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教育 教育の情報化:各国の動向 上松恵理子武蔵野学院大学准教授

日時:2月4日(水曜日) 午後6時30分~8時30分
場所:東洋大学白山キャンパス5号館5103教室
文京区白山5-28-20
司会:山田肇(東洋大学経済学部教授、ICPF理事長)
講師:上松恵理子(武蔵野学院大学国際コミュニケーション学部准教授、日本デジタル教科書学会顧問)

講演資料はこちらにあります。

冒頭、上松氏は資料を用いて次の通り講演した。

  • オーストラリアのクイーンズランド州では、例えば、教育学者ブルームの分類に沿って「シンフォニー・モデル」を使い、ICT教育を行っている。ICTを授業で使わなければならないと明記されているシラバスで、指導内容も詳細に記載されている。
  • 「The Learning Place」というシステムがあり、そこには非常に多くの教材が掲載されている。生徒が予めその教材にアクセスし、事前に理解した上で、翌日の授業でその内容について学ぶといった反転授業の形も取り入れられている。反転授業は、昨今、日本でも話題になってきているが、既にここでは10年以上前から実施されている。
  • また、「One Portal」というシステムは、成績評価やグラフ化処理が容易で、教員の手間も省けるものである。
  • 学習者の全記録が蓄積されている「One School」は、大学側が閲覧可能であるため、日本のように、受験時に高校の教員が調査書を作成するといった大変な作業を教員がするということがない。
  • さらに、小学校1年生からすべての児童にメールアドレス、アカウントが付与されている。そして自分のアカウントで各システムにログインするしくみになっている。
  • デジタル教材が「多すぎて困る」のが教員の「悩み」である。教材は国が財政を負担して作成している。クイーンズランド州では、優秀な教員50名をeラーニングセンターのあるC2Cに引き抜き、彼らにそれぞれ約3名ずつ、アニメータやプログラミングの専門人材を付けて精度の高いデジタル教材を開発作成している。この例からみても、教材開発にかける人的支援がとても大きい。紙の教科書を使用していたときは、国定ではない、教員が適当に選んだ教材を使用しても良かった。また、学校に教科書を置き、それを各学年で使いまわしも可だった。しかし、デジタル教材になると品質の良い教材使った児童と良くない教材を使った児童の差異が進んでしまうという教育に対する危機意識から、すべて国が作ることになったという。
  • 少なくとも年間4-5百万豪ドルの予算かけられ、それは2012年から毎年、クィーンズランド州が費用負担している。21世紀スキルを実現する教育を実施するために、デジタル教材開発はあくまでその一環である。この予算は、人件費プラス諸費用が、オーストラリアのナショナルカリキュラム(新しい全国学習指導要領)のためにかけられている。
  • BYOD(Bring Your Own Device)の地域では、一人で3台持ってきている児童生徒もいる。学校用と家庭用のパソコンを2台持ち、使い分ける生徒もいる。訪問した学校では、13年以上前から、学校の廊下にインターネットに常時接続できるパソコンを設置されていた。その後、コンピュータ室を設置するといった過程を経て、一人一台を持たせることは問題なく大丈夫だといった判断から、BYODになっていった。日本でも、BYODになるには、そういった準備期間を要すると考えられる。
  • ICT支援員は、専門の会社から高度な資格を有した優秀な人員が派遣される。支援員同士の横の繋がりもある。また、すべてのタスク処理をネット上で報告しなければならないため、教員だけでなく国や自治体も支援員の活動を把握している。教員は支援員に声をかけなくても、トラブルと解決法を見ることができ対応できるため効率がよい。学校によっては、10年来の支援員もいる。日本のように、非常勤で雇い、支援員の任期が不安定ではなく、教員へのアドバイス等を長年実施しているため、長期間の教員とのやりとりによる信頼関係ができている。教員にもパソコンが得意、不得意な先生がいる。そのため、教員研修はスキル別、教科別、興味別に行っている。
  • 小学生から企業家教育を行うことで、将来どのように生活していけばよいかを考えさせる機会を与えている。株やクレジットカードについて、また政党の特色や欠点など、日本では小学生に教えることはタブーだと思われがちな内容も、今の時代を理解する教育、生きるための教育として積極的に取り入れている。
  • エストニアのタリンでは、プログラミング教育は小学校1年生から行われている。導入年を1年生にした場合と2年生にした場合とでは将来的にまったく異なるスキルがつくといわれていて、導入するなら早い方がよいという。特に、早期から行うことで、あらゆる、考え方が論理的になるからであるという。また、なぜ、コンピュータが動くのか仕組みを理解できるので、プログラミング教育を早期から行った国と行わない国とでは、ロボットなどの最新コンピュータも出てくる中で、国の行く末が変わっていくかもしれないだろう。
  • スウェーデンやデンマークは、紙の教科書は無料である。デジタル教材に関しては、フリーと有料を比較して、大差がなければフリーのものを使う。しかし有料で良いものがあれば、教員が管理職に交渉して購入することもある。児童生徒は教科書ももちろんのことデジタル教材やアプリ、給食や教育に関わるものはすべて無料である。
  • 韓国でも、金銭的な支援を要する家庭には、端末やネットワーク代の補助を国が行っている。韓国では、地方自治体に来た予算が、教育予算としてではなく橋や道路に変わってしまうことがないように、自治体のよっては3分の1もの予算を教育費用として死守している。諸外国から日本が参考にすべき点は、こういった教育に対する国の金銭的支援制度である。これらを先進国と比較すると、日本は教育費の割合が少ないため、ICT機器の導入についてもかなりの遅れをとっている。また、ネット上で自治体、校長、教員の役割や横のつながりを強固にすべきである。

講演の後、以下の事項について質疑討論が行われた。

デジタル化教育と投資回収
Q(質問):クイーンズランド州では、50人の教員に対して各3名のスタッフを付けているが、費用負担はどうなっているのか?
A(回答):教材開発費用は州が負担している。国が豊かだからではなく、「投資する」という考え方で教育にお金をかける。将来、国を支えていく人たちに、教育を受けさせたいという気持ちが強い。
Q:人材育成は投資とのことだが、投資回収プランはあるのか?
A.:デジタル教材を作成するC2Cのスタッフやメディア、ゲーム関係に就職する。投資回収といった視点でICTが苦手な仲間を指導する「メンター」と呼ばれる生徒にインタビューをしたところ、米国のGoogleに就職したいという回答があった。グローバル化した世界では、自国だけに教育投資を還元するシステムにはならないだろう。
Q:BYODについて。端末を買うことのできない低所得層の家庭が多い学校には一斉配布するという話だが、学校によって受けられる教育の差はあるのか?
A:国策で、ICT教育を行わなければならないとされている国は、低所得層の多い地域の学校については、BYODにできないため、学校側がまとめて購入している。国がICT教育をカリキュラムで義務付けている場合は、どのカリキュラムでどの動画を見せるかといったマスト項目が決まっていることが多いので、ICT機器は使わなければならない。所持端末数に関しては地域差がある。例えばスウェーデンの比較的富裕層の多い地域の子どもたちの中には、1人3台くらい所持しているため、自分の端末を全部学校に持って来る生徒児童もいる。
Q:教材は、OSに依存しないのか? BYODに対応できるのか?
A:BYODを推進する国では、OSに依存せず、どの機種でも使えるように、カリキュラムの標準化進み、それに従い教材が作成されている。
Q:諸外国では、デジタル端末に対する仕様上の要求はあるのか?
A:型にはまった要求がほとんどない国が多く、教師が仕様に関わりなく自由に使うことのできる国も多い。日本からみると要求がほとんどない国もあり自由度が高く驚くかもしれない。そこにこだわるのではなく教育の内容が重視される。

プログラミング教育
Q:プログラミング教育導入が、小学校1年生で導入した児童と2年生導入した児童とでは違うというのはどういうことか?
A:プログラミング教育は、コードを黙々と書かせる授業形態ではない。色々な教育ソフトを使い、論理的な思考を身につけることができるものである。こういった授業を通して、コンピュータの仕組みを理解するようになるだけでなく、全ての考え方や発想を論理だて創造したり理解したりすることに繋がる。早期教育の利点を活かした例は他にもある。オーストラリアでは、外国語を使って算数などの授業を行うプログラムがある。日本の中学校では、英語の授業で英語を教えるが、他の教科において、英語を使って勉強することはほとんどない。そういった外国語バイリンガルプログラムを行う背景には、早期に他国語で学習することが、脳の発達によいという研究からであると、インタビューを行った際に言われた。
Q:見たら感じる差、試験結果から見える差はあるのか?
A:見たら感じる差は、まずはキーボードタッチ等の操作。また、成績データを見ても違いが出ている。小学校低学年は脳がどんどん発達する段階であるため、色々なことをあらかじめ小学生くらいにやらせておくのがよいといわれている。音感なども、大人になってからはもう手遅れだといわれている。
Q:プログラミングはどれくらいの時間をかけるのが理想的か?
A:義務化されている国は、最低週1時間行っている。理想は、週2時間といわれている。

デジタル化の負の側面
Q:小学生の段階からメールアドレスを持たせることで、いじめ等のネガティブなことは起きているのか?
A:クイーンズランド州では各教室に、「ネットいじめは許しません!」というような張り紙がぺたぺたと貼ってあった。オーストラリアでは、個々の児童に与えられるIDによって、誰の発言なのかわかるようになっていることを子どもたちも認識していて、ネットでいじめをすると足がつくというのはわかっているのでやらない。

わが国への示唆
Q:日本の遅れをずいぶんと感じたが、どのようにしたら追いつけるのだろうか?
A:先進国だけについて講演したのでそういう遅れを感じるかもしれないが、日本の子どもたちの方が、家ではゲーム、スマートフォンでソーシャルゲーム等を上手く使いこなしている例も少なくない。ゲーム機やスマートフォンの普及率をみても、日本の学校でICT機器を有効的に取り入れたら、すぐに使いこなせるようになるだろう。
Q:作文でWordを使う際、スペルミスは自動補正する機能がある。これを悪いと思うのか?良いと思うのか? 日本は漢字を書いて覚えなければならないが、最近は、文字を入力したらわかる。こういったことはどこまでICTで行うべきか?
A:インターネットで検索さえすれば正しいスペルも語句の意味も出てくるので、とにかくICT教育を行うことを優先し、全部のスペルを覚える必要性はないと考えている教師や国もある。スペルを覚えるよりも、どこのサイトで何を検索すればいいのかを知ることが大切であるという考え方である。また、教員がみるよりも、Wordの方がアンダーラインでミスが表示されるため、見落としがないという教師もいた。デジタル端末でいつでもどこでも学習できる時代になった場合、家庭で学習できることは学校では行わないといった考えの学校もある。せっかく子どもたちが集まっているのだから、グループワークを実施すべきであるという考えからである。その方が一人で勉強したよりも知識の定着率が高いというデータもある。もちろん、個の学習をしっかりさせた上で、恊働学習、アクティブラーニングを実施しないとグループワークは成立しない。ちなみに、デンマークのある小学校を訪問した際、学校で知識を学ぶ時代ではないと言われた。
Q:BYODでデジタルを使わないといけないというデンマークのような全国一斉の決まりにすることは、国民を縛るということになるが、国民に納得してもらうために、どのような論理展開をしたのか?
A:どんな社会人に育てるかという教育が、北欧の教育現場では基本となっている。例えば、今は、パソコンを使わないと就職活動ができない時代である。このような社会的背景から、小学校では何をしたらよいのだろうか?ということを遡って、どんどん今の時代に必要なことを学習内容に取り入れるのである。大人たちがやっていること、問題が起きていることについて、時代に対応する術を教え込んで行く必要性があるだろう。カリキュラムを作るときにも、ただ知識を学ぶ詰め込み型や何を習得するかという古典的なスキルの育成を目標とするものではなく、このネット社会に生きるために何がどう必要なのかを考えてカリキュラムを作り、新教科を作ることが先進国では行われている。日本は教科のしばりがあるが、目標に応じて、教科もカリキュラムも変えていくこともこれからは必要だろう。例えば、北欧では、学習指導要領を少なくする方向にあり、教員による裁量を大きくしている。
Q:日本の小中学校が複合的な科目に切り替えるとなったら、教員は対応できるのか?
A:日本の教員は、教科別に採用される。今現在、情報科の科目では採用が少ない。情報の授業も先進国に比べ少ないので、生活科や総合学習の中でもっと長時間対応しないと厳しいかもしれない。日本の教育は、この科目でこれを教えなければならないといった考えだが、逆に、何を教えなければならないか、それをどの教科でやっていくべきかという逆算で考えていくべきである。その発想からすると合科という選択肢も出てくる。
Q:21世紀を生きる子どもたちに必要な教育が何かについて、各国で共通理解があるのか?
A:どこの先進国に行っても、21世紀スキルに対応した教育が行われ、日本の教育現場よりも、理解と実践が多いと感じる。例えば、Microsoft等の会社が、21世紀スキルをつけるための無料提供等を行っている例もある。日本は大学でさえ、「社会で実際に使うことのできる能力」を教育していないとの批判を受けている。大学においてはもちろん、それが全てではないが、少しでも社会に出て役立つものも学んで行くべきという考え方もある。学校教育の役割を見直さないと、企業の側にも支障がでてしまい、国も成り立っていかないのではないかという危機感が、比較的規模の大きくない国にはある。
Q:教育改革は、何をどうしたら少しでも変わると考えられるか?
A:まずは教師教育を変えなければならないだろう。これまでは教員教育も一斉教育が多かった。しかし、教師教育においても、興味別、能力別、教科別といったグループワークを、少人数で行う必要がある。また、国のカリキュラム編成も時代に沿って変えるべきであるので、小中連携、高大の連携がひとつのチャンスではないだろうか。デジタル教科書を入れても成績が上がらなかったという見方があるが、それは、従来型の知識注入型テストでやっているからである。21世紀型スキルを測るPISAのようなテストを行えば、結果も変わるだろう。アダプティブテストのように、回答時間や正解度によって、次に出てくる問題が変わる形式のテストをナショナルテストとして実施している国もある。しかし、他国を真似るのではなく、日本がどういった人材を育成したいか。また、日本の企業がどのような人材を求めるのかを遡って考え変えていくことが大切である。
Q:なぜ、他の国は変われたのか?
A:日本は、学校導入する際、反対勢力があってなかなか厳しいという状況があったと聞いている。しかし使わなければリテラシーは高くならない。これはネットいじめがあったからもあるだろう。各国、トップの人たちが、先の先まで考えた制度を、お金をかけて作っている。お金のかけ方が日本とは全然違うし、国の危機意識も違う。

電波 M2Mをめぐる各国の動向 木賊智昭マルチメディア振興センター副主席研究員

 

日時:1月16日(金曜日) 午後6時30分~8時30分
場所:東洋大学白山キャンパス5号館5103教室
文京区白山5-28-20
司会:山田肇(東洋大学経済学部教授、ICPF理事長)
講師:木賊智昭氏(マルチメディア振興センター 副主席研究員)

木賊氏の講演資料はこちらにあります。

冒頭、木賊氏は資料を用いて次のように説明した。

  • M2MとはITシステムと遠隔センサー/機器/装置/設備等が直接通信することで相互に情報交換するための技術/仕組みの総称である。遠隔でのデータ収集/監視/制御に活用することで、業務プロセスの効率化、サービスの高度化、新たなサービスの創出など、これまでは難しかったビジネスの変革や公共インフラの革新が可能になると期待される。
  • 通信キャリアにとって国内の携帯通信加入者の増加の頭打ちと加入者の成長の鈍化が懸念される中、M2Mが新たな通信サービス市場を牽引することが期待されている。
  • M2Mには、輸送分野(輸送管理、車両メンテナンスなど)、エネルギー分野(スマートメータリング、利用ピーク時対応など)、医療管理分野(遠隔での患者監視、医療資産の調査・管理など)からスマートシティまで多様な応用分野がある。
  • M2Mはデバイス、ネットワーク、プラットフォーム、アプリケーションを統合して提供される。アプリケーションやインテグレーションの収益性が高い一方、ネットワーク自体の収益性は低く、収益全体の10%前後を占めるに過ぎないとの調査もある。
  • このため、欧米の通信キャリアは、通信インフラを越えて、他社との提携や自社ブランドの構築によるM2Mソリューションの提供を志向している。多くの場合は他社との提携だが、買収等を通じて自営でソリューションを提供することもある。
  • 米国では、顧客のアプリケーション開発を支援し、独自にデバイスを認証するサービスを提供するなど、顧客ニーズに迅速に対応している。M2M専担部署を設置、組織面での強化を実施し、コンサルティング、アフタサービスを包摂している。
  • M2Mは、共通化、オープン化に今後より一層の競合が予想される。

講演後、質疑が行われた。議論の要旨は次の通り。

通信キャリアのM2Mビジネス
Q(質問):M2Mで飛び交うデータに課金しても大きな収益にはならない。通信キャリアは儲からないので、どういうビジネスをしようというのか?
A(回答):付加価値が勝負である。顧客への窓口となり、コンサルティング・インテグレーションで利益を上げる。すべて自前では無理なので、買収という形で外部の知恵と経験を取り込んでいる。
Q:日本のキャリアはまだそこまで行っていないのか?
A:新領域事業として立ち上げ始めたところである。M2Mに注目はしているが、本格的に取り組むという点では、まだこれからである。
C(コメント):M2Mで飛び交うデータの収益だけを考えるということが、日本のキャリアの対応を遅らせているのは事実である。

M2Mビジネスの各要素
Q:個別のM2Mではなく、多くのM2Mに共通なものとしてプラットフォームを提供するといった動きはあるか?
A:標準化の動きはあるが、共通のプラットフォームの提供には至っていない。
Q:サービスごとに品質(サービスレベル)がまちまちなのに、共通化・オープン化に進めるのか?
A:サービスレベルを共通化しようというものではなく、M2Mで取得したデータを共同利用しようというものである。
Q:標準化の主要プレイヤーは誰か?
A:プラットフォームではOneM2Mなどあるが、標準化を目指すフォーラムが乱立している。まだ、どれが主流になるかわからない。

M2Mと規制
Q:M2Mで多くのデバイスをばら撒いたが、2G(第二世代移動通信システム)の廃止でデバイスを交換しなければならなくなった、というような事態は起きないのか?
A:AT&Tやベライゾンはまもなく2Gを廃止する。しかし、その際、デバイスについて面倒を見るとは言っていない。デバイス交換については、ユーザー自身による対応をサポートする別のニッチビジネスが生まれている。M2Mシステムは10年、20年サービスが提供されるということが前提であり、特に欧州のスマートメータのように政府政策や法制化を通じて普及した場合には、今後、交換の責任も課題になるだろう。一方で、SIMを遠隔から書き換えるeSIMも開発されている。通信キャリア一社に10年、20年と依存し続けなくてもよくなる可能性も出てきている。
Q:M2Mが進むことで、世の中に不安が生まれるといったことはないのか。たとえばプライバシー?
A:デバイスが勝手に収集したデータが流出すると深刻なプライバシー問題が起きる。まだ、M2Mに固有の規制はないし、不要な規制はM2Mの発展を阻害する恐れもあるが、野放図にデータが活用できるというのは不適切である。データの管理策が、M2Mサービスにとって差別化因子となる可能性もある。
Q:共通化・オープン化でデータの流出の危険が増すのではないか?
A:再利用によって安全が損なわれていく恐れがある。責任の所在は、今後の重要規制課題である。
Q:M2Mデバイスへの電波利用料も問題ではないのか?
A:M2Mデバイスも、3GやLTEで通信している。その点では、スマートフォンと同じ電波利用料を課すというのは合理的であるが、飛び交うデータ量を考慮した低い料額設定の要望もある。サービス内容や収益性に照らして、電波利用料の料額が高すぎるとM2Mの普及を阻害する。無線局免許の新たなカテゴリーとしてM2Mデバイスを規定しなければ、抜本的な解決はないだろう。

電波・健康 新しい電波利用:モバイルヘルスケアの可能性 村上享司ドコモ・ヘルスケア株式会社副社長

日時:12月5日(金曜日) 午後6時30分~8時30分
場所:東洋大学白山キャンパス5号館5103教室
司会:山田肇(東洋大学経済学部教授、ICPF理事長)
講師:村上享司氏(ドコモ・ヘルスケア株式会社代表取締役副社長)

村上氏の講演資料はこちらにあります。
山田氏の総括質問資料はこちらにあります。 

冒頭、講演資料を用いて村上氏は次のように講演した。

  • 日本では総人口は減少し高齢化が加速している。同時に生活習慣病の患者数が増加するなど、国民の健康に関する問題は深刻だが、課題先進国と捉えることもできる。国は次世代ヘルスケア産業を創出し、2020年までに10兆円市場をつくることを目標としている。
  • 世界のICTプレイヤの間でモバイルヘルスケアについて競争が激化している。Apple、Google、MSがこの分野に取り組み始めている。これらの企業がプラットフォーム役を果たすことで、アプリレベルの個々のプレイヤが事業を実現しやすくなるという意味では機会が生まれている。
  • モバイルヘルスケアを支える無線技術には、スマホのNFC/BLEを中心に、3GやWiFiがある。当社はオムロンと共同して立ち上げた会社であるので、彼らの持つ体重計などのデバイスをNFC/BLEでスマホにローカルにつなぎ、3G/LTEによって、インターネット経由でクラウドにデータが上がる仕組みを取っている。
  • ウェアラブルの活動量計など24時間データを収集する製品(メガネ型、リストバンド型、その他)は乱立ぎみであるが、国内ウェアラブル端末市場は倍々ゲームで成長し2020年には600万台に達すると予測されている。
  • 移動通信産業は、アプリあるいはプラットフォームレイヤーに収益の源泉がシフトしつつあり、ドコモも土管屋だけでは立ち行かなくなる。ドコモは「スマートライフのパートナー」を標榜し、利用者の生活をモバイル中心で行ってもらう、モバイル生活圏を構築することを考えている。その中で、ヘルスケアは重点分野であり、出資・提携・協業を進めることで、お客様の「ウェルエネス」をトータルにサポートする。
  • ドコモが2/3.オムロンヘルスケアが1/3を出資して、ドコモ・ヘルスケアが設立された。会社立ち上げ時に「からだと社会をつなぐ」という企業ビジョンを掲げ、これを体現したいと考えている。元々2社それぞれ健康に関わる事業を行っていたので、その経験が蓄積されており、新会社にもそれが引き継がれている。新会社では、①デバイス開発、②わたしムーヴ(WM)を中心としたデータ収集・分析・予測の高度化、③利用者向けのアプリ・サービスの拡充、④アライアンス企業の拡大を進め、ライフスタイルの提案につなげていく。WMのアプリは8ジャンル25があるが、ほとんど無料でご利用頂ける。
  • <カラダのキモチ>は2013年6月1日に提供を開始した、女性の体に特化したアプリで、月額300円である。本サービスは、その日の体調にあった音楽で目覚め、体温を10秒で測定し簡単に記録し、女性のリズムに合わせ、その日の洋服のコーディネートやその日の体調にあったカラダが喜ぶ食事メニューを教えてくれ、生理周期や基礎体温を管理し不調があれば病院へ行くようアドバイスされ、早期受診でお見舞金が出るといった機能が含まれている。11月末時点で、累計約55万契約だが、もっと伸ばしていくつもりだ。
  • <からだの時計>は2013年12月18日に提供開始し、月額300円。ムーヴバンドは7,400円で販売している。本サービスは、体内時計(食べる、歩く、寝る)を整え、理想的な生活リズムの導くというのがサービスのコンセプトである。ムーヴバンドで、睡眠時間、移動距離、睡眠時間などが計測され、おすすめの食事時間などを教えてくれる。時間や目的にあったエクセサイズなどを教えてくれる。病気の人を治療するアプリではなく、健康上の大きな問題はないという状態から、さらに質の高い生活(健康)を目指すものである。11月末時点で、累計約90万契約。
  • <こどもと社会を繋ぐプロジェクト>として、予防接種スケジューラ(無料:いつ予防接種したかを記録し、次の接種時期を管理)がある。育ログ(無料:育児記録を中心に、熱をだした、嘔吐したなどの子供の状況を記録し、医師とのコミュニケーションを支援)もある。両サービスで約50万人がご利用頂いている。
  • <WM従業員健康管理サービス>は、社員の健康を向上させ、健康経営につなげるものである。ドコモグループ内で全国歩数対抗戦を実施した。この先、企業向けのサービスに育てたい。

引き続き、山田氏が資料を用いて総括質問を行った。

Q(質問):医療情報等のデータヘルスでの活用は企業の健康経営につながるが、全国歩数対抗戦の先にデータヘルスで活用する考えはあるか? 米国での調査では、企業が負担する社員の医療費はコスト全体の1/4でしかなく、生産性が落ちるなどの方が大きなコストだそうだ。
A(回答):健康経営はますます重要になりつつあり、データヘルスが追い風で、当社もビジネスとして立ち上げていきたい。当社だけではうまくいかないので、NTTデータやオムロンヘルスケア、ベネフィットワンといった実績のあるプレイヤと組みながら、進めていきたい。しかし課題もある。赤字経営の保険者向けに提供しようにも、財政的に余裕がない。また、インセンティブがないと被保険者に浸透しない。
Q:独居高齢者の生活を支援する、自立生活支援のサービス化に参入する可能性はあるか?
A:すぐに対応できる課題ではないが、いずれはこのようなサービスの一翼になりたい。プレイヤが複雑に絡みあっているので、だれが音頭をとるのか、だれがお金をだすのか、そのあたりが一番難しい。
Q:モバイルヘルスケアを医療行為としての患者の管理などに利用するビジネス化の可能性は?
A:ドコモ・ヘルスケアはまだ小さい会社であるが、究極の本丸は病気の人を治療すること。今は、知見を蓄積しなくてはいけないし、参入障壁が高く、ビジネスリスクもある。診療報酬の対象になれば必ずビジネスになるとは思う。米国はこのような取組みが非常に速いので、いい取り組みがでてくれば、日本での実施の追い風になると思う。
Q:3Gで直接データを飛ばすデバイスは、通信費も電波利用料も高くなる。これについて、どう考えるか?
A:M2Mとして開花させるためには、政策的・戦略的な思い切った料金設定が必要である。スマホとは全くデータ量も違うので、その辺を考慮してもらいたい。

その後、参加者から多くの質問があり、活発な議論が行われた。

提供中のサービスについて
Q:説明のあったアプリはドコモの携帯加入者のみか、それ以外も利用できるアプリなのか?
A:今はドコモと契約している人しか利用できない。しかし、ドコモのシェアは半分を切っており、今後はキャリアフリーにしていくことを狙っている。これは、ヘルスケアだけでなく、dビデオなどを含めドコモ全体の戦略である。
Q:デバイスはオムロン限定なのか? 制約にならないか?
A:現在は、オムロンの機器だけであるが、よいデバイスがあればオープン化していきたい。固執はしていらず、時間的な問題のみである。
Q:からだの時計が90万加入で、ムーヴバンドの販売は2万というのはなぜか?
A:ムーヴバンドはいらないという人もおり、アプリだけでも利用できるようになっている。自分の持っている機器のデータを手で入れるという利用者もいる。
Q:食事のアドバイスなどのあと、利用者が実際にその食事をしたかということまではわかるのか? アプリ利用者は効果があったかとわかるのか?
A:やったかどうかは、スマホに入力してもらう仕組みになっている。効果を実感しているかまではわからないので、検証するには別の方法を考えなくてはいけない。
C(コメント):アクティブユーザであり続けるということが、効果を感じている、満足しているということを示すのではないか。
Q:アクティブユーザはどれくらいいるのか?
A:具体的な数字は言いにくいが、ドコモが提供している他のアプリの利用率と大体同じである。解約をおさえて、利用率はもっと上げたいと思っている。
Q:からだの時計契約者の年齢分布はどうか? 高齢者と若い人ではサービスが異なると思うが。
A:年齢層はまんべんなくという感じ。ドコモの顧客全体、老若男女に使っていただけるサービスを重視して開発しているので、意図した通りである。

他社との提携について
Q:アライアンス企業と個人情報を交換するのか? 個人情報はどこがもっているのか?
A:利用者個々に同意を取るなどして、アライアンス企業と提携していくことは可能である。
Q:見舞金と電話相談・検診予約の機能は、医療機関や保険会社と連携しているのか?
A:顧客にはドコモから補償サービスという形に見せているが、東京海上火災とドコモの間で保険契約を結んでいる。電話相談と検診予約も専門会社に委託している。クレジットカードでもこのようなサービスがあるが、それと同じである。
Q:ドコモ本体も同様の事業を行っているが、どうすみ分けているのか?
A:まずは本体も当社もいろいろとやってみようというところ。バラバラでもいいし、当面は非効率だとは思えない。

将来の発展について
Q:病院と連携し、診察カードや電子処方箋につなげているということはあるのか?
A:当社としては今のところない。オールNTTでビジネスできると思うが、グループの中での役割分担になる。
Q:iPhone向けのアプリは少ないが?
A:いろいろな経緯があるが、iOS対応は出遅れている。これから充実させていく。
Q:データを蓄積している途中というが、将来はターゲットを特化した形にしていくのか?
A:ドコモショップを主たる販路にしているので、ターゲットを選ぶのではなく、みんなに勧められるものがよいと考えている。
Q:センサーとスマホの組み合わせは今度どうなるのか?
A:スマホをハブにしてセンサーの情報を中継する方式と直収型があるが、もともとの経緯からはスマホ形式が多い。手元でいつでもデータが見たいということであればスマホ型がいいと思うし、データを頻繁にみないということであれば直収型でもいいと思う。
Q:高齢者だと設定がいらない直収型だと簡単ではないか?
A:シニア層はそもそもスマホを持っていない、なじみが無い人は難しい。利用者のリテラシーに応じて、サービスを提供するしかない。
Q:気温と血圧との関連というように、ヘルスケアに直接関係しないたくさんのデバイスの情報も利用するという使い方もできるのではないか?
A:将来は、そういう方向もあるだろう。
Q:収集したデータの活用法を考えているか?
A:ユーザにアドバイスを返すというのが、ひとつの使い方。第三者への活用は、今後のB2B事業で検討する。たとえば、予防接種スケジューラのデータは、ワクチンメーカが関心あるようだ。データの第三者販売のビジネスは始まろうというところである。
Q:健康増進によって「未病」を実現するのが理想だと思うが、ビジネスが成り立つ可能性はあるか?
A:私も知りたい。定説では難しいと言われている。エンドユーザがお金を払ってまで利用する意味合いがどこにあるのかということにつきる。病気になれば、病院に行ってしまい、それが保険で賄われてしまう。ただ、女性は少し違うと感じている。妊娠・出産、育児、女性特有の期などにビジネスチャンスがより多くありそうだ。

ビジネス シェアエコノミー:求められる制度改革 マイク・オーギル氏(Airbnbアジア太平洋公共政策局長)ほか

日時:11月27日(木曜日) 午後6時30分~8時30分
場所:アルカディア市ヶ谷(私学会館)
司会:山田肇(東洋大学経済学部教授、ICPF理事長)
講師
マイク・オーギル氏(Airbnbアジア太平洋公共政策局長)
山田肇氏(東洋大学経済学部教授)
福田峰之氏(自由民主党衆議院議員、同党IT戦略特命委員会事務局長)

オーギル氏の講演資料はこちらにあります
山田肇氏の講演資料はこちらにあります

冒頭、オーギル氏が資料を用いて次のように説明した。

  • Airbnbは世界の人々(ゲスト)が泊まりたいところを探すことができ、あるいは、自宅を貸したいという人(ホスト)が登録できるプラットフォームである。基本的には、宿泊業者向けの仕様ではなく個人による利用を想定している。
  • ホームシェアリングのメリットは下記の通り。
    • ホストは、副収入を得、家賃の支払い、養育費などに使える。
    • 地域経済の活性化に役立つ。ホストの多くがホテル密集地域の外に所在しているので、ゲストがホテルに止まったら訪問しなかったであろう地域で消費活動を行う。
    • ホテルに滞在する旅行者と比べ、1箇所に長く滞在し、多くを支出する傾向がある。
    • 大規模なイベントの際に宿泊先を柔軟に供給を確保でき、イベント後には供給を抑えられる。ブラジルで行われたワールドカップでは、観客の宿泊先を政府が準備できなかったため、Airbnbが支援し、結果として、旅行者の20%がAirbnbの物件に宿泊した。ブラジルオリンピックについても協力予定。
  • Airbnbには190カ国、34,000都市、800,000件の住宅リスティングがある。これは、800,000のホストそれぞれに適用される190カ国34,000都市の様々な法律規則に対応する必要があるということ。プラットフォームは取り締まり側の立場ではないので、ホストとゲストが効率的につながれるように取り組んでいる。
  • 各国における法律がどのようなものかを理解した上で、ホームシェアリングができるように当局に働きかける活動を行っている。日本では、法律をどのように解釈するかによるが、ホストはAirbnbを使った活動が規制される恐れがある。
  • 旅館業法は短期の賃貸借を規制し、これは、公衆衛生上、滞在場所の清潔さを担保する目的である。しかし、無償であれば、一般家庭に寝泊まりすることは規制されない。また、具体的にどの段階で宿泊業者として旅館業法の規制対象になるかも明確ではない。
  • これらのような細かい点に目を向けるよりも、重要なのはどのような公共政策を推進するかである。世界の事例を紹介する。
    • オーストラリアのクイーンズランド州。休暇や定年退職後の住居が多いが、滞在期間・料金などをはじめ、自分の物件の短期賃借については規制がない。ところが、住宅地の物件がパーティーハウスとして使用され、近隣住民から苦情がでた。州はパーティーハウス法を定め、パーティーハウスの活動を規制する方針を示した。すべてを禁止して経済的な機会をすべて失うのではなく、問題に焦点を当てて立法化を図った賢い対策である。
    • アムステルダムは、その都市に住む人々がその物件に居住し続けられる可能性を高めることも視野に入れ、2014年上期に法律を制定した。ホテルへの用途変更なしに、自宅を同時に4人までなら貸し出すことを許可し、5人以上になるとホテル業とした。
    • フランスでは、法律改正が行われ、自分の主たる住居については、許可無く賃借することが可能になった。別荘・別宅の賃借については、住宅供給量の少ないパリなどの都市部と、別荘が多いリゾート部のニーズの違いに配慮し、各都市の判断とした。
    • 英国のピクルス大臣は、「1970年代に作られた法律を、現代のライフスタイルに合わせる時期が来た」と述べている。最近も、国としてシェアエコノミー分野をリードしていくというメッセージも発している。
    • 各国での動向における共通した考え方は、自分の主要住居を賃借するのは自由であるべきということと、地域のニーズにあわせる柔軟性を優先するべきということだ。
    • 友人や親戚を家に泊めるのには規制がかからず、ホテル・旅館業は規制が伴うが、ホームシェアはこの二極の間にある。日本においても議論が盛り上がることを期待する。

次に、山田氏がシェアエコノミーと制度改革について、資料を用いて説明した。

  • 空き施設・空き時間・少額資金といった余剰資源を社会全体として有効利用し経済効率を上げるのがシェアエコノミー。しかし、過去二回のセミナーでも見てきたが、シェアエコノミーは規制の壁にぶつかる。安倍改革は地方創生を進めようとしているが、地域創生にシェアエコノミーは活用可能である。しかし、制度の壁が阻害する。
  • 自動車の同乗には道路運送法、お遍路さんに自宅の空き部屋を賃借するには旅館業法施行令、景勝地の古民家を企業の経営会議に貸し出すために増改築するには建築基準法、造り酒屋巡りの旅を購買型クラウドファンディングで募集すると旅行業法が阻害する。信用金庫が、新興企業向けに投資型クラウドファンディングの出資者を募集するには、金融商品取引法に基づく日本証券業協会の自主規制が阻害する。
  • 様々な緩和策は取られつつある。国家戦略特区において、旅館業法の適用除外が承認されているが、外国人旅行客に限定され、さらには、7〜10日以上の滞在に限ると限定的であり、理解に苦しむ。
  • 新しい時代に対応した、新しい制度を実現するように、政治家の指導力に期待する。

この後、福田氏より以下のコメントがあった。

  • シェアエコノミーができるのはITが発展し、情報の共有と展開できることで成立するビジネスモデルと理解している。自民党のどのチャンネルでこういった話をしていくかが重要。
  • 自民党には長い歴史のある部門会議があるが、そこで話すと既存事業者がいままで話し合いをして積み上げてきたものがあるので、なかなか話が進まないだろう。そういった経緯のない自民党のIT戦略特命委員会だと整理しやすいはず。
  • また、シェアエコノミーの拡大は、国が想定していなかった。既存の事業とシェアエコノミーがWin-Win関係を構築することを目的に議論に入ることが極めて重要。
  • 例えば、外国人旅行者行きたいと思う田園風景が残る地域にはホテルや旅館がない。そうした地域でシェアエコノミーによって古民家が貸し出されれば、近所の旅館やホテルの負担とならず、観光地としての存在感が上がれば、さらに旅行者を呼びこむことができる。賃借行為をするなら、地域により多くの人を集めるというポイントから入ることが重要。
  • 賃借以外にも、クラウドファンディング分野においても、大手の投資会社、証券会社にとってクラウドファンディングの対象となる少額の投資はビジネス対象とならないことが多い。投資者の保護という視点を行政はあげがち。これは、投資はリスクを伴うことを前提としているが、銀行と同じ感覚でいる人が多いためだ。投資額が少額になるほど一般人による投資が増えるため、文句が出る可能性が高い。
  • 日本が新しいビジネスをつくるためには、「自己責任」という文化を育てなければならない。若い世代の感覚は変わってきており,新しいビジネスをうむための土壌ができてきている。ワークシェアという概念も浸透してきているが、シェアする人同士をつなぐプラットフォームが必要。それをつくっていきたい。
  • 日本特有の話だが、部屋を貸したら物が盗まれた場合、盗んだ相手が悪くても裁判沙汰にしたくないという。だから安全性などを重んじるルール作りをしてきた歴史がある。大掛かりには変えられないので、5年後、10年後のそれぞれの時点で最適なバランスと考えていく必要がある。
  • シェアエコノミーを推進する際に、納税の観点も欠かせない。税収が入るのであれば、財務省が味方になりこれは強力だ。

その後、活発な議論が行われたが、要旨は次の通り。

制度改革への動き

  • 自らの都市でのシェアエコノミーの台頭が政策担当者に認識されつつある。サンフランシスコやアムステルダム、英国では、すでにシェアエコノミーのプラットフォームの使用頻度が高く、認知度が高くなり、政治的に対応を取ることが喫緊の課題だった。都市に国においても、最初は厳しい対応を求めることが多かったが、認識が高まってきて柔軟に変わった。今後は、問題が起こる前に法整備をしてしまおうという動きになり、このようなトレンドがさらに高まる。自らの資産、家、車を共有するために、どのような法制度・枠組みが作られるべきかという考え方が必要である。
  • 米国ポートランドでは三カ月前に法律改正し、自宅をホームシェアできるようになった。一番大きなハードルはホテル税の徴収で、Airbnbが代行者としてゲストからホテル税を直接徴収し、収められるようにし政府が課題意識を持つ点について、民間からもさまざまなアイディアを出すのがよい。
  • 改革のための政策提言は、政権与党の担当政策部会に持ち込むと、最も動きが早く効果的である。関係のない政治家に働きかけても無駄である。シェアエコノミーに関わる企業を束ねて団体として行動するべきだ。個別企業がばらばらに政治や役所にアプローチしても、アプローチされた側が困る。
  • 選挙区の住民が声を上げることが効果的と思われる。大切な一票を握っている個人の声が重要になる。
  • 法律が変わるまでやらないということをしていたから、日本はIT業界で遅れてしまった。グレーゾーンであるならやればいい。そのうち法律は変わる。決着が付けられるまで待っていたら、外資にすべて持って行かれてしまう。黒を押し切るのは良くないが、グレーならまずやってみてみるべき。政治家も後押しできる。

経済へのインパクト

  • 経済へのインパクトはないのか? ホテルに滞在しなくなったり、車の購入をしなくなる。安く泊まれる宿泊施設があれば、既存の業者の価格にも影響がある。デフレの推進につながるのではないか。
  • 単純に置換えられたら経済は縮小する。たとえば自動車メーカーは、これまでは売るだけだったのが、これからはITを使い、乗車中にレストランを予約すれば付随料金を課すなど知恵を使う必要がある。シェアエコノミーは、空いているもの、いままで使っていないかったところなど、東京の外の経済活性化のビジネスモデルとして可能性がある。当初からそういう計算をした上で進めるべき。
  • ホームシェアリングは観光業にネガティブな結果がでたことはない。シドニーではAirbnbに登録されている住居の75%は、ホテル密集地の外にある。Airbnbの使用率も高いが、同時にホテルの稼働率・宿泊料金が上がっている。2012年〜2013年の1年間に生み出された経済効果は215,000,000ドルあったといわれている。それからさらに1年経過しているのでおそらく数字は2倍以上になっているだろう。
  • 従来の業界と共存していかなければならないが、大手ホテルのマリオットの例を挙げると経営者はAirbnbのファンであり、かつマリオットの競合ではないと明言している。セグメントが違うからだ。
  • 四国のお遍路さんは88箇所まわるが、殆どの人が自動車で回る。これは正しくないが、歩こうとすると、1日30キロを1週間連続して歩く体力が必要になる。過疎地のため多くある空き部屋にお遍路さんが泊まれるようになれば、その地域が復活するかもしれない。

安全の確保

  • Airbnbはシステム全体が「信頼」を核としており、この信頼の担保が重要な課題である。150人ほどの担当者がいつも目を光らせ、悪い動きがないか監視している。また、2方向のレビューシステム(ゲストがホストを評価し、ホストもゲストを評価する)が存在する。悪評が立てば、その人は追放され、安全が担保される。ゲストから入金されたお金を預かり、ゲストがチェックインした24時間後にホストに振り込むことにしている。宿泊場所がない、汚いなどの問題がある場合は、ホストに支払われない。
  • サイバーエージェントクラウドファンディングによると、クラウドファンディングで集めた資金を持ち逃げするよりも、オレオレ詐欺のほうが効率が良いため、犯罪者が紛れ込みにくいそうだ。