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オンラインセミナー「デジタルでアップデート:わが国のDXを進めるために」 河野太郎前デジタル大臣

開催日時:2025年2月4日火曜日 午後7時から1時間程度
開催方法:ZOOMセミナー
講演者:河野太郎前デジタル大臣
司会:山田 肇・ICPF理事長

講演と質疑を通じて河野前デジタル大臣は下記のような主張を展開された。なお、以下の記述の責任は司会(山田 肇)にある。

  • 「本人確認ができない三文判」の押印を求める行政手続きの慣行を廃止した。その他のアナログ手続きについても、それぞれ法制度を改正することで、1000件以上の行政手続きをデジタルに移行させた。
  • 出産届のデジタル手続きはすでに導入されている。死亡届も、さらにその先の遺産相続手続きなども、デジタル化を進めていくように、必要な法制度の改革を進めている。
  • 一日100万件を超えるコロナワクチンの接種実績を即日集計するシステムを、小林史明議員のリーダシップに委ねてアジャイルに構築した。日本のITベンダーは大手、下請け、孫請けが重層構造になっている。これが、アジャイル開発が受け入れられない原因で、その突破には政治力が必要だった。その他、フロッピーディスクの廃止なども進めてきた。
  • しかし行政DXの進捗は遅い。原因の一つは国家予算。1990年から通常予算の規模は40兆円増加したが、その大半は社会保障に回され、各府省がデジタルを導入する予算は限られていた。
  • メディア、特に上層部の理解不足も原因。マイナンバーの紐づけミス8000件について他国からは「ミスは限りなく少なかった」と評価を得たが、国内メディアは大問題と指摘した。また、全国保険医団体連合会の主張も、特定の左派政党との関係に触れることなく報道するなどして、マイナンバーの普及を阻害してきた。
  • 原因の第三は、現行の規制を変えたくないという勢力の存在。役所が変更しようとしても、企業側がついてこないという事態がしばしば起きた。DXでもっと便利になると、政治家がきちんと説明する必要があるし、企業や国民に教育機会を提供して「変化を恐れない気持ち」を育てる必要がある。
  • 銀行口座番号を他人に知られても怖さを感じないように、「マイナンバーを他人に知られても怖くはない」と国民が理解できるような政府広報を充実していく必要がある。「マイナバー秘密主義」と誤解されている法制度も改善するのがよい。
  • 第四の原因は「地方分権」。地方分権だからと1741のシステムを並行して動かす大きな無駄があった。たとえば住所の表記も地方公共団体ごとに少しずつ違う。このような相違が集積して、システムを統一するという方向になかなか動かなかった。「無理をしてもシステムは一つに統合するが、意思決定は1741それぞれに委ねる」というようにすれば、DXと地方分権は両立する。
  • 中長期的には子どもたちへの教育が重要である。日本の大学は文系と理系に分かれ、文系はデジタルについてほとんど学ばない。しかし、考古学でさえ、デジタルを活用して研究が進んでいる時代である。DXについて基礎知識を全員が持つように教育全体を変えていく必要がある。
  • 少子高齢化が進み、供給過剰の時代になった。需要が過剰だった昭和時代には人々はバス停でバスを待ったが、供給過剰であればバスが人々をピックアップするように巡回すべきである。需要が可視化されるのが特徴のライドシェアは、そんな考え方で導入を進めている。物流なども同様。供給過剰時代だからこそDXが必要であり、それを進めるために古い規制を廃止することが求められている。技術を最大限利用するように規制を変えていくというのが、正しい方向である。
  • 難民キャンプを訪問して、一人ひとりを虹彩で識別してサービスを提供しているのに驚いた。わが国のDXは難民キャンプのレベルにさえ進んでいない。力を入れて改善していく必要がある。

企業見学会:株式会社stu 竹内宏彰VP of Production Divisionほか

見学先企業:株式会社stu
住所:渋谷区千駄ヶ谷4-20−1 Verdex神宮北参道
対応:竹内宏彰 VP of Production Division、早坂篤(Corporate Planning)、金子鉄平(Post Production Producer)

最新の映像スタジオ(https://www.dots-and-line-studio.com)見学の後、主に以下について話を伺い意見交換した。

  • リアルな前景とバーチャルな後景を合成した映像などが自由に作れるようになった。紅白歌合戦などでも利用され、映像の新時代が始まっている。
  • ライブコンサートの準備段階でもデジタルは活用されている。ホールと舞台、演者をデジタル映像として重ねてシミュレーションすることも可能になっている。
  • これらデジタル映像技術を利用してコンテンツをクリエイトしていくクリエイターに、最新の機器を揃え居心地のよいスタジオを提供している。多様なジャンルのクリエイターが集い共同して新しい映像を生み出している。
  • 日本のコンテンツ産業最大の問題は、国内市場に閉じてビジネスをしている点である。クリエイトした映像を海外にどのようにマーケティングしていくかという点に弱みがある。同社は海外マーケティング人材も積極的に雇用し、ここに力を入れている。
  • 中長期的には映像界における大谷翔平的なグローバル・プレイヤーを育てていく必要がある。可能性の高い国内外の若者を国内外のエキスパートが教育するクリエイター育成システム構築の過程である。その中から突出する日本人のスター・クリエイター「大谷翔平」が生まれていくと期待している。
  • 可能性の高い若者には大胆に投資していく必要がある。日本のコンテンツ産業は大御所への投資に偏りすぎており、この点も是正する必要がある。

オンラインセミナー「デジタルでアップデート:大規模言語モデルでスキルを拡張しよう」 荒川大輝 NTTコミュニケーションズ・ジェネレーティブAIタスクフォース長

開催日時:2024年10月28日月曜日 午後7時から1時間程度
開催方法:ZOOMセミナー
講演者:荒川大輝 NTTコミュニケーションズ・ジェネレーティブAIタスクフォース長
司会:山田 肇・ICPF理事長

荒川氏の講演資料はこちらにあります
荒川氏の講演ビデオ(一部)はこちらにあります

冒頭、荒川氏は次のように講演した。

  • われわれを取り巻く経済社会では、顧客ニーズの多様化・複雑化する中でデジタル化が一層加速している。そんな環境下でAIと人間が共存する未来が展望されている。
  • 情報通信白書によれば、企業の70%で生成AIをすでに活用している。1/3の導入企業では社内の生産性向上を実感しているが、自社サービスに導入したことが付加価値・売上向上に結びついたという企業は限られている。
  • 一方で、NTTコミュニケーション調べでは、多くの企業がセキュリティ、生成AIの回答品質・精度、生成AIの使いやすさ(非エンジニアでも使いやすい等)を懸念事項として指摘している。懸念を解決して、一層の活用が進むように支援していきたい。
  • 大規模言語モデルLLMは、大量の例文から次の単語を予測する学習(自己教師あり学習)を繰り返す。それにより、単語や句の意味の理解、文法、一般知識などの言語能力を獲得している。このLLMをさらに大規模化しようという動きがある一方で、企業が社内に置いて活用しようという小規模なSLMへの動きもある。NTTグループのtsuzumiがSLMである。SLMであれば、その企業向けの学習を重ねられる。
  • 外部データから情報を検索してAIの回答を補完するRAG(Retrieval Augmented Generation)などの関連技術も発展している。
  • 新たな対話インタフェースとしてDigital Humanも提供できるようになってきた。出張処理の場合、過去の情報から出張の特性を把握し、出張計画を立て、航空券などを手配し、また出張書類を作成するといったことをAIエージェントがこなしてくれる。
  • AIを活用すれば、コンタクトセンター、店舗や受付、ECサイト、Webでのお客さまお問合せ対応、サポート等、あらゆる顧客接点でのCX(顧客満足度)向上がサポートできる。リアルタイム検索・自動要約・情報抽出により、お客さまの通話待ち時間の削減や応対品質の向上を実現する。
  • 「業務プロセスに適したプロンプト」と「社内ドキュメント活用」によって、企業の生産性を向上し、EX(従業員満足度)向上を支援できる。行政職員は市民に対するだけでなく、議員にも、また同僚の職員にも対応する必要がある。これらがAIによって合理化できる。
  • リモートワーク環境等様々な働き方をセキュアに実現するために、IT運用や社内ヘルプデスクの効率化、高度化をサポートすることもAIの仕事である。専門AIと協働することで、セキュリティ運用の効果が高まり、効率化する。
  • AIが得意な領域と人間が得意な領域がある。⼈とAIがパートナーとして共存し協力することで、、時間とスキルが拡張されていく。人間の同僚のようにAIと協働する未来が展望できる。

講演後、次のような質疑があった。

AIの応用分野について:
質問(Q):電子カルテへの入力を支援するなど医療の業務の効率化を図ることに、AIは利用できるだろうか。
回答(A):診療時に電子カルテの作成を支援する技術などは開発が進んでいる。それに加えて、インフォームドコンセントを支援するという活用にも取り組んでいる。AIがあらかじめ説明のために必要な情報を収集し準備すれば、患者に合わせて説明ができるようになる。また、患者が来院した際の一次対応(診療前の対応)も将来的には可能になる。
Q:一次問診(ヒアリング)の結果を電子カルテに結びつけるアプリはすでに存在する。なぜ広がっていかないのだろうか。
A:私見ではあるが次のように見ている。問診のフローのなかでは、患者とのコミュニケーションが最も大切と思う。アプリには患者ごとに対応を変えるような柔軟性が、まだ備わっていないのではないか。
C(コメント):臨床推論にたけたAIの開発に期待する。
Q:教育でのAIの活用可能性について教えて欲しい。
A:パーソナライズされ、個々人に合わせた教育ができるようになるが、一方で、個々の生徒の機微な情報(成績など)がどこまで活用できるかが課題である。
Q:一人ひとりの子どもに合わせて教育するということであれば、一人ひとりの障害者に合わせて、障害者の不得手なところを生成AIが補完しながら、協働して就労することもできるのではないか。
A:技術的にはあり得る。個人に関する情報を学習して成長していくAIは、まだ発展途上であって。今時点ではできない。
Q:最近の人はマニュアルを読まない。その人に合わせて、その人の疑問に答えるといった、紙のマニュアルではできない取り扱い説明もできるのではないか。
A:マニュアルには間違ったことは書けないので、相手に合わせるといってもむずかしい。一方で、顧客からの質問は積み重なっていくので、それを上手に説明に利用するといったことなら可能である。
C:顧客からの質問に基づいて、マニュアルの改版周期を短くして、顧客に応えるといったことは展望できるだろう。

AIと協働する未来について:
Q:今の学生は、市中にあるいろいろなAIを使いこなしている。企業に特化したSLMは将来まで必要なのか。
A:汎用AIを使いこなしている人がいるのは承知している。しかし、企業内の知識を組み合わせて、使いこなして生産性を向上させるといった企業内での利用には大きな可能性がある。
Q:AIと人間が協働して仕事をするようになると転職はむずかしくなるのか。
A:今は、いろいろなレベル・経験を持つ社員が職場にいて、それらの人間が協力して業務を進めている。そのような環境の中にAIが組み込まれて、AIも一緒に仕事をするようになるということだから、転職には影響しないのではないか。

オンラインセミナー「デジタルでアップデート:センサとAIで健康管理」 伊東大輔 株式会社アドダイス代表取締役CEO

開催日時:2024年9月30日月曜日 午後7時から1時間程度
開催方法:ZOOMセミナー
参加定員:100名
講演者:伊東大輔 株式会社アドダイス代表取締役CEO
司会:山田 肇・ICPF理事長

伊東氏の講演資料(抜粋)はこちらにあります
伊東氏の講演ビデオ(一部)はこちらにあります

冒頭、伊東氏は次のように講演した。

  • インターネットとAIの可能性に感動と衝撃を受け、アドダイスを起業した。アドはAdventure(冒険)で、Diceはカエサルの「賽(Dice)は投げられた」から取った。
  • アドダイスは、いちいち命令しなくても自ら再学習していく自律型AIをSaaSとして提供する会社である。SoLoMon Technology(ソロモン・テクノロジー)として特許も取得している。
  • 深刻な病気ほど早期発見に越したことはない。手遅れになる前にAIで発見する「予兆」を捉えるシステムを開発してきた。もちろん健康管理に利用できるが、同じ発想は設備管理にも適用できる。
  • コロナ禍において、心拍数や血中酸素濃度等をスマートウォッチで測定し、そこから重症度をスコア化し、重症度スコアに基づいて医師の判断を助けるAIソリューションを東京大学、広島大学等と一緒に構築した。それを発展させ、「こころ」と「身体」の健康を見守るヘルスケアAI(ResQ AI)を展開している。
  • AIでドライバーの眠気を予測する眠気スコアの実証実験を、観光バス大手のヤサカ観光バスなどと実施した。
  • 高齢者のフレイル対策、メンタルヘルス対策として、バイタルデータやAIスコアをを家族・かかりつけ医・地域の支援者につなげてサポート取り組みを行った。
  • ボリビア人口が都市に集中し、残りの人々は数百キロ間も離れた町村に点在しており、これら過疎地域の人々が適切な医療を受けられないことが大きな課題となっている。。妊婦の状態をスマートウォッチで測定することで、妊婦の死亡率を低減するプロジェクトも進められている。
  • 名古屋市において、こころに障害のある人たちのよりよい就労をサポートする取り組みも実施している
  • 観光庁採択事業である「医療的知見を活かしたアドベンチャーツーリズムの推進」にも参加した。「こころを可視化するAI」により、ツアー参加者のストレスが軽減したことを、医学的見地から実証できた。
  • 精神疾患を理由とする休職・退職は増え続けている。身体だけでなく心の健康もケアしてこそ、「健康経営」と言える。この分野でヘルスケアAI(ResQ AI)を展開していきたい。
  • 種々のIoTセンサの情報を収集集約するためのデータフォーマットとしてIEC 63430が国際標準化された。これを活用すれば多様な情報を効率よくヘルスケアAI(ResQ AI)に提供できるので、IEC 63430の普及にも同志と共に努めている。

講演後、以下の質疑があった。

質問(Q):大手観光バス会社に雇用されているドライバーであれば、実証実験への参加は拒めないだろう。それでは、測定された個々のドライバーのデータも含めて実証実験の知見が他の事業者でも利用されていくということについて、ドライバーにきちんと説明しているか。
回答(A):きちんと事前説明し、同意を得て、実証実験に参加してもらっている。
Q:運行記録を組み合わせれば、どこを走行中に眠気が増すかであるとか、車線変更や車間距離がおかしくなるとかもわかるはずだ。運行記録との連結も行っているのか。
A:将来構想として、運行記録との連結も想定している。
Q:日常的に眠気を催すことが多いドライバーは解雇するといった利用方法は倫理的ではないと思うが、どのように考えるか。
A:アドダイスが開発中の眠気スコアは、ドライバーの安全を守る上でとても役立つツールだと考える。しかし、その本来の役割は「事故や危険を未然に防ぐためのサポート」として活用されるべき。スコア(AIの解析結果に基づいて)ドライバーを解雇するのではなく、まずは眠気をうまく管理できるようなサポートを提供し、健康的な働き方や十分な休息を取れるようにすることが大切と考える。
A:一方で、高齢ドライバーが増えている背景には深刻な人材不足の問題がある。そのような意味でも、解雇と結び付けるのではなく改善のチャンスを提供することが、企業にとっても良いバランスの取れたアプローチだと考える。
Q:実際に眠気を催していることと、眠気スコアが高くなることには、きちんと相関があるのか。
A:眠気スコアと実際の眠気には相関があるが、その強さには個人差があることは避けられない。そこで、より個々の状況に適した判断を行うために、個別の調整や複数の指標を組み合わせることで、信頼性をさらに高めていきたい。

Q:アドベンチャーツーリズムでツアー参加者のストレスが軽減するという話は興味深い。しかし、ツアーに参加するというのがむずかしい人もいる。日常生活の中で、職場でも学校でも、ストレスを軽減するための行動を促すためにヘルスケアAI(ResQ AI)は利用できるのではないか。

A:その通り。緑の多い道を散歩すればストレスが低減する、きれいな花を数秒見ればストレスが低減する、軽い運動やヨガも効果があるといった、多くのエビデンスが存在する。日常的に心のストレスがわかれば、それをもとにストレスを軽減するための行動を促すことができる。