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ZOOMセミナー「循環器疾患の予防対策の実践とコホートを用いた評価」 磯 博康大阪大学大学院医学系研究科教授

開催日時:1月12日水曜日午後7時から最大1時間30分
開催方法:ZOOMセミナー
参加定員:100名
講演者:
磯 博康氏:大阪大学大学院医学系研究科公衆衛生学教授
司会:山田 肇(ICPF理事長)

磯氏の講演資料はこちらにあります。

冒頭、礒氏は次のように講演した。

  • ヘルスケアについて評価するには三つの方法がある。生態学研究としてマクロに観察評価する方法では、因果関係はあいまいになる。患者集団、企業の社員などを対象に個々人を長期間観察するコホート研究では、因果の評価ができる。因果評価が最も正確なのは介入の効果をRCTで確認する方法である。
  • 1960年代、日本は世界で最も脳卒中の多発国であったが、一方で、最も虚血性心疾患が少ない国であった。その後、日本は他国に比較して最も脳卒中が低下し、虚血性心疾患はさらに低下傾向にある。
  • 最近は、脳卒中は死因の第4位まで下がっている。しかし、「かくれワースト1」と呼ばれる。それは、同一の原因(高血圧)を基盤とする疾患単位としては最も多く年間11万人が死亡しており、精神疾患を除いて入院受療率が最大かつ入院期間が最長、寝たきりの最大の原因、認知症の予防可能な原因として最大、高齢者医療費は0兆円と癌に次いで多いといった理由からである。
  • 1963年から、秋田・大阪・茨城・高知の40歳以上住民1万人を対象にダイナミックコホート研究が進められてきた。研究テーマは、循環器疾患・循環器関連疾患の危険因子、脳卒中・虚血性心疾患発症率のトレンド、予防対策の費用効果分析、要介護・要介護認知症の危険因子などであった。
  • 24年間(1964~1987年)に渡る保険事業費、高血圧治療費、脳卒中治療費を求めた結果、強力介入地域では保険事業費が高くなるが、高血圧治療費と脳卒中治療費は低くとどまることが分かった。三つの費用を合計すると、強力介入地域では対照地域に比較して一人当たり約3万円費用が節減できていることが分かった。保険事業費で脳卒中予防運動を展開することは、費用対効果から合理的である。
  • 動脈硬化には2種類ある。心筋梗塞や大きな脳梗塞の原因となる、太い動脈に粥状硬化が発生するタイプと、脳出血や小さな脳梗塞の原因となる、細い動脈の小動脈硬化というタイプである。各国でどちらが起きやすいか調べると、食習慣が関係していることが分かった。米国人では太い動脈硬化(心筋梗塞)が優位で、主に肉の摂り過ぎによる脂質異常がきっかけ、日本人では細い動脈硬化(脳卒中)が優位で、主に塩分の摂り過ぎによる高血圧がきっかけになっている。
  • 最近は日本人の食習慣が変わり、脂質異常が増えている。今では、二つの種類の動脈硬化に対する予防対策が必要になっている。肥満がしばしば問題にされるが、非肥満者であっても血圧高値、血糖高値、脂質異常を有する者は、メタボと同様、あるいはそれ以上に循環器病の寄与リスク(人口寄与危険度割合)が高いことがわかった。研究成果は、メタボ対策と非肥満対策の平行実施が重要という、2017年の学術会議提言として結実している。
  • 筑西市協和地区において、軽度・中等度高血圧者に保健指導を実施した結果、肥満者でも非肥満者でも、保健指導によって、収縮期血圧値が低下することが分かった。非肥満者は、食塩摂取量(24時間食塩排泄量評価)、アルコール摂取量も低下した(肥満者はもともとアルコール摂取が少ないので、変化はなかった)。中長期的に脳卒中の発症を抑制するには、保健事業を基にした保健指導は有効である。
  • この結果から、脳卒中対策(予防、医療、福祉)の推進モデルが描かれた。全住民を対象とする健康教育(一次予防)は、減塩意識を向上させ、食塩摂取量を低下させるのが目的である。健康診査で高血圧を早期発見し、健康教室・保健指導・治療を実施するのが二次予防である。その先、三次予防として脳卒中が発症した場合には致死率低下、後遺症軽減を目指して治療が実施され、また地域としてリハビリ・介護に取り組むことで患者と家族のQOLを向上する。
  • 筑西市協和地区では一次予防の健康教育で、減塩運動を推進した。みそ汁塩分濃度の分布が低塩の方向に変化した。小学校では副読本を利用して教育した。その後、市町村合併で健康教育を実施していなかった地域と比較できるようになったが、副読本教育を受けた中学生2年生と受けなかった中学2年の知識・行動は、受けなかった子どもたちとは異なり、減塩に関する行動変容に結びついていることが分かった。
  • 二次予防では、健康診査で発見されたハイリスクの住民への強力な健康指導に伴い、循環器疾患発症率が低下した。この成果はWHOにも取り上げられた。協和地区の国保加入者(8,300人)で年間1億1千万円の医療費抑制効果が確認されている。
  • 都会でも、八尾市南高安地区(人口約2万人)で成人病予防会が組織され、会員約5000人が活動している。住民のボランティアが主体的に健康づくり活動を継続している。南高安地区の成人病予防会員と非会員の脳卒中発生率を比較すると、年齢・性別を問わず、会員のほうが低い。地区全体で国保医療費は年間約4億円少なく、活動を八尾市全域に展開すれば、年間約15億円の抑制効果が期待できる。
  • 健康教育と積極的な介入が、血圧に影響するのに数年以上かかり、脳卒中が減り始めるのに5~10年以上かかる。医療費の削減効果がはっきりするには10~15年以上が必要である。短期での成果を求めず、地域で高血圧予防、管理を根気強く進めてゆくことが大切である。
  • 今まで説明してきた研究成果を基盤に、戦略研究J-HARP(生活習慣病重症化予防のための戦略研究)が実施された。ヘルス・ビリーフ・モデルに基づく受療行動促進モデルが研究の核である。①健診結果から生活習慣病のリスクを対象者が理解できるよう伝え、②重症化したら自分の身体がどのような状態になるのか、その変化で家族などにどのような影響がでるのか認識・実感できるよう働きかけ、③選択すべき行動によって、重症化を回避できると気付くように伝え、④改善のための行動変容をすることの障害となるものを具体的にイメージできるようにして、⑤行動変容出来ると感じられるように、対象者と共に生活改善の具体的方法を考える。
  • このモデルをうごかすには、保健指導を計画する立案過程が最も重要である。準備には時間を要するため、準備せずに保健指導に臨んでいる自治体・企業が多い。対処療法的(~しましょう)な保健指導になり、改善効果が長続きしにくいという問題があった。それを改善するのがJ-HARPの活動である。
  • J-HARPでは研究データの収集が課題になった。特定健診データ、国保医療費データ、国保資格取得喪失データを、相互に参照できる形でデータを取得する必要があるが、個人情報保護の観点から、参加自治体にCPUと匿名化ソフトを貸与し、自治体内で3つのデータを突合・匿名化をして解析データベースを構築した。
  • 研究の結果、ハイリスク者の医療機関への受療率が介入群で対照群より高く、きちんと服薬も継続しているなどの結果を得た。
  • 大阪大学医学系研究科では、データに基づいた健康教育・保健指導や、地域拠点病院の連携による長期的な臨床・予防・疫学研究の推進と人材育成を行っている。

講演終了後、以下のような質疑があった。

一次予防・二次予防の強化について
質問(Q):住民の健康が目に見えて増進され医療費が削減されるのに10年15年かかるという話があった。取り組みが遅れれば遅れるほど効果が出るのも遅れるが、全自治体ですぐに始めるにはどうしたらよいか。
回答(A):全自治体ですぐに取り組むべきだが、今の制度では自治体に任せるしかない。個人の行動変容に委ねるたけではなく、都市の中心部への車両の進入を禁止して自然に歩くようにするといった、WHOが提唱する環境整備の施策がありえる。英国では食料品の塩分量を政府が指導して減らしてきている。これも環境整備の一環である。
Q:行動変容には個人の自覚が大切だが、どのようにして自覚を高めるのか。
A:あらゆることが行動変容に影響する。小さいころからの教育の蓄積が行動変容につながるので、一例として小学校での副読本教育が大切である。また、日本では、学校を終えて就職した時点で親元を離れ、健康に注意が払われなくなるという問題がある。入社時の健康診査と研修など強化していく必要がある。
Q:データを取って対象者にフィードバックする際には、フィードバックを理解できる力が必要になる。どうしたら、このリテラシーを高められるのか。
A:リスクの高い人にリスクを回避させるかがポイントである。ヘルス・ビリーフ・モデルに説明したように、5年後、10年後にどうなっていくのかを、できる限り具体的に説明する必要がある。健診成績表において注意すべき点に☆印を付けるだけでは不十分で、例えば、高血圧から脳卒中までの系統図を作って、身体の血管や重要な臓器の状態が、今どんな状態にあるか、このまま放置するとどうなってゆくか、脳卒中になるとどうなるか、どのくらいの医療費が想定されるか、家族にどう迷惑をかけるか、などをきちんと説明し、自分自身のこととして理解してもらう。それによって、医療機関に行って治療を受けるモチベーションが生まれてくる。この保健指導のテクニックを高めていくために、保健師等への教育・研修を進めるのがよい。
Q:運動は健康にどう影響するのか。エビデンスは得られているのか。
A:毎日1時間以上歩く人は30分の人に比べて循環器病の死亡リスクが2割低く、週に5時間以上運動する人は、週1回1~2時間の人に比べて循環器病の死亡リスクが3割低いことが、日本人の大規模なコホート研究によって示されている。
Q:服薬していることで、かえって安心して健康に配慮しない人たちがいる。このような人々に、どう健康指導していくのか。
A:服薬が必要な人は、まずきちんと服薬するように医療機関に受療してもらう。その上で、生活を改善すればいっそう状況は改善されることを説明し、望ましい生活習慣を身に付けさせるように指導している。

データの収集について
Q:データの収集について苦労している。たとえば、職域の被保険者のデータ、国保の被保険者のデータなど、保険者間のデータを繋げないと、長期間の情報にならないし、効果的な健康指導もできないのではないか。
A:厚生労働省もそのようにしたいと考えているが、NDB(全国すべての被保険者のレセプト情報、特定健診・特定保健指導のデータベース)は匿名化されており、それ自体の分析は可能であるが、介護保険データや人口動態統計情報(死亡)等との突合はできないのが現状である。 一方、海外(北欧諸国、韓国、台湾等)ではデータが結び付けられる点で、わが国は後れを取っている。限界はあるが利用できるデータを活用して予防施策に貢献する成果を出し、データヘルスの価値を社会に示していくことで、徐々にデータ連携が進むのではないか。
Q:後期高齢者のデータは国保データからも分離しているが、どう扱っているのか。
A:自治体ぐるみで予防活動を実施している場合には、首長の判断で年齢に制限を設けない健康診査もでき、後期高齢者のデータを繋げていくこともできる。しかし、現状では全国一律にはできない状況にある。

ZOOMセミナー「成果連動型委託契約を活用した千葉県白子町の健幸経営」 近藤雅巳白子町健康福祉課健幸づくり係係長ほか

開催日時:12月7日火曜日午後7時から最大1時間30分
開催方法:ZOOMセミナー
参加定員:100名
講演者:
近藤雅巳氏:白子町健康福祉課 健幸づくり係 係長(保健師)
福林孝之氏:つくばウエルネスリサーチ 経営管理部 執行役員
司会:山田 肇(ICPF理事長)

冒頭、福林氏が次の通り講演した。福林氏の資料はこちらにあります

  • つくばウエルネスリサーチは筑波大学発のベンチャーで、健康に関する最新の研究成果を現場に届ける仕事をしている。ICTを活用したe-wellnessという名称の健康運動プログラムを15年間で10万人以上に提供して、体力年齢若返りと医療費抑制のエビデンスを明らかにした。その他、多様な国プロジェクトに協力してきた。
  • e-wellnessを実施した新潟県見附市では、運動実施群は対象群に比べて、運動開始後3年目には、10万4千円も医療費を抑制できることが示された。体力年齢も5歳若返った。
  • 多くの自治体での実践の結果、歩数の増加を導ければ医療費の抑制が期待できるというエビデンスが明らかになった。しかし、どの自治体でもプログラムに参加する住民の割合は限られており、健幸への無関心層には届かない。プログラム開始直後は参加者数が伸びるが、3~4年後には頭打ちになる。
  • 無関心層のほうが医療費もかかる傾向があるので、無関心層にリーチし、行動変容を起こしたいと考えた。そこで、ポピュレーションアプローチに取り組むことにした。人口分布全体を生活習慣病リスクの低い方向に動かすというものだ。これが、健幸まちづくり施策「自然と健康になれるまちづくり:Smart Wellness City」の実践である。
  • 多くの住民が“健幸”になれるまちづくりとは、すなわち『歩いて暮らせるまち』を創ることであり、『自然に歩かされるまち』を作ることでもある。実現へのポイントは、車に過剰に依存しない、便利さだけを追求しすぎない生活を市民が許容するように向けるということ。社会参加できる場づくりを始め、多くの施策を組み合わせて実施していくになるが、最も大切なのが自助を強める施策(インセンティブの付与と健康リテラシーの向上)であって、これを本日紹介する。
  • 2016年から18年まで、無関心層の行動変容を促す6市連携健幸ポイントプロジェクトを実施した。総合特区制度の下で厚生労働省、総務省、文部科学省が連携して実施したもので、約1万2千名が参加した。歩数の増加や健康プログラムへの参加に、最大24000ポイントのインセンティブを付けた。その結果、無関心層を取り込むことができ、1万2千人のうち74%は(元)無関心層であった。さらに、約9割が18か月以上継続参加し、歩数を増加し、推奨歩数8,000歩を上回った。また、生活習慣病リスクが高い参加者の約35%がメタボを解消し、一人あたり年間5万円の医療費抑制効果が確認できた。
  • これを全国に横展開していこうということで、成果連動型事業が導入された。民間を活用しても、現在の役務達成に基づく費用支払い方式では、事業成果の有無は支払い額に反映されず、「費用の安さ」が契約先選考で優先される傾向にある。自治体側もポピュレーションアプローチを医療費抑制のためにも実施したいが、従来の事業規模と比較して多額の事業費が必要となり大規模な予算獲得は難しい。ポピュレーションアプローチで自治体職員の業務量が大幅に増加する。成果連動型契約(Pay For Success)は、行政等が営む社会的事業に対して、民間ノウハウを活用して、社会的課題解決に向けて取組んでいく官民連携手法である。実施する事業により創出される社会便益に対して成果目標を設定し、資金提供者に対しては成果目標の達成度合いに応じて対価が支払われる。
  • 2018年からの第1期SIBは3市町連携で、川西市、見附市、白子町が参加。2019年からの第2期は5市町連携で、遠野市、美里町、八幡市、宇部市、指宿市。2020年からは4市町連携で、田原本町、湯梨浜町、高石市、飯塚市。2021年からの第4期は4市町連携として実施され、金ヶ崎町、大野市、南丹市、西脇市が参加した。人口規模はまちまちだが、連携によって全体コストの削減に成功し、財政規模の小さい自治体も参加可能になっている。
  • 4期にわたるこの事業は、健幸無関心層を対象に、エビデンスベースのインセンティブ施策を大規模に実施するもので、対象人口1割以上が参加することを目標としている。つくばウエルネスリサーチは中間支援組織として協力している。
  • 最近では参加者のうち後期高齢者(80歳以上)の割合を15%以上とする新たな目標を追加し、アウトカムとして健康プログラム(歩数向上・筋トレ等)による医療費抑制、外出促進・社会参画による介護リスクの低減を掲げている。また、地方創生推進交付金(スポーツ・健康まちづくり)を活用するが、交付金終了後も一般財源で運用できる仕組みを構築する。
  • 白子町も参加する第1期プロジェクトでは、5年後のKGI(Key Goal Indicator)として、医療費の抑制効果額8億円、介護リスク15%抑制を掲げている。KGI達成のためにKPI(Key Performance Indicator)として、参加者数は新規参加者と継続参加者のそれぞれが目標数の90%以上、参加者属性は新規参加者の60%以上が運動不充分層など、継続率は歩数データのアップロード率が85%以上、歩数の変化は新規参加者の運動不充分層のうち3ヶ月後に国推奨歩数以上またはベースライン歩数から1500歩以上増加した参加者の割合が60%以上などを設定した。
  • 参加者数、運動不充分層割合・後期高齢者参加割合、継続率、歩数の変化の4つのKPIの達成状況をつくばウエルネスリサーチが評価し、4つのKPIに重みを付けて総合KPI達成度を計算し、それに基づいて成果報酬額を決めるという仕組みになっている。
  • 第1期3市町では参加者に占める75歳以上の割合が25%前後となり、第2期、第3期、第4期でも人口の1割以上という目標は越えて、ポピュレーションアプローチとして成功している。
  • 無関心層に情報を届けて関心を生みだし、インセンティブポイントを付与して参加を促してきた。さらに口コミを重視し、家族や友人に健康情報を届けてリテラシーを高めていく健幸アンバサダーを養成してきた。コミュニティ活動との連携、地域包括ケアとの連携なども各市で実施してきた。その結果、参加者の歩数が上がるという成果が確認できている。参加者の医療費も、非参加者に比べて、2年目には9万円の抑制効果があった。参加群でも介護認定者は出るが、その比率は非参加群に比べて少なく、また要支援に止まる傾向があることも分かった。

次に、近藤氏が次の通り講演した。近藤氏の資料はこちらにあります

  • 白子町は九十九里浜に面する人口10,891人の小規模な町で高齢化率は0%である。海と温泉がある観光地で、品質のよい野菜も生産されている。「匠の技」という高品質のトマトをぜひ味わってほしい。また、300面ともいわれるコートがあるテニスの町でもある。
  • 高齢化率が年に1%程度高まっている。その結果、全国に比べて低いとはいえ、後期高齢者における介護認定率が28%程度という問題が起きている。高齢者の健康を維持していくのが重要であり、「地域を丸ごと健幸にする施策を実施したい」と考えた。人口の16%まで普及すれば後は自然に普及していくという理論があるそうなので、まずは1割を目標にした。
  • また、成果が目に見えるエビデンスに基づく事業を実施したいと考えた。それが地域全体を健幸にする「健幸ポイント事業」である。ポピュレーションアプローチで全体利益を追求した。
  • 2015年度に「健幸ポイント事業」をスタートした。参加者は無料で提供される活動量計を身に着けて日常生活を送る。活動量計に記録される毎日の歩数を町施設やコンビニ等で送信する。月に一度、町施設の体組成計で体組成を測定する。これを継続した参加者に、努力と成果に対してポイントを付与し、貯まったポイントは商品券に交換される。
  • 参加費無料、歩数計1台無料と、歩数等の成績に応じてポイントがあることが、無関心層に対するインセンティブになっている。商品券は「孫にあげる」など非常に好評で、景品交換の時期は必ず新規参加者が増加するようになっている。景品交換が、継続のための動機付けと、口コミを発生させる仕掛けになっている。
  • 健幸ポイントの参加者数は、40歳以上の人口で、2年目の2016年度に1割になった。4年目(2018年)に成果連動型に変更し、通算6年目に2割を超えた。緊急事態宣言下でも新規参加者は減ることなくむしろ増加している。80歳以上の人口での普及率は6%になっている。参加の決め手は、アンケート調査によると広報紙と口コミであった。広報紙は関心層にリーチし、口コミは無関心層にリーチしていたのではないか。
  • 参加後は歩数が増加するが、3か月程度で飽和する傾向がある。3か月目までのアプローチが大切なので、データ送信をする町施設には指導者を置き、直接指導して運動不充分層の意識を喚起するようにしている。また、歩数の目標を理解している人ほど歩数を高水準で維持する傾向があるので、「目標歩数が達成できず商品券を損してますよ」といった案内も送るようにしている。
  • その結果、2021年には目標である国による推奨歩数を達成した参加者の割合が9%となった。2018年12月以前と2019年1月以降の歩数分布を比較すると、3000歩から7000歩未満の参加者が減少し、7000歩から9000歩が増加している。推奨歩数達成率のKPIは55%であるが、白子町ではこの1年間くらいほぼ達成状態を続けている。
  • 一日の平均歩数が1歩増えると、061円/歩/日の医療費が抑制されるという過去に研究結果(エビデンス)を基に試算すると、1,000人が1,400歩/日の歩数増加を達成することによって、約3,100万円/年の医療費抑制効果が期待されるという計算ができる。
  • 実際に後期高齢者のレセプトデータを分析して、参加者は医療費が5万円少なく、介護給付費も6.5万円少ないという結果が出た。新規の認定も約3割抑制できている。75歳以上人口合計では、医療費と介護給付がそれぞれ3000万円削減できたという計算になる。
  • KPIの総合達成度は白子町では110%と計算されたが、それに基づく成果報酬支払額は連携した3市町村で分担して負担するので、10万円程度で済んだ。
  • 医療費、介護給付費で差が出るのは後期高齢者であるが、これから後期高齢を迎える60代、70代が既に高い普及率に達しているので、本地域全体へのよい影響が今後さらに大きくなると期待している。
  • 成果に結びついた秘訣をまとめる。第一は、従来よりも緊密に事業者、関係者と意思疎通を実施したこと。これには連携した見附市、川西市との意思疎通も含む。第二は、KPI等の評価を随時行い、データを基により良い方策を共に検討してきたこと。そして、結果には事業者も責任を負う成果連動型の委託契約により成果を追及できたこと、の3点である。

講演の後、次のような質疑応答があった。

成果連合型委託契約について
Q(質問:取り組みを始める前段階で、どのようにして参加自治体を募ったのか。
AK(近藤回答:白子町の最大の課題が高齢化であり、しかしすべての対策を取るのは無理なので、エビデンスもあり成果が期待できるとして「健幸ポイント事業」を選択した。
AF(福林回答):スマートウエルネスシティ首長研究会で先駆的な取り組みを交流してきたのが、SIB型の「健幸ポイント事業」普及のカギになっている。
Q:SIBでは中立的な評価者の存在が重要で、今回は筑波大学がその役割を果たしている。アカデミアの役割について説明して欲しい。
AF:以前から筑波大学の研究でエビデンスが積みあがってきたというのが、この事業のポイントである。成果連動型契約の評価者という点も重要だが、研究を続けてエビデンスを積み上げることが大学の真の役割である。
AK:エビデンスがあることが事業を始める際の説明にも大切であった。ただ、難易度が高い分析の費用は大きな負担なので、長期的には、評価周期は延ばしていくのがよいのではないか。
Q:住民への介入として広報活動が大切であることが分かったが、役割分担はどうなっているのか。
AF:サービス事業実施者であるタニタヘルスリンクが主に情報提供を行っているが、町の広報に掲載するなどは自治体側の分担になる。緊密に連携することで、自然と役割分担できている。
AK:すべてを事業者に任せるのではなく、自治体側も分担している。その結果、「自治体が頑張ることで成果報酬支払額が増えるのは、どういうことか」という批判も出るが、大切なのは医療費を抑制したい、住民を健幸にしたいという目標である。
Q:KGIである医療費削減効果が事業費を上回ればよいということか。
AK:医療費が下がるといっても、白子町単体としてはすべてを把握できない。社会保険加入者の医療費が削減されても把握できないし、自治体の医療費負担は減らないからだ。
AF:社会保険加入者もいずれは国民健康保険に戻ってくるので、長期的には効果が出てくる。短い期間ではなく、長期的に見るのが大切である。ただ、費用対効果の説明がむずかしい点は認識しており、研究課題である。
Q:参加している自治体では普及が進んでいるとわかったが、全国普及にはどう取り組むのか。
AF:いろいろな方法でインセンティブを付けるという試みは多くの自治体で始めている。これに対して、「健幸ポイント事業」は無関心層へのアプローチという点に特徴があり、これを強調して普及を進めていきたい。

地域健康経営について
Q:歩数や体組成のデータを事業者に渡していくことについて問題は起きていないか。
AK:参加時にデータを取ることを説明し、署名を得ている。データ取得を問題とする参加者はほとんどいない。データ分析する際には通し番号で管理し、データだけではだれかわからないようになっている。
AF:医療費抑制効果を知ることが事業の前提なので、そのために分析するという目的をきちんと明示して、参加の際に同意を取っている。また、被保険者番号はつかない形で分析する側に医療費データが渡されている。非参加群の医療費データ分析には同意は得ていないが、国民健康保険事業ではすでに自治体として医療費分析ができるようになっているので、その枠組みで行っている。
Q:後期高齢者がメインターゲットであると、スマートフォンだけではサービスは不十分である。ターゲットを考えてサービスを設計したのか。
AK:その通り、データ送信しやすい利便性を考えてコンビニに機器を設置するなど、スマートフォンを一人では使えないという点は最初から意識した。
AF:他の参加自治体でも活動量計の利用が大半で、スマートフォンの利用者は少ない。それゆえ、活動量計の無料配布には効果がある。
Q:参加者の割合が1割、2割というが、それで十分か。
AF:まずは医療費削減目標があり、そこから計算して参加者1割が目標になっている。また、人口の1割、2割は、自治体規模にはよるが、大規模な事業である。
AK:白子町では1000人、2000人を動員する事業は今まではなかった。初めて取り組んだ大規模事業である。講演で説明したように、16%を越えれば普及し定着するという理論もある。
Q:はじめの一歩を踏み出して参加し、その後継続する「定着率」について教えて欲しい。
AF:継続率がKPIになっており、これはデータを継続的にアップロードする人の割合である。継続率として高いハードルを課したが事業全体として達成できている。
AK:白子町では8割を越えている。

ZOOMセミナー「自治体SDGsモデル事業 全世代健康都市圏創造事業(郡山市の地域健康経営)」 品川萬里郡山市長ほか

開催日時:11月2日火曜日午後7時から最大1時間30分
開催方法:ZOOMセミナー
参加定員:100名
講演者:郡山市・品川萬里市長、保健福祉部保健所健康政策課・渡邉研也主任主査
司会:山田 肇(ICPF理事長)

冒頭、品川市長は次のように講演した。講演資料はこちらにあります。

  • 郡山市の全世代健康都市圏創造事業は、政府による地方自治振興の政策ターゲットとして開始されたSDGs未来都市・自治体SDGsモデル事業に、2019年度に採択された。
  • 郡山市の0歳から18歳までの人口は、年齢が低いほど少ない。18年間の間に1000人減った。9歳の子ども(2011年の原発事故の後に生まれた子ども)は、トレンドよりもいっそう少なくなっている。このように減少傾向にある子供たちに、誰一人取り残すことなく成人式を迎えさせることが、市長として最大の使命と考えている。
  • 「最小律の原則」からも、一番弱いところにある青少年が元気に育つということが、日本を活性化させる。また、これはSDGsが掲げる誰一人取り残さない社会の形成にも合致するものである。
  • 若い世代に焦点をあてつつ、全世代の健康増進を中心に据えてモデル事業を推進することにした。人生を送るために必死に働く(Life for Work)のではなく、人生を楽しむために働く(Work for Life)のためにも健康が大切である。
  • モデル事業の成否の鍵はDX(デジタルトランスフォーメーション)にある。スマートフォンを活用しての健康増進の仕組みを作っていきたい。

続いて、渡邉氏が講演した。講演資料はこちらにあります。

  • 1994年に郡山市に採用されて以来、多様な業務を経験し、2012年からは保健所で働いている。経験の中でそれぞれの業務範囲を越えた連携やデジタルの活用はむずかしいと感じてきた。
  • 今は自治体SDGsモデル事業という壁を突破する活動に取り組んでいる。郡山市は中核市として2007年に保健所が設置され、医療・保健の専門家が地域のために力を合わせる態勢ができた。モデル事業の取り組みは他の自治体でも実施できないわけではないが、保健所がある郡山市ならではの取り組みになっている。
  • 医療・介護情報等を多角的に分析し、科学的根拠に基づく施策や事業等を実施するのが、全世代健康都市圏創造事業である。地域住民の健康寿命の延伸と健康格差の解消を掲げ、また兼ねてより実施してきたセーフコミュニティ事業と連携して、「全ての世代が健康で生きいきと暮らせるまち」を目指している。セーフコミュニティ事業は、原因を分析して事故やけがを防ごうとしているので、根拠に基づく施策の推進を掲げるモデル事業との整合性は高い。
  • 国民健康保険加入者の健診結果を蓄積し健康増進を働きかけても、その方が75歳になると後期高齢者医療制度に移り、過去のデータは参照できなくなってしまう。この例のように分断されてきた健康とそれに関わるデータを一体として扱うようにして、全住民を対象に健康増進運動や介護予防運動を展開する。それが、全世代健康都市圏創造事業のコンセプトである。
  • モデル事業ではおよそ30種類のデータを活用したが、中心は10年分の健康診査受診情報である。そのほか、レセプト情報なども組み合わせて分析した。その結果、郡山市の疾病状況や介護への移行状況なども明らかになりつつある。今後の施策に活用するとともに、オープンデータとして公開する予定である。
  • 初期の分析結果をいくつか例示する。まず、特定健診の受診回数が多い人ほど、医療費は少ないという傾向が明らかになった。多くの自治体のデータヘルスでも同様の結果が得られつつあるが、10年間という長期にわたって傾向を見い出したのは、郡山市がおそらく初めてである。しかし、なぜ医療費が低いのかという理由については、今後、詳細な分析が必要である。
  • 健康診査の受診回数が多い集団ほど要介護(支援)認定率は低下する傾向がみられることもわかってきた。まだ理由は明らかではないし、健康診査に行けるほど元気だから要介護認定率が低いという解釈もできるので、これについても、さらに詳細な分析が必要である。また、要介護認定なしの約1割が4年後には要介護(支援)認定に、また要介護3以下の認定を受けている者の5割に介護度の進行がみられることも明らかになってきている。進行の要因が今後明らかになれば、根拠に基づいた予防施策が実施できるだろう。
  • 骨折など「損傷、中毒、その他」に大分類される疾病の医療費が郡山市は全国平均の半分程度であるという分析結果が得られている。「循環器系の疾病」では、入院と入院外の医療費バランスが全国平均と違っていた。全国平均では入院医療費が入院外医療費の約二倍だが、郡山市ではほぼ同額である。入院外で治療を終了できる人が多いからなのか、それとも入院する前に死亡することが多いからなのかなど、これも今後の分析が必要である。
  • 「今後分析が必要である」と繰り返してきたが、市の職員だけでは、保健所に専門職がいても限りがある。根拠に基づく施策を推進していくために、福島県立医科大学との共同研究を実施することになった。(1) SDGsの推進に関すること、(2) 健康(保健)、医療、福祉等の充実及び向上に関すること、(3) セーフコミュニティの推進に関することについて連携を実施する。(2)項で実施される医療・介護・福祉・健康等の共同研究では、郡山市は研究テーマに匿名化したデータを提供し、また研究フィールドも提供する。福島県立医科大学は研究内容を郡山市にフィードバックして、施策・事業に提言を行うようになっている。
  • 福島県立医科大学とは、育児困難解消事業や「通いの場」事業に関わる共同研究を健康増進研究の一環として実施する。そのほか、重症化予防研究、介護予防研究も進めている。
  • そのほか、郡山市は多くの民間企業と健康関連協定を締結している。それによって、民間の知恵もお借りして、全世代健康都市圏を創造していきたい。

講演後、以下のような質疑があった。

郡山市の健康事業全般について
Q(質問):2011年の原発事故から10年たったが、郡山市の健康施策にどのように影響を与えてきたのか。
A(回答):2011年以降に死亡者数が増えた。また、9歳児だけでなく、出生数自体が減少傾向にある。それを逆転させるよりも先に、生まれた子ども全員が無事に成人に達する施策に重点を置いてきた。全世代健康都市圏事業もその一環である。
Q:病気になった後は医療費でカバーされるが、病気になる前の健康増進には将来の医療費を削減する効果が期待される。健康増進運動は自治体が自前で実施しなければならないが、市長に考え方を聞きたい。
A:確かに重要と思うが、効果がどうあったかが明らかにならないと施策として強化できない。例えば、スマートフォンに運動記録や健康記録も収納して、それも分析できるようにする必要があると考えている。
Q:健康増進の取り組みと成果について教えて欲しい。
A:健康増進や介護予防の事業がどのような効果を生んでいるかは、まさに本事業の研究対象である。今まではそのような分析がなかったので、効果分析を全世代健康都市圏事業で行っていきたい。
Q:特定健診では、治療中の人には健康指導を行わないが、実は治療中に保健師が健康指導を行うのが大切である。このような取り組みを郡山市は行っているのか。
A:まずは健康診査を受けてもらう必要がある。そのために、昨年度、健康診査を受けなかった人へのアンケート調査を実施し、健康診査に市民が積極的に行く環境を作ろうとしている。

全世代健康都市圏について
Q:この事業は郡山市だけを視点に置くのではなく、郡山連携中枢都市圏を対象にしているが、周辺都市のデータも組み入れていくのか。また、周辺都市と健康施策についてどのように連携して、発展させていくつもりなのか。
A:中核市になった効用は保健所を設置できたことである。保健所は公衆衛生の要である。保健所を通じて周辺16市町村の健康データを把握できるようになっているので、今後、組み入れていきたい。また、周辺市町村の患者が救急車で郡山市の病院に運ばれてきている。真に救急に対応が必要な人が、救急車を利用できるようにするためにも、都市圏内の連携は重要である。
Q:医療情報データをどう活用し、どう第三者提供するかには悩みがある。根拠に基づく施策のために重要なデータ利用について、聞かせて欲しい。
A:「相当な理由があり、かつ本人の権利利益を不当に侵害するものではない」に相当するので、郡山市民から取得した、郡山市が所管しているデータを郡山市は分析できる。しかし、他の機関と連携しようとすると、個人情報保護の壁が高くなる。例えば、救急搬送された方について消防署が持つ情報と、郡山市が持つその方の治療情報の連携もむずかしい。国レベルで、今後、改善をしていくように期待している。
一方で、完全に連携できなくても、サンプルで抽出して分析できる場合がある。因果関係が明らかにならなくても、相関関係(トレンド)を知ることもできる。法改正を待つだけではなく、できることは進めていくべきである。
Q:市長は18歳までの子どもたちに焦点をあてて講演されたが、この世代は幼児期にも小中学校に通う時期にも様々な健康診断を受けている。そこから、何か注目すべき分析結果が出てきているか。
A:分析結果は後日報告したい。5歳児健診については、その後の特別支援学級への進学等にもつながるので、注目しているところである。
Q:要介護認定を受けた人が循環器系の患者である場合に、なぜなったのかを調べたところ、「体調がよい」と勝手に判断して薬を止めていた人が多かったという傾向が出ている。郡山市でも同様の結果はあるのか。
A:まだ分析には至っていない。ただ、糖尿病患者が自己判断で服薬を控える点については、民間企業と共同研究を実施しているところである。

ZOOMセミナー「自治体システムの標準化とガバメントクラウド」 三木浩平総務省デジタル統括アドバイザー

開催日時:10月7日木曜日午後7時から最大1時間30分
開催方法:ZOOMセミナー
参加定員:100名
講演者:三木浩平氏(総務省デジタル統括アドバイザー)
司会:山田 肇(ICPF理事長)

三木氏の講演資料はこちらにあります。

三木氏は資料に沿って概略次のように説明した。なお、冒頭、三木氏は「講演資料は関連する政府の資料を収集整理した資料集であるが、考察と表記されたページには私見も書かれている」と注意を促した。

  • デジタル庁が発足した。省庁横断的な役割を担う、これまで同様の機能を担っていた内閣官房IT室よりも強い権限を持つ。これまでシステム導入は自治体の裁量に委ねてきたが、今後は仕様書の標準化が図られるとともに、設置環境もガバメントクラウドに集約される。
  • デジタル庁の組織の中で、デジタル社会共通機能グループはデジタル社会を実現するハイエンドの民間人材プールであって、その中に地方業務関係と共にクラウド、ネットワーク、セキュリティなどのチームが組み込まれた。
  • 自治体システムの標準化は「地方公共団体情報システムの標準化に関する法律」に沿って進められる。第8条は「地方公共団体情報システムは、標準化基準に適合するものでなければならない。」と義務規定になっている。所管大臣は、その所管する標準化対象事務について地方公共団体情報システムの標準化のため必要な基準を定めなければならない。また、セキュリティ等の複数のシステムに共通する基準は、デジタル庁で定める。
  • クラウド・コンピューティング・サービスも法律に規定されている。「国による環境の整備に関する措置の状況を踏まえつつ、当該環境においてクラウド・コンピューティング・サービス関連技術を活用して地方公共団体情報システムを利用するよう努めるものとする。」という記載であるが、全団体で取り組むべく予算措置等含めて推進が図られている。
  • 自治体システムの標準化にはいくつかの手法がある。全国クラウド型は、全国共通のシステムを自治体がオンライン利用するもので、マイナポータルが実例である。個別団体仕様の全国共有DB連携というのは、全国共通DBに自治体から標準データ形式で情報連携するもので、中間サーバを利用するマイナンバーのシステムが該当する。それらに加えて、標準仕様ソフト・ガバメントクラウドが今後推進される。
  • 住民情報系システム(住民基本台帳、選挙人名簿など17業務)について標準仕様書を作ろうとしている。介護保険、障害者福祉などの第一グループについては、すでに標準仕様書が発出された。第二グループとして、選挙人名簿管理、国民年金等について標準仕様書を作成中で、2022年度が期限。第一、第二グループとも、2025年までには標準仕様書を採用したシステムに移行する計画である。
  • 自治体システム等標準化検討会が組織され、自治体職員等参加して標準仕様書について議論している。ソフトウェア事業者も参加しているのが特徴で、参加した事業者が提供している業務パッケージの市場シェアを合計すると8割程度になる。
  • 標準仕様書には業務要件、業務フロー、機能要件(画面要件、帳票要件、データ要件、連携要件等)が書かれる。ひとつのイメージとしては、パッケージソフトをカスタマイズせず使うようなもの。ただし、標準仕様書ではIPAが作った標準文字基盤を使うように決めている。
  • 利用者は、マイナポータル等を通じてワンストップサービスが利用できるようになる。例えば、転出入はマイナポータルで手続きすれば、転出時の窓口訪問なくなったり、転入の予約もできる。
  • データ要件・連携要件が、自治体の業務システム間や他の行政機関等との横断的なものであることから、デジタル庁で検討が進んでいる。地域情報プラットフォーム標準仕様に定義されている他業務ユニットとのデータ受信・データ送信を拡充する方針である。
  • ガバメントクラウドの方向性は、デジタルガバメント閣僚会議配下の「マイナンバー制度及び国と地方のデジタル基盤抜本改善ワーキンググループ」で打ち出された。国・地方がともに活用できる複数のクラウドサービスの利用環境であるガバメントクラウドの仕組みの整備が予定されている。
  • ガバメントクラウドは、政府の情報システムについて、共通的な基盤・機能を提供する複数のクラウドサービス(IaaS、PaaS、SaaS)の利用環境である。アプリケーション開発事業者は、標準仕様に準拠して開発した基幹業務等のアプリケーションをガバメントクラウド上に構築する。複数の事業者がガバメントクラウドに基幹業務等のアプリケーションを構築するので、自治体はそれらの中から選択して、オンラインで利用する。仕様書は一つだが、アプリケーションは各社から提供されるので、そこに競争が起きるしくみになっている。
  • ガバメントクラウドに搭載する基幹業務システムは、各府省において標準仕様書を作成することとされている事務に係る業務システムを指す。具体的には、先に説明した、住民情報関係の17業務である。また、基幹業務と密接に連携する業務システム(例えば住民登録に付属する印鑑登録)については、ガバメントクラウドに構築することができることとしている。
  • 国は、クラウドサービス提供事業者との契約により、共通的な基盤・機能を整備する。自治体は「アプリケーション開発事業者」と利用契約を結べば、独自にサーバ等を調達することやクラウドサービス提供事業者との契約を結ばなくても、希望するガバメントクラウド上のアプリケーションを利用することができるようになる。なお、アプリケーション開発事業者はクラウドサービス提供事業者と民民で契約する方向。
  • すべての自治体向けに常態的にクラウドリソースを大規模に維持するのではなく、繁忙期と閑散期でリソースを柔軟にコントロールすることが望まれる。
  • ガバメントクラウドのセキュリティは、クラウドサービス事業者が提供する複数のサービスモデルを組み合わせて相互に接続する予定であり、政府情報システムのためのセキュリティ評価制度(ISMAP)のリストに登録されたクラウドサービスを選定・調達する予定である。
  • 10月4日に、ガバメントクラウド環境の実証事業に関する調達を開始した。自治体による先行事業に向けてクラウドサービスを提供する。なお、回線についてはまだ方針についてアナウンスしていない。
  • 自治体による移行のための費用については、J-LISに1500億円の基金を造成し、そこから補助するようにした。
  • 自治体が当面取り組むのは、システム標準化に関してカスタマイズ部分を特定したり、データの棚卸をしたりすることである。標準仕様書ではデータについても標準的なルールが採用されるので、標準的なルールに基づかないデータ(外字、団体独自の情報項目)がないか、まずは調査していただく。ガバメントクラウド対応では、データクレンジングが必要になる。不整合の発生しているデータ(特に各システムのユーザ番号・宛名番号や個人番号との紐づけ)はデータクレンジングする。運用環境の違いも確認していただく必要がある。
  • セキュリティガイドラインは見直すことになるだろう。「三層の対策」の効果や課題、新たな時代の要請を踏まえ、効率性・利便性を向上させた新たな自治体情報セキュリティ対策を検討する。

講演後、以下のポイントについて議論があった。

自治体システムの標準化について
質問(Q):標準化による国民のサービス向上として、転出入のワンストップ化のほかに何か検討しているのか。
回答(A):ライフタイム手続き(子どもの誕生、親の死亡など)のワンストップサービスを考えている。子育て系や介護系についてオンライン申請できるようにする(「ピッタリサービス)と呼んでいる)予定である。
Q:標準システムに移行するために、自治体が大きな負担を強いられることはないのか。
A:標準化する際の外字の整理などは各自治体で対応せざるを得ない。それは、外字での登録を自治体が行ってきたからである。一方、その先でガバメントクラウドを利用するようになれば標準化された形式でデータを吐き出すことができるので、他社の業務アプリケーションへの乗り換えも容易になる。
Q:標準システムへの移行に心配する声が自治体から聞こえてくるが、対策は考えているのか。
A:心配の声が聞こえてくる団体は、既に検討が進んでいる、考えている団体といえる。こういう作業が出てくるだろうと想定できるから心配が募る。心配の声を出しているのは主に政令市などで、独自のスクラッチやカスタマイズされたパッケージで動かしてきた経緯がある。一方でこれらの団体は、技術力も含めて対応するための人的資源は十分ある。
8割くらいの自治体は、まだ検討が始まっていない。国や県、ベンダーからから示されるのを待っている。説明会を重ねて認識を深めていただいている。そのうちの何割かは、統合パッケージを利用していたり、自治体クラウドを使っていたりするので、幾分難易度が低くなる。最も問題なのは、小さなベンダーがパッケージを独自で作っていた場合で、これを機に市場から撤退する可能性がある。

ガバメントクラウドについて
Q:ガバメントクラウド上の業務アプリケーションについて、提供する事業者は何について競争するのか。行政職員の利用のしやすさ(ユーザビリティ)か。
A:ユーザビリティも競争要素だが、オプション機能、例えばコンビニ交付に対応する、総合窓口に対応するといったことで競争できる。住民記録に関わるすべての機能について標準化されているわけではないので、それらの機能で特徴をアピールできる。
Q:標準仕様に則った業務アプリケーションであるということは第三者が検査するのか。
A:準拠の度合いの確認は必要ということは認識されている。どう進めるかは、全く議論されていない。システムを標準に準拠させること(SHIFT)と、ガバメントクラウドに載せること(LIFT)の順番は定まっていない。もし、SHIFTしていないものがたくさんLIFTされるようになったら、ガバメントクラウドに大きな負荷がかかる。それゆえ、標準に準拠していないアプリケーションは速やかにSHIFTするようにという指示が今後出る可能性がある。
Q:クラウドサービス提供事業者はISMAPに準拠するというが、アプリケーションを提供する事業者は準拠しなくてもよいのか。
A:ガバメントクラウドは国が直接契約するものであるので、ISMAPに準拠を求めるのは妥当である。業務アプリケーションは国が直接契約するものではない。
Q:ガバメントクラウドは、巨大な、たった一つのものなのか。
A:マルチクラウドという考え方はあるが、きちんとは定義されていない。国が調達する環境自体がマルチベンダーになっている可能性もある。また、標準仕様に沿うことが大切だというのであれば、単独クラウドもマルチクラウドのひとつとして受容するという考え方もある。この点は、今後も議論していくことになるのではないか。