2013年度」カテゴリーアーカイブ

電子行政研究会セミナー「マイナンバーの活用はどんな未来を拓くか」 三木浩平千葉市情報統括副管理者ほか

2014128日、TKP東京駅前会議室カンファレンスルーム2にて、第4回セミナー「地方自治体の番号制度対応と電子自治体サービスの展開」を開催しました。
当日は、講師を含め50名近くの参加者にお集まりいただき、2人の講師によるプレゼンテーション、パネルディスカッション、そして参加者全員での全体討論が行われました。 

はじめに、三木浩平氏(千葉市総務局次長情報統括副管理者)から「千葉市における番号対応と新しい電子自治体サービス」の講演をいただきました。

三木浩平氏(千葉市総務局次長情報統括副管理者)の講演資料はこちらにあります。

  • 千葉市では番号制度に対応するための仕組み作りとともに、情報連携による独自サービスの検討も進めている。
  • 千葉市では、番号制度対応の推進は業務推進改革課が行っている。他の自治体では情報システム部のところが多いが、最近は徐々に業務側にシフトしてきているようだ。
  • 基本計画は1月中に固める予定である。策定の目的は、全庁的な意識を統一するためであり、恩恵を受ける市民が限られている番号制度について市民に説明をするためである。トップを市長とし、課長によるPTを、また、数部門にまたがる場合はWGを組成し、昨年8月に全庁体制を立ち上げた。しかし、データ量や更新頻度など政省令が出るのを待つ必要があるものもある。
  • 情報連携インフラでは、統合DBを設け、それと中間サーバーを連携することで、外部とのインタフェースを1カ所にした。番号制度対応とともに、汎用機上のレガシーシステムのパッケージへの移行を並行して行う。パッケージはノンカスタマイズを目指している。
  • 調達仕様書において、番号制度対応の仕様が決まっておらず盛り込めなかったため、事業者から提案を求める形にしたが、大手ベンダーと中小ベンダーとは提案力に大きな差があった。
  • 業務の見直しにおいては、抜本的な見直しと制度対応の見直しを並行して進めている。前者は住民サービスの向上で、後者は法律への対応である。抜本的な見直しにおいては、総合窓口を目指している。webコンシェルという、市のサイトから必要な情報を案内するサービスの導入や、プッシュ型のお知らせサービスを検討している。マイポータルについてはどのようなものになるのか不透明であるが、市民ポータルは必要であり、例えば、窓口に行かなくても済んだり、行く場合でもサービスの前さばきができたりというようなことを検討している。
  • 宛名番号のデータクレンジングが必要である。例えば、転出した後に、再度転入した場合、新たな宛名番号が振られている。付与済みではあるが、現在未使用の番号が50万件ある。機械的な名寄せが困難なものは、日常の業務の中で対応していくしかなく、移行には相当時間がかかる。
  • 新サービスでは、個人番号カードのICの空き領域に複数のカードをまとめること、市民ポイントの付与、窓口訪問前にWebによる情報の事前入力、企業コードを活用した、企業と市役所を結ぶ電子私書箱を検討している。
  • 特定個人情報保護評価(PIA)への対応だが、千葉市では全項目評価になる。対応については、国からは自治体で考えるようにとされており、自治体によってバラバラの状態。説明責任を果たせるプロセスが必要なため、千葉市では、プライバシーマークで実績のあるJISQ 15001を援用し実施する。
  • 個人番号カードの交付方法については、総務省の方針とは違う、来庁時にカードの作成を市民に働きかける方式を総務省に提案している。
  • システムの調達だが、スケジュールの集中と、派遣法の改正により、SE不足の声が出始めている。そうなると、入札価格の高止まりの懸念があり、できるだけ早期の調達が必要。千葉市は国に対して、対応のための各種ツールの提供を要望しており、内閣官房が対応することになった。

続いて、茨城県五霞町の矢島氏から「小規模自治体の番号制度 課題・対応」について、資料を基に講演をいただきました。

矢島征幸氏の講演資料はこちらにあります。

  • 番号制度導入の目的は、住民満足アップ、業務効率アップである。
  • 五霞町は人口9千人と小さいが、仕事は大きいところと変わらず、人手不足である。このため、業務の効率化が課題となっていた。そこで、茨城県の4市町で共同してクラウドの導入を決めた。4市町のシステムは、ベンダーは違っていたが、移行年度の合意ができたことが大きい。すでに、クラウドが稼働中である。クラウド化の協議会に県がアドバイザーとして入っており、その支援があったことが重要だった。
  • パッケージはノンカスタマイズを目指す。半年前には改修が必要だった機能も、ベンダーの対応が進みパッケージが進化したのでノンカスタマイズで対応ができそうである。
  • 協議会の発足から1ヶ月で公告を出した。提案への評価は現場の職員に担当させた。全庁に対してデモを実施することで、職員の意識が向上した。これにより番号制度でどこをどう変えればよいか分かるようになった。
  • 首長から職員までいろいろなレベルで番号制度研修会を実施している。首長からのピンポイントの質問もあり、有意義であった。

後半は、山田肇東洋大学教授(電子行政研究会副委員長)司会によるパネルディスカッションの後、参加者も含めた全体討論、意見交換が行われました。

【主な意見・論点】

全国での同時開始に関する質疑
Q(質問):県がアドバイザーになっていると言うことは、県としては県内の全ての自治体を同じシステムにすることを考えているのか?
A(回答、参加した茨城県から)それは考えていないが、小さい自治体が多いため、できるかぎり同じシステムを使って、相互に業務支援をできるのが望ましいと思っている。ただし、総務省のアンケート結果を見ると独自指向が強いようだ。
Q:宛名番号のデータクレンジングは行っているのか? 千葉市のような苦労はないのか? 時間を取られることはないのか?
A(矢島):住民登録外の対応が大変だが、五霞町は人口9千なので手作業でも行けると思っている。しかし、協議会の4市町でも、大きい市では負担がかかっている。
Q:千葉市から、千葉県の他の自治体に対して、千葉市のシステムを利用しないかといった働きかけをしているのか?
A(三木):県内では、電子申請は共同だが、各自治体、独自志向が強くて難しい。政令市同士の相乗りも難しい。レガシーからパッケージに移行する際、同じパッケージを採用するという事例がある。
Q:このような質問を続けてきたのは、SEが不足しているという話があったからだ。共同利用しないと間に合わないのではないか。
A(三木):千葉市は、国と自治体との意見交換の構成メンバーである。当初は相乗りを想定していた。国からはLG1ASPの中小市町村での利用を推奨するということになりそうだ。
A(矢島):協議会では後乗りの自治体も募集しているところである。
Q:国からの要件の提示時期にばらつきがあると言うことだが、具体的には?
A(三木):未だに、未定だったり、概略すら書かれていなかったりしている箇所が、膨大にある。中間サーバーに格納しておかなければいけない情報や、開示の内容が曖昧だったりする。
A(矢島):うちは進捗が遅れているので、公表された範囲の中で進めている。
A(三木):番号法の別表に記載のあるもので、庁内にない情報がいくつかある。法令作成時に参考にした自治体には、おそらくあったのだろう。国には、そのような情報は市、県、国のどこが持つのか整理していただきたい。 

職員の意識改革と新サービスに関する質疑
Q:公募型の調達は今までもしていたのか?でなければ、今回なぜ行ったのか?
A(矢島):今回が初めて。それまでは、平成6年からずっと同じベンダーだった。県が主体的な考え方を育成してくれた。
Q:千葉市では現場職員の参加はあるのか?
A(三木):千葉市では、各課のなかにシステム班がある分散管理である。市長からのトップダウンでそれを乗り越えた。番号制度対応では、主管課がアンケートなどで積極的に働きかけた。
Q:番号制度対応による新しいサービスを考えているか?
A(矢島):現状はまだ考えていないが、来年度取り組む予定。
Q:全庁的な最適化のための仕組みを検討しているか?
A(三木):オープンデータ事業の取り組みの中で、事務を特定する「商品コード」が無いことが分かった。法律が変われば、事務の名称が変わったりするため、紐付けができていない。来年度、Content Management System の再構築において、「サービスコード」をふることにした。

個人情報保護に関する質疑
QPIAの実施時期は、全システム同時期か?バラバラか?
A(三木):今年度は3システムで実施予定である。
A(矢島):個人情報保護ファイル簿の更新をずっとしていなかった。そこから始める必要がある。
Q:自治体ごとの個人情報保護条例との関連は?
A(三木):適用範囲の解釈が分かれている。個人番号が業務システムに入っていなければ良いとしているところもあるようだが、千葉市では対象としている。 

討論によって、番号制度は自治体にとって様々な業務改革や新しい住民サービス提供のチャンスとなること、対応のためには全庁一体での取り組みを進める工夫が重要であること等が、参加者に共通の認識となりました。

健康 感染症の発生を早期に警告する症候群サーベイランス 大日康史氏(国立感染症研究所)

インフルエンザやノロウィルスが流行しています。これら感染症について、かかりつけ医などが投入した患者情報を自動収集し疫学的な解析を行い、発生と流行を早期に判断して公衆衛生的対応をとる一連の技術が、症候群サーベイランスです。
症候群サーベイランスはビッグデータ解析の応用分野としても大変有望ですが、わが国では、諸外国に比べ実用化が遅れています。今回のセミナーには、国立感染症研究所感染症情報センターの大日康史主任研究官をお招きし、わが国における研究開発・実用化の動向、世界各国との比較、広く利用するための制度的課題などについて、講演していただきした。

日時:2月12日(水曜日) 午後6時30分から
場所:東洋大学白山キャンパス5号館3階 5301教室
司会:山田肇(東洋大学経済学部教授、ICPF理事長)
講師:大日康史氏(国立感染症研究所)

講演資料はこちらにあります

冒頭、大日氏より概略次の通りの講演があった。

  • 感染症法に基づいて、感染症患者の発生状況を把握している(感染症発生動向調査)が、7から10日遅れで、いかに迅速に把握するかが課題となっている。感染症発生動向調査は医師が診断して保健所に報告し集約という流れで、診断に重きを置いている。しかし、パンデミック、新型感染症、まれな病気に関しては診断が遅れる場合もある。新しい病気は、そもそも診断ができない。結果的に、誤った診断になることもある。
  • バイオテロのように遅れることが致命的な場合もある。そこで、診断ではなく症状から情報収集をしようという考え方が生まれた。これが「症候群サーベイランス」である。熱っぽいなと思ったら、普通は一般用医薬品(OTC)を服用するから、これをモニターする。その先の外来受診・学校の欠席・救急外来受診・救急車の要請なども、それぞれモニターする。それらを多面的に見て、いろいろな情報を重ね合わせることで、ノイズを除去し、精度を高めるようになっている。
  • OTC購入の数は営業情報であり、入手に費用が掛かる。診断情報は電子カルテから取得できるが、病院・診療所向けの電子カルテはベンダーそれぞれに仕様が異なっている。また、医療機関では、個人情報保護の観点から、機関外に情報を一切出さないことが命題となっている。日本の個人情報保護法には公衆衛生に関する除外規定が存在するが、それに沿っての情報収集はできていない。アメリカの場合、電子カルテ導入に補助金が出るが、保健所からアクセスできることというのが補助の条件になっている。そこで、わが国では薬局サーベイランスと学校・保育園サーベイランスが主に利用されている。
  • アメリカでは、2007年時点では、緊急外来で80〜90%症候群サーベイランスを実施しており、そのほか、毒物摂取ホットラインや911コールも加えている。イギリスでは、数年前のアイスランドの噴火の際に、国民に目や呼吸器の症状が増えていないかを調査したことがあった。
  • 日本の薬局サーベイランスは薬局における処方薬の処方数をモニターするものである。薬局での処方薬の処方は99.9%電子化されているので、現場の負担なしに、処方翌日午前7時にそれを集約している。地域ごとの処方数や、処方した患者のおおまかな年齢などが自動的に分析され、グラフ等が作成される。
  • 日本の学校欠席者情報収集システム(学校欠席者サーベイランス)は、欠席者数だけでなく『熱があるので学校を休ませます』といった診断前の情報も保護者からの連絡で集約されている。保育園の場合も同様である。学校欠席者情報収集システムは22県に導入されている。群馬県、茨城県、三重県、奈良県では、保育園と学校の両方に導入されている。
  • 先日、浜松市や広島市のノロウィルスの集団感染が起きた。広島市では学校欠席者情報収集システムを導入していたので、下痢や嘔吐の欠席者数がとんでもないことになっていることを早期に把握できた。浜松市ではモニタリングしていなかったから、患者数が徐々に増えて報道された。
  • オリンピックやサミットといった国際的に重要なイベントが開催されるときに、バイオテロの確率が高くなる。2020年には東京オリンピックが予定されているので、昨年10月の東京国体の際に東京都と共同でサーベイランスを強化した。薬局・学校サーベイランスに東京都からの救急車出動状況を加えて、感染症を早期探知し、異常探知時には、保健所が対応するようにした。これからも海外要人の来日時などに同様の強化を行うことになっている。

講演後、次のような質疑があった。

電子カルテなど他の情報の活用について
Q(質問):いろいろな情報源から集めることによって、ノイズが減るという説明があった。しかし、今は実質的に処方薬と学校の情報しかない。学校には休みの期間があるから、他の情報源も確保する必要があるのではないだろうか?
A(回答):ごもっともである。保育園が開園していればその情報を得るとか、救急車搬送とか。しかし、今のところはむずかしい。
Q:それでは、米国のように診療所に電子カルテを普及させ、そこから情報を取得できないのか?
A:その通りだが、膨大な予算がかかるので、政府が取り組むかどうかである。
Q:診察結果を症候群サーベイランスに反映するのは、個人情報にあたらないのでは? なぜ病院はやらない?
A:個人情報流出の可能性をゼロにしたいという過剰な発想がある。地域内での電子カルテネットワークがあるところもあるが、カルテの相互利用程度でしかない。

新型感染症の早期探知の可能性について
Q:このような現状で、新型感染症の流行を早期検知できるのか?
A:これ以上早く見つけるのは不可能である。天然痘であっても、最初は、医師は水疱瘡だと診断するだろう。だから診断から情報収集するのは、症候群サーベイランスよりも遅い。今のものが最善である。
Q:それでは、鳥インフルエンザのヒトヒト感染は、早期探知できるのか?
A:夏であれば可能だが、季節性インフルエンザが流行している今の季節では、むずかしいだろう。
Q:どの地域に注意が必要といった判断はどのように行うのか?
A:データ表示までは自動で行い、それを見て人が二次的な判断を行う。

重要行事の際のサーベイランスの強化について
Q:サーベイランスの強化とはどういう意味か?
A:強化していないときは情報交換していない。互いの収集情報はわからない。強化しているときには情報共有する。
Q:普段から情報交換すればよいのでは?
A:47都道府県の一斉実施は、感染研の態勢では無理である。情報統合して判断するのに、短くても一県当たり30分くらいかかるからである。
Q:特別なときにしか、症候群サーベイランスを実施していないイメージがあるが?
A:学校欠席者情報収集システムなどは、各県がそれぞれの日常業務に使うものだ。このように、日常的に使われていなければ緊急時には利用できない。感染研は症候群サーベイランスにそれを利用しているのである。だから、日常的に症候群サーベイランスを実施するという態勢ではない。

教育 自由民主党の教育戦略 遠藤利明自由民主党衆議院議員

知識社会を生き抜くデジタル世代を育成するために、大量生産時代に形作られた公教育制度はどのように変わっていくべきなのでしょうか。
今回は講師に遠藤利明衆議院議員・自由民主党教育再生実行本部本部長をお招きし、同党の教育戦略についてお話しいただくことにしました。同党は昨年来、教育再生に関し繰り返し提言を発表しており、その中には、英語教育の抜本的改革・イノベーションを生む理数教育の刷新と並んで、国家戦略としてのICT教育がうたわれています。この戦略が政策として実施されることによって、わが国の公教育は大きく変化していくでしょう。

日時:1月24日(金曜日) 午後6時~8時
場所:KTP東京駅京橋ビジネスセンター
司会:山田肇(東洋大学経済学部教授、ICPF理事長)
講師:遠藤利明(自由民主党衆議院議員)

講演の際、参考に配布された資料はこちらにあります。
講演資料教育再生実行会議について教育再生実行本部提言教育の情報化の歩み学校ICT環境整備事業について情報通信技術を活用した新たな学びの推進ICTを活用した新たな学びの推進教育再生推進法(仮称)について(案)参考資料

冒頭、遠藤氏は概略次のように講演した。

  • 陰山先生の授業で情報教育を知った。子ども個々のレベルに合わせ、興味・関心を伝える教育ができるとわかり、ICT教育推進派になった。
  • 日本の教育では結果の平等を最重要視してきた。しかし、能力も興味・関心も成長スピードも異なるのに、まったく平等に教育を行うのには限界がある。国際化と少子化社会への対応が遅れる日本の教育は制度疲労している。
  • ミャンマーでは、英語での遠隔授業を実施しているため、シンガポール等の国々で自在に働くことができる。ミャンマーは一人当たりの国民所得が570ドルで、日本の百分の一程度だ。だからこそICTを用いて国の教育レベルを上げて行こうとしている。このような動きがある中で、日本はアジアで取り残されてしまわないだろうか。
  • 今は全ての子どもが同じスピードで学んでいるが、一人一人の能力、興味、関心や成長スピードが違うため、そうした事に合わせた教育をする必要がある。大学入学試験は知識のみの一発勝負であるため、入学後に燃え尽き症候群になるケースもあり、改革が必要だ。追いつけ追い越せでうまくいっていた戦後とは違い、一人一人に目を向けた教育に変えていく必要がある。国際化に対応したグローバル人材の育成が必要である。グローバルサイエンススクールのように、理科教育も特化する必要がある。
  • 総裁直属の教育再生実行本部が今までと違うのは「実行」という言葉が入った点である。総裁から私たちが指示を受けたのは、日本人が世界の中で生きて行く・生き抜く力を付けることを考えて、実現可能性だけを考えないで、理想型の教育制度改革を実現していくこと。中曽根内閣、小渕内閣、森内閣でいろいろな提言を行ってきたが、あまり実行されてこなかった。今回は安倍総裁のもとで実行する。
  • 今までのICT教育実証プロジェクトはモデル校を設定して行ってきたが、効率が悪く相乗効果が出てこない。行政事業レビューの際には担当の稲田大臣に現場を見てもらったが、機器がうまく作動せず、レビュー本番ではきびしい批判を受けた。今は特定の関係者だけがICT教育は大事だと盛り上がっている状態に過ぎず、全体には広がっていない。予算の獲得も文科省と総務省の担当者ががんばっているだけであり、予算を取る戦略が存在しない。
  • ICTを用いた教育にこれからどのように予算を捻出するか。3年間で100地域にて一人一台のタブレット、無線LAN・電子黒板を整備したモデル校をつくりたい。しかし残念ながら、まだまだ理解してもらっていない。子どもの頃からコンピュータを使うと頭の発達がおかしくなると考えている人さえいる。財務省も冷ややかな反応だ。ICTを理解していない人たちにいかにして理解してもらうことが必要である。
  • そのために、政治と産・学・官が戦略を作って実行していく必要がある。戦略の策定には検討チームも必要だろう。法律でも教育再生推進法を準備しており、この中でICT教育環境の整備について盛り込みたい。ICT教育の推進について応援してほしい。

その後、以下のような質疑があった。

戦略について
Q(質問):結果の平等主義から脱して、少しでも能力の高い人たちを輩出するという重要な話をされた。しかし、自民党の教育戦略というと、マスコミでは愛国心しか伝えない。メディアも良くないが、遠藤先生たちの熱意が国民に伝わっていないように感じるが?
A(回答):我々の努力不足は認める。一方で、マスコミの興味も教科書問題などは関心が高いものの、それ以外については関心の度合いが全体的に低いように感じる。
Q:日本のソフトウェアはどこで作っているのかという統計が存在しない。どの程度がオフショアなのだろうか。そんな統計がなければ、グローバル人材の育成などできない。セキュリティまで人材が回ってこない。政策の入り口に、きちんと統計を取るといった取り組みが必要ではないか?
A:よく理解できる。その通りだ。どんな人材がどの程度必要かを考えていないのが問題だ。それで教育するから、結果の平等だけではないが、ワンパターンの考えを持つ人ばかりが増える。みんなと違うことを創意工夫していく人が足りないと感じている。だから、大学の入学試験を変えようとしている。一発勝負も大事だが、高校で本を読んだこと、地域活動やボランティアをしたことなどを活かせるような形式・多様性を実現したい。

教員の能力向上や育成について
Q:問題は教師である。ICT教育をすると言っても、教職免許を取得したのはずっと前だから、どうしたらよいのかわからない。結果的にうまくいかない。オーストラリアやニュージーランドではICT教育の能力検定を教員に強制的に行うしくみができつつある。日本も、このようなことをしなければまずいのではないか?
A:これからは教員免許取得時にICTの利活用を入れていく。また、初任者研修や免許更新時にも行う。教師が関心を持てるようなしくみをどのように作っていくべきかを考えると、強制的にやらなければならないかもしれない。例えば、英語の場合には、TOEFLを大学入学資格認定の基準にする方針だが、これで授業は変わり、先生も変わるだろう。ICTも若い先生はやろうとするが、高齢の先生はできない。教師採用試験ではICT教育能力が必要とするなど追い込む環境作りが必要である。
Q:これからの教員養成を考える必要がある。現在は、情報機器の活用は2単位のみ。たいていの大学では、初年度の一般向け科目と単位が併用されている。そのため、学校の授業で使えるようにするための教育は行われていない。自民党としてはどう進めようとしているか?
A:教職課程では2単位より多くを求めたい。日野市では、大学卒業後、一年間は臨時教員として採用し、ICT支援員として訓練させていると聞いている。教師は大学4年を卒業したら准免許を与え、現場でインターンをするというかたちを取りたいと思っている。教師のインターン制度の導入について、これから、教育再生実行会議で議論をしていく。
Q:大学で教員を育成という話だが、企業を退職した人がノウハウを伝えることも良いのでは? 新しい人材ではなく、中高年を含めてうまく使っていくことも可能かではないか?
A:賛成。免許がなくても先生になることは可能である。一度社会に出て、経験を活かしてその上で先生になる。できれば、社会人には教職大学院を出てもらいたいが…。「チーム学校」ということで、学校を先生だけの世界にしないで、地域に開かれた学校にしていけばよい。ICT知識がある人はたくさんいるので積極的に活用すべきである。
Q:自分が勤めている大学では高等学校の情報の教員免許を出している。しかし、社会的には認知されていない。実際に免許を持って卒業する学生はいるが、就職する者はあまり多くない。中学校や小学校でも情報免許が必要あれば、どの先生もICT教育ができるようになるのではないか?
A:情報免許というよりも、ほとんどの先生が使えるという状況が必要である。科目として特定の人が免許を持つよりも、多くの人が持つように広めていく方がいいのではないだろうか。

実証実験について
Q:2000年くらいに総務省の実証実験に参加した。不思議に思ったことは、実験が終わった後、続かないプロジェクトが多いこと。いくつも国家プロジェクトがあったが、継続的な検証を行っていないのではないだろうか。効果があるモデルをつくり公開して、実験後も企業に協力をお願いするとか、継続のためのモデルが必要である。もっとよいモデルをつくるための民間が競争できる環境が必要ではないか?
A:公立学校はかなり閉鎖的である。しかし、コミュニティスクールという学校を開く取り組みがある。また、学力試験で民間の方でよいものがある。いいものはどんどん使っていくとよいのではないか。
Q:フューチャースクールに関して、趣旨はよいと思うが、逆風が吹いている。戦略特区を作るといった動きはあるのか?
A:特区になっても予算は飛躍的には増えない。しかし、特区には民間に入ってもらえるので、そこで自由に教育できるかもしれない。この点に関して、いろいろな企業人が発言して追い込んでいくよう期待する。
Q:一方で、荒川区のように区長が予算を立てたケースもある。みんなで荒川区を応援するとかどうだろうか?
A:東京あたりは比較的予算がある。地方都市は予算がない。まずは、荒川区を応援し、導入への風潮ができたら全体の予算としていくといった、先導的な取り組みが必要である。
C:教育は事例が少ないが、電子行政分野では千葉などの成功事例もある。
Q:校長や首長のICTリテラシーが高いところは導入が進む。そうなると、ばらつきが出てくる。公平なサービスを提供することにおいて、これをどのように考えるか?
A:ばらつきはどうしても出てくる。今、公立学校は校長になる年齢が高い。フィンランドは38歳で既に校長になっていた。日本では早くて50歳くらい。50歳を過ぎると、考え方が保守的になる。できるだけもっと早く校長になれるようにすればよいのだが、それでもばらつきは出るだろう。

予算の確保について
Q:大阪市の教育バウチャー(所得が少ない世帯に補助をというしくみ)をどう評価するか。公教育でタブレットを配るよりも投資効果が高まると思う。自民党としては、どうお考えか?
A:バウチャーは考えていない。やりにくい。公教育としてやるときには、特定の世帯だけというのは難しい。日本の教育システムにはなじまないと考えている。
Q:しかし、どんなに安く見積もっても2,000億円はかかるだろう。教育予算を増やさない限り、いきなりやるのは無理ではないか?
A:バウチャーは「あまねく」となると難しいが、一気に何千億というお金が投入できないのも確かだ。何をやるにしても予算が必要で、仕掛けをつくることが必要である。日本の公教育の予算はOECDの調査では低い。消費税増税についても、せめて2.5兆円は教育予算にならないだろうかと考えている。教育目的税をつくることは難しいが、お金がないと動けないのも事実である。
Q:地方交付税だと、首長の考えでICT教育以外のほかの用途に回ってしまうこともある。どうやってクリアするか?
A:気持ちとしては補助金にしたいが、地方分権が唱えられる時代には、なかなか風当たりが強い。

デジタル教科書について
Q:デジタル教科書は、ハードよりもソフトに考えをずらした方がよいのではないだろうか?
A:全体で1兆5000億円かかるという試算がある。1台7万円で計算しているのだが、1万円でできないのか等は議論している。しかし、必要な予算はとても大きい。
C(山田コメント):外国では「Bring your own device」と称して生徒にデバイスを持参させたりもしている。いろいろなデバイスを利用するとなると政府は共通規格をつくらなければならない。互換性を実現しなければならない。このようにすれば、ハードよりもソフトに比重が移るだろう。
A:教育現場の人とチームをつくって日本規格をつくる必要がある。

法律 インターネットビジネスと約款 内田貴法務省参与ほか

ネットビジネスでは、サービス提供者が利用者に対し、利用規約やプライバシーポリシー、ガイドラインといった形で様々な約款を当たり前のように提示しています。通信サービスの場合には、電気通信事業法に従って契約約款を事前に総務大臣に届け出ることが義務付けられている一方で、ネットビジネスの約款に関する明文規定は法文上には存在せず、どのような場合に約款が提供者と利用者との間の契約の条件になるのかが不明確な状況にあります。
現在、法務省の法制審議会民法(債権関係)部会において、取引に関する最も基本的なルールを定めている民法について、明治29年の同法制定以来の社会・経済の変化への対応を図り、国民一般に分かりやすいものとする等の観点から、契約に関する規定を中心に見直しを行うために調査審議が行われています。その審議の中では、約款に関するルールを民法に明文化すべきか否かが大きな論点となっています。
このセミナーでは、ネットビジネスをはじめとして、様々な分野で次々に誕生する新しいビジネスの発展を図るために、約款を民法上に規定する意義について議論します。

日時:2014年1月23日(木曜日) 17時30分から
場所:アルカディア市ヶ谷(私学会館)
基調講演:
柳川範之(東京大学教授):約款に関するルールの明確化と経済効果
内田貴(法務省参与):約款に関する議論の状況等
パネルディスカッション:
内田貴(法務省参与)
大谷和子(株式会社日本総合研究所法務部長、法とコンピュータ学会理事)
沢田登志子(一般社団法人ECネットワーク理事)
神谷寿彦(株式会社GyaO社長室室長)
モデレータ:山田肇(東洋大学経済学部教授、ICPF理事長)

柳川氏の講演資料はこちら内田氏の講演資料はこちら
民法(債権関係)の改正に関する中間試案(抜粋) 約款部分はこちらにあります

柳川氏講演講演ビデオはこちら
冒頭、柳川氏は次の通り講演した。

  • 取引がうまく行われることは経済活性化のための必要条件であり、経済成長戦略も取引がうまく行われなければ実現しない。
  • 経済活動を阻害する要因の一つに将来の不確実性がある。必ず成功する投資プロジェクトであっても、法律あるいは契約に不備があり、利益が投資家に返済されない可能性があるとなれば、人々は投資しない。
  • 認識される将来のリターンが、不透明性により、実質上低下してしまうと、本来望ましい取引が行われなくなる。それが経済全体の取引の不活性化につながり、景気を低迷させ成長率を低下させる原因となる。
  • 必要な取引を促進させていく上では、リターンや責任の帰属先が明確になるようにし、透明性を高めていく必要がある。

内田氏講演(講演ビデオはこちら
内田氏は次の通り講演した。

  • 120年ぶりに民法を抜本的に改正しようとしている。目的は、民法の現代化であり、国民一般に分かりやすい民法にすることである。
  • 「約款」は現代の取引に不可欠のビジネスモデルであるが、多用されるようになったのは20世紀後半以降であり、民法起草時には約款という形態は想定していなかった。
  • 供給者が提示する約款を購入者は通常は読まないし、読んでも理解できないし、関心の対象ではないし、深く考えずに「同意」する。契約の基本原則は「人は自ら約束したことにのみ拘束される」であるが、読んでいないし理解していない約款に拘束されるのか。ここに、柳川氏の指摘する契約の不透明性の問題がある。
  • 伝統的な業界には個別の業法に約款に関する定めがあり、裁判も積み重ねられ、不透明性は少ない。一方、インターネットのような新しいビジネスでは、約款条項の有効性が不透明である。たとえば、何が不意打ち条項・不当条項かについても、民法第九十条「公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする」を基に裁判で争うしかないのが現状である。
  • 米国には統一商事法典があり、欧州は共通欧州売買法の準備を始めている。中国・韓国にも法律がある。約款に法的根拠を与えるのが世界の潮流であり、民法改正もそれを意図するものだ。
  • 伝統的な業界は民法に規定することに反対している。しかし、規定する意図は、透明性の高い私法ルールを定めることであって、新たな公的規制を行うものではない。ルールを明確にすることで安全な取引ができるようになる。
  • 民法に規定することで、IT業界には安全に約款が使える制度的環境が整う。安全で安心な約款取引は消費者にもメリットがある。

パネル討論パネル討論のビデオはこちら
これらの講演を受けて、パネル討論が実施された。パネル討論では、三つのテーマが取り上げられ、それぞれについて、次のようにさまざまな意見が表明された。

約款の組み入れ要件について
神谷氏:多くのインターネットビジネスでは利用規約という形で約款が提示されている。利用する消費者の多くに用語として「約款」は浸透していないが、利用規約が利用条件を定めるものであることは理解している。
沢田氏:確かに消費者は普段は見ないが、何かあった時には見る。何か起こった時にそれに基づいて解決しなければならないということは、消費者にも浸透している。
神谷氏:インターネットビジネスでは各ページの下部に利用規約を掲載するのが普通である。また、会員登録の際は明示的な「同意」を求めることもある。しかし、いずれのケースも後で「同意した覚えがない」という苦情が出る場合はある。
内田氏:契約の透明性を高める必要性は、遺伝子検査などインターネットビジネス以外の新ビジネスにも共通である。
沢田氏:利用規約がどこにあるか分からない悪質サイトもある。利用規約がヘルプページに掲載されていた場合もある。しかし業界全般としては見えるところに置くという暗黙のルールで、大抵のサイトはすぐわかるところに掲載している。一方で、利用規約をクリックすると英文が出るといった、改善すべきサイトは存在する。
沢田氏:意図的に隠している約款もあるが、正しい姿ではない。約款は日本語でしっかり記載すべきであると考える。広告は日本語で利用者を勧誘しているのに、利用規約が英語はダメだと思う。
大谷氏:組入要件は、「見る気になった人がさしたる苦労なく約款を見ることができる」という程度の簡単なものがいい。条項の分かりやすさとか、ダウンロードできるとか、重要な事項がクローズアップされていなければならないということは、消費者保護制度のような制度で検討すべきであって、民法はそこまで決めなくてよい。今回の民法改正はどういった社会像を前提としているのだろうか。契約を締結するかどうかを決定するために必要な情報が当事者の間で非対称に存在しているというのが現代の社会である。約款の組入要件は、約款作成者が持っている情報をサービス利用者に提供するための情報の流れを作る程度のシンプルで分かりやすいものがいい。
内田氏:組み入れについてはシンプルでよいと思う。約款とは読まないものだが、それだったら組み入れについて規定するのは無駄だろうか? そうは思わない。約款は契約であり、契約である以上、読んでから契約したい人のために見えるように提供すべきあり、契約である以上、合意も得なければならない。しかし、その合意は逐一必要なものでもなく、また黙示の同意でも足り、インターネットの場合、約款が見える形でリンクされていればサービスを利用することが約款に対する同意とも解釈することもでき、同意はハードルの高いものではない。
沢田氏:インターネットビジネスはクロスボーダー化しているが、言語については難しい問題がある。法律化のハードルも高い。しかし、だからこそ、海外の契約当事者にも容易に理解できるように、法律に約款に関するルールを規定しておくことが重要である。

約款の変更について
神谷氏:初めに作った利用規約が、サービスの進歩によってどんどん変化していくのが、インターネットビジネスでは当たり前である。一つのサイトでサービスを追加するごとに別々に約款を提供するというのもおかしな姿だ。サービスを追加したら、サイト全体を律する一つの約款を変更するというのは合理的である。一方で、事業者は利用規約の変更で利用者に不利益が生じる場合には、慎重に対応を心掛けている。
内田氏:利用者にとって不利益な変更の場合に問題になる。元の約款に「不利益をもたらすものでも自由に変更できる」という記述があれば、変更は有効なのだろうか。紛争解決のためには、約款の変更について民法に規定があるほうがよい。
沢田氏:外国企業が提供するサービスでいつの間にか約款が変更されていたケースがあった。日本には約款に関する法律がないから、今は消費者契約法を出して戦わざるを得ない。外国人にも分かるような規定が民法にあれば、このようなケースでもっと主張がしやすくなる。
内田氏:約款の変更に対して日本の実務は慎重である。軽微な不利益は周知期間をおけばよいが、もっと大きな不利益は適切な処置をするのが普通である。今回の改正では、そのような実務を変えるつもりはなく、むしろ日本の実務をルール化して変更に関する不確実性を除去しようとしている。
内田氏:これからはクロスボーダー取引が増える。日本法が適用されると約款で記述しても、法律がなければ外国人には不透明に映る。判例主義の国でもないので裁判例も事例に過ぎず、ルールとみなされない。明晰な英語に置き換えられる言葉で民法にルールを規定することは対外的な主張の場面でも有益である。

不意打ち条項・不当条項について
沢田氏:サプリメントで、無料お試し期間が過ぎると自動的に定期購入に変更されてしまう利用規約があった。読まずに同意した消費者には不意打ちとなった。
大谷氏:約款のひな形を作ってきた立場としては、不当条項のリストがあると、形式的には損害賠償の規定・責任免除の規定に該当してしまう懸念があり、実質的に考えればそれほど不当でもない規定が不当と指摘されて紛争が増加するのではないかという心配がある。不当条項の作り込みには法制上の深い議論を求める。
沢田氏:何らかの目安として不当条項のリストをつくることは推奨するが、法律の中に書き込むのはいかがなものか。インターネットのスピードから考えて柔軟性に欠ける。法律の外で、短期間でアップデートできるほうが良いのではないか。
神谷氏:リスト化というのは、世の中の変動に対応できないため不要ではないか。
内田氏:リスト化については消極的な意見があったが、欧州では不当条項のリスト化が行われている。かなり詳細なリストを作成している国もある。リストを作ると柔軟性に欠けるという指摘があるが、欧州各国では民法も年に何回も改正しているため、その辺は対応できている。ただ、欧州でも不当条項リストは専ら消費者契約に適用するのが一般的。民法の約款規定は事業者間の取引にも適用されるものであるため、法制審議会でもリスト化は既に審議の対象から落ちている。別途消費者契約法の改正等で検討されることはあるかもしれない。
内田氏:今回の民法改正で、不意打ち・不当条項について規律することは、裁判実務が明瞭・透明になるというメリットにつながるだろう。

まとめ
これらの議論を受けて各パネリストからまとめの発言があった。
大谷氏:当たり前に思っていた約款に関する実務の積み重ねにも、不明瞭な部分があることがこのセミナーで分かった。クロスボーダー取引における多言語対応などもそれにあたる。新規参入を考える中小企業のリスクが小さくなるように、約款の法制化について検討するのは重要である。現行の民法には、「情報」という言葉が単独では出てこないが、中間試案を見る限り、「情報」という言葉が単独で用いられるのが、この120年間の時代の変化だと思う。約款に関するルールは約款作成者とサービス利用者間の情報の流れを促すミニマムなルールであってほしい。約款を見つめ直すことが出来れば、より仕事がしやすくなる。
神谷氏:今の約款にはよりどころがない。民法で約款とはどういうものかを定義してもらえれば、事件が起きたときは消費者を守ることもできる。
沢田氏:法制化の反対勢力は民法ではなく業法でと主張しているそうだが、クロスボーダー取引の時代には民法の方が適している。日本法では、約款はこのように規律されていると海外に主張できるようにすべきだ。事業者と消費者の区別もなくなりつつある。だからこそ、民法の中に取引ルールの一般原則を書くべきだ。消費者契約法に書けばよいという意見もあるが、約款は消費者だけでなく中小企業も利用する。
内田氏:約款について法律で規定するというと「また規制か」と考えられがちだが、商取引のベースになるルールを作ろうということだ。法制審の審議は最終段階に入っているが、インターネットビジネスをはじめ新しいビジネスに有益な約款に関する規律が落ちることのないように、実務界からの声を期待する。

最後に、モデレータより「約款法制化について理解を深める機会となったのであれば幸いである」との発言があり、パネル討論は終了した。