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セミナー「ユーザ中心のWebアクセシビリティをデザインする」

主催:特定非営利活動法人ウェブアクセシビリティ推進協会
共催:特定非営利活動法人情報通信政策フォーラム
日時:5月26日金曜日午後6時から
場所:エムワイ貸会議室四谷三丁目 会議室B

本記録を作成した山田肇が内容について責任を負う。

渡辺隆行東京女子大学現代教養学部教授が「ユーザ中心のWebアクセシビリティをデザインする」と題して講演した。講演資料はこちらにあります。要旨は次の通り。

  • Webアクセシビリティについて国際協調を進める国際・国内標準化に積極的に参加してきた。しかし現状を見ると、WCAG2.0を盲信しそれを技術的に実現するのに世の中はアップアップしているように思える。
  • 32人の視覚障害者がサイト閲覧についてユーザ試験し、1383の問題に遭遇したという論文がある。そのうち半分の問題しかWCAG2.0の技術基準はカバーしていなかったそうだ。解決のための次のステップはデザイン、すなわち生活における様々な問題を解決するための人工物の設計にある。ユーザ体験や人間中心のデザインに移行すべきである。Webアクセシビリティをコミュニケーションとして捉える広い視野が必要である。
  • 人間中心設計では、まずは利用状況を把握し、ユーザの要求事項を明確化し、解決案の作成し、設計された解決案がユーザの要求事項を満たすかを確認する。これを具体化した考え方がUXデザインである。Webアクセシビリティもコミュニケーションモデルの視点で考えるのがよい。
  • デザインのプロセスにアクセシビリティを自然に組みこもう、ユーザの視点を取り戻そう。そのためには、アクセシビリティ評価として専門家による評価だけでなく、ユーザによる評価(ユーザテスト。インタビュー、記録)が重要である。本物のユーザにデザインのプロセスに参加してもらうことにより、予想外の気づき・理解が生まれ、モチベーションが上がる。

講演の後、ユーザを中心にWebをデザインする具体的な方法や、公共機関等でのWebアクセシビリティ配慮の現状に関して活発な討論が行われた。

「デジタル社会における楽しい働き方」公開シンポジウム

主催:デジタルハリウッド大学・freee株式会社
共催:情報通信政策フォーラム(ICPF 

登壇者:
小林史明(衆議院議員/IT戦略特命委員会事務局次長)
佐々木大輔(freee株式会社代表取締役)
杉山知之(デジタルハリウッド大学・大学院学長)
山田肇(情報通信政策フォーラム理事長) ※モデレータ

開催日時:2017427日(木)19:00-21:00(受付開始18:30
開催場所:デジタルハリウッド大学大学院
101-0062 東京都千代田区神田駿河台4-6 御茶ノ水ソラシティ アカデミア3

以下の記録は作成した山田肇が責任を負います。

登壇者を含め総計97名と会場は満席となった。冒頭、佐々木大輔freee株式会社代表取締役が次のような講演を行った。

  • 日本の生産性は諸外国に比べて低いが特に中小企業の生産性は大きな課題である。freeeは中小企業の起業・運営・成長をサポートする。
  • 注目したのはバックオフィス業務であり、これを効率化することによって楽しく働く環境が整備される。バックオフィスを含め全部をクラウド化することで効率が上がる。
  • freee自体も小さな企業であるが「カルチャーに投資する」「1:1でとことん話し込む」「チームでミッションステートメントをつくる」などを掲げて、freeeの開発したバックオフィスシステムを活用して経営してきた。おかげで3年連続して働きがいのある会社ランキングに入賞できた。
  • freeeが目指すのはクラウド完結型社会である。行政など会社の外とのやりとりがクラウドで完結できないボトルネックである。 

次に、杉山知之デジタルハリウッド大学・大学院学長が講演した。

  • あるとき、21世紀になったらどのように仕事をするか考えた。結論は、力がある人はフリーランスになりプロジェクトベースで離合集散するハリウッドの姿だった。それがデジタルハリウッド大学(DHU)設立に結びついた。
  • デジタルハリウッドスタジオという事業を行っている。好きなことを、好きな時間に、好きな場所で、自分らしく働くをテーマとして掲げて女性の活躍を応援している。次世代主婦・ママデザイナー1万人育成が目標で、主婦・ママ専用スタジオを設立してきた。
  • スタジオはハイブリッド・ラーニングで進めている。オンライン講座を自分のペースで勉強したうえで、スタジオに集まり深掘りする。流行り言葉で言えば反転学習である。
  • 受講生の7割以上が学んだ成果を仕事に結びつけている。スタジオ出身の女性たちが組織した米子コンテンツ工場は女性の力で地域を活性化しようとしている。「一人ではできなくても、みんなだとできる気がする。」と彼女たちは言う。ハイブリッド・ラーニングで顔を合わせてきた成果である。卒業生ネットワークは重要である。 

その後、山田肇ICPF理事長をモデレータとしてパネル討論が実施された。小林史明自由民主党衆議院議員が以下のように口火を切った。

  • 20世紀は大量生産が中心の社会だったが、人口減少、グローバル化、IT化により、第二創業期に入っている。しかし、その成功モデルが作られていない。
  • ITを導入して働き方を変えていくときの課題の一つが人材評価である。

これに対して佐々木氏は次のように発言した。

  • 売上金額を並べれば評価が決まった時代は終わった。今日も社員人事評価について徹底的に議論してきた。定性的な評価が重要な時代と認識しており、話し合いの徹底が重要と考えている。 

また、小林氏は杉山氏の講演について次のように質問した。

  • 人生100年時代が来て80年の人生にもう20年が加わった。社会人から高齢者までモチベーションアップの場が必要になっている。大学はどのような役割を担うのか。

杉山氏は次のように回答した。

  • 現在の社会状況と高校までの教育がずれている。普通の大学は教養を学び、その後、専門科目を学ぶ。DHUは逆にしている。専門科目を深掘りしようとすると学生が教養不足に気付くので、後から補うのがよい。また、複雑な世の中に対応できるようにDHUは社会人教育からスタートした。

以後、多様なテーマで意見が交わされたが、発言者名は省略し概要を紹介する。

シニアへの教育機会の提供について

  • 起業家の年齢構成を中小企業白書で見ると60歳以上が32.4%を占めていることに気付く。シニアへの教育機会の提供は重要である。
  • 若者が今から大学で学習しても社会に出るのは早くても2020、第一線になるのは2030年である。即効性のあるのは社会人学生への教育である。
  • シニアが起業した小企業はfreeeのような企業にとって重要な顧客である。彼らはいろいろなことを勉強し、また、経理の数値をよくしようと実践を重ねている。タブレット、アプリを誰もが使える時代になりシニア層へのハードルが下がってきた。
  • 思いついきたときに学習できることが大事であり、MOOC(無料オンライン講座)も広まっている。しかし、オンライン学習には著作権の問題がある。
  • 著作権法の改正は政治の宿題である。行政手続も同様にデジタルを前提に変革する必要がある。官民データ基本法が議員立法された理由はここにある。

行政の電子化について

  • 起業するときは23種類の書類が必要という話があった。公証役場は本人の出頭を求めている。出頭すると本人確認にマイナンバーカードの提出を求める。それなら、最初から電子手続できるのに改善が進んでいない。
  • 印鑑主義と対面原則は課題である。印鑑を3Dプリンターに作られたらどうするのか聞くと誰も答えられない。全社員にマイナンバーカードを作ってもらいたいし、社員証にマイナンバーカードを使ってほしい。マイナンバーカードを普及させることは行政の電子化に役立つ。
  • 税金の納付・還付には多数の書類を使っている。マイナンバーカードの広範な活用は重要なステップである。個人の確定申告は電子的にできるが、法人ではまだ実現していない。これは国家的損失である。
  • これからはマイナンバーカードによる手続きを義務化しなければならないかもしれない。地方は圧倒的にデジタル化されてないが、これを突破するようにIT企業は地方の市場を取りに行ってほしい。
  • 印鑑証明書は紙に精緻に陰影を表現しているため3Dプリンターがあれば複製は誰でもできる。マイナンバーカードよりも印鑑証明書の方が危ない。

「柔軟な働き方」の必要性について

  • 働き方改革では残業時間を規制するが、どこかでルールをつくる必要があり、制限のなかで工夫していくのがよい。
  • 労働人口は減少し2050年には労働人口が5000万人を下回る。そのころには人の取り合いになるのだから、柔軟で働きがいのある環境を実現しておかなければならない。地方だけでなく東京もそうなっていく。
  • 個人事業主・中小企業だけでなく、副業もクラウド会計システムがあれば便利だ。副業を認めることは重要であり多様な人材の獲得にもつながる。
  • MITは教員に週4日間の労働を課している。他の1日は他のことをしても良い。企業の役員している人も多いが、これはアカデミアとビジネス双方にメリットがある。
  • 副業には法的なリスクも存在する。たとえば、だれが保険を負担するか。厚生労働省としてガイドラインを作る方向だが、デフォルトを副業可にして、禁止もできるようにするのがよい。

人工知能やロボットでの労働の代替について

  • 会計計算など月に一回人手で入力していたのが自動化されると、数字を見るようになる。目の前の作業から解放され、好奇心をもって数字を見て、自動的にクリエイティブになっていく。
  • 現在のAIは人間の脳のように万能型でない。アルファGoは囲碁に特化している。人工知能は特定業務では人間よりもパフォーマンスを発揮するが、AIに委ねて余裕の生まれた人間には、取り組める領域が拡大する。
  • 人口減少を機会としてとらえている。センサーやロボットなどは日本の強みである。もう一回、日本にチャンスが回ってきた。産業革命は人力からの解放であり、第四次産業革命は単純な情報処理からの解放である。チームをマネジメントするのは人間の仕事として残る。
  • 失業率が下がっていることによって雇用保険に余裕がでてきている。これをリカレント教育に使い、社会人を再教育してロボット時代に備えることが重要である。

会場から、若手は現場をみているが決定権は上の世代にあるというように、世代間のアンバランスが問題ではないかという質問があった。パネリストは次のように回答した。

  • 人は自分の意見が尊重される環境で働きたいと考えている。これが経営側のプレッシャーとならないような職場であれば人はやめていく。人材の流動化を起こしていく必要がある。
  • 一つに依存することによって交渉力が落ちる。依存から脱却は独立ではなく、「より多くへの依存」ではないか。
  • 全世界でみると人口の半分は30歳以下である。「Don’t believe over 30.」を掲げて自分たちで市場をつくっていけば良い。

わが国で労働生産性上げるというが、営業の生産性が低いのではないかという質問も出た。今までの慣行の改革についてパネリストは次のように意見を表明した。

  • 営業の仕事の問題点は、20%しか営業してない、残りの80%は移動に使っているということだ。ビデオ会議を使っての営業などを進める必要がある。
  • 経営が最終的に人工知能におきかわるかは、Noだと思う。経営は人工知能にはできない。経営はいろんな変数がありどれを重視するかでゴールが変わる。経営には感情・理念が大事になってくる。
  • 政府の役割はデジタル社会では小さくなっていく。地域らしいビジネスが重要で構造改革特区はそのためにあり、サンドボックスという提案がある。一つだけ規制緩和するのではなく、何でもやっていい特区をサンドボックスとして指定し挑戦するのがよい。
  • 世界とどう戦うかは世界基準で考えるべきである。

最後に、パネリストはそれぞれ次のようにまとめの発言を行った。

佐々木氏:労働の生産性はモチベーションによって変わる。事務作業を減らして楽しい仕事をできるようにfreeeの事業を進めていきたい。
小林氏:デジタルの社会を楽しい社会にしていきたい。マイナンバーカードで行政のデジタル化を進めていく。努力が見える化される、場所と時間にとらわれない、そんな社会が実現するようにしていきたい。
杉山氏:デジタルファーストにするために、やり残していることはたくさんある。一つずつ壁を壊していく必要がある。 

最後に山田氏が全体を次のようにまとめた。

デジタル化が進み、一人ひとりがそれぞれの価値観に応じて働き方を選択できる未来が展望できた。楽しい働き方は夢ではないが、そのためには、多くの規制改革や生涯教育の充実が求められる。クラウド完結型社会の実現のために取り組むべき課題が今日のシンポジウムで見えてきた。

協賛シンポジウム「IoT ・AI時代の健康寿命延伸」

主催:株式会社国際社会経済研究所・アクセシビリティ研究会
後援:オランダ王国大使館
協賛:特定非営利活動法人情報通信政策フォーラム
開催日時:2017年3月21日(火) 14:00-17:00(13:30開場)
開催場所:日経カンファレンス&セミナールーム 大手町セミナールーム2
プログラムの概要
基調講演 吉田宏平総務省室長、橋本敬史厚生労働省政策企画官
特別講演 平尾勇松本市商工観光部部長
海外事例報告 遊間和子国際社会経済研究所主幹研究員
パネルディスカッション
山田肇 東洋大学 経済学部教授/アクセシビリティ研究会主査
川添高志  ケアプロ株式会社代表取締役社長
坂下哲也  一般財団法人日本情報経済社会推進協会常務理事
西田佳史  産業技術総合研究所人工知能研究センター首席研究員
平尾勇  松本市商工観光部部長(健康産業担当)
矢冨直美  東京大学高齢社会総合研究機構協力研究員/一般社団法人セカンドライフファクトリー代表理事

イベントの詳細記録は、講演資料なども含めて、国際社会経済研究所より公表されましたのでご覧ください。以下は簡単な記録で、文章の責任は山田肇にあります。

吉田氏:医療介護健康分野のICT化の意義は、ネットワーク化による関係者間の情報共有とデータの利活用の二点にある。しかし、地域医療圏でのEHRが全国総計で患者110万人しか収容していないなど、ICT化は進んでいない。今後、政府全体で取組を強化していく。
橋本氏:「データをつくる、つなげる、ひらく」との方針を掲げて、厚生労働省はICTを活用した次世代型保健医療システムの構築に動き出した。2020年を中間目標とする工程表を作成し作業を進めている。その中で医療等IDも実現していく方針である。
平尾氏:健康首都宣言をきっかけとしてオプトインで松本ヘルスラボという事業を始めた。これを全市に展開し、全市民を収容するオプトアウトの松本版PHRを構想している。包括ケアとの連携が最も重要である。個人情報の保護は必要だが、個人情報を利用することで高齢者の生活が支えられるという点にも理解を醸成しなければならない。
遊間氏:オランダでは民間の力を利用する形で、全国でのPHR構築に取り組んでいる。自身の医療記録にオンラインアクセスでき、血圧などを自己測定して医療サービス提供者と共有し、24時間医療サービス提供者と連絡できるなどを目標に、法を整備し、試験プロジェクトを実施している。
坂下氏:個々人が健康意識を高め行動変容を起こす、そのためにIoTを活用するようにヘルスケアIoTコンソーシアムを組織した。IoTデータの信頼度を高める、データの所有権について整理するなどの課題を解決してIoTを利用すれば、医療費の削減にも貢献する。IoTが取得した個人に紐づけされたデータの保護と活用のバランスが重要である。
西田氏:子供の発達の分散は小さいが、高齢者の老化は人さまざまである。これが対策をむずかしくしている。生活機能軸上で高齢者に関係する製品事故を整理して行動ライブラリを作成するといった研究を進めている。IoTやAIには高い可能性がある。
川添氏:訪問看護などアナログのサービスにICTを取り込むことには大きな可能性がある。ICT見守りなどが試みられてきたが、高齢者に接する「人と人の関係」についても相性をデータ解析して活用するといった利用方法が考えられる。
矢冨氏:高齢者の就労は健康維持に役立て、そのためにICTは利用されるが、どのような仕事が向いているかをAIが診断するというような側面でもICTの利用可能性は高い。
山田氏:IoTやAIには大きな可能性があり、それらを利用する過程で取得した個人情報は保護するだけでなく、活用するように仕組みを作っていくべきだ。今までは利用に躊躇してきたが、関係する政策を推進し、ビジネスを展開すべき転機に差し掛かっている。
クリストッフェルス氏(オランダ大使館):オランダも日本もIoTやAIを活用した製品やサービスを開発しており、医療分野での協力関係を深めていきたい。

シンポジウム 熊本地震に学ぶ情報通信技術の活用

月日:227日(月曜日)
時刻:1330分から1600
会場:アルカディア市ヶ谷(私学会館)
102-0073 東京都千代田区九段北4-2−25

登壇者と話題:
龍治玲奈(日本マイクロソフト株式会社政策渉外法務本部渉外社会貢献課長)
「避難所間情報連携システムの構築と支援」
高橋征二(熊本市総務局行政管理部情報政策課技術参事)
「被災地の地方公共団体の立場から」
鹿野順一(特定非営利活動法人いわて連携復興センター代表理事)
「東北からのノウハウ移転と民間の動き」
古橋大地(特定非営利活動法人クライシスマッパーズ・ジャパン理事長)
「熊本地震におけるドローンの活用と課題」
石谷寧希(総務省情報流通行政局地域通信振興課課長補佐)
「熊本地震における政府の情報通信分野の対応」
司会:山田 肇(東洋大学経済学部教授、ICPF理事長) 

龍治・高橋・鹿野三氏の資料はこちら古橋氏の資料はこちら石谷氏の資料はこちらにあります。 

登壇者各氏は概略次のように講演した。

龍治氏:

  • マイクロソフトの災害対応は、施設(例:データセンター)をもつ「自社の責任」・「お客様への責任」・そして広く「人道支援」と多く3つのストリームに分かれて多くの部門が連携する。
  • 全社対応から現地法人対応までのレスポンスレベルを決め、グローバルで連携して災害に対応している。
  • 2016年熊本地震の際には、Skype無償化や社員募金などとともに、今日話題にする避難所連携のためのオフィス365のライセンス無償化を実施し、行政・NPO・大学との連携を通じて支援を展開した。
  • 市長の決断があり、クラウドによって短時間でソリューションを提供できたが、それはデータを第三者に提供しないというマイクロソフトのクラウドに対する信頼をいただけたとともに、平常時からのつながり・人と人との間の信頼関係があったためである。

高橋氏:

  • 熊本市の情報システムは基幹系と情報系に分かれている。発災後、罹災証明書の発行が最優先事項の一つとなり、パソコン・ネットワーク・電源等の環境がない状態にもかかわらず、先に発行日・発行場所が決まった。報道や国からの情報もあり早急に開始した経緯があり、これらの対応に非常に苦慮したが、予備や支援された機器、物資の少ない中での方々からの材料購入、設計・設定・工事・設置の人材等が何とかそろって対応できた。
  • 避難所運営支援ネットワーク(Rネット)については、マイクロソフト他支援いただいた皆様との連携を通じて立ち上げることができた。一部クラウドになれていない職員からは不安の声もあがったが、本庁と避難所、避難所間の情報共有が促進され、職員にとって大きな安心感となった。
  • 業務継続計画は作ってあった。しかし、実際には平時には想定していなかった業務が大量に次々と発生し、多種多様の対応が求められた。
  • 今後を考えると、既存の行政情報のネットワークに加え、行政組織内ネットワークと公開ネットワークサービスの間をつなぐ地域内共有ネットワークを整備しておく必要がある。

鹿野氏:

  • 震災前から地域活性化を目指して釜石市でNPO活動をしてきた。東日本大震災が発生し、津波で電柱が根こそぎもっていかれ、電気が通じない、夜間に活動できないという状況になった。
  • 最初の課題は緊急物資搬送で、地元だから行き来ができる場所への輸送をNPO側で担当した。
  • その後、緊急雇用創出事業として釜石仮設住宅支援連絡員事業などを受託することになり、NPOの人員が急激に増加し、ある意味で総合商社と化した。組織運営、プロジェクト管理は一人では無理になり、一方で、利用していた各種WEBサービスはスタッフが個人のアカウントを使っていたためセキュリティを含めた各種のデータの管理が困難になるなどの問題が発生した。クラウド(Office 365)の導入は、時間的なロスや意思決定の滞り、そしてセキュリティ管理やコンプライアンスの遵守等に対応する、課題解決のための対応策であった。
  • 今は、東日本大震災の経験を熊本で役立ててもらおうと支援に取り組んでいる。

古橋氏:

  • 本業は「地図屋」である。オープンストリートマップという制限なく利用できる地図の作成に世界中の仲間と協力して取り組んでいる。Facebookもオープンストリートマップを導入した。
  • 災害時には、災害前と被災後の状況が一望するために地図情報が活用される。オープンストリートマップのグループはハイチ地震などの際に、現地に出向かずに世界中が協力して、地図情報を急ぎ作成し提供してきた。この経験が熊本でも生かされた。
  • ドローンは被災後の状況を把握するのに有益であり、地図作成に利用できる。災害時にドローンを使って緊急対応するチームなので、人形劇のサンダーバードにちなんで「DRONE BIRD」と称している。
  • 熊本地震の際、国土地理院はドローンで当日に撮影し、報道機関による空撮もあった。不明者の捜索にも活用された。しかし、これらのデータは公開されたのか?適切な位置情報がメタデータとして共有されているか?これらの情報が公開されなければ地図屋は活動できない。「DRONE BIRD」は出動できない。
  • ドローンを活用するためには事前に自治体と防災協定を結び、訓練などにも参加しておく必要がある。大和市や横瀬町とはすでに協定を結んでいる。

石谷氏:

  • 東日本大震災の教訓の一つが特性に応じた多様なメディアの活用であった。Lアラートは自治体からの情報を多様なメディアを通じて一斉に人々に伝えるシステムとして整備されている。熊本地震でも活用された。
  • G空間防災システムも推進している。古橋氏の講演で指摘されたように地図情報は重要で、地域情報ポータルサイトを通じて熊本地域の住民への情報提供が実施された。
  • 平時から災害対策用移動通信機器や移動電源車を準備し、緊急時に自治体に貸し出す。避難所などに無線LANを準備しておくなどの事業にも取り組んでいる。
  • 災害対応のためには、平時からの備え、平時から災害時からの連続的な利用、災害時に対応した制度体系、官民の更なる連携の四点が重要である。

各氏の講演の後、東日本大震災・熊本地震から何を教訓とするか、未来に向けてどのような施策が必要かの二つのテーマで議論が行われた。

東日本大震災・熊本地震の教訓:
質問(Q):熊本でドローンが上手に使えなかったことについて、自治体としてどういう課題があるか?
回答、高橋(AT):行政として実施を決めるにも、すべての法律に詳しいわけではない。何が法的に課題かわからないので、それらの情報と共に提案していただけると助かる。
回答、古橋(AF)航空法の規制があり許可を得る必要がある。高橋氏が指摘した課題を解決するためにも事前に防災協定を結ぶ必要がある。防災協定があればDRONE BIRDは自治体の業務を代行する委託事業者として位置付けられる。防災協定には、発災後に行政サイドからの依頼で動き出すというスタイルと、民間が自発的に動くスタイルがあるが、後者のほうがよい。
Q:現場の状況を把握するというが、どういう状況を知りたかったのか?
AT:自治体職員の安否、住民の安否が最優先で必要だった。現場は混乱し、バラバラに動くこともあり、正確な情報の把握に苦労した。状況は刻々と、また多様に変わるものであり、データをリアルタイムに近い状態で共有できる仕組みが必要であった。
回答、鹿野(AK):被災地の行政職員の所在確認する仕組みが必要である。一方、住民についてはどの避難所にいるかは自主申告が前提で、登録しないと行方不明者扱いになる。今、釜石市ではドローンを飛ばし始めている。湾口部における津波の状況把握や発災直後の交通が遮断された状況下での被災状況確認などに、ドローンは有効と考えられる。
Q:熊本市災害本部では自前でLANを設定したというが、何人で、どれぐらいの規模の設定をしたのか?
AT:条件によってばらばらであるが、指揮室を例にすると4-5名で対応して、20台程度を1時間程度でセットアップできた。材料の条件、事前設定等考えると本当にばらばらであり、一箇所で半日程度かかるものもあった。
Q:何故(他社のシステムでなく)マイクロソフトを使ったのか?
AT:オンプレで既にシェアポイントを使っている。マイクロソフトとは、平常時からの会話がありある程度の情報共有はできている最速で導入できる、また、セキュリティに対しての信頼もあった。しかし、最も大きな要因は、タブレット・クラウド・通信に加え、「人」「ノウハウ」までもパッケージとされた支援が届いた事だった。
Q:ボランディアの管理にもRネットを使ったのか?
AT:ボランティア(外部との共有)には、Rネットは使っていない。
AK:情報を行政が一箇所にまとめてしまうと、かえって使いづらくなる場合がある。情報はパラレルに管理する必要もある。 

未来に向けて:
Q:静岡県内では静岡警察から連絡がくる。Lアラートの予行演習と思われるが、他県もこのような利用をしているのか?
回答、石谷(AI):自治体がお知らせを平時に流しているケースはある。
AK:スマートフォンの普及率が上がり、Yahoo防災などを使って緊急災害情報が流れるようになった。
Q:ドローンの活用について防災協定を事前に結ぼうという動きは広がっているのか?
AF:ドローンを使いたいという自治体は増えている。課題はドローンを扱える人が少ないこと。それをDRONE BIRDが支援するために防災協定が大きな効果をもたらす。
コメント:業界の中での連携も必要ではないか。過去の経験から業界内でどのように対応するか事前に決めておくのがよい。NECは熊本地震の際にパソコンを支給したそうだが、これも事前に決めていることで、全国どこでも対応できる仕組みができている。
Q:熊本地震の際に医師と連絡が付かなかったので救急隊が独自判断で輸液をしたという記事が出た。これについて、どう考えるか?
AT:救急隊の行動を批判するのではなく、本当に必要であれば、人命救助に役立ったと応援するのがよい。そのような風潮が社会に広がることで、緊急時の対応が変わっていくだろう。
AK:マスメディアだけでは被災地の意見や実情は伝わらない。地域が独自でメディアを持つことが重要である。
AF:地図屋として貢献したいと思っても、東日本大震災当時は測量法によって国土地理院の地図をトレースするのは違法だった。結局、測量行為ではなく絵地図としてトレースするならよいと国土地理院が判断したが、現場判断が重要なケースがあるだろう。
AI:政府・自治体職員は法律に基づいて仕事をする必要がある。法律違反はできない。記事では、「厚生労働省は医師の指示がなくても違法性は阻却され得る」との通知を出している。緊急時の課題については、正面から法律を改正するという方法もあるが、このように行政が通知など解釈で対応するといった方法も取り得ると考えられる。