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ZOOMセミナー「成果連動型委託契約を活用した千葉県白子町の健幸経営」 近藤雅巳白子町健康福祉課健幸づくり係係長ほか

開催日時:12月7日火曜日午後7時から最大1時間30分
開催方法:ZOOMセミナー
参加定員:100名
講演者:
近藤雅巳氏:白子町健康福祉課 健幸づくり係 係長(保健師)
福林孝之氏:つくばウエルネスリサーチ 経営管理部 執行役員
司会:山田 肇(ICPF理事長)

冒頭、福林氏が次の通り講演した。福林氏の資料はこちらにあります

  • つくばウエルネスリサーチは筑波大学発のベンチャーで、健康に関する最新の研究成果を現場に届ける仕事をしている。ICTを活用したe-wellnessという名称の健康運動プログラムを15年間で10万人以上に提供して、体力年齢若返りと医療費抑制のエビデンスを明らかにした。その他、多様な国プロジェクトに協力してきた。
  • e-wellnessを実施した新潟県見附市では、運動実施群は対象群に比べて、運動開始後3年目には、10万4千円も医療費を抑制できることが示された。体力年齢も5歳若返った。
  • 多くの自治体での実践の結果、歩数の増加を導ければ医療費の抑制が期待できるというエビデンスが明らかになった。しかし、どの自治体でもプログラムに参加する住民の割合は限られており、健幸への無関心層には届かない。プログラム開始直後は参加者数が伸びるが、3~4年後には頭打ちになる。
  • 無関心層のほうが医療費もかかる傾向があるので、無関心層にリーチし、行動変容を起こしたいと考えた。そこで、ポピュレーションアプローチに取り組むことにした。人口分布全体を生活習慣病リスクの低い方向に動かすというものだ。これが、健幸まちづくり施策「自然と健康になれるまちづくり:Smart Wellness City」の実践である。
  • 多くの住民が“健幸”になれるまちづくりとは、すなわち『歩いて暮らせるまち』を創ることであり、『自然に歩かされるまち』を作ることでもある。実現へのポイントは、車に過剰に依存しない、便利さだけを追求しすぎない生活を市民が許容するように向けるということ。社会参加できる場づくりを始め、多くの施策を組み合わせて実施していくになるが、最も大切なのが自助を強める施策(インセンティブの付与と健康リテラシーの向上)であって、これを本日紹介する。
  • 2016年から18年まで、無関心層の行動変容を促す6市連携健幸ポイントプロジェクトを実施した。総合特区制度の下で厚生労働省、総務省、文部科学省が連携して実施したもので、約1万2千名が参加した。歩数の増加や健康プログラムへの参加に、最大24000ポイントのインセンティブを付けた。その結果、無関心層を取り込むことができ、1万2千人のうち74%は(元)無関心層であった。さらに、約9割が18か月以上継続参加し、歩数を増加し、推奨歩数8,000歩を上回った。また、生活習慣病リスクが高い参加者の約35%がメタボを解消し、一人あたり年間5万円の医療費抑制効果が確認できた。
  • これを全国に横展開していこうということで、成果連動型事業が導入された。民間を活用しても、現在の役務達成に基づく費用支払い方式では、事業成果の有無は支払い額に反映されず、「費用の安さ」が契約先選考で優先される傾向にある。自治体側もポピュレーションアプローチを医療費抑制のためにも実施したいが、従来の事業規模と比較して多額の事業費が必要となり大規模な予算獲得は難しい。ポピュレーションアプローチで自治体職員の業務量が大幅に増加する。成果連動型契約(Pay For Success)は、行政等が営む社会的事業に対して、民間ノウハウを活用して、社会的課題解決に向けて取組んでいく官民連携手法である。実施する事業により創出される社会便益に対して成果目標を設定し、資金提供者に対しては成果目標の達成度合いに応じて対価が支払われる。
  • 2018年からの第1期SIBは3市町連携で、川西市、見附市、白子町が参加。2019年からの第2期は5市町連携で、遠野市、美里町、八幡市、宇部市、指宿市。2020年からは4市町連携で、田原本町、湯梨浜町、高石市、飯塚市。2021年からの第4期は4市町連携として実施され、金ヶ崎町、大野市、南丹市、西脇市が参加した。人口規模はまちまちだが、連携によって全体コストの削減に成功し、財政規模の小さい自治体も参加可能になっている。
  • 4期にわたるこの事業は、健幸無関心層を対象に、エビデンスベースのインセンティブ施策を大規模に実施するもので、対象人口1割以上が参加することを目標としている。つくばウエルネスリサーチは中間支援組織として協力している。
  • 最近では参加者のうち後期高齢者(80歳以上)の割合を15%以上とする新たな目標を追加し、アウトカムとして健康プログラム(歩数向上・筋トレ等)による医療費抑制、外出促進・社会参画による介護リスクの低減を掲げている。また、地方創生推進交付金(スポーツ・健康まちづくり)を活用するが、交付金終了後も一般財源で運用できる仕組みを構築する。
  • 白子町も参加する第1期プロジェクトでは、5年後のKGI(Key Goal Indicator)として、医療費の抑制効果額8億円、介護リスク15%抑制を掲げている。KGI達成のためにKPI(Key Performance Indicator)として、参加者数は新規参加者と継続参加者のそれぞれが目標数の90%以上、参加者属性は新規参加者の60%以上が運動不充分層など、継続率は歩数データのアップロード率が85%以上、歩数の変化は新規参加者の運動不充分層のうち3ヶ月後に国推奨歩数以上またはベースライン歩数から1500歩以上増加した参加者の割合が60%以上などを設定した。
  • 参加者数、運動不充分層割合・後期高齢者参加割合、継続率、歩数の変化の4つのKPIの達成状況をつくばウエルネスリサーチが評価し、4つのKPIに重みを付けて総合KPI達成度を計算し、それに基づいて成果報酬額を決めるという仕組みになっている。
  • 第1期3市町では参加者に占める75歳以上の割合が25%前後となり、第2期、第3期、第4期でも人口の1割以上という目標は越えて、ポピュレーションアプローチとして成功している。
  • 無関心層に情報を届けて関心を生みだし、インセンティブポイントを付与して参加を促してきた。さらに口コミを重視し、家族や友人に健康情報を届けてリテラシーを高めていく健幸アンバサダーを養成してきた。コミュニティ活動との連携、地域包括ケアとの連携なども各市で実施してきた。その結果、参加者の歩数が上がるという成果が確認できている。参加者の医療費も、非参加者に比べて、2年目には9万円の抑制効果があった。参加群でも介護認定者は出るが、その比率は非参加群に比べて少なく、また要支援に止まる傾向があることも分かった。

次に、近藤氏が次の通り講演した。近藤氏の資料はこちらにあります

  • 白子町は九十九里浜に面する人口10,891人の小規模な町で高齢化率は0%である。海と温泉がある観光地で、品質のよい野菜も生産されている。「匠の技」という高品質のトマトをぜひ味わってほしい。また、300面ともいわれるコートがあるテニスの町でもある。
  • 高齢化率が年に1%程度高まっている。その結果、全国に比べて低いとはいえ、後期高齢者における介護認定率が28%程度という問題が起きている。高齢者の健康を維持していくのが重要であり、「地域を丸ごと健幸にする施策を実施したい」と考えた。人口の16%まで普及すれば後は自然に普及していくという理論があるそうなので、まずは1割を目標にした。
  • また、成果が目に見えるエビデンスに基づく事業を実施したいと考えた。それが地域全体を健幸にする「健幸ポイント事業」である。ポピュレーションアプローチで全体利益を追求した。
  • 2015年度に「健幸ポイント事業」をスタートした。参加者は無料で提供される活動量計を身に着けて日常生活を送る。活動量計に記録される毎日の歩数を町施設やコンビニ等で送信する。月に一度、町施設の体組成計で体組成を測定する。これを継続した参加者に、努力と成果に対してポイントを付与し、貯まったポイントは商品券に交換される。
  • 参加費無料、歩数計1台無料と、歩数等の成績に応じてポイントがあることが、無関心層に対するインセンティブになっている。商品券は「孫にあげる」など非常に好評で、景品交換の時期は必ず新規参加者が増加するようになっている。景品交換が、継続のための動機付けと、口コミを発生させる仕掛けになっている。
  • 健幸ポイントの参加者数は、40歳以上の人口で、2年目の2016年度に1割になった。4年目(2018年)に成果連動型に変更し、通算6年目に2割を超えた。緊急事態宣言下でも新規参加者は減ることなくむしろ増加している。80歳以上の人口での普及率は6%になっている。参加の決め手は、アンケート調査によると広報紙と口コミであった。広報紙は関心層にリーチし、口コミは無関心層にリーチしていたのではないか。
  • 参加後は歩数が増加するが、3か月程度で飽和する傾向がある。3か月目までのアプローチが大切なので、データ送信をする町施設には指導者を置き、直接指導して運動不充分層の意識を喚起するようにしている。また、歩数の目標を理解している人ほど歩数を高水準で維持する傾向があるので、「目標歩数が達成できず商品券を損してますよ」といった案内も送るようにしている。
  • その結果、2021年には目標である国による推奨歩数を達成した参加者の割合が9%となった。2018年12月以前と2019年1月以降の歩数分布を比較すると、3000歩から7000歩未満の参加者が減少し、7000歩から9000歩が増加している。推奨歩数達成率のKPIは55%であるが、白子町ではこの1年間くらいほぼ達成状態を続けている。
  • 一日の平均歩数が1歩増えると、061円/歩/日の医療費が抑制されるという過去に研究結果(エビデンス)を基に試算すると、1,000人が1,400歩/日の歩数増加を達成することによって、約3,100万円/年の医療費抑制効果が期待されるという計算ができる。
  • 実際に後期高齢者のレセプトデータを分析して、参加者は医療費が5万円少なく、介護給付費も6.5万円少ないという結果が出た。新規の認定も約3割抑制できている。75歳以上人口合計では、医療費と介護給付がそれぞれ3000万円削減できたという計算になる。
  • KPIの総合達成度は白子町では110%と計算されたが、それに基づく成果報酬支払額は連携した3市町村で分担して負担するので、10万円程度で済んだ。
  • 医療費、介護給付費で差が出るのは後期高齢者であるが、これから後期高齢を迎える60代、70代が既に高い普及率に達しているので、本地域全体へのよい影響が今後さらに大きくなると期待している。
  • 成果に結びついた秘訣をまとめる。第一は、従来よりも緊密に事業者、関係者と意思疎通を実施したこと。これには連携した見附市、川西市との意思疎通も含む。第二は、KPI等の評価を随時行い、データを基により良い方策を共に検討してきたこと。そして、結果には事業者も責任を負う成果連動型の委託契約により成果を追及できたこと、の3点である。

講演の後、次のような質疑応答があった。

成果連合型委託契約について
Q(質問:取り組みを始める前段階で、どのようにして参加自治体を募ったのか。
AK(近藤回答:白子町の最大の課題が高齢化であり、しかしすべての対策を取るのは無理なので、エビデンスもあり成果が期待できるとして「健幸ポイント事業」を選択した。
AF(福林回答):スマートウエルネスシティ首長研究会で先駆的な取り組みを交流してきたのが、SIB型の「健幸ポイント事業」普及のカギになっている。
Q:SIBでは中立的な評価者の存在が重要で、今回は筑波大学がその役割を果たしている。アカデミアの役割について説明して欲しい。
AF:以前から筑波大学の研究でエビデンスが積みあがってきたというのが、この事業のポイントである。成果連動型契約の評価者という点も重要だが、研究を続けてエビデンスを積み上げることが大学の真の役割である。
AK:エビデンスがあることが事業を始める際の説明にも大切であった。ただ、難易度が高い分析の費用は大きな負担なので、長期的には、評価周期は延ばしていくのがよいのではないか。
Q:住民への介入として広報活動が大切であることが分かったが、役割分担はどうなっているのか。
AF:サービス事業実施者であるタニタヘルスリンクが主に情報提供を行っているが、町の広報に掲載するなどは自治体側の分担になる。緊密に連携することで、自然と役割分担できている。
AK:すべてを事業者に任せるのではなく、自治体側も分担している。その結果、「自治体が頑張ることで成果報酬支払額が増えるのは、どういうことか」という批判も出るが、大切なのは医療費を抑制したい、住民を健幸にしたいという目標である。
Q:KGIである医療費削減効果が事業費を上回ればよいということか。
AK:医療費が下がるといっても、白子町単体としてはすべてを把握できない。社会保険加入者の医療費が削減されても把握できないし、自治体の医療費負担は減らないからだ。
AF:社会保険加入者もいずれは国民健康保険に戻ってくるので、長期的には効果が出てくる。短い期間ではなく、長期的に見るのが大切である。ただ、費用対効果の説明がむずかしい点は認識しており、研究課題である。
Q:参加している自治体では普及が進んでいるとわかったが、全国普及にはどう取り組むのか。
AF:いろいろな方法でインセンティブを付けるという試みは多くの自治体で始めている。これに対して、「健幸ポイント事業」は無関心層へのアプローチという点に特徴があり、これを強調して普及を進めていきたい。

地域健康経営について
Q:歩数や体組成のデータを事業者に渡していくことについて問題は起きていないか。
AK:参加時にデータを取ることを説明し、署名を得ている。データ取得を問題とする参加者はほとんどいない。データ分析する際には通し番号で管理し、データだけではだれかわからないようになっている。
AF:医療費抑制効果を知ることが事業の前提なので、そのために分析するという目的をきちんと明示して、参加の際に同意を取っている。また、被保険者番号はつかない形で分析する側に医療費データが渡されている。非参加群の医療費データ分析には同意は得ていないが、国民健康保険事業ではすでに自治体として医療費分析ができるようになっているので、その枠組みで行っている。
Q:後期高齢者がメインターゲットであると、スマートフォンだけではサービスは不十分である。ターゲットを考えてサービスを設計したのか。
AK:その通り、データ送信しやすい利便性を考えてコンビニに機器を設置するなど、スマートフォンを一人では使えないという点は最初から意識した。
AF:他の参加自治体でも活動量計の利用が大半で、スマートフォンの利用者は少ない。それゆえ、活動量計の無料配布には効果がある。
Q:参加者の割合が1割、2割というが、それで十分か。
AF:まずは医療費削減目標があり、そこから計算して参加者1割が目標になっている。また、人口の1割、2割は、自治体規模にはよるが、大規模な事業である。
AK:白子町では1000人、2000人を動員する事業は今まではなかった。初めて取り組んだ大規模事業である。講演で説明したように、16%を越えれば普及し定着するという理論もある。
Q:はじめの一歩を踏み出して参加し、その後継続する「定着率」について教えて欲しい。
AF:継続率がKPIになっており、これはデータを継続的にアップロードする人の割合である。継続率として高いハードルを課したが事業全体として達成できている。
AK:白子町では8割を越えている。

ZOOMセミナー「自治体SDGsモデル事業 全世代健康都市圏創造事業(郡山市の地域健康経営)」 品川萬里郡山市長ほか

開催日時:11月2日火曜日午後7時から最大1時間30分
開催方法:ZOOMセミナー
参加定員:100名
講演者:郡山市・品川萬里市長、保健福祉部保健所健康政策課・渡邉研也主任主査
司会:山田 肇(ICPF理事長)

冒頭、品川市長は次のように講演した。講演資料はこちらにあります。

  • 郡山市の全世代健康都市圏創造事業は、政府による地方自治振興の政策ターゲットとして開始されたSDGs未来都市・自治体SDGsモデル事業に、2019年度に採択された。
  • 郡山市の0歳から18歳までの人口は、年齢が低いほど少ない。18年間の間に1000人減った。9歳の子ども(2011年の原発事故の後に生まれた子ども)は、トレンドよりもいっそう少なくなっている。このように減少傾向にある子供たちに、誰一人取り残すことなく成人式を迎えさせることが、市長として最大の使命と考えている。
  • 「最小律の原則」からも、一番弱いところにある青少年が元気に育つということが、日本を活性化させる。また、これはSDGsが掲げる誰一人取り残さない社会の形成にも合致するものである。
  • 若い世代に焦点をあてつつ、全世代の健康増進を中心に据えてモデル事業を推進することにした。人生を送るために必死に働く(Life for Work)のではなく、人生を楽しむために働く(Work for Life)のためにも健康が大切である。
  • モデル事業の成否の鍵はDX(デジタルトランスフォーメーション)にある。スマートフォンを活用しての健康増進の仕組みを作っていきたい。

続いて、渡邉氏が講演した。講演資料はこちらにあります。

  • 1994年に郡山市に採用されて以来、多様な業務を経験し、2012年からは保健所で働いている。経験の中でそれぞれの業務範囲を越えた連携やデジタルの活用はむずかしいと感じてきた。
  • 今は自治体SDGsモデル事業という壁を突破する活動に取り組んでいる。郡山市は中核市として2007年に保健所が設置され、医療・保健の専門家が地域のために力を合わせる態勢ができた。モデル事業の取り組みは他の自治体でも実施できないわけではないが、保健所がある郡山市ならではの取り組みになっている。
  • 医療・介護情報等を多角的に分析し、科学的根拠に基づく施策や事業等を実施するのが、全世代健康都市圏創造事業である。地域住民の健康寿命の延伸と健康格差の解消を掲げ、また兼ねてより実施してきたセーフコミュニティ事業と連携して、「全ての世代が健康で生きいきと暮らせるまち」を目指している。セーフコミュニティ事業は、原因を分析して事故やけがを防ごうとしているので、根拠に基づく施策の推進を掲げるモデル事業との整合性は高い。
  • 国民健康保険加入者の健診結果を蓄積し健康増進を働きかけても、その方が75歳になると後期高齢者医療制度に移り、過去のデータは参照できなくなってしまう。この例のように分断されてきた健康とそれに関わるデータを一体として扱うようにして、全住民を対象に健康増進運動や介護予防運動を展開する。それが、全世代健康都市圏創造事業のコンセプトである。
  • モデル事業ではおよそ30種類のデータを活用したが、中心は10年分の健康診査受診情報である。そのほか、レセプト情報なども組み合わせて分析した。その結果、郡山市の疾病状況や介護への移行状況なども明らかになりつつある。今後の施策に活用するとともに、オープンデータとして公開する予定である。
  • 初期の分析結果をいくつか例示する。まず、特定健診の受診回数が多い人ほど、医療費は少ないという傾向が明らかになった。多くの自治体のデータヘルスでも同様の結果が得られつつあるが、10年間という長期にわたって傾向を見い出したのは、郡山市がおそらく初めてである。しかし、なぜ医療費が低いのかという理由については、今後、詳細な分析が必要である。
  • 健康診査の受診回数が多い集団ほど要介護(支援)認定率は低下する傾向がみられることもわかってきた。まだ理由は明らかではないし、健康診査に行けるほど元気だから要介護認定率が低いという解釈もできるので、これについても、さらに詳細な分析が必要である。また、要介護認定なしの約1割が4年後には要介護(支援)認定に、また要介護3以下の認定を受けている者の5割に介護度の進行がみられることも明らかになってきている。進行の要因が今後明らかになれば、根拠に基づいた予防施策が実施できるだろう。
  • 骨折など「損傷、中毒、その他」に大分類される疾病の医療費が郡山市は全国平均の半分程度であるという分析結果が得られている。「循環器系の疾病」では、入院と入院外の医療費バランスが全国平均と違っていた。全国平均では入院医療費が入院外医療費の約二倍だが、郡山市ではほぼ同額である。入院外で治療を終了できる人が多いからなのか、それとも入院する前に死亡することが多いからなのかなど、これも今後の分析が必要である。
  • 「今後分析が必要である」と繰り返してきたが、市の職員だけでは、保健所に専門職がいても限りがある。根拠に基づく施策を推進していくために、福島県立医科大学との共同研究を実施することになった。(1) SDGsの推進に関すること、(2) 健康(保健)、医療、福祉等の充実及び向上に関すること、(3) セーフコミュニティの推進に関することについて連携を実施する。(2)項で実施される医療・介護・福祉・健康等の共同研究では、郡山市は研究テーマに匿名化したデータを提供し、また研究フィールドも提供する。福島県立医科大学は研究内容を郡山市にフィードバックして、施策・事業に提言を行うようになっている。
  • 福島県立医科大学とは、育児困難解消事業や「通いの場」事業に関わる共同研究を健康増進研究の一環として実施する。そのほか、重症化予防研究、介護予防研究も進めている。
  • そのほか、郡山市は多くの民間企業と健康関連協定を締結している。それによって、民間の知恵もお借りして、全世代健康都市圏を創造していきたい。

講演後、以下のような質疑があった。

郡山市の健康事業全般について
Q(質問):2011年の原発事故から10年たったが、郡山市の健康施策にどのように影響を与えてきたのか。
A(回答):2011年以降に死亡者数が増えた。また、9歳児だけでなく、出生数自体が減少傾向にある。それを逆転させるよりも先に、生まれた子ども全員が無事に成人に達する施策に重点を置いてきた。全世代健康都市圏事業もその一環である。
Q:病気になった後は医療費でカバーされるが、病気になる前の健康増進には将来の医療費を削減する効果が期待される。健康増進運動は自治体が自前で実施しなければならないが、市長に考え方を聞きたい。
A:確かに重要と思うが、効果がどうあったかが明らかにならないと施策として強化できない。例えば、スマートフォンに運動記録や健康記録も収納して、それも分析できるようにする必要があると考えている。
Q:健康増進の取り組みと成果について教えて欲しい。
A:健康増進や介護予防の事業がどのような効果を生んでいるかは、まさに本事業の研究対象である。今まではそのような分析がなかったので、効果分析を全世代健康都市圏事業で行っていきたい。
Q:特定健診では、治療中の人には健康指導を行わないが、実は治療中に保健師が健康指導を行うのが大切である。このような取り組みを郡山市は行っているのか。
A:まずは健康診査を受けてもらう必要がある。そのために、昨年度、健康診査を受けなかった人へのアンケート調査を実施し、健康診査に市民が積極的に行く環境を作ろうとしている。

全世代健康都市圏について
Q:この事業は郡山市だけを視点に置くのではなく、郡山連携中枢都市圏を対象にしているが、周辺都市のデータも組み入れていくのか。また、周辺都市と健康施策についてどのように連携して、発展させていくつもりなのか。
A:中核市になった効用は保健所を設置できたことである。保健所は公衆衛生の要である。保健所を通じて周辺16市町村の健康データを把握できるようになっているので、今後、組み入れていきたい。また、周辺市町村の患者が救急車で郡山市の病院に運ばれてきている。真に救急に対応が必要な人が、救急車を利用できるようにするためにも、都市圏内の連携は重要である。
Q:医療情報データをどう活用し、どう第三者提供するかには悩みがある。根拠に基づく施策のために重要なデータ利用について、聞かせて欲しい。
A:「相当な理由があり、かつ本人の権利利益を不当に侵害するものではない」に相当するので、郡山市民から取得した、郡山市が所管しているデータを郡山市は分析できる。しかし、他の機関と連携しようとすると、個人情報保護の壁が高くなる。例えば、救急搬送された方について消防署が持つ情報と、郡山市が持つその方の治療情報の連携もむずかしい。国レベルで、今後、改善をしていくように期待している。
一方で、完全に連携できなくても、サンプルで抽出して分析できる場合がある。因果関係が明らかにならなくても、相関関係(トレンド)を知ることもできる。法改正を待つだけではなく、できることは進めていくべきである。
Q:市長は18歳までの子どもたちに焦点をあてて講演されたが、この世代は幼児期にも小中学校に通う時期にも様々な健康診断を受けている。そこから、何か注目すべき分析結果が出てきているか。
A:分析結果は後日報告したい。5歳児健診については、その後の特別支援学級への進学等にもつながるので、注目しているところである。
Q:要介護認定を受けた人が循環器系の患者である場合に、なぜなったのかを調べたところ、「体調がよい」と勝手に判断して薬を止めていた人が多かったという傾向が出ている。郡山市でも同様の結果はあるのか。
A:まだ分析には至っていない。ただ、糖尿病患者が自己判断で服薬を控える点については、民間企業と共同研究を実施しているところである。

ZOOMセミナー「自治体システムの標準化とガバメントクラウド」 三木浩平総務省デジタル統括アドバイザー

開催日時:10月7日木曜日午後7時から最大1時間30分
開催方法:ZOOMセミナー
参加定員:100名
講演者:三木浩平氏(総務省デジタル統括アドバイザー)
司会:山田 肇(ICPF理事長)

三木氏の講演資料はこちらにあります。

三木氏は資料に沿って概略次のように説明した。なお、冒頭、三木氏は「講演資料は関連する政府の資料を収集整理した資料集であるが、考察と表記されたページには私見も書かれている」と注意を促した。

  • デジタル庁が発足した。省庁横断的な役割を担う、これまで同様の機能を担っていた内閣官房IT室よりも強い権限を持つ。これまでシステム導入は自治体の裁量に委ねてきたが、今後は仕様書の標準化が図られるとともに、設置環境もガバメントクラウドに集約される。
  • デジタル庁の組織の中で、デジタル社会共通機能グループはデジタル社会を実現するハイエンドの民間人材プールであって、その中に地方業務関係と共にクラウド、ネットワーク、セキュリティなどのチームが組み込まれた。
  • 自治体システムの標準化は「地方公共団体情報システムの標準化に関する法律」に沿って進められる。第8条は「地方公共団体情報システムは、標準化基準に適合するものでなければならない。」と義務規定になっている。所管大臣は、その所管する標準化対象事務について地方公共団体情報システムの標準化のため必要な基準を定めなければならない。また、セキュリティ等の複数のシステムに共通する基準は、デジタル庁で定める。
  • クラウド・コンピューティング・サービスも法律に規定されている。「国による環境の整備に関する措置の状況を踏まえつつ、当該環境においてクラウド・コンピューティング・サービス関連技術を活用して地方公共団体情報システムを利用するよう努めるものとする。」という記載であるが、全団体で取り組むべく予算措置等含めて推進が図られている。
  • 自治体システムの標準化にはいくつかの手法がある。全国クラウド型は、全国共通のシステムを自治体がオンライン利用するもので、マイナポータルが実例である。個別団体仕様の全国共有DB連携というのは、全国共通DBに自治体から標準データ形式で情報連携するもので、中間サーバを利用するマイナンバーのシステムが該当する。それらに加えて、標準仕様ソフト・ガバメントクラウドが今後推進される。
  • 住民情報系システム(住民基本台帳、選挙人名簿など17業務)について標準仕様書を作ろうとしている。介護保険、障害者福祉などの第一グループについては、すでに標準仕様書が発出された。第二グループとして、選挙人名簿管理、国民年金等について標準仕様書を作成中で、2022年度が期限。第一、第二グループとも、2025年までには標準仕様書を採用したシステムに移行する計画である。
  • 自治体システム等標準化検討会が組織され、自治体職員等参加して標準仕様書について議論している。ソフトウェア事業者も参加しているのが特徴で、参加した事業者が提供している業務パッケージの市場シェアを合計すると8割程度になる。
  • 標準仕様書には業務要件、業務フロー、機能要件(画面要件、帳票要件、データ要件、連携要件等)が書かれる。ひとつのイメージとしては、パッケージソフトをカスタマイズせず使うようなもの。ただし、標準仕様書ではIPAが作った標準文字基盤を使うように決めている。
  • 利用者は、マイナポータル等を通じてワンストップサービスが利用できるようになる。例えば、転出入はマイナポータルで手続きすれば、転出時の窓口訪問なくなったり、転入の予約もできる。
  • データ要件・連携要件が、自治体の業務システム間や他の行政機関等との横断的なものであることから、デジタル庁で検討が進んでいる。地域情報プラットフォーム標準仕様に定義されている他業務ユニットとのデータ受信・データ送信を拡充する方針である。
  • ガバメントクラウドの方向性は、デジタルガバメント閣僚会議配下の「マイナンバー制度及び国と地方のデジタル基盤抜本改善ワーキンググループ」で打ち出された。国・地方がともに活用できる複数のクラウドサービスの利用環境であるガバメントクラウドの仕組みの整備が予定されている。
  • ガバメントクラウドは、政府の情報システムについて、共通的な基盤・機能を提供する複数のクラウドサービス(IaaS、PaaS、SaaS)の利用環境である。アプリケーション開発事業者は、標準仕様に準拠して開発した基幹業務等のアプリケーションをガバメントクラウド上に構築する。複数の事業者がガバメントクラウドに基幹業務等のアプリケーションを構築するので、自治体はそれらの中から選択して、オンラインで利用する。仕様書は一つだが、アプリケーションは各社から提供されるので、そこに競争が起きるしくみになっている。
  • ガバメントクラウドに搭載する基幹業務システムは、各府省において標準仕様書を作成することとされている事務に係る業務システムを指す。具体的には、先に説明した、住民情報関係の17業務である。また、基幹業務と密接に連携する業務システム(例えば住民登録に付属する印鑑登録)については、ガバメントクラウドに構築することができることとしている。
  • 国は、クラウドサービス提供事業者との契約により、共通的な基盤・機能を整備する。自治体は「アプリケーション開発事業者」と利用契約を結べば、独自にサーバ等を調達することやクラウドサービス提供事業者との契約を結ばなくても、希望するガバメントクラウド上のアプリケーションを利用することができるようになる。なお、アプリケーション開発事業者はクラウドサービス提供事業者と民民で契約する方向。
  • すべての自治体向けに常態的にクラウドリソースを大規模に維持するのではなく、繁忙期と閑散期でリソースを柔軟にコントロールすることが望まれる。
  • ガバメントクラウドのセキュリティは、クラウドサービス事業者が提供する複数のサービスモデルを組み合わせて相互に接続する予定であり、政府情報システムのためのセキュリティ評価制度(ISMAP)のリストに登録されたクラウドサービスを選定・調達する予定である。
  • 10月4日に、ガバメントクラウド環境の実証事業に関する調達を開始した。自治体による先行事業に向けてクラウドサービスを提供する。なお、回線についてはまだ方針についてアナウンスしていない。
  • 自治体による移行のための費用については、J-LISに1500億円の基金を造成し、そこから補助するようにした。
  • 自治体が当面取り組むのは、システム標準化に関してカスタマイズ部分を特定したり、データの棚卸をしたりすることである。標準仕様書ではデータについても標準的なルールが採用されるので、標準的なルールに基づかないデータ(外字、団体独自の情報項目)がないか、まずは調査していただく。ガバメントクラウド対応では、データクレンジングが必要になる。不整合の発生しているデータ(特に各システムのユーザ番号・宛名番号や個人番号との紐づけ)はデータクレンジングする。運用環境の違いも確認していただく必要がある。
  • セキュリティガイドラインは見直すことになるだろう。「三層の対策」の効果や課題、新たな時代の要請を踏まえ、効率性・利便性を向上させた新たな自治体情報セキュリティ対策を検討する。

講演後、以下のポイントについて議論があった。

自治体システムの標準化について
質問(Q):標準化による国民のサービス向上として、転出入のワンストップ化のほかに何か検討しているのか。
回答(A):ライフタイム手続き(子どもの誕生、親の死亡など)のワンストップサービスを考えている。子育て系や介護系についてオンライン申請できるようにする(「ピッタリサービス)と呼んでいる)予定である。
Q:標準システムに移行するために、自治体が大きな負担を強いられることはないのか。
A:標準化する際の外字の整理などは各自治体で対応せざるを得ない。それは、外字での登録を自治体が行ってきたからである。一方、その先でガバメントクラウドを利用するようになれば標準化された形式でデータを吐き出すことができるので、他社の業務アプリケーションへの乗り換えも容易になる。
Q:標準システムへの移行に心配する声が自治体から聞こえてくるが、対策は考えているのか。
A:心配の声が聞こえてくる団体は、既に検討が進んでいる、考えている団体といえる。こういう作業が出てくるだろうと想定できるから心配が募る。心配の声を出しているのは主に政令市などで、独自のスクラッチやカスタマイズされたパッケージで動かしてきた経緯がある。一方でこれらの団体は、技術力も含めて対応するための人的資源は十分ある。
8割くらいの自治体は、まだ検討が始まっていない。国や県、ベンダーからから示されるのを待っている。説明会を重ねて認識を深めていただいている。そのうちの何割かは、統合パッケージを利用していたり、自治体クラウドを使っていたりするので、幾分難易度が低くなる。最も問題なのは、小さなベンダーがパッケージを独自で作っていた場合で、これを機に市場から撤退する可能性がある。

ガバメントクラウドについて
Q:ガバメントクラウド上の業務アプリケーションについて、提供する事業者は何について競争するのか。行政職員の利用のしやすさ(ユーザビリティ)か。
A:ユーザビリティも競争要素だが、オプション機能、例えばコンビニ交付に対応する、総合窓口に対応するといったことで競争できる。住民記録に関わるすべての機能について標準化されているわけではないので、それらの機能で特徴をアピールできる。
Q:標準仕様に則った業務アプリケーションであるということは第三者が検査するのか。
A:準拠の度合いの確認は必要ということは認識されている。どう進めるかは、全く議論されていない。システムを標準に準拠させること(SHIFT)と、ガバメントクラウドに載せること(LIFT)の順番は定まっていない。もし、SHIFTしていないものがたくさんLIFTされるようになったら、ガバメントクラウドに大きな負荷がかかる。それゆえ、標準に準拠していないアプリケーションは速やかにSHIFTするようにという指示が今後出る可能性がある。
Q:クラウドサービス提供事業者はISMAPに準拠するというが、アプリケーションを提供する事業者は準拠しなくてもよいのか。
A:ガバメントクラウドは国が直接契約するものであるので、ISMAPに準拠を求めるのは妥当である。業務アプリケーションは国が直接契約するものではない。
Q:ガバメントクラウドは、巨大な、たった一つのものなのか。
A:マルチクラウドという考え方はあるが、きちんとは定義されていない。国が調達する環境自体がマルチベンダーになっている可能性もある。また、標準仕様に沿うことが大切だというのであれば、単独クラウドもマルチクラウドのひとつとして受容するという考え方もある。この点は、今後も議論していくことになるのではないか。

ZOOMセミナー「データヘルスの今後を俯瞰する」 山本隆一医療情報システム開発センター理事長

開催日時:8月30日月曜日午後7時から最大1時間30分
開催方法:ZOOMセミナー
講演者:山本隆一氏(医療情報システム開発センター理事長)
司会:山田 肇(ICPF理事長)

山本氏の資料はこちらにあります

冒頭、山本氏は次のように講演した。

  • 医療分野でのIT活用には長い歴史がある。1950年代にはレセプト(診療報酬請求明細)の処理が始まった。1か月分のレセプトをまとめて保険者に請求するために医療機関は夜なべでの作業を強いられていたが、これを計算機で処理するものだった。医療機関の負担が軽減されるのでレセプト処理は急速に普及した。
  • 1970年代には医療費が不足するという問題が起きた。医療本体にかかる費用を減らすわけにはいかなので、事務処理の合理化のためにITを活用しようとなった。その一例がオーダリングシステムである。例えば、発生源(診察室やナースステーション)で検査依頼を入力すると院内ネットワークで検査担当に伝わるようになり、オーダを伝達する事務は合理化された。
  • その後、2005年ごろからはIT化のフルーツを取る重要性が強調されるようになった。電子カルテが生まれ、また、データを蓄積して分析するという考え方も出てきた。後者が「高齢者の医療の確保に関する法律」に基づくレセプト情報・特定健診情報等データベース(NDB)の構築(2009年)である。NDBにデータが蓄積されるにつれ成功例が生まれ、厚生労働省も自信を持ってデータ活用を打ち出すようになった。
  • NDBは法律に基づくものだが、研究開発のための第三者利用は例外扱いだった。2018年に法律改正され、研究開発利用が法律に書き込まれた。データヘルスは、NDBなどの実績を基に推進されるようになってきたのである。
  • NDBは保健局による保健者の業務改善事業だったが、介護総合データベース(LIFE)も誕生し、多様なデータベースを連結して保健医療データプラットフォームをつくることになった。保健医療データプラットフォームは予防施策の効果検証や医療・介護トータルの利用状況分析に役立つ。多様なデータからエビデンスを見つけて施策推進に役立てるというデータヘルスは今や厚生労働省全省の課題である。医療保険制度の適正かつ効率的な運営を図るために健康保険法等 が一括して改正された。
  • データヘルスをさらに推進するために、2018年ごろから改革案が検討された。そこで打ち出されたのが、医療情報を本人や全国の医療機関等で確認・利活用できる仕組みの構築、電子処方箋の実施、個人健康記録(PHR:Personal Health Records)の活用であり、それらの基盤としての、オンライン資格確認システムの構築であった。
  • 医療と介護のデータを結合しようにも、国民一人ひとりに付与されている番号が二つのデータベースで異なる。氏名のフリガナなどを頼りに結合しても間違いが起きることはわかっていたが、医療介護連携の効果を検証するマクロなデータ解析程度なら構わないという判断して、先行的に実施した。しかし、がん登録データとの結合などになると、間違いは許されない。そこで、医療等に用いる番号について検討が開始された。
  • 被保険者番号の個人番号化を進める動機付けとして、オンライン資格確認システムが検討された。マイナンバーと紐付けして保険者が医療番号を発行する。医療機関や薬局で保険証やマイナンバーカードを提示すれば、オンラインで即時に資格確認ができるという仕組みで、試行段階にある。
  • 法令で定めることで本人の同意を不要とする、医療番号を用いてのデータベースの結合は、臨床効果などのビッグデータ解析を可能にする。ただし、何でも、だれでも結合できるというわけではない。データの収集根拠・利用目的などが法律明確にされ、講ずべき安全管理措置等が個別に検討され確保され、さらに、データベースの第三者提供は当該提供スキームが法律に規定され、提供先に係る照合禁止規定など、必要な措置が設けられているものであるといった条件が付いている。
  • 人々はライフステージによって、お薬手帳、生活習慣病手帳、母子健康手帳などを用い、それぞれが異なる番号で管理されている。また、わが国には正確の異なる医療機関が多く存在し、国民はこれらの医療機関を使い分けている。その結果、個々人の医療情報が分散してしまっている。これらを統合しようと地域医療連携が試みられているが、カバーしている人口は少ない。そこで、医療等専用ネットワークを用いて医療情報を全国で確認できるようにしようということになった。
  • 医療等専用ネットワークを用いて医療情報を本人や全国の医療機関等で確認・利活用できる仕組みは、コロナ禍で重要性が増している。自宅療養の方などの医療情報が確認できれば機動的な対応が可能になる。
  • 処方箋は患者と医療の接点として重要だが、患者は複数の医療機関を用い、複数の薬局で処方してもらうのが現状であり、電子化は簡単ではない。それを改善しようと、電子処方箋も検討の俎上にある。
  • PHRも実現する。個々人はマイナポータルを通じて主に健康診断データを入手し、それを利用して医療機関に相談したり、健康増進に取り組むということができる。地域医療連携が実現していない地域に住む人々も、PHRを用いれば的確に医療サービスを受けられるようになる。
  • ただし、データの蓄積が少ない間はPHRを利用しても効果は出ない。患者も利用しようという気持ちにならない。だからこそ、できる限り早くスタートする必要がある。
  • データヘルスの先には、様々なセンサからの情報を取得して、PHRと連携させて生活習慣の改善を図るといった、Society 5.0の世界が展望される。

講演後、以下のような質疑があった。

現状に関する質疑
Q(質問):歯科でのレセプトの電子化が遅れているという情報が講演資料に掲載されていたが、高齢者の健康増進などには歯科の情報は重要ではないか。
A(回答):講演資料は古いデータだが、今は90%を超えている。歯科のレセプトには、診療自体以外の様々な記録が掲載されており、歯科を含めての医療情報の連携は重要である。
Q:医療等専用ネットワークの実証事業という話があったが、実証で終わっているのか。
A:実証事業の成果を基に現実的に使われはじめた。実証事業は役立った。
Q:地域医療連携の人口カバー率が低いのはなぜか。
A:都道府県で差がある。患者の同意のもとで実験として行っているので、地域で共有する価値を患者が理解できないと参加しない。説明に時間がかかり、医療機関にも患者にも負担になっている。今、政府は全国で医療情報を取得できる仕組みを構築しようとしているが、それでは説明も同意も手続きが簡略化される。
Q:コロナは医療連携にどのように影響を与えたのか。
A:コロナのデータもNDBに入ってきているので、分析が進んでいる。一方で患者の医療情報を利用して対応することはできていない。平時にシステムを作らなければ有事に急に利用することはできない。地域医療連携が入っている地域では、患者のスクリーニングに利用しているそうで、平時から利用しておくことが大切である。

今後の発展に関する質疑
Q:生活習慣を改善するなどには過去のデータが必要である。どのように過去データを遡及して収集するのか。
A:過去に訴求できるのは2008年以降の特定健診だけである。また、保険者には5年間の記録保存義務があるので、それも利用できる。だからこそ、早く開始するべきということを繰り返し唱えてきた。
Q:医療では世帯が重要な場合もあるが、この情報はどのように扱うのか。
A:もともと無理がある。夫婦が異なる会社に勤め、異なる保険者に加入している場合がある。診療の際に家族歴を聞き取ることしかできないし、データベース化されていない。母子健康手帳は電子化されマイナポータルに載せる予定で、その際には母子の関係はわかるが、父子は無理である。
Q:電子処方箋の実現が遅れているのはなぜか。
A:処方箋をどこにもっていっても構わないので、医療機関と薬局の組み合わせは数えきれない。厚生労働省は初期的な、簡略化したシステムの調達をかけたが、それでも応札する企業が出なかった。オンライン診療と電子処方箋とは組み合わせて推進する必要がある。急がなくてはいけない分野である。
Q:処方箋であるが用法・用量の標準化が出来ていない。問題ではないか。
A:用法については標準マスターが出来たばかりである。これから使われるようになる。ただし、医療機関でのシステム更改は五年程度ごとなので、標準マスターの利用はまだ広がっておらず、ばらばらなシステムを使っているので、薬局側に迷惑をかけていると言わざるを得ない。
Q:薬剤師としては病名や検査データもあれば、患者への指導が充実するのだが。
A:その通りで、医療機関から薬局への情報伝達も充実させる必要があると、前から唱えてきている。

医療と介護の連携に関する質疑
Q:医療と介護の連携は重要だが、介護サービスを受けるまでの介護予防がいっそう重要ではないか。医療と介護それぞれのデータだけでなく、その周辺にある生活情報も組み合わせるべきではないか。
A:介護予防は重要で、健康診断データなどを利用して健康増進を図るべきである。早く進めたほうがよい。また、生活情報も組み合わせるのは大切で、今後は運動データ等も行政が利用するというのがSociety 5.0の姿であろう。

法的課題に関する質疑
Q:マイナンバーと紐づいた情報は特定個人情報に相当するので本人が同意してもデータ連携できないと個人番号法では解釈できるが、どのように対応しているのか。
A:保険者ごとに医療番号を付与しており、保険者が変われば番号が変わるので、ある時点では個人番号と1対1に対応するが、いわゆる引き当て番号で、特定個人情報としては扱っていない。