ZOOMセミナー「Society 5.0時代のヘルスケアⅢ」 小川尚子日本経済団体連合会産業技術本部副本部長

開催日時:2月14日月曜日 午後7時から最大1時間30分
開催方法:ZOOMセミナー
参加定員:100名
講演者:
小川尚子氏:日本経済団体連合会産業技術本部副本部長
司会:山田 肇(ICPF理事長)

小川氏の講演資料はこちらにあります。

冒頭、小川氏は次のように講演した。

  • 人類は「狩猟社会」「農耕社会」「工業社会」「情報社会」と発展し、0を迎えている。Society5.0のけん引力はデジタル革新であり、デジタル技術とデータの活用が進むことで、個人の生活や行政、産業構造、雇用などを含めて社会のあり方が大きく変わっていく。
  • 経団連では、0とは「創造社会」であり、「デジタル革新と多様な人々の想像・創造力の融合によって、社会の課題を解決し、価値を創造する社会」であると定義している。この定義によって、多様な産業のリーダーの理解が進んだ。
  • Society5.0で目指す社会では、「課題解決・価値創造」「多様性」「分散」「強靭」「持続可能性・自然共生」などがキーワードとなる。これらのキーワードはSDGsにも一致する。
  • Society5.0時代の産業は、産業分野毎の縦割り構造から、生活者の体験価値を重視し、課題を解決する横串型、自律分散協調型の構造に変わる。
  • 岸田内閣が新しい資本主義と言い出したが、経団連も「新成長戦略」を2020年に公表した。マルチステークホルダーのニーズを充足しつつ、生き残りをかけて事業展開を行うことが世界の潮流である。マルチステークホルダーには、生活者、働き手、地域社会、国際社会、自然環境などが含まれる。企業は、マルチステークホルダーとの対話を通じて、彼らの要請を包摂し、価値を協創していくことでもってのみ、持続的な成長を遂げることが可能になる。そのカギとなるのがDXである。
  • DXを通じた新たな成長の要が「Well-beingを個別最大化する新たなヘルスケア」である。ライフコースデータを活用した個人起点のヘルスケアの推進、オンライン診療等を起点にした医療・介護提供体制のデジタル化、データドリブンの新たな治療、予防・予後のヘルスケアサービス開発等が求められる。
  • 2018年に「0時代のヘルスケア」を発表し、そのコンセプトを示した。データ活用のための環境整備は着実に進んでいるが、個人を起点にしたライフコースデータの活用の観点からは道半ばである。生まれてからの検診や診療などの積み重ねであるライフコースデータを活用することで、未病ケア・予防が可能になる。治療は個別化され、医療関係者中心のヘルスケアから、個人が主体的に関与するように変わっていく。
  • コロナ感染症の蔓延を受けて、次に「0時代のヘルスケアⅡ」を発表した。「個人起点のヘルスケア」のDX、「医療介護提供体制」のDX、DXに向けた環境・関係法制度の整備を提言した。未だにワクチン接種券が郵送されてくる現状を変革しなければならない。
  • 今年1月に発表したのが、「0時代のヘルスケアⅢ」である。新型コロナをヘルスケア領域のDXを加速する契機と捉え、デジタル技術を活用したオンラインによるヘルスケアに焦点をあて、実現したい姿とそのメリット、必要な施策を提言した。
  • オンラインヘルスケアは、生活のさまざまな場面で、これまで十分に満たされていなかった多様なニーズに対する新たな選択肢を提供する。経団連はオンラインと対面の二者択一ではなく、オンラインと対面を適宜組み合わせ、より質の高いヘルスケアを実現しようと提言している。
  • 健康管理では、スマートフォンのアプリ等を活用し、その時々の状況にあった適切なレコメンドが行われ、判断に迷うことなく健康管理ができるようになる。すでに、この領域に参入する企業も出てきている。アプリの活用で個々人の未病・予防に対する意識が高まり、行動変容が起きるようになる。オンラインヘルスケアサービスを対象とした新たな認定制度の創設が求められる。
  • 初診・再診を問わず、自身の生活スタイルや疾病の状況に応じて、診療から服薬指導・薬の受け取りまで一気通貫でオンライン医療を受けることができるというのが、新しい診療の姿である。これについては、オンライン診療の特例措置の恒久化を求めた。政府が恒久化を決定したことを歓迎したい。
  • 調剤はロボットも活用して効率化するのがよい。そうすれば、薬剤師は専門性を活かした対人業務に集中し、患者に寄り添った付加価値の高い服薬指導を実施できるようになる。この分野では、オンライン服薬指導の特例措置の恒久化から、一薬剤師当たりの処方箋40枚規制撤廃まで、様々な規制改革が求められている。
  • 「遠隔手術支援」の仕組みが普及すれば、患者は居住地に関わらず居住医療圏の施設にいながら質の高い手術を受けることができるようになる。デジタルテクノロジーとデータの活用により、要介護者の満足度向上・重症化予防と、介護スタッフの業務効率化・負担軽減が同時に進み、より質の高い介護サービスをより効率的に提供できるようになる。治験もデジタル活用で変革される。
  • Society5.0時代のヘルスケア実現には、オンラインヘルスケアサービスを利用した患者が、必要な医薬品を確実に簡便に手に入れるためのラストワンマイルの整備が必要になる。健康・医療のデータの連携と活用の仕組みを構築しなければならない。また、オンラインヘルスケアに対する国民理解の醸成も求められる。個人情報が適切に利用され、個人のWell-beingを実現していくのだという理解を作り出していかなければならない。
  • オンラインヘルスケアや医療データの利活用を含むヘルスケアDXは、高齢者の健康寿命の延伸や医療の高度化・効率化といった社会課題の解決に必要不可欠である。また、ヘルスケアDXは、わが国が世界を牽引する可能性のある有望な分野のひとつである。

講演後、次のような質疑が行われた。

ヘルスケア改革について
質問(Q):デジタル化がヘルスケアを変えるという提案に賛成である。そのためには、厚生労働省だけでなく、省庁横断的にヘルスケア改革に動く必要があるのではないか。
回答(A):経団連は規制改革会議に提案することに重点を置いている。規制改革が起点となって、省庁横断的なヘルスケア改革に繋がっていくと期待している。
Q:経済産業省は以前から健康増進の価値を主張している。しかし、健康増進は医療費の範囲にはない。健康増進も含むように健康保険制度を変革したらどうか。
A:オンライン診療の診療報酬を上げると短期には医療費負担を高めるが、長期的には重症化の予防に役立つ。オンライン診療の恒久化を実現するには、この効果を丹念に説明する必要あった。同様に、健康増進も効果を丹念に説明する必要ある。
Q:政治を動かすのは経済である。医療ID等を進めるには厚生労働省だけでは弱い。経済的な効果を示し、政治を動かして医療ID等を進めてほしい。
A:政治にも働きかけている。キーマンを特定してきちんと訴える必要がある。
Q:地方公共団体との連携が大切である。ボトムアップで地方から動くのもよいのではないか。
A:会津若松などの先行事例を見ると、住民の理解が重要だと気づく。地方公共団体のコミットメント、住民へのていねいな説明が役に立つ。また、地元の大病院の協力も大切である。地方は医師不足の課題を抱えており、課題解決のために地方がヘルスケアDXに動くという可能性もある。

データ連携について
参加者からのコメント(C):すべてのヘルスケアデータは根本的には接続できる。それを前提として、これからの制度を作っていくのがよい。省庁横断でデータを活用することの効果について社会の理解が生まれれば、技術的には問題なく対応できる。
C:マイナンバーで連結すれば、医療と介護の連携は今でもできる。
C:データのやり取りには、データの標準化やクレンジングが不可欠である。介護は最近始まったので、国が最初から標準化してきた。医療データはそうではない。接続できる、連携できるといっても容易ではないと理解して欲しい。
Q:オンライン診療に前向きな医師として意見がある。電子カルテ化が全く進んでいない。大学病院で研修し医師になりたての若者は、異動先でアナログカルテを習熟しなければいけないという馬鹿なことが起きている。電子カルテについて提言しているのか。
A:デジタル化の前提として早く進めるべきと、初期から提言している。一気に進めるためには政府資金の投入など、費用負担の問題を解決する必要がある。
C:教育のデジタル化で5000億円を投入した。電子カルテの導入費用は、一診療所1000万円としても1兆円で済む。政府予算を投入することも検討するのがよい。
Q:介護ではDXが進んでいない。医療データと介護データの連結も進める必要がある。これを進めるのは現場の声なのか、役所のトップダウンか、それとも民間の知恵なのか。
A:鶏と卵の問題があるので現場は動きにくいという話を聞いてきた。しかし、コロナで非接触・非対面のニーズが増し、少しずつ動き始めていると理解している。
C:シンガポールでは、大腿骨骨折をした高齢者の介護を、高齢者が入院中にセットする仕組みができている。高齢者や家族を中心に考えれば、前に進むだろう。