概要
「いつでも、どこでも、誰でも」を標榜するユビキタス時代の実現には、電波の利用が不可欠です。総務省は2003年に電波政策ビジョンを発表し、それ以来、施策の舵を切ってきました。2011年にはアナログテレビの停波が予定され、VHF/UHF帯について新しい利用方法が検討されています。
ユビキタス時代を展望して電波をいっそう有効利用していくために、情報通信政策フォーラム(ICPF)では「ユビキタス時代の電波政策」と題して連続セミナーを開催することにしました。
第2回は総務省で情報通信政策局長を務められた後、財団法人移動無線センターに移られた竹田義行氏に「自営無線通信の過去、現在、未来」についてお話いただくことになりました。
<スピーカー>竹田義行氏(移動無線センター会長)
<モデレーター>山田肇(ICPF事務局長・東洋大学経済学部教授)
レポート
2008年5月27日、移動無線センターの竹田義行会長を講師にお招きして開催された、情報通信政策フォーラム平成20年度第2回セミナー「ユビキタス時代の電波政策:自営無線通信の過去、現在、未来」の要旨は次の通りである。
1. 講演
・ 電波は、通信・放送、即位・遠隔測定、エネルギー利用と、大きく三つの分野に使われている。1895年に無線電信の実用化されてから、無線の通信・放送利用が始まった。
・ (財)移動無線センターは1964年設立。MCAサービスを提供している。MCAは流通業者などが災害時にも不通にならないネットワークとして利用してくれている。MCA以外のものを含めて、自営系陸上移動通信の総計は全国およそ220万局で利用されている。
・ 総務省は電波の有効利用施策として、電波の利用状況を調査している。その目的は周波数を需要が多い汎用の移動通信システム(携帯電話)に空けるためである。MCAもその影響で、800MHz帯への集約を進めている。
・ 自営無線は、置換可能であれば汎用無線に切り替える。そうでない場合にも、共通のプラットフォームを作ってその上で各種の自営無線を提供していくというのが政策の流れになっている。
・ しかし、すべてを汎用にというのは正しくない。中越沖地震のとき、震災直後にMCAだけが生き残った記録があるように、システムは多様で、多重に用意されているほうがよいからだ。
・ 自営無線の共通プラットフォームとして計画されようとしているのが、170MHz付近の公共ブロードバンド通信システムである。
・ (個人的には)優先的な帯域確保・接続、一斉同報、自立分散といった機能を開発しつつ、無線技術としてはWiMAXなど標準的なものを利用するのがよいと考えている。
2. 質疑応答
質問:MCAを借りて、MVNOとして携帯電話サービスをするというようなビジネスも可能か?
回答:可能であろう。MVNO的なことをやろうと思えば出来るはず。サービスとしてスロットリースがある。スロットを何スロットか押さえ、それを再販するというのは禁じられてはいない。
質問:MCAが公衆無線サービスを行うことも可能なはずだがお考えか?
回答:今、移動無線センターとして何を判断しているかといえばなにもしていない。ただ回線交換の仕組みで、ブロードバンド対応にはならない。音声専用に特化して、データーはオーバーレイ、という形になるかもしれないが。
質問:170MHz帯の公共ブロードバンドがなぜWiMAXなのか? 日本独自の技術で作り国際化していく戦略はないのか? →
回答:どうか?市場は日本だけではなく、オープンな方がよい。特段WiMAXにこだわっているつもりではない。
質問:公共的なものも普段は汎用的に利用し、緊急時には防災用として使う、というアイデアもあったがFCCは最終的に拒んだ、それは軍事用の周波数という背景もあったと考えるが、日本の場合、防災無線をもう少し同時利用に出来ないものか。携帯電話が緊急時に防災として使えるというのはアピールになるのでは? 回答:私は逆にMCAに携帯のチップが入ればいいと考えている。まあ既存の業界の壁とかいろいろあるが。
質問:ふるさと携帯というコンセプトは、汎用無線を自営に利用しようということか?
回答:その通り。アウトソースのコンセプトだ。
質問:警察や消防が個別に無線システムを作る慣行は今後、改まるだろうか?
会場:警察も消防の海上保安庁もプラットフォーム統合には乗り気。携帯電話みたいに画像も送ることすらできないわけだけど、企業は警察だけのためにはマーケット規模から作ってくれない。三者が共同で、となればやる企業は出てくるかもしれない。
質問:金額ベースの話がない。例えば、P.17のコストは「数千億円程度」とあるが、もう少しきちんとした論議があってもいいのではないか。公共には耐用年数とか、減価償却の概念もない。受益関係が分かる話であり、経済概念で論じる習慣があったほうがいいのではないか
回答:その通りに思う。それを進めていけば、テレビ周波数帯のアンダーレイなども実現していくように思う。なおアンダーレイは今までとはビジネスモデルが違う地域テレビ放送がよいと考えている。また、そのような利用方法について事業者の選定にオークションをという話が繰り返し出てきているが、オークションが唯一のコストリカバリー方法ではない。
質問:無線システムや機器の寿命が短縮してきたのではないか?
回答:デジタルになってかえって短くなっているかもしれない。部品の交換ができないからだ。ということは周波数の寿命も短くなるということだ。個人的にはGSMの寿命に関心がある。
レポート監修:山田 肇
レポート編集:山口 翔
スケジュール
<日時>
5月27日(火)18:30~20:30
<場所>
東洋大学・白山校舎・6号館・6316教室
東京都文京区白山5-28-20
キャンパスマップ
<資料代等>
2000円 ※ICPF会員は無料(会場で入会できます)