行政 マイポータルとトラストフレームワーク 楠正憲内閣官房政府CIO補佐官ほか

日時:10月3日金曜日 18時30分から20時30分まで
場所:アルカディア市ヶ谷(私学会館)
司会:山田肇(東洋大学経済学部教授、ICPF理事長)
講師:楠正憲氏(内閣官房 政府CIO補佐官)
満塩尚史氏(経済産業省CIO補佐官)
日時:10月3日(金曜日) 午後6時30分~8時30分
場所:アルカディア市ヶ谷(私学会館)

楠氏の講演資料はこちらにあります満塩氏の講演資料はこちらにあります。

楠氏は次の通り講演した。

  • 共通番号の利用対象範囲は、法律で、社会保障と税、災害の分野に限られている。これらの分野では、新規データは正確に紐づけることができるだろう。しかし、既存の社会保障や税のデータには番号が紐付いていないので、たとえば消えた年金のような、矛盾した過去のデータの修復には個人番号は役立たない。データがきれいになるには時間がかかる。
  • マイナンバー等分科会では、マイポータル・マイガバメントを議論しており、使われるサービスを目指している。個人番号カードの普及を強化し、投資に見合う効果を出す必要がある。中間とりまとめでは、カードの一枚化、民間利用、マイガバメント、スマホ・タブレット対応、高齢者への配慮などをうたっている。利用頻度が低いと使ってくれないので、如何に利用を促進するかが課題である。
  • 利便性の高い住民向けのサービスを開発する必要があり、たとえば、引っ越しワンストップでは民間連携が必須になる。マイナンバー制度の情報提供ネットワークシステムでは民間との接続について考えられていないが、日本郵便のデジタル郵便サービスなども提案されている。国が提供するマイポータルで全てのニーズを満たすのは無理。自治体の参加、連携が必要で、先進自治体の成功を横展開するのがよいと考えている。国が大きなマイポータルを丸抱えしてもうまくいかない。誰かが決めることで先に進める領域、たとえばデータ標準やAPIの提供形態などを国が決めて、自治体や民間の力も借りながら、総合的なサービスへと育て上げていくのが現実的ではないか。
  • 個人向けのサービスについては、誰が手続するかを考え直すべきだ。窓口の大事な役割は、申請を受理するだけではなく住民に制度を説明すること。本人による申請を前提としてしまうと、申請の頻度が低く手続きを習熟するメリットの小さい個人からの電子申請は伸びない。例えば出生届は個人ではなくて、病院がやればよいかもしれない。不動産屋がサービスの一環で、転居届を提出すればよいかもしれない。当事者による完全セルフサービスよりも、人が介在するほうが、成功確率が上がるだろう。
  • 法人番号はプライバシー問題もなく、オープンなので、個人番号よりも先に利用が進むだろう。法人版のワンストップはニーズがある。源泉徴収票と給与支払報告書の提出など、日常的に利用し普及していくだろう。

満塩氏は次の通り講演した。

  • トラストフレームワークの検討としては、官民連携と民民連携が含まれる。官民連携は、マイナンバー制度と民間の連携を視野に入れて経済産業省で検討している。マイナンバーの利用はホワイトリスト方式であり、行政は名寄せで使うが、民間側は名寄せで使ってはならない。民間に名寄せに利用されることなく、マイナンバーの官民連携を進めるために、トラストフレームワークが必要になる。IT戦略でもIT利活用の推進として明記され、経済産業省と総務省で担当している。
  • アイデンティティ連携トラストフレームワークは利活用と安心流通のバランスを実現するものだ。アイデンティティは属性情報の集合体であって、パスワードは属性情報には含まれない。パスワードを渡すというのは誤解である。
  • 信頼できるIDプロバイダーが、必要な属性情報だけを、信頼できるリライングパーティに提供する仕組みが、アイデンティティ連携トラストフレームワークである。現在もID連携はできるが、参加企業の信頼性確認は個別に整備しなければいけない。ここを国が支援するべきである。
  • トラストフレームワークを用いれば、海外からの来訪者からに宗教を配慮して食事を提供するなどの個別サービスを実現する、災害時に個別に避難誘導するといったことが可能になる。そのIDを持つものが実在していることが、このようなサービス提供のそもそもの前提であるが、第三者が本人確認した属性情報を使えば、ネット上で実在性を確認できるようになる。非競争領域の、公共データ(属性データ)を連携すれば実在性を確認できる。
  • 保険会社や銀行との連携、財務資産情報の活用でライフプランサービスを提供といった民間サービスが、マイポータル・マイガバメントと連携することで生まれてくると考えられる。マイナンバーを直接は使わない、したがって民間は名寄せできない、マイガバメントトラストフレームワークも提案している。

その後、以下のような質疑応答があった。

Q(質問):引っ越しのワンストップサービスなどでは、民間企業に情報が提供されるが、そのために、本人の同意が必要になるのか?
A(回答):同意は必要であるが、どのようにいつ同意を得るかは、ユーザ視点で考える必要がある。いずれにしろ、官民連携は同意取得が前提となる。
Q:先進的なモデルを横展開するというのに賛成だが、先進的なモデルは、いつから取り組むか? どのように横展開するのか? 国の役割を早めに明確化する必要があるのではないか?
A:国の取り組みを待つ必要は無い。国は、先進自治体の取り組みを紹介していく。たとえば、千葉市のオープンデータのレポーティングでセールスフォースを採用したといった事例も出てきている。自治体をまたがっての共同利用で、割り勘効果が出るようにしていきたい。
Q:トラストフレームワークでは、登録の段階で、マイナンバーの有効性を確認する必要があるのか?
A:マイナンバーをもらう必要は無い。マイナンバーとも紐付かない。しかし、その結果、リライングパーティの間では同一人物の特定ができないようになる。
Q:マイナンバーは、DVなどの事情によって変更はできるのか?
A:マイナンバーの変更は可能だが、夫婦間の秘匿は難しい。マイナンバーは悪用されないよう利用や閲覧を制限しているし、DV被害者は別の制度でも保護している。
Q:マイナンバーによって、どのような効果が生まれるのか?
A:住民の負担軽減、行政の事務処理負担やミスの低減など。試算では効果の方が大きいと出るが、業務改革次第であって、これが課題である。マイナンバーの利用範囲拡大で、本来のメリットを出していきたいと考えている。番号を入れただけでは何もよくならないが、業務改革、自治体のシステム刷新、情報連携ありきの制度整備ができることで、効果が生まれると考えている。
A:現状は効率的な社会システムができていないのが問題で、連携ができるようになることで変化が生まれるのを期待している。番号があること前提に新たな仕組みを構築する、たとえば、収入を把握すれば、無理ない奨学金返済額が決められる。どうやってこのタイミングで業務改革しようか、と考える自治体が増えてきたことを歓迎する。
Q:税務関係でのマイナンバー利用が先行するのだろうか?
A:所得捕捉は付番だけでは難しい。付番だけで大きな効果が生まれることはない。
Q:扶養関係の捕捉でマイナンバーを活用したいと考えている。自治体事務の効率化を進めるにも、自治体間連携が必要になるが、マイポータルの中でどのように行われるのか、自治体にいつ情報提供があるのか? 一方で、住民側のメリットは出のように高めるのか?
A:住民のメリットを示すのは難しく、模索段階である。もともと、バックオフィス連携が目的だったが、民主党政権時代に、住民からみたメリットを出すために、プッシュ型、ワンストップといった行政サービスを打ち出した経緯がある。実際には、マイガバメントはまだ議論の初期段階だ。行政サービスなので息の長いシステムが必要になる。年金や生命保険のような長期間のデータ維持は大変な仕事である。まずは、これに利用するのが適切である。
Q:マイナンバー制度では業務改革が重要になる。業務改革が無いままマイナンバーがスタートすると、国民ががっかりする。どうやって推進するのか?
A:現在は各省庁で優先順位を付けて必死にやっている。一度に進めるのは難しい。政府全体での優先順位付けが必要と考えている。