2022年度」カテゴリーアーカイブ

ZOOMセミナー「DXを阻む壁:マイナンバーの呪い」 榎並利博行政システム株式会社・行政システム総研顧問

開催日時:11月15日火曜日 午後7時から最大1時間30分
開催方法:ZOOMセミナー
参加定員:100名
講演者:榎並利博氏(行政システム株式会社・行政システム総研顧問)
司会:山田 肇(ICPF理事長)

榎並氏の講演資料はこちらにあります。
榎並氏の講演動画(一部)はこちらにあります。

冒頭、榎並氏は次のように講演した。

  • 諸外国では番号は秘密ではないとされ、氏名や住所と同じように様々な行政サービスで利用されている。これに対して、わが国には「番号は秘密だ」という空気が蔓延し、氏名や住所とは異なる特別大事なものとして扱われている。それが原因で日本のデジタル社会は一向に進展しない。「番号は秘密だ」が「マイナンバーの呪い」である。
  • マイナンバーが秘密とされたのは失敗政策の積み上げの結果である。非課税貯蓄の仮名口座を防止するためグリーン・カードを導入しようとしたが挫折した。住民管理のため自治体が番号制度を求め住基ネット(住民票コード)が導入されたが、国は「自治体からの要請で実現したもの」と逃げの一手を取り、大きな混乱が起きた。住基カードには住民票コードを記載していないので、自分の番号がわからないという致命的な問題があった。顔写真もないので身元も確認できなかった。
  • その後、失われた年金問題が起きた。個人を特定できる番号を使わなかったことが招いた問題だった。これがきっかけになって、再び番号制の議論が起きた。マイナンバー制度は、「番号は秘密」という呪いを解く大きな機会だった。政権が民主党に交代したことで、まっとうな番号制度が実現すると期待された。しかし、呪いを残したままマイナンバーは制度設計された。カードの交付時に番号をマスキングするケースを配布したことで、「番号は見られただけで危険!」という呪いが復活した。マイナンバー法の除外規定「生命、身体、財産の保護」にも関わらず、大災害が起きてもマイナンバーは使わないままになっている。
  • 呪いはマイナンバーカードに引き継がれた。カードには番号を記載、顔写真も貼付されているが、マイナンバーカードが提供する電子証明書には基本情報だけでマイナンバーはない。マイナンバーカードで番号は目視できるが、デジタル社会にも関わらず、自分のマイナンバーは電子的に証明できない。
  • マイナンバーカードが提供するのは電子証明書のシリアル番号だが、シリアル番号は5年で失効し別の番号に代わる。マイナンバーとは別にシリアル番号を使い、しかも、時々変わる変な番号で、個人を特定するのは難しい。それが原因で様々な問題が起きている。ネットで特別給付金を申請しても本人確認ができなかった。「マイナポイント2万円分ゲット!」と勇ましく宣伝しているが、マイナポイントの二重付与が起きた。
  • 「マイナンバーカードを健康保険証に」と政府は動いているが、問題の発生が予期できる。個人単位の被保険者番号は、保険者が変わると変わる番号である。電子証明書のシリアル番号は5年ごとに変わる。コロコロ変わる二つの番号で紐づけしているので、運用ミスは容易に想定できる。自分の医療記録がない、他人の医療記録が結合されている、という恐ろしい事態が予測される。
  • 一部の行政情報はマイナンバーで紐づけできるが、連携のためには連携用符号を生成し、機関別符号に変換するという面倒な手間がかかる。マイナポータルにはこれとは別に開示システム用符号があり、行政が特定の個人の情報にアクセスしたログは情報提供等記録用符号で記録されている。デジタルに詳しくない人々が制度設計し、それをエンジニアが無理やり実装するからこんな問題が起きている。制度設計にエンジニアを入れるべきだ。
  • 呪いを解くには「番号は秘密じゃない」という呪文を皆で唱えるしかない。皆で呪文を唱えられる環境を構築することが必要で、マイナンバー制度は抜本的に再構築するのがよい。マイナンバーは生年月日等を含み、自分で覚えられる番号にする。マイナンバーを氏名等通常の個人情報の扱いにし、マイナンバーの利用範囲はブラックリスト方式で決める。マイナンバーカードに住所を記載する必要はない。住所は住基ネットで取得できるからだ。電子証明書のシリアル番号はIDとして使わず、個人を特定するIDはマイナンバーに一本化する。
  • マイナンバーを国家権力が恣意的に使い始めたらどうなるのか、という懸念を持つことは健全である。「マイナンバーを使わない」のではなく、デジタルの力を使って、どのように権力を統制していくかを考える必要がある。
  • 人権の考え方は、もともと「国家からの自由」を意味する自由権が中心であった。しかし行き過ぎた自由主義への懸念から、国家による経済生活への関与や利害調整、病気等による社会的弱者に対する救済が期待されるようになった。そして、生存権など社会福祉的な権利も人権であるという「国家による自由」 を意味する社会権が加わった。
  • わが国は社会権を重視する国家である。社会権を守るために情報を使えという考えに立つのであれば、国民には政府を監視する責任が生まれる。国民による管理・監督が可能で透明性が確保される制度と、国民がデジタルを使って政府を監視できる仕組み(技術)を築いていくのがよい。マイナポータルを使って機関間における連携実績(やりとり履歴)と、各行政機関が保有する個人情報(わたしの情報)が確認できるようにする。権力による改ざんを防ぐため、これらの情報やアクセスログなどは分散台帳で管理するといった仕組みが必要で、新制度を実現するために立法府の役割は大きい。

講演後、次のような質疑があった。

Q(質問):政府が恣意的な運用をしない監視は必要だが、政府は無機物ではなく人が動かしている。今の行政職員は上司の指示があれば平気で恣意的な運用をするような人々なのだろうか。それほど強い監視は必要なのではないか。また、政府が信用できない、という人がいるが、行政職員が信用できないといっているということに気付いているのだろうか。
A(回答):権力は必ず腐敗するという懸念を持っている人がいる。確かにその恐れがないわけではない。今の行政職員にモラルがないといっているのではないが、監視するための制度を作り、技術を用意しておく必要がある。なお、政府は信用できないという人は、政府は民主主義に基づいて我々が作ったことを思い出すべきだ。
Q:マイナンバーを広く利用するというのは正しいが、民間も利用できるようにするのがよいと考えているのか。政府は広く利用する方向に傾いているように見えるが、民間が広く利用すると、その人の生活や行動が民間企業にすべて把握されてしまう恐れがある。
A:個人を特定してサービスを提供し、納税してもらう行政という分野では、マイナンバーを広く利用するのがよい。一方、マイナンバーが法的強制力のあるものであるのに対し、民間のIDはあくまで取引のためのID(極端に言えばお金を払ってくれるなら誰でもよい本人特定は不要の番号)であるから、民間利用は制限する必要がある。生活や行動がすべて把握されるという事態はおっしゃる通り避けるべきだ。ただ、犯罪に絡む場合にはマイナンバーと紐づけする必要がある。例えば、預金口座の紐づけはマネーロンダリング防止のために必要である。携帯電話も悪用されないように、マイナンバーに紐づけしておくのがよい。民間での利用は法律によって、今説明したように犯罪予防等に限定すべきである。
Q:住基カードがあり、マイナンバーがあり、さらに、全面的に見直して新番号にしたとしても、番号制度によって提供される利便について国民にきちんと説明し理解が得られない限り、番号は普及しないのではないか。
A:利便について政府の説明は不足している。たとえば保険証だが、高額医療制度の適用が容易になる。預金口座にマイナンバーを紐づけしておけば、激甚災害に被災しても、マイナンバーさえ確認できれば口座から引き出しができる。そんな利便についてていねいな説明が必要であるが、今は不足している。
Q:デジタル庁といっても、それぞれの部署が縦割りで業務を担当している。全体を見ていない。何でもかんでもマイナンバーを使おう、何でもかんでもマイナポータルを使おうと、自分の業務の中でできることの宣伝をしているに過ぎない。国民目線でどんな利便が生まれるか全体を把握して語ることが少なすぎる。この点が大きな問題ではないか。
A:その通りである。全体としてどんな利便が提供できるかを考えるのが重要だが、しがらみから妥協、妥協で進んで今に至っている。オーストリアのように、きちんとしたエンジニアが参加して責任をもって根幹部分を設計し直し、国民の利便を高める必要がある。
C(コメント):呪いが解けていく可能性はある。例えば、国民の主体が会社員であれば、社会保障の手続きは会社任せにすればよいので、マイナンバーの利便は感じられない。フリーランスが主流になっていけば、手続きは自分で行わざるを得ないので、マイナンバーの利便も感じられるようになるし、改善への意見も出てくるだろう。
Q:デジタルがわからない政治家とデジタルがわからない行政が妥協して、その後にシステム化が命じられる。それではだめだ。しっかし、全体をマネジメントできる人が必要ではないか。
A:法律を作るときにはエンジニアを参加させるべきだ。それによって、デジタルが使える法律が生まれ、国民が使えるシステムになっていく。在留外国人の登録などは、エンジニアが初期から参加した成功事例である。
Q:政治家の中にデジタルが理解できる人が生まれてきている点は、今後への期待ではないだろうか。
A:同意する。
Q:スマートフォンで二段階認証を行う仕組みが広がっている。スマートフォンが広く利用されている時代に、マイナンバーのカードが必要なのか。
A:携帯電話番号はコロコロ変わる恐れがある。本人確認にはマイナンバーを用いるのがよい。マイナンバーをスマートフォンに搭載して利用するという方向になって、利用が進んでいくと考えている。

ZOOMセミナー「農業のDX」 久住嘉和NTT研究企画部門・担当部長

開催日時:10月7日金曜日 午後7時から最大1時間30分
開催方法:ZOOMセミナー
参加定員:100名
講演者:久住嘉和氏(NTT研究企画部門・担当部長)
司会:山田 肇(ICPF理事長)

冒頭、司会者が次のようにあいさつした。農業従事者数は減少が続き、平均年齢は65歳を超えている。今後も好転は望めない。食料安全保障・環境保護の両側面から農業は維持すべきだが、それにはデジタル活用、農業のDXが欠かせない。今日は久住氏に農業DXの最新動向をお話しいただく。

その後、久住氏は次のように講演した。

久住氏の講演資料はこちらにあります。

久住氏の講演ビデオ(一部)はこちらにあります。

  • 世界で73億人の人口が2050年には90億人まで増加すると見込まれ、70%の食糧増産が必要と言われている。一方、わが国では農業人口が減少しており、先進国最低の食糧自給率である。世界でもわが国でもICT活用が求められ、IoT、AI、ビッグデータ等の飛躍的進歩により、農業分野でも第四世代(スマート農業)への移行が始まっている。
  • スマート農業の主なビジネスには、サービス(生産管理・販売管理システム)と製品(農業ロボット・機械等)がある。ICT技術やAI(人工知能)、ロボット技術等と組みあわせることによって、非常に多くのサービスと製品が登場してきた。さらに、ゲノム編集などのバイオ・ゲノムテック、フードテックも生まれている。これらを総合してアグリテックと呼ぶ。
  • わが国では代替たんぱく質のベンチャーがブームになりつつあり、米国・欧州・中国などでは多くの企業がアグリテックに参入している。代表的な企業にはMONSANT、Farmers Business Network、Plentyなどがある。農林水産省も「みどりの食料システム戦略」を掲げて、食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立をイノベーションで実現しようとしている。
  • NTTグループの全社員数は32万人で、売上高は12兆円、982社の連結子会社がある。通信キャリアでは世界最大規模の研究所を有し、次世代の通信システムを研究開発している。NTTが打ち出したのが、IOWN構想(Innovative Optical and Wireless Network)である。光を中心に据えて、革新的技術によって超大容量・超低遅延・超低消費電力の通信システムを実現、それを経済社会で活用しようという構想である。
  • Smart AgriはNTTが掲げる六つの重点分野の一つで、IOWN構想の技術を利用する。農業生産に加え、流通・販売・消費・食までの領域について、パートナーと連携して、地球環境に向き合いながら食料自給率を向上させる戦略・具体的施策を推進する。先端技術とトップランナーとのパートナーリングにより、生産性・流通効率を飛躍的に向上し、循環型経済を実現する。
  • NTTグループ・北海道大学・岩見沢市による産学官連携やステークホルダーとの共創のもと、農業の課題解決や生活環境向上など「スマート・アグリシティ」の実現を目指す活動が進められている。岩見沢コンソーシアムの考える未来の農業は、広大な農地を多数のロボット農機が自動で作業し、超省力化を実現するというものである。20~40㎞遠隔にある農機を完全自動運転する試みでは、農機の制御が遅れないように、超低遅延が必要になる。そこにIOWNの技術が使われる。
  • NTTは、農業を起点にドローン利活用を推進する地域の拠点づくりを進めようとしている。農業だけを取り上げる他社とはこの点に違いがある。今後はコネクテッドドローンを実現したい。無線を介してドローンとクラウドが常時接続可能となることで、「ドローンの遠隔操作」と、ドローンが取得したデータを「リアルタイムに遠隔地に伝送」することの両方を実現する。
  • 農業とICTの融合による地域活性化をめざし、農業専業会社を設立した。いわゆる植物工場である。山梨県中央市の拠点ではリーフレタスを主に出荷している。
  • NTTは水産業にも取り組んでいる。世界規模では今後タンパク質不足が発生するので、
  • 水産物のタンパク質をより効率的につくることが求められている。日本の水産業を盛り上げたい、世界のタンパク質不足を解決したい、地球環境問題を解決したいとの想いから京都大学、近畿大学などと連携協定を締結して、RegionalFishというベンチャーに資本参加した。ゲノムの特定箇所を切断する欠失型のゲノム編集を用いて筋肉増量・高成長・早期精子を実現する技術に取り組んでいる。ゲノム編集により品種改良した稚魚を養殖することで、生産効率を上げ、高付加価値化を図る。
  • ジャパンバイオファームが提言するBLOF理論による有機栽培技術の開発にも協力している。科学的データに基づいて最適な土づくりを行うことで、高品質・高栄養価・高収量を実現するというものである。土壌分析に基づき、不足している成分を補うなどの最適施肥設計を行うことにより、収穫量、品質を飛躍的に向上させる。
  • 食品廃棄物を堆肥化する食品残渣発酵分解装置も開発した。堆肥化促進剤を利用することで、有機物の分解速度が上がり、悪臭の発生も押さえられる。食品関連事業者へ「食品残渣発酵分解装置」を含む必要な装置・機能をサブスクリプションモデルで提供しているが、初期投資不要ということで、市場で好評を博している。
  • 農産物の市場流通は不効率である。生産者は価格が決まらないまま大市場へとりあえず出荷するしかない。情報が共有されていないために発生する生産者に不利な取引と非効率な物流を改善しようとNTTは考えた。それが農産物流通DXである。仮想市場で先物取引をすることで、流通を合理化する仕組みである。

講演終了後、次のような質疑があった。

Q(質問):今日説明された技術を利用するには巨額の投資が必要になる。それでも採算がとれるということを示さないと、広く普及するようにはならないのではないか。
A(回答):その通り。如何に採算性を実現するかについても力を入れている研究を進めている。植物工場の場合、地域の産業誘致施策の下で提供された土地を利用し、栽培に使った水も循環させている。
Q:大きな設備投資が必要となると、小規模な専業農家では対応できない。必然的に、農業生産法人や民間企業によるビジネスということになるのではないか。
A:農業生産法人に加えて、個々の農家ではなくJAとして積極的にビジネスに乗り出すという動きが出てきている。
Q:農機の自動走行などが進むと、今まで農機を動かしていた従事者は仕事を失うのではないか。
A:農業従事者不足が続いている。不足する従事者を農機の自動走行などで補おうというのが、岩見沢コンソーシアムの考え方である。今の従事者の仕事を奪うというわけではない。
Q:農業従事者に対するICT活用、農業DXの教育が必要不可欠ではないか。
A:NTTでは農業大学校などに講師を派遣して、農業DXの教育に努めている。農業DXの知識を持った従事者によって、人数をかけずに優れた農産物を量産できるようにしていく、というのが農業の将来像である。
Q:NTT以外にも大企業が農業DXに乗り出している。それらと競争し協調していく中では、農業データの共有基盤が欠かせないのではないか。
A:農業データなどの基盤については、NTTだけではできない。他企業との連携も普通に求められるし、農林水産省が国策としてデータ基盤を作ろうとしている。そうしないと日本の農業は支えられないだろう。
Q:自農地と、他社が持つ隣の農地でそれぞれスマート農業を営む場合、両者の間でデータを交換する必要が出てくるのではないか。そのレベルでの情報共有、そのためのデータの標準化は進んでいるのか。
A:国が進めるデータ基盤はマクロレベルであって、今の質問にあったようなミクロレベルでは栽培データは囲い込みの傾向がある。この点については今までの考え方を大きく変えていかなければならない。

ZOOMセミナー「まちづくりのDX」 内山裕弥国土交通省課長補佐

開催日時:9月6日火曜日 午後7時から最大1時間30分
開催方法:ZOOMセミナー
参加定員:100名
講演者:内山裕弥氏(国土交通省都市局都市政策課・課長補佐)
司会:山田 肇(ICPF理事長)

内山氏の講演資料はこちらにあります。
内山氏の講演の映像(一部)はこちらでご覧いただけます。

冒頭、内山氏は次のように講演した。

  • 都市政策を取り巻く潮流は、人口拡大期(拡大する都市へ対応するためのインフラ整備、開発コントロールによるスプロール化対策)から、人口減少・少子高齢化による縮退期(都市機能の拡散、中心市街地の空洞化等に対応するための都市構造へのアプローチ)へと変遷してきた。ポストコロナ時代には「人間中心の社会」を実現するための新たな政策展開が求められている。マクロとミクロ、ハードとソフトの両面からデジタル技術を活用して市民QoLを向上させる「サービス・アプローチ」の観点で、都市政策を推進する必要がある。
  • まちづくりのDX実現会議では、まちづくりDXを次のように定義した。単なる既存施策のデジタル化だけではなく、 「デジタル技術の活用により既存の仕組みを変革」 し、 「新たな価値創出又は課題解決」 を図ることで、 「生活の豊かさ」 を実現すること。この定義の下で、まちづくりDX原則、重点取組テーマ、まちづくりDXのビジョンを検討した。
  • まちづくり DX では 、 インターネットや IoT 、 AI 、デジタルツイン技術等を活用してまちづくりに関する 空間的 、 時間的 、 関係的制約を超えて 、従来の仕組みを変革していく観点 が重要である 。これを踏まえ、五点のまちづくりDX原則を設定した。①サービス・アプローチ、②データ駆動型、③地域主導、④官民連携、⑤Open by default。
  • 都市活動の質/都市生活の利便性向上を目標に、これまでもエリアマネジメントが推進されてきたが、これにデジタル技術の活用を加えることで、都市サービスの提供へとエリアマネジメントを変革する(エリマネDX)。また、これまでの都市空間再編や都市構造アプローチについても3D都市モデル等のデジタル・インフラを活用した手法を取り入れる(都市空間DX)。さらに、都市データを活用したオープンデータ化の推進・オープンイノベーションの創出と、Project PLATEAUの推進を加え、4つの重点取組テーマとした。
  • 都市は多様な人、 価値 、 モノ 、 情報 、 データが行き交うプラットフォームとしての役割を担っており 、 様々な分野を横断 ・ 越境 ・ 接続し 、 相互作用の中で新しい価値や文化を生み出すオープン ・ イノベーションの基盤である 。そのための施策展開のキーワードとなるのが、 コモンズ 、 コモンセンス 、コモンプラクティスの 「 3つのコモン 」 である 。
  • まちづくりDXにおける役割分担では、官と民がそれぞれ担う領域の中間にある官民協調領域が重要である。地方公共団体、まちづくり団体と市民が協働して、共益的な都市サービスを提供していくことになる。この活動には研究機関も参加し、一体となって、①地域課題の整理、②政策目標の設定、③施策の立案、④施策の実施のサイクルを回していく。5年10年単位ではなく、アジャイル(機動的)に軌道修正していくのがよい。
  • まちづくりDXとして三つのビジョンを掲げた。第一は、持続可能な都市経営である。将来を見据えた都市計画、都市開発、まちづくり活動により長期安定的な都市経営を実現していく。第二は、一人ひとりに寄り添うまちである。住民ニーズを的確にとらえ、多様な選択肢を提供するオンデマンド都市を実現する。第三は、機動的で柔軟な都市設計である。社会情勢の変化や技術革新に柔軟に対応し、サービスを深化させ続ける都市を実現していく。

講演後、次のような質疑があった。

オープンデータについて
質問(Q):地点を表示するために住所を使ったり、地番を使ったり、緯度経度を使ったりしている。オープンデータとして連携する際には、まずデータのクレンジング、標準化が必要になるのではないか。
回答(A):標準化が必要なのは大前提。これに加え、標準化されていない過去データであっても、まずは準オープンデータとして公開していくという考え方を示している。
Q:まちの中でIoTが収集する情報など、今から得られる情報について標準化は進んでいるのか。
A:都市の中の様々な状況を表現するデータの形式がまちまちだと利用の際に問題が起きる。そこで、都市OSという考え方が出てきている。都市OSは、地域や提供者の枠を超えたサービス連携を実現するための仕組みである。
Q:建築確認申請など建築関係のデータも活用できるのではないか。
A:建築物の情報はまちづくりには欠かせない。重要なデータであるので、うまく利用できるようにしていきたい。

まちづくりDXが目指すもの
Q:今日の話には、たとえば高齢者がどのように暮らすかというような話がなかった。都市基盤のうえで生活する市民の視点を加えるのがよいのではないか。
A:まちづくりDXは国のアクションプランなので個別具体的なソリューションについてあまり言及していないが、スマートシティ等が提供するサービスを実現するための基盤を議論している。ビジョンでは「人間中心のまちづくり」を掲げており、孤独の問題、防災の問題などは視野に入っている。
Q:オープンデータがあっても地方公共団体が知らない場合がある。まちおこしなどの住民活動への補助金制度の活用状況を整理して市役所にもっていったら、担当者は知らなかった。データ活用といっても簡単には進まないのではないか。
A:まちづくりDXでは地方自治体に加え、大学、市民、シビックテック団体、まちづくり団体など幅広い主体の協働を示している。様々な主体が知見をもちよることでDXが実現する。
Q:今後、どのように施策展開していくのか。
A:モデル都市を選定して経験を積み重ね、それを事例集として公表したり、ガイドラインを発行したりする。それらによって地方公共団体がまちづくりDXを採用しようとなったら、補助金を交付するといったステップを考えている。

ZOOMセミナー「自動車交通のDX」 KDDI株式会社大岸智彦氏

開催日時:7月14日木曜日午後7時から最大1時間30分
開催方法:ZOOMセミナー
参加定員:100名
講演者:大岸智彦氏(KDDI株式会社技術統括本部技術戦略本部社会実装推進室モビリティサービスグループ コアスタッフ)
司会:山田 肇(ICPF理事長)

大岸氏の講演資料はこちらセミナーの動画(一部)はこちらで視聴できます

冒頭、大岸氏は次のように講演した。

  • KDDI総合研究所所属時には当初通信プロトコル関係の研究開発に従事していたが、2017年以降、コネクティッドカー、自動運転、MaaS分野に移り、今はコネクティッドカー要素技術・実証実験成果の実用化に取り組んでいる。
  • 自動車交通のDXについてCASEというキーワードがある。Connectedは車が常時ネットワークにつながること、Autonomousは車の運転が自動化されること、Shared & Servicesは車が複数者で共有されることで実現するサービス、Electricは電動化である。
  • Cについて:現状は0など限定された場所で限定されたサービス(決済や渋滞情報))を提供しているにすぎないが、今後は汎用的なサービスを提供できるようになり、拡張可能になる。安全運転診断、ドライバー見守りなど、すでに先駆的なサービスが提供され始めている。
  • Aについて:自動運転はレベル0~5までで定義されているが、商用車か自家用車かといった車種の相違、運行形態、道路環境によって自動運転の難易度・実現性は異なる。
  • 通信を伴う自動運転には、自動運転の状況を遠隔監視して必要に応じて介入する遠隔型自動運転と、自動運転車同士がお互いの意思(ゆずる/ゆずらない等)を交換して協調する協調型自動運転などがある。それぞれ、通信速度等への要求条件は異なる。
  • Cについて:カーシェア・個人間シェアが増えてきており、都心・若年層ほどその傾向が強い。さまざまな種類の移動サービスを需要に応じて利用可能な、単一のモビリティサービスに統合したMaaS(Mobility as a Service)への関心も高まっている。MaaSの普及促進には、プラットフォームやデータに関して、事業者間で共通化を図ることが重要である。全国各地のスマートシティプロジェクトでMaaSが実験されている。
  • Eについて:日本はEV化が遅れていると言われているが、自動車全体の台数が停滞しているのに対し、EV車は年々順調に増えている。EV購入意向がある人にとっては、車両価格が高いこと、走行距離、充電施設・充電時間が課題となっている。
  • KDDIでは、自動運転を支援する技術に関連して、遠隔型自動運転における遠隔監視システム等の研究開発・実証実験を進めている。また、地域でのデマンド型交通の実証実験を進めている。
  • 遠隔型自動運転では、2018年は私有地での実験、2019年は公道、2019年後半からは乗客あり実証実験へと進歩してきた。遠隔型自動運転では、車載カメラの映像を走行中に常時送信するため、広帯域、低遅延な通信環境が要求される。今後は自動運転状況を遠隔監視し、必要に応じて遠隔運転者が介入する、監視と遠隔運転を分離する方向に進歩していくと考えている。
  • 春日井市の高蔵寺ニュータウンは、住宅取得者の高齢化が進んでおり、今後、免許返納者が増えていくことが予測される地域である。ここで、春日井市と協力して実証実験を進めてきた。乗客と貨物を混載して最適ルートで地域内を走行する自動運転向け運行管理システムを開発して提供した。貨客混載型の自動運転×MaaS実証実験の紹介動画をご覧いただきたい。
  • また、移動通信・衛星通信を最適に切り替えながら、人が自動運転車からドローンへ荷物を受け渡す「半自動化配送」等について実証を予定しており、山間部でのヒト・モノ輸送に役立つと考えている。
  • 2030年を目途にモビリティプラットフォームを構築していきたい。自動運転車だけでなく、ドローンから空飛ぶクルマ、水中ロボットまでを統合したプラットフォームを提供する。このプラットフォームのうえで、物流、インフラ点検、防災、エンタメ、暮らしなど様々なサービスが提供されるようになる。
  • 今後は通信帯域の拡大により、各車両が常時大容量データを送受信するサービスが一般的になるだろう。それによって、車がセンサとなり、他の車に対してクラウド経由で、センシング情報を提供するサービスなども実現していくだろう。自動車交通のDXの要はコネクティッドカーである。
  • 一方、自動運転は商用車・限定エリアなどで小規模にスタートするだろう。事故時において、自動運転システムの責任分界点に関する明確な基準が定められるなど、自動運転システムの責任に関する法整備が定められれば、自動運転の普及が進むと考えている。

講演終了後、次のような質疑があった。

コネクティッドカーの技術について
質問(Q):コネクティッドカーには、リアルタイム通信ができなかったために事故につながるという心配がある。スタンドアローンで緊急時に自動停止するような自動運転が主流ではないか。
回答(A):通信ができなくても自動運転できるというベースのうえで、コネクティッドカーとして協調運転する形になるだろう。例えば交差点での右直のシーンにおいて、対向車が今右折を開始しようとしていることが事前に分かれば、スムーズに速度調整できるようになる。
Q:協調運転などの場合に4G・LTEでも大丈夫なのか。
A:速度が遅ければよいが、走行速度が速い程5Gが必要になる。また、都心部のように取得すべき情報が多い地域でも5Gがよいだろう。
Q:路側にあるインフラ(信号等)との連携も研究されているが、もしそれが実現するとインフラも輸出しなければならなくなるのではないか。
A:日本の道路では、見通しの悪いところでインフラ連携がサポートするような利用方法がある。国ごとに事情は異なるので、インフラ連携は付加的なサービスになるだろう。
C(コメント):インフラ連携の国際標準化も進んでいる。課題の一つがセキュリティ。インフラからの情報が信頼できるかどうかを判断する必要があり、それを保証する標準が作成されている。

自動車交通の未来について
Q:実証実験ではゴルフカートを使っているが、コストはどの程度のものなのか。
A:LiDAR等の高価なセンサ等が搭載されるので、今は高級車くらいの値段になっている。コモディティ化すれば価格は下がってくると思われる。
Q:路面電車復活の動きがあるが、それよりも自動運転車による公共交通のほうが、トータルで、低費用ですむ可能性はないのか。
A:その通り。路面電車の場合、道路に施設を整備しなければならないが、施設整備が不要な自動運転は、それよりもトータル費用は下がる可能性はある。
Q:EVについて、懐中電灯の電池のように交換可能にして、ガソリンスタンドならぬ電池スタンドで交換できるというシステムも考えられていると聞いているか。
A:利用者が移動距離によりモビリティを変える(近場ならEVを使う)という方向になると思っていたが、確かにそのような仕組みができれば、EVは近場移動といった制約はなくなるだろう。
Q:車がセンサとなり、他の車に対してクラウド経由で、センシング情報を提供するサービスが紹介された。携帯電話の位置情報をもとに道路の開通・不通を検知しカーナビに反映させるサービスをAUはすでに提供している。その先にどんなサービスを考えているのか。
A:今はそのような位置情報をもとにしたサービスだけだが、ほかのセンサ情報を活用する方向に発展していくだろう。例えばバッテリーの充電量を知って余剰電力を回すスマートグリッドとの連携なども考えられる。
Q:法整備は重要だが、人々の心理にも対応する必要があるのではないか。子供だけ、視覚障害者だけが乗っている自動運転車が走っていても、周りの人々は安心して見守るようにしていく必要がある。
A:運転席がある車が自動運転しているから人は違和感を覚える。自動運転車の形状(例えば運転席が無い四角い車両)というものが周囲に認知されれば違和感を持つ人が減る。また歩行者とのコミュニケーションを行うUIも研究されており、左折などする際には車外にそれを表示するようにすれば、皆は安心するだろう。

まちづくりや他のサービスとの連携について
Q:モビリティプラットフォームのうえで各種のサービスが提供されるという説明だったが、各種サービスのDXとつながることが大切ではないか。遠隔医療で調剤された医薬を患者宅まで自動的に運搬するというような形を展望したいのだが。
A:モビリティはそれ自体が目的ではない。モビリティによって提供されるものを人々は必要としている。観光かもしれないし、医薬の運搬かもしれない。だから、サービス側と連携するのは必然的な方向である。医療サービスとの連携では質問にあったようなサービスの可能性もあるが、KDDIにおいて昨年度つくば市で取り組んだ病院向けのオンデマンド配車サービスの実証実験の経験から、院内での移動が困難な患者に自動的な移動手段を提供するであるとか、次回の診察日が決まったら当日に自動運転の送迎車が配車されるといったサービスなどが大事と考えている。
Q:たとえば自動運転公共交通の普及には地方行政の役割が大切ではないか。自治体に期待するものはあるか。
A:自治体の理解とサポートは重要である。市民の理解を醸成していくためには住民向けの説明会などを積み重ねていかなければならない。春日井市では毎月のように自動運転サービスの説明会を行い、住民の理解を得ている。公共交通政策の立案、民間事業者間での利害関係の調整などでも期待が大きい。
Q:全国各地のスマートシティの中にMaaSが組み込まれているが、それでも自治体の役割が大きいのではないか。
A:その通りだが、それに加えて、スマートシティの場合には地元の大学の役割も大きい。MaaSの場合、オンデマンドタクシーを新規事業者が提供するわけではなく、地元のタクシー業者の組合が提供している。このように、スマートシティの場合には、公共と民間、アカデミアの連携が必須である。