電波 電波資源に対する技術的対策と社会 河野隆二横浜国立大学大学院教授

概要

「いつでも、どこでも、誰でも」を標榜するユビキタス時代の実現には、電波の利用が不可欠です。総務省は2003年に電波政策ビジョンを発表し、それ以来、施策の舵を切ってきました。2011年にはアナログテレビの停波が予定され、VHF/UHF帯について新しい利用方法が検討されています。
ユビキタス時代を展望して電波をいっそう有効利用していくために、情報通信政策フォーラム(ICPF)では「ユビキタス時代の電波政策」と題して本年4月より連続セミナーを開催しています。
第3回は横浜国立大学大学院教授で、同時に情報通信研究機構(NICT)の新世代ワイヤレス研究センターでグループリーダーを務めておられる河野隆二氏に、UHF帯でのITSの話題を含めて、「電波資源に対する技術的対策と社会」についてお話いただくことにします。

<スピーカー>河野隆二氏(横浜国立大学大学院教授)
<モデレーター>山田肇(ICPF事務局長・東洋大学経済学部教授)

レポート

同氏の講演に関連する資料は次のサイトにあります。
横浜国立大学 未来情報通信医療社会基盤センタ
横浜国立大学大学院工学研究院 河野研究室
独立行政法人情報通信研究機構(NICT) 医療支援ICTグループ

講演要旨:

Digital divideの次はmedical divideが深刻な問題となる。我が国は人口の4分の1が高齢者。この人々にいかに的確に医療を施せるかは重要な課題。老人医療があるので国民医療費はどんどん増加している。医師・医療従事者の分布には地域の偏在が見られる。医療従事者は働き通しで、医療過誤も多い。こんな重要課題をICTによって解決できないか、考えた。
この問題は総務省、厚生労働省、経済産業省、文部科学省などの、省をまたがる融合領域の課題である。そこで総合科学技術会議に働きかけ、重要な研究テーマとして位置づけてもらった。
アメリカなどともどんどん共同研究を進めている。ユビキタス医療に必要な周波数は、世界共通であるべきであり、アメリカで医療用周波数が利用可能になれば、日本も協調する必要があり、国際的な協力が必要と考えたからだ。
この医療ICTに関わる課題には、次のようなものがある。医療用無線帯域の確保、医療無線防護指針の更新、医療ICT産業活性化のための標準化、学術奨励のための学会活動。医療ICTは医療機器でありながら無線機というのが大きな特徴。医療と通信の両方の規制にコンプライアントである必要があり、このガイドラインをどう作るべきかである。
医療ICTは、ICT産業の次の大きな目玉と位置づけ、積極的に牽引している。保健医療制度のみに依存せず、グローバルビジネス化によって十分に賄える、大きな市場を育てている。今後10年でじり貧になるICT産業は、国益のためにも早くパラダイムシフトすべきだ。
こんな考えから、BAN(body area network)を提唱した。BANはBluetoothよりも低電力で高速伝送と精密測位ができる。目標は、人間のライフタイムと同程度にバッテリー交換不要で、予防医療に必要なあらゆるバイタルサインをリアルタイムで伝送し、その診断によりリアルタイムで遠隔治療する究極のユビキタス医療を実現するために必要な、技術、法制、標準化、ビジネスなどをすべて達成することにある。そのために、例えば、自家発電…鼓動・あるいはヘモグロビンを利用した発電も5年内に実現可能であり、厚労省ナノメディスンプロジェクトなどで共同研究を行っている。そのBANで、医療用モニタリングシステム、医療補助・自動投薬、テレメタリング、リアルタイムモニタ、障害者支援、エンタテイメントなど、いろいろなことができる。すでにカプセル型の、飲み込めば内臓を順に検査していくカプセル内視鏡などができている。現在はそれらの技術を使って患部に直接薬品を運ぶDDS(ドラッグデリバリーシステム)も実現している。
iPodにBANを付加サービスとして付ければ広がるかもしれない。携帯電話に付加してもよい。Wiiリモコンだって、BANが体についていれば、不要になる。すでに、ビジネスは動き出している。
BANの無線技術はIEEE802.15.6で標準化が進んでいる。その委員会をリードして、わが国の技術が世界に普及していく足がかりを作っている。
そんな医療ICTで将来利用されていくのがUWB(Ultra Wide Band)という無線技術だ。それはITSでも利用できる。双方向通信を前提に、車・車間で運行を制御もできる。
大学院の研究室だけでなく、未来情報通信医療社会基盤センタや情報通信研究機構を中心に多数の通信や医療機器の会社をとりまとめた医療ICTコンソーシアムを構築し、研究開発、法制化、国際標準化を推進しているのは、基礎研究も必要だし、本当に商品となる技術を開発する実用化や世界市場も必要だからだ。いろいろな活動を進めることは、社会へのつながりを持つこと。ビジネスモデルについて企業と連携するのもそのためである。

質疑応答:

質問:医療ICTの周波数はどうやって選ぶのか。与えられるのか。
回答:さまざまな周波数を使う。テレビ帯の中の600MHzも候補である。米国ではすでに使っている。それ以外にも、400MHz, 950MHz, 2.4GHz、2.5GHz、UWB(3.1~10.6GHz)など選択肢はたくさんある。

質問:600 MHzは、いわゆるホワイトスペースを想定しているのか。
回答:IEEE802.22で標準化が進んでいる地上波放送とWRANの共存などを日本でも導入したい。放送チャネルの周波数だが、放送に影響受けないことが確認できれば利用する、コグニティブ無線(認知無線)方式である。WRANは30~100kmのエリアで、防災無線などにも利用できる。仙台以外の東北地方など、国内にも利用できる地域はたくさんある。

質問:つまり、高齢者が独居している地域で、BANを持たせて健康をモニタし、何かあったらWRANで連絡を取るという形か。
回答:そうだ。それならば防災の観点、非常時などにも利用できる。

質問:質問よりお願いだが、高齢化すれば目も見えなくなり、声も出なくなり、となるわけだから、BANのBはbrainとして開発して欲しい。感覚的な面、首から上の脳に関わる情報処理に応用可能な技術としていただきたい。例えばモルヒネの代替技術(周波数を当てると痛みを感じない技術)なども含めて
回答:よい示唆を頂いた。すでにBANにより脳波EEGをセンシングしており、応用可能である。

質問:ホワイトスペースでは802.22を想定しているのか。
回答:そうだ。今後の話とはなるが、アメリカが出来ている(ホワイトスペースという利用形態が認可される)のに日本が出来ないのはなぜ?というシナリオが想定しやすい。もちろん日本でもやり出すとカラオケマイクのワイヤレスマイクなどと干渉という問題があるが。

質問:特許を取得すると講演中に話したが、ライセンスしていくのか?
回答:ビジネスモデルを直接売るというよりは、事業化できる能力のある企業とタイアップして、ビジネスを始めることを想定。具体的なものはこの場では控えさせていただく。

質問:日本で想定している双方向の車車間通信、特に700MHzのITSでの出会いがしら事故防止は、普及率で考えると衝突を防げる確率はかなり低いのではないか。
回答:別のアプローチで解決しようとしている。日本は量販車にすべてつけようとしている。ダイムラーのUWBは単価が高い。日本は数を売って、想定では10分の1のコストで出来ると考える。であれば、すべての車につけて、急速に普及するはず。

質問: ITSはテレビのデジタル化後の710~730MHz、とも言われているが、これは決まっているのか
回答:案が出ている段階に過ぎない。まあ私から見れば、落としどころは決まっているように思う出来レースという感もあるが。

質問:技術がいくらあってもバンドがないと実装できない。470~710MHzの中にホワイトスペースが正味200MHz程あるはず。あまり時間をかけていると、2011年のタイミングを逃す。タイミングが大事だと考える。200MHzを電波使用料という形で貸し出し、地デジの移行コストに充ててはどうか。これは認知無線のニーズとも合致すると思うが。
回答:大賛成。デジタルへの移行は大きな問題だ。地方交付税でおじいちゃん、おばあちゃんを解決というシナリオもあるかなとは思うが、今の提案は賛成。

質問:ホワイトスペースの認知無線に関しては、干渉など技術的に問題があって実現しにくい、ともいわれているが。
回答:技術的な問題、というより、日本が米国のようにコグニティブ無線をすぐに法制化できるかや、コスト的な問題などもある、と思う。

質問:コグニティブでなくても地域ごとに使うチャネルを固定してもいけるだろう?
回答:そうだ。市場規模的にペイできるかわかれば、それで進むはずだ。

講師コメント:大学でも、ICTによる医工融合イノベーションのグローバルCOEを牽引しているので、医療ICTは間違いなく、今後の日本を、世界を救うパラダイムと確信している。

レポート監修:山田 肇
レポート編集:山口 翔

スケジュール

<日時>
6月24日(火)18:30~20:30

<場所>
東洋大学・白山校舎・6号館・6216教室
東京都文京区白山5-28-20 キャンパスマップ

<資料代等>
2000円  ※ICPF会員は無料(会場で入会できます)