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教育 ベネッセの教育デジタル化戦略 藤井雅徳ベネッセコーポレーショングローバル事業推進ユニット長

日時:4月4日(金曜日) 午後6時30分~8時30分
場所:東洋大学大手町サテライト(新大手町ビル1階)
司会:山田肇(東洋大学経済学部教授、ICPF理事長)
講師:藤井雅徳(ベネッセコーポレーション・教育カンパニー グローバル事業推進ユニット長)

冒頭、藤井氏は、資料(こちらより閲覧できます)を用いて講演した。講演の要旨は次のとおりである。

進研模試について

  • ベネッセは国内教育、海外教育、生活、シニア・介護、語学・グローバル人材教育の五領域で事業を展開している。今日は、主に国内教育、特に進研模試と進研ゼミについて説明する。
  • 進研模試は、公立高校をメインの対象とする学校向けのサービスである。一学年100万人、合計300万人の市場を対象としている。ピアソンなどと比較しても、世界首位を争う受験者数である。個人向けではなく、学校単位でとりまとめるのが特徴で、学校での指導で利用される。
  • 中学校にはマークシート式の同様の試験があり、小学校向けには全国学力・学習状況調査(記述式問題)の実施を文部科学省から請け負っている。
  • センター試験現役志願者数は46万人であるが、ベネッセでは、センター試験規模の試験を年間2〜3回実施している(文部科学省でノウハウを活かしてもらいたいと願っている)。大学進学するのは高校生の半分ほどであるが、進研模試の結果は彼らの進路相談に活かされるのに加えて、教師の日々の授業改善に役立つ(学年別、クラス別、教科別の詳細が提示されるので、教師個々の指導課題も見えてくる。模擬試験の結果で学習意欲や学習量がわかり、教師はクラスマネジメントに活用できる)。
  • 年間1,000万人の受験者が生み出すビッグデータを活用するのは、世界一の技術である。いつかは、世界に打って出たいと考えている。
  • タブレットを配布したり、反転学習させたりといった今はやりのデジタル教育でとは別の方法として、ビッグデータを活用して、生徒一人ひとりの弱点を補強するデジタルコンテンツを提供している。これまでの学校教育が大切にしてきたものをベースにデジタルコンテンツを提供していることに特徴がある。コンテンツを提供しても、紙だけの受験料から価格は据え置きで、企業努力で乗り切ろうとしている。
  • 進研模試関係の社内担当者は150名程度で、一日あたり3校ほど訪問している。生徒・教師に対して講演を行うこともある。都市部・地方部・離島部も問わないが、事業の優先度が高いのは、地方の公立高校の支援である。

進研ゼミなどについて

  • 高校講座を受講している生徒には無料でタブレットを配布している。コンテンツは全てデジタル化されており、すべて学習はタブレットで行うことができる。今まで通り、紙でも同様に学習でき、どちらを使うかは生徒が選択する。わからない問題の解説をタブレットで見たり、動画を見て疑問を解決したりというように、紙だけの自学自習では厳しいところを補っている。地方部の高校生は、8〜9割、部活動に加入しているので、効率よく学習できるという点が特徴である。
  • 中学講座は高校生よりも噛み砕いた学習内容であり、わからない問題をベネッセに伝えると、翌日には回答する双方向の仕組みを取り入れた。小学生講座は、紙ベースとタブレットベースの2パターンからどちらかを選択する。タブレットベースでは紙は一切使用しない。ベネッセ側で学習履歴を取得しており、今後、内容の改善に活かして行く予定である。
  • 福島県で過疎地の小学校にライブ授業を提供するプロジェクトを2006年から実施している。小中学校は家から近い学校に通うが、過疎地では存続がむずかしくなっている。これを補うのが目的で、実施校は成績が向上している。
  • 最近、学校からの問い合わせが多いのは語学教育である。グローバルな教育サービスということで、海外トップ校への受験支援(RouteH)を展開している。これは、対面だけではなく、スカイプ等を活用した教育である。また、テストのCBT化(紙からパソコンへ)という動きがある。GTECという英語アセスメントを実施しているが、筑波大学は入試改革の一環で外部の英語検定試験を利用することになり、GTECも採用される。

講演の後活発に質疑応答が実施された。その概要は次のとおりである。

公教育における民間活用について

Q(質問):過疎地では公共施設や道路の維持管理ができなくなりつつあり、民間の力を借りる公民連携が注目されている。学校教育法では、義務教育について通信教育が許されていないが、生徒数の減少で維持困難となりつつある。福島県で8年間実施していることは教育分野での公民連携であり、全国で展開できるし、ベネッセにはビジネスチャンスではある。他の地方自治体から、利用を求める声はないのか?
A(回答):主に中学校について、同様の実施に可能性があり、ビジネスを模索している段階にある。
Q:過疎地のことを考えると、学校教育法自体を変えるべきではないのか?
A:同意するが、道は遠い。主に高校を対象に、補習に利用するというかたちでノウハウを蓄積している段階であり、いっそうデジタル技術を導入して教育を実施することについては、見計らっている状況にある。
C(コメント):進研模試のような大規模な試験を民間で実施して問題が起きていないのであれば、文部科学省の外郭団体が実施するセンター試験も民間企業に委ねたほうがよい。
Q:学びのイノベーションやフューチャースクールはどう見えているか? どこを改善すればよいのか?
A:一人一台タブレットなど、形が先走っている感じがする。学校教育の質を高めることが目標であるが、今はタブレットを配ることが目標になっている。学校の先生の意見が十分に聞けていない。教育委員会だけではなく、学校現場の先生の声を聞いてほしい。生徒指導がベースであるので。そのあたりも見据えてほしい。
Q:現場の声というが、普通の学校の先生がデジタルをどのように思われているか、インタビュー等したことはあるか?
A:地方部の公立高校に出向くと、職員室は紙ばかりで、ワープロを使っている先生もいる。平均年齢が50歳を超える学校もあり、デジタルやタブレットと言った時点で、会話が成り立たないケースもある。20代の若手もいるが、中間の30代が少ない。わかってもらうには、根気・時間が必要。教育は人が感じて動くものなので、使ってもらえるようわかってもらうことがポイントである。

進研ゼミについて

Q:小学校講座で紙とタブレットを分離した理由は何か?
A:発達段階を十分に考慮し、子供が意欲的に学習に取り組めるように、紙とデジタルの二つの形態でコンテンツを提供している。子供にとってどちらに適性があるかを、親が決められるようになっている。
Q:ノートに書いて覚えることが、タブレットで実現できるのか?
A:小学生は、肉筆で書いて覚えることが大切であるため、小学講座のタブレットにも、ノートに肉筆で書くのと同様のタッチペン機能がある。もちろん、学校教育では紙でしっかりやっているということを前提としている。また、タブレットには書き順をチェックできるといった利点もある。
Q:例えば、カエルの成長のように動画が適したものもあるのではないか?
A:動画やアニメーションで解説していくことで、より深まる科目や分野がある。そういったことも配慮してコンテンツを用意している。実証実験の段階では、デジタルコンテンツで成績が上がるという結果も出ている。
Q:円錐などの体積の求め方でなぜ最後に1/3をかけるか、というような質問に答えられるのか?
A:紙の通信教育では、赤ペン先生は添削問題を採点するが、個別の質問を受け付けることはない。子供がわからないものに出合ったときに、フォローしているのは保護者であるが、保護者は忙しい。質問をタブレット経由で受け付けると、素朴な疑問から予期せぬ疑問まで集まる。今までは蓄積されていなかったが、継続的に分析をしていくことで、子供がどんな疑問を持っているか、その傾向を掴むことができる。紙では提供できてこなかった価値が見えてくるかもしれない。期待して取り組んで行きたい。
Q:わかるから上の学年の学習をするとか、わからないから振り返りとかはできるのか?
A:学年の垣根が取り払うべきと考えている。在籍している学年ではなく、個々人に合わせたアダプティブラーニングへ移行すべきだ。
Q:進研ゼミは協働学習になっているのか?
A:中学講座では、時間を決めてライブ授業を提供している。これは学習習慣をつけるためだが、講師が「この問題わかりましたか?」と聞くと、受講者はアンサーボタンで回答するようになっている。先生は、正解率を見ながら授業を展開していく。「おもしろい」「わかった」などの投稿も可能で、投稿の様子は、受講生も同じように見ることができるという点で、受講生同士のインタラクティブな関わりを作っている。
Q:デジタル教材に対して保護者の反応はどうか? デジタル教材を学校から持ち帰る時代が来ると考えているか?
A:小学生の場合には、親が子供の家庭学習に寄り添う必要がある。タブレット版は解かないと次のページに進まないので、学習のプロセスがわかる。そうしたデジタルのメリットを活かして、忙しい保護者が効率的に子どもの学習に関われる環境をデザインしていくことが必要だ。デジタル教科書になっていくと、学校教育と家庭学習の垣根はなくなっていくと思う。しかし、それはいつなのか。ベネッセとして、慎重かつしっかりと対応していきたい。

関連する法規制などについて

Q:教材の著作権はクリアしているのか?
A:紙で行っている事業で、著作権は全てクリアしている。デジタルコンテンツに置き換えていく上では問題はない。不足するものは、オリジナルで作成している。
Q:進研模試の個人データは転校した際に移転できるのか?
A:進研模試の個人データは、転校した場合などの対応がまだできていない。課題と認識しているが、紙であってもできていないのが現実である。
Q:個人情報保護との関連で質問したい。おもしろい間違え方をしたから、それを後で利用したい場合に、許諾は得ているのか?
A:個人が特定できるものを使いたい場合は、本人の許諾が必要であると考えている。

デジタル教科書について

Q:デジタル教科書を導入する動きがある。全国で導入されるとなると、どのような教育になると考えられるか? ベネッセとしては、どのような教材を提供していくのか?
A:いっそ教科書を作ってしまえ、という意見もあり、さまざまな議論をしているところ。動向を見ながら、判断していきたい。
Q:タブレットを使うことの良さの一つはメディア変換の容易さである。例えば、文字を拡大するとか、字幕等で補完するとか。障害児の利用も考慮しているのか?
A:取り組んでいる。点字模試や文字の拡大もある。顧客数が多いので、当然、配慮している。紙で勉強して伸びる子、教えてもらって伸びる子など、適性は様々で、デジタルでなんとか救えないかと考えている。
Q:教科書は出版社の数に限りがある。一方、教材は多くの企業が提供している。家に帰ったら、タブレットにベネッセの教材を入れるか、他の物を使うか家庭で選択できる。一つのタブレットが学校と家と行き来するとなると、コンテンツの表示方法等、インタフェースの標準化が必要にならないか?
A:必要と思う。本音ではベネッセはタブレットを配布せず、自分で(あるいは国で)用意してもらいたい。高校生はスマートホンで学習する等、マルチデバイスで使えるようにしていきたい。

子供たちの現状について

Q:今のこどもたち。昔と比べて勉強するようになったのか?
A:今の高校生の数120万は、今の40歳代前半のころに比べて約半分である。半分の中から同じ数の東大合格者を選ぶのだから、相対的に成績は低下して当然である。しかし、それは勉強していないという意味ではない。
Q:大学生の卒業後の進路までビッグデータ解析すれば、より有効な教育指導ができるのではないか?
A:大学合否は全体の6〜7割を追跡しており、高校時代の学習履歴と結び付けて知見を得ている。その先の進路(就職先)まで調べれば知見が深まるのは確実だが、何年先まで調べるかなど、範囲も深さも決められる段階にない。
Q:海外進学には、どういうモチベーションで、どういった人が集まっているのか?
A:東大よりも上を目指す、超トップレベル対象である。ベネッセグローバルラーニングセンターでは、4技能のアカデミックな英語を身につけることができる。熊本県では、「熊本県海外進学チャレンジ塾」を県の費用で実施している。大学選びは海外志向が高まってきている。

健康 感染症の発生を早期に警告する症候群サーベイランス 大日康史氏(国立感染症研究所)

インフルエンザやノロウィルスが流行しています。これら感染症について、かかりつけ医などが投入した患者情報を自動収集し疫学的な解析を行い、発生と流行を早期に判断して公衆衛生的対応をとる一連の技術が、症候群サーベイランスです。
症候群サーベイランスはビッグデータ解析の応用分野としても大変有望ですが、わが国では、諸外国に比べ実用化が遅れています。今回のセミナーには、国立感染症研究所感染症情報センターの大日康史主任研究官をお招きし、わが国における研究開発・実用化の動向、世界各国との比較、広く利用するための制度的課題などについて、講演していただきした。

日時:2月12日(水曜日) 午後6時30分から
場所:東洋大学白山キャンパス5号館3階 5301教室
司会:山田肇(東洋大学経済学部教授、ICPF理事長)
講師:大日康史氏(国立感染症研究所)

講演資料はこちらにあります

冒頭、大日氏より概略次の通りの講演があった。

  • 感染症法に基づいて、感染症患者の発生状況を把握している(感染症発生動向調査)が、7から10日遅れで、いかに迅速に把握するかが課題となっている。感染症発生動向調査は医師が診断して保健所に報告し集約という流れで、診断に重きを置いている。しかし、パンデミック、新型感染症、まれな病気に関しては診断が遅れる場合もある。新しい病気は、そもそも診断ができない。結果的に、誤った診断になることもある。
  • バイオテロのように遅れることが致命的な場合もある。そこで、診断ではなく症状から情報収集をしようという考え方が生まれた。これが「症候群サーベイランス」である。熱っぽいなと思ったら、普通は一般用医薬品(OTC)を服用するから、これをモニターする。その先の外来受診・学校の欠席・救急外来受診・救急車の要請なども、それぞれモニターする。それらを多面的に見て、いろいろな情報を重ね合わせることで、ノイズを除去し、精度を高めるようになっている。
  • OTC購入の数は営業情報であり、入手に費用が掛かる。診断情報は電子カルテから取得できるが、病院・診療所向けの電子カルテはベンダーそれぞれに仕様が異なっている。また、医療機関では、個人情報保護の観点から、機関外に情報を一切出さないことが命題となっている。日本の個人情報保護法には公衆衛生に関する除外規定が存在するが、それに沿っての情報収集はできていない。アメリカの場合、電子カルテ導入に補助金が出るが、保健所からアクセスできることというのが補助の条件になっている。そこで、わが国では薬局サーベイランスと学校・保育園サーベイランスが主に利用されている。
  • アメリカでは、2007年時点では、緊急外来で80〜90%症候群サーベイランスを実施しており、そのほか、毒物摂取ホットラインや911コールも加えている。イギリスでは、数年前のアイスランドの噴火の際に、国民に目や呼吸器の症状が増えていないかを調査したことがあった。
  • 日本の薬局サーベイランスは薬局における処方薬の処方数をモニターするものである。薬局での処方薬の処方は99.9%電子化されているので、現場の負担なしに、処方翌日午前7時にそれを集約している。地域ごとの処方数や、処方した患者のおおまかな年齢などが自動的に分析され、グラフ等が作成される。
  • 日本の学校欠席者情報収集システム(学校欠席者サーベイランス)は、欠席者数だけでなく『熱があるので学校を休ませます』といった診断前の情報も保護者からの連絡で集約されている。保育園の場合も同様である。学校欠席者情報収集システムは22県に導入されている。群馬県、茨城県、三重県、奈良県では、保育園と学校の両方に導入されている。
  • 先日、浜松市や広島市のノロウィルスの集団感染が起きた。広島市では学校欠席者情報収集システムを導入していたので、下痢や嘔吐の欠席者数がとんでもないことになっていることを早期に把握できた。浜松市ではモニタリングしていなかったから、患者数が徐々に増えて報道された。
  • オリンピックやサミットといった国際的に重要なイベントが開催されるときに、バイオテロの確率が高くなる。2020年には東京オリンピックが予定されているので、昨年10月の東京国体の際に東京都と共同でサーベイランスを強化した。薬局・学校サーベイランスに東京都からの救急車出動状況を加えて、感染症を早期探知し、異常探知時には、保健所が対応するようにした。これからも海外要人の来日時などに同様の強化を行うことになっている。

講演後、次のような質疑があった。

電子カルテなど他の情報の活用について
Q(質問):いろいろな情報源から集めることによって、ノイズが減るという説明があった。しかし、今は実質的に処方薬と学校の情報しかない。学校には休みの期間があるから、他の情報源も確保する必要があるのではないだろうか?
A(回答):ごもっともである。保育園が開園していればその情報を得るとか、救急車搬送とか。しかし、今のところはむずかしい。
Q:それでは、米国のように診療所に電子カルテを普及させ、そこから情報を取得できないのか?
A:その通りだが、膨大な予算がかかるので、政府が取り組むかどうかである。
Q:診察結果を症候群サーベイランスに反映するのは、個人情報にあたらないのでは? なぜ病院はやらない?
A:個人情報流出の可能性をゼロにしたいという過剰な発想がある。地域内での電子カルテネットワークがあるところもあるが、カルテの相互利用程度でしかない。

新型感染症の早期探知の可能性について
Q:このような現状で、新型感染症の流行を早期検知できるのか?
A:これ以上早く見つけるのは不可能である。天然痘であっても、最初は、医師は水疱瘡だと診断するだろう。だから診断から情報収集するのは、症候群サーベイランスよりも遅い。今のものが最善である。
Q:それでは、鳥インフルエンザのヒトヒト感染は、早期探知できるのか?
A:夏であれば可能だが、季節性インフルエンザが流行している今の季節では、むずかしいだろう。
Q:どの地域に注意が必要といった判断はどのように行うのか?
A:データ表示までは自動で行い、それを見て人が二次的な判断を行う。

重要行事の際のサーベイランスの強化について
Q:サーベイランスの強化とはどういう意味か?
A:強化していないときは情報交換していない。互いの収集情報はわからない。強化しているときには情報共有する。
Q:普段から情報交換すればよいのでは?
A:47都道府県の一斉実施は、感染研の態勢では無理である。情報統合して判断するのに、短くても一県当たり30分くらいかかるからである。
Q:特別なときにしか、症候群サーベイランスを実施していないイメージがあるが?
A:学校欠席者情報収集システムなどは、各県がそれぞれの日常業務に使うものだ。このように、日常的に使われていなければ緊急時には利用できない。感染研は症候群サーベイランスにそれを利用しているのである。だから、日常的に症候群サーベイランスを実施するという態勢ではない。

教育 自由民主党の教育戦略 遠藤利明自由民主党衆議院議員

知識社会を生き抜くデジタル世代を育成するために、大量生産時代に形作られた公教育制度はどのように変わっていくべきなのでしょうか。
今回は講師に遠藤利明衆議院議員・自由民主党教育再生実行本部本部長をお招きし、同党の教育戦略についてお話しいただくことにしました。同党は昨年来、教育再生に関し繰り返し提言を発表しており、その中には、英語教育の抜本的改革・イノベーションを生む理数教育の刷新と並んで、国家戦略としてのICT教育がうたわれています。この戦略が政策として実施されることによって、わが国の公教育は大きく変化していくでしょう。

日時:1月24日(金曜日) 午後6時~8時
場所:KTP東京駅京橋ビジネスセンター
司会:山田肇(東洋大学経済学部教授、ICPF理事長)
講師:遠藤利明(自由民主党衆議院議員)

講演の際、参考に配布された資料はこちらにあります。
講演資料教育再生実行会議について教育再生実行本部提言教育の情報化の歩み学校ICT環境整備事業について情報通信技術を活用した新たな学びの推進ICTを活用した新たな学びの推進教育再生推進法(仮称)について(案)参考資料

冒頭、遠藤氏は概略次のように講演した。

  • 陰山先生の授業で情報教育を知った。子ども個々のレベルに合わせ、興味・関心を伝える教育ができるとわかり、ICT教育推進派になった。
  • 日本の教育では結果の平等を最重要視してきた。しかし、能力も興味・関心も成長スピードも異なるのに、まったく平等に教育を行うのには限界がある。国際化と少子化社会への対応が遅れる日本の教育は制度疲労している。
  • ミャンマーでは、英語での遠隔授業を実施しているため、シンガポール等の国々で自在に働くことができる。ミャンマーは一人当たりの国民所得が570ドルで、日本の百分の一程度だ。だからこそICTを用いて国の教育レベルを上げて行こうとしている。このような動きがある中で、日本はアジアで取り残されてしまわないだろうか。
  • 今は全ての子どもが同じスピードで学んでいるが、一人一人の能力、興味、関心や成長スピードが違うため、そうした事に合わせた教育をする必要がある。大学入学試験は知識のみの一発勝負であるため、入学後に燃え尽き症候群になるケースもあり、改革が必要だ。追いつけ追い越せでうまくいっていた戦後とは違い、一人一人に目を向けた教育に変えていく必要がある。国際化に対応したグローバル人材の育成が必要である。グローバルサイエンススクールのように、理科教育も特化する必要がある。
  • 総裁直属の教育再生実行本部が今までと違うのは「実行」という言葉が入った点である。総裁から私たちが指示を受けたのは、日本人が世界の中で生きて行く・生き抜く力を付けることを考えて、実現可能性だけを考えないで、理想型の教育制度改革を実現していくこと。中曽根内閣、小渕内閣、森内閣でいろいろな提言を行ってきたが、あまり実行されてこなかった。今回は安倍総裁のもとで実行する。
  • 今までのICT教育実証プロジェクトはモデル校を設定して行ってきたが、効率が悪く相乗効果が出てこない。行政事業レビューの際には担当の稲田大臣に現場を見てもらったが、機器がうまく作動せず、レビュー本番ではきびしい批判を受けた。今は特定の関係者だけがICT教育は大事だと盛り上がっている状態に過ぎず、全体には広がっていない。予算の獲得も文科省と総務省の担当者ががんばっているだけであり、予算を取る戦略が存在しない。
  • ICTを用いた教育にこれからどのように予算を捻出するか。3年間で100地域にて一人一台のタブレット、無線LAN・電子黒板を整備したモデル校をつくりたい。しかし残念ながら、まだまだ理解してもらっていない。子どもの頃からコンピュータを使うと頭の発達がおかしくなると考えている人さえいる。財務省も冷ややかな反応だ。ICTを理解していない人たちにいかにして理解してもらうことが必要である。
  • そのために、政治と産・学・官が戦略を作って実行していく必要がある。戦略の策定には検討チームも必要だろう。法律でも教育再生推進法を準備しており、この中でICT教育環境の整備について盛り込みたい。ICT教育の推進について応援してほしい。

その後、以下のような質疑があった。

戦略について
Q(質問):結果の平等主義から脱して、少しでも能力の高い人たちを輩出するという重要な話をされた。しかし、自民党の教育戦略というと、マスコミでは愛国心しか伝えない。メディアも良くないが、遠藤先生たちの熱意が国民に伝わっていないように感じるが?
A(回答):我々の努力不足は認める。一方で、マスコミの興味も教科書問題などは関心が高いものの、それ以外については関心の度合いが全体的に低いように感じる。
Q:日本のソフトウェアはどこで作っているのかという統計が存在しない。どの程度がオフショアなのだろうか。そんな統計がなければ、グローバル人材の育成などできない。セキュリティまで人材が回ってこない。政策の入り口に、きちんと統計を取るといった取り組みが必要ではないか?
A:よく理解できる。その通りだ。どんな人材がどの程度必要かを考えていないのが問題だ。それで教育するから、結果の平等だけではないが、ワンパターンの考えを持つ人ばかりが増える。みんなと違うことを創意工夫していく人が足りないと感じている。だから、大学の入学試験を変えようとしている。一発勝負も大事だが、高校で本を読んだこと、地域活動やボランティアをしたことなどを活かせるような形式・多様性を実現したい。

教員の能力向上や育成について
Q:問題は教師である。ICT教育をすると言っても、教職免許を取得したのはずっと前だから、どうしたらよいのかわからない。結果的にうまくいかない。オーストラリアやニュージーランドではICT教育の能力検定を教員に強制的に行うしくみができつつある。日本も、このようなことをしなければまずいのではないか?
A:これからは教員免許取得時にICTの利活用を入れていく。また、初任者研修や免許更新時にも行う。教師が関心を持てるようなしくみをどのように作っていくべきかを考えると、強制的にやらなければならないかもしれない。例えば、英語の場合には、TOEFLを大学入学資格認定の基準にする方針だが、これで授業は変わり、先生も変わるだろう。ICTも若い先生はやろうとするが、高齢の先生はできない。教師採用試験ではICT教育能力が必要とするなど追い込む環境作りが必要である。
Q:これからの教員養成を考える必要がある。現在は、情報機器の活用は2単位のみ。たいていの大学では、初年度の一般向け科目と単位が併用されている。そのため、学校の授業で使えるようにするための教育は行われていない。自民党としてはどう進めようとしているか?
A:教職課程では2単位より多くを求めたい。日野市では、大学卒業後、一年間は臨時教員として採用し、ICT支援員として訓練させていると聞いている。教師は大学4年を卒業したら准免許を与え、現場でインターンをするというかたちを取りたいと思っている。教師のインターン制度の導入について、これから、教育再生実行会議で議論をしていく。
Q:大学で教員を育成という話だが、企業を退職した人がノウハウを伝えることも良いのでは? 新しい人材ではなく、中高年を含めてうまく使っていくことも可能かではないか?
A:賛成。免許がなくても先生になることは可能である。一度社会に出て、経験を活かしてその上で先生になる。できれば、社会人には教職大学院を出てもらいたいが…。「チーム学校」ということで、学校を先生だけの世界にしないで、地域に開かれた学校にしていけばよい。ICT知識がある人はたくさんいるので積極的に活用すべきである。
Q:自分が勤めている大学では高等学校の情報の教員免許を出している。しかし、社会的には認知されていない。実際に免許を持って卒業する学生はいるが、就職する者はあまり多くない。中学校や小学校でも情報免許が必要あれば、どの先生もICT教育ができるようになるのではないか?
A:情報免許というよりも、ほとんどの先生が使えるという状況が必要である。科目として特定の人が免許を持つよりも、多くの人が持つように広めていく方がいいのではないだろうか。

実証実験について
Q:2000年くらいに総務省の実証実験に参加した。不思議に思ったことは、実験が終わった後、続かないプロジェクトが多いこと。いくつも国家プロジェクトがあったが、継続的な検証を行っていないのではないだろうか。効果があるモデルをつくり公開して、実験後も企業に協力をお願いするとか、継続のためのモデルが必要である。もっとよいモデルをつくるための民間が競争できる環境が必要ではないか?
A:公立学校はかなり閉鎖的である。しかし、コミュニティスクールという学校を開く取り組みがある。また、学力試験で民間の方でよいものがある。いいものはどんどん使っていくとよいのではないか。
Q:フューチャースクールに関して、趣旨はよいと思うが、逆風が吹いている。戦略特区を作るといった動きはあるのか?
A:特区になっても予算は飛躍的には増えない。しかし、特区には民間に入ってもらえるので、そこで自由に教育できるかもしれない。この点に関して、いろいろな企業人が発言して追い込んでいくよう期待する。
Q:一方で、荒川区のように区長が予算を立てたケースもある。みんなで荒川区を応援するとかどうだろうか?
A:東京あたりは比較的予算がある。地方都市は予算がない。まずは、荒川区を応援し、導入への風潮ができたら全体の予算としていくといった、先導的な取り組みが必要である。
C:教育は事例が少ないが、電子行政分野では千葉などの成功事例もある。
Q:校長や首長のICTリテラシーが高いところは導入が進む。そうなると、ばらつきが出てくる。公平なサービスを提供することにおいて、これをどのように考えるか?
A:ばらつきはどうしても出てくる。今、公立学校は校長になる年齢が高い。フィンランドは38歳で既に校長になっていた。日本では早くて50歳くらい。50歳を過ぎると、考え方が保守的になる。できるだけもっと早く校長になれるようにすればよいのだが、それでもばらつきは出るだろう。

予算の確保について
Q:大阪市の教育バウチャー(所得が少ない世帯に補助をというしくみ)をどう評価するか。公教育でタブレットを配るよりも投資効果が高まると思う。自民党としては、どうお考えか?
A:バウチャーは考えていない。やりにくい。公教育としてやるときには、特定の世帯だけというのは難しい。日本の教育システムにはなじまないと考えている。
Q:しかし、どんなに安く見積もっても2,000億円はかかるだろう。教育予算を増やさない限り、いきなりやるのは無理ではないか?
A:バウチャーは「あまねく」となると難しいが、一気に何千億というお金が投入できないのも確かだ。何をやるにしても予算が必要で、仕掛けをつくることが必要である。日本の公教育の予算はOECDの調査では低い。消費税増税についても、せめて2.5兆円は教育予算にならないだろうかと考えている。教育目的税をつくることは難しいが、お金がないと動けないのも事実である。
Q:地方交付税だと、首長の考えでICT教育以外のほかの用途に回ってしまうこともある。どうやってクリアするか?
A:気持ちとしては補助金にしたいが、地方分権が唱えられる時代には、なかなか風当たりが強い。

デジタル教科書について
Q:デジタル教科書は、ハードよりもソフトに考えをずらした方がよいのではないだろうか?
A:全体で1兆5000億円かかるという試算がある。1台7万円で計算しているのだが、1万円でできないのか等は議論している。しかし、必要な予算はとても大きい。
C(山田コメント):外国では「Bring your own device」と称して生徒にデバイスを持参させたりもしている。いろいろなデバイスを利用するとなると政府は共通規格をつくらなければならない。互換性を実現しなければならない。このようにすれば、ハードよりもソフトに比重が移るだろう。
A:教育現場の人とチームをつくって日本規格をつくる必要がある。

法律 インターネットビジネスと約款 内田貴法務省参与ほか

ネットビジネスでは、サービス提供者が利用者に対し、利用規約やプライバシーポリシー、ガイドラインといった形で様々な約款を当たり前のように提示しています。通信サービスの場合には、電気通信事業法に従って契約約款を事前に総務大臣に届け出ることが義務付けられている一方で、ネットビジネスの約款に関する明文規定は法文上には存在せず、どのような場合に約款が提供者と利用者との間の契約の条件になるのかが不明確な状況にあります。
現在、法務省の法制審議会民法(債権関係)部会において、取引に関する最も基本的なルールを定めている民法について、明治29年の同法制定以来の社会・経済の変化への対応を図り、国民一般に分かりやすいものとする等の観点から、契約に関する規定を中心に見直しを行うために調査審議が行われています。その審議の中では、約款に関するルールを民法に明文化すべきか否かが大きな論点となっています。
このセミナーでは、ネットビジネスをはじめとして、様々な分野で次々に誕生する新しいビジネスの発展を図るために、約款を民法上に規定する意義について議論します。

日時:2014年1月23日(木曜日) 17時30分から
場所:アルカディア市ヶ谷(私学会館)
基調講演:
柳川範之(東京大学教授):約款に関するルールの明確化と経済効果
内田貴(法務省参与):約款に関する議論の状況等
パネルディスカッション:
内田貴(法務省参与)
大谷和子(株式会社日本総合研究所法務部長、法とコンピュータ学会理事)
沢田登志子(一般社団法人ECネットワーク理事)
神谷寿彦(株式会社GyaO社長室室長)
モデレータ:山田肇(東洋大学経済学部教授、ICPF理事長)

柳川氏の講演資料はこちら内田氏の講演資料はこちら
民法(債権関係)の改正に関する中間試案(抜粋) 約款部分はこちらにあります

柳川氏講演講演ビデオはこちら
冒頭、柳川氏は次の通り講演した。

  • 取引がうまく行われることは経済活性化のための必要条件であり、経済成長戦略も取引がうまく行われなければ実現しない。
  • 経済活動を阻害する要因の一つに将来の不確実性がある。必ず成功する投資プロジェクトであっても、法律あるいは契約に不備があり、利益が投資家に返済されない可能性があるとなれば、人々は投資しない。
  • 認識される将来のリターンが、不透明性により、実質上低下してしまうと、本来望ましい取引が行われなくなる。それが経済全体の取引の不活性化につながり、景気を低迷させ成長率を低下させる原因となる。
  • 必要な取引を促進させていく上では、リターンや責任の帰属先が明確になるようにし、透明性を高めていく必要がある。

内田氏講演(講演ビデオはこちら
内田氏は次の通り講演した。

  • 120年ぶりに民法を抜本的に改正しようとしている。目的は、民法の現代化であり、国民一般に分かりやすい民法にすることである。
  • 「約款」は現代の取引に不可欠のビジネスモデルであるが、多用されるようになったのは20世紀後半以降であり、民法起草時には約款という形態は想定していなかった。
  • 供給者が提示する約款を購入者は通常は読まないし、読んでも理解できないし、関心の対象ではないし、深く考えずに「同意」する。契約の基本原則は「人は自ら約束したことにのみ拘束される」であるが、読んでいないし理解していない約款に拘束されるのか。ここに、柳川氏の指摘する契約の不透明性の問題がある。
  • 伝統的な業界には個別の業法に約款に関する定めがあり、裁判も積み重ねられ、不透明性は少ない。一方、インターネットのような新しいビジネスでは、約款条項の有効性が不透明である。たとえば、何が不意打ち条項・不当条項かについても、民法第九十条「公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする」を基に裁判で争うしかないのが現状である。
  • 米国には統一商事法典があり、欧州は共通欧州売買法の準備を始めている。中国・韓国にも法律がある。約款に法的根拠を与えるのが世界の潮流であり、民法改正もそれを意図するものだ。
  • 伝統的な業界は民法に規定することに反対している。しかし、規定する意図は、透明性の高い私法ルールを定めることであって、新たな公的規制を行うものではない。ルールを明確にすることで安全な取引ができるようになる。
  • 民法に規定することで、IT業界には安全に約款が使える制度的環境が整う。安全で安心な約款取引は消費者にもメリットがある。

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これらの講演を受けて、パネル討論が実施された。パネル討論では、三つのテーマが取り上げられ、それぞれについて、次のようにさまざまな意見が表明された。

約款の組み入れ要件について
神谷氏:多くのインターネットビジネスでは利用規約という形で約款が提示されている。利用する消費者の多くに用語として「約款」は浸透していないが、利用規約が利用条件を定めるものであることは理解している。
沢田氏:確かに消費者は普段は見ないが、何かあった時には見る。何か起こった時にそれに基づいて解決しなければならないということは、消費者にも浸透している。
神谷氏:インターネットビジネスでは各ページの下部に利用規約を掲載するのが普通である。また、会員登録の際は明示的な「同意」を求めることもある。しかし、いずれのケースも後で「同意した覚えがない」という苦情が出る場合はある。
内田氏:契約の透明性を高める必要性は、遺伝子検査などインターネットビジネス以外の新ビジネスにも共通である。
沢田氏:利用規約がどこにあるか分からない悪質サイトもある。利用規約がヘルプページに掲載されていた場合もある。しかし業界全般としては見えるところに置くという暗黙のルールで、大抵のサイトはすぐわかるところに掲載している。一方で、利用規約をクリックすると英文が出るといった、改善すべきサイトは存在する。
沢田氏:意図的に隠している約款もあるが、正しい姿ではない。約款は日本語でしっかり記載すべきであると考える。広告は日本語で利用者を勧誘しているのに、利用規約が英語はダメだと思う。
大谷氏:組入要件は、「見る気になった人がさしたる苦労なく約款を見ることができる」という程度の簡単なものがいい。条項の分かりやすさとか、ダウンロードできるとか、重要な事項がクローズアップされていなければならないということは、消費者保護制度のような制度で検討すべきであって、民法はそこまで決めなくてよい。今回の民法改正はどういった社会像を前提としているのだろうか。契約を締結するかどうかを決定するために必要な情報が当事者の間で非対称に存在しているというのが現代の社会である。約款の組入要件は、約款作成者が持っている情報をサービス利用者に提供するための情報の流れを作る程度のシンプルで分かりやすいものがいい。
内田氏:組み入れについてはシンプルでよいと思う。約款とは読まないものだが、それだったら組み入れについて規定するのは無駄だろうか? そうは思わない。約款は契約であり、契約である以上、読んでから契約したい人のために見えるように提供すべきあり、契約である以上、合意も得なければならない。しかし、その合意は逐一必要なものでもなく、また黙示の同意でも足り、インターネットの場合、約款が見える形でリンクされていればサービスを利用することが約款に対する同意とも解釈することもでき、同意はハードルの高いものではない。
沢田氏:インターネットビジネスはクロスボーダー化しているが、言語については難しい問題がある。法律化のハードルも高い。しかし、だからこそ、海外の契約当事者にも容易に理解できるように、法律に約款に関するルールを規定しておくことが重要である。

約款の変更について
神谷氏:初めに作った利用規約が、サービスの進歩によってどんどん変化していくのが、インターネットビジネスでは当たり前である。一つのサイトでサービスを追加するごとに別々に約款を提供するというのもおかしな姿だ。サービスを追加したら、サイト全体を律する一つの約款を変更するというのは合理的である。一方で、事業者は利用規約の変更で利用者に不利益が生じる場合には、慎重に対応を心掛けている。
内田氏:利用者にとって不利益な変更の場合に問題になる。元の約款に「不利益をもたらすものでも自由に変更できる」という記述があれば、変更は有効なのだろうか。紛争解決のためには、約款の変更について民法に規定があるほうがよい。
沢田氏:外国企業が提供するサービスでいつの間にか約款が変更されていたケースがあった。日本には約款に関する法律がないから、今は消費者契約法を出して戦わざるを得ない。外国人にも分かるような規定が民法にあれば、このようなケースでもっと主張がしやすくなる。
内田氏:約款の変更に対して日本の実務は慎重である。軽微な不利益は周知期間をおけばよいが、もっと大きな不利益は適切な処置をするのが普通である。今回の改正では、そのような実務を変えるつもりはなく、むしろ日本の実務をルール化して変更に関する不確実性を除去しようとしている。
内田氏:これからはクロスボーダー取引が増える。日本法が適用されると約款で記述しても、法律がなければ外国人には不透明に映る。判例主義の国でもないので裁判例も事例に過ぎず、ルールとみなされない。明晰な英語に置き換えられる言葉で民法にルールを規定することは対外的な主張の場面でも有益である。

不意打ち条項・不当条項について
沢田氏:サプリメントで、無料お試し期間が過ぎると自動的に定期購入に変更されてしまう利用規約があった。読まずに同意した消費者には不意打ちとなった。
大谷氏:約款のひな形を作ってきた立場としては、不当条項のリストがあると、形式的には損害賠償の規定・責任免除の規定に該当してしまう懸念があり、実質的に考えればそれほど不当でもない規定が不当と指摘されて紛争が増加するのではないかという心配がある。不当条項の作り込みには法制上の深い議論を求める。
沢田氏:何らかの目安として不当条項のリストをつくることは推奨するが、法律の中に書き込むのはいかがなものか。インターネットのスピードから考えて柔軟性に欠ける。法律の外で、短期間でアップデートできるほうが良いのではないか。
神谷氏:リスト化というのは、世の中の変動に対応できないため不要ではないか。
内田氏:リスト化については消極的な意見があったが、欧州では不当条項のリスト化が行われている。かなり詳細なリストを作成している国もある。リストを作ると柔軟性に欠けるという指摘があるが、欧州各国では民法も年に何回も改正しているため、その辺は対応できている。ただ、欧州でも不当条項リストは専ら消費者契約に適用するのが一般的。民法の約款規定は事業者間の取引にも適用されるものであるため、法制審議会でもリスト化は既に審議の対象から落ちている。別途消費者契約法の改正等で検討されることはあるかもしれない。
内田氏:今回の民法改正で、不意打ち・不当条項について規律することは、裁判実務が明瞭・透明になるというメリットにつながるだろう。

まとめ
これらの議論を受けて各パネリストからまとめの発言があった。
大谷氏:当たり前に思っていた約款に関する実務の積み重ねにも、不明瞭な部分があることがこのセミナーで分かった。クロスボーダー取引における多言語対応などもそれにあたる。新規参入を考える中小企業のリスクが小さくなるように、約款の法制化について検討するのは重要である。現行の民法には、「情報」という言葉が単独では出てこないが、中間試案を見る限り、「情報」という言葉が単独で用いられるのが、この120年間の時代の変化だと思う。約款に関するルールは約款作成者とサービス利用者間の情報の流れを促すミニマムなルールであってほしい。約款を見つめ直すことが出来れば、より仕事がしやすくなる。
神谷氏:今の約款にはよりどころがない。民法で約款とはどういうものかを定義してもらえれば、事件が起きたときは消費者を守ることもできる。
沢田氏:法制化の反対勢力は民法ではなく業法でと主張しているそうだが、クロスボーダー取引の時代には民法の方が適している。日本法では、約款はこのように規律されていると海外に主張できるようにすべきだ。事業者と消費者の区別もなくなりつつある。だからこそ、民法の中に取引ルールの一般原則を書くべきだ。消費者契約法に書けばよいという意見もあるが、約款は消費者だけでなく中小企業も利用する。
内田氏:約款について法律で規定するというと「また規制か」と考えられがちだが、商取引のベースになるルールを作ろうということだ。法制審の審議は最終段階に入っているが、インターネットビジネスをはじめ新しいビジネスに有益な約款に関する規律が落ちることのないように、実務界からの声を期待する。

最後に、モデレータより「約款法制化について理解を深める機会となったのであれば幸いである」との発言があり、パネル討論は終了した。