2014年3月14日、東洋大学大手町サテライトにて、第5回セミナー「地方自治体の番号制度対応と電子自治体サービスの展開」を開催しました。
当日は、講師を含め50名を超える参加者にお集まりいただき、3人の講師によるプレゼンテーションと参加者全員での全体討論が行われました。
はじめに、向井治紀氏(内閣官房内閣審議官)から「共通番号制度における個人情報保護について」の講演をいただきました。
向井治紀氏(内閣官房内閣審議官 社会保障改革担当)の講演資料はこちらにあります。
- マイナンバー制度では、第三者機関の設置、特定個人情報保護評価、目的外使用の禁止、罰則強化などの歯止めを設けた。システム面では、分散管理、アクセス制限、通信の暗号化などを行う。このように、マイナンバー制度は個人情報を保護しつつ、行政事務での利活用を図るものである。
- 個人番号カード(ICチップ)の空き容量を使えるようになっている。健康保険証の代わりなど、自治体が条例を定める形で、新たな利用形態が生まれてくるだろう。
- 特定個人情報保護委員会は、個人情報保護、情報処理の有識者、民間、自治体からの委員で構成され、保護と利用のバランスを実現する。委員会が策定する民間に対するガイドラインがこれから重要になる。
- 保護に偏りすぎると使い勝手が悪くなる。番号制度の民間活用を早くという声があるが、番号を付ける範囲を拡大するよりも、本人確認の拡大を求める声が強い。マイナンバー法によって、ネットにおける本人確認について民間も公的個人認証を利用できるようにしている。
- 今後の可能性として、医療分野では市町村間での連携、災害時の過去の病歴取得などが挙げられる。番号だけで郵送できるマイ郵便番号などのアイデアもある。マイナンバーもパーソナルデータもこれからの経済に不可欠であり、保護しつつも、活用できるようにしていきたい。
続いて、篠原俊博氏(総務省自治行政局住民制度課長)から「地方自治体における共通番号対応の現状と独自の利活用計画について」の講演をいただきました。
篠原俊博氏(総務省自治行政局住民制度課長)の講演資料はこちらにあります。
- 制度改正はクラウド化のよいタイミングであり、新藤総務大臣もクラウド化に熱心である。システム構成でキーとなる中間サーバーはクラウド化し、東西2カ所に設置し、東西で相互バックアップする。
- 地方自治体の既存システムの改修には国費を付けた。住基システム、税務システムの改修などが実施できる。ただし、ランニング費用は地方の負担となる。
- 住基カードが廃止され、個人番号カードに切り替わる。表面には必ず顔写真が載る。裏面はコピーされることを想定して、個人番号と氏名、生年月日が載る。
- 公的個人認証が民間に開放される。文章の真正性を確認するという利用方法だけでなく、スムーズなログインに使える利用者証明の機能が追加される。今までネックだったカードリーダーに替えて、NFC付スマートホンを使えないか検討している。
- カードの普及とよいコンテンツは鶏と卵の関係にある。自治体によっては、条例による独自利用を考えているところもあり、期待したい。
続いて、向井氏、篠原氏の講演を受けて、柴山昌彦衆議院議員(衆議院内閣常任委員長)から総括講演をいただきました。
- マイナンバーについては施行令などの策定作業が遅れているという批判があり、手探りのところもあるが、スケジュール通り実施する。
- パーソナルデータの保護と利活用については、政治的な決断が必要である。なぜなら、日本人は保護について非常にセンシティブだからだ。機微情報の扱いに慎重過ぎたがために、かえって、ネットセキュリティ対応が遅れてしまっている。それが、米欧のとの機微情報のやりとりの遅れにも繋がっている。
- 医療情報はマイナンバーとは別にすべきという議論もあるが、どうするかは政治的な決断である。複数の番号の連携は複雑になるため、個人的には、一つの番号で統合すべきと考えるが、違う意見の政治家もいる。
- 自治体での取り組み例として、千葉での市役所と介護施設との橋渡しサービス、柏市のスマートホンを用いた健康管理などを聞いている。マイナンバーによる医療情報の連携は、ニーズが高いと認識している。金融分野では、預金の名寄せは、所得の把握のみならず、金融機関間のセキュリティ情報の共有にも結び付く。
後半は、山田肇東洋大学教授(電子行政研究会副委員長)の司会で、参加者も含めた全体討論、意見交換が行われました。
【主な意見・論点】
地方自治体でのマイナンバー制度対応について
Q(質問):財政措置について、所有からサービス利用の流れに対応して、柔軟な財政処置をお願いできるのか?
A(回答、篠原):クラウドを用いたサービス利用を推進している。補助も年限などはあるが、対応できるはずなので、個別に質問して欲しい。
Q:宛名番号が住民の数より多い場合があると聞いているが?
A(篠原):住民の2~3倍ある場合もあり、データクレンジングしないといけない。まずは、必要なデータにマイナンバーを紐付けて、余力があればクレンジングをして欲しい。
Q:各自治体が提供するサービスは使い易さが必要ではないか?
A(篠原):ユーザービリティが大切。マイポータルの画面を如何に使い勝手の良いものにするか、ガイドラインも出している。外国人に対しても多言語化で対応する。
マイナンバーの利用範囲拡大(当面)について
Q:公的個人認証の民間利用が重要だというが、千葉市熊谷市長が実印の時代は終わったとつぶやいて議論になったことがある。公的個人認証を用いることで実印をやめられるのか?
A(向井):実印に法的な根拠はなく、実社会での利用に対して自治体がサービスをしているもの。不動産取引は対面だが、今後は必ずしも対面でなくても良くなるかも知れない。
Q:医療分野での利用には政治的な決断が必要だが、厚生省の検討会では、社会保障費の抑制や効率化を前提として議論しないのが問題である。
A(柴山):その通り。手書きによる診療報酬請求には膨大なコストがかかっていたが、今は電子化された。導入によって得られるメリットがコストを上回れば政治的決断で進められる。
マイナンバーの利用範囲拡大(将来)について
Q:個人番号は捨てられないのだから、どこまで国が情報を管理するか国民が選択できないのであれば、利用範囲はなるべく狭い方がよいのではないか?
A(向井):危惧されているのは、将来、極めて中央集権的な政権が誕生して、個人情報を濫用することだが、それは国民が政治的に選択することである。
A(柴山):濫用した時の歯止めにはシステム的なものと法的なものがある。しかし、ここまでペーパーレスが進んでいない先進国は日本ぐらい。歯止めは用意するにしても、利活用は進めるべきだ。
Q:データマイニングやプロファイリングで、あまりに個人を特定できるのは、プライバシーの観点から危険ではないか?
A(向井):その点で国のやっていることは民間の足下にも及んでいない。どこまで匿名化したらよいかの議論は難しい。最終的には、匿名化したデータを元に戻さないことを、何らかの方法で担保する必要があるだろう。
Q:番号制度は行政のために作られており、民間活用のための設計がなされていない。もう少し時間をかけるべきではないか。
A(柴山):犯罪行為に使われてしまう意見があるという指摘だと思う。Suicaの件は、民間活用を考える格好の事例だと思う。個人番号をなりすましでとられるのを防ぐのは大前提。個人情報の利用は、第三者委員会でマルチステークホルダーで検討するのが大切である。
国民のITリテラシー向上について
Q:柴山議員が出演されていたBS番組で、国民のITリテラシーをどう向上させるかと言っていたが。
A(柴山):国民のリテラシー向上には、子供の頃からの教育が重要。文科省に総務省から派遣して検討させている。e-ネットキャラバンもやっている。すぐにリテラシーを上げることは難しいが、できることを地道にやっていきたい。
Q:住民への広報が十分でない。
A(篠原):平成25年度予算では、法案が通るかどうか不確定だったため、確かに落ち込んだ。26年度は内閣官房で予算を取っている。自治体で広報をしてもらうためのポスターなどのアイテムを提供する。
A(柴山):市のイベントなどを通して全ての年代に啓発していきたい。国民のITリテラシー向上のきっかけにしたい。
討論によって、番号制度の運用に当たっては個人情報の適切な活用と保護を両立させる工夫や、国民の意識・リテラシーを高める取り組みが重要であること等が明らかとなりました。