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共催シンポジウム「電波改革の扉を開けよう」 夏野 剛慶應義塾大学特別招聘教授ほか

共催:アゴラ研究所・創発プラットフォーム・情報検証研究所・情報通信政策フォーラム
日時:4月20日(火)20:00~22:00
出演:夏野 剛(慶應義塾大学特別招聘教授)、中村伊知哉(iU学長)、安延 申(創発プラットフォーム代表理事)
司会:池田信夫(アゴラ研究所所長)

ニコニコ生放送で中継する形式で実施されたシンポジウムは約5000名の視聴を得た。シンポジウムでは、次のような論点について議論が行われた(文責は山田肇にある)。

  • これからは動画のようなリッチコンテンツが流通する時代である。プラチナバンドを空けないと流通需要を満たさない。プラチナバンドを空け、それを周波数オークションで配分するような大きな変革が必要である。
  • しかし、総務省は実は強い行政ではなく、自ら変革に乗り出すような力はない。電波産業を構成する放送業界、通信業界と、それらにシステムを提供する製造業者の要望のもとで、業界調和を最大限重視して実施されている、行政と業界が一体になった行政である。
  • その結果、ガラパゴス的なシステムが多用され、国際競争力が失われてきた。日本の電波産業の目を覚まさせるためには、周波数オークションのような大きな刺激を与える必要がある。
  • しかし、電波業界は周波数オークションを望んでいない。放送業界は親会社である新聞社と共に周波数オークションについて報道を避けてきた。周波数オークションの実施には業界調和を崩す大きな力が必要であるが、日本市場の魅力は低いので、外圧がかかりにくい状況になっている。
  • 新聞等のメディアの力は失われてきた。中期的に見れば、構図はがらりと変わる可能性がある。電波改革の主張を続けていくのがよい。

ZOOMセミナー「行政DXに猶予はない:国民民主党に聞く」 玉木雄一郎国民民主党衆議院議員他

開催日時:3月25日木曜日午後5時30分から1時間程度
開催方法:ZOOMウェビナー
参加定員:100名
セミナーの内容:
玉木雄一郎国民民主党衆議院議員「国民民主党のデジタル政策」(20分)
藤田卓仙世界経済フォーラム第四次産業革命日本センタープロジェクト長「ヘルスケア分野のDXと個人情報保護」(20分)
登壇者による討論・ウェビナー参加者からの質問等(20分)

冒頭、玉木氏が資料を用いて次のように講演した。以下、文責は山田肇にある。

玉木氏の資料はこちらにあります

  • 香川県の農家で育ち、財務省官僚になった。その後、国会議員になったが、いち早くYouTubeでの情報発信「たまきチャンネル」を始めた議員の一人である。国民民主党は政策提案型の「改革中道政党」であり、少し先に必要となる政策を提案している。
  • コロナの蔓延で行政のデジタル化の遅れが露呈した。デジタル改革には賛成である。全銀行口座にマイナンバーを紐付けて申請不要で直接給付する、オンライン教育、オンライン診療、ライドシェアなどを推進する、行政文書の改ざんできない仕組みを作るなど、デジタルでできることはたくさんある。
  • デジタル改革の前提として「データ基本権」の保障が重要である。データの活用を進めるためには権利擁護でバランスを取る必要があり、「データ基本権」は権利擁護の側面での規定である。憲法13・18・19条に関係し憲法改正も視野に入る。
  • データ基本権を提案する背景にケンブリッジ・アナリティカ事件がある。Facebookから8,700万人のプロフィールデータを収集し、AIが人格を類型化して広告を送り付けることによって「内心の操作」を行った。「民主主義がAIがハックされる」という事態が起きたということだ。
  • デジタル時代に対応した基本的人権として、情報の自己決定権を憲法で保障しようというのが「データ基本権」である。プロファイリングやスコアリングを規律し、憲法19条「内心の自由」を守るものだ。同時に、不必要にビジネスを阻害しないといったバランスも求められる。欧州連合は「EU基本権憲章」 第8条で「何人も自らに関する個人データを保護する権利をもつ」と定め、一般データ保護規則(GDPR)で基本権の内容を具体化している。同様に、遺伝的属性による差別をしてはならないということは憲法14条で定める必要がある。
  • コロナ第四波の封じ込めについて、安価な唾液抗原検査を実施すべきと主張するとともに、「デジタル健康証明書」の実施を求めている。ワクチン接種、検査の陰性などの情報をデジタルで持ち運ぶものだ。海外にも同様の試みがあり、相互運用性を確保する必要がある。ただし、ワクチン接種していないといった理由で差別されないような仕組みを同時に作る必要がある。
  • オリンピックパラリンピックに外国人観客が来ないことになった。外国人客の入国から出国までをモニターするアプリを73億円もかけて開発運用しようとしていたが、改修して日本人の「デジタル健康証明書」を載せ、日本人が国内を移動できるようにしたらどうか。

次いで、藤田氏が講演した。講演資料はこちらにあります

  • 世界経済フォーラム第四次産業革命センター(C4IR)は政府、産業界、学界、市民社会、地方自治体、国際機関などマルチ・ステークホルダが参画し、グローバルなルールづくりに共同で取り組む実証型の官民プラットフォームである。
  • 今後の社会を展望するとヘルスケアは重点分野である。個人と社会の価値最大化の観点から、認知症および高齢疾患の予防とQOL向上に向けたデータガバナンスの枠組みを構築する取り組みを、C4IRの日本センターとして実施している。
  • ヘルスケアの情報はデジタル化し活用するべきだが、同時に個人情報は適切に保護する必要がある。個人情報保護法が定めるデータの取扱いの観点からは、基本的には本人の明示的な同意が取れればOKということになっているが、「同意」と一言で言ってもその実態としては多様である。
  • 個人情報の取り扱いについて、個人の意向が強すぎる(GDPRにおけるデータ主体のコントロール権の濫用など)、データホルダーの意向が強すぎる(プラットフォーマーによるデータ覇権主義など)、公共の意向が強すぎる(トップダウンで一元的な社会信用システムによる管理など)は、どれも適切ではない。個人とデータホルダーと公共の間でバランスを取る仕組みを研究しているところである。その中でAuthorized Public Purpose Access(社会的合意に基づいた公益目的でのデータアクセス)といった新しい仕組みを提案している。特にヘルスケア領域では、同意なしであっても個人情報・データを利用することによって、大きな公共的価値を生み出すことができる場合があるので、同意を唯一の適法化根拠とすべきではないという考えから生まれたものである。
  • 国際的に信用できる検査結果・ワクチン接種の証明書をいかに作ることができるか? 世界の公共財としてデータを扱う仕組みづくりも研究している。それが、CommonPassである。
  • 同意の問題にも取り組んでいる。「インフォームドコンセント0(仮称)」は、個人の権利を守るための意思決定の形式として、同意だけではなく、代理や合意も活用していくべきではないかという課題認識の下で研究しているもので、高齢者・認知症患者も包摂する意思決定の形式となる可能性がある。
  • その先に、医療個人情報保護法があると考えている。個人情報保護法だけでなく、感染症法、医療法や薬機法等複数の法律やガイドライン等を、時代の状況に合わせて見直していくことが求められるが、そのためには、基本的な方針を示す「医療情報基本法(仮称)」が必要になる。

二人の講演の後、以下のような課題について議論があった。

データ基本権について
プライバシーは努力しないと守れない時代になったが、データ基本権は秘密を守るというだけではない。データは自分の意思に沿って活用される必要があるからだ。利活用を進めるために保護すべき最低限の権利を定めるというのがデータ基本権である、と玉木氏は説明した。
藤田氏は賛同したうえで、欧州ではデータの自己決定権が説かれているが、デジタル時代には「新しい人権」を定める必要がある、と主張した。エストニアでは、インターネットにアクセスする権利を定めている。デジタルの利益を享受する権利とともに、意思に反する決定をされない権利も定める必要がある。
その上で、デジタルの利益を社会全体として最大化するという、社会のミッションもある。そのために、個人の権利を一定程度制限するという場合もありうる。だから、権利擁護を行うデータ基本権に加えて、適切な法的規定がなければ不十分ではないかと、藤田氏は主張した。
憲法にデータ基本権を定めるのが適切だが、わが国では憲法改正のハードルは高い。今の憲法第25条などを根拠に、医療個人情報保護法といった法律を定めることで代替するのが現実的である、というのが藤田氏の意見であった。

デジタルヘルスについて
デンマークでは大量の個人健康記録を分析して予防施策に力を入れている。社会全体で医療費を抑制する仕組みになっている。個人健康記録という要配慮個人情報も、上手に利用すれば社会全体の利益になる。という点で意見は一致した。
「肥満」「糖尿病」などについて自己申告に基づいて、わが国ではワクチンの優先接種が行われる。それではまずい。優先順位はデータに基づいて決めるように変わっていくべきだ。

政府への信頼について
デジタルの、個人へのメリットと社会へのメリットを説明していくことが、国民の信頼を高めるために必要だと、玉木氏は発言した。マイマンバーを銀行口座と紐付けて、口座の中身を政府が見えるようになれば、困っている人にプッシュ型で手を差し出せる。
マイナポータルには行政がその人の個人情報にどのようにアクセスしたかの記録が残っている。政府が個人情報を目的外に利用できる仕組みではないことを担保し、そのことへの理解が必要であると、藤田氏は発言した。

玉木氏は、最後に二点を訴えた。

  • 利活用と、それを支える権利の保護の二つを同時に進める必要があるという点について、国民の理解を得ていきたい。
  • 教育と医療の二分野に力を入れ、デジタル化のメリットを国民に示すべきだ。このための政策提案を進めていく。

協賛シンポジウム「ウェルビーイングとDX:コロナ時代を生きる」

■主催:株式会社国際社会経済研究所(IISE)・アクセシビリティ研究会
■協賛:特定非営利活動法人情報通信政策フォーラム
■開催日時:2021年3月23日(火曜) 14:00-17:00
■開催方法:Zoomウェビナーにてオンライン開催

最大90名がオンラインで参加し、シンポジウムが開催された。開会あいさつの後、各講演者は次のように講演した。なお、文責は山田肇にある。

髙田祐人(内閣官房IT総合戦略室参事官補佐):新型コロナ感染症の蔓延でデジタルの活用が強く求められた。そこで、政府はデジタル社会の実現に向けた改革の基本方針を定めた。国民目線でのユーザ体験価値の創出が重要点の一つである。また、総合調整機能を有する組織としてデジタル庁の設置に動いている。

米田 隆(金沢大学教授):病気の治療よりも健康増進が重要であり、それには人々の行動変容が求められる。しかし、保険制度は治療のためなので予防にはカネが出ない。社会制度を変えていく必要がある。
家庭用血圧計というデジタル計測器が国内に4000万台も普及し、人々が生活に注意するようになり、脳血管障害が減少してきた。これと同様に、IoTを用いたデジタルモニタリングを基に、AIが生活指導して行動変容を促す在宅健康サービスを構築しようとしている。
AIによる生活指導は、糖尿病の予防などについて、ヒトが介入するのと同等の効果があることを実験的に示すことができた。AIがフレイルの高齢者に介入したところ、状態を改善できた。
参加者より「予防は重要だがなかなか行動変容しないのが人間の常である。どのようにしたら行動変容に結びつくか。」という質問があり、米田氏はVRを活用して病気を仮想体験させるといったことも可能になっているので、仮想体験がトラウマに至らないように注意しつつ利用するといった技術的可能性も生まれているという回答があった。

峯 啓真(株式会社シェアメディカル代表取締役):カメラのフィルムを受光素子に変えるのはデジタル化だがDXではない。デジタル写真をSNSにアップするといった新しい利用法・新しい文化が生まれるのがDXである。聴診器のDXも同様。コロナ禍の中で、医師ではなく患者が自ら胸に聴診器を当てる、同時に聴診音を聞いた医療関係者の間でディスカッションするといった新しい使い方が生まれてきた。デジタル聴診器の新しい使い方は自分たちだけで考えるのではなく外部リソースを活用する、自社だけではエコシステムを組まないという基本方針でビジネスしている。
参加者から「電子カルテに接続する、AIで分析するといった実例はあるか。」といった質問があり、峯氏は「利用方法は利用者側に考えてもらうのが基本方針だが、AI分析等にはパートナーと組んで研究所を作り乗り出そうとしている」という回答があった。

川添高志(ケアプロ株式会社代表取締役):新型感染症は在宅介護に大きな影響を与えた。訪問介護絵は看護師の直行直帰、訪問看護計画書の電子契約などを進めた。在宅での療養者が増え、治験も在宅で行われるようになった。これには、遠隔診療と連携して遠隔サポートした。コロナ下ではあるが、外出できない方(交通弱者2000万人)の同行ケアはマッチングアプリなどを活用して継続した。外出自粛で生活習慣が悪化する人向けにフレイル検査等を出張して実施した。スポーツイベントについても、安全安心の確保とコンプライアンス対応に協力した。

千田一嘉(金城学院大学教授):人生の最終段階に関する希望を、本人と家族、医療とケアの関係者が繰り返しコミュニケーションすることで作り上げていくのがACPである。ACPは構造化されたプロセスで、意向は常に再評価され更新されていくようになっている。医療とケアが多職種連携して、ACPを基に本人への対応が行われる必要がある。そのために、情報共有システムを組み、一部地域で利用が始まっている。

遊間和子(株式会社国際社会経済研究所主幹研究員):デンマークではデジタルヘルスが進展している。デジタルヘルスは単にデジタルにするものではなく、変革(DX)が伴っている。それが新型コロナ感染症への対応でも役立った。医療のIDは他の行政サービスのIDと同一で、相互にデータ連携できるようになっている。行政に一度データを提供すれば、他の行政機関も含め同じデータを再要求されることはない、一回限り原則も徹底している。

山田 肇(東洋大学名誉教授):シンポジウムのベースとなる調査研究を進めてきた研究会の成果を説明した。その上で、ヘルスケアのDXは今までのヘルスケアの延長線ではなく、新しいヘルスケアを提示するものでなければならない。DXに取り残される人が出ないためにアクセシビリティ対応を始め、利用者中心のきめ細かな施策が求められる、などの提言を発表した。
研究会の報告書は国際社会経済研究所より公開される。

ZOOMセミナー「行政DXに猶予はない:日本維新の会に聞く」 音喜多駿日本維新の会参議院議員ほか

開催日時:3月16日火曜日午後5時30分から1時間
開催方法:Zoomウェビナー
参加定員:100名
セミナーの内容:
音喜多駿日本維新の会参議院議員「日本維新の会のデジタル政策」(20分)
山田肇ICPF理事長(東洋大学名誉教授)「今こそ行政業務の改革を」(20分)
登壇者による討論・ウェビナー参加者からの質問等(20分)

冒頭、音喜多氏は資料を用いて次のように講演した。音喜多氏の資料はこちらにあります。

  • 2013年に都議会議員に選出されて以来、ブログを365日更新し、「ブロガー議員」と呼ばれるようになった。2019年に参議院議員に選出され、現在、一期目である。参議院議員になってからはYouTubeの毎日更新も始め、ブログとあわせて現在も継続中である。理系の出身ではないが、ICTを使い慣れているので、日本維新の会ではデジタル政策を担当している。
  • 日本維新の会では、新型コロナウイルス感染症の蔓延以来、会議はGoogleMeetを活用した完全オンラインで開催し、ペーパーレス化も政党一進んでいる。国会質問に先立つ行政からのレクもオンラインで受けている。国政報告会もオンラインで開催するなど、日本維新の会はデジタル活用に積極的な政党である。
  • マイナンバー法を改正して使途を拡大し、マイナンバーの「フル活用」を推進するべきと考えている。銀行口座と紐付けすることで、収入と資産を捕捉するとともに、税の徴収、給付等の迅速な行政施策の実施が可能になる。ワクチン接種と紐付けすることで、接種状況の迅速な把握や副反応時の迅速な対応が可能になる。
  • ブロックチェーンを用いた公文書管理を推進すべきと考えている。これによって改ざんが防止できる。わが国では公文書の保存期間が有限で、かつ作成元が保存か破棄かを判断しているが、デジタルにすれば永久に保存できる。国立国会図書館や国立大学に所蔵されている貴重図書・資料等のデジタル化を推進し、アーカイブの積極的な活用を図るとともに、デジタルアーカイブを担う人材の育成を実施する。
  • 中央銀行デジタル通貨や仮想通貨の導入を支援する必要がある。特区を用いた実証実験を行うなど中央銀行デジタル通貨の研究開発を進め、諸外国に遅れないようにする必要がある。仮想通貨にかかる税制を改正し、また、暗号資産を利用した資金決済分野の革新を後押しする。
  • 「デジタル庁」などといった外形的な組織・役所の看板にとらわれるのではなく、デジタル時代に相応しい調達制度や人事制度を構築する必要がある。特にキャリアパスは重要であり、デジタル専門職として「情報(デジタル)司」制度の創設を検討し、政府と社会のデジタル化を短期間に達成するべきだ。

続いて山田氏が講演した。山田氏の講演資料はこちらにあります。

  • 菅内閣が押印廃止の方針を打ち出したら、委員就任承諾書に署名したのちPDF化して送付するよう求めてきた行政機関があった。「押印廃止」には対応しているが業務改革が伴っていないので、これは「偽のデジタル化」である。
  • 政府が進めるGIGAスクール構想でも、自治体独自の情報セキュリティ規則により検索サイト・動画サイトにアクセスできない、市の備品としての取扱いを重視するあまり自宅持ち帰りをさせないなどの問題が生じている。これも一人一台端末を「机の上の文鎮」にする「偽のデジタル化」である。一方で、業務改善を伴わないRPA(Robotics Process Automation)の導入には、行政機関は積極的である。
  • 農林水産省の「農業競争力強化基盤整備事業」が行政事業レビューにかかった。耕作を放棄した小規模な農地を集約し若い農業経営者に大規模な耕作を委ねる制度であるが、相続登記がなされず所有者不明となった農地の扱いの問題があり、事業の進行は遅い。これは、不動産登記簿と住民基本台帳の「データ連携」で解決できるが、2021年2月法制審議会答申(所有者不明土地問題)には言及がない。
  • 厚生労働省の「低所得者に対する介護保険サービスに係る利用者負担額の軽減措置事業」では、共にマイナンバーに紐付けされている介護サービス利用者と住民税非課税世帯を「データ連携」して対象となる可能性のある人を洗い出せば、申請を待つ必要はないのだが、これが実現していない。
  • 利用可能な事務が限定されているのが、マイナンバー最大の課題である。第1次安倍内閣当時(2007年)、社会保険庁のオンライン化した年金記録にミスや不備が多いこと等が明らかになり、国民から批判された。そこで、2011年に民主党が「社会保障・税番号大綱」を決定。2012年に関連法案を提出し、2013年に自由民主党政権が民主党案ベースで再度関連法案を提出し、番号法が成立した。
  • しかし、日本弁護士連合会などは「コンピュータで簡単にデータ検索ができる時代に、個人情報を集めやすくするキー番号を作ることが問題だ」「政府が個人情報を管理しやすくなり監視社会につながるおそれがある」といった批判を行った。そこで、「番号法別表」で利用可能な事務(法定事務)を限定したことが「真のデジタル化」を阻む理由になっている。
  • ワンストップサービス・ワンスオンリーは「データ連携」で初めて実現する。大分県別府市「おくやみコーナー」は死亡に関する市役所への申請書を一括して作成してくれると、前回のセミナーで関根千佳氏が講演した。どんな申請書があるかチェックしたところ、世帯主変更届、マイナンバーカードの返還、国民健康保険、後期高齢者医療、年金受給、軽自動車、市県民税、固定資産税、市営住宅、介護保険、高齢者福祉サービス、身体障害者手帳、精神障害者保健福祉手帳、ひとり親家庭医療受給者証…と膨大だった。これらの中から必要な書類だけを作成するには「データ連携」が不可欠である。
  • 「データ連携」は行政を変える可能性がある。不動産登記と住民基本台帳の「データ連携」は、洪水の原因となっている放置林対策にも、空き家対策にも共通の解決策であり、行政の有効性・効率性を高める。介護サービス利用者データと住民税非課税世帯データの「データ連携」は申請主義からの脱却の第一歩であり、マイナンバー導入の目的として謳われた「本当に困っている方へのきめ細かな支援」を実現する。
  • 日本弁護士連合会などの「過剰な懸念」は社会の発展を止めるもので、それが特別定額給付金の支給などにも悪影響を及ぼしている。古い逸話になるが、1865年に成立した法律に基づき、英国では蒸気自動を人が先導する時代が続いた。これが社会の発展を阻害し、同国では自動車産業が発展しなかった。
  • 「真のデジタル化」へのきっかけとなるのが、「デジタル社会形成基本法案」「デジタル庁設置法案」及び「関連法の一括整備法案」であり、成立に期待する。「真のデジタル化」には「データ連携」による業務改革が求められる。そのほかデータの二次利用なども進める「真のデジタル化」の実現に政治の主導を期待する。

二つの講演の後、質疑が行われた。その概要は以下の通りである。

三法案について
三法案は「一歩前進」であり賛成するが「真のデジタル化」には遠く不十分であると、音喜多氏は発言した。批判や懸念に配慮してマイナンバーの使用範囲を絞っているが、全面展開するのがよい。そこで、賛成はするが今後の改善を求めるというスタンスで審議に臨むつもりである。

遡及的なデジタル化について
既存の銀行口座へのマイナンバーの紐付けや、過去の公文書のデジタル化には費用がかかるがどう考えるかと山田氏が質問し、音喜多氏は次のように回答した。国会図書館の蔵書をすべてデジタル化するには200億円かかるそうだ。公文書も数百億円でできるはずである。これが無駄遣いではないという理解を国民から得る必要がある。
さらに、山田氏は国民に費用対効果を示すのが大切だと指摘した。音喜多氏は、費用対効果を示すには特区で実証実験するという案を示した。

デジタル化が国民にもたらす利益について
マイナンバーの銀行口座の紐付けなどには中身を知られるのではないかとの抵抗が大きいことについて、困っている人に迅速に手を差し出すためにはデジタル化によって申請主義から脱却する必要があるとしたうえで、音喜多氏は政治への信頼が大切であると強調した。

デジタル時代にふさわしい調達について
音喜多氏は、縦割りを排除して一元調達に進むルールを作るべきという考えであると説明した。国と地方の間の行政システムの標準化は地方分権に影響するし、システムベンダーにも影響は大きいが、メリハリをつけて進めるべきというのが音喜多氏の考えであった。

高齢者や障害者への対応について
デジタルデバイドやアクセシビリティには対応しなければいけない。一方で、今のアナログでは情報が届かない人たちにデジタルが救いになる場合もある。そのためには、デジタルシステム開発工程に障害者等を入れることが重要であるということで、議論は一致した。
デジタル化が進行する中でアナログをいつまで残すのかも議論になった。過渡期にはアナログ行政とデジタル行政が併存するのでコストがかかるという点について、音喜多氏はアナログ中止のタイミングを見定めるのは政治家の責任であると強調した。

個人情報保護法について
デジタル化の足かせになっているという側面がある。一方で「デジタル時代の人権法」をきちんと作って国民の納得が得られるようにすべきと、音喜多氏は主張した。