電波・健康 新しい電波利用:モバイルヘルスケアの可能性 村上享司ドコモ・ヘルスケア株式会社副社長

日時:12月5日(金曜日) 午後6時30分~8時30分
場所:東洋大学白山キャンパス5号館5103教室
司会:山田肇(東洋大学経済学部教授、ICPF理事長)
講師:村上享司氏(ドコモ・ヘルスケア株式会社代表取締役副社長)

村上氏の講演資料はこちらにあります。
山田氏の総括質問資料はこちらにあります。 

冒頭、講演資料を用いて村上氏は次のように講演した。

  • 日本では総人口は減少し高齢化が加速している。同時に生活習慣病の患者数が増加するなど、国民の健康に関する問題は深刻だが、課題先進国と捉えることもできる。国は次世代ヘルスケア産業を創出し、2020年までに10兆円市場をつくることを目標としている。
  • 世界のICTプレイヤの間でモバイルヘルスケアについて競争が激化している。Apple、Google、MSがこの分野に取り組み始めている。これらの企業がプラットフォーム役を果たすことで、アプリレベルの個々のプレイヤが事業を実現しやすくなるという意味では機会が生まれている。
  • モバイルヘルスケアを支える無線技術には、スマホのNFC/BLEを中心に、3GやWiFiがある。当社はオムロンと共同して立ち上げた会社であるので、彼らの持つ体重計などのデバイスをNFC/BLEでスマホにローカルにつなぎ、3G/LTEによって、インターネット経由でクラウドにデータが上がる仕組みを取っている。
  • ウェアラブルの活動量計など24時間データを収集する製品(メガネ型、リストバンド型、その他)は乱立ぎみであるが、国内ウェアラブル端末市場は倍々ゲームで成長し2020年には600万台に達すると予測されている。
  • 移動通信産業は、アプリあるいはプラットフォームレイヤーに収益の源泉がシフトしつつあり、ドコモも土管屋だけでは立ち行かなくなる。ドコモは「スマートライフのパートナー」を標榜し、利用者の生活をモバイル中心で行ってもらう、モバイル生活圏を構築することを考えている。その中で、ヘルスケアは重点分野であり、出資・提携・協業を進めることで、お客様の「ウェルエネス」をトータルにサポートする。
  • ドコモが2/3.オムロンヘルスケアが1/3を出資して、ドコモ・ヘルスケアが設立された。会社立ち上げ時に「からだと社会をつなぐ」という企業ビジョンを掲げ、これを体現したいと考えている。元々2社それぞれ健康に関わる事業を行っていたので、その経験が蓄積されており、新会社にもそれが引き継がれている。新会社では、①デバイス開発、②わたしムーヴ(WM)を中心としたデータ収集・分析・予測の高度化、③利用者向けのアプリ・サービスの拡充、④アライアンス企業の拡大を進め、ライフスタイルの提案につなげていく。WMのアプリは8ジャンル25があるが、ほとんど無料でご利用頂ける。
  • <カラダのキモチ>は2013年6月1日に提供を開始した、女性の体に特化したアプリで、月額300円である。本サービスは、その日の体調にあった音楽で目覚め、体温を10秒で測定し簡単に記録し、女性のリズムに合わせ、その日の洋服のコーディネートやその日の体調にあったカラダが喜ぶ食事メニューを教えてくれ、生理周期や基礎体温を管理し不調があれば病院へ行くようアドバイスされ、早期受診でお見舞金が出るといった機能が含まれている。11月末時点で、累計約55万契約だが、もっと伸ばしていくつもりだ。
  • <からだの時計>は2013年12月18日に提供開始し、月額300円。ムーヴバンドは7,400円で販売している。本サービスは、体内時計(食べる、歩く、寝る)を整え、理想的な生活リズムの導くというのがサービスのコンセプトである。ムーヴバンドで、睡眠時間、移動距離、睡眠時間などが計測され、おすすめの食事時間などを教えてくれる。時間や目的にあったエクセサイズなどを教えてくれる。病気の人を治療するアプリではなく、健康上の大きな問題はないという状態から、さらに質の高い生活(健康)を目指すものである。11月末時点で、累計約90万契約。
  • <こどもと社会を繋ぐプロジェクト>として、予防接種スケジューラ(無料:いつ予防接種したかを記録し、次の接種時期を管理)がある。育ログ(無料:育児記録を中心に、熱をだした、嘔吐したなどの子供の状況を記録し、医師とのコミュニケーションを支援)もある。両サービスで約50万人がご利用頂いている。
  • <WM従業員健康管理サービス>は、社員の健康を向上させ、健康経営につなげるものである。ドコモグループ内で全国歩数対抗戦を実施した。この先、企業向けのサービスに育てたい。

引き続き、山田氏が資料を用いて総括質問を行った。

Q(質問):医療情報等のデータヘルスでの活用は企業の健康経営につながるが、全国歩数対抗戦の先にデータヘルスで活用する考えはあるか? 米国での調査では、企業が負担する社員の医療費はコスト全体の1/4でしかなく、生産性が落ちるなどの方が大きなコストだそうだ。
A(回答):健康経営はますます重要になりつつあり、データヘルスが追い風で、当社もビジネスとして立ち上げていきたい。当社だけではうまくいかないので、NTTデータやオムロンヘルスケア、ベネフィットワンといった実績のあるプレイヤと組みながら、進めていきたい。しかし課題もある。赤字経営の保険者向けに提供しようにも、財政的に余裕がない。また、インセンティブがないと被保険者に浸透しない。
Q:独居高齢者の生活を支援する、自立生活支援のサービス化に参入する可能性はあるか?
A:すぐに対応できる課題ではないが、いずれはこのようなサービスの一翼になりたい。プレイヤが複雑に絡みあっているので、だれが音頭をとるのか、だれがお金をだすのか、そのあたりが一番難しい。
Q:モバイルヘルスケアを医療行為としての患者の管理などに利用するビジネス化の可能性は?
A:ドコモ・ヘルスケアはまだ小さい会社であるが、究極の本丸は病気の人を治療すること。今は、知見を蓄積しなくてはいけないし、参入障壁が高く、ビジネスリスクもある。診療報酬の対象になれば必ずビジネスになるとは思う。米国はこのような取組みが非常に速いので、いい取り組みがでてくれば、日本での実施の追い風になると思う。
Q:3Gで直接データを飛ばすデバイスは、通信費も電波利用料も高くなる。これについて、どう考えるか?
A:M2Mとして開花させるためには、政策的・戦略的な思い切った料金設定が必要である。スマホとは全くデータ量も違うので、その辺を考慮してもらいたい。

その後、参加者から多くの質問があり、活発な議論が行われた。

提供中のサービスについて
Q:説明のあったアプリはドコモの携帯加入者のみか、それ以外も利用できるアプリなのか?
A:今はドコモと契約している人しか利用できない。しかし、ドコモのシェアは半分を切っており、今後はキャリアフリーにしていくことを狙っている。これは、ヘルスケアだけでなく、dビデオなどを含めドコモ全体の戦略である。
Q:デバイスはオムロン限定なのか? 制約にならないか?
A:現在は、オムロンの機器だけであるが、よいデバイスがあればオープン化していきたい。固執はしていらず、時間的な問題のみである。
Q:からだの時計が90万加入で、ムーヴバンドの販売は2万というのはなぜか?
A:ムーヴバンドはいらないという人もおり、アプリだけでも利用できるようになっている。自分の持っている機器のデータを手で入れるという利用者もいる。
Q:食事のアドバイスなどのあと、利用者が実際にその食事をしたかということまではわかるのか? アプリ利用者は効果があったかとわかるのか?
A:やったかどうかは、スマホに入力してもらう仕組みになっている。効果を実感しているかまではわからないので、検証するには別の方法を考えなくてはいけない。
C(コメント):アクティブユーザであり続けるということが、効果を感じている、満足しているということを示すのではないか。
Q:アクティブユーザはどれくらいいるのか?
A:具体的な数字は言いにくいが、ドコモが提供している他のアプリの利用率と大体同じである。解約をおさえて、利用率はもっと上げたいと思っている。
Q:からだの時計契約者の年齢分布はどうか? 高齢者と若い人ではサービスが異なると思うが。
A:年齢層はまんべんなくという感じ。ドコモの顧客全体、老若男女に使っていただけるサービスを重視して開発しているので、意図した通りである。

他社との提携について
Q:アライアンス企業と個人情報を交換するのか? 個人情報はどこがもっているのか?
A:利用者個々に同意を取るなどして、アライアンス企業と提携していくことは可能である。
Q:見舞金と電話相談・検診予約の機能は、医療機関や保険会社と連携しているのか?
A:顧客にはドコモから補償サービスという形に見せているが、東京海上火災とドコモの間で保険契約を結んでいる。電話相談と検診予約も専門会社に委託している。クレジットカードでもこのようなサービスがあるが、それと同じである。
Q:ドコモ本体も同様の事業を行っているが、どうすみ分けているのか?
A:まずは本体も当社もいろいろとやってみようというところ。バラバラでもいいし、当面は非効率だとは思えない。

将来の発展について
Q:病院と連携し、診察カードや電子処方箋につなげているということはあるのか?
A:当社としては今のところない。オールNTTでビジネスできると思うが、グループの中での役割分担になる。
Q:iPhone向けのアプリは少ないが?
A:いろいろな経緯があるが、iOS対応は出遅れている。これから充実させていく。
Q:データを蓄積している途中というが、将来はターゲットを特化した形にしていくのか?
A:ドコモショップを主たる販路にしているので、ターゲットを選ぶのではなく、みんなに勧められるものがよいと考えている。
Q:センサーとスマホの組み合わせは今度どうなるのか?
A:スマホをハブにしてセンサーの情報を中継する方式と直収型があるが、もともとの経緯からはスマホ形式が多い。手元でいつでもデータが見たいということであればスマホ型がいいと思うし、データを頻繁にみないということであれば直収型でもいいと思う。
Q:高齢者だと設定がいらない直収型だと簡単ではないか?
A:シニア層はそもそもスマホを持っていない、なじみが無い人は難しい。利用者のリテラシーに応じて、サービスを提供するしかない。
Q:気温と血圧との関連というように、ヘルスケアに直接関係しないたくさんのデバイスの情報も利用するという使い方もできるのではないか?
A:将来は、そういう方向もあるだろう。
Q:収集したデータの活用法を考えているか?
A:ユーザにアドバイスを返すというのが、ひとつの使い方。第三者への活用は、今後のB2B事業で検討する。たとえば、予防接種スケジューラのデータは、ワクチンメーカが関心あるようだ。データの第三者販売のビジネスは始まろうというところである。
Q:健康増進によって「未病」を実現するのが理想だと思うが、ビジネスが成り立つ可能性はあるか?
A:私も知りたい。定説では難しいと言われている。エンドユーザがお金を払ってまで利用する意味合いがどこにあるのかということにつきる。病気になれば、病院に行ってしまい、それが保険で賄われてしまう。ただ、女性は少し違うと感じている。妊娠・出産、育児、女性特有の期などにビジネスチャンスがより多くありそうだ。