メディア テレビ局側から見た通信と放送の融合

概要

第1回と第2回のセミナーでは、通信と放送の融合が技術的に可能になっているにもかかわらず、制度的な障害のためにテレビ番組のIP配信が自由にできない現状が明らかになりました。最大の障害は、著作権の問題です。とくに、これまでの議論では、テレビ局が番組の再配信を許可しないことに批判が集中しました。

新しい技術の発展を阻害することは、テレビ局にとっても好ましいこととは思えませんが、彼らの本当のねらいはどこにあるのでしょうか?また、どうすればこうした障害を乗り越えて、通信と放送の融合した新しいメディアは可能になるのでしょうか?今回は、放送業界にくわしい吉井さんにテレビ局の考え方を解説していただき、政策提言の方向を考えます。

講師:吉井勇(月刊『NEW MEDIA』編集長)
モデレーター:池田信夫(ICPF事務局長)

日時:6月16日(木)19:00~21:00
場所:東洋大学白山キャンパス 5号館5202教室
東京都文京区白山5-28-20
地下鉄三田線「白山」駅から徒歩5分
地下鉄南北線「本駒込」駅から徒歩5分
入場料:2000円
ICPF会員は無料(会場で入会できます)

申し込みはinfo@icpf.jpまで電子メールで

レポート

第3回ICPFセミナー 「テレビ局側から見た通信と放送の融合」
吉井勇(月刊『NEW MEDIA』編集長)

テレビの視聴スタイル

テレビ放送50年の中で、視聴スタイルに影響を与えたのは、1975年に登場したVTR、1976年の赤外線リモコン。これらによってタイムシフト・ザッピングのツールが出てくる。1980年代以降、高視聴率番組が減少。こうしてテレビの見方が、視聴率が変わる。つまりツールが変わると視聴形態が変わってきている。

デジタル放送とコピー規制

コピーワンス。デジタル放送では受信したデータをそのままパソコンに入れられるということで、BSデジタル開始直後のときに、SMAPの番組がオークションに出された事が契機となり、著作権管理をしないと番組を提供してもらえない事態になり、コピーワンスのコントロールが整ってきた。一回だけは録画ができるが他の媒体に移すときはデジタルのままではできない。いろいろ録って、編集して、全部を保存しておくという発想ができない、全録文化への挑戦である。

タイムシフトによって、CMを見ないというCM飛ばし問題がある。これはVTRができたころから一貫して言われてきたことで、ビデオリサーチに言わせると、常に指摘されてきたことだ。ただ、HDDによって録画視聴が中心になってくるという技術面の進化は想定に無かった。

多様な視聴スタイルは変化している。

PCで見ている人も多いのではないかと思う。視聴のメディアも変わってきているし、当然、テレビを見ながらネットを見るというダブルウインドウ、マルチウィンドというような見方の変化がある。

地上デジタルになると1セグ放送、車の中で安定してみることのできる技術があるが、これらは額面どおりエリアの隅々まで本当に使えるのか? 衛星電波によるモバイル放送の「モバHO」を借りてみたことがあるが、画面が小さいこともあって画質面はきれい。しかし、見ている途中で切れる。アナログ放送みたいに乱れていけば許せるが、デジタルは突然切れるから冷たい。

NHKは受信料がある。受信機に対して受信料という構造だが、携帯電話受信の受信料はどうするのか? 答えが出てない問題がたくさんある。

視聴のスタイル・サービスが変わるから、そこの議論を詰めていかなくてはならない。サーバー型になればCM飛ばしは当たり前になるのではないか。リアルタイムで観ないということになると、当然民放はいやがる

Q.サーバー型放送の定義とは

A.家庭の中でホームサーバーを用意し、放送と通信つまりネットワークから入ってくるものをCASで管理している状態。4年前までNHKの技研でコンテンツは放送だけを分けて見せていた。3年前から、ネットワークから流れてくるコンテンツと、放送のコンテンツは一緒に家庭の中に届いてくるというのをNHKも大きな流れとして見ている。

Q.それだったら、ライセンス式でCMスキップができなくしたら?

A.ありますね

Q.それを狙っているのでは?

A.9月くらいに規程が作られるので是非そのときに調べてください。

ホームネットワークの時に言われるのがDTCP /IPの検討。家庭にある複数台のテレビを、どこの部屋でもサーバーに蓄積した番組を家庭で自由に見られるようにする。ホームネットワークの中だけでコントロールできるもの(DTCP/IP)をつくりましょうというという動きがある。

Q.ながら視聴も重要な要素であると思うが、メディアは気にしていないか?

A.クライアント側(広告主)が気にしているところはそこ。以前は、CM1本の放映時間はもっと長かった。そもそも民放は、放送時間の18%をCM時間として、全部CMにするのは公共性からだめじゃないかということで自主規制している。収入を上げるためには、1本あたりのCM枠を細かくして、価格のアップを図ってきた。広告主としては、スポットCMが番組が終わったあとでしっかりと見てもらえているのかということになる。広告主側は、あれだけの値段払って、本当に見てもらえているのか、という確証が無いのではないかと主張している。広告主が集まる広告主協の電波委員長だった資生堂の大竹氏(昨年9月に亡くなった)はビデオリサーチの数字だけではなくて、ネットで「どう見られているか」というアンケート調査で実態把握をしようとしていた。このままでは株主訴訟の対象になるかもしれなという意味では、広告の効果の測定の仕方、メディアのコンディションの把握の仕方でいいのか? また、ダブルウインドウの問題、テレビを見ながらパソコンを見ているということでいろいろな相乗効果、シナジー効果がある。

再送信

総務省の発表によれば、マンションのような共同住宅内のケーブル配信を含めて、なんらかのケーブル経由でTVを観ている世帯は再送信だけ含めて五割強。アンテナだけは世帯数では半分ぐらいであるというのが現状。

CATVの再送信について、放送局は区域外の再送信を次のように考えている。地デジでの再送信の原則で言えば、1)再送信同意が原則2)地域免許制度との整合性があるというのが条件になっている。たとえば、富山県は3局のうちテレ朝が無く、ケーブルの18の事業者で100%カバーしている。ではテレ朝はどうやって見ているのかというと北陸朝日放送が金沢の電波を再送信している。アナログではずっとやっているがではデジタルでは? ということで聞いてみるとCATV側はまだ言えませんという。でも本音はもちろんやりたい。これは地域免許制との整合性が問われているからだ。

Q.地域免許とは?

A.放送のエリアについて、そのエリアでの許可。関東は広域圏。東北で言えば青森なら青森、岩手なら岩手という具合に地域で放送電波を用意するかというもの。昭和30年代の初め、田中角栄がどんどん免許を出し、新聞社が放送免許を獲得していったという経緯がある。

Q.再送信をしたときにエリアをどうするのか

A.関西圏の広域民放はそこが心配。関西のケーブルテレビ局はサンテレビの阪神戦を放送したい。一方関西の民放は、広域圏をカバーするため、エリア内の山奥までアンテナを建設しているのに、どうしてサンテレビだけはケーブルテレビ送信でカバーできるのかというジレンマ。関西のもうひとつの問題は、関西電力の光ケーブルを利用するケースが非常に活発ということ。デジタル時代になった時にエリアを考え直してもいいのではないか

Q.エリアの競争規制は無いのか?

A.有テレ法では競合はしないように分配している。エリアにほかのCATVの参入は許可しない。地域独占。

Q.光ファイバーで再送信するときに、その光ファイバーケーブル事業者と、従来からのケーブル事業者が同時に同じ市場に出てくることは?
A.それはない。関西圏のケーブルテレビ局が、関西電力のケーブルを利用してエリアを広げている地域がある。表向きはケーブルテレビ局だが、光ファイバー回線は関電。つまり協力しながら広げていっているので対立しない。

同一性保持

加工の危険性、簡単に言えば再送信の際にCMを差し替えてはいけないということ。アナログ時代は技術が未熟だったために、同一性を確保しようという動きがあった。

視聴者負担の最小限-パススルー方式

基本的には、テレビを買ったらそのまま地デジが映るというのがいい。栄村はアナログの再送信ですらしっかりやっていない。これからどうしていくのかが深刻な問題。

自治体が、このままでは条件不利地域にしわ寄せが来るということで、自主的に集まって検討会をして総務省への突き上げ行っている。不利な地域にしわ寄せをしていいのかというのが根本的な問題意識で、IPも含めてどういうことができてどう使っていくかを検討しなければならないと総務省も考えている。
民放は受信の秘匿性の問題や、ネットワークというのは何らかのウィルスが入ってくるかも、という意見を言う人だっている。

視聴者コスト負担の最小化

放送局のは公共性というが、困っているというところに足を運んでいないのがそもそも間違っている。長野県栄村のような場所に足を運んで現実を見て議論しなければならない。民放のローカル、キー局の人もやっていない。

IPマルチキャストについて、文化庁は家庭と結ぶところを通信と判断。そうなればテレビ番組の再送信では、著作権処理は全て検討しなおさなくてはならない。自動公衆送信の技術的な問題について、IPマルチキャストを主張する人たちもわかりやすい説明が求められている。

Q.栄村の再送信サービスを停止の方向に追い込む動機はなんなのか?

A.栄村の問題は、放送局側が論理立てた動機はないと思う。録画ネットの問題はタイムシフトの問題でもある。それに対してどういった権利保持ができるのか、放送局側が主導権を握りたいのではないか。タイムシフト視聴を前提にすると、、放送事業の根幹である編成が意味を失う。自分たちで対抗のビジョンを持っていこう、という流れがあるだろう。

Q.スポンサーはかなり疑問を感じ始めているのではないか。将来、スポンサーはどっち選ぶ?

A.広告主はそこまで考えていないと思う。スポンサーとしては、どれだけの視聴率の番組に広告を出した、というモデルだけ。とは言え、広告効果のある形は放送の仕組みだけではなくほかの手段もある、という認識が育っていくと見たほうがいい。

Q.HTMLは静止画しか入らないけどBMLは動画に同期して入れられる。BMLで相互にやるにはブロードバンドで相互にやると思うが、ブロードバンドと電波またはRFとの組み合わせでできる。BMLがいいのか、ヨーロッパの規格がいいのか。新しい広告の可能性として、同期しながらユーザー絞って相互でやり取りするというのは考えられていないのか?

A.やって成功している例は無いと思う。

Q.単価の非常に大きな価格の広告事業主と、小さな価格の企業主とでは行動はちがうのではないか?

A.例えば、1セグ放送では、どういったところで広告を露出させるか、というところにアイデアが競われるだろう。そこをプロデュースする人も増えてくるのではないか。広告会社といっても地方では企画提案しないで、営業のみの体制。そう考えるとローカルのCM市場は、どちらかというとテレビ局の営業が地べたを這って開拓している。キー局ではキー局の、ローカルではローカルの手法がある。

Q.アメリカのB-フラグ(コピー禁止フラグ)義務の棄却の件どうみるか?(Bフラグ:ブロードキャストフラグ。FCCが全ての電波にフラグをつけてコピーガードが出来る、というものを義務付けようとした。)

A.アメリカではFCCが決めるわけだが、それとは独立して司法の判断もある。アメリカなりの問題へのアプローチであり、解決の仕方ではないか。

Q.HDDコピーに対するスタンスの違いをどうなのか?

A.正解があるわけではない。これが強い、というものが残る。そこに意見を提案できる人が出てくるべきと思いませんか。

デジタル化について

デジタル化を、地上波放送局はやりたくなかったという経緯がある。しかし、デジタル化というのは時代の趨勢。放送がアナログのままだったら、自分たちの利権を温存するのかと非難があったはず。ただ、エリアの市場規模と放送事業のあり方で言えば矛盾がある。デジタル化はそれを再整理するチャンスかもしれない。その時の問題は中継用の15000局をデジタルに置き換えること。例えば、長崎は中継局ひとつの売上は、首都圏に比べて訳50分の1。これでは競争にならない。アナログ放送の拡大は五月雨式にやってきた。免許の募集して手を上げたところがやってきたが、今回は期限を決めてデジタル化をやるわけで、キー局のように投資してもお金があまるところと、年間営業利益が何億という会社では当然差が出る。投資ができないところもでるだろう。

そこで条件不利地域のエリアカバーをどうするか。これはケータイ電話でも、ブロードバンド環境としても深刻な問題。e-JAPAN計画として、条件不利地域の課題を政策的に考える必要がある。

Q.これまでの関連から言うと栄村がやっていることはエリアカバーしたいが、お金がないというときに一番安いコストで、実現するという話。これは認められないのか。

A.多分後2年くらいで変わる。県庁所在地から電波出したときに、カバー率どうなるか、カバーできないときに、(再送信が)なぜできないか、となるはず。現時点での発想が固定されないはず。

Q.なぜ、いつかしなくてはならないのに検討をしない、ちょっと動きが出てきたら訴訟を起こす、となるのか。

A.訴訟はともかく、確実にエリアカバー問題はネックとなる。カバー率がネックになるはず。そのときに論議になる。

Q.これからは、これだけ、というやりかたではなく、様々な選択肢があってのいいのではないか。栄村はあんなに頑張っているのに、なぜつぶすようなことをしているのか。

A.しっかり考えている人たちがいるということは大切。現場に行って、栄村の実際を見てから話をすることが大事。

Q. 地域独占のケーブルテレビ会社は潰れるのではないか?失敗はしないと思うが、東北では潰れたりもしたが・・・これから総務省はどういった対策?

A.ケーブルテレビの始まりは、たまたま東京の電波が受信できるポイントを見つけ、過疎地でも巨人戦の野球が見たといった第一世代がある。そのときは、エリア外の再送信は問題視されていなかった。アメリカではUHFの電波を取れなかった資本がケーブルテレビ事業に着目し、そこに多くの番組を流した。そんなことでケーブルテレビは変質していった。ケーブルテレビ局で黒字になっているところが増えてきた。しかも資本の集中が起こっている。ただし、多チャンネルの有料契約で儲かっているのではなく、電波障害の助成金で儲かっているのが多い。

Q.デジタルに移行した場合のビル影の問題は、保障はどこがするのかという問題は考えられているのか?

A.アナログのようなちらつきは無くなるが、全く映らないというような事態が増えるのではないか。見えない地域が出てきたときに、費用対効果を考えて何をもってくるのか、という選択ができることがいいと思う。そのためには、技術も含めた提言のタイミングが大切になるのではないか。

Q.テレビはインターネットで流すのは一番安くなる。ローカル局も安いほうが良いはず。しかし、キー局はわざわざ高いやり方でやる。

A.その議論についても、タイミングがあるはず。放送の設備はやたら高い。適正な価格なのかどうか、IT入札と同じで入札の仕方を考えるべき。公共性を保つために使うことになっている、機材が高い。特別なサービスをやりたいから払う、という場合であったとしても、基幹的なコストはどうするのか。今の時点で、その論議は難しいだろう。

Q.長野県で言えば、知事は、金が無いからデジタル放送の普及に賛同していない。なぜ一番安い方法を選ばないのか。

A.そのことでいえば、安定性はどうなのなどの問題があるだろう。NHKなどにある“あまねく”のエリアカバーがどれだけ事業として成り立つのか。ローカル局はエリアカバー率が成り立っていなければスポンサーはつかない。そういった場合にエリアカバーをどうやって100に近づけるのかという問題が生じる。そうなると学習をする。そして、新しい技術で低コストでどう取り込むか、という流れもうまれるはず。端的に言うと、放送屋はビデオ技術がわかってもネットワーク技術はわからない。ノンリニア編集がいいとわかっていたとしても、ハングアップしたらどうするか。今のハード機器メーカーは休日でも抱えて持ってくるけど、インターネット系では休みのメーカーもあったりしてね。安定性の問題は運用性もそうだが、トータルな安定性も考えなくてはならない。