IISEシンポジウム「ヘルスケアデータの円滑な共有と利活用」 西川宜宏厚生労働省企画官ほか

登壇者等を含め会場参加者48名、ネット参加者89名、合計137名を集めて、ハイブリッド形式でシンポジウムが開催された。

シンポジウムの模様は国際社会経済研究所サイトで今後公開されるが、講演内容の概略を次のとおり速報する。

「医療DXとデータ利活用の促進について」。西川宜宏厚生労働省企画官

  • 人口減少の中で医療のリソースを確保するためにデジタル化に取り組んでいる。
  • 全国医療情報プラットフォームの2025年めどの構築を目指している。オンライン資格確認システムが基盤である。そこに電子カルテ情報共有システムを加え、介護についても必要な情報を連携できるようにする。二次利用を見据えて、標準化されたコードを用いてデータを登録していくようにしたい。
  • プラットフォームの二次利用について検討を進めている。NDB(レセプトデータのナショナルデータベース)等、公的データベースであっても匿名加工したデータの提供に留まっている。これを仮名加工したデータの提供にまで拡大したい。その次には、提供を受ける側も資格を認定して、受ける側のデータと連結できるようにしたい。欧州のEHDS(European Health Data Space)法案等も参考に検討を進めている。

「ケア環境におけるデジタルツインの展開と『豊かな心の世界』の実現」。木多道宏大阪大学大学院教授

  • 一人ひとりに心があり、人が集まる場にも心がある。そして心は共に成長する。他人とのかかわりの中でアイデンティティが形成されていく。
  • このことを意識して、介護施設「芝原モカメゾン」と看護ホスピス「もかの家」を運営している。高齢者の尊厳を大切に、寄り添っていく介護(モンテソーリケア)を施そうとしている。
  • 高齢者が何を楽しみで一日を迎えるか。そのために一人ひとりに役割を与えるなど、尊厳を重視した運営である。たとえば、お好み焼きのキャベツを刻む仕事を担う高齢者もいる(認知症の人には包丁を与えないというのが通例である)。
  • このような活動の中でデジタルツインを利用している。できる限りのリアルタイムセンシングをして(同時にどこまで捨象できるかを検討し)、デジタルツインで分析して(例えば、怒りっぽい状態かどうか)、その結果をもとにリアルの高齢者の居心地のよさを実現する。
  • さらに弱いロボット(LAVOT)を会話に参加させて、デジタルツインで心の状態を指標化する。他者への思いやりと場の形成の関係を探ることで、「場としての幸福感」が形成されると考えている。

「うすき石仏ねっとにおけるヘルスケアデータの共有と活用」。舛友一洋臼杵市医師会立コスモス病院副院長

  • 市民は石仏カードを保有し、石仏ねっとを通じた双方向の情報共有によって、医療と介護サービスを受けられるようになっている。6万人の町で2.5万人が石仏カードを持っている。
  • 異なる医療機関の検査結果も共有して、無駄な検査は不要になる。X線画像も共有され、処方の情報も共有されている。医療機関、介護施設、薬局等が広く参加している。多機関が連携することで、例えば糖尿病で透析が必要な人が減るといった効果も出てきている。
  • 緊急時には消防署も閲覧できる。月に60回程度の閲覧をしている。病名、介護度や認知度等の情報を元に、救急車で対応し、現場滞在時間が短くなる。大津波などの災害時には、石仏カードなしに医療情報を利活用すると、カード保有者には説明している。
  • ACP等の情報も掲載している。厚生労働省の掲げる医療DXの先取りである。
  • 大分市も同様のネットワークをつくろうと動き出した。

「英国で進むヘルスケア分野のAI活用」。遊間和子国際社会経済研究所主幹研究員

  • 英国は医療DX、さらにはAI活用に動いている。その様子を調査するといくつかの示唆が得られる。
  • データのガバナンスが明確化する。英国では様々な部門が関わってきたが、NHSイングランドがリーダーシップをとることに代わり、重複が削減され、データの収集と分析と、分析に基づいたサービス改善の提供との間の緊密な連携が可能になった。
  • AIのような新しい技術の開発と導入を加速化するために、資金提供だけではなく、伴走型の支援を強化している。実際の治療に新しい医療機器やシステムを利用するためにはエビデンスが必要であり、そのために、資金提供だけでなく実証現場も提供することで、へルスケア分野でのAI開発・活用を加速化させている。
  • AIやデータの二次利用への受容性を高めるために透明性を確保している。英国ではデータの二次利用に対してNHSサイトに詳細な情報を公開するだけでなく、同意できない場合には、自分自身でデータをオプトアウトできる仕組みを整えている。

「台湾におけるヘルスケアデータの二次利用」。山田 肇東洋大学名誉教授

  • 全体として、個人情報利用の壁の存在はあるものの、ヘルスケアをイノベーションにつなげようという意識が台湾では高い。
  • NHIRDやMediCloudのように官が保有するヘルスケアデータに加え、医療機関にある患者の診療データも、同意を得つつ、適切に利用している。
  • 一方、2023 OECD Digital Government Indexは、公共部門を完全にデジタルガバメント化する取り組みでわが国は遅れていると指摘している。ヘルスケアも同様で、フルデジタル化・ヘルスケアデータのフル活用で、わが国は遅れている。
  • イノベーションが進み、新たな産業が生まれつつあるヘルスケアで、この遅れは致命的である。