電波 新たな電波利用とサービス:テレビ帯ホワイトスペースの通信利用に関する研究開発 原田博司氏(情報通信研究機構)

ICPFでは、平成24年度春季に連続セミナー「電波の有効利用を求めて」を開催しております。第4回は、原田博司氏に『テレビ帯ホワイトスペースの通信利用』と題して講演いただくことになりました。
電波ニーズの急増に応える目的で、デジタル化が推進され、テレビ帯が再編されました。このデジタルテレビの周波数帯には多くの空きチャンネル(ホワイトスペース)が存在します。このホワイトスペースを通信に利用するという、先端的な研究が情報通信研究機構で進められてきました。この研究は電波利用にどのような可能性をもたらすのでしょうか。電波の有効利用という政策目的にどう応えるものなのでしょうか。
原田博司氏は情報通信研究機構でこの研究に携われた当事者です。その研究成果を中心に講演いただいた上で、ソフトバンクモバイルの松本徹三氏をコメンテータに迎え、新たな電波利用について深く考えたいと思います。

講師:原田博司氏(情報通信研究機構)
日時:7月25日水曜日午後6時から8時
場所:東洋大学白山キャンパス5号館5201教室

講演資料

講演資料(抜粋はこちらからダウンロードできます)に基づき講演が行われた。

要旨

要旨は次の通りである。
新しい通信システムは今までよりも必ず広い帯域を必要とするので、電波需要はひっ迫する一方である。このため、無線機が空き周波数・時間帯を認識して、それを使って必要な帯域を確保し通信を行うホワイトスペース型コグニティブ無線技術の研究開発を進めてきた。この技術は、一次利用者(既存免許人)を保護しつつ、より多くのチャネルで、より遠くの距離でブロードバンド通信を実現する。
情報通信研究機構では、一次利用者と二次利用者間の共用条件を無線パラメータと電波伝搬モデル等を用いて計算するデータベースを開発した。次に、ホワイトスペース対応無線機を開発して、通信実験に成功した。情報通信研究機構はホワイトスペースに関するIEEEでの標準化にも積極的に寄与し、役職者も派遣している。今後、ホワイトスペースを利用する各種システムが導入されていくが、この研究成果が効果的に利用されるように期待している。
世界各国でホワイトスペース技術・利用通信システムが導入されつつあり、アメリカのデータベース事業者等は世界展開を始めている。国内検討では一次利用者が満足するよう十分な議論をし、それと同時にわが国がこの分野でどのようにして国際競争力を上げていくか、検討すべきである。

講演に引き続き、松本徹三氏(ソフトバンクモバイル)が三点をコメントした。
第一は、アンテナからの信号を増幅するブースターの問題である。ブースターは電波を出すわけではないので、総務省・経済産業省は何も規制していない。ブースターは広帯域なのでホワイトスペース通信も増幅し、一次利用者であるテレビ放送に迷惑をかける。700MHz帯でLTEを始める通信事業者は、今後、このブースター問題に苦しむはずだ。同様の事態がホワイトスペース利用にも予測され、今のままではホワイトスペースは数十ミリワットでの小エリア通信での利用に留まるだろう。
第二は、アメリカの動向である。アメリカは熱心にホワイトスペース利用を進めてきたが、むずかしすぎるというのが業界の総意になりつつある。爆発する電波需要に応えるために、テレビをさらにリパックする(テレビ帯自身を削減する)方向に動き出しており、2015年にもオークション(テレビ局に支払う立ち退き料も含めて)が行われるかもしれない。そうなれば、ホワイトスペース技術は利用されないままに終わる。
第三は、それでもホワイトスペースをどう利用するかである。一つの考え方として、これを携帯通信事業者の「下り線(基地局から端末機に向けての送信)専用」として利用させてはどうかと思う。音声中心だったこれまでと違い、今後の携帯データサービスでは下り線のトラフィックが上り線のトラフィックよりはるかに大きくなるので、既存の回線では下り線の容量が圧倒的に不足となる。現在3.5GHzの帯域免許の議論が始まっているが、この中でも、その観点から3.5GHz全体を下り線専用にしてはどうかという意見が出てきている程だ。しかし、3.5GHzを全て下り専用にするのは行きすぎだと思うので、3.5GHzは通常のやり方で使い、ホワイトスペースがこの役割を担うことにしてはどうかと思う。下り線のみなら、干渉も少なくなり、それぞれの端末をコントロールする必要もなくなるので、システム全体の制御もはるかに楽になる。

松本氏のコメントに原田氏は次のように返答した。
第一点。まずは700MHz帯LTEでの通信事業者の対応をウォッチしたい。またエリアワンセグの本格的導入、ラジオマイクのホワイトスペースへの移行、700MHzのITS利用等も同様の問題を抱えるはずなので、これらがブースター問題にどう対応するかにも関心を持っている。
第二点。テレビ放送のリパックのために、家庭でのテレビの買い替えが求められるとすると、実施するのはむずかしいだろう。もし、リパックをすることが問題ないのであるならば、テレビ放送自体をインターネットに回すことも問題なくなってくる。それがもし実現できればテレビ帯は完全に空く。しかし、周波数移行の基本は、移行させられる免許人に現状と同じ品質を担保できるかどうかにかかるので、その観点から考えるとこれらを実施することは、日本の事情を考えるとむずかしいだろう。
第三点。松本氏が提案するようにホワイトスペースを下りのみに利用し、上りを別周波数で運用する可能性はある。干渉量が読みやすく、回避可能だからだ。ただ通信として成立させるためには、大きく異なる周波数を用いて上り下りを伝送するシステムを、“通信”であると認定する必要性がある。あと下り回線だけであると、LTEのみが候補になるのではなく、放送方式(ISDB-T)を用いてIP伝送するとか、WiFiの規格をかえ下りのみの伝送+異なる周波数を用いた通信を可能にする等、安価に受信機が構成可能でかつ容易に手に入る方式のなかでどれがビジネスの観点から実現し易いか検討を行う必要性がある。なぜならホワイトスペースの普及には対応端末が増えることが必須であるからである。

質疑応答

会場からの質問と回答は次の通りである。
Q:データベースの用途はホワイトスペースに留まらないのではないか。周波数再編を進めていくには、電波同士がどう干渉し合うかを知る必要がある。
A:その通り。データベースの目的は現状、免許交付に際して行っている手計算を自動化することを想定して研究開発をおこなっているところであり、TV帯に特化したものではない。開発したシステムはテレビ帯以外でも利用の可能性がある。
Q:テレビ局は海面での電波の反射が干渉源になるといったことを主張しているが、データベースで求められるのか。
A:現段階の免許付与等においても、干渉計算は完璧ではなく、付与後の干渉による特性劣化は、当事者同士の連絡体制(運用調整)をとることを前提(付帯条件)に免許付与がされる。もともと我々のデータベースの開発は、現状の手計算を自動化するところから始まっているので、データベースだから特別な要求が求められるとは思っていない。ただ、このデータベースによって得られた結果を用いて免許する場合においても、付帯条件として、干渉にまつわる当事者同士が十分な運用調整をとったあと運用することといったものがついてくると考えている。
Q:ホワイトスペース普及のキラーアプリは何か。
A:都心ではWiFiはぎゅうぎゅう詰めである。そこにあらたなチャネルを生みだすということには大きなニーズがあると考えている。
Q:ラジオマイクは本当に移行できるのか。
A:ラジオマイクはLTEのために移動させられる。すなわち、一次利用者に近い状態で保護されることが前提となる。それがブースターで利用できないとなったら、大問題になる。どのように解決していくか、どのチャネルでラジオマイクでの利用を認めるかなどは総務省で議論中であり、まもなく方針案が示されるだろう。
Q:ホワイトスペースとして、総務省はなぜエリアワンセグばかり検討しているのだろうか。実験は成功しても、ビジネスとしての可能性は低いではないか。
A:総務省でのホワイトスペースの検討はエリアワンセグに留まるものではない。講演したような通信利用、センサーネットワークなども俎上に上がっている。総務省は否定しない。日本の大手メーカ等から提案があまり出てこないから、取り上げていないように感じるのではないか。