電子行政研究会では内閣官房が公開した新たなIT戦略案「『世界最先端IT国家創造』宣言(案)」について、以下のとおり意見を提出しました。
「Ⅰ. 基本理念」について
アクセシビリティとユーザビリティ:
ITは利活用されて初めて価値を生む。わが国では高齢化が進展し、ITの利用者も必然的に高齢化しつつある。これからの高齢者は、IT弱者ではなく、主要なIT利用者なのである。したがって、高齢者が利用容易なITを提供していくこと、すなわちアクセシビリティとユーザビリティを最大限重視しIT提供していくことを、新たなIT戦略の基本理念として明示すべきである。
「Ⅳ. 利活用のすそ野拡大を推進するための基盤の強化」の中に「(2) 国民全体のITリテラシーの向上」がうたわれているが、スマートフォン・タブレットのように特別のITリテラシーを必要としない製品・サービスこそが市場で成功するし、競争力を強化する。成長戦略に資するという観点からも、アクセシビリティとユーザビリティは重要である。
KPI(重要業績評価指標):
定量的な評価指標を導入し、取り組みの進捗状況や成果を評価するという考え方に賛成する。同時に、今までの10数年にわたるIT戦略についてできる限り定量的に評価し、あるいはすでに評価されたものを活用し、教訓とする活動を実施すべきである。
電子行政システムについてはいわゆる「行政の無謬性」が災いし、厳しい結果評価は避けられてきた。しかし、現実には、使い勝手を悪かったり、国民のニーズに合致していなかったりしたため、利用率が向上しなかったシステムが存在する。真摯に結果を評価し、その反省のうえで、十分なユーザビリティを確保し役に立つ電子行政システムを、セキュリティとコストのバランスを取ったうえで、構築していく必要がある。
「Ⅲ. 目指すべき社会・姿を実現するための取組み」について
共通番号:
共通番号の具体的な実施施策について記述すべきである。いくつかの地方公共団体を対象に共通番号の導入ならびに共通番号を活用した行政サービスを試行実施し、その成果を元に全国展開するといった、スモールスタートが好ましい。
共通番号を健康・医療・介護分野に拡大することを宣言すべきである。また、個人を保護することは個人情報を保護することに勝るため、医療的緊急時等に個人情報を個人の許可なく利用することについてガイドラインを整備することなどを追加すべきである。
「Ⅳ. 利活用のすそ野拡大を推進するための基盤の強化」について
新たなIT製品・サービスを武器にする起業を積極的に促すべきである。IT分野では米国発の製品・サービスが多く主流を占めているが、その中にはこの10数年の間に起業されたものもある。産業競争力強化のために、わが国でもIT起業を促進すべきであり、そのための施策を打ち出すべきである。また、わが国ではスタートアップ企業の信用が低く、起業後の販路開拓の困難さがITベンチャー成長の阻害要因となっている。IT起業促進策では、これらの改善策も含めた多面的で戦略的な支援策を打ち出すべきである。
「(3) 国際的にも通用・リードする実践的な高度IT人材の育成」は技術者教育に偏っているが、むしろ、魅力ある製品・サービスを発想する力や起業マインドを醸成する教育こそが求められている。これらは一朝一夕に育つものではなく、学校教育の中にそのための長期的なカリキュラムを採り入れるべきである。
ITはいまや社会の隅々にまで浸透し、ITをベースとして民間企業の経営や行政の運営が成り立っている。技術者教育だけでは不十分であり、大学の経営学や公共政策のなかに、経営情報論や電子政府論などのカリキュラムを採り入れるべきである。
「V. 本戦略の推進体制・推進方策」について
本戦略の主要部分は、基本理念に示された縦割り打破の決意にも関わらず、各府省から提案されたIT関連施策の集合体との感が拭えない。真に戦略的かつ総合的なIT利活用施策を進めるために、特に重要なIT戦略課題を扱う「IT戦略21世紀枠」を新たに設け、その施策立案、予算編成・執行の権限を政府CIO室に委ねることを提案する。特に、若い世代の政府CIO補佐官が中心となって、戦略的視点で「IT戦略21世紀枠」の施策を立案することは、新たなIT戦略を日本の成長戦略の中核としていくためにも不可欠である。
「Ⅲ. 目指すべき社会・姿を実現するための取り組み」に記述されている「障害となる規制・制度やルールについては、積極的に見直しを進めるとともに、関係各省が連携して、重点課題について、政策資源を集中投下し、成功モデルを実証するプロジェクトを推進すること等により、本戦略において目指すべき社会・姿を実現する。」というような文言は何度も宣言されてきた。今までは宣言だけに終わってきたが、もはや残された時間は少ない。本戦略の着実な推進を求める。