知的財産 ハードディスク録画サービスと著作権

概要

昨年10月、「録画ネット」という会社に業務停止を命じる仮処分が東京地裁で言い渡されました。この会社は海外在住の日本人向けに、日本のテレビ番組を録画できるパソコンを売り、それを自社内に置いて海外から操作できるようにする「ハウジング・サービス」を行っていたのですが、それに対してNHKと在京キー局5社が、サービスの差し止めを求め、裁判所が認めたのです。
録画ネットのユーザーは、わずか250人。こんな「すきま商売」をテレビ局がそろって訴えるのは、同様の録画代行サービスが国内でも広がることを恐れているためです。しかし業者は、インターネット経由で録画の操作をしているのはユーザーであり、著作権は侵害していないと主張しています。
ハードディスクとブロードバンドが普及した今日、それを利用した便利なサービスが登場していますが、著作権上の紛争も引き起こしています。どこまでが合法なのか、また制度を見直す必要はないのか、いくつかのケースをもとに考えます。

講師:原田昌信(エフエービジョン取締役)
モデレーター:真野浩(ルート株式会社 社長)
日時:5月19日19:00~21:00
場所:東洋大学白山キャンパス 5号館5202教室
東京都文京区白山5-28-20
地下鉄三田線「白山」駅から徒歩5分
地下鉄南北線「本駒込」駅から徒歩5分
地下鉄千代田線「千駄木」駅から徒歩15分
入場料:2000円
ICPF会員は無料(会場で入会できます)

レポート

「ハードディスク録画サービスと著作権」

録画ネットのしくみ

録画ネットとは海外に住んでいる日本人を主なターゲットにして、テレビチューナー付きのパソコンを買ってもらいそれをハウジングセンターで預かるというサービス。お客一人当たり一台のパソコンを用意する。ユーザーはネット経由でハウジングセンターの自分のパソコンにログインして、録画予約を行う。録画し終わるとネット経由で海外の自宅で再生する。テレビを見る以外にも自分のサーバーとしてコンテンツをおくことも出来る。コンピューターに弱い人や、海外に滞在する人に代わってパソコンを管理する。海外在住で日本にパソコンを置いておくことが出来ない人向けのサービス。

ログインすることによって録画ネットのユーザーかどうかを確認している。1つのIDで多重ログインされたりすると預かっているコンピューターが違法コピーの温床になる可能性があるのでユーザーの確認を行っている。

サービス差し止めに至った流れ

2003年10月ごろ、日本国内で受信機を設置したら受信料を払わなければならないためNHKに受信料について交渉をするが受け取る段階で拒否される。HNKの弁護士と春日氏とで話し合いが持たれる。NHKに受信料を受け取らない理由を尋ねるもしっかりとした答えは返ってこない。

2004年6月、サービス停止を求める郵便が送られてくる。何が問題なのかを尋ねても返答は得られず仮処分の申し立てが行われる。
8月13日、審尋、答弁書提出。
10月7日、仮処分決定。録画ネットがテレビの放送を録画している、複製している主体であり、録画ネットが行っているのは録画代行である。
12月28日、異議申し立て、保全申し立て
2月18日、異議申し立てに対して答弁書
裁判所からテレビ局側はどこまでが白でどこまでが黒なのか、録画ネットはどこが変わったのか具体的に詳しく説明せよとの指示。その変化の程度と放送局が主張する違法合法のボーダーを裁判所が判断すると説明。
3月17日、質問に対する返事を出し、23日、放送局側も返答。
4月11日、二回目審尋。裁判官が変わり、いつ結果が出るかわからないという状況に。
現在、サービスは決定が出た時点で放送局の録画の対象としてはいけないと書かれていたためアンテナを外す。マシン自体はデータ保存として使っている人がいるためそのままになっている。

放送局の主張

複製に用いる装置(TVパソコン等)を録画ネットが用意している。TVパソコンを管理、支配している。アンテナを接続することにより、コンテンツを供給している。操作方法などを解説している。録画ネットは利益を得ている = 録画の主体は録画ネットであると主張。顧客の行為は違法である(パソコンは「公衆の用に供する自動複製装置」)。「インターネットを通じて録画予約、録画が出来る機器を事業者が継続的な直接占有下で管理する」ビジネスは全て録画の主体は事業者であり、違法。

録画ネットの主張

録画ネットのサービスはハウジングサービスである。預かっているパソコンは「公衆」向けではない。零細なクライアントサーバーシステムの寄せ集めであり複製工場ではない。インターネットの発達により私的領域が広がっていると考えられる。「ログイン」を必要とする領域は私的領域。顧客の行為は適法であり、ハウジングサービスも適法である。パソコンは物理的管理が管理の全てではない。本サービスはカラオケ法理を当てはめるべき事例ではない。コンテンツはアンテナ以外からも入ってくる。放送局側の「損害」がまったく不明確。パソコンを設置できる場所を持たない者のみが不利益を被るのは不当。

裁判所の判断

管理・支配の程度から録画しているのは録画ネットであり、録画代行である。機器類は録画ネットが調達している。事務所内に設置している。適切に稼動するよう管理している。TVパソコン以外は録画ネットが所有している。利用者は録画ネットが用意したパソコンしか購入できない。TVパソコンのみの販売には応じていない。設置場所は録画ネットの事務所内のみである。各TVパソコンの内部のハードディスクにファイルとして保存される。TVパソコンには録画ネット製作の共通のソフトがインストールされている。操作できる内容はインストールされたソフトに規定されたもののみである。パソコン返却時にハードディスクが初期化される。

ディスカッション

地域性の問題

Q. 論点がいくつかある。私的利用の範囲なのか。著作権を損なっていないのではないのか。放送の権利、地域性の侵害が大きな問題になるのではないか。

A. オリンピックやワールドカップの前になるという話はあながち笑い話ではなく、NHKと受信料の支払いなどについて話し合っていたが、受け取りの段階で拒否され、2004年6月になって急に「オリンピックが始まるから困る」とNHKから連絡があった。その後サービス停止を求める内容証明郵便が送られてきた。

私的利用の範囲について

Q. 身内が海外にいる場合などの私的コピーの範囲についての判断はなされているのか。

A. 抽象的な判断はされていない。しかし、例えば親が日本のテレビ番組を録画してそれを自分の子供に(テープなどを)送るのは本来ならば違法だとテレビ局は主張している。

Q. 私的利用の範囲は技術の発展によって広がっていく事は否定できないと裁判官は言っているのだから、そういう意味では認めているのでは。

A. 違法か、合法かを議論しても仕方がない。それはIPマルチキャストが違法か合法かを議論しても結局判断するのは裁判所であり、今回も私的コピーかどうかを判断するのは裁判所。

Q. 事業者でなければ問題ではないのか?

A. 事業者かどうかというよりは、金が動くと問題になる。win-winの関係とかそういう問題ではなく、放送局は全部自分たちが取りたいそういうスタンスでいると思う。

Q. 技術的にインターネット越しに放送が見られるようになり、装置が沢山出てきて、インフラという観点からしても何らかの形で助けを得ないと情報通信の良さを享受できない。ところがテクノロジーや通信法や電波法とかの側面とは別に放送に関して言えば著作権・地域放送権がネックとなっている。

クロムサイズの事例

Q. 選撮見録(よりどりみどり)のサービスはどのようなものか?

クロムサイズ 寺田:選撮見録(よりどりみどり)が録画ネットと大きく異なるのはサービスではなく、あくまでシステム販売であるという点。また、マンション内のLANなので、インターネットではない。マンションの中にサーバーを設置し、一つのサーバーに対して最大50クライアント。管理人室やMDFに設置、ユーザーの部屋にセットトップボックスを置くという構成。ユーザーは、リモコンで操作で個々に録画した番組を閲覧できる。ユーザーは個々に先ず録画予約をしなければならない。全局録画モードというものもあるが、これも同様に、ユーザーの先行録画により録画されるものである。放送各局からは、私的録画の範囲を超えているという訴訟を起こされているが、我々はあくまで、ユーザーによる私的利用範囲内であると考えている。

原田:放送局はスポンサーがどういうコマーシャルを打つのかを提供したいがために、こういったサービスを潰そうとしているのか

寺田:放送局側はそのような主張まではしていない。単に、私的利用を超えてい
るといわれているが、著作権法のどこに抵触しているのかまでは言及していない。
販売差し止めを要求はされているが、導入済みのユーザーについては、損害賠償
対象にはしないと言っている。

ユーザーの権利と主張について

Q. 法整備が追いついていないからこういった問題が起こるのか、それ以外に既得権益、利益の取り合いが問題なのか。ユーザー側からの権利の主張という可能性があるのではないか。

A. 財産権という意味でも、買ったものでも自由に利用・使用できる。なんでこういった使い方が出来ないのかという主張はある。

Q. もともとの法律の趣旨の創作者にインセンティブを、一方で文化の向上のためアウトプットをというバランス論がどこかにあると考えるべきだ。経済学で言えば情報占有できない。占有できない以上権利を排他的に与え続けるのは無理。どちらかと言うと特許権が良く出来ていて著作権は特許権に合わせる努力をしてこなかったというところが基本的な問題ではないか。

A. もし放送局が主張することが本当なら録画ネットはサービスをやめる。オリンピックの放送権が高騰して日本が放送権を買えずに日本国民がオリンピックを見られなくなったら日本にとってマイナスだからやめると。でもそこまで話が進まない。放送局に金を払えばいいのかと言ってもそれには応じない。商売やめろの一点張り。

Q. これが違法なら、ウェブ・ホスティングなどもみんな違法になる。インターネット以前のテクノロジーに対してではなくて、インターネットに合わせた権利の体系を考えることがまともな論理ではないのか。

A. 我々としてはWin-winを受け入れるなら喜んでという姿勢。海外長期出張の人たちに見てもらえるなら絶対にマイナスにはならないはず。スポンサーにとっても放送局にとってもプラスだろうと考えている。本来なら放送局がやるべきだ。ジャスラックなんかは著作物が流れているからISPから利用料からある一定額を取るという話をしている。推進協議会としてなにかアクションはないのか。

原:消費者の利益がないがしろにされている。

真野:そこを喚起するのがICPFの役割だが、放送の権利、著作権に関して、制度設計をどう主張していくべきなのだろうか。

池田:つきつめると立法論になってしまうのではないか。もし放送局の主張がそのまま通るようなことがあれば、世の中のホスティング・サービスが全部ひっかかって、立法論の見直しにきっかけになる可能性もある。

真野:日本国内だけでなく海外連携、地域放映権として国内議論だけでは不十分ではないだろうか。