メディア 大震災と情報通信:果たした役割と未来 辻野照久氏(宇宙航空研究開発機構)ほか

電子行政研究会共催、IEEE TMC Japan Chapter協賛

3月11日、東日本大震災は未曽有の被害をもたらしました。その際、被災者に対する、また広く国民一般への、あるいは世界に向けての情報受発信に、情報通信技術は大きな役割を果たしました。しかし同時に、多くの課題も表面化しました。
本シンポジウムでは、大震災の際に情報通信が果たした役割と課題、そして未来への展望について、それぞれの分野の専門家にお話しいただき、考えます。

月日: 7月28日木曜日
場所: アルカディア市ヶ谷(私学会館)
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内容:

13時25分 開会のあいさつ(ICPF理事長 山田肇)
13時30分 「人工衛星の果たした役割と未来」
辻野照久(宇宙航空研究開発機構)
14時05分 「ネットの果たした役割と未来」
市口恒雄(科学技術政策研究所)
14時40分 「ウェブの果たした役割と未来」
山田肇(東洋大学)
15時15分 休憩
15時30分 「スマートグリッドの標準化と普及」
経済産業省産業技術環境局基準認証政策課
16時05分 「情報通信審議会ICT利活用戦略ワーキンググループの提言」
村上輝康(野村総合研究所)
16時40分 閉会
参加費:3000円(ただしICPF会員と電子行政研究会会員は無料です)

講演内容

シンポジウムでは5つの講演が行われ、概略、以下の通りの質疑応答があった。

「東日本大震災における衛星の活用と今後の展望」

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辻野照久(宇宙航空研究開発機構)
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質疑応答:
 「だいち」など地球観測衛星の運用コストは、どう賄っているのか → 画像の提供などはリモートセンシング技術センター(RESTEC)を通じて原価を賄っている。ビジネスとして行われているが、衛星のハウスキーピングコスト(衛星管制リモートセンターでの運用の人件費など)については宇宙航空研究開発機構(JAXA)が負担している。
 今回の災害では、宇宙の側は対応できていたが、地上側の準備がないという問題があった。これについてどう考えるか → 想定外だったのは、J-Alertアラートを設置している庁舎自体が流されたこと。普段からの備えとして衛星利用の緊急通信システムを準備することが大切だが、それを衛星側から地上側にお願いするのはむずかしく、地上側で計画すべきことだ。衛星は効果もあるが費用もかかる。1000年に一度の災害のために費用を投じるためには、普段からいかに費用対効果をあげていくかが重要ではないか → 衛星放送や衛星画像は、ビジネスとして利益を上げている。画像販売も海外の業者はビジネスとして成り立っている。GPSも米空軍が軍事目的で利用しているものを民間に開放しているが、カーナビでも利用などの効果も計り知れない。衛星のコストに比べ、応用製品の産業規模は非常に大きい。1000年に一度のためではなく、衛星は普段から利用され、利益を上げていることを理解してほしい。

「大震災と情報通信技術:ネットの果たした役割と未来」

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市口恒雄(科学技術政策研究所)
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質疑応答:
 Skypeが一部のPCをスーパーノードとして利用していることについて、Skypeからの告知はあるのか → ない。Skype利用者には、自分のPCがスーパーノードとして働いているという自覚もないだろう。
 プライバシーやミラーサイトの著作権などといった制度的課題についてどう考えるか → 非常時に問題となるのは個人情報と公共性のかねあいである。まずは、その場の緊急ニーズに応え、不要になった時点でデータを削除して削除していけばいいという考え方をGoogleは取ったようだ。ミラーサイトの内容や体裁はオリジナルサイトと全く同一であり、ミラーサイトの著作権はオリジナルサイトの作成者にある。
 電話は輻輳がおきたが、インターネット系に切り替える発想はなかったのか。通信事業者はなぜそういう準備をしてこなかったのか → IP電話にしてしまえば輻輳は緩和できただろうが、なぜ切り替えられなかったのか、電話会社の考え方についてはわからない。

「大震災と情報通信:ウェブの果たした役割と課題」

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山田肇(東洋大学)
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質疑応答:
 (コメント)なぜ情報アクセシビリティが政治的なテーマにならないのか。その理由は明らか。政治家が問題の重要性を自覚していないからだ。実際には国民の1/4に関わる問題であり、それを理解させるためには強いロビー活動が必要である。

「スマートグリッドを巡る動向と我が国の取り組み」

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野田耕一(経済産業省)
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質疑応答:
 発電・送電・配電を分離せずにスマートグリッドは実現するか → スマートグリッドは再生可能エネルギーや電気自動車をいかにうまく使っていくかという課題に応える技術である。送配電分離とは別の課題であり、相反するものではない。再生可能エネルギーが普及すると、電力会社の立場からは、不安定な電源が増えることから、系統への影響を懸念する意見が強かったが、震災後、大規模電源側にも不安な要素が出て、スマートグリッドを受け入れる方向に変わってきているのではないかと思われる。
 どのような形で世界に売り込んでいくのか → 日本の電力系統は完璧に近く、電力が不安定な途上国に売り込むには、過剰品質という問題があった。被災された方には申し訳ないが、今、日本の電力は不安定で、それを解決する省エネルギー・新エネルギーはビジネスになるだろうと考えている。需要のピークで電力料金が高いときには使わないようにするなど、スマートメーターを通じてコントロールできるだろうが、世界的にも価格帯と連動するスマートメーターの普及はこれから。送配電分離の問題は、アメリカの例を見ると、電力会社が安い石炭燃料に流れる等から、環境面やエネルギー安全保障などの問題も考えなくてはならない。
 なぜ既存の標準化が必要なのか。結果としてどこかがデファクトを握ればいいのではないか → 標準化の選択肢はいくつかある。デファクトも選択肢だ。一方で通信方式などは、インターネット、無線方式、PLCなどがあるが、相互通信を確保するため、フォーラム標準が使われている。完全オープンでデファクトというのは、この分野では考えにくい。

「情報通信審議会ICT利活用戦略WGの提案」

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村上輝康(野村総合研究所)
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質疑応答:
 震災時には1キロ先の情報を足で取りに行くという状況にあった。通信できない中で、ICTに何ができるのか → 重要なことは衛星を使うなりして、ネットへのアクセスを確保することだ。まず水、食料、毛布を運ぶ。これからの震災対応は、ネットワーク環境を“運ぶ”ことを、“普通の発想”にすることが大事。
 情報のトリアージ、必要と不要をどう判断するのか。緊急性があると判断する機能が必要ではないか → システム開発の世界では、常に業務のトリアージに直面して仕事をしている。災害時において情報のトリアージは重要である。トリアージについては成果の出ている研究もあるが、そのまま埋もれているものもある。埋もれているものを掘り出していく必要がある。
  発災後は、小さな情報をいかに集積できるかが重要ではないか。如何に小さな末端情報が流通でき、活用できるかに、鍵があるように感じる → 小さな情報を漏れなく大量に集めていく。それを分析して必要なところに配分していくプロセスが必要であると思う。アーキテクチャとしては、TCP/IPでよい。一つのメディアに頼ることなく、空も海中も、陸上も、有線も無線も組み合わせて、ITSも複合的に活用するという発想が必要だろう。