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知的財産 特許調査から始まる特許の有効活用 鷲尾裕之氏(特許戦略コンサルタント)

日時:11月9日(水曜日) 午後6時30分~8時30分
場所:東洋大学白山キャンパス6号館6302教室
東京都文京区白山5-28-20
司会:山田肇(東洋大学経済学部教授、ICPF理事長)
講師:鷲尾裕之(特許戦略コンサルタント)

鷲尾氏の講演資料はこちらにあります。

冒頭、鷲尾氏は次のように講演した。

  • リケンテクノスで技術開発、分析、知的財産の仕事をして独立した。分析研究をやっていたことが、侵害行為とは何か、どう立証するかといった知的財産業務に役立った。
  • 特許とは、「特許権」である。特許庁に出願し、特許要件というハードルをクリアしたものに権利が与えられる。そして、権利付与は原則特許庁が行う。一方、特許侵害の判断を行うのは裁判所である。特許権は発明に対して与えられるが、発明とは「技術的思想」である。特許明細書を読むというのは、技術的思想を読み取ることであり、それが、たとえば特許侵害の基準にもなる。「特許請求の範囲」に書かれているものは技術的思想である。一方、「実施例」は技術そのものである。
  • 特許審査の対象は発明であって、過去の発明と技術的思想が同一か、進歩性があるかなどが、対比される。一方、侵害を争うときには、第三者の製品、つまり現物が技術的思想の範囲(特許発明の技術的範囲)に入るかどうかが争われる。
  • パイオニア発明が出来れば事業は安泰か? 答えはNOである。後発他社は「あの発明があるから、この分野は参入できない」と思う必要はない。パイオニア発明があっても、特許要件を満たせば特許は取れる。後発他社は、先行特許と互いに侵害し合っている状態を作り出すことでその分野に入っていく。パイオニア発明をした企業は、後発他社の参入を防ぐために、最初の出願から一年半以内に改良特許を大量に出願すべきである。
  • リケンテクノスはポリ塩化ビニル樹脂コンパウンドのトップ企業で安泰なビジネスをしていたので、その頃は特許化しようという思想がなかった。その後、新素材が出て、その分野に入ろうとしたら、そこは特許重視の世界だった。そこで、技術陣と知的財産部が協力して特許化を進めていった。技術屋が特許の重要性を理解して、知的財産部を道具として使った。「知財力ランキング」で評価されたのはここである。技術屋は継続して事業として利益を作るシステムを作らなければならない。技術屋は知的財産部を使うようにするべきだし、知的財産部は技術屋の技術を理解しなければならない。
  • 特許調査とは特許地図を書くことである。その技術分野において自社の立ち位置がどこにあるか。他社の特許はどこにあるのか。他社製品も調べなければならない。自社の強み・弱みを知り、いつでも訴訟に対応出来るように準備しておくのが特許調査である。そして、侵害の事実を証明できる証拠を得るのが分析という仕事である。
  • 熱可塑性プラスチックは、分子量に分布がある、特定の長さの分子を見ても構造の分布がある、混合物である。プラスチック市場で中間加工メーカーは異なるプラスチックを溶融混練して、組成して販売する。それを成形加工メーカーが買って成形し(溶かす、流す、固める)、完成品メーカーが買って組み立てる。
  • プラスチックは、レシピが同じでも作り方次第で異なるものが出来上がる。成形条件で性能が変わってしまう。しかし、日本では製造方法の権利化は、米国の裁判におけるディスカバリのような制度がないので、侵害を争うのが難しい。そこでレシピを出願するのだが、レシピが同じでも違うものができるということは頭が痛い。何を権利化するかよく考えなければ無駄になる。自社が権利化し、他社を侵害する権利範囲は何か。それを検討する必要がある。
  • 特許調査では漏れがあってはいけない。キーワードでの絞り込みは困難で、それでも電気、通信分野と比較すれば関連特許は少ないので、いざとなったら力業に頼る。全部読むわけだ。技術者と同等の知識を持つ知的財産部員が調べて、技術者にプレゼンするのがよい。製品の現在の流れ、将来の市場の方向性を考えて、奥の深い出願をする。拒絶理由が来たら、狭いが有効な権利を取る。特許調査では、権利の安定性・行使の容易性を評価する必要がある。
  • 特許付与された権利の6割は無効化されている。私見だが、実際には、9割くらいには無効理由があると思っている。権利侵害の証明の難しい特許権も無視される。そのような情報も他社との交渉で役に立つので、特許調査で押さえておく必要がある。

講演後、次のような質疑があった。

企業経営の観点から
質問(Q):相手と交渉するために大量に特許を取ってしまう状況に陥ることもあるだろう。特許調査は力業といっていたが、実際どれくらい読むのか?
回答(A):2~3,000件は読む。これは中間加工だけの話。合成のも合わせれば15,000くらい読む。
Q:調査の時に1人で読んでいると属人的になると思うが、その知識をどのように共有していたのか?
A:PPTに定期的にまとめて、参加自由で月1でプレゼンして共有していた。研究所の月次報告会でも、月次報告書を予習しておいて出願案件、サンプル検討停止、回避設計などの議論をした。
Q:そうすると技術者も効率的に協力してくれるのか?
A:難しいケースも少しはあるので効果の向上を意図して、各部署の若手で、やる気ありそうな人を特許担当にしてもらってまず彼等に話していった。
コメント(C):キヤノンでも月1で会議をしている、とセミナーで話があった。キヤノンにしろ、リケンテクノスにしろ、特許に強い企業はそういうことをきっちりやっている、という印象がある。
Q:リケンテクノスの売上規模だと、知的財産活動にかけられるお金には限界があると思う。ほとんど弁理士と維持費に消える。それでも知的財産にお金をかけようとするのであれば、会社の将来像を考えてやる必要があると思うが、それについて経営陣とはどういう関係を築いていたのか?
A:当時の経営陣は柱であるポリ塩化ビニル樹脂の世界は、自社が国内トップメーカーとしてノウハウの世界を作って特許の世界とは一線を画していたため、知的財産のことを深くは知らない人が多かった。しかし、専門の知的財産部に最終的には任せる経営の懐の深さとそれを支える知的財産部長の能力はあった。最近は、知的財産の価値を知るスーパー技術者が経営陣に入ってきた。弁理士に頼めば権利は取りやすいが1件20万円掛かるので、重要なものだけは頼んで、後は知的財産部員で書いて経費削減をしていた。
C:リケンテクノスみたいに知的財産活動について良い評価を受けても、経営者から「お金がかかりすぎないか?」と言われてしまう。日本全体の意識を高めないといけない。

特許の権利化について
Q:年30万件くらいの審査請求を、2,000人の審査官で見ているので、見落としてそのまま特許になってしまったものもあるのでは?
A:そう思う。私もセミナー等では、拒絶理由通知に対しては面接に行くのがいいといっている。特許庁の調査は外注で行ったり、過去のものを列挙して拒絶される場合もある。手が回らなくて、権利化されることもあると思う。
Q:化学特許は特許期間20年の満期まで特許を維持するパターンが多いのか?
A:そう。途中で放棄してくれたらラッキー。まずないが。
C:移動通信の世界は10年くらいで技術が入れ代わっていくので、どんどん権利放棄している。特許の維持費が高くつくからだ。
A:プラスチックはなかなか新しい技術は出てこないので、たまに新しい素材とかが出てくると、こぞって権利化する。
Q:特許審査の際に、キーワードで読んで、審査官が「これは有効ではない」という場合がある。たとえば、無線機の技術は誰が書いても同じようにキーワードが並ぶので、そこだけ見てはじかれてしまう。
A:そういうときは、対比表を作る。審査対象となる特許出願と既存特許の構成要素を並べ、何が違うのか説明できるかが大事。審査官が読むということを考えて書いている。ただ、そこを読み取れない審査官もいるので、そういう時は面接にいって、その内容を補正書や意見書に落とし込む。そこまでやらないとダメな場合もある。
Q:読み取り方を考えるように、特許請求の範囲も織り込んで考えているということか?
A:そう。よく分かっている技術者は複数の特許に分割可能な、深みのある、将来を見越した明細書を書いてくれる。同じ権利範囲を取るにしても、審査官が納得しないようであれば、どんどん分割して、別の審査官に見てもらうようにする。分割できるようにするためには元の明細書をいかに深く書いておけるかが大事。狭い権利範囲であっても他社が実施しなくてはいけない「嫌がられる」権利をとることが肝心。

特許侵害訴訟とパテントトロールについて
Q:日本で製造方法の特許侵害立証が難しいというのは調べようがないからであって、アメリカには裁判におけるディスカバリ制度があるから有効な権利となる、という理解でよいか?
A:日本では特許権者が侵害行為を立証しなければならないハードルが高い。他社の工場に入って調べることは出来ないから。
Q:リケンテクノスは無効審判をしたことはあるのか?
A:ある。しかし、特許侵害訴訟はない。
Q:化学業界で少ないのか?
A:プラスチックの世界ではあまり聞かない。お手紙(警告書)は行き来しているようだが。
Q:会社によってはお手紙を見ないみないところもある。そのような企業は知的財産をどうとらえているのか?
A:私見だが、様々な技術分野に有効な権利を持つ企業は強気でいられる。ただし、総じて化学企業はおとなしいと感じる。もっと、ガンガン訴訟をやった方が、国際競争力向上の観点ではよいと思う。
Q:相手が製品を全く作らないとすると、侵害をいわれるだけで対抗できないのではないか?
A:そういう状況だと、理論はともかく事実上は確かにそうなる。
Q:製品を作らないところが特許を取ると非常に強い権利になってしまう、という理解でいいか?
A:それで正しい。それを防ぐ法律はあるが、機能しているとは考えにくい。
Q:通信の世界では、他社の特許を買い取って権利侵害を訴える企業(自分では作らない(パテントトロール)がいて問題になっているが、化学の世界でもそういうのはいるか。特許を取っておいて、全く別のことをしている企業はあるのか? 私の会社では、自社の主力分野(たとえば業務用無線)よりも他分野(移動通信)の特許を取った方が利益が出る。そのような考え方はないか。
A:特に聞いたことはない。ただ、リケンテクノスではオールリケンでどう特許を取るかを考えていた。

行政 個人情報の活用:マイナンバーの利用拡大に向けて 榎並利博株式会社富士通総研主席研究員

日時:5月26日(木曜日) 午後6時30分~8時30分
場所:東洋大学白山キャンパス5103教室(5号館1階)
東京都文京区白山5-28-20
司会:山田肇(東洋大学経済学部教授、ICPF理事長)
講師:榎並利博(株式会社富士通総研主席研究員、ICPF理事)

榎並氏の講演資料はこちらにあります。

冒頭、榎並氏は講演資料を用いて概略次のように講演した。

  • メインフレームの時代には、法律に基づいてシステムを設計、プログラムを開発していた。インターネットの時代になって、ITを効果的に活用するため、従来の法律や制度を見直す、あるいは、新たな法律や制度を作るという考え方が生まれた。これからはIoTの時代であって、あらゆる場面ですでにITが存在することを前提に、従来の考え方から離れて、法律や制度を根本から創り直す必要がある。マイナンバーの利用拡大もこのような発想で進めるべきである。
  • 医療分野では、被保険者番号と被保険者証(カード)が用いられているが、統一的番号がなく、本人特定のカードが無いことによる不都合が起きている。国民にとって理想的な医療制度を構築するために、マイナンバーによるデータの管理、マイナンバーによる傷病歴などの把握、在宅医療と介護・福祉、災害対策などの情報共有、マイナンバーカードによる本人確認を行うべきだ。
  • 厚生労働省の研究会は、患者の病気や身体的特徴など非常に機微な情報を扱うこと、個人を特定した医療情報の蓄積および分析は健康な社会の実現という社会全体の利益になることの二点を挙げて、医療等IDの特殊性を説明している。しかし、患者の生命に関わる重大な情報を扱うこと(情報の取り違え、情報入手の遅延等が致命的になるケースがあること)、患者をケアするため、患者を取り巻く多くの関係者(医師・看護師・薬剤師・介護事業者・自治体など)が利用すること、大規模災害のときには、プライバシーよりも人命を尊重した情報の取り扱いが要求されることの三点は触れていない。この言及されなかった部分をカバーしようとすると、医療にもマイナンバーを用いるのが不可避となる。
  • 医療でマイナンバーを用いる際には、医療の事情に特化した利用と保護のあり方に配慮する必要がある。それらをカバーするように、マイナンバー法とは別に医療マイナンバー法を特別立法するのがよい。医療マイナンバーシステムは、情報セキュリティの3要素(Confidentiality、Integrity、Availability)を考慮して設計しなければならない。多職種による利用と認証およびデータ量を考慮すると、医療マイナンバーに特化したネットワークシステムを整備するのがよい。
  • マイナンバーを戸籍に用いる方向にある。住民には、戸籍謄抄本の添付が不要になる、相続権の確認が簡単になるといったメリットがある。行政にも、内部事務の効率化と正確性の確保、戸籍システムのコスト低減といったメリットがあり、戸籍をクラウド化して法務省に戸籍事務を移管するまで進めば自治体事務が軽減される。
  • 問題は文字コードである。外字(誤字)の姓を使い続けたいという住民の希望に合わせて、システムから外して紙で管理している「改製不適合戸籍」もわずかだが存在している。漢字のデジタル化を法制化し、戸籍統一文字への縮退・統一を実現すればよい。
  • そもそも戸籍は必要なのか。本籍が差別の根源であるなら、なおさら不要なのではないか。韓国の家族関係登録制度のように全面的に改革するのも一案である。
  • 日本再興戦略において、不動産についてマイナンバーの言及が全く無い。自治体は、固定資産へのスムーズな課税ができない。住民登録外の納税義務者(不在地主)の死亡通知が自治体に来ないため、「死亡者課税」が把握できないという制度的な欠陥がある。土地の所有者が不明であると、森林・耕作地の整理(農林業の復活)も進まない。
  • 人々が相続登記しないのは、手続きが煩雑で大きな費用を負担する必要があるのに加えて、法律上の義務ではない任意行為であるなど、相続人にとってメリットがないからである。それに加えて所有権が強すぎ、第三者が勝手に処分することができない。
  • 日本人は不動産の所有に強いこだわりがあるが、この所有権問題を解決しなければ、不動産へのマイナンバー付番できない。土地は公共物であり「利用が所有に優先」する原則を徹底し、不動産登記法を改正して登記のあり方を抜本的に改革すべきである。不動産登記簿に所有者のマイナンバーを登録することを義務付け、法務局が責任を持って管理する、所有者の住所変更・死亡などについては、法務局がマイナンバーを使って定期的にチェックし、死亡については相続登記を促すといった方向に動きだすべきである。
  • IoT環境(ITが社会に浸透している前提)で、私たちの理想的な国家(政府・自治体)を構築しようとするならば、憲法が規定する自由権と社会権の関係も考え直さなければならない時期である。

講演後、以下のテーマで質疑が行われた。

医療関係について
Q(質問):医療に関する情報がセンシティブであるという意識は根強い。医療情報に特化した利用と保護は具体的にはどのようになるのか?
A(回答):職種ごとにアクセスコントロールを行うことや、たとえば、精神科への受診履歴は医師であっても全部は見られないようにするなどが必要。医療等IDがマイナンバーでなければ、それだけで安全になるわけではない。
C(コメント):医師の守秘義務など、現状はしっかりできていない。医療情報の管理と保護はもっとしっかりすべきというのはその通りである。
C:東大の在宅医療・介護連携のケースでは、多職種が一人の患者について情報共有しているが、関係者個々にアクセスコントロールができるシステムを構築している。こういうものを全国にどのように展開するかが課題である。
A:実際の現場では、メールや電話などで情報共有している。現在のほうが危なっかしい運用である。

戸籍関係について
Q:戸籍法第27条2項では、戸籍に関する届出には運転免許証などの本人確認が必要と書かれている。マイナンバーカードがあれば1枚で済むし、ネットで手続きもできる。マイナンバー利用にすぐに移行すべきではないか?
A:法務省は、戸籍もマイナンバーで管理すると言っている。スムーズに実施するには、使用漢字の問題をクリアにしなければならない。
Q:プライバシーに関して、自分の氏名はカタカナで表記すればたくさんの人があてはまるが、漢字にすると特殊な漢字なのでたった一人であり、個人が特定されてしまう。マイナンバーを使うことにして、名前は変更可能な制度にしてもいいのではないか? キラキラネームをつけられたような場合、その名前が重荷になる。名前の変更は、現在は手続きが大変である。
A:そうであると、自分の存在が番号だということになってしまう。番号に乗りすぎないことも必要ではないか。親は、子供の名前に願いを込めている。
Q: 戸籍へのマイナンバー附番は実際にはどうするのか?
A:戸籍に番号を振るには、住民票からたどっていくしかない。
Q:戸籍へマイナンバーを附番しても、古い戸籍は画像データであり、死亡者はマイナンバーがないので、相続の手続きは簡単にはならないのではないか?
A:すぐには便利にはならない。20年後、30年後を見据えて行うべきである。米国では、相続の際には、探偵を雇うという。日本も、戸籍に頼った相続人特定を考え直してもいいのではないかと思う。
Q:戸籍の外字の問題をすっきりさせるというのは賛成である。JISにない漢字を変えるのは嫌だという人はいるのか?
A:30万戸籍の中に58戸籍の改製不適合戸籍がある。法務省で統一文字にすると提案し他際に、国会でたたかれて、そのままになった。国会議員の感覚から変えてもらわないといけない。
Q:100年くらい経てばなくなるのではないか?
A:ワタナベなどは、姓なのでなくならない。子供が姓をJISの文字に変えたら、親が乗り込んできたということも実際にあったと聞く。
C:「いや」か「いやじゃないか」と聞けば、「いや」と言われてしまう。自分の親の名前も明らかに誤字であるが、絶対に変えたくないと言っている。
Q:戸籍クラウドをつくり、自治体から法務省に事務作業を移すとしても、法務省側で事務をする人が増えるだけではないのか?
A:問い合わせや郵送といった作業はなくなるので、トータルでは人は増やさないで済むのではないか。
Q:住基ネットの最高裁の判決で、自治体レベルだからOKで、国レベルで情報を一元化するのではNGというものであった。戸籍クラウドは、情報の一元管理にあたらないのか? 公共の利益で押し通せるものであるのか?
C:税務署もマイナンバーで情報を一元化するので同じではないのか?
C:住基ネットでは、①扱う情報の内容がたいしたことがない、②利用目的が法定、③罰則規定があるということでOKになった。マイナンバーは、扱う情報の内容がもっとセンシティブなので罰則も厳しくなった。戸籍もセンシティブな内容であるので、難しい部分はある。
A:法務省と個人情報保護委員会の協同管理という形はとれないかと思っている。また、「個人情報の一元管理」という言葉の解釈だが、すべての個人情報を一元管理するのが違憲という意味であれば、戸籍だけに限定すれば問題ないという解釈も成り立つ。
Q:戸籍のコンビニ交付が実施されているが、戸籍クラウドがあれば紙がいらないのか?
A:精査していないが、行政手続きでの添付書類はいらなくなる。
Q:民間、例えば、銀行も戸籍クラウドにアクセスできる仕組みになるのか?
A:(民間なので)直接ではなく、ワンクッションおいた形でアクセスできるといい。
C:銀行が、相続の手続きに戸籍を求めるのに法的根拠はないのではないのか。銀行が自己防衛のために求めているだけだ。

不動産関係について
Q:所有者不明の不動産に対する死亡者課税とは、死亡している人に請求するということか?
A:死亡者に請求書を送付すれば、家族が受け取る。実際には相続人である家族が支払う。ただし、登記簿上の名義はそのままである。家族とも連絡がとれなければ、支払われないことになる。実際には、売却しても価値のない土地だから放置されているので、課税額はたいしたことはない。
Q:不動産の登記がきちんと行われていない問題は、海外ではどうか?
A:米国では、自治体レベルで土地の所有者情報がインターネット公開されている。購入価格などもわかる。
Q:登記が義務化されているのか?
A:義務化されているのかはわからないが、登記(登録)していないと不利益になるため、きちんとされることになる。日本ほど所有権が強くないため。
Q:長年放置された口座の残高は銀行に入る。土地も同じ仕組みでできないのか?
A:民法では、土地も所有者が不明であれば国庫に入ることになっているが、実際には難しい。
C:物権と所有権の違いである。銀行口座の残高は、債権になるので、土地(物権)と扱いが異なる。
C:不動産を相続する場合、戸籍をさかのぼり相続人を探し、全員の同意で相続ができる。これは非常に大変な作業である。だからこそ、不動産と戸籍の両方でマイナンバーを利用するのが改革になる。

健康 オーダーメイド医療とバイオバンクジャパン 久保充明理化学研究所統合生命医科学研究センター副センター長

少子高齢化が進む我が国にとって最大の社会問題の一つである、医療費の高騰・介護負担の増大に対する解決策の一つが、健康・医療・介護分野での情報通信の利活用です。
シリーズ第3回として、オーダーメイド医療とバイオバンクジャパンについて、オーダーメイド医療の実現プログラムリーダーの久保充明氏に講演いただきました。

日時:2013年1月17日(金曜日)18:30~20:30
場所:東洋大学白山キャンパス5号館1階5101教室
司会:山田 肇(東洋大学経済学部教授、ICPF理事長)
講師:久保充明(オーダーメイド医療の実現プログラムプログラムリーダー、独立行政法人理化学研究所 統合生命医科学研究センター副センター長)

講演資料はこちらにあります

冒頭、講演資料に基づいて、久保氏は概略次のように講演されました。

  • 背が高い人・低い人などそれぞれ体型が違い、同じ様に病気になりやすい人、薬の効きやすい人がいる。このような体質、「多様性」には遺伝(ゲノム)の文字の違いが関係している。90年代に「ヒトゲノム計画」が実施され、30億のゲノムの並びが解析された。ヒトゲノムの99%以上は全員同じだが、1千万か所程度は人によって異なる(文字が違う)。この相違部分が、体質を決め、体質は遺伝する。ゲノム解析の技術は進化し、1日~1日半で30億すべてが調べられるようになっている。
  • ゲノムを利用した医学研究の基盤がバイオバンクである。ゲノムの文字の違いが病気の確率を左右し、薬の副作用を左右する。病気に関わる遺伝子がわかれば薬の開発につながり、遺伝的要因と環境要因の相互作用の分析が進めばオーダーメイド治療へつながる。そのために、大人数のゲノム情報と生活環境情報を集めたバイオバンクが利用される。2003年にオーダーメイド医療実現化プロジェクトがスタートし、同時にバイオバンクジャパンも動き出した。
  • 第1期には47疾患を対象とし、199,998名、340,298症例(1人の人が複数の疾患あり)を収集し、それ以降追跡調査している。第3期からの第2コホートでは、38疾患、10万人を追加中である。12の協力医療機関、50数病院の患者にお願いして情報を収集し、東大の医科研に集めて研究している。
  • 2003年には電子カルテが普及していなかったし、電子カルテはベンダーごとに仕様が異なるので、調査票は各病院で手入力している。調査票の情報は院内に蓄積され、1年に1回、病院にわれわれが出向いて情報を入手している。バイオバンクに協力している患者の年齢構成は、日本全体の患者の年齢階級と相似している。試料は審査を行い外部に配布している。配布先は、大学が2/3、企業が1/3である。
  • プロジェクトでは、すでに236個の病気に関連する遺伝子を発見している。世界中で2007年から同様の研究が増えてきている。病気、薬や副作用に関する文字の違いがたくさん発見されてきたが、これをどう医療につなげるのかが課題である。文字の違いにより、周辺に存在する遺伝子を基に作られるタンパク質が量的または質的に変容し病気に関係する、これを地道に研究すれば、治療方法やバイオマーカーの開発につながるはずである。
  • 健康診断の結果でいろいろ注意コメントがでるが、きちんと守っても病気になる人もいるし、守らなくても病気にならない人もいる。これが個人にあわせた注意コメント「あなたは遺伝的にこうだから、こういう予防が必要」といったことになれば、オーダーメイド予防になる。アンジェリーナ・ジョリーの場合、乳がんになりやすい遺伝子を持っていた。乳がんになるリスクが80%、卵巣がんのリスクが50%と説明され、切除した。これは遺伝性がんの場合である。
  • 遺伝性疾患は、遺伝子があるとほぼその病気になるが、一般的疾患は、遺伝子があっても、なる人とならない人がいる。糖尿病、心筋梗塞、がんなどの一般的な病気は、多数の遺伝子の文字の違いが関連していて、ひとつひとつのリスクはとても小さいが、全体が病気のなりやすさに影響する。しかし、一卵性双生児は30億のゲノムが全く一緒だが、同じ日に同じ病気になって同じ日に死ぬわけでない。つまり、ゲノム情報は体質をきめるが、人の一生や運命を決めるものではない。病気のなりやすさには、体質(ゲノム情報)に加え、環境(生活習慣)が影響する。疾患関連遺伝子が同定できたといっても、オーダーメイド医療が実現するわけではない。遺伝・環境要因の解明・リスク予測・リスクに応じた介入が3条件となる。そのためには、遺伝と環境の関係が見えてくる、長期追跡研究(コホート研究)が重要になる。
  • もうひとつの使い方として、日本人前立腺がんリスクモデルがある。血液検査でPSA値が高いと二次検診に回す。中リスクの人への病院によりけりだが、ここに遺伝子検査を取り入れれば、二次検診に回す人を選別できる。
  • 病気になり薬を飲む。薬が合う人はいいが、効かない人もいる。ここにゲノム情報を入れて、あなたはこちらの薬がいいと薦めるのが、ファーマゲノミクスである。2011年から薬剤関連遺伝子による臨床介入のプロジェクトを実施している。カルバマゼピン(てんかんの薬)は、よく効くが薬疹が多く、重症化もある。薬を止めたあとも悪くなることがある。薬疹を起こした人、起こさなかった人のゲノムの文字の違いを1か所発見できた。HLA-Aという遺伝子の31:01タイプを持っていると、薬疹を起こすリスクが10倍で、薬疹を起こした人の6割はこの遺伝子を持っていた。先に、この遺伝子をもっているかいないかを調べてから薬を使えば、薬疹を減らせる。
  • 疾患発症のリスク診断を実施している23andMe対して、FDAが中止勧告を出した。まだ遺伝子検査は医療行為とはなっていないのだ。一方で、遺伝子型検査に基づく薬剤使用の適正化は進みつつあり、FDAは約100薬剤について、投与前の遺伝子検査を推奨している。また、日本では遺伝性疾患の遺伝子検査はほとんど保険適用になっていない。

講演後、次のような質疑応答があった。

Q(質問):なんで文部科学省のプロジェクトなのか、厚生労働省ではないのか。
A(回答):プロジェクトスタート当初は、病気と本当に関係しているかわかっていなかった。医療という現実味がなかったので、文科省になったのではないか。
Q:厚労省が関与したほうが遺伝子診断の利活用が促進されるのではないか。
A:そういう面はある。遺伝性のがんはだいぶ前からみつかっているが、厚労省は遺伝子検査を保険適用していない。これは、遺伝子変異が見つかったときにどのようなケアをするのかの体制がないからだ。例えば、アンジーには娘がいて、50%の確率で乳がんリスク遺伝子がある。それでは、彼女たちはいつ検査するのか? 米国には遺伝子による差別禁止の法律があるが、日本では差別が起こるかもしれない。遺伝カウンセリングが必要だが、そのような体制は整っていない。
Q:1週間前に読売新聞が「経産省が遺伝子ビジネスを認定制にする」という記事が掲載されていた。ご存じあれば教えてください。
A:経産省主導なのは、23andMeもそうだが、一般の人への遺伝子診断サービスは、医療でも健康診断でもない。今の段階では、将来の病気の確率について「おみくじ」をひくような程度のもの。23andMeだと「胃がんリスクは一般には18%、あなたは25%」というような書き方をされる。FDAが止めたのは、精度が悪いのに、診療につながる恐れがあったためだ。ゲノム応用ビジネスは世界中で動いているが、当然、文科省は相手にしない。厚労省は医療でなければ相手にしない。産業振興として経産省に持っていくしかなかったのだと思う。
Q:23andMeは中断したが、米国にも自己主張が強い人がいて「中断はおかしい」という署名運動が起きて、一万人ぐらいが参加してFDAに送り付けようとしている。どうとらえるか。
A:検査した人はすでに50万人いる。わかるのは遺伝子の病気と一般の病気、薬の使い分け、祖先の人種、目の色など。ただ、医学的にはそこまで言えないというのが本音である。米国にはリスク診断の会社が3社あるが、同じ検体を出したら、結果が違ったとネイチャーに論文が載った。23andMe以外の2社は事業を縮小したが、23andMEは負けずに進めた。医療としてはまだ難しいと思う。
C(コメント):23andMeはグーグル創業者の会社であり、たくさん遺伝子をあつめてしまえば勝ちと考えているようだ。実際には、23andMeの99ドルというのは、破格の値段でペイしていない。
Q:倫理面が整えば、ゲノム解析の利活用が進み、社会は変わっていくのか。
A:変わると思う。倫理・法整備が整えば、健康保険証にICチップでDNA情報を埋め込む。病院にいった時には、すぐに体質がわかるので、リスク評価を行い、医療を施せる。たとえば糖尿病も、遺伝情報を組み合わせれば個別のアドバイスができる。
Q:米国のような遺伝子差別禁止法は必要か。
A:日本には、ハンセン病の隔離など偏見の問題がある。遺伝性疾患の人を排除しようとすることがあるかもしれない。「いい体質/悪い体質」「いい遺伝子/悪い遺伝子」で差別が起きる恐れがある。実際には、みんながそれぞれに病気の確率を持っており、完ぺきな人はいない、ということに理解が進むまでは、社会的なルールが必要だろう。
Q:23andMeによって自分の遺伝リスクを知った患者と医師との間で情報格差が逆転するのではないか。
A: 23andMeの結果を持って病院にいっても、医師の方は「ふ~ん」と言うだけだろう。ゲノム研究はここ10年で進んできたものなので、医師になって10年以上の人は医学部でゲノム研究について学んでいない。最近医師になった人も、忙しくて学ぶ時間がない。医者にゲノム情報の意味や使い方を具体的に教えていく必要がある。情報があっても使えなくては意味がない。
Q:研究は進んでも臨床に落ちていない印象があるが。
A:たとえば、薬疹の遺伝子の実証実験でエビデンスが蓄積できれば、大規模研究になり、参加する医療機関も多くなる。そうすれば、いろいろな医者がこの情報を目にするようになるので、全国に広がっていく。今はその前段階だ。
Q:予防で健康保険組合を巻き込むという動きは実際にあるのでしょうか。
A:コストベネフィットを考えないといけない。全員をゲノム診断するのではなく、ハイリスクグループをスクリーニングするといった動きになるだろう。また、健康保険組合が、健康食品を進めるといったことも起きるかもしれない。
Q:九州大学のコホートで、認知症と牛乳の関連があるといっていたが、うまくマッチングが出来れば日本のためになるのではないか。
A:久山町はサンプルが小さいので、ほかの地域でも同様の結果がでればエビデンスが確立されていく。牛乳が直接関係しているのか、牛乳を飲む人の生活習慣が関係しているのか、まだわからない。

教育 なぜ民主党政権は教育の情報化ビジョンを打ち出したのか 鈴木寛元文部科学副大臣

知識社会を生き抜くデジタル世代は情報通信を活用して教育されることになりますが、デジタル世代の教育に利用されるデジタル教科書・教材はどのような形を取り、普及のためにどのような制度改革が求められるのでしょうか。初中等教育を担当する教員には何が求められ、教育活動をはじめとする担当業務はどのように変わっていくのでしょうか。
シリーズ第1回として、鈴木寛氏に講演いただきました。鈴木氏は、民主党政権で文部科学副大臣を務められ、戦略「教育の情報化ビジョン」の策定に尽力されました。この戦略は現政権でも引き継がれています。

日時:10月24日(木曜日) 午後6時30分から
場所:東洋大学白山キャンパス5号館1階 5105教室
司会:山田肇(東洋大学経済学部教授、ICPF理事長)
講師:鈴木寛(元文部科学副大臣)

冒頭、鈴木氏は資料を用いて講演した。講演での主な強調点は次のとおりである。

  • 通商産業省に勤務して1997年頃から、教科「情報」を作るよう文部省を説得した。教育の情報化は、それ以来のライフワークである。
  • 21世紀の社会に生きていく子供たちに役立つため、今までの一斉学習に加えて、個別学習と協働学習を推進するというのが、情報通信技術(ICT)を活用する目的である。教育の情報化ビジョンを策定し、教育基本法に基づく教育振興基本計画の中にICTの活用を明記した。
  • 人間がどのように学習するかは4タイプに分かれるという。(1)耳から、(2)目で文字を追って、(3)目で図画・動画を見て、(4)身体を使っての4タイプ。これまでのレクチャー型の一方向型の学び、アナログ教科書の学びは、タイプ1とタイプ2の子どもには向いているが、タイプ3とタイプ4は見捨てられてきた。ICTによって、これらの子どもたちを教育するのが、学び方のカスタマイズ(個別学習と協働学習)である。
  • OECD調査では日本は成績上位者の比率が高い。しかし、下位層の比率も高く底上げする必要がある。教科書にキャラクタが登場すると学習意欲が高まるといった子供たちの特徴を利用して、教育の情報化によって学ぶ意欲を高めたい。
  • 障害児の教育に情報化は欠かせない。小1プロブレムの原因の一つは発達障害だが、そのような子供たちほど、カスタマイズした教科書・教材が欠かせない。
  • 教育の情報を進めるために、教員のICT活用能力を高める施策を展開してきた。教員はこの先10年で1/3が入れ替わる。教育の情報化を進めるチャンスであるが、一方で、ベテランの教育技術を若手に引き継ぐ必要もある。教員免許を取得する教員養成のカリキュラムに、ICT活用指導力の項目を入れるべきだし、教職大学院でも教えるべきと、てこ入れしてきた。
  • 校務の情報化、とりわけ、児童個々人について学習カルテも作成すべきである。国民IDと同様の学習者IDが必要になる。たとえ転校しても、学習カルテでつまずきをトレースできる。パッケージ型ではなく医師のように、個々の児童に対して教育をすべきだが、プライバシーの問題等、課題は多く、実現していない。
  • コンテンツが数多く開発され、おおむね出揃った。必要な財源を確保するため、基礎自治体に対する交付金も実施している。教育の情報化を進める準備は整っている。

その後、以下のような質疑があった。

C(コメント):障害児の教育について。日本では「障害児=遅れた子ども」という認識が強い。ディスレクシア(難読症)も遅れた子どもに位置づけられている。アメリカでは、スピルバーグのようにディスレクシアだが優れた能力を持つ者は活躍している。
A(回答):発達障害と知的障害は異なる。認知の問題で難読になったりする。標準的な環境で学びが難しい子供の学習が、少し環境をカスタマイズすることで劇的に改善する。今まで発達障害に関する大規模な調査は行われていなかったが、調べたところ、クラスの1割弱が発達障害と分かった。そのような子供たちにカスタマイズした教育を提供するには情報化が欠かせない。教員免許を取得する際、発達障害の知識を与え、発達障害向けの教育実習を行わせる必要がある。
Q(質問):個別教育の先には統合教育か分離教育を展望しているのか? アメリカでは統合教育を行っているが、それに合わせて、飛び級や落第もある。
A:これについては分離教育・統合教育の大論争があった。それは超えたかった。そこで、一斉学習に加えて、個別学習と協働学習という表現をした。分離の究極が個別学習、統合を一歩推し進めたのが恊働学習であり、双方が大事と明示的に意識する中で、分離か統合かを超越して欲しい。
Q:課題は教員。22歳で免許を取って教壇に立つが、その後は、当時教わったことをベースとして教育を行っている。ダンスや英語を必修にする際に大騒ぎになったように、教員のスキルアップが非常に大切ではないか?
A:多くの教員は能力もあり優秀だ。ただ、価値観は転換してもらわなければならない。学習指導要領のノルマをこなすのに一杯で、恐怖感に満ちた責任感が感じられるのは困る。教育には、履修主義と習得主義のふたつがある。ノルマをこなすのは履修主義だが、これからは習得主義の要素を入れていくべきだと考えている。ICTを用いることで、小テストといった形で、子供たちの理解がその日のうちにすぐにわかる。
Q:予算について聞きたい。小中学生はだいたい1000万人いる。タブレットを配布したら1000億円かかる。様々なことを考えると、予算足りないのでは? 財務省は出してくれるのか?
A:川端文科大臣は、その後、総務大臣になった。そして、10か年で8000億円の教育教材機器費を交付税として特別計上した。地方にお金は回っている。予算は取っている。やる気のある首長は使い始めている。
Q:貧困家庭でもデジタル教科書を使うためには、支援を行う必要がある。そのような予算もあるのか?
A:首長の問題、教育長の問題である。予算は確保したので、後はガバナンスの問題である。
Q:根本的に、どういう子どもを育てたいか? どのような能力を育てたいか?
A:これまでの教育は、優秀な工場労働者の担い手を育成する、世界一の工業立国を目指した教育だった。暗記力と反復力が生きる力であった。これからは、クリエイティブ・コラボレイティブ・アート・ワーカー。様々な違った価値観を持った人たちがチームを作って、新しい価値を創造していく必要がある。普通教育としては、判断力とコミュニケーション力を育てなければならない。
C:OECDの成人力調査を見ると、日本人は読解力の割に稼いでいない。国家として、新しい価値を創造していく人を育てる教育が必要である。
Q:日本人は考える力が足りないと言われる。デジタル教科書で考える力は伸びるのか?
A:日本人が考える力がないというのは迷信である。PISA調査は、まさに21世紀流の考える力を測っている。しかし、日本には飛びぬけた人材がいない。なぜ、ジョブズが出ないのか、東大の考える力をなんとかしろ、というのであれば、とびぬけた層についての独創的な発想力について強化が必要というならわかるが、一般的に思考力がないかのようにいうのは間違いだ。デジタル教科書は、個々の子供にカスタマイズし、個々に刺激を与え、考えさせることができるツールになるだろう。
Q:今までの学校教育は、それぞれの学校で、教室で、教員が講義をしてきた。これは非効率で、全ての教員が講義に長けているとは限らないので、デジタルコンテンツでの代用ができればよいのでは?
A:すでにMOOCsが始めている。JSTには素晴らしい理科教材が集まっている。民間業者が教員向けに教材を作成している。しかし、そうしたよい内容をいかに生徒に獲得させ定着させるかを阻害する要因の一つが、一人ひとりの教員が抱える生徒数の多さ。韓国は21世紀の初めに教育税を創設して教員数を大幅に増やしている。
Q:教材の利用に制限はないのか?
A:ない。学習指導要領は、教科書を用いることは求めているが、副教材は自由である。
Q:教育現場で起きていることは特別なことではない。企業も同じだ。企業で社員の能力を査定にする、査定する側に器がないのが課題になっている。教育でも、出席すればよいといった価値判断がある。教育をいかに変えても、企業が改善しなければ、数年で染まってしまうのではないか?
A:おっしゃるとおりである。就職試験と入学試験が問題だ。いくら学習指導要領をいじろうが、パイロット授業を行おうが。私立文系の暗記型マークシート入試が改善されない限り変化は起きない。入社試験も同様だ。
Q:根本的なことが変わらないといつまでも変わらないということか?
A:日本の企業の経営陣は高齢化しすぎ。学び直しをしていない。少なくても、10年に一回は見直すことが必要である。ICTがわからない経営者は即刻引退すべきと思っている。一方で、正しい採用と昇進を行っている企業もあるし、大学でも良いことを行っているゼミがある。今の若者はちゃんと勉強しているし、変化は起きつつあるのではないか。
Q:教育のデジタル化と聞くと、今やっている授業をコンテンツにするだけというイメージを持つ。情報を疑い、正確に判断する能力が求められているのではないか?
A:教育のデジタル化といった言葉は使ったことがない。主体的、積極的な学習者を養成する、学びのイノベーションを進めている。情報活用能力、メディアリテラシーは教科「情報」の中で教育することになっている。ただし、教科「情報」を大学入試に組み込まない限り、大きな変化は起きないかもしれない。
Q:国際交流について教えてもらいたい。海外とのやりとりが重要ではないか? 教材を海外展開するべきではないか?
A:おっしゃるとおり。今あるものを英訳するだけで、提供できるものはたくさんある。特に、理科教材は良いものがある。教材メーカーの海外展開の話になるのだと思う。