電波 VHF/UHF帯の電波利用方策 服部武上智大学理工学部教授

概要

「いつでも、どこでも、誰でも」を標榜するユビキタス時代の実現には、電波の利用が不可欠です。総務省は2003年に電波政策ビジョンを発表し、それ以来、施策の舵を切ってきました。2011年にはアナログテレビの停波が予定され、VHF/UHF帯について新しい利用方法が検討されています。
ユビキタス時代を展望して電波をいっそう有効利用していくために、情報通信政策フォーラム(ICPF)では「ユビキタス時代の電波政策」と題して連続セミナーを開催することにしました。
第1回は情報通信審議会・情報通信技術分科会・電波有効利用方策委員会の委員を務められた服部武先生に「VHF/UHF帯の電波利用方策」についてお話いただくことになりました。

<スピーカー>服部武氏(上智大学理工学部教授)
<モデレーター>山田肇(ICPF事務局長・東洋大学経済学部教授)

レポート

講演後の質疑応答の要旨は次の通り。なお以下の質疑で、講師は「個人の見解」として回答しています。

地上デジタル放送への移行に関連して

質問:2011年7月がくると、アナログ電波を出すと違法?だしてもだめ?
回答:現状の法律上ではそこで免許が切れるので電波を出せば違法。

質問:地上デジタル放送への完全移行が実現した後の空き周波数の有効利用について講演していただいたが、本当に停波できると考えるか。
回答:停波が至上命令。「今の受信機を捨てて」ということに抵抗が大きいのはわかっているので、IPTVなどを利用する、チューナーを安価に開発するか、などの対策を取ろうとしている。

質問:地上デジタル化は馬鹿げた計画だと当初は思われたが、電波政策ビジョンで提案された有効利用の観点からは意義がある。もう後戻りできない現状では、もう少し具体策が必要ではないか。
回答:安価なチューナーの開発が必要。後は今後全国津々浦々にチューナーを取り付けていく作業。実は私もアナログで見ている。今のテレビは非常にきれいになっているので、今すぐ買い換えようと思わない。何十万円も出してとても買い換えたくない。ただし、地上波デジタルを確認するためと移行準備のためアナログテレビにデジタルチューナーを取り付けている。チューナーの性能はマスプロのものが非常にいい。4:3のテレビに地デジチューナーをつなげると上下に黒帯が出るが、ズームモードで回避でき、このズームモードが非常によくできている。ワンセグのチューナーは2000円くらいだし、すぐ安くなる。が、フルセグは知的財産の問題で市場に存在しない。PCのものもすぐ販売中止になった。
私が地デジを直ぐに購入しなかった理由はコピーワンスが大きい。これはおかしい。自分で利用するのになぜ一回限り? もう少しユーザーのみを考えてほしい。ようやくそれが実現するがダビング10だ。しかし、これもまだ実現時期や方法が決まっていない。
民放はコンサバティブ。移行するといっても負担が多く、やる気はないので、新しいサービスに参入しない。アナアナ変換などには携帯電話の電波利用料を使った。移行後に空いた周波数を携帯電話が使う理由も、携帯の電波が逼迫し、それら負担との取引的な側面がある。

質問:2011年に、電波が止まらないと今日講演された計画は進まない。今の電波をどかせることと、新しいものをいれることは一体で行わなくては。アメリカはFCCが80ドルクーポン配っている。700MHzのオークションでもうけたから。日本はアナアナ変換でお金をたくさん使った。もう一回というのも難しい。5000円チューナーを3000万台くばるとすると非常な大きな金額になる。移行のコストを誰かが負担するスキームを考えなくてはならない。
一番簡単なのは周波数オークション。総務省はやらないといっているが、法律でやれる範囲で、クーポンなどのコストを新たに空く周波数帯への参入者に負担させる形でやれば、急速に普及するのではないか。
回答:ただで配るというと買い控えがおきる。また、そうやってお金を集めても一般会計に回される、ということもある。
そもそも日本のICTに対する国の財政支援の規模は小さすぎる。もっと、国を挙げて規模を広げていかなくてはならない。ブロードバンド化率は上がっているが強力なベンダーを作り出す支援が必要に感じる。

質問:有効利用されているかどうか政府が監視すると言うが、オークションでお金をだして有効に利用しないからって、国はお金をもらえ(それをまた別の目的で利用でき)るし、その会社がつぶれるだけなんだからいいのでは?
回答:お金を出すだけで使わずに占有、ということは意味が無い。現状のお金の徴収の仕組みは所得税と消費税の関係に似ている。それで日本は機能して、メカニズムとなっている。

質問:2011年7月に空かないと先に進まない。なんとしてもあけるためには、何らかの政策をうつべき。普通にやると税金から何兆円と必要になる。国有財産として周波数を売ったら何兆円になるものは、割り当てないで売ればいいのでは? たとえば直接お金を出せないにしても、必要なチューナー購入代金をクーポンの形で負担してもらう、など。
回答:現状でも電波利用料として薄く取っているのでお金を取っていないわけではない。それが日本のメカニズムだ。世界は携帯のオークションで失敗し、その反省として電波利用料を評価している。米国は市場主義でオークションを継続しているが、これまで相当な二重投資となっていることも考える必要がある。
会場からのコメント:無線LANに関連して4.9ギガヘルツを5.0ギガヘルツに移すとき、移行に伴う費用の半額を新規参入者に負担という仕組みをとったことがあるので、それが実現不可能なわけではない。

空き周波数の配分原則のつくり方に関して

質問:個別のシステムを提案させて、そこから類型化した手順は失敗ではないか。アプリケーションの話から無線技術(TDDなど)の話までを一緒くたにして類型化している。
はじめに枠組みありき、という点では失敗だった。放送、自営、電気通信、ITSという分類のキーワードがそもそも直交していない。本当に空くバンドを電波利用、再配置再配分を活性化するというのであれば、もう少し電波の技術的な分類をではない方法で分類すべきでは。今後の進め方、この四つでどうしていくのか。
回答:今後の進め方については、それぞれの受け皿の中で具体的に検討する。一応大枠を決めた段階。自営という名前が正しいかどうか等はあると思う。携帯電話ではマルチメディア通信サービスができつつある。この先、携帯電話が放送的なものをどう扱っていくのか、今の枠組みでは、法律上は複数のものが一つの端末上で動く形になっていく。

質問:9つの個別の法律を情報通信法としてまとめてレイヤーを整理しようとしている。その方向性とこの電波政策がどのような論理的整合性をもっているのか。
回答:情報通信法はそのようにうまくいかないと思うし、そう簡単に放送通信が統合するとも思わない。現在の枠組みで融合することは可能だ。ビジネスモデル等いろいろな問題を考えると、今の放送がいいとはいわないが、そう簡単に統合するとは思わない。情報通信法は前の政府の方々が提案されたものを続けているにすぎない。一本化、というと美しく見えるが、個人的な見解としてはシステムとして統合しないとしても、サービスとして融合する、それでいいのでは。

質問:帯域免許というもの、この割り当てでは帯域免許の考え方が一切入っていない。この時代、一つの免許でどれだけ続くか判らない中、どうだろうか。
回答:帯域免許は土地の建坪率決めて、後は自由にという形に近い。電波には干渉性があり、お互いにコントロールしなくてはならないし、有効性を考えると、ある程度のコントロール・規定は必要。ただし変調方式などはもう少し緩くしてもいいのではないかなと感じる。放送・通信、何でもいいですよ、というのは電波の公共性から難しいのではないかなと感じる。

質問:アメリカではオークションでベライゾンは9千300億払って何に使うかわからない。変調方式も決めていない。でも、それだけ払って効率的な利用をするだろうと、経済学的に考えられている。変調方式まで細かく決めているのは時代遅れでは?また、防災無線についても、防災無線 Over IP で十分だと感じるが。
回答:携帯電話でも国会議員などを優先するVIP通話の仕組みはあるが、一回も使ったことはない。伝家の宝刀。仕組みは入っているが、一度もやっていない。どういう状況でやるかとかむずかしい。汎用で提供していて、どの時点で防災無線を優先にするかはむずかしい。

ITSについて

質問:ITSで10MHz使うというが、車車間通信にどれだけ経済的な合理性がある?
回答:統計的には十分有用性が認められている。バイク、自転車などにもつけることを想定。最終的には人間にも。それで減少する社会的損失額が大きいと計算されている。

質問:ITSでは2~5GHzは使えないのか?
回答:5GHz帯はETC用として利用している。見通し外の車車間通信はUHF帯しかダメ。

質問:ITSもIPv6でアドレス割り当てて実現できるのでは?
回答:それでは遅延が生じる。携帯電話のようなシステムは、車と車が近接して緊急の場合は、きつい。v6はアドレスが128ビットと非常に長いので、そのままではとても使えない。無線通信で一番重要なのはMACレイヤーとレイヤー1だ。ここの効率性をあげるには相当のメカニズムが必要。IPの人たちは伝送路品質が極めてよい「高速道路」を利用することを前提とするメンタリティ。不都合な点をみようとしない。

質問:ネットワークの人は高速道路しか考えていないというが、無線の人は連続通信しか考えていないと思う。でも時代はパケットになった。それを前提に考えていくと違う電波の利用形態は見えてくるのでは。
回答:たしかに今はパケットの時代だ。だが非同期では効率は上がらない。たとえばWiMAXは同期をとる形になっている。

 

携帯電話への割り当てについて

質問:日本で携帯を一人何台持つのか? 限界があるのだからそんなに電波割り当てる意味がないのでは?
回答:日本はようやく普及率85%に到達したが諸外国は100%超えている。諸外国並みにプリペイドが増えるとか、ハイスピードの技術とか仕組みでそのあたりのニーズは変わる。

質問:自分は先の質問の逆だと考えている。NGNは光で100Mbpsでと、NTTがやろうとしている。それを恐れて他の事業者が回線の解放だの何だの言っている。だが、それに匹敵する無線の帯域があれば、NTTも脅威にならないし、競争がちゃんとおこる。帯域はいくらあっても必要になる。
回答:これからはMtoM(マシン To マシン)の通信の時代、ユビキタスの社会に向かうとすれば帯域はいくらでも必要だろう。

デジタルテレビ帯の有効利用について

質問:デジタルテレビは13-52ch。しかし、それぞれの地点では8チャンネルくらいしか使っていない。効率的ではない。チャンネルが20%も埋まらないのに、なぜさらに新しい帯域をデジタルテレビ以外の放送に割り当てるのか?
回答:下(100MHz近辺)については世界との整合性のためだから。世界的にこのあたりを放送で使うことが割り当て原則で決まっている。上の方はメディアフローなど携帯向けのシステムでつかう。

質問:全部埋まっていないのだからメディアフローなどはデジタル放送のところで行えるのではないか?
回答:それは放送事業者の権益の問題だ。

質問:国際的に決まっているというなら、逆にそこで独自のことをやれば国際競争力に繋がるのでは? 放送割り当てありきだから、なんていわず独自サービスをやるというとチャレンジャブルになるのでは?
回答:もっとはやく提案してほしかった(会場笑)

質問:ホワイトスペースをどう考えるか。
回答:「空いてる」と思って使っていると、後で必要となったときに、それが認識できません、という問題が電波にはある。これが非常に大きい。これが解決されない限りはむずかしい。
解決策はパイロット用のチャンネルを割り当てることだが、それをやるには一度全部をやり直さなくてはならないので非現実的。コリジョンディレクション、これは無線ではできないのだから。

会場コメント:デジタルのいいところは許容干渉量。ましてパケットになればかなり寛容ではないか。

レポート監修:山田 肇
レポート編集:山口 翔

スケジュール

<日時>
4月22日(火)18:30~20:30

<場所>
東洋大学・白山校舎・5号館5202教室
東京都文京区白山5-28-20
キャンパスマップキャンパスマップ

<入場料>
2000円 ※ICPF会員は無料(会場で入会できます)