していくことになるだろう。その中で、何はよくて何は悪いかも、より詳細に定められていくと思う。
Q:法制度は複雑化の一途をたどっている。新法制定の際にAIを活用して相互矛盾を確認するといったことも必要になるのではないか。法律案の作成時にはAIは使わないといった暗黙のルールでもあるのか。
A:法律の中身は人間が考えるべきでAIには委ねられない。しかし、条文に起こしたり、齟齬を確認するのはAIを使ってもよい。ただし、AIによる学習が悪用されて、例えば特定の方向への誘導などが起きないようにするのは人間の仕事である。

IISEシンポジウム「ヘルスケアデータの円滑な共有と利活用」 西川宜宏厚生労働省企画官ほか

登壇者等を含め会場参加者48名、ネット参加者89名、合計137名を集めて、ハイブリッド形式でシンポジウムが開催された。

シンポジウムの模様は国際社会経済研究所サイトで今後公開されるが、講演内容の概略を次のとおり速報する。

「医療DXとデータ利活用の促進について」。西川宜宏厚生労働省企画官

  • 人口減少の中で医療のリソースを確保するためにデジタル化に取り組んでいる。
  • 全国医療情報プラットフォームの2025年めどの構築を目指している。オンライン資格確認システムが基盤である。そこに電子カルテ情報共有システムを加え、介護についても必要な情報を連携できるようにする。二次利用を見据えて、標準化されたコードを用いてデータを登録していくようにしたい。
  • プラットフォームの二次利用について検討を進めている。NDB(レセプトデータのナショナルデータベース)等、公的データベースであっても匿名加工したデータの提供に留まっている。これを仮名加工したデータの提供にまで拡大したい。その次には、提供を受ける側も資格を認定して、受ける側のデータと連結できるようにしたい。欧州のEHDS(European Health Data Space)法案等も参考に検討を進めている。

「ケア環境におけるデジタルツインの展開と『豊かな心の世界』の実現」。木多道宏大阪大学大学院教授

  • 一人ひとりに心があり、人が集まる場にも心がある。そして心は共に成長する。他人とのかかわりの中でアイデンティティが形成されていく。
  • このことを意識して、介護施設「芝原モカメゾン」と看護ホスピス「もかの家」を運営している。高齢者の尊厳を大切に、寄り添っていく介護(モンテソーリケア)を施そうとしている。
  • 高齢者が何を楽しみで一日を迎えるか。そのために一人ひとりに役割を与えるなど、尊厳を重視した運営である。たとえば、お好み焼きのキャベツを刻む仕事を担う高齢者もいる(認知症の人には包丁を与えないというのが通例である)。
  • このような活動の中でデジタルツインを利用している。できる限りのリアルタイムセンシングをして(同時にどこまで捨象できるかを検討し)、デジタルツインで分析して(例えば、怒りっぽい状態かどうか)、その結果をもとにリアルの高齢者の居心地のよさを実現する。
  • さらに弱いロボット(LAVOT)を会話に参加させて、デジタルツインで心の状態を指標化する。他者への思いやりと場の形成の関係を探ることで、「場としての幸福感」が形成されると考えている。

「うすき石仏ねっとにおけるヘルスケアデータの共有と活用」。舛友一洋臼杵市医師会立コスモス病院副院長

  • 市民は石仏カードを保有し、石仏ねっとを通じた双方向の情報共有によって、医療と介護サービスを受けられるようになっている。6万人の町で2.5万人が石仏カードを持っている。
  • 異なる医療機関の検査結果も共有して、無駄な検査は不要になる。X線画像も共有され、処方の情報も共有されている。医療機関、介護施設、薬局等が広く参加している。多機関が連携することで、例えば糖尿病で透析が必要な人が減るといった効果も出てきている。
  • 緊急時には消防署も閲覧できる。月に60回程度の閲覧をしている。病名、介護度や認知度等の情報を元に、救急車で対応し、現場滞在時間が短くなる。大津波などの災害時には、石仏カードなしに医療情報を利活用すると、カード保有者には説明している。
  • ACP等の情報も掲載している。厚生労働省の掲げる医療DXの先取りである。
  • 大分市も同様のネットワークをつくろうと動き出した。

「英国で進むヘルスケア分野のAI活用」。遊間和子国際社会経済研究所主幹研究員

  • 英国は医療DX、さらにはAI活用に動いている。その様子を調査するといくつかの示唆が得られる。
  • データのガバナンスが明確化する。英国では様々な部門が関わってきたが、NHSイングランドがリーダーシップをとることに代わり、重複が削減され、データの収集と分析と、分析に基づいたサービス改善の提供との間の緊密な連携が可能になった。
  • AIのような新しい技術の開発と導入を加速化するために、資金提供だけではなく、伴走型の支援を強化している。実際の治療に新しい医療機器やシステムを利用するためにはエビデンスが必要であり、そのために、資金提供だけでなく実証現場も提供することで、へルスケア分野でのAI開発・活用を加速化させている。
  • AIやデータの二次利用への受容性を高めるために透明性を確保している。英国ではデータの二次利用に対してNHSサイトに詳細な情報を公開するだけでなく、同意できない場合には、自分自身でデータをオプトアウトできる仕組みを整えている。

「台湾におけるヘルスケアデータの二次利用」。山田 肇東洋大学名誉教授

  • 全体として、個人情報利用の壁の存在はあるものの、ヘルスケアをイノベーションにつなげようという意識が台湾では高い。
  • NHIRDやMediCloudのように官が保有するヘルスケアデータに加え、医療機関にある患者の診療データも、同意を得つつ、適切に利用している。
  • 一方、2023 OECD Digital Government Indexは、公共部門を完全にデジタルガバメント化する取り組みでわが国は遅れていると指摘している。ヘルスケアも同様で、フルデジタル化・ヘルスケアデータのフル活用で、わが国は遅れている。
  • イノベーションが進み、新たな産業が生まれつつあるヘルスケアで、この遅れは致命的である。

オンラインセミナー「ライドシェアをすっきりと実現するために」 小木曽稔・株式会社政策渉外ドゥタンク・クロスボーダー代表取締役

開催日時:2024年3月5日火曜日 午後7時から1時間程度
開催方法:ZOOMセミナー
講演者:小木曽稔・株式会社政策渉外ドゥタンク・クロスボーダー代表取締役

小木曽氏の講演資料はこちらにあります。

司会(山田肇理事長)が次のように挨拶してセミナーがスタートした。

  • OECDの電子政府ランキングでわが国は33か国中31位と評価された。デジタル化について決意が乏しく、細切れの対応に終始しているのが悪い評価の原因だった。ライドシェアも同様。古い制度を残して細切れの対応をしているように見える。どうしたら、すっきりとライドシェアが導入できるのだろう。今日は小木曽氏に講演いただく。

小木曽氏は概略次のように講演した。

  • ライドシェアの定義は、たくさんあるが、一般ドライバーが自家用車を利用して提供するサービスであって、容易に有償運行が可能で、変動運賃を利用できるものとしているのが規制改革推進会議の中間答申。その定義によれば、OECD加盟38か国中25か国(スペイン、フランス、ドイツ、オランダ、フィンランド、アメリカ、イギリス等)ですでに実現している。
  • 道路運送法78条によって、有償で事業を行う場合、自家用車の使用は禁止されている。ただし、78条には例外規定が三つある。第一は災害時、第二は非営利団体が運行主体となるもの、第三は公共の福祉のためにやむを得ない事情がある場合である。
  • 昨年末にこの問題について政府の方針が決定した。方針の4本柱は①タクシーの規制緩和、②道路運送法78条2号(非営利団体による運行)の制度改善、③道路運送法78条3号(公共の福祉のための運行)による新制度、④ライドシェア新法の議論である。
  • 現時点では、78条2号の制度改善と、78条3号による新制度の内容の確定作業が進んでいる。一方、ライドシェア新法については、6月まで規制改革推進会議で議論予定である。
  • 78条2号については、交通空白に時間の概念も入れ夜間に非営利団体がサービスを提供できるようにする、一定程度ダイナミックプライシングを導入するなどの改善が図られる。
  • 78条2号については、石川県加賀市、小松市などですでにサービスが開始し、自治体ライドシェア研究会の会員数は108自治体に達している。
  • 78条3号については、供給が需要に追い付かないときにタクシー会社によって運行できるようにしよう、というのが国土交通省の考え方である。しかし、供給も需要も、タクシー配車アプリでのデータが一定程度あるものの全体として実は誰も測定できていない。これが問題である。ドライバーについて、国土交通省やタクシー業界は雇用契約を考えている。
  • 78条3号については、4月からの開始を見込んでタクシー会社が乗務員の募集を始めている。都内の業界団体はすでにガイドラインを作成し、公表している。公共の福祉のためにタクシーが不足する時間帯(平日朝7時から10時、金曜日の16時から20時など)を指定して実施する考えである。ドライバーとはパートとして雇用契約を結ぼうとしている。
  • 神奈川県はまずは78条2号によって実証実験を開始し、その様子も踏まえ、本格的には78条3号に期待しているようだ。営利事業の一環として78条3号で対応できるなら非営利の2号の必要性はなくてもいいのではないかとも考えられるが、ここには官と民の役割分担の揺れも感じられる。大阪府は78条3号をタクシー会社以外にも委ねようというのが提案であったが、万博対応のためどうするかは未知数。
  • ライドシェア新法について、まずは必要性と相当性を考える必要がある。必要性はドライバー不足など明らかだが、相当性、特に安全の確保についてはきちんと新法で規定する必要がある。規制改革推進会議は、昨年12月26日の答申の中で、安全対策のための規制の導入を打ち出した。
  • 地域交通問題については、人口減少等を踏まえ、平成19年に地域交通法を制定し、また平成25年には交通政策基本法を制定した。国交省は、ラストワンマイル問題を議論するため、昨年2月から議論を開始し、5月に運用改善案をまとめていた。いま議論されている78条2号及び3号の議論は、このときの運用改善案がもとになっている。例えば78条3号の新制度は、お歳暮時期などでの緊急対応のため物流事業者が既に行っているものと同様である。
  • 地域交通法では、地方公共団体に地域公共交通のマスタープラン作成を努力義務として課している。しかし、公共交通について地方公共団体には権限がない。都市計画については権限があるのに、公共交通にはないというのが矛盾の原因になっている。

講演の後、次のような質疑があった。

質問(Q):78条3号は次のように書かれている。「公共の福祉を確保するためやむを得ない場合において、国土交通大臣の許可を受けて地域又は期間を限定して運送の用に供するとき」 誰が国土交通大臣の許可を受けられるかという主語が書かれていない。それをタクシー会社と読み取るのは、国土交通省の勝手な解釈ではないか。
回答(A):法文上は確かに許可を受ける主体は明確になっていないが、そもそも3号の趣旨がタクシー事業許可制度の例外となっているのでおのずと限界があると考える。正面からライドシェア事業を認めるには新法での対応が必要というのが、私がずっと前から言ってる見解である。
Q:ドライバー不足で困っている地方への対策としてのライドシェアと、都市部でのライドシェアは別の課題と考えるべきではないか。
A:その通り。都市部、普通の地方部、そして過疎地と三つに分けて、公共交通の在り方を議論するのがよい。
Q:ライドシェアを導入した他国でも、依然としてタクシーサービスは存在している。ライドシェアとタクシーはどのように棲み分けているのか。
A;日本のタクシーはしっかりしているが、他国ではひどいタクシーも多い。ライドシェアが導入されて、タクシーが底上げされ、併存しているといったこともあると思う。ただし併存してない国もある。併存については、しっかり調べる必要がある課題と受け止めた。
Q:ということは、わが国で導入しても魅力は乏しいし、価格差もあまりないのであれば、普及しないのではないか。何を国土交通省は心配しているのか。
A:国土交通省が恐れているのは、ライドシェアによってタクシーが駆逐されてしまうこと。求めるゴールは地域の足を確保することであり、そのためにライドシェアをいれたのに、ライドシェアにタクシーが駆逐され、供給面で安定性があるとは思えないライドシェア一本の依存体制になった場合、地域の足の確保という意味で本末転倒ではないかという考えであると思う。
コメント(C):タクシーに乗るとドライバーが高齢者であることが多い。とても心配になる。ライドシェアは必然ではないか。
C:ライドシェアだけでなく、自動走行バスの導入なども検討すべきだ。海外では、ゆっくり走る自動走行バスが住民の足になるだけでなく、子どもたちが技術に関心を持つきっかけになっている。
C:自動走行バスは過疎地の公共交通手段になりえる。積極的に導入するのがよい。
C:自動走行バスだけでなく、MaaS、GOやS RIDEなど、交通にもデジタルが導入できる。デジタルを前提として、地域公共交通のマスタープランを作成し、地域が主体となってこれを推進する仕組みが求められる。