健康 超高齢化時代における医療・健康・介護データの活用 谷脇康彦総務省官房審議官ほか

主催:株式会社国際社会経済研究所

協賛:情報通信政策フォーラム

日時:2013年3月14日(木)13:00-16:30

会場:アルカディア市ヶ谷(私学会館) 富士の間

最初に、谷脇康彦総務省官房審議官が「超高齢社会と情報通信技術」と題し、社会的課題の解決にICTを用いる可能性について、基調講演を行った。講演では、情報流通連携基盤(具体的には、APIの公開、データ様式の連携、ID連携、個人情報の取扱に関するルールの整合性確保等)実現の重要性が強調された。

総務省は昨年12月にICT超高齢社会構想会議(健康・医療・介護の情報連携などを議論)を設置し、東北メディカル・メガバンク計画(医療健康情報連携のほか、15万人規模のバイオバンクも予定)等の施策を実施している。また、パーソナルデータ(個人に関する情報)の保護に配慮しつつ、様々なデータのネットワーク上での利用・流通を促進する新たなルールについて、検討を始めている。これらは、すべて、情報流通連携基盤の実現を目指すものである。

 

次いで、佐藤賢治新潟県厚生連佐渡総合病院外科部長が、佐渡地域医療連携ネットワーク『さど ひまわりネット』に関する特別講演を行った。

高齢化の進展で患者の病態が複雑化し、医師一人では対応しきれない。医療の地域格差も生まれているが、格差を解消するのではなく格差を前提として制度を作る必要がある。大病院志向が強いが、その結果、大病院でなければできない医療の密度が低下している。そのような事情が集約している佐渡だからこそ、地域医療連携ネットワークが求められた。

提供医療水準の維持が目的(向上ではなく、維持が精いっぱい)である。できる限り多くの患者と施設が参加するネットワークを作ろうとしている。中央にデータセンターを設け、「カルテ」の共有ではなく、病名・処方・検査結果など客観的な情報を共有するシステムである。島内でも中央から離れた地域に対しては在宅診療を提供する。介護領域との連携も進めたい。診療情報の共有が前提だが、「人」を介しての情報漏えいへの対策も同時に進めなければならない。事業の継続性も重要で、自力で資金を賄い運用できる体制を作りつつある。参加対象施設の意欲・理解に大きな差があり、地道な広報活動が必要である。

 

遊間和子国際社会経済研究所主任研究員は、「海外における生活支援技術AALの取り組み」と題して海外事例を紹介した。欧州においても高齢化による社会的•経済的課題は大きいため、ICTによる新たなアプローチとソリューションが求められている。そのような背景から、英国で『3 Million Lives』というプロジェクトが動きだしている。産官で遠隔医療・遠隔介護を推進していくために2012年に組織されたコンソーシアムで、対象者300万人のQOL(生活の質)向上が目的である。5年間で世界トップになることを目指すという。

一方、『UK Biobank』は、がん、心疾患、脳卒中、糖尿病など深刻かつ生命を脅かす病気の広い範囲の診断や治療、予防の向上を目的とした非営利団体である。2006~2010年の5年間に、40~69歳までの50万人から生活環境、生活習慣、病歴などの聞き取り調査を実施し、身体検査および血液・尿・唾液サンプル等の生体試料を採取した。長期間にわたるデータの蓄積と分析により、特定の疾患の発症理由などが探索される。

 

パネルディスカッション「高齢者のQOLを向上させるICT活用とは?」は、コーディネーターが山田肇東洋大学経済学部教授で、パネリストとして、佐藤賢治氏のほか、矢冨直美東京大学高齢社会総合研究機構特任研究員、関根千佳同志社大学政策学部・大学院総合政策科学研究科教授、堀池喜一郎シニアSOHO普及サロン・三鷹顧問が登壇した。

医療情報連携ネットワークに患者自らの参加を認めるかについて意見が交わされ、必要性について異議はないものの、患者(国民)も医療リテラシーを高める必要があるという結論になった。これは、患者の家族についても同様である。ソーシャルネットワーク技術が進歩するなど、患者や家族が医療情報連携ネットワークに参加できる環境は整ってきている。自分の命を自分で決定するという意味でも、参加を拒む理由はない。しかし、治療は医者に任せ、それにおんぶするだけという患者(国民)も依然として多く、これを解決するの努力が必要である。

死に場所として自宅や地域を選択することもできるが、そのためには死に至るまで自宅や地域で生活を続けなければならず、その生活を支えるにはICT技術を利用するべきである、という点でも意見の一致を見た。

 

最後に、「制度改革に関する提言」が山田肇氏により提示された。

提言は次の八項目であった。①世代間対立を避ける政策の遂行、②医療・健康・介護の情報連携の実現、③医療・健康・介護連携情報の疫学的活用、④個人情報保護制度の見直し、⑤マイナンバーを利用した情報管理、⑥アクセシビリティは不可欠、⑦ICT活用へのインセンティブ、⑧国家的推進体制の確立。

 

なお、シンポウムに関する詳細な情報は、講演資料を含め、国際社会経済研究所アクセシビリティ研究会のサイトに掲載される予定です。

 

(文責:山田肇)