ZOOMセミナー「自動車交通のDX」 KDDI株式会社大岸智彦氏

開催日時:7月14日木曜日午後7時から最大1時間30分
開催方法:ZOOMセミナー
参加定員:100名
講演者:大岸智彦氏(KDDI株式会社技術統括本部技術戦略本部社会実装推進室モビリティサービスグループ コアスタッフ)
司会:山田 肇(ICPF理事長)

大岸氏の講演資料はこちらセミナーの動画(一部)はこちらで視聴できます

冒頭、大岸氏は次のように講演した。

  • KDDI総合研究所所属時には当初通信プロトコル関係の研究開発に従事していたが、2017年以降、コネクティッドカー、自動運転、MaaS分野に移り、今はコネクティッドカー要素技術・実証実験成果の実用化に取り組んでいる。
  • 自動車交通のDXについてCASEというキーワードがある。Connectedは車が常時ネットワークにつながること、Autonomousは車の運転が自動化されること、Shared & Servicesは車が複数者で共有されることで実現するサービス、Electricは電動化である。
  • Cについて:現状は0など限定された場所で限定されたサービス(決済や渋滞情報))を提供しているにすぎないが、今後は汎用的なサービスを提供できるようになり、拡張可能になる。安全運転診断、ドライバー見守りなど、すでに先駆的なサービスが提供され始めている。
  • Aについて:自動運転はレベル0~5までで定義されているが、商用車か自家用車かといった車種の相違、運行形態、道路環境によって自動運転の難易度・実現性は異なる。
  • 通信を伴う自動運転には、自動運転の状況を遠隔監視して必要に応じて介入する遠隔型自動運転と、自動運転車同士がお互いの意思(ゆずる/ゆずらない等)を交換して協調する協調型自動運転などがある。それぞれ、通信速度等への要求条件は異なる。
  • Cについて:カーシェア・個人間シェアが増えてきており、都心・若年層ほどその傾向が強い。さまざまな種類の移動サービスを需要に応じて利用可能な、単一のモビリティサービスに統合したMaaS(Mobility as a Service)への関心も高まっている。MaaSの普及促進には、プラットフォームやデータに関して、事業者間で共通化を図ることが重要である。全国各地のスマートシティプロジェクトでMaaSが実験されている。
  • Eについて:日本はEV化が遅れていると言われているが、自動車全体の台数が停滞しているのに対し、EV車は年々順調に増えている。EV購入意向がある人にとっては、車両価格が高いこと、走行距離、充電施設・充電時間が課題となっている。
  • KDDIでは、自動運転を支援する技術に関連して、遠隔型自動運転における遠隔監視システム等の研究開発・実証実験を進めている。また、地域でのデマンド型交通の実証実験を進めている。
  • 遠隔型自動運転では、2018年は私有地での実験、2019年は公道、2019年後半からは乗客あり実証実験へと進歩してきた。遠隔型自動運転では、車載カメラの映像を走行中に常時送信するため、広帯域、低遅延な通信環境が要求される。今後は自動運転状況を遠隔監視し、必要に応じて遠隔運転者が介入する、監視と遠隔運転を分離する方向に進歩していくと考えている。
  • 春日井市の高蔵寺ニュータウンは、住宅取得者の高齢化が進んでおり、今後、免許返納者が増えていくことが予測される地域である。ここで、春日井市と協力して実証実験を進めてきた。乗客と貨物を混載して最適ルートで地域内を走行する自動運転向け運行管理システムを開発して提供した。貨客混載型の自動運転×MaaS実証実験の紹介動画をご覧いただきたい。
  • また、移動通信・衛星通信を最適に切り替えながら、人が自動運転車からドローンへ荷物を受け渡す「半自動化配送」等について実証を予定しており、山間部でのヒト・モノ輸送に役立つと考えている。
  • 2030年を目途にモビリティプラットフォームを構築していきたい。自動運転車だけでなく、ドローンから空飛ぶクルマ、水中ロボットまでを統合したプラットフォームを提供する。このプラットフォームのうえで、物流、インフラ点検、防災、エンタメ、暮らしなど様々なサービスが提供されるようになる。
  • 今後は通信帯域の拡大により、各車両が常時大容量データを送受信するサービスが一般的になるだろう。それによって、車がセンサとなり、他の車に対してクラウド経由で、センシング情報を提供するサービスなども実現していくだろう。自動車交通のDXの要はコネクティッドカーである。
  • 一方、自動運転は商用車・限定エリアなどで小規模にスタートするだろう。事故時において、自動運転システムの責任分界点に関する明確な基準が定められるなど、自動運転システムの責任に関する法整備が定められれば、自動運転の普及が進むと考えている。

講演終了後、次のような質疑があった。

コネクティッドカーの技術について
質問(Q):コネクティッドカーには、リアルタイム通信ができなかったために事故につながるという心配がある。スタンドアローンで緊急時に自動停止するような自動運転が主流ではないか。
回答(A):通信ができなくても自動運転できるというベースのうえで、コネクティッドカーとして協調運転する形になるだろう。例えば交差点での右直のシーンにおいて、対向車が今右折を開始しようとしていることが事前に分かれば、スムーズに速度調整できるようになる。
Q:協調運転などの場合に4G・LTEでも大丈夫なのか。
A:速度が遅ければよいが、走行速度が速い程5Gが必要になる。また、都心部のように取得すべき情報が多い地域でも5Gがよいだろう。
Q:路側にあるインフラ(信号等)との連携も研究されているが、もしそれが実現するとインフラも輸出しなければならなくなるのではないか。
A:日本の道路では、見通しの悪いところでインフラ連携がサポートするような利用方法がある。国ごとに事情は異なるので、インフラ連携は付加的なサービスになるだろう。
C(コメント):インフラ連携の国際標準化も進んでいる。課題の一つがセキュリティ。インフラからの情報が信頼できるかどうかを判断する必要があり、それを保証する標準が作成されている。

自動車交通の未来について
Q:実証実験ではゴルフカートを使っているが、コストはどの程度のものなのか。
A:LiDAR等の高価なセンサ等が搭載されるので、今は高級車くらいの値段になっている。コモディティ化すれば価格は下がってくると思われる。
Q:路面電車復活の動きがあるが、それよりも自動運転車による公共交通のほうが、トータルで、低費用ですむ可能性はないのか。
A:その通り。路面電車の場合、道路に施設を整備しなければならないが、施設整備が不要な自動運転は、それよりもトータル費用は下がる可能性はある。
Q:EVについて、懐中電灯の電池のように交換可能にして、ガソリンスタンドならぬ電池スタンドで交換できるというシステムも考えられていると聞いているか。
A:利用者が移動距離によりモビリティを変える(近場ならEVを使う)という方向になると思っていたが、確かにそのような仕組みができれば、EVは近場移動といった制約はなくなるだろう。
Q:車がセンサとなり、他の車に対してクラウド経由で、センシング情報を提供するサービスが紹介された。携帯電話の位置情報をもとに道路の開通・不通を検知しカーナビに反映させるサービスをAUはすでに提供している。その先にどんなサービスを考えているのか。
A:今はそのような位置情報をもとにしたサービスだけだが、ほかのセンサ情報を活用する方向に発展していくだろう。例えばバッテリーの充電量を知って余剰電力を回すスマートグリッドとの連携なども考えられる。
Q:法整備は重要だが、人々の心理にも対応する必要があるのではないか。子供だけ、視覚障害者だけが乗っている自動運転車が走っていても、周りの人々は安心して見守るようにしていく必要がある。
A:運転席がある車が自動運転しているから人は違和感を覚える。自動運転車の形状(例えば運転席が無い四角い車両)というものが周囲に認知されれば違和感を持つ人が減る。また歩行者とのコミュニケーションを行うUIも研究されており、左折などする際には車外にそれを表示するようにすれば、皆は安心するだろう。

まちづくりや他のサービスとの連携について
Q:モビリティプラットフォームのうえで各種のサービスが提供されるという説明だったが、各種サービスのDXとつながることが大切ではないか。遠隔医療で調剤された医薬を患者宅まで自動的に運搬するというような形を展望したいのだが。
A:モビリティはそれ自体が目的ではない。モビリティによって提供されるものを人々は必要としている。観光かもしれないし、医薬の運搬かもしれない。だから、サービス側と連携するのは必然的な方向である。医療サービスとの連携では質問にあったようなサービスの可能性もあるが、KDDIにおいて昨年度つくば市で取り組んだ病院向けのオンデマンド配車サービスの実証実験の経験から、院内での移動が困難な患者に自動的な移動手段を提供するであるとか、次回の診察日が決まったら当日に自動運転の送迎車が配車されるといったサービスなどが大事と考えている。
Q:たとえば自動運転公共交通の普及には地方行政の役割が大切ではないか。自治体に期待するものはあるか。
A:自治体の理解とサポートは重要である。市民の理解を醸成していくためには住民向けの説明会などを積み重ねていかなければならない。春日井市では毎月のように自動運転サービスの説明会を行い、住民の理解を得ている。公共交通政策の立案、民間事業者間での利害関係の調整などでも期待が大きい。
Q:全国各地のスマートシティの中にMaaSが組み込まれているが、それでも自治体の役割が大きいのではないか。
A:その通りだが、それに加えて、スマートシティの場合には地元の大学の役割も大きい。MaaSの場合、オンデマンドタクシーを新規事業者が提供するわけではなく、地元のタクシー業者の組合が提供している。このように、スマートシティの場合には、公共と民間、アカデミアの連携が必須である。