教育 自由民主党の教育戦略 遠藤利明自由民主党衆議院議員

知識社会を生き抜くデジタル世代を育成するために、大量生産時代に形作られた公教育制度はどのように変わっていくべきなのでしょうか。
今回は講師に遠藤利明衆議院議員・自由民主党教育再生実行本部本部長をお招きし、同党の教育戦略についてお話しいただくことにしました。同党は昨年来、教育再生に関し繰り返し提言を発表しており、その中には、英語教育の抜本的改革・イノベーションを生む理数教育の刷新と並んで、国家戦略としてのICT教育がうたわれています。この戦略が政策として実施されることによって、わが国の公教育は大きく変化していくでしょう。

日時:1月24日(金曜日) 午後6時~8時
場所:KTP東京駅京橋ビジネスセンター
司会:山田肇(東洋大学経済学部教授、ICPF理事長)
講師:遠藤利明(自由民主党衆議院議員)

講演の際、参考に配布された資料はこちらにあります。
講演資料教育再生実行会議について教育再生実行本部提言教育の情報化の歩み学校ICT環境整備事業について情報通信技術を活用した新たな学びの推進ICTを活用した新たな学びの推進教育再生推進法(仮称)について(案)参考資料

冒頭、遠藤氏は概略次のように講演した。

  • 陰山先生の授業で情報教育を知った。子ども個々のレベルに合わせ、興味・関心を伝える教育ができるとわかり、ICT教育推進派になった。
  • 日本の教育では結果の平等を最重要視してきた。しかし、能力も興味・関心も成長スピードも異なるのに、まったく平等に教育を行うのには限界がある。国際化と少子化社会への対応が遅れる日本の教育は制度疲労している。
  • ミャンマーでは、英語での遠隔授業を実施しているため、シンガポール等の国々で自在に働くことができる。ミャンマーは一人当たりの国民所得が570ドルで、日本の百分の一程度だ。だからこそICTを用いて国の教育レベルを上げて行こうとしている。このような動きがある中で、日本はアジアで取り残されてしまわないだろうか。
  • 今は全ての子どもが同じスピードで学んでいるが、一人一人の能力、興味、関心や成長スピードが違うため、そうした事に合わせた教育をする必要がある。大学入学試験は知識のみの一発勝負であるため、入学後に燃え尽き症候群になるケースもあり、改革が必要だ。追いつけ追い越せでうまくいっていた戦後とは違い、一人一人に目を向けた教育に変えていく必要がある。国際化に対応したグローバル人材の育成が必要である。グローバルサイエンススクールのように、理科教育も特化する必要がある。
  • 総裁直属の教育再生実行本部が今までと違うのは「実行」という言葉が入った点である。総裁から私たちが指示を受けたのは、日本人が世界の中で生きて行く・生き抜く力を付けることを考えて、実現可能性だけを考えないで、理想型の教育制度改革を実現していくこと。中曽根内閣、小渕内閣、森内閣でいろいろな提言を行ってきたが、あまり実行されてこなかった。今回は安倍総裁のもとで実行する。
  • 今までのICT教育実証プロジェクトはモデル校を設定して行ってきたが、効率が悪く相乗効果が出てこない。行政事業レビューの際には担当の稲田大臣に現場を見てもらったが、機器がうまく作動せず、レビュー本番ではきびしい批判を受けた。今は特定の関係者だけがICT教育は大事だと盛り上がっている状態に過ぎず、全体には広がっていない。予算の獲得も文科省と総務省の担当者ががんばっているだけであり、予算を取る戦略が存在しない。
  • ICTを用いた教育にこれからどのように予算を捻出するか。3年間で100地域にて一人一台のタブレット、無線LAN・電子黒板を整備したモデル校をつくりたい。しかし残念ながら、まだまだ理解してもらっていない。子どもの頃からコンピュータを使うと頭の発達がおかしくなると考えている人さえいる。財務省も冷ややかな反応だ。ICTを理解していない人たちにいかにして理解してもらうことが必要である。
  • そのために、政治と産・学・官が戦略を作って実行していく必要がある。戦略の策定には検討チームも必要だろう。法律でも教育再生推進法を準備しており、この中でICT教育環境の整備について盛り込みたい。ICT教育の推進について応援してほしい。

その後、以下のような質疑があった。

戦略について
Q(質問):結果の平等主義から脱して、少しでも能力の高い人たちを輩出するという重要な話をされた。しかし、自民党の教育戦略というと、マスコミでは愛国心しか伝えない。メディアも良くないが、遠藤先生たちの熱意が国民に伝わっていないように感じるが?
A(回答):我々の努力不足は認める。一方で、マスコミの興味も教科書問題などは関心が高いものの、それ以外については関心の度合いが全体的に低いように感じる。
Q:日本のソフトウェアはどこで作っているのかという統計が存在しない。どの程度がオフショアなのだろうか。そんな統計がなければ、グローバル人材の育成などできない。セキュリティまで人材が回ってこない。政策の入り口に、きちんと統計を取るといった取り組みが必要ではないか?
A:よく理解できる。その通りだ。どんな人材がどの程度必要かを考えていないのが問題だ。それで教育するから、結果の平等だけではないが、ワンパターンの考えを持つ人ばかりが増える。みんなと違うことを創意工夫していく人が足りないと感じている。だから、大学の入学試験を変えようとしている。一発勝負も大事だが、高校で本を読んだこと、地域活動やボランティアをしたことなどを活かせるような形式・多様性を実現したい。

教員の能力向上や育成について
Q:問題は教師である。ICT教育をすると言っても、教職免許を取得したのはずっと前だから、どうしたらよいのかわからない。結果的にうまくいかない。オーストラリアやニュージーランドではICT教育の能力検定を教員に強制的に行うしくみができつつある。日本も、このようなことをしなければまずいのではないか?
A:これからは教員免許取得時にICTの利活用を入れていく。また、初任者研修や免許更新時にも行う。教師が関心を持てるようなしくみをどのように作っていくべきかを考えると、強制的にやらなければならないかもしれない。例えば、英語の場合には、TOEFLを大学入学資格認定の基準にする方針だが、これで授業は変わり、先生も変わるだろう。ICTも若い先生はやろうとするが、高齢の先生はできない。教師採用試験ではICT教育能力が必要とするなど追い込む環境作りが必要である。
Q:これからの教員養成を考える必要がある。現在は、情報機器の活用は2単位のみ。たいていの大学では、初年度の一般向け科目と単位が併用されている。そのため、学校の授業で使えるようにするための教育は行われていない。自民党としてはどう進めようとしているか?
A:教職課程では2単位より多くを求めたい。日野市では、大学卒業後、一年間は臨時教員として採用し、ICT支援員として訓練させていると聞いている。教師は大学4年を卒業したら准免許を与え、現場でインターンをするというかたちを取りたいと思っている。教師のインターン制度の導入について、これから、教育再生実行会議で議論をしていく。
Q:大学で教員を育成という話だが、企業を退職した人がノウハウを伝えることも良いのでは? 新しい人材ではなく、中高年を含めてうまく使っていくことも可能かではないか?
A:賛成。免許がなくても先生になることは可能である。一度社会に出て、経験を活かしてその上で先生になる。できれば、社会人には教職大学院を出てもらいたいが…。「チーム学校」ということで、学校を先生だけの世界にしないで、地域に開かれた学校にしていけばよい。ICT知識がある人はたくさんいるので積極的に活用すべきである。
Q:自分が勤めている大学では高等学校の情報の教員免許を出している。しかし、社会的には認知されていない。実際に免許を持って卒業する学生はいるが、就職する者はあまり多くない。中学校や小学校でも情報免許が必要あれば、どの先生もICT教育ができるようになるのではないか?
A:情報免許というよりも、ほとんどの先生が使えるという状況が必要である。科目として特定の人が免許を持つよりも、多くの人が持つように広めていく方がいいのではないだろうか。

実証実験について
Q:2000年くらいに総務省の実証実験に参加した。不思議に思ったことは、実験が終わった後、続かないプロジェクトが多いこと。いくつも国家プロジェクトがあったが、継続的な検証を行っていないのではないだろうか。効果があるモデルをつくり公開して、実験後も企業に協力をお願いするとか、継続のためのモデルが必要である。もっとよいモデルをつくるための民間が競争できる環境が必要ではないか?
A:公立学校はかなり閉鎖的である。しかし、コミュニティスクールという学校を開く取り組みがある。また、学力試験で民間の方でよいものがある。いいものはどんどん使っていくとよいのではないか。
Q:フューチャースクールに関して、趣旨はよいと思うが、逆風が吹いている。戦略特区を作るといった動きはあるのか?
A:特区になっても予算は飛躍的には増えない。しかし、特区には民間に入ってもらえるので、そこで自由に教育できるかもしれない。この点に関して、いろいろな企業人が発言して追い込んでいくよう期待する。
Q:一方で、荒川区のように区長が予算を立てたケースもある。みんなで荒川区を応援するとかどうだろうか?
A:東京あたりは比較的予算がある。地方都市は予算がない。まずは、荒川区を応援し、導入への風潮ができたら全体の予算としていくといった、先導的な取り組みが必要である。
C:教育は事例が少ないが、電子行政分野では千葉などの成功事例もある。
Q:校長や首長のICTリテラシーが高いところは導入が進む。そうなると、ばらつきが出てくる。公平なサービスを提供することにおいて、これをどのように考えるか?
A:ばらつきはどうしても出てくる。今、公立学校は校長になる年齢が高い。フィンランドは38歳で既に校長になっていた。日本では早くて50歳くらい。50歳を過ぎると、考え方が保守的になる。できるだけもっと早く校長になれるようにすればよいのだが、それでもばらつきは出るだろう。

予算の確保について
Q:大阪市の教育バウチャー(所得が少ない世帯に補助をというしくみ)をどう評価するか。公教育でタブレットを配るよりも投資効果が高まると思う。自民党としては、どうお考えか?
A:バウチャーは考えていない。やりにくい。公教育としてやるときには、特定の世帯だけというのは難しい。日本の教育システムにはなじまないと考えている。
Q:しかし、どんなに安く見積もっても2,000億円はかかるだろう。教育予算を増やさない限り、いきなりやるのは無理ではないか?
A:バウチャーは「あまねく」となると難しいが、一気に何千億というお金が投入できないのも確かだ。何をやるにしても予算が必要で、仕掛けをつくることが必要である。日本の公教育の予算はOECDの調査では低い。消費税増税についても、せめて2.5兆円は教育予算にならないだろうかと考えている。教育目的税をつくることは難しいが、お金がないと動けないのも事実である。
Q:地方交付税だと、首長の考えでICT教育以外のほかの用途に回ってしまうこともある。どうやってクリアするか?
A:気持ちとしては補助金にしたいが、地方分権が唱えられる時代には、なかなか風当たりが強い。

デジタル教科書について
Q:デジタル教科書は、ハードよりもソフトに考えをずらした方がよいのではないだろうか?
A:全体で1兆5000億円かかるという試算がある。1台7万円で計算しているのだが、1万円でできないのか等は議論している。しかし、必要な予算はとても大きい。
C(山田コメント):外国では「Bring your own device」と称して生徒にデバイスを持参させたりもしている。いろいろなデバイスを利用するとなると政府は共通規格をつくらなければならない。互換性を実現しなければならない。このようにすれば、ハードよりもソフトに比重が移るだろう。
A:教育現場の人とチームをつくって日本規格をつくる必要がある。