2014年度」カテゴリーアーカイブ

教育 荒川区は、なぜ小中学生にタブレットを配布するのか? 西川太一郎荒川区長

日時:7月31日(木曜日) 午後6時30分~8時30分
場所:アルカディア市ヶ谷(私学会館)
司会:榎並利博氏(富士通総研 経済研究所主席研究員)
講師:西川太一郎氏(荒川区長)
コメンテーター:上松恵理子氏(武蔵野学院大学 准教授)
*荒川区教育委員会の駒崎彰一氏と菅原千保子氏に、現場で実施している内容について、質疑応答時にお答えいただいた。

<西川氏の講演内容>
タブレットPCの導入は、当初、一昨年にスタートできるよう準備を進めていたが、教育委員会の申し出により時期が遅れた。それは、学校現場のベテランの先生方に、研修が必要であったためである。しかし、今はベテランの先生方はこれまでの経験を生かしタブレットPCの効果的な活用を始めている。
荒川区は、小中学生は12,000名と小規模である。このことが、導入の際には逆のスケールメリットがあったと考えられる。
まずは、電子黒板を導入するところから始めた。先生方にはデジタル教育の技術に慣れてもらい基礎的な学びでこれらのツールを用いて実りのある教育を行えるよう、校長先生たちにお願いした。当初、授業で電子黒板を扱うことが嫌だと思った先生は多く、効果があると思った先生は30%しかいなかった。しかし、電子黒板にあわせデジタル教科書のネットワーク配信を導入して一年が経った頃、効果的に分かりやすい指導ができたと答えた先生が96%になった。
タブレットPCの導入は「一番のり効果」を狙った。「一番のり効果」は、予算の縮減をもたらした。端末は、リースで5年間契約であり、当初総額40億円を超える見積もりであったものが10億近く縮減することができた。
タブレットPC導入前に、学校図書館の充実に着手した。柳田邦男氏(ノンフィクション作家)、永井伸和氏(学生時代の仲間で、鳥取・島根で書店を経営している)らの指導のもと、蔵書数は、文部科学省の学校図書標準、東京都の学校平均蔵書数を軽く超えている。西川氏自身、子どもの頃、本はいくらでも読んでいいと家族に言われていた。そういった経験から、「読みたい本を読めない子どもをゼロにしたい。」という思いがあった。教育への思いの原点である。
また、各学校に非常勤職員として学校司書を雇用した。また、大規模校には補助員も置くようにしたのである。
一方で、「学校パワーアップ事業」として校長の予算裁量権を拡大した。区内の全ての小中学校校長に、それぞれ年間180万円を、校長の裁量で自由に使っていい予算として設定している。全国でこのような予算を組む自治体は他にはない。用途としては、伝統文化を教えるために、琴や三味線、お茶の御手前、御師匠様を招聘して授業を行うといったことなど様々な使い方が広がっている。
また、荒川区は豊かな家庭ばかりではない。議会では、タブレットPCに何億円ものお金を使うなら、「貧しい子どもに文房具を配れないのか?」、「学校給食を全て無償化できないのか?」といった意見があった。豊かな家庭もあるが、23区中24番目と過去に言われたこともある。それほど貧しく、特徴のない区であった。
しかし、今、荒川区は、財政力も23区中上位で、全国でも上位に位置している。
国立社会保障・人口問題研究所の社会保障応用分析研究部長 阿部 彩 氏はこう言っていた。「教育は投資である。この投資は、必ず戻ってくる投資である。今ある格差を公費でならして、貧しい家の少年少女は、機会均等で読みたい本が読めるようになる。」
福沢諭吉が明治4年に、岩倉使節団等での経験を踏まえ、学問のすすめを著した。これは、教育の格差はあってはならない。どんな村であっても、文字が読めない人がいてはいけない、学校へ行けない人があってはいけない…という思いを込めたものである。
結果的に、人を育てることの情熱、貧富の差があってはいけないという思いが、タブレットPC導入を決定した。

<上松氏のコメント>
一時の流行ではなく、哲学を持ってタブレットPCの導入を決定されていると感じた。世界の導入事例を見ても、日本は先進国に比べると、とても遅れている現状がある。端末を配ることで先生が喜んで使えば教育現場が変わる。その時代に応じたスキルや能力が必要になってきているので、学習者である児童生徒にとって、よいスパイラルになるのではないかと期待している。
韓国では、2000年から端末だけではなく通信費も貧困家庭に配っている。親の年収に沿って恵まれない子どもには通信費を配するという取り組みは、韓国の教育科学技術部やKERISなどのHPに記載されている。

<西川氏の補足>
授業では効果的なところはどこなのかを考えて使っている状況である。子どもたちのリテラシーを育てて行こうという取り組みも進めている。小学校1・2年生は蔵書から学ぶ。3年生からはローマ字を学ぶため、電子百科事典やこども向けのポータルサイトでインターネットを利用することを想定している。中学生になった時点で、フィルタリングなしで扱うことができるように、カリキュラムを準備している。子どもたちが学習ツールとして適切に、主体的に使えるよう準備をしている。いわゆる21世紀型スキルを身に着けることが目標である。PISA調査の協調型問題解決能力に照準を合わせていきたい。最終的なイメージは試行錯誤中である。日本の学習指導要領に合わせたものを考えていきたい。

<駒崎氏コメント>
授業では、ずっとタブレットPCを使うのではなく、効果的な場面で使っている状況である。
また、子どもたちのリテラシーを育てて行こうという取り組みも進めている。特に調べ学習では、小学校1・2年生は学校図書館の蔵書から調べる。3年生からはローマ字を学ぶため、電子百科事典やこども向けのポータルサイトでインターネットを利用することを想定している。中学生になった時点で、主体的かつ適切にネット検索ができるように、段階的なカリキュラムを準備している。つまり、子どもたちが学習ツールとして適切に、主体的に使えるよう準備をしている。
最終的には、いわゆる「21世紀型スキル」を身に付けさせることが目標である。PISA2015年調査の「協調型問題解決能力」に照準を合わせていきたい。試行錯誤しながら取組を進めている。日本の学習指導要領に合わせた取組を進めていきたい。

<上松氏のコメント>
日本中でタブレット端末を配る状況になると、教員研修があちこちで行われるようになるだろう。北欧では、子どもたちが自分で考えて使うことができるような指導を行うための、教員研修を行っている。教員研修は、一斉に教師が指導を受けるというものではなく、内容は、ディスカッションや、提案といったものである。教員研修自体もそういった形態であるため、普段の授業においても先生が統制するやり方ではなく、子どもたちが自分たちで考える。デジタルの特性を活かすことが大事だと考える。

<質疑応答>
Q(質問):学校現場では校長の理解があったとされているが、どのようにご理解いただいたのか?
A(回答):段階的な導入を進めた。まずは、電子黒板から始め、指導者用デジタル教科書を導入したことで、教員がわかりやすい授業をできるようになった。このことは、校長が一番わかっている。また、タブレットPC導入には、まったく抵抗がなかった。段階的に導入することで順調に進むことが見えてきた。
Q:荒川区報ジュニア版の区民や保護者の反応はどうなのか?
A:そもそもタブレットPCのために作った印刷物ではなく、以前から2ヶ月に一度発行している。このように、子ども向けに広報誌を出しているところは全国どこにもない。発行には年間600万円かかっている。はじめは、こどもが道端に捨てていったりしたケースもあったが、家庭に持ち帰る子どもから情報を得たおじいちゃんおばあちゃんが、今では圧倒的な読者となり、孫と共通の話題を話せると言われている。
Q:研修について。今までは、先生の役割は知識の伝達が主だった。ICTが入ることで、ファシリテーターの役割も出てくるのではないだろうか?
A:最終的には、教員がファシリテートを行う姿になる。現在、教員研修では、機器の使い方に関する内容を全く行っておらず、先生方には、こういった授業ができるというイメージを徹底的に見せている。機器の使い方は、常駐しているICT支援員に質問するよう伝えている。ICT支援員の任期は一年間である。機器の使い方は、とにかく使ってみて、わからないことを支援員に聞くよう勧めている。
それと共に、21世紀型育成スキルの研修も実施する予定である。一方的に教え込むのではなく、プロジェクト型で先生方が意見を出し合いながらまとめていく形態で、来週初めて実施する予定だ。今後、タブレットPCが子供たちの学習ツールになったとき、教員の役割は、ファシリテートになるだろう。
Q: アメリカではiPadの事例が多い。荒川区では、富士通製を導入するようだが、その背景は?
A:結果として、Windowsタブレットになった。最終的な決め手は、コンピュータ室をなくす想定であるためである。キーボードを取り付けられるようにすることで、情報活用能力の育成を目指す。

<西川氏のコメント>
全国に普及することについて。単一自治体に補助金はいらない。
自治体に補助するよりも、各メーカーに対して開発支援をし、端末の単価を下げる努力をお願いしている。
首長に教育現場からの理念を教えてくれたのは、校長という存在。校長を無視しては、絶対にできない。校長の現場の経営を踏まえ、体得されている思いを聞く首長がいなければ、タブレットPC導入は、実現できなかっただろう。区長と教育現場が意思を通じ合っている区は、他にはないと思う。タブレットPC導入は、校長と教育委員会をターゲットにしないとうまくいかないだろう。

Q:例えば、佐賀県武雄市では、算数と理科に教科を絞り、いわゆる反転学習を行っている。予習で動画を観て、確認テストをタブレットPCにて実施するといった使い方である。荒川区ではどのように使っているのか?
A:基礎基本はしっかり教え込むものとして、従来の「読み・書き・計算」は重要。
教育委員会からは、タブレットPCの使い方の指示は出していない。教師や子どもたちの発想を大切にしている。
例えば、中学校の数学では、先生がコンパスで作図をしている様子をタブレットで録画し、生徒たちに配信する。何度も再生が可能であるため、生徒は自分のペースで反復学習を行うことが可能になる。また、体育の長距離走において、ストップウォッチで記録を行っていたが、ICT支援員と協力して数値を入力することで、一周ごとのラップタイムがわかるようになった。
これらは全て、教員の授業力にかかっている。ベテラン教員は経験値があるので、いろいろな授業のデザインをもっている。タブレットを介して、教員同士のコミュニケーションも広がっている。
また、学習に課題のある児童、いわゆる発達障害がある子が、集中して取り組むことができるといった結果もある。タブレットPCにカメラ機能が付いているので、実技教科での活用が広がっている。動きを伴うものは比較して見ることができる。
Q:聾学校の生徒は、質問するときにうまく伝えることができない。英語を日本語、日本語を英語にするアプリをベースに、京都の情報通信機構にて、日本語から日本語に変換してくれるアプリを作成してもらったことがある。これは、預けた財布を返してくださいと言えず、2時間歩いて帰った人がいたことが発端である。この技術は、伝えるというツールとして、おじいちゃんおばあちゃんにも使えるのではないか。
A:ご提案をまっすぐ受け止めていきたい。荒川区は、東京ではじめて手話を独立した言語としての法整備を、国に求めた唯一の自治体である。本件は、福祉・障がい者のための政策課長に伝えたい。荒川区では、コミュニケーションボードを作っている。災害時のあらゆる場面を想定した、折り返し20ページくらいのものである。指でさせば、トイレはどこですか?お水は?といったことを聞くことができる。主な目的は、障害を持つ方のために作ったものであり、特許を取るようすすめられたりもしたが、これは、どこでもだれでも使ってもらうことが大事なのではないかと考えている。
Q:トラブルが起きたとき、ICT支援員が対応されていると思うが、彼らがいないと円滑に進められないのではないか?また、支援員の育成はどのように行っているのか?
A:ICT支援員は、いなくてもおそらくできると考える。
また、トラブルは間違いなくある。学校環境は、一斉アクセスするタイミングが多々あり、数台は止まってしまうことがある。すべてICT支援員が解決しているのではなく、教員は、常に授業の副案を用意している。支援員がいればある程度のトラブル解決はできる。今、支援員にお願いしているのは、トラブルシューティングをまとめることである。支援員には、授業支援に強い人間と、機器対処に強い人間の二種類に分類できる。教員とのコミュニケーションを図りながら対応を進めていく。
また、子どもたちの端末が繋がらないときは、再起動で解決できることが多いため、モジュールリセットボタンをつくってもらった。こういった工夫を行っている。

<上松氏のコメント>
フューチャースクールの例を学校で取り入れたら、日本ほど支援員を置いているところはないと言われるだろう。そういう状況は、教員のスキルがとても低いか、システムが壊れやすいか、といった理由しか考えられない。韓国では支援員は教員資格を有しており、各学校に一名いる。教員である支援員が研究授業や時間割のコーディネートを行っている。現場の課題として、教員免許がない支援員の必要性を重要視する例は世界的には稀である。それよりも、これは普段の授業で普通に使えるようなもので良いので、教員のICTスキルをつけるべきである。
また、二つの課題がある。ひとつは、これまでの知識注入型の授業であればよいが、タブレットを導入することで、授業時間1コマ45分や50分では足りなくなるだろうということ。もうひとつは、教科の枠を越えた授業が必ず出てくるだろうということである。これは、一教員の立場ではどうにもし難いことである。

<西川氏のコメント>
首長の決断だけでは、うまくいかない。先進事例等を充分に把握した事務局職員(指導主事)がいない自治体では、なかなかうまくいかないと考える。

行政 特定個人情報保護委員会の活動 手塚悟東京工科大学教授

日時:7月24日(木曜日) 午後6時30分~8時30分
場所:アルカディア市ヶ谷(私学会館)
司会:山田肇(東洋大学経済学部教授、ICPF理事長)
講師:手塚悟(東京工科大学教授)

特定個人情報保護委員会初代委員に任命された手塚氏は資料を用いて講演した。

講演資料はこちらにあります

講演の後、次のようなテーマについて討論が行われた。

情報連携基盤の構造について
Q(質問):情報連携基盤はなぜ、複雑な構造をしているのか?
A(回答):2008年3月6日の最高裁判決を守ることが「必須要件」となって、今の構造になっている。センターにすべての情報を一括して保存する仕組みでは、最高裁判決の条件を守るのがむずかしいため、業務ごとに分割して保存し、機関別符号を介して相互に連携させる、セクトラル方式を採用した。
Q:他国も同様か?
A:エストニアやベルギーのシステムも概念的には同じ構造であり、世界的にこのようなシステムを整備するのが、共通番号を利活用する電子行政での主流の姿である。
Q:中間サーバが全国2か所というのは、分散管理の概念と矛盾するのではないか?
A:中間サーバは物理的には全国に2か所のパターンと各自治体が独自に設置するパターンがある。全国2か所のパターンは、クラウド型で情報は保存されるので分散管理であり、問題はない。
Q:生活保護の受給で、複数自治体から同時に受給するという不正が起きた。今の情報連携基盤では、照会先が特定できるときにだけ照会できるようだが、全国の自治体に一斉に照会する機能も必要ではないか?
A:詳細について回答できないので、後日確認したい。
Q:情報連携基盤がよく考えられた仕組みであることは分かったが、一般国民には分かりにくい。そこが問題ではないか?
A:個人番号制度は、システムだけですべての安全を確保するのではなく、運用や制度を含めて安全を確保する考え方である。また、この制度は、運用者だけでなく、利用者である国民も含めて皆で育てていくものである。これについて、いっそうの広報が必要だと自覚している。パーソナルデータ検討会の結果に基づき、個人情報保護法が改正される方向である。その際には、特定個人情報保護委員会が個人情報保護委員会へ改組される方向で、個人情報保護コミッショナー相当の役職ができる想定である。それに備えるためにも、国民の理解を醸成しておく必要がある。

特定個人情報保護評価について
Q:特定個人情報保護評価の結果を「公表」させるというが、各組織(自治体)はじめての経験で公表できるほどのレベルに達するのか? 何を目的に公表させるのか?
A:特定個人情報保護評価は事前評価であって、結果を保証するものではない。そのような評価結果を公表すれば、今の時代、組織(自治体)間の比較を勝手に実施する人も出るだろう。そのような比較によって、組織(自治体)側の意識が高まっていくと考えている。
Q:プライバシーマーク(JIS15001:個人情報保護マネジメントシステム ― 要求事項)を元に特定個人情報保護評価を実施することについてどのように考えるか?
A:自治体の取り組みで、これはひとつの形になるだろう。しかし、JIS15001は日本独自のもので対応するISOがない。世界との協調、特に欧州との個人情報保護のレベル合わせが必要な特定個人情報保護評価において有効か、どう結びつけるべきか、実践を通じて考えていくことになるだろう。

マイナンバーの民間での活用について
Q:民間はいつまでに準備するのか?
A:現状の利活用範囲でも、民間は健康保険組合等に関して個人番号利用事務を実施し、また税分野では個人番号関係事務を実施する。だから、民間は無関係というわけではなく、本格的に動き出す2017年1月までには対応を済ませていてほしい。
Q:今後、マイナンバーはどこまで民間で活用するようになるのか?
A:それは、特定個人情報保護委員会委員としては回答できない。国民が利便を理解して、どこまで許容するかにかかっている。そのようにして法律で認められた範囲内での利活用が問題なく実施されるように指導・助言・勧告・命令するのが、特定個人情報保護委員会の役割である。
C(コメント):番号制度の民間利用については、いくつかのレベルがある。番号そのものの利用、個人番号カードの利用、公的個人認証の利用。公的個人認証に使いたいというのがもっとも多数の意見で、これについては、個人番号そのものとは異なるオープンなIDを希望者に発行して使えるようにしようなどといった案が出ている。

教育 ルネサンス高校グループの挑戦:タブレットを活用した通信制教育 桃井隆良ルネサンス大阪高等学校長

日時:6月11日(水曜日) 午後6時30分~8時30分
場所:東洋大学白山キャンパス 5号館1階5103教室
司会:山田肇(東洋大学経済学部教授、ICPF理事長)
講師:桃井隆良氏(私立ルネサンス大阪高等学校長)

冒頭、桃井隆良氏は資料を用いて次の通り講演した。講演資料はこちらにあります

  • ルネサンス高校は2005年に教育特区制度を利用して茨城県大子町に設立され、その後、愛知県豊田市と大阪市にも系列校を開校した。設立・運営しているのはルネサンスアカデミーという株式会社で、関西で教育事業を展開しているワオコーポレーションとソフトバンク系のブロードメディアが出資している。
  • 通信制高校というと落ちこぼればかりを集めているように思われるかもしれないが、スポーツや芸能に力を入れている生徒も在籍している。ルネサンス豊田高校の橋本千里さんが、全米女子オープンゴルフの出場権をアマチュアで唯一獲得といったように、各分野で活躍している生徒がいることが特徴のひとつである。積極的な意味で通信制高校を利用する生徒が増えている。通信制高校は転校生が多い。毎月、生徒が転校して来ることも大きな特徴である。不登校、中退の子は、高校卒業資格を取得したり、アルバイトをするために転校してくる。
  • デジタルデバイスを活用した教育に取り組み、今年で9年目になる。開校当時からデジタルデバイス導入を行っており、最初はパソコンとデジタルペンを導入したが、生徒にとっては使い勝手が面倒であった。2007年からは、携帯電話とパソコンの両方が使えるようにした。携帯電話の導入には保護者の抵抗が強かったが、導入の決め手は、肌身離さず使用している携帯電話を使えば、いつでもどこでも学習できるということだ。生徒数が伸びている一因として、デバイス導入がある。
  • その後、スマートフォンに代わり、教員は多様な出題をすることが可能になった。高校は、小中学校と異なり、20単位までは検定教科書を使わない授業を行うことが可能である。そこで、オリジナルでスマホ向けの英語演習科目を作成した。昨年度までは動画はDVDで提供していた。今は、動画コンテンツをネットで提供している。
  • 昨年度、全生徒にiPad miniかAQUOS Padを配布した。今でもパソコンを使用している生徒もおり、その方がよいという生徒もいるし、紙の方がよいという生徒もいる。学校としては、タブレットを薦めているが無理強いしていない。配布にあたっては、クアルコム社の寄付を得た。
  • 通信制の学習法は毎月のレポート提出である。基本的には自学自習であり、定着度の小テストも実施する。2単位取るために、5〜6回のレポート提出が必要である。また、年に一度の集中スクーリングを実施している。大阪校は、交通の便がよいので、通学スクーリングもできるようになる。
  • 生徒がログインすると履修科目一覧が表示される。科目を選択すると、科目トップが表示される。さらにアクセスすると、メディア学習が出てくる。これは、学校の講義と同じようなコンテンツである。その後、理解度確認の小テストを実施する。得点できなければ、復習しなければならないしくみになっている。別途、課題レポートがある。これらを累積して成績にしていく。基礎学習が中心で、教科書に忠実に従っている。難易度は、5段階評価の3のレベルに合わせている。しかし、通信制高校は、普通高校と異なり、生徒の偏差値の幅が広い。生徒ひとりひとりの成績に合わせた問題を出題することが理想であり、課題である。
  • 提出するタイプのレポートは、送り返すまでに時間がかかる。学習したことにすぐに反応することが、記憶に関わり選択式なら対応できるが、記述式は採点に時間を要する。選択問題と記述問題の比率は、現状は7:3くらいである。問題には、四肢選択、並び替え、穴埋め、マッチング、単語記述、論述などがある。
  • 教科書に沿った問題のみでは、生徒にはやらされている感覚があるという。そのため、オリジナル教材を作成したり、スクーリングでは実験を行ったりしている。先生による授業の動画も展開している。ルネサンス高校は、科学に力を入れ、映像化に取り組んでいる。
  • タブレットに移行してから生徒の得点は上がってきた。子どもたちの定性的な評価も上昇しているが、統計学的に厳密な評価をする必要があると考えている。実験計画を立て進めていきたい。
  • 今年から具体化した教材として、「ルネさんすう」がある。リメディアル教育として、大学生が公文式を受講するケースが最近ある。算数が怪しい学生がいるためである。公文式では週2回通い、プリントを解きく。スモールステップのプリント学習で、eラーニング向けである。ルネサンス高校では、分数計算ができない生徒向けに「ルネさんすう」を開講した。遠方の生徒用にeラーニングコンテンツを展開している。全部で1700問のドリル形式で、ひたすら解いていく。3日で終わらせた生徒もいる。その気になったら3日でできるということである。ちなみに、「ルネさんすう」は、単位認定はしていない。
  • 科学検定を行っており、インターネット受験ができる。動画を用いた検定は、今年初の試みである。また、英語化した問題を出題することを検討している。今年度は、AR技術を使ったアプリ制作を予定している。eラーニングでは、素材によってはゲーム要素を含んだ教材を考えている。

講演後、次のような質疑応答があった。

運営に関すること
Q(質問):ビジネス的には成り立っているか?
A.(回答):最初の3年間は赤字だった。4年目からは、単年度黒字になり、累積は7年目に解消した。生徒数が一直線に伸びているため。学校法人は法人税、固定資産税を払わなくてよく、補助金も行政からもらえるが、ルネサンス高校は株式会社立で生徒の授業料だけで経営している。
Q:転入者が多いとのことだが、ルネサンス高校には平均何年在籍するのか?
A.:平均は2年間。2年次から転入してくる生徒もいる。
Q:単位制だから、3年の単位を2年で終わらせることも可能か?
A.:単位取得は可能であるが、在籍日数が足りないので、3年間は在籍しなければならない。転入してきたときには、前の学校の在籍日数を引き継ぐことができる。
Q:女子スキージャンプの高梨沙羅さんは、高認の資格を取得し、一年早く日体大に進学しているが、同様のことはルネサンス高校でも可能か?
A:日本にも飛び級制度が存在する。17歳で大学進学が可能で、大学院も学部3年を修了した時点で入ることも可能である。しかし、大学進学で飛び級をすると、高校卒業は名乗れない。
Q:3年間で単位を取得しきれない生徒もいるだろう。卒業率はどれくらいか?
A:94~98%くらいである。eラーニングに力を入れ、学習に取り組みやすいので卒業率が高い。
Q:卒業後の生徒の進路は?
A:他の高校と異なるのは、浪人も就職もしない生徒がいるということ。難関大学に合格する生徒もいる。自分のペースで勉強したい生徒にとっては良い環境であると考えている。
Q:スクーリングする場所は決まっているのか?
A:特区内という決まりがある。
Q:どんな教員が指導に当たっているのか?
A:普通の学校と同様に、教職免許を持つ教員が行っている。
Q:生徒間の交流はあるか?
A:年一回のスクーリングのみである。学内SNSのしくみはあるが活発ではない。Facebookはやっている人がいるのに…。LINEでは交流しているようだ。
Q;アメリカではグループ学習にすることがあるが?
A:大学ではできるが、高校には学習指導要領がある。目標や教え方が記してあり、教科書はそれに準拠している。その縛りがあるから、自由な学習形態が取りにくい現状がある。教育課程特例校システムといって、英語だけで学習指導してもいいというようなこともできるが、ハードルが高い。今のままだと学習指導要領の影響が大きい。
Q:「ルネさんすう」は、外部向けに展開しているのか?
A:ルネサンス高校のみ。中身はよいと思うが、バグ等の不具合をチェックしてからと思っている。
Q:今後、外部に向けても展開したいか?
A:できればやっていきたい。今後は、単なる学校教育の枠に閉じこもらないように、民間の新しい発想で新しい教材を作る。これは、目が離せないおもしろい分野になってくるだろう。
Q:大学生が無料でネット予備校を開いたりした事例があるが?
A:大学がなくなるわけではないが、大学は学校としての価値が問われるだろう。

タブレットの利用について
Q:タブレットを使いこなせるようになるまで、どのような教育を行っているか?
A:遠隔やスクーリングで使用できるようにする。操作に躓く生徒もいるので、丁寧に指導することが課題である。
Q:教科の内容で躓いてしまい、課題レポートに到達できない場合、教員とやり取りすることは可能なのか?
A:メールや電話で質問できる。メールの方が多いが、意外と件数は少ない。基本的には、質問しなくてもできている。
Q:障害のある生徒に対応しているか?
A:積極的に受け入れていないのが現状である。入学してから発症したケースはある。その際は、自分のペースで学習を進めるよう指導した。
Q:文字の拡大等のユニバーサルデザイン視点はあるか?
A:現状ほとんどしていない。
Q:日本語を母語としない生徒に対しての対策はあるのか?
A:今、考えていることはない。経済性が問題で、できるだけ、ニーズの高いところから対応していこうと考えている。最初は、成績レベルが3の子に合わせる教材で、次のステップでは遅れている生徒たち向けというように。
Q:学習を継続することは大変だろう。どのような支援やコンサルを行っているのか?
A:レポートをしっかりやること、スクーリングに来ること、テスト受けることの3つが大きな軸。特に、レポート提出が重要だが、期日どおりに提出できる生徒は2人に1人くらいである。先生は、電話やメールで提出を促している。また、学校側も工夫をする。教材作成は教務部の管轄であるが、今の教材が3回督促しないと提出してこないという傾向があり、1回の督促で提出できるような内容にする工夫を求めている。生徒たちが楽しくできるコンテンツを目指している。この仕事では、やればやるほど、課題に気が付いていく。
Q:タブレットと紙の使用と成績に関連はあるか?
A:現段階では確言できないが、他部タブレットの方が成績が上がるという中間報告はある。ネットワークの回線速度が遅い地域の生徒は紙を使用したりする。ちなみに、ネットワーク費用は生徒の家庭負担である。
Q:タブレットは貸与なのか?卒業したら返却しなければならないのか?個人的な教育外の利用、たとえばアプリダウンロード等は可能か?
A:自由である。タブレットからアダルトサイトも閲覧できるが、その禁止などは今後の課題のひとつである。タブレットは買ってもらっている。貸与しているのは、クアルコムから提供してもらったもののみ。一人一台のタブレットを持つ時代が来ているからだ。
Q:生徒たちがスマホを使いすぎるため、利用時間制限を設けるといった動きがあるが?
A.ない。小中学校ではないということが理由のひとつ。生徒には60代等の大人もいる。ちなみに、教師と生徒間のやりとりはLINEなども使っている。しかし、LINEを何時間もやっている生徒が多いので、それはどうかと思う。
Q:タブレットを家庭に持ち帰ることが増えた場合、私的利用と学習の線引きはどうするのか?
A:食事のときに操作することはやめてほしい。誹謗中傷しないなどのようなルール、マナーを教えていく必要がある。タブレットは道具であるので、使い方を教えるべきだ。
Q:ネットリテラシーはカリキュラムにはないのか?
A:ない。情報の科目で少し触れている。
Q:タブレットの利用制限していないことはすばらしいと思う。機種の機能を最大限に活かすには制限をしない方がよい。ところで、元々、端末を持っている生徒にはどうしているのか?
A:今は、元々持っている人に対しては、それを使ってもらっている。
Q:今後のデバイスの展望はあるか。ウェアラブルとか?
A:いいものが出てきたら変える。未来型端末は考えていない。サービスやコンテンツの充実を考えた方がよい。
Q:ARではどんなことをやるつもりか?
A:例えば、英単語でAppleと書かれていたら、リンゴ関係の動画を映すといったように、印刷物と組み合わせて使っていく。
Q:ニュートンの実験記事を教材として使うこともあり?
A:次のステップで考えていきたい。電子書籍だと動画になっていて、火山の爆発の瞬間が見られる。
Q:なぜ、iPad miniにしたのか?
A:値段を考えた。また、持ちやすいということもある。ニュートン社と組んで、電子書籍版をダウンロードすることができるが、iOSしか対応しておらず、一部Androidの生徒たちは見られない。

制度的な課題について
Q:教材の著作権はどうしているのか?
A:国語の教材は大変。文学作品のほとんどが使えない。「ルネさんすう」は、算数だからできた。教室内では著作権法の適用除外という内容は、バーチャルなクラスルームでも必要だと思う。本を読む力は大切である。電子書籍を含めて本は読みやすくなったが、デジタル教育にも著作権者の理解を得る必要があると思う。
Q:著作物を創作する人の中には新しいもの好きがいる。そういった方々を刺激していけばよいのでは? たとえば、音楽配信。作詞作曲しているのはミュージシャンであり、彼らはOKと言う。そうすると、レコード会社はOKを出すことになる。
A:電子書籍の問題もある。出版社は版面権を持っている。そのあたりが、なかなか難しい。デジタル教材では課題として大きい。
Q:確認問題をやりながら繰り返して行くしくみで、本人認証はどうするのか?
A:今は、チェックできない。ログインパスワードのみで判断している。現在、サイン認証や指紋、顔認証などを検討している。厳密に行うことは課題である。
Q:サイバー大学でも課題になっていると聞いた。当時は、試験のときは、カメラで顔を確認していたが?
A:サイバー大学では、カメラでチェックしていると聞いたことがある。いろいろと課題はある。デジタル教育が推進されていく上での一つの課題となるだろう。例えば、弁護士試験がネットで受けられるようになったら…とか。本人認証をしっかりやる必要がある。
Q:就職試験でも、他人が回答できるが?
A.課題である。文科省が言うからではなく、対策するのは当然だろう。しかし、厳密に行いすぎると、本人なのにログインできないケースが発生することもある。

健康 遠隔医療の経済効果 辻正次兵庫県立大学大学院教授

日時:5月28日(水曜日) 午後6時30分~8時30分
場所:東洋大学白山キャンパス 5号館1階5103教室
司会:山田肇(東洋大学経済学部教授、ICPF理事長)
講師:辻正次(兵庫県立大学大学院教授)

講演資料はこちらにあります。 資料1  資料2

辻氏は、資料に基づいて次のように講演した。

  • 東北の最上町で調査を行った際に、治った後も「寒いからしばらく入院」という高齢者の社会的入院が多いことに気づいた。それ以来、遠隔医療の経済効果を20年以上にわたり研究している。遠隔医療には、D2DとD2Pがある。D2Dは医師が医師をサポートする遠隔病理診断・画像診断であり、だいぶ利用されるようになった。患者向けのD2Pは90年代に非常に盛んになったが、だんだんと減っている。
  • 福島県の西会津町での研究結果を報告する。遠隔医療がペイしているか、国民健康保険のレセプト・データを利用して費用便益分析して調べた。医療保険による保険者の遠隔医療加算額を具体的に算出するなど、持続可能な運用のために何が必要かを明らかにすることが目的である。
  • 西会津町は、現在人口8,107人、世帯数2,949世帯、高齢化率40.32%で、町内には4つの診療所がある。在宅健康管理システムの運用はおよそ20年にもなり、日本で2番目に導入された地域である。昭和60年ころには、脳血管疾患の死亡率や平均寿命などのデータから最も短命な町とも言われた。町長が「百歳への挑戦」というスローガンで、健康づくりへの取り組みを積極的にはじめた。
  • 西会津町では、健康づくりの一環として、自宅に居ながら保健師の指導を受けることができる在宅健康管理システム「うらら」を平成6年11月に導入した。「うらら」は、現在は町内587台が導入されていて、1台で家族3名まで登録して利用できる。導入費用は、補助金と町の一般財源で、運用費用は町負担となっており、町民は端末を利用する費用は無料となっている。
  • 「うらら」からは、血圧・脈拍・心電図・血中酸素のバイダルデータを保健センターに送信できる。10問ほどの問診票もついており、Yes/Noで回答して保健センターに送られる。これらのデータを保健師が読み、アドバイスをする仕組みとなっている。リアルタイムでの監視は人的資源の問題でできないが、心電図に除細動が出ているという指摘は可能である。平成21年には「こゆり」という新しい機種を約300台導入している。
  • 在宅健康管理端末で心電図をとれるものは少ない。スマホでもバイタルデータがとれる時代であるが、心電図をとれるものはないはずである。医学的な観点から、心電図のデータが必要と思われたので組み込まれた。
  • 効果をみるためには、在宅健康管理システムのユーザと非ユーザのグループを2群比較している。年齢と地域がバランスよくなるように対象者を選定し、アンケートにより個人の属性(年齢。性別、持病や生活スタイル、学歴、所得など)と利用を調査し、アンケートの有効回答者を対象にレセプトの調査を行った。アウトカムとしては、QOLや健康寿命はあいまいであり国際比較や政策検討には使いにくいため、医療費を採用した。
  • データベースを作成するために、レセプトから転記したデータは氏名、生年月日、入院・外来・その他(投薬)の種別、主疾患病名、主疾病の診療開始日、主疾病の診察日数、全疾病についての医療点数の7項目である。ユーザは199名、非ユーザは209名で、年代は、60歳代、70歳代が多い。高血圧、心臓疾患、糖尿病、脳疾患といった生活習慣病に焦点を当てて、分析した。
  • 外来の医療費では、ユーザの方が非ユーザより高いが、これは平均年齢がユーザの方が高いためかもしれない。これだけみると、効果なしということになってしまう。しかし、生活習慣病だけをみると、ユーザの方が医療費が低くなっていた。使用期間と関連をみると、加齢の影響を除くと、5年以上使用していると効果がある。生活習慣病だけでみると、10年以上使用で効果が表れている。
  • 在宅健康管理システムの経済効果を回帰分析で調べた。生活習慣病を持っているユーザは、非ユーザより15,687円/年と医療費が低くなっている。生活習慣病を持っているユーザは、1年長く利用している期間が長くなると、1,133円/年医療費が低くなっている。持病がない場合には、ユーザでも非ユーザでも差異はないが、持病がある場合には、年間37,942円もユーザは医療費が低くなり、遠隔健康管理は持病を持つ人に対して効果が大きい。生活習慣病の中では、高血圧で8,661円医療費が低くなり、糖尿病で8,785円低くなることが有意に認められた。
  • アンケートでは、遠隔医療の効果を4つ質問している。①健康・症状安定効果(保険対象価値)、②健康管理意識向上効果(自己負担対象価値)、③日常生活上の安心効果(自己負担対象価値)、④医療費削減効果(保険対象価値)。このような計算した研究がなかったので、厚生労働省もおもしろいとは言ってくれたが、医療保険にはまだ反映されていない。
  • 在宅健康管理を6年間実施した際、便益の総計は4473万1240円あった。導入費用と運用費用を足すと、1億7108万2458円となった。運用費用ベースでの費用便益は0.9312で1を下回り、若干赤字、ほぼトントンでなる。自治体の立場では、導入費用は補助金で賄ってもらえ、町が払うのは運用費用だけとなるので、テレケアを導入したがったわけだ。
  • 医療系の学会では、「何故医療費を削減できるのか言え」と言われる。しかし、医者ではないので実際よくわからない。「健康に対する動機づけができて、生活改善につながる」という説明したが、医者はそれでは納得しない。診療日数の減少データから、ユーザは1.6日分だけ病院に行く日が少ないことがわかっている。在宅健康管理システムにより保健師とつながっているので、通院を減らすことができ、結果的に医療費が削減できたと考えている。
  • 90年代までは急激に導入されたが、自治体の財政悪化で、運用費用を出すのが難しくなっている。2007年で1万1千台、100を超える自治体が採用したが、現在は3、4つの自治体のみとなっている。小泉首相の時代にIT関係の補助金が切られたことも大きな理由である。国の補助金がカットされると自治体のテレケア導入のインセンティブは働かない。
  • 医師法20条(対面診療)により、遠隔医療はグレーゾーンであった時代が長い。1997年に遠隔医療の対象として7分野を通知したところ、医者はこれしかしてはいけないと解釈した。震災後の2011年に遠隔医療に2分野が追加されて、9分野は例示であって広く行っていいということになった。しかし、誰が従事できるかという問題は残っている。看護師、助産師、管理栄養士なども遠隔医療に従事できればよい。
  • 遠隔医療で診療報酬がでる治療行為は非常に少ない。遠隔画像診断・病理診断(D2D)が伸びたのは、画像読影に5,000円程度の診療報酬がつくからだ。疾病予防は診療報酬がつきにくい。あまり広範囲に認めると、スポーツセンターに行くお金にも医療保険から補助金をだせということになってしまう。一方、米国のメディケアでは遠隔医療で診療報酬と認められているものが多い。
  • 自治体・健康保険組合に健康な人が増えれば持ち出しが減ることを認知してもらわなくてはいけない。ヘルスポイント制度と組み合わせて、ポイントをためて景品に変えられることができれば、インセンティブになり持続可能になる。本来は診療報酬をつけるべきだが、これにはハードルが高いためにこのような便宜的な方法もある。

講演後、次のような質疑があった。

研究の内容自体について
Q(質問):在宅健康管理システムだけではペイしないということであったが、健康でいれば介護サービスの利用が減ると思うが、これも分析にいれてはどうか?
A(回答):質問票に介護保険を利用しているかという設問があった。今後は、介護保険の受給年齢が遅くなるといったデータもいれて分析したい。
Q: NHKで記録するだけで体重が減るというダイエット法を紹介していた。毎日血圧を測るのも同じではないか。在宅健康管理に効果が出るのはこのためか?
A:そうだと思う。血圧のデータがよくなると、人に言いたくなる。西会津町ではユーザ友の会があり、年に2回の会合でユーザの成功談を話してもらう。これも効果がある。西会津は住民8,000人で6人も保健師がいる。保健師さんが気になるデータがあればすぐに電話してくれるのも、持続につながっている。うまくいかない自治体では、保健師さんが雑用に追われるということがある。町長のリーダーシップが大きかった。
Q:食生活の改善と在宅健康管理はどのようにむすびついているのか?
A:食生活の改善は、女子栄養大学の先生が指導にきている。設問に、食生活の改善指導を受けたかという項目はつけていなかった。しかし、影響があったとは思う。
Q:処方箋の詳細データ分析はないのか?
A:投薬の種類はデータをいれていない。あまり多くのデータを転記できなかった。今はレセプトのデジタル化ができていて、可能である。
Q:診療所が4つだと、重症だと隣町の大きな病院にいったりする。通院時間などもこの分析にいれると、よりメリットがはっきりでるのではないか?
A:今は便益を狭くとっているが、ガソリン代などのトラベル費用もふくめた便益を考える手法もある。またWTP(支払意思額)という手法でも分析した。これはあらゆる便益を回答者が考えるので、効果が高くなり、運用ベースでの費用対便益比が2.5と改善した。

今後の展開について
Q:費用便益分析で、自治体にとって運用費用ベースでも0.9312で赤字だが、どうして導入がさかんになるのか?
A:90年代はITの利用に熱心な自治体の首長が多く、かつIT普及のための補助金も多くあった。少しでもITにより住民の健康の向上を志向される首長は、補助金を申請され、導入が進んだ。
Q:クラウドなどで、運用費用をより節減していく方向にすればいいのか?
A:ユーザ数を増やせば運用費は下がる。クラウドなどで費用を更にさげていくのもよい。
Q:健康管理では、若年の時から行うことが大事だが、現実には中高年でモチベーションが高まる。若年層を含めた参加者をどのように増やしたらいいのか?
A:ヘルスポイント制度の導入自治体でも、協力者になってくれる人は定年退職者ばかりということもある。若い人にインセンティブを付けることができればよいのだが。
C(コメント):ドコモやauなどでは、若い人向けの健康管理サービスが提供されており、結構加入している。
Q:製薬会社が情報を集めるのが大変という話を聞いた。個人情報で教えてもらない。今回の研究の生データを公開すると、製薬会社や保険会社にとって意味ある利用ができるのではないか。業界を巻き込むと、早く進むのではないのか?
A:医学がビジネスにしてはいけないというのが日本の考え方。しかし、医学はビジネスの恰好のターゲットになり、ビッグデータ分析がまさにそうである。西会津は400名分しかない。疫学的な分析には匿名化したビッグデータ分析が必要。
Q:マイナンバーで利便性を向上する仕組みとは?
A:日本は世界一のインフラがありながら、利用が低い。医療分野のICTも、どこでもMy病院やデータヘルス計画などでているが、まだまだできない。個人のプライバシーの問題がある。安心して使えるシステムが必要で、共通番号があればよい。大病院の中では電子化されているが、病院間の連携ができていない。
Q:高齢化社会で医療費が高くなるのは当然だが、削減の決め手はなにか?ICTは決め手になっていないようであるが?
A:ICTが決め手になっていないのは、使い方の問題。使い方によっては、まだまだ可能性がある。普及のためのインセンティブ、特に経済的基盤が重要。