電波 新たな電波利用とサービス:エリアワンセグとNOTTV

ICPFでは、平成24年度春季に連続セミナー「電波の有効利用を求めて」を開催しております。第3回は、吉井勇氏に『新たな電波利用とサービス:エリアワンセグとNOTTV』と題して講演いただくことになりました。
電波ニーズの急増に応える目的で、デジタル化が推進され、テレビ帯が再編されました。テレビが利用しなくなったVHF帯ではNOTTVがスタートし、一方、UHF帯のホワイトスペースではエリアワンセグの利用実験が推進されています。これらの新たな電波利用にはどのような可能性があるのでしょうか。また、電波の有効利用という政策目的に応えるものなのでしょうか。
吉井勇氏は月刊ニューメディア編集長を務められ、放送とその関連業界に深く通じておられます。その知見を元に、テレビ帯を利用した新たなサービスの現状と将来について講演していただきます。

日時:6月27日水曜日午後6時半から8時半
場所:東洋大学白山キャンパス5号館5201教室
講師:吉井勇氏(月刊ニューメディア編集長)
司会:山田 肇(東洋大学経済学部教授、ICPF理事長)

資料

こちらの資料により講演後、質疑応答が行われた。

質疑応答

コンテンツの制作コスト削減について
Q:パーソナルに近いコンテンツほど、市場規模の割にエンジニアリングコストが上がって、ペイできない。安く、素早くコンテンツを作ることについて、トレンドはどうなっているか?
A:情報収集には、人から聞いた話をタイプ入力したりといったアナログからデジタルの変換プロセスが必ずあって、それをどう効率化するかによい知恵はない。ずば抜けたものを出せれば、フェイスブックどころじゃない世界一のビジネスになれると思う。皆さんから良いアイデアを出して欲しい。

NOTTVの配信方法について
Q:NOTTVでは衛星から送信所に飛ばすので、1つのチャンネルで全国カバーできる。地上波でも同じことはできないのか。NOTTVが技術的可能性を証明してしまった(笑)。
全国をカバーする局だけでなく、ローカル局単位でもいい。これができれば放送帯域のチャンネル数をもっと減らすことができるはずだが?
A:地デジのISDB-Tも実はそれが売りだったことは確か。その問題意識は時間をかけて議論した方がいい。今ここで結論を出そうとすると、反対意見が強すぎる。エリア再編の議論は盛んだが、私は系列の再編もありだと思っている。今テレビの系列は4.5(テレ東は0.5として)あって、BSも含めてこれを再編してはどうか。そこで余った周波数帯をエリア放送とかに使えば良いと考えている。
Q:地域U局もモバキャスで全国放送すればよいという件だが、平然と区域外送信、免許で定められた範囲外に送信することか?
A:モバキャスというインフラに対して、1日全部の放送を流すのではなく、コンテンツ単位で流すという方法を取ればよい。それはできると思う。
Q:北海道出身の人が日ハムの試合を見たりとか?
A:いいですね。もちろん、権利処理は必要で、それを回収するビジネスモデルができるかどうかですが。

ラジオのデジタル化の見通し
Q:ラジオ(アナ&デジ)の今後の見通しは?
A:私はネガティブな見方である。デジタルラジオはやる意味があるのか疑問だ。アナログラジオは災害時に役に立った。しかし、アナログの内AMは出力が強くて、大きな設備投資が必要で、親局の維持を考えるとコスト負担は重たく、本当はやめたいと考えている局も多い。しかし一方、デジタルにしたからと儲かるともいえない。デジタル対応端末も買ってもらわないといけない。携帯でも受信できるようにするには、端末に入れられる機能量に限界があるという壁がある。インターネットラジオの「radiko」には最近は月当たり1,000万ユニークユーザーがついている。そのままAMで粘って、インターネットでラジオサービスを提供するアイデアもあると思うが。
デジタル化で、民放はNHKのプラットフォームを当てにしていたようだが、NHKにそんな気はない。デジタルになるとラジオ以外のコンテンツ配信もできるようになるが、視聴者が使える時間は有限なので、視聴時間が増えるとは限らない。結局、既存視聴者の奪い合いになる。ラジオ産業自体が右肩下がりで、事業者も腰を据えることができない。
Q:民放は、NHKが受託放送事業者になって全国に設備投資して、そこに乗ってコンテンツ配信するならよいぐらいにしか考えていないということか?
A:イニシャルコストを出してくれれば乗れるかな、というところだろう。
Q: NHKも乗り気ではないなら、いっそのことネット配信してはどうか?
A:民放の「radiko」とNHKの「らじるらじる」があって、一緒になれば良いのにと思うが、話を聞くと事業形態が違うので一緒になるのは難しいという。でも、初期の投資額を考えれば一緒になるのが良いだろう。

エリアワンセグ利用のしにくさについて
Q:エリアワンセグを利用するときには最初にチューニング(チャンネル合わせ)が必要だが、エリア内に入ると自動的にチューニング(チャンネルを追加)してくれる、といったことは技術仕様的に可能か?
A:できると思う。
C:カーナビでデジタルテレビを受信する際には、そういう仕組みになっている。
A:エリアワンセグも、もっと簡単にしたいですね。お年寄りが困らないような。

技術の進歩について
Q:NOTTVでは、Xiで現場から中継するという話があったが、今でも台風とかの際、携帯回線で映像は汚いが中継している。放送向けに、複数人相当のデータ送信を一気にする技術を携帯事業者が提供すれば、中継専用線や中継車はいらなくなるのでは?
A:「LiveU」という、携帯3社のうち一番通信品質のいい回線に自動的に切り替えて通信するシステムが開発されていて、NOTTVでも利用している。Xiの他にも、関テレがWi-Fiを利用するシステムを開発している。
これまでは既存のメーカー製品を購入して設備を更新するという送信関連の投資が多かったが、今、放送局の技術開発は新しいサービスを生み出す方にシフトチェンジしている。NHKは放送技術研究所があるが、民放では日テレがJoinTV(フェイスブックとリンク)などを編成局が開発しているし、フジ、関テレも技術開発のセクションを作ってきた。自分たちのサービスにふさわしい技術をデザインしていく、IPも含めてあらゆるサービスの可能性を広げていこう、ということで開発部隊が出てきたわけだ。
今関西5局で、マルチスクリーン型放送(あらゆるデバイスに放送サービスが届く仕組み)に連動するよう、IPの仕組みを利用してトリガー信号を送る仕組みを応用するサービスを開発している。5局共同で開発しているのは、クライアント(広告)側に「あの局なら広告を放送できるが、この局は技術が違うので出せない」などと言わないため。そういう事態になると、1局に広告が集中するのではなく、全ての局から広告が引いてしまう。そこで連携・共同している。
テレビ局もすごく勉強している。このままでは潰れるという危機感から、技術者たちが色々学び考えている。ひょっとしたら、放送ベースとして通信を活かす新しいサービスが生まれるし、通信側も放送を利用しながら新しいサービスを生む、という連携・共同のブリッジがこれからたくさん出てくるような気がする。機器メーカーより勉強・研究しているのかもしれない。
C:IPTVフォーラムの国際セミナーで出てきたように、放送にタイムスタンプをつけて、それと同期を取りながら送った通信情報を同時に画面に表示する技術が実現できている。今のデータ放送はタイムラグもあるし、情報も少ししか出せないが、この技術であれば、例えば旅番組などで旅館が映った瞬間に旅館の情報がデータ放送に表示されることもできるようになる。
A:結構おもしろいかもしれない。日本は編成が強いので、流れに合わせて、通信の情報をリンクさせるということができる。これは日本独自かもしれない。旅番組だけではなくもっと色々なことができるはず。NHKは「ハイブリッドキャスト」という名称のサービスで、これから実証実験に入る。問題はその機能を使うためには新しいテレビを買ってもらわないといけないということ。日テレの「JoinTV」は既存のテレビで大丈夫。このあたりもTV局ごとの考え方の違いが出ていておもしろい。
Q:そのおもしろい技術で、いま蔓延しているつまらないテレビ番組(画一的な番組作り)が変わると期待して良いのか?
A:番組作りがどのようになっているかは分からないが、企画会議にマーケティングデータがたくさん入ってきていたり、誰がどれくらい視聴率とれるかとかで起用を決めたり、プロダクションとかの都合によって、大きな枠組みができている。技術アイデアだけで番組の内容を大きく変えられるかというと、それは厳しい。技術で番組作りが変えられるのはNHKだけ。4チャンネル(総合、教育、BS、プレミア)もっているから、そういう企画も通りやすい。民放はそうはいかない。そうすると無難で大勢が賛同する方に逃げることになって、変化が出てこない。
そう考えると、民放が上場していることが果たして良いことなのか? そんなにお金が必要なのか(集める必要あるのか)、社長のワンマンをやるべきではないか、経営全体を変えていかなければならないのではないか。NHKはどんどん新しいことにチャレンジしてくれれば良いという先導的な役割を期待する声も強い。
C:今の質問だが、大妻女子大の浅井先生が調査をしている。先生は民放各局のジャンルごとの放送時間を集計して、各局間の番組編成がどれくらい似ているか、異なっているかを比較した。その結果、日テレ、TBS、フジは同質化戦略、朝日、テレ東は差別化戦略と、違いがあることが分かっている。そこから、私がさらに考察すると、これまでは同質化戦略をとっていたところが視聴率を取っていたのだが、最近はテレ朝が視聴率トップを取っていたりする。視聴者が同質化戦略の番組に飽きて、差別化戦略の番組を選びはじめているかもしれない。是非、浅井先生の論文をご覧いただきたい。

今後の見通しについて
Q:現在は33セグの内13セグしか使われていないようだが、NOTTV以外の20セグは誰が使うのか?
A:NOTTVの動きを様子見していると思う。業界には、本当にV帯で放送しなければいけないのか、という疑問もある。
Q:なぜ、NOTTVは420円なんていう、中途半端な価格設定をしているのか。どうせ客が少ないのなら、ひと月5000円とか1万円とかのプレミアムな価格をつければ良い。マジョリティはとれないけど、絶対見たいような人もいるはず。
A:どちらかというとドコモ主導の値付けではないか。
Q:地上波テレビだってタイムシフト視聴が広がっているのに、わざわざライブ放送にこだわることにミスマッチを感じる。また技術開発の話も突き詰めていくと、なぜ放送でなければいけないのかと、全てネット配信ではダメなのかというところに行き着いてしまう。そのような流れがある中で、通信側の立場では「beeTV」のようにVOD的サービスもあって、せめぎ合いになっている。このような中で、隙間時間の奪い合いと、リアルタイムとタイムシフトの棲み分けはどのようになるのか。
A:難しい問題。そこにビジョンがあれば良いのだが…。一方でVOD(レンタル)を毎日見る人は少ないけど、リアルタイム放送は習慣性がある。朝起きて、日テレをみるとか、フジをみるとかが習慣になっているような。
NOTTVのプライムタイムっていつなのか?という問題はむずかしい。NHKや民放と同じ時間をプライムにしたら、NOTTVには視聴者は来ないだろう。それ以外の時間では、いつか。
答えにはなっていないが、この話に似ているのがNHKの「ラジオ深夜便」。昭和天皇のご容体が優れない時期が続き、NHKがラジオを止められなくなったため、その対策として、深夜に音楽を流して、そこにアナウンサーが小声でトークするということをしていた。一度中止したら、視聴者から「深夜の民放は聞くに堪えない」「せっかくNHKがいい放送を始めてくれたのに」という意見が届いて、再開された。こんなひょんなことから「ラジオ深夜便」は生まれたわけだ。
NOTTVも始まったばかりで、プライムがどうこうというよりも、無事に番組を放送できるかということの技術面が問題なのだろう。毎日7時間の生放送も必死だと思う。もう少し落ち着いてくると、充実している部分と足りない部分が見えてきて、その部分でお客をつかめるか、と考えだすはずだ。5年の間にできるか、スポンサーをつかんで来られるか、ということになる。リアルタイムとシフトタイムの折衷案で考えていると思う。
ダメだという議論は簡単であり、ニューメディアと言われて来た新技術とのヒット率はせいぜい1割だ。
Q:広告料でやるということになると、広告主の意向や優先順位が市場の決定に影響を与えてもおかしくないのではないか。
A:NOTTVは視聴料を取っているので、広告はあまり前面に出さない。一方、エリアワンセグは、広告を出してくれるところがあれば是非に。スポンサーがどういうメリットを見いだすか、そこにふさわしいものは何か、などが難しい。南相馬TVも苦労している。このあたり、クライアント開発というのを含めて大事になるのかもしれない。
Q:これは私の予想だが、アメリカ的な寄付社会になっていくのではないか。NPO的なものを支援していくことが、CSRとして企業の価値を高めていくようになるのではないか。そうするとクライアントとかスポンサーの概念も少し変わってきて、期間限定でスポンサーするというのもありになるのではないか。
A:南相馬チャンネルがそういう仕組みに近い。クライアントと言うよりもその事業を応援しましょうというスポンサーが入ってきている。私の意見と質問者の意見に共通することがある。例えばNHKが受信料を10%値下げするという案がでたとき、それをファンドとして、民放も政府も出資して、手話放送・字幕放送の番組制作の支援ファンドにするとか、技術開発の支援をするとか考えてもよかったはずだ。それが「百何十円返します」というレベルで話が進んでしまった。かつては「民放にもNHK受信料を分けろ」という議論もあったことを考えると、ファンドを作って、質問者がおっしゃったような、3.11プロジェクトの支援をするということがあってもおかしくはないと思う。
Q:コミュニティFMは作るときに自治体が補助金出すけど、ある程度経つと、補助金を引き上げてしまって、一気に事業規模が小さくなったり、つぶれたりする。エリアワンセグも同じことが危惧されるが、そのときの解決策は。
A:これまでは受益者負担かスポンサードという二つの選択肢しかなかった。そこに第3の道として、寄付という方法があるし、出演する方がお金を払うという方法もある。
C:社会全体がそうなるべき。消費税を上げるとかは、これまでどおり中央にお金を集めて分配する仕組み。寄付はそういう形ではない。発想をガラッと変わらないといけない。
Q:VODではコンテンツの量と価格で勝負が決まってしまう。NOTTVは基幹放送事業者として電波の免許を取っている以上、電波ならではの方法で差別化をはかるために、リアルタイム放送中心にしているのだろう。リアルタイム放送はSNSとの相性が良い。講演の中で、NHKが画面の横にツイートを表示してとても見にくかった、という話があったが、横に置いてはダメで、ニコニコ動画のように画面にオーバーレイするようにすれば読みやすくなる。ただ、これは放送事業者の中では禁止されていたことだった。しかし、PCの録画ソフトでは画面にオーバーレイすることができるようになっている。NOTTVや放送事業者には、画面の上に文字を載せることへの抵抗感というのはあるのか。
A:規格という問題もある。画面の同一性をどうするか。
ニコニコ動画の人が言っていたのは、ユーザーは映像なんかみていなくて、コメントに共感をしているという。ドコモなんかもそういう方向を考えていると思う。
Q:その場合、基幹放送事業者ということが問題にならないのか? 中立性を保つためにコメントを検閲しないといけなくなる。
A:初期にはそういうチェックが必要なコメントが出てくると思う。大勢が参加するようになって、メインストリームがそういう人たちではなくなれば、変なコメントはなくなる。ただ、放送事業者としてはパスできない作業である。

以上