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ビジネス シェアエコノミー:求められる制度改革 マイク・オーギル氏(Airbnbアジア太平洋公共政策局長)ほか

日時:11月27日(木曜日) 午後6時30分~8時30分
場所:アルカディア市ヶ谷(私学会館)
司会:山田肇(東洋大学経済学部教授、ICPF理事長)
講師
マイク・オーギル氏(Airbnbアジア太平洋公共政策局長)
山田肇氏(東洋大学経済学部教授)
福田峰之氏(自由民主党衆議院議員、同党IT戦略特命委員会事務局長)

オーギル氏の講演資料はこちらにあります
山田肇氏の講演資料はこちらにあります

冒頭、オーギル氏が資料を用いて次のように説明した。

  • Airbnbは世界の人々(ゲスト)が泊まりたいところを探すことができ、あるいは、自宅を貸したいという人(ホスト)が登録できるプラットフォームである。基本的には、宿泊業者向けの仕様ではなく個人による利用を想定している。
  • ホームシェアリングのメリットは下記の通り。
    • ホストは、副収入を得、家賃の支払い、養育費などに使える。
    • 地域経済の活性化に役立つ。ホストの多くがホテル密集地域の外に所在しているので、ゲストがホテルに止まったら訪問しなかったであろう地域で消費活動を行う。
    • ホテルに滞在する旅行者と比べ、1箇所に長く滞在し、多くを支出する傾向がある。
    • 大規模なイベントの際に宿泊先を柔軟に供給を確保でき、イベント後には供給を抑えられる。ブラジルで行われたワールドカップでは、観客の宿泊先を政府が準備できなかったため、Airbnbが支援し、結果として、旅行者の20%がAirbnbの物件に宿泊した。ブラジルオリンピックについても協力予定。
  • Airbnbには190カ国、34,000都市、800,000件の住宅リスティングがある。これは、800,000のホストそれぞれに適用される190カ国34,000都市の様々な法律規則に対応する必要があるということ。プラットフォームは取り締まり側の立場ではないので、ホストとゲストが効率的につながれるように取り組んでいる。
  • 各国における法律がどのようなものかを理解した上で、ホームシェアリングができるように当局に働きかける活動を行っている。日本では、法律をどのように解釈するかによるが、ホストはAirbnbを使った活動が規制される恐れがある。
  • 旅館業法は短期の賃貸借を規制し、これは、公衆衛生上、滞在場所の清潔さを担保する目的である。しかし、無償であれば、一般家庭に寝泊まりすることは規制されない。また、具体的にどの段階で宿泊業者として旅館業法の規制対象になるかも明確ではない。
  • これらのような細かい点に目を向けるよりも、重要なのはどのような公共政策を推進するかである。世界の事例を紹介する。
    • オーストラリアのクイーンズランド州。休暇や定年退職後の住居が多いが、滞在期間・料金などをはじめ、自分の物件の短期賃借については規制がない。ところが、住宅地の物件がパーティーハウスとして使用され、近隣住民から苦情がでた。州はパーティーハウス法を定め、パーティーハウスの活動を規制する方針を示した。すべてを禁止して経済的な機会をすべて失うのではなく、問題に焦点を当てて立法化を図った賢い対策である。
    • アムステルダムは、その都市に住む人々がその物件に居住し続けられる可能性を高めることも視野に入れ、2014年上期に法律を制定した。ホテルへの用途変更なしに、自宅を同時に4人までなら貸し出すことを許可し、5人以上になるとホテル業とした。
    • フランスでは、法律改正が行われ、自分の主たる住居については、許可無く賃借することが可能になった。別荘・別宅の賃借については、住宅供給量の少ないパリなどの都市部と、別荘が多いリゾート部のニーズの違いに配慮し、各都市の判断とした。
    • 英国のピクルス大臣は、「1970年代に作られた法律を、現代のライフスタイルに合わせる時期が来た」と述べている。最近も、国としてシェアエコノミー分野をリードしていくというメッセージも発している。
    • 各国での動向における共通した考え方は、自分の主要住居を賃借するのは自由であるべきということと、地域のニーズにあわせる柔軟性を優先するべきということだ。
    • 友人や親戚を家に泊めるのには規制がかからず、ホテル・旅館業は規制が伴うが、ホームシェアはこの二極の間にある。日本においても議論が盛り上がることを期待する。

次に、山田氏がシェアエコノミーと制度改革について、資料を用いて説明した。

  • 空き施設・空き時間・少額資金といった余剰資源を社会全体として有効利用し経済効率を上げるのがシェアエコノミー。しかし、過去二回のセミナーでも見てきたが、シェアエコノミーは規制の壁にぶつかる。安倍改革は地方創生を進めようとしているが、地域創生にシェアエコノミーは活用可能である。しかし、制度の壁が阻害する。
  • 自動車の同乗には道路運送法、お遍路さんに自宅の空き部屋を賃借するには旅館業法施行令、景勝地の古民家を企業の経営会議に貸し出すために増改築するには建築基準法、造り酒屋巡りの旅を購買型クラウドファンディングで募集すると旅行業法が阻害する。信用金庫が、新興企業向けに投資型クラウドファンディングの出資者を募集するには、金融商品取引法に基づく日本証券業協会の自主規制が阻害する。
  • 様々な緩和策は取られつつある。国家戦略特区において、旅館業法の適用除外が承認されているが、外国人旅行客に限定され、さらには、7〜10日以上の滞在に限ると限定的であり、理解に苦しむ。
  • 新しい時代に対応した、新しい制度を実現するように、政治家の指導力に期待する。

この後、福田氏より以下のコメントがあった。

  • シェアエコノミーができるのはITが発展し、情報の共有と展開できることで成立するビジネスモデルと理解している。自民党のどのチャンネルでこういった話をしていくかが重要。
  • 自民党には長い歴史のある部門会議があるが、そこで話すと既存事業者がいままで話し合いをして積み上げてきたものがあるので、なかなか話が進まないだろう。そういった経緯のない自民党のIT戦略特命委員会だと整理しやすいはず。
  • また、シェアエコノミーの拡大は、国が想定していなかった。既存の事業とシェアエコノミーがWin-Win関係を構築することを目的に議論に入ることが極めて重要。
  • 例えば、外国人旅行者行きたいと思う田園風景が残る地域にはホテルや旅館がない。そうした地域でシェアエコノミーによって古民家が貸し出されれば、近所の旅館やホテルの負担とならず、観光地としての存在感が上がれば、さらに旅行者を呼びこむことができる。賃借行為をするなら、地域により多くの人を集めるというポイントから入ることが重要。
  • 賃借以外にも、クラウドファンディング分野においても、大手の投資会社、証券会社にとってクラウドファンディングの対象となる少額の投資はビジネス対象とならないことが多い。投資者の保護という視点を行政はあげがち。これは、投資はリスクを伴うことを前提としているが、銀行と同じ感覚でいる人が多いためだ。投資額が少額になるほど一般人による投資が増えるため、文句が出る可能性が高い。
  • 日本が新しいビジネスをつくるためには、「自己責任」という文化を育てなければならない。若い世代の感覚は変わってきており,新しいビジネスをうむための土壌ができてきている。ワークシェアという概念も浸透してきているが、シェアする人同士をつなぐプラットフォームが必要。それをつくっていきたい。
  • 日本特有の話だが、部屋を貸したら物が盗まれた場合、盗んだ相手が悪くても裁判沙汰にしたくないという。だから安全性などを重んじるルール作りをしてきた歴史がある。大掛かりには変えられないので、5年後、10年後のそれぞれの時点で最適なバランスと考えていく必要がある。
  • シェアエコノミーを推進する際に、納税の観点も欠かせない。税収が入るのであれば、財務省が味方になりこれは強力だ。

その後、活発な議論が行われたが、要旨は次の通り。

制度改革への動き

  • 自らの都市でのシェアエコノミーの台頭が政策担当者に認識されつつある。サンフランシスコやアムステルダム、英国では、すでにシェアエコノミーのプラットフォームの使用頻度が高く、認知度が高くなり、政治的に対応を取ることが喫緊の課題だった。都市に国においても、最初は厳しい対応を求めることが多かったが、認識が高まってきて柔軟に変わった。今後は、問題が起こる前に法整備をしてしまおうという動きになり、このようなトレンドがさらに高まる。自らの資産、家、車を共有するために、どのような法制度・枠組みが作られるべきかという考え方が必要である。
  • 米国ポートランドでは三カ月前に法律改正し、自宅をホームシェアできるようになった。一番大きなハードルはホテル税の徴収で、Airbnbが代行者としてゲストからホテル税を直接徴収し、収められるようにし政府が課題意識を持つ点について、民間からもさまざまなアイディアを出すのがよい。
  • 改革のための政策提言は、政権与党の担当政策部会に持ち込むと、最も動きが早く効果的である。関係のない政治家に働きかけても無駄である。シェアエコノミーに関わる企業を束ねて団体として行動するべきだ。個別企業がばらばらに政治や役所にアプローチしても、アプローチされた側が困る。
  • 選挙区の住民が声を上げることが効果的と思われる。大切な一票を握っている個人の声が重要になる。
  • 法律が変わるまでやらないということをしていたから、日本はIT業界で遅れてしまった。グレーゾーンであるならやればいい。そのうち法律は変わる。決着が付けられるまで待っていたら、外資にすべて持って行かれてしまう。黒を押し切るのは良くないが、グレーならまずやってみてみるべき。政治家も後押しできる。

経済へのインパクト

  • 経済へのインパクトはないのか? ホテルに滞在しなくなったり、車の購入をしなくなる。安く泊まれる宿泊施設があれば、既存の業者の価格にも影響がある。デフレの推進につながるのではないか。
  • 単純に置換えられたら経済は縮小する。たとえば自動車メーカーは、これまでは売るだけだったのが、これからはITを使い、乗車中にレストランを予約すれば付随料金を課すなど知恵を使う必要がある。シェアエコノミーは、空いているもの、いままで使っていないかったところなど、東京の外の経済活性化のビジネスモデルとして可能性がある。当初からそういう計算をした上で進めるべき。
  • ホームシェアリングは観光業にネガティブな結果がでたことはない。シドニーではAirbnbに登録されている住居の75%は、ホテル密集地の外にある。Airbnbの使用率も高いが、同時にホテルの稼働率・宿泊料金が上がっている。2012年〜2013年の1年間に生み出された経済効果は215,000,000ドルあったといわれている。それからさらに1年経過しているのでおそらく数字は2倍以上になっているだろう。
  • 従来の業界と共存していかなければならないが、大手ホテルのマリオットの例を挙げると経営者はAirbnbのファンであり、かつマリオットの競合ではないと明言している。セグメントが違うからだ。
  • 四国のお遍路さんは88箇所まわるが、殆どの人が自動車で回る。これは正しくないが、歩こうとすると、1日30キロを1週間連続して歩く体力が必要になる。過疎地のため多くある空き部屋にお遍路さんが泊まれるようになれば、その地域が復活するかもしれない。

安全の確保

  • Airbnbはシステム全体が「信頼」を核としており、この信頼の担保が重要な課題である。150人ほどの担当者がいつも目を光らせ、悪い動きがないか監視している。また、2方向のレビューシステム(ゲストがホストを評価し、ホストもゲストを評価する)が存在する。悪評が立てば、その人は追放され、安全が担保される。ゲストから入金されたお金を預かり、ゲストがチェックインした24時間後にホストに振り込むことにしている。宿泊場所がない、汚いなどの問題がある場合は、ホストに支払われない。
  • サイバーエージェントクラウドファンディングによると、クラウドファンディングで集めた資金を持ち逃げするよりも、オレオレ詐欺のほうが効率が良いため、犯罪者が紛れ込みにくいそうだ。

電波 新しい電波利用:公共安全無線システムの革新 Marcel Verdonk(Motorola Solutions, Senior Director)

日時:11月6日(木曜日) 午後6時30分~8時30分
場所:アルカディア市ヶ谷(私学会館)
司会:山田肇(東洋大学経済学部教授、ICPF理事長)
講師:Marcel Verdonk(Motorola Solutions, Senior Director of Strategy Asia Pacfic & Middle East)

冒頭、Verdonk氏は資料を用いて次のように説明した。資料はこちらにあります

  • モトローラ・ソリューションズは1928年9月創業。85年の歴史を持ち、日本における事業展開も50年を迎える。政府官公庁及び企業向けミッションクリティカル無線通信事業をグローバルに展開。警察、消防、軍などのパブリックセーフティ(以下PS)向け無線ソリューション事業をビジネスの中核としている。
  • いつでも使用でき、セキュリティが高い無線通信システムがPS機関として必要。過去は情報源である市民からの緊急電話連絡をパブリックセーフティの指揮通信室で受け、現場担当官へ無線によるグループ通信にて指示伝達する一方通行のコミュニケーションが中心。指揮通信室から現場担当官への連絡は、各国独自の無線規格によるアナログ・デジタル無線機、ダイレクトモード・トランキングモードで運用され、その他無線LANやブルートゥースも活用されている。
  • 9.11米国テロ発生における対応の教訓として、大型ファイルの送受信やビデオによる情報収集及び伝達の要求が高まり、マルチメディア機器とコラボレーションした情報伝達を実現すべく、PS向け無線ブロードバンド通信システムとしてPS LTEが誕生。PS LTE実現には2種類の構築方法があり、インフラも自前で構築する「プライベートPS LTE」システムと民間商用LTE網を活用した「PS Grade LTE」システムがある。また、これら両方のシステムを連携させたハイブリッドモデルも構築可能である。
  • 「PS Grade LTE」の一番のメリットはインフラ構築コストの低減。国土が広大な場合、インフラ構築コストに巨額の費用がかかる。また周波数がPS LTEに容易に割り当てられない場合も、民間商用LTE網の活用で低コスト、早期構築が可能となる。「PS Grade LTE」は、民間商用システムを活用するため、緊急時の優先接続アプリケーションの導入や瞬時に接続するためのPTTボタン(プッシュ・ツー・トーク、業務用無線の直接通信・ダイレクトモードのこと)、及び様々な通信機器との相互運用性の実現が必要となる。
  • PS LTEの構築要件は、広い通信カバレッジ、端末間同志(End to End)のセキュリティ通信、災害に強いインフラの構築、十分なUp Linkトラフィックの確保、過酷な環境でも使用可能な堅牢なハード端末などである。
  • PS LTEの導入が加速している。ブラジルでは陸軍がサッカーワールドカップ及びオリンピック開催に向けにPS LTEを導入。また韓国もフェリー沈没事故を契機に「プライベートPS LTE」構築を決定した。「プライベートPS LTE」システムは、イスラエル・シンガポール・ブラジル(陸軍)・韓国で、PS Grade LTEシステムは、西欧諸国・オーストラリア・ニュージーランドで、ハイブリッドモデルは米国・アジア諸国で採用されている。
  • 近年、日本では地震、台風による洪水や土砂災害、そして火山の爆発など大規模な自然災害が起こっている。またオリンピックも控えている。政府が次世代緊急無線通信システムとしてPS LTEの必要性を認識するならば、全国的エリアの構築と周波数割り当てを鑑み、NTTドコモ、AU及びソフトバンク等の携帯電話キャリアのLTEネットワークを活用した「PS Grade LTE」システムの導入を検討すべきと考える。これにより早期導入も視野に入れられる。

講演後、以下のような質疑があった。

PS LTEとダイレクトモード、既存のシステムとの共存
Q(質問):PS LTEでコアネットワークを使用すると、大規模自然災害でコアネットワークが故障すると使用できなくなる。既存の警察・消防無線のように、トランシーバ的なダイレクトモードがあるほうがよいという意見についてどう考えるか?
A(回答):既存の警察・消防ナローバンド無線でも、実は、コアネットワークのインフラを利用しているので、インフラが故障するリスクは同じである。また、ナローバンドの音声通信では端末間でのダイレクトモードができるが、LTEでもVo LTEでダイレクトモードが可能である。
Q:欧州でテトラシステムとPS LTE両システムを活用するという場合、テトラシステムをカプセリング化してLTEネットワークに接続できるようにするのか、又は1台の端末でテトラネットワークとLTEネットワークが使用できる形になっているのか?
A:両方のネットワークを、1台で活用できる端末で運用したいというのが、世界的な要望トレンドである。現在、テトラネットワークとPS LTEの両方を1台の端末で利用できる製品はないと思うが、近い将来どこかのメーカーが開発してくると考えている。現在は、テトラの端末よりPTTでPS LTEの端末に接続して利用することが可能となっている。その逆ももちろん可能。

日本におけるPS Grade LTEの可能性
Q:日本に対して、すぐにLTEに割り当てる周波数がないので通信事業者のネットワークを利用してPS LTEを構築するとういう提案があったが、日本にはNTTドコモ、KDDI(AU)、ソフトバンクの3社がある。その3社とまとめて契約して、どこかがダウンしてもどこかが運用可能であれば利用できるということは可能か?
A:オーストラリアでは現在テレストラ社1社だが、アメリカではベライゾン、T-Mobile含め複数社のネットワークを利用している。日本ではLTEネットワークを所有する通信事業者3社とPS LTEコアネットワークを組むことに技術的問題はない。自然災害時に運用できるよう、複数社と相互運用性をもたせることが最適と思う。
Q:オーストラリアにはテレストラ1社ではなく、ボーダフォンなど複数のLTEネットワーク事業者があるが、何故テレストラ1社と構築しようとしているのか?
A:オーストラリアの場合はテレストラのみがPS LTEに興味を持ったので、テレストラとPS LTE構築を進めている。また、テレストラのネットワークは容量が大きく、PS LTEをシステム化しても問題ない点もあげられる。
Q:日本の携帯電話通信事業者3社と相互運用性を持たせた場合、セキュリティに問題は起こらないか? 3社とPS LTEと構築する場合、通信事業者毎の独立したPS LTEを構築したほうが良いか。それとも相互運用性を持たせたほうが良いか?
A:可能性としてはどちらも検討すべき。日本では現在PS LTE専用の周波数が割り当てられていないので、1社、2社、又は3社すべての選択肢の中で良い選択をするべきと思う。
Q:オーストラリアでは山火事、日本では地震や噴火など災害に違いがあるが、同じようにPS LTEを構築できるのか?
A:様々な自然災害の可能性や予測によって、その災害が起こりうるエリアに堅牢なインフラを構築し、標高の高い位置にインフラを持ちあげてエリアを大きくカバーすることや、容量を大きくしておくなど検討すべきと思う。もちろんその前に、通信事業者とともに、災害が起こりうる場所を調査することが必要になる。
Q:将来的に予想される都市型テロの備えとして、また災害の備えとして、地下鉄やトンネル内でのカバレッジについて、より中まで届くようにしたほうが良いと思うが、そのような場所まで独自のPS LTEネットワークを構築するのか、商用のLTEネットワークを活用するのか?
A:地下鉄やトンネル内をエリアにしたほうが良いという意見には完全に同意する。各国の状況や都市の状況によって異なってくると思うが、また省庁の構築要件次第だが、カバレッジ、予算とコスト、設計を検討して、商用ネットワークがそのようなエリアもカバーしているのであれば活用することを検討すべきと思う。
Q:携帯電話の帯域は既に不足していて、第5世代で1000倍のトラフィックを賄うための動きがでてきている状況で、どのようにプライベートPS LTEを構築したらよいか?
A:可能性はある。長期間での検討が必要だが、国の周波数の割り当てテーブルがあると思うので、それを再検討することで変化が起きるはずである。技術の進化によって周波数の空きがでてくるのではないか。各国で状況は異なる。
Q:オーストラリアで商用ネットワーク上にPS LTEコアを構築している話があったが、誰が商用ネットワーク上のPS LTEのコアを運用・保守を行なっているか?
A:オーストラリアの場合はモトローラが運用保守を行っている。これは非常に珍しいケースで、これまでオーストラリアの無線システムをモトローラが運用してきた経緯があり、モトローラでPS LTEコアの保守管理を行っている。PS LTEを構築した後は、構築した客が主導権を握って運用保守を独自に行うやり方があるし、通信事業者とモトローラとで共同運用・保守する方法もある。その場合には、客が運用保守について介入できるというような条項を付ける。客がどれだけのコントロールしたいのか、どういうやり方が良いと思っているのか、また、どれだけテクニカルなことを理解しているかで、形態は異なってくる。

PS LTEが提供するアプリについて
Q:3GPPを国防で使用する危険性を教えてほしい。公開された技術情報を用いて作ったネットワークだと、悪意を持った国や人が情報を盗み出すことがあるのではないか?
A: PS LTEはセキュリティを高くすることができる。セキュリティレイヤーも勿論あるし、デバイスで小さいスロットを設けて暗号化することもできる。非常に高いセキュリティで、侵入者を阻止することができる。既に世界で、国防にLTEを導入している。また、この10年間くらい前から、商用のLTEシステムを、セキュリティを高めて軍隊などで運用している。また、例えばアプリケーションレイヤーでセキュリティをかけることもできる。
Q:PS LTEに音声、ビデオ、テキストなど様々なアプリケーションをのせるのか?
A:その通り。災害被災者を救急車で搬送する際、被災者の状態をビデオで撮り、病院に送ることで、あらかじめ病院手術室で救急医療の準備をすることが可能となる。
Q:講演に出てきたプレディクティブポリーシングとシチューエショナルインテリジェンスについて詳しく教えてほしい。
A:プレディクティブポリーシングは、指揮通信室に入ってくる様々なデータからパターンを読み取り、事前に設定したあるトリガーをで、決めた行動を起こすこと。ある地域で無線のトラフィックが多くなったら事件又は事故が起きたということで、他の地区にいる警察官をそちらに向かわせる。夜8時に交通事故が多く起こる場所が判明したら、その時間にパトカーを巡回させるなどで、注意を促したり、事故に備えたりすることが可能となる。シチューエショナルインテリジェンスは、パトカーが街を巡回し、犯罪多発地域に入ろうとしている場合に、危険地域に近づいていることを知らせる警告音やメッセージをだすなど、GPSとの連動で自動的に警告を出すアプリケーション等が実例。犯罪者が近くに潜伏している可能性がある地域であれば、それを教え、指揮通信室から応援を向かわせることもできる。
Q:PS LTEとして、アイフォーン端末やアンドロイド端末がある、3GPPの周波数を使用することの有用性についてはどのように考えられているか? 200MHz帯域でLTEを行おうとするところもあれば、欧州のように400MHz 帯域で行おうとしている地域もある。
A:3GPPにすればコスト効率が高まる。各国独自の規格にしてしまうと、購入する省庁のコストが高くなる。インフラもそうだが、3GPPのようなワールドワイドな規格になると、多くのベンダーが3GPPに準拠した端末を供給することが可能となるので、客も選択することが可能となる。
3GPPで商用ネットワークを活用する際、災害現場に救助に行かれる職員は非常に堅牢で、瞬間に接続できる緊急PTTボタンを装備した端末が必要となるが、災害現場には行かない後方部隊はアンドロイド端末やアイフォーン端末で接続して通信することが可能である。

PS LTEビジネスについて
Q:過去日本では独自仕様の携帯端末などで普及に失敗した教訓があるが、日本がインフラを輸出する観点から見たときに2017年に3GPPで標準化完了された後、導入を検討したほうがよいか、今から始めるほうがよいか?
A:今から始めるべき。各省庁はシステムを使用する立場で、ベンダーとしてはそれらの省庁に対してシステムやソリューションを開発していくが、業界にとっては標準化していくことが一番のメリットであると思っている。
Q:モトローラ以外にベンダーはあるか?
A:PS LTEはアメリカから始まったということもあり、アメリカには数多くの競合ベンダーがいるし、欧州でも複数のソリューションを提供するベンダーが存在する。

ビジネス シェアエコノミー:クラウドファンディングの可能性 中山亮太郎株式会社サイバーエージェント・クラウドファンディング社長ほか

インターネットを通じた資金調達の手段として「クラウドファンディング」に対する注目が高まり、海外では研究開発や文化・芸術活動など幅広い分野で活用されています。わが国でも、クラウドファンディングの運用サービスが始まり、注目度が高まっています。一方で、クラウドファンディングによるプロジェクトには、資金調達に成功しても製品開発が遅れるといった、様々な問題が発生する危険性があります。プロジェクトの信頼性を高めるには、運営基準の明確化など、制度を整備していかなければなりません。今回のセミナーでは、中山亮太郎氏に運営会社の立場から、長島剛氏に地域振興の立場から講演いただき、議論を深めていきました。

日時:10月29日(水曜日) 午後6時30分~8時30分
場所:アルカディア市ヶ谷(私学会館)
司会:山田肇(東洋大学経済学部教授、ICPF理事長)
講師:
中山亮太郎氏(株式会社サイバーエージェント・クラウドファンディング代表取締役社長)
長島剛氏(多摩信用金庫価値創造事業部長)

長島氏の講演資料はこちらにあります。

冒頭、中山氏は要約次のように講演した。

  • 英語圏では2009年頃より、クラウドファンディングが始まった。いろいろな形態があるが、貸付型はクラウドファンディングというよりもマイクロファイナンスである。世界的には、クラウドファンディングの中でマイクロファイナンス市場が最も大きい。購買型では、米国のKickstarterが成功事例である。
  • 日本では東日本大震災にあわせて発達していったため、新しい形の寄附として扱われる傾向があった。サイバーエージェント・クラウドファンディングも、「ずいぶん社会性の高い事業を始めたね」といわれたことがある。当社を介して新たなアイデアプロダクトやプロジェクトが大きく育ってもらうことが目標であり、慈善事業ではない。
  • サイバーエージェント・クラウドファンディングは、月間60~100件のプロジェクトを手掛けている。プレゼンテーションシートをアップしてもらい、支援者に魅力的なアイデアかどうかを資金の支援を伴う形で評価するシステムだ。SNSでは気楽に「いいね」を押すが、クラウドファンディングでは金を出すので、アイデアに対する賛同の本気度がわかる。FBの「いいね」と集まる金額に全く相関関係はない。
  • ウェアラブルなどアイデア性の豊かな新製品、/映像・音楽やゲーム・アニメなどのコンテンツなど、みんなが待ち望んでいるものを市場に出すきっかけとしてクラウドファンディングはもっと利用可能性が高い。実際に、中小メーカーの新商品先行予約を兼ねてのプロジェクト、クリエイターによる制作費用やPR費用集めのプロジェクトなどに利用されている。
  • プロジェクトに賛同した人々(ユーザ)には、拠出した金額に応じてリターンがある。このリターンを購入するという売買契約だから、購入型と呼ばれている。プロジェクトが成功するのは購入する人がいるということなので、百貨店のバイヤーなども当社サイトを見て正規販売を申し出てくる。こうして、クラウドファンディングはプレマーケティングとして利用でき、アイデアを創出した事業家が流通に対しても良い条件で商談にのぞめる。流通が強い今までの日本の流れとは逆の作用が働き始めている。お金が伴ったYesの声が集まったエビデンスがあるので販路開拓力がアップする。・新たなサービスとして、「makuake meet up」を定期的に開催している。成功した事業者と大手百貨店・専門販売会社・有名EC企業を引き合わせる場を作っている。
  • 事業家には個別にアドバイスは行う。サイトに載せてもすぐ支援者が集まるわけではないので、事業家自身も情報発信してもらう。昨今のクラウドファンディングの発展はSNSの普及に依ることが大きい。当社の場合、親会社経由での宣伝も行うし、メディアとも親しくしているので、いろいろなメディアで紹介してもらっている。
  • 目標に達しなければ返金するAll or Nothing型と、目標に達しなくても初めてしまうAll in型がある。前者は発注ロット分の資金調達などに利用され、後者はPR費用集めなど、あればあるだけ助かるような場合に利用される。決済種類の豊富さは鍵。クレジットカードだけだと集められる資金は目標の6割程度。銀行振込、ネットバンキング、コンビニ決済も利用可能としている。
  • 最近は金融機関と話すことが多い。購入型クラウドファンディングで資金調達に成功した事業家は売上計画の信憑性が高いから、創業間もない段階でも金融機関は貸出できる。金融機関から、顧客紹介の観点で、提携を求められることも多い。与信上限まで貸出しを受けている会社が新規事業を立ち上げるが追加融資できない状況で、当社を使って資金調達につなげるケースもある。
  • 当社は、集まった金額と15%をコミッションフィーとして受領している。

次に、長島氏が要約次のように講演した。

  • 多摩地域をひとつの「県」としてとらえた場合、「多摩県」は静岡県、四国4県、ニュージーランドと同規模である。この県の地域金融機関として、地域や個人の幸せづくりを求める価値創造事業部が設置され、130人規模である。信用金庫はNPOや生協に近く、地域の人たちが出資している法人なので、地域の活性化のために働くのが責務である。
  • 価値創造事業部では、新製品を生み出したり地域モデルを作り上げた人に、多摩ブルーグリーン賞を授与し表彰している。昨年は、ワンモアというクラウドファンディング事業者も表彰した。
  • 業務のひとつとして創業支援を行っている。事業目的を特定してセミナーを実施し、また、創業の後押しも行っている。ネイルサロン創業セミナーには大勢の女性が集まった。
  • 国や都が創業者に補助金を拠出する施策に認定支援機関として協力している。国が実施している、平成24年からの累計9,423件の創業補助金のうち、多摩信金は228件を手掛けたが、これは多摩地域での補助金受領者の86%を占める。
  • 東京・多摩のおみやげプロジェクトというものがある。多摩土産を検索する人は少ないが、販売業者はよくチェックし、都内のお土産ショップで売られるようになる。これは、地域資源であるお土産を販売業者につなげる、マッチングプロジェクトである。クラウドファンディングは、カネとヒトを、ITを使って結び付けるマッチングツールであると認識している。
  • ITを用いずに、リアルにつなげるプロジェクトが、多摩地域には以前から多数存在している。高齢者のグループが、オリジナルの「一筆箋」一万部?を売るために、3000円会費でパーティを開き、お土産として一筆箋を配布した例があるが、これは、リアルなクラウドファンディングである。立川駅南口のビルオーナーが少額ずつ出資し、(株)まちづくり立川を創業した。ビルオーナーは、立川の価値が下がると家賃が下がるという悩みを抱えていた。会社の事務局長に一橋大学の新卒者を採用したところ、彼女が農産物の直売ショップなどいろいろなアイデアを出し、イベントなども企画協賛するようになった。これも、リアルなクラウドファンディングである。
  • 今日はコミュニティビジネスに関する冊子を配布したが、この冊子の発行費用は賛同した組織が分担し、多摩信用金庫も(全額出してもよいといったが)一部を負担している。だから、この冊子はクラウドファンディングでできている。こうした動きを地域で作っていくと、行政や市民・企業とお金がつながっていくのではないか。
  • その先に、ITを用いたクラウドファンディングがある。名古屋にはmomoという、NPOの金融機関(コミュニティ・ユース・バンク)がある。地元の信用金庫と協力して、NPOの金融機関のあり方について提言する「白書」を作ろうとし、その資金をクラウドファンディングで集めている。まだ、このような事例は多いわけではないが、発展に期待している。

講演の後、次のような質疑応答があった。

事業形態について
Q(質問):サイバーエージェントクラウドファンディングは「購入型」である。購入型の場合、BtoCビジネス事業者が中心で、BtoB事業者は利用が難しい。結果、プラットフォームとしてサイバーエージェントクラウドファンディングを選ぶ事業家も限られる可能性があるだろう。購入型の形態をとっていることの理由について教えてほしい。
AK(回答、中山)投資型への参入は悩んでいる。投資型の場合、お金の「色」が変わってくる。投資家の満足する程度、事業家の信用情報を提供できるか、当社の業務上ワークするかが問題で、会社としてのオペレーションコストがかかる。組合投資はミュージックセキュリティ―ズがやっているが、事業家の監査費用もかさむ。株式型も来年度から解禁される予定だが、悩ましい。配当による還元は現実的でなく、投資家としてはキャピタルゲイン狙いとなる。有望なベンチャーであれば、ベンチャーキャピタルから数億円単位で資金調達可能であり、クラウドファンディングで1億円程度あつめても…という感じだろう。株式型クラウドファンディングで資金調達する事業家は「有望なベンチャー」のステージにはいっていない事業家だが、有望なベンチャーでも上場までいきつくのは経験上1/20程度であり、投資家のモチベーションはあがらないかもしれない。株式型解禁後は、日証協が細かいオペレーション決めるが、運営コストも莫大になる懸念があり、手掛けるプラットフォームがないと利用も進まない。
Q:多摩信用金庫はクラウドファンディングとどのような形で関与していくことを考えているか。クラウドファンディング事業者に顧客を紹介するといった情報提供に特化するのか、資金調達窓口として機能することも想定しているのか?
AG(回答、長島):多摩信金としてやるかどうかは決まってないが、検討はしている。高齢者の窓口としても、信用金庫が有効だろう。
Q:運営会社間での競争のポイントは?
AN:競合する運営会社は100社くらいある。社会貢献感で始める人が多く、出ては消えといった業者も多い。「鶏と卵」論ではあるが、面白い案件を出す事業家(鶏)とユーザ(卵)を抱えている運営会社が強い。
Q:サイバーエージェントクラウドファンディングは百貨店だから、会員多いのが強いになる。一方で、クラウドファンディングで研究開発費用のみ集める、政治資金を集める等の特殊性のある運営会社であれば生き残れるか?
AN:研究開発や政治に興味があることと、クラウドファンディングを利用して出資することとは必ずしもイコールではないと思う。当社は、サイトを訪れることでワクワクするという感覚いかに演出するかを考えている。そいう観点でサービス設計をしている。1週間に1回程度は見てもらえるように、悲壮感のあるものはやめるようにしている。これが生き残るための重要な要素ではないか。

事業家の信用について
Q:クラウドファンディングで資金を集める事業家の信用をどのように担保しているか? Kickstarterは持ち逃げリスクに対し、一定の責任を負うことを宣言しているが。
AK:当社の場合は2つのバリアがある。犯罪するには、金額規模が小さく、非常に効率が悪いため、詐欺目的の者はクラウドファンディングを利用しない。もう一つはコミュニケーションで、当社がしっかり審査している。提案する製品に関する経験はあるか、必要なメンバーはそろっているかなど、ベンチャーキャピタル投資での審査と同様のイメージであると理解してもらえばよい。毎月300件程度チェックしている。資金を渡した後に生産が遅れがちになる場合には、事前アナウンスさせるように、進捗を管理している。遅れるのであれば事前にユーザに告知するよう言っている。
Q:地域金融機関は地域の事業者がよく見えているから、信用問題は起きにくいかもしれないが、クラウドファンディングが普及していく過程で、事業者の信用をどのように確認(担保)できると考えているか?
AG:多摩信用金庫は、地域の中の安定株主となるために投資する場合がある。しかし、クラウドファンディングという形で投資を仲介することを業として行うことは認められていない。だから一般論になるが、小口分散がポイントと考える。一人が1億円出資するのと、10万円ずつ1000人が出資するのでは、出資者のリスクは大きく違う。それに、地域密着のクラウドファンディングであれば、地元住民とつながっているので、あまり心配していない。
Q:途中で資金ショートを起こし製作できないこともあると思うが、成果物の引き渡しは義務か?
AN:特定商取引であり、売買契約に該当するため、必ず手元に渡さなければならない。利用規約には、最悪渡らないかもしれないと書いているが、そうならないようにコントロールしている。
Q:そのようにリスクが高いのであれば、寄附型の方がうまくワークするのではないか?
AK:成果物をもらえた方がうれしい。集まる金額に10倍くらいの開きがある。

全国と地域の関係について
Q:サイバーエージェント・クラウドファンディングの場合、ユーザは全国に分散していても構わないので、ニッチなプロジェクトでもユーザが探しやすいだろう。一方で、どこかの地域を特定してのプロジェクトは存在するのか?
AK:「応援してくれる人はだれだろう」、という掘り起しをまず行う。十勝と群馬での映画案件では、十勝の場合は十勝住民と出身者をターゲットにした。群馬の場合は太田市出身在住者、主演者ファン、監督のファンをターゲットにした。このように、「応援してくれる人はだれだろう」を最初に考える。一方で、アメーバ会員には、あまねく案件を告知している。
Q:地域を限ったクラウドファンディングでは、ニッチな支援者が集まらないかもしれない。大手のクラウドファンディング運営会社と提携することはありうるだろうか?
AG:もちろん、ありうる。一方で、多摩住民は、新宿に行くときは「東京に行く」というように、東京住民ではないと思っている方も多い。中には、多摩の船であればどんな船でも乗るという人もいるし、多摩信用金庫も同じ思いを持っている。
Q:多摩信金の事業モデルは他地域へのモデルにもなると思う。全国に横展開していくようなことは考えているか?
AG:信金同士営業エリアはほとんど重なっていないため競合しない。他の信用金庫から視察が多く、多摩信用金庫は事業モデル全てを公開している。全国に行って講演もしている。地域金融機関のいいところである。

購買型クラウドファンディングと権利
Q:アニメーション業界は積極的にクラウドファンディングを使っているが、制作したコンテンツに付随する著作権はユーザに分配する必要はないのか?
AK:権利は渡さなくてよい。エンドロールに名前を載せるといった約束をしっかり実行するだけでよい。制作資金をクラウドファンディングだけで集めることには危険がある。失敗することが判明しても、資金使途が縛られていることから制作しなければならないという状況に陥る。ここが悩みどころである。一方、クラウドファンディングで宣伝費を集めるのは、プロモーションにもなるので良いと思う。
Q:特許取得費用として資金を募るケースはどうか?
AN:投資家の投資モチベーションがないため、ワークしないだろう。BtoBビジネスは汗臭く泥臭くやったほうがが資金調達しやすい。

その他
Q:外国人をユーザとすることはありうるか。目的を持った旅行者たちから資金を集めることはできないか?
AK:「日本でこんなツアーをやろう。クラウドファンディングで100人集まったら実施する」というプロジェクトは可能性がある。問題は旅行業法の登録が必要かもしれないこと。とか。当社のツールを旅行会社に提供することで問題解決できないか検討中である。また、当社のサイトは、外国からユーザを集めるために、年内をめどに、英語版を作成中である。
AG:多摩地域の旅館業者へのヒアリングでは、宿泊者の3~4割は外国人になっている。多摩地域には酒蔵が7つあり。立川あたりの宿泊者を酒蔵に連れていけば、外国人観光客と多摩地域のつながりができる。

行政 マイポータルとトラストフレームワーク 楠正憲内閣官房政府CIO補佐官ほか

日時:10月3日金曜日 18時30分から20時30分まで
場所:アルカディア市ヶ谷(私学会館)
司会:山田肇(東洋大学経済学部教授、ICPF理事長)
講師:楠正憲氏(内閣官房 政府CIO補佐官)
満塩尚史氏(経済産業省CIO補佐官)
日時:10月3日(金曜日) 午後6時30分~8時30分
場所:アルカディア市ヶ谷(私学会館)

楠氏の講演資料はこちらにあります満塩氏の講演資料はこちらにあります。

楠氏は次の通り講演した。

  • 共通番号の利用対象範囲は、法律で、社会保障と税、災害の分野に限られている。これらの分野では、新規データは正確に紐づけることができるだろう。しかし、既存の社会保障や税のデータには番号が紐付いていないので、たとえば消えた年金のような、矛盾した過去のデータの修復には個人番号は役立たない。データがきれいになるには時間がかかる。
  • マイナンバー等分科会では、マイポータル・マイガバメントを議論しており、使われるサービスを目指している。個人番号カードの普及を強化し、投資に見合う効果を出す必要がある。中間とりまとめでは、カードの一枚化、民間利用、マイガバメント、スマホ・タブレット対応、高齢者への配慮などをうたっている。利用頻度が低いと使ってくれないので、如何に利用を促進するかが課題である。
  • 利便性の高い住民向けのサービスを開発する必要があり、たとえば、引っ越しワンストップでは民間連携が必須になる。マイナンバー制度の情報提供ネットワークシステムでは民間との接続について考えられていないが、日本郵便のデジタル郵便サービスなども提案されている。国が提供するマイポータルで全てのニーズを満たすのは無理。自治体の参加、連携が必要で、先進自治体の成功を横展開するのがよいと考えている。国が大きなマイポータルを丸抱えしてもうまくいかない。誰かが決めることで先に進める領域、たとえばデータ標準やAPIの提供形態などを国が決めて、自治体や民間の力も借りながら、総合的なサービスへと育て上げていくのが現実的ではないか。
  • 個人向けのサービスについては、誰が手続するかを考え直すべきだ。窓口の大事な役割は、申請を受理するだけではなく住民に制度を説明すること。本人による申請を前提としてしまうと、申請の頻度が低く手続きを習熟するメリットの小さい個人からの電子申請は伸びない。例えば出生届は個人ではなくて、病院がやればよいかもしれない。不動産屋がサービスの一環で、転居届を提出すればよいかもしれない。当事者による完全セルフサービスよりも、人が介在するほうが、成功確率が上がるだろう。
  • 法人番号はプライバシー問題もなく、オープンなので、個人番号よりも先に利用が進むだろう。法人版のワンストップはニーズがある。源泉徴収票と給与支払報告書の提出など、日常的に利用し普及していくだろう。

満塩氏は次の通り講演した。

  • トラストフレームワークの検討としては、官民連携と民民連携が含まれる。官民連携は、マイナンバー制度と民間の連携を視野に入れて経済産業省で検討している。マイナンバーの利用はホワイトリスト方式であり、行政は名寄せで使うが、民間側は名寄せで使ってはならない。民間に名寄せに利用されることなく、マイナンバーの官民連携を進めるために、トラストフレームワークが必要になる。IT戦略でもIT利活用の推進として明記され、経済産業省と総務省で担当している。
  • アイデンティティ連携トラストフレームワークは利活用と安心流通のバランスを実現するものだ。アイデンティティは属性情報の集合体であって、パスワードは属性情報には含まれない。パスワードを渡すというのは誤解である。
  • 信頼できるIDプロバイダーが、必要な属性情報だけを、信頼できるリライングパーティに提供する仕組みが、アイデンティティ連携トラストフレームワークである。現在もID連携はできるが、参加企業の信頼性確認は個別に整備しなければいけない。ここを国が支援するべきである。
  • トラストフレームワークを用いれば、海外からの来訪者からに宗教を配慮して食事を提供するなどの個別サービスを実現する、災害時に個別に避難誘導するといったことが可能になる。そのIDを持つものが実在していることが、このようなサービス提供のそもそもの前提であるが、第三者が本人確認した属性情報を使えば、ネット上で実在性を確認できるようになる。非競争領域の、公共データ(属性データ)を連携すれば実在性を確認できる。
  • 保険会社や銀行との連携、財務資産情報の活用でライフプランサービスを提供といった民間サービスが、マイポータル・マイガバメントと連携することで生まれてくると考えられる。マイナンバーを直接は使わない、したがって民間は名寄せできない、マイガバメントトラストフレームワークも提案している。

その後、以下のような質疑応答があった。

Q(質問):引っ越しのワンストップサービスなどでは、民間企業に情報が提供されるが、そのために、本人の同意が必要になるのか?
A(回答):同意は必要であるが、どのようにいつ同意を得るかは、ユーザ視点で考える必要がある。いずれにしろ、官民連携は同意取得が前提となる。
Q:先進的なモデルを横展開するというのに賛成だが、先進的なモデルは、いつから取り組むか? どのように横展開するのか? 国の役割を早めに明確化する必要があるのではないか?
A:国の取り組みを待つ必要は無い。国は、先進自治体の取り組みを紹介していく。たとえば、千葉市のオープンデータのレポーティングでセールスフォースを採用したといった事例も出てきている。自治体をまたがっての共同利用で、割り勘効果が出るようにしていきたい。
Q:トラストフレームワークでは、登録の段階で、マイナンバーの有効性を確認する必要があるのか?
A:マイナンバーをもらう必要は無い。マイナンバーとも紐付かない。しかし、その結果、リライングパーティの間では同一人物の特定ができないようになる。
Q:マイナンバーは、DVなどの事情によって変更はできるのか?
A:マイナンバーの変更は可能だが、夫婦間の秘匿は難しい。マイナンバーは悪用されないよう利用や閲覧を制限しているし、DV被害者は別の制度でも保護している。
Q:マイナンバーによって、どのような効果が生まれるのか?
A:住民の負担軽減、行政の事務処理負担やミスの低減など。試算では効果の方が大きいと出るが、業務改革次第であって、これが課題である。マイナンバーの利用範囲拡大で、本来のメリットを出していきたいと考えている。番号を入れただけでは何もよくならないが、業務改革、自治体のシステム刷新、情報連携ありきの制度整備ができることで、効果が生まれると考えている。
A:現状は効率的な社会システムができていないのが問題で、連携ができるようになることで変化が生まれるのを期待している。番号があること前提に新たな仕組みを構築する、たとえば、収入を把握すれば、無理ない奨学金返済額が決められる。どうやってこのタイミングで業務改革しようか、と考える自治体が増えてきたことを歓迎する。
Q:税務関係でのマイナンバー利用が先行するのだろうか?
A:所得捕捉は付番だけでは難しい。付番だけで大きな効果が生まれることはない。
Q:扶養関係の捕捉でマイナンバーを活用したいと考えている。自治体事務の効率化を進めるにも、自治体間連携が必要になるが、マイポータルの中でどのように行われるのか、自治体にいつ情報提供があるのか? 一方で、住民側のメリットは出のように高めるのか?
A:住民のメリットを示すのは難しく、模索段階である。もともと、バックオフィス連携が目的だったが、民主党政権時代に、住民からみたメリットを出すために、プッシュ型、ワンストップといった行政サービスを打ち出した経緯がある。実際には、マイガバメントはまだ議論の初期段階だ。行政サービスなので息の長いシステムが必要になる。年金や生命保険のような長期間のデータ維持は大変な仕事である。まずは、これに利用するのが適切である。
Q:マイナンバー制度では業務改革が重要になる。業務改革が無いままマイナンバーがスタートすると、国民ががっかりする。どうやって推進するのか?
A:現在は各省庁で優先順位を付けて必死にやっている。一度に進めるのは難しい。政府全体での優先順位付けが必要と考えている。