2012年度」カテゴリーアーカイブ

電子行政研究会ワークショップ「オープンデータと行政・市民活動」 村上文洋氏(三菱総合研究所)他

2012119日、東京駅八重洲口近くにあるTKP東京駅ビジネスセンター1号館で、第3回ワークショップ「オープンデータと行政・市民活動」を開催しました。
当日は、講師を含め20名以上の参加者にお集まりいただき、3人の講師によるプレゼンテーション、鼎談、そして参加者全員でのディスカッションが行われました。 

はじめに、村上文洋氏(三菱総合研究所)から「公共データのオープン化は社会や企業にどのような影響をもたらすか」の講演をいただきました。

村上文洋氏(株式会社三菱総合研究所)の講演資料はこちらにあります。

  • 東日本大震災は、オープンデータの可能性や必要性を実感する契機のひとつとなった。新しいスタイルで様々な情報が活用される一方で、情報の所在が一定せず分かりにくい等の課題も明らかになった。
  • EUではオープンデータに関するEU指令が出ており、その経済効果を1400億ユーロと試算。
  • アメリカでは大統領が「オープンガバメントに関する覚書」を発表し強力に推進。
  • 日本でも電子行政オープンデータ戦略が決定され、さらに産官学が連携する「オープンデータ流通推進コンソーシアム」が旗揚げ。
  • オープンデータ推進には様々な課題が階層的に存在しており、今後、技術開発や標準化だけでなく、著作権やライセンスの整備、オープンデータに関する社会的コンセンサス作りなどを進める必要がある。

続いて、横浜市政策局政策課政策支援センターの関口昌幸氏から「横浜市におけるオープンデータへの挑戦」の講演をいただきました。

関口昌幸氏(横浜市政策局政策課)の講演資料はこちらにあります。

  • 横浜市は、オープンデータ推進により新しい形での都市再生を目指している。
  • 背景として、超高齢化社会が目前に迫り官民協働で地域課題への対応が必要になっていること、従来型の就労モデルが通用しなくなり、地域に新たな雇用を創出して活性化する必要が生じていることがある。
  • オープンデータによる地域産業振興には、民間と行政が新しい形で協働する戦略が必要になる。特に地域課題の解決には、地域の人々のニーズや意見を集約するしくみが必要。それらの情報を集め、ジョイントベンチャー等につなぐしくみが重要になる。
  • 横浜市ではオープンデータの推進は行政だけでなく民間と共同で進める。そのための体制づくりと様々なイベントを進めている。

続いて、NPO法人横浜コミュニティデザイン・ラボの杉浦裕樹氏から「横浜の地域情報化の担い手たちの活動」の講演をいただきました。

  • 横浜で、多様なプレイヤーの活動の場づくりを進めている。
  • 地域には様々なコミュニティがあるが、相互のつながりが薄い。これらのつながりづくりが重要なテーマ。ICTを活用するが、基本は人と人とのつながりを作るということである。
  • 横浜が抱える課題をビジネスチャンスに変えるという視点で取り組んでいる。地元の企業やIT人材を集めたワークショップ、ウェブを活用した地域情報の共有、シェアオフィスの運営などを通じて、新しい連携を生み出し、都市のイノベーションを推進する。

後半は、3名の講師による鼎談の後、講師も含め参加者全員で、地域社会のオープンデータに関する活発な討論、意見交換が行われました。

  • 大きなビジネスを生み出すビッグデータとは別に、コミュニティビジネスを生み出すオープンデータの効果には違う視点があるのではないか。
  • オープンデータは従来の電子会議室等の取組と異なり、産業活性化、雇用創出まで視野に入れ、広がりのある取り組みを進める点が特徴。
  • 地域のオープンデータは、情報流通の「場」を作ることが重要である。ソーシャルビジネスにはさまざまな担い手がおり、それらの人々の活動と行政を結びつける場作りが重要。GDPに出ない地域活性化効果につながる。
  • 地域課題の状況をわかりやすい形でオープンにすることが大事。よりきめ細かい情報の共有が、自分の地域を自分でマネジメントする形に結びつく。
  • 従来はボランティアベースだった地域活動を担える層が希薄化している。これをビジネスとして捕らえ、コミュニティサービスが金銭を通じて回っていくしくみづくりが重要。
  • 行政サイトは出す情報量が10年で大幅に増えたが、見る人は少ない。情報の小売業ではなく卸売業をやることが必要では。行政情報と民間情報をあわせて提供するプラットフォームが必要になる。
  • 自分が持っているデータとオープンデータで提供されるデータを組み合わせて自分たち用の情報を作っていくという構造、メカニズムを考える必要がある。
  • これまで社会的課題の把握は「勘」によっていたが、それが本当に課題なのかを、オープンデータで確認ができるようになるのではないか。
  • GIS等でリアルタイムデータが表示できるようになれば、関心ある人の関心を喚起するしくみとして有効ではないか。
  • ビッグデータが注目されているが、実はロングテールのところが重要ではないか。
  • ロングテールをいかに自治体がリアルタイムに把握し地域企業と共有していくかが課題。
  • 自治体内部ではデータはリアルタイムで入ってくるが、それらをどう見せるかができていない。自治体間の比較など、見る人の立場で見せるように変えていく必要がある。
  • データそのもののオープン化は重要だが、企業・市民・公共をつなぐ情報連携のしかけをどう作るか、リアルの取組も含めて全体のアーキテクチャを考える必要がある。

討論によって、地域のオープンデータは地域社会の維持・活性化につながる重要な取組であること、データのオープン化だけでなく、産官民をつなぐしかけづくりがきわめて重要であることなどが、参加者に共通の認識となりました。

電子行政研究会ワークショップ「電子行政オープンデータ戦略について」 坂下哲也氏(日本情報経済社会推進協会)他

2012910日、東京都千代田区大手町にある東洋大学大手町サテライトで、第2回目となるワークショップ「電子行政オープンデータ戦略について」を開催しました。
当日は、講師を含め30名の参加者にお集まりいただき、2つの講演に加え、参加者全員での大変熱のこもったディスカッションが行われました 

はじめに、庄司昌彦氏(国際大学グローバル・コミュニケーション・センター)から「電子行政オープンデータ戦略に関する提言の概要と検討」の講演をいただきました。

庄司昌彦氏(国際大学グローバル・コミュニケーション・センター)の講演資料はこちらにあります。

  • 日本の政策形成過程を透明・国民参加・協働化するためにオープンガバメントが企画され、電子行政オープンデータ戦略はその一環である。東日本大震災の際に、協力・動員のメディアとしてネットが活用され、その中で政府のデータが公開され、国民に活用された。これが契機になった。またわが国は、「税金はどこに行った?」といった試行事例もある。
  • 今回の電子行政オープンデータ戦略は、政府がゴーサインを出したという強いメッセージである。総務省と経済産業省はそれぞれコンソーシアム・フォーラムを組織化した。
  • 許認可と結び付く形で政府には膨大なデータがあり、それを国民に利用してもらう。イギリスでは薬局や高齢者入居施設を探すサービス、オランダでは統計データの提供などの実践例があり、アメリカではアプリケーションの開発コンテストも行われている。
  • オープンデータを進めるためには、API公開や開発イベントなどを進めるべきだ。また、国民のニーズと政府のデータとを結びつける仲介者ビジネスを育てる必要がある。

続いて、日本情報経済社会推進協会の坂下哲也氏から「公共地理空間情報の利用状況とオープンデータ」の講演をいただきました。 

坂下哲也氏(日本情報経済社会推進協会)の講演資料はこちらにあります。

  • 地理空間情報を利用したサービスでは、工事情報、イベント情報、店舗情報などを集めるのに最も手間がかかる。今は、サービス提供者はここで勝負しているが、政府のデータをもっと利用できるのであれば、情報を加工したりソーシャルネットと結合させたりする部分(つまりデータに付加価値をつける部分)が競争の場になる。
  • 2010年にアイデアボックスで政府が国民の声を集め出したのをきっかけに、我々は政府に働きかけてきた。東日本大震災の際、緊急時なのにデータが公開されない問題が起き、オープンデータを容認する方向に政府は変わり出した。政府の持つデータの二次利用を促進するデータ戦略が必要である。
  • 店舗の開業廃業、路外駐車場の設置、道路工事といった情報を元に新しいコンテンツが創出できる。新しいソリューションが提供できる。都市計画・地域事業創出、災害対策、CO2削減と円滑な移動、医療費削減などに役立てられる。
  • オープンデータを進めるには、財産権、著作権、プライバシーなどが課題になる。行政は国民の負託で事務しているので、行政の持つ情報は国民みんなのものである、といった思想に変革していく必要がある。

講演終了後、講師も含め参加者全員で、オープンデータ戦略に関する活発な討論、意見交換が行われました。

  • 民主党政権が戦略を打ち出したが、仮に政権が交代しても、オープンデータへの流れは変わらないだろう。行政自身も推進に舵を切っている。
  • オープンデータ戦略ではすぐに対応可能なものから順番に公開していくことになっているが、国民が必要とする順番に出すようにすべきである。そのためには、国民の声を基に行政に指示する組織が必要だが、政府CIOはその役割を果たせるだろうか。
  • 政府は政策目的を達成するためにデータを集めているわけで、国民のニーズがあるからといって政策目的と無関係なデータを集める必要はない。この点については歯止めが必要ではないか。
  • 地理空間情報など、多くの情報は自治体が持っている。政府が戦略を決めたからといって自治体がその通り動くわけではない。戦略のいう通り、2013年までに自治体が動くとは思えない。
  • やる気のある首長が主導して、地方で先行事例を積み上げていく必要があるのではないか。自治体間で競争させるのも一案だ。
  • コンテストからインキュベーションにも結び付ける仕掛けが必要である。地方での先行事例の中で、公民が連携してビジネス化を進めるべきだ。オープンデータにはこんないいことがあるのだ、と国民も行政も気付く。それが普及のきっかけになるだろう。
  • プライバシーは重要である。複数のデータを組み合わせたら、思わぬことが明らかになるかもしれない。オープンデータでのプライバシー問題に関する監視機能を、マイナンバーの第三者委員会に委ねてはどうか。

討論によって、オープンデータは今後の電子行政の重要な柱であること、推進のためには官民が連携して知恵を出す必要があること、情報の収集や利用に関するルールが必要であることなどが、参加者に共通の認識となりました。

電子行政研究会ワークショップ「企業コードの活用について」 手塚悟東京工科大学教授ほか

2012727日、東京都千代田区大手町にある東洋大学大手町サテライトで、第1回目となるワークショップ「企業コードの活用について」を開催しました。
当日は、20名の参加者にお集まりいただき、2つの講演に加え、参加者全員での大変熱のこもったディスカッションが行われました。 

はじめに、新妻継良氏(日立製作所)から「企業コードの民間分野におけるユースケースと欧州等先進国における海外事例のご紹介」の講演をいただきました。

新妻継良氏(日立製作所)の講演資料はこちらにあります。

  • 日立グループでは、グループ内での取引先コード統一を既に行っており、取引状況全体の把握や取引の効率化、取引先企業情報維持管理コストの低減等の効果があった。
  • 2011年に、諸外国の企業コード導入状況について詳細な調査を行った。欧州では、企業コードは行政手続だけでなく企業間取引にも利用され、企業活動の基本的業務全般で企業コードが活用されている。
  • 企業コードによって企業情報の集約が容易になり、より鮮度の高い企業情報サービス等、新規ビジネス創出にもつながる。
  • 個人事業主や中小企業向けには企業マイページを通じたプッシュ型サービス提供等のメリットが期待できる。

続いて、東京工科大学の手塚悟教授から「企業コードにおける基本構想(案)の概要」の講演をいただきました。

手塚 悟氏(東京工科大学教授)の講演資料はこちらにあります。

  • これまでは、公共団体別に企業情報を管理していたため、自治体間で企業情報をやりとりするにも都度番号変換が必要だった。統一コードの導入により、こうした状況を改善できる。
  • 企業コードは国税庁が付番する法人番号と、分野別事業所番号で構成する。分野によって事業所の概念が異なるため、事業所番号を共通化することは困難(業法改正等が必要になる)。
  • 法人番号は基本2情報とともに公表され、民間活用の制限もない。オープンデータの基盤としても重要。
  • 社会保障の手続等では企業コードと従業員のマイナンバーとの連携が必要になるが、マイナンバーの取り扱いは更に検討が必要。

講演終了後、講師も含め参加者全員で、企業コードに関する活発な討論、意見交換が行われました。

  • プライバシーの問題がない企業コードこそ電子行政において最初に取り組むべき課題だったのではないか。なぜ、eJapan計画以来10年たった今ごろ企業コードを議論しているのか。
  • 今までの電子行政とは、既存の組織・業務はそのままに、単に電子化を図ることに過ぎなかった。その限界が明らかになり、業務横断的に利用する企業コードにやっと脚光があたったのではないか。
  • 今までの電子行政とは、既存の組織・業務はそのままに、単に電子化を図ることに過ぎなかった。その限界が明らかになり、業務横断的に利用する企業コードにやっと脚光があたったのではないか。
  • 企業コードを利用することで最も利益を得る省庁はどこか。国税庁か。その省庁が推進役とならないでIT室に委ねて、果たして企業コードは本当に実現できるのか。推進役として政府CIOを設置すべきではないか。
  • 企業の側にはどのような利益があるのか。それが明確化されないと押し付けられたという印象だけが残り、活用する方向に進まないのではないか。
  • 企業コードはプライバシー問題がないというが、個人事業主を対象にすると住所等が公開される問題が起きる。個人事業主は自分の意思で企業コードに参加するか選択できるようにすべきだ。
  • 府省から市町村、広域事業連合など官の組織にも企業コードを付与する必要がある。実際にそのようにする計画はあるのか。官側はその必要性を理解しているのか。

討論によって、企業コードは未だ基本構想段階であること、電子行政推進のために早期に実現すべき事項であること、推進役を定める必要があることなどが、参加者に共通の認識となりました。