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行政 医療分野のICT化 森田博通厚生労働省医療情報企画調整官

日時:1月17日(火曜日) 午後6時30分~8時30分
場所:東洋大学白山キャンパス5号館2階 5202教室
東京都文京区白山5-28-20
司会:山田肇(東洋大学経済学部教授、ICPF理事長)
講師:森田博通(厚生労働省医政局研究開発振興課医療情報企画調整官)

森田氏の講演資料はこちらにあります 

森田氏は冒頭、講演資料に基づき次のように講演した。

  •   本年112日に、厚生労働省内に大臣を本部長とするデータヘルス改革推進本部が設置された。医療分野のICT化の対象は多岐に渡るが、患者・国民を中心に考え、2020年度に医療介護ICT本格稼働を目指すもの。2020年度を見据えて実装を進めていくよう省を上げて検討を進めていく。
  • 医療ICT化については、既に外部有識者会議の提言が出ている。日本再興戦略の中でも医療のICT化は大きな柱のひとつ。①データ活用の前提として医療現場のデジタル化・標準化、②ネットワーク化、③ビッグデータの活用が課題となっている。
  • 電子カルテの普及状況については、400床以上の病院では約8割。一方、診療所ベースでは3割程度。診療所は毎年廃止・新設が多く、新設のうち5~6割は電子カルテを導入しているため、診療所でも着実に導入が進んでいる。
  • 病院と診療所などをつなげる地域医療情報連携ネットワークが構築されており、最近特に増えている。しかし、これらが全国統一のインフラといえるかというとそうとは言い難い。全国規模への普及が課題となっている。
  • NDPDPC等、分析に利用可能なデータの収集は始まっている。データは民間活用も視野に入れており、民間への公表も始まっている。今後は、医療と介護のデータを繋げたり、データの民間活用を拡大したりするための検討も進めている。
  • 地域医療情報連携では、病院から診療所方向へのカルテ参照を可能とするシステム環境は広がりつつあるが、逆方向はまだ限られた地域での取組。双方向にするためには診療所もデジタル化を進める必要がある。
  • レセプトの電子化については、現在は7割強がオンライン請求となっており、電子媒体も含めればほとんどが対応済みと言える。オンライン資格確認も検討を進めており、そのためには全ての病院や診療所がネットワークにつながる必要がある。
  • 「医療介護関係者間の連携(ネットワーク)強化」「地域包括ケアシステムの整備」というのが医療介護提供体制構築の方向性となっている。地域包括ケアは、元々は介護分野から始まったが、今は医療も含めて、基本的な考え方となっている。
  • 平成29年度には医療計画の改定があり、介護保険の計画改定時期とも重なる。医療と介護の計画が同時に改定され、また、報酬も平成30年度は医療と介護の同時改定。医療介護の提供体制を改めて見直す重要な時期であり、このタイミングでネットワークの普及も進めたいと考えている。
  • 地域医療情報連携ネットワークの効果としては、診療情報が関係者間で共有されることにより、多くの情報を活用して適切な医療が実施できるようになる、地域の医療介護の人的ネットワークが広がる、検査・投薬の重複を減らすといった効果がある。ネットワークでの情報連携には患者の同意が前提。
  • ネットワークを継続的に運用していくには、初期投資だけでなく、更新費用、維持費用が問題。国や自治体も初期費用や運営面での支援を行っている。紹介状を電子的に情報提供する場合には、検査結果や画像情報などの情報連携について、診療報酬でも点数を加算するといった評価が今年度改定で導入された。
  • 医療に関するデータはそれぞれの医療機関が分散管理している。これを確実かつ効率的に繋ぐことが、患者に対する診療でも、ビッグデータの視点でも重要。そのために検討しているのが、医療等ID。過去の議論の経緯を踏まえ、マイナンバーとは別の医療に特化したIDを導入することとしている。医療等IDについては、2018年度から段階的運用、2020年からの本格運用を目指し、検討を進めている。
  • マイナンバーカードを使ったオンライン資格確認ではマイナンバーは使わない。マイナンバーカードのICチップの電子証明書の活用を検討している。しかし、マイナンバーが記載されたマイナンバーカードを医療機関に見せることに抵抗感があるのではという指摘がある。医療機関で使用するのはあくまでカードのICチップだけで、マイナンバーそのものは使わないということを理解してもらうことが重要になる。そのほか、AIの医療分野での活用についても検討を始めている。

講演の後、以下のような質疑があった。

電子カルテについて
質問(Q):未知の感染症が発生したときに診療所まで電子カルテが入っていると、保健所が自動的に感知して警告を出すといったことが可能になる。アメリカでは診療所の電子カルテを保健所に繋ぐと費用が補助される。日本でも補助を検討しないのか?
回答(A):電子カルテの運用が始まった頃に補助していた時期もあったが、現在、厚労省として補助はしていない。ただし、情報連携ネットワーク初期費用については財政支援を行っている地方自治体はある。
Q:医療情報カルテの本人開示の予定はないのか?
A:患者自身もカルテそのものを見せられても、その中で何を見たら良いのか分からないと思う。むしろ、必要な情報を整理して希望する患者・国民が確認できるような仕組みを有識者会議の提言も踏まえ検討することが必要と考えている。
Q:データの置場所としてクラウドの議論はあるか? 繋ぐのは簡単だが、セキュリティの問題もある。将来的な連携も考慮して、中核拠点をクラウドにするように政策誘導する予定はあるか?
A:既存の電子カルテや情報連携システムでクラウド型のものもある。セキュリティの確保を前提に、コストを下げられるのであれば選択肢になると思うが、導入に関しては、各病院の判断になる。有識者会議のプラットフォームの議論などはこれからの検討課題。
Q:診療所が10万あり、これからは、地域医療も診療所がメインになると思うが、電子カルテの普及率を上げていくためにどのようなことを検討しているのか。
A:この資料は平成26年度時点での意向なので、次回の29年度の調査では上振れしていると予想される。特に診療所は電子カルテの普及率はまだまだだが、新設の診療所の導入率は高い。なお、情報連携に関しては、レセコンを活用する方法もある。必ずしも電子カルテがマストではない。 

地域医療情報連携について
Q:トップダウンで進めるのか、ボトムアップで進めるのか?ボトムアップの場合、地域空白がたくさんできると思う。厚労省が義務化させるのか?その辺りの関係性について教えて欲しい。
A:ネットワーク構築については、地域レベルのネットワークの普及拡大と、全国規模のネットワーク構築の検討の両面があると考える。オンライン資格確認の本格実施を実現するためには少なくとも審査支払機関との間では全医療機関のネットワーク化が必要。どのように実現していくか検討している。
Q:利用者の利益や国民が喜ぶ話はあるのか?
A:具体的な現場の声を資料にいくつか事例としてまとめているが、例えば佐賀県のひとつの例では、大病院で検査して、結果の説明は、かかりつけ医が担当したという事例もある。大病院では検査して結果説明を受けるのに1日がかりになることから検査を受けることを躊躇していた人が検査を受けてくれたといった例が報告されている。
Q:医療ネットワークは二次医療圏、介護ネットワークは市町村。両者の間の圏域の違いはクリアできているのか?
A:ネットワークがひとつである必要はない。医療と介護が必要な範囲で繋げられるかが重要。例えば、岡山県の例では、医療連携は全県規模のネットワークであるが、在宅医療介護連携は市町村規模で運営され、必要な範囲でそれぞれのシステムの情報が共有される仕組みを構築している。
Q:連携するときに問題になるのがセキュリティ。厚生労働省はガイドラインを出しているのか? ガイドライン遵守を確認するための体制はどうなっているのか?
A:厚生労働省では、情報セキュリティのガイドラインを出しており、経産省や総務省も関連するガイドラインを出している。医療機関がガイドラインに従って個人情報を適切に扱っていただくことが基本だが、システム提供側も適切な対応が必要。 

医療等IDについて
Q:マイナンバーカードを保険証にすると被保険者番号が本人にも見えないことになる。被保険者番号が見えないことについてデメリットはないのか?
A:被保険者番号は残るが、マイナンバーカードでオンライン資格確認を行う場合に、被保険者番号をどのように確認できるようにするかについては、担当部署で検討中と承知している。
Q:今、マイナンバーを隠すように色々な所で言っている。そのため、いざそれを活用しようとしても利用する人が出てこなくて、結局、ほとんどの人が別のカード持ち歩くようになるのではないか?
A:前職(内閣府)でマイナンバーの広報を担当していたが、キャッシュカードの口座番号と同じで、マイナンバーはむやみに見せていいものではないが、必要な手続のみで使用するもので、マイナンバーを他人に「絶対に見せるな」ということは政府としては言っていない。マイナンバーそのものの使用とマイナンバーカードのICチップの使用がまったく異なることの理解を広げていくことが必要と考える。
Q:「医療等ID」の「等」には何が含まれているのか?
A:医療等IDの利活用分野としては、医療・介護、健康分野などを想定してユースケースを整理している。
Q:研究利用について地方自治体の個人情報保護ルールがまとまっていない。そのあたりはどう考えているのか?
A:これは医療だけに限らない話であるが、地方自治体の個人情報保護のルールはそれぞれの地方自治体が条例で決めるものとなっていることはご指摘のとおり。公立病院でも改正個人情報保護法を踏まえた対応が必要と認識。

行政 マイナンバーカードを活用した地域経済好循環の拡大に向けた取組 三木浩平総務省地域情報政策室企画官

日時:12月16日(金曜日) 午後6時30分~8時30分
場所:東洋大学白山キャンパス5号館1階 5101教室
東京都文京区白山5-28-20
司会:山田肇(東洋大学経済学部教授、ICPF理事長)
講師:三木浩平(総務省自治行政局地域情報政策室企画官)

三木氏の講演資料はこちらにあります。

三木氏は講演資料を用いて概略次のように講演した。

  • マイキープラットフォームはマイナンバーカードを利用するサービスであるが、マイナンバー自体は利用せず、利用者自身が設定したマイキーIDを利用する。
  • 既に、マイナンバーカードを利用した各種証明書のコンビニ交付は実施されており、交付できる証明書の種類は各自治体が決定している。
  • 20177月よりマイナポータルを本格的に開始する予定で、これは国民向けのマイページとなる。国と自治体がオンラインで連携することで、自治体から市民に対するプッシュ型の通知(乳幼児予防接種のお知らせなど)や「子育てワンストップサービス」などが展開される。
  • マイナンバーカードのICチップの空き容量部分を「マイキー」と呼び、これを利用したサービスがマイキープラットフォームとなる。
  • マイキープラットフォームは3つの要素に利用できる。①マイナンバーカードを公的サービス(自治体の図書館や施設利用など)の利用者カードの代用として使う、②自治体ポイントプログラム(自治体で実施されている子育て支援ポイント、健康ポイント、介護支援ポイントなど)の業務システムとして共同利用する、③全国企業のポイントを自治体ポイントへ交換する。
  • マイナンバーカードのICチップには公的個人認証(JPKI)のしくみが搭載されており、署名と利用者用電子証明書の2種類が入っている。利用者用電子証明書のシリアル番号に結びつけられて利用者が任意に登録したIDを「マイキーID」と呼び、このIDで「マイキープラットフォーム」にオンラインでアクセスすることになる。
  • マイキープラットフォームには「ID管理テーブル」が作成されており、「マイキーID」を親番として、その利用者が利用している図書館の利用カード番号やその他の自治体施設の利用カード番号、商店街の利用カードの番号などを登録することができる。
  • 図書館利用カードに活用するケースを例にすると、まず窓口端末でマイナンバーカードをカードリーダで読み込むと、利用者用電子証明書のシリアル番号が読み取られ、マイキープラットフォームにオンラインで参照をかける。マイキープラットフォームでは、シリアル番号でアクセスされたマイキーIDについて、それに紐づけられた図書館の利用カード番号が検索される。図書館の窓口端末に図書館利用カード番号が通知される。これにより、マイナンバーカードを提示するだけで、登録された様々な図書館が利用できるようになる。
  • 図書館には、自動貸し出し機など、さまざまなシステムがあるため、それらでもマイキーを使うことができないか、主要な図書館システムの開発業者数社と協議中である。
  • ボランティアポイントや健康ポイントなど、自治体の既存ポイントサービスをポイント管理クラウドで管理できるように準備している。1ポイント=1円は共通ルールにしたいと考えている。貯めたポイントの使い方は自治体がルールを決める。公的サービスに利用できるようにしたり、地元の商店街で商店街ポイントと交換して利用したりといった想定をしている。
  • 商店街にポイントカードが無い場合は、二次元バーコードのあるポイント券を印刷するなど色々な方法が取れるように考えている。
  • クレジットカードのポイントや航空会社のマイルなど全国レベルで実施されているポイントサービスで、そのポイントを地域ポイントに交換できるようにする。例えば、航空会社のマイレージであれば、航空会社のマイページにアクセスして、ポイント交換をメニューで選択するが、このメニューのひとつに地域ポイントへの交換を出してもらう。
  • ポイントの移行時に自治体の経理事務が必要になるが、マイキープラットフォームには決済代行の仕組みも検討しており、カード会社からある自治体に1万ポイント移行された場合は、決済代行サービスがカード会社に請求し、ポイントに相当する金額を自治体が指定する口座に振り込むことを想定している。
  • 地域のイベント期間中に交換する(県外から多くの観光客が訪れる祭りなど)とプレミアポイントがつくといった、観光プレミアムポイントサービスも検討している。被災地支援プロジェクトなど寄付に近い形のサービスも検討している。
  • 全国ポイントを地域ポイントに交換したいというニーズがあるかという点では、交換レートを良くすることで、地域ポイントへの交換へのインセンティブにしたいと考えており、全国ポイントの事業者にお願いをしているところである。地域側も、魅力あるものを提供するよう検討してもらいたいと思っており、例えば、大規模なイベントでの最前列の席のチケットは、地域ポイントじゃないと購入できないなどといった工夫をすることなどが考えられる。
  • 自治体側で準備が必要なのは、パソコンとカードリーダ(タイプBが読み取れるも)。ここに、マイキープラットフォームのソフトをダウンロードしてもらう形となる。自治体のアカウントをマイキープラットフォームに設定することで、利用可能となる。
  • 現在、入札公告を準備しており、WTO案件となるため、2.5か月の公告期間となる。20172月から実証事業の環境設定を4か月ほどで行い、システムテストを経て、20178月より実証実験を展開する予定となっている。環境設定が4か月と短いが、クラウド等の標準パッケージ機能で実施する予定なので、十分な期間と考える。
  • 全国ポイントの事業者で実証実験に参加するのは、8社(クレジット会社5社、航空会社2社、携帯電話会社1社) 

講演終了後、以下のような質疑があった

マイナンバーカードを用いる心理的な壁
質問(Q):マイナンバーは人には見せてはいけないと言われてきた。マイナンバーが記載されているマイナンバーカードを市中で利用することへの心理的壁をどのように突破するのか?
回答(A):マイナンバー制度について、あまり理解されておらず、従ってマイナンバーとマイナンバーカードの違いも十分認知されていない。マイナンバーそのものを利用することは制限されているが、この事業では、マイナンバーカードでアクセスできるマイキーIDを利用するということ。現在、各自治体や図書館の担当者に事前に説明に回っている。実証事業が開始される年度に入れば、一般向けに広報する予定である。関心を引くためため、キャンペーンが必要だと思っている。図書館窓口など公的サービスで利用することは心理的バリアが低いため、そこから開始したい。
Q:マイナンバーカードそのものを紛失しても個人情報が流失しまうわけではないことは理解しているが、紛失してから再発行までの時間が問題である。警察への届け出から再発行までの手続きを簡素化すべきではないか?
A:所管が違うためそれについては、コメントはできない。マイキープラットフォームでは利用者用電子証明書のシリアル番号を直接利用せずに、マイキーIDを設定する理由は、証明書は5年ごとに更新するため、そのたびに使えなくなってしまわないように工夫した部分である。つまり、マイキーIDはシリアル番号が新しくなっても引き継げる。また、マイキーID自体は自分で付番する任意の番号であり、変更もできる。
Q:マイキープラットフォームでは、個々のポイント利用の記録は保有できないとなっているが、ポイントの有効期限なども確認できないのか? 情報をビジネスに利用したいのではないか?
A:例えばカード会社から1000ポイント移したなどのポイント移行履歴情報は確認できる。地域ポイントでどの商品を購入したとか、図書館の貸出履歴といった消費や利用の情報は保有しない。
コメント(C):戦前の思想統制から、図書館の貸出履歴も思想に関わるセンシティブな情報と見る人たちがいる。貸出履歴によるリコメンドも問題になった。利用者側が持つカード側に貸出履歴を持たせるのはよいが、図書館のシステム側では貸し借りのトランザクションだけが管理されている。
A:マイナンバーカードに関係する事業なので、過敏に反応されることも想定して、慎重な取り扱いにしている。
QICチップにマイナンバーが入っているのだから、マイキーを利用する際に、マイナンバーのデータを取ろうとすれば盗れるのではないか?
A:アプリを改造して、シリアル番号だけでなく、ICチップからマイナンバーも読み取れるようにすることは不可能ではない。ただし、マイナンバーを法律に指定されている用途以外に取得した場合は罰則が科せられる。しかも、マイナンバーそのものは、何の意味もない数字であり、盗ってもインターネットや個人が所有する情報端末では参照できない。マイナンバーにつながる個人情報(特定個人情報)は、専用のネットワークに接続された専用端末を、利用権限を与えられた職員が認証の元で使用しないと閲覧できない。図書館の端末からではマイナンバーのシステムにつながらないし、図書館職員のIDではアクセスできない。

マイキープラットフォームに対するニーズ
Q:マイキープラットフォームのニーズはどこにあるのか? 全国規模で、税金をかけてやる意味があるのか?
A:マイキープラットフォームは、マイナンバーカードや公的個人認証など既存のしくみをそのまま利用し、その上に構築する。また、個別の自治体用に個別のしくみを構築するのではなく、全国共同利用のしくみとすることで、廉価な利用料金でサービスを利用することができる。
Q:図書館カードを複数所持しているイメージになっているが、多くの人は、一番近い図書館のカードを1枚持っているだけである。図書館カードと体育館カードなら話は分かる。図書館の次のターゲットは何か?
A:博物館や美術館が想定されている。これら施設では、入場料を徴収しているため、ポイント利用も進めることができる。
C:住基カードは国民の利便性向上では評価は低かったが、行政のコスト削減にはメリットがあった。ニーズの話を聞いても、鶏と卵の話しになるのではないだろうか。
Q:民間が既にやっているサービスを国がやるのは民業圧迫ではないか?
A:民間のポイント移行サービスは、全国ポイントから別の全国ポイントに移行するものであり、全国ポイントを地域の商店街などで使えるようなしくみがない。また、この事業では、全国ポイントを自治体ポイントにはできるが、逆はない。民間との棲み分けはできると思う。
Q:マイキープラットフォームは自治体職員でもまだまだ理解できておらず、勉強会などを重ねている状況にある。特に経済課の職員にとっては、地域の商店街にどう説明するかということに頭を悩ませている。商店街にとってもメリットといえば、換金率になるかと思うが、そのあたりはどうか?
A:ポイントの交換率を良いと感じるか、悪いと感じるかは、個人の意識の問題になってしまう。カード会社のポイントをプレゼントに変えるのではなく、地域ポイントに変えたいと思わせることが重要である。また、ポイント制度を運用する場合、ポイント分を負債(引当金)として計上しなくてはいけない。クレジットカード会社のポイントは、一般には4割は使われないままとなっているそうで、このポイントを外に吐き出したいとクレジットカード会社は考えるため、地域ポイントへの交換率を良くしてくれるように協力してくれるのではないか。商店街にとっても、この事業への参加は、カードリーダの購入やインターネット接続料金ぐらいの小さい投資額で参加できる。観光プレミアムポイントやイベントポイントなどで地域経済に効果があることを見せていくことができればと思う。
Q:マイキーIDは民間利用できるのか? 図書館もツタヤが指定管理者をしており区別しにくい。
A:利用できる。基本は、地域の商店街などが想定されるが、それぞれの自治体ポイントの利用ルールを決めるのは自治体である。

行政 法人インフォメーション 満塩尚史経済産業省CIO補佐官

日時:1122日(火曜日) 午後630分~830
場所:東洋大学白山キャンパス5号館2階 5203教室
東京都文京区白山5-28-20
司会:山田肇(東洋大学経済学部教授、ICPF理事長)
講師:満塩尚史(経済産業省CIO補佐官)

満塩氏の講演資料はこちらにあります。

満塩氏は冒頭、以下のように講演した。

  • 経済産業省は法人に関係する情報の発信に注力し、各利用者のニーズに応じた法人向けポータルは民間側(APIの利用者側)に作ってもらうという発想で、「法人インフォメーション」の構築を進めている。
  • 「法人番号」は公開される。誰もが利用「できる」し「しなければならない」情報である。法人番号に、行政効率化・利便性向上・公平公正な社会を実現する社会基盤であり、公開情報であるために、新たな価値の創出が期待される。
  • 法人番号は、昨年度から付与が開始され、登記に基づく団体(企業・NPOなど)、登記のない組織(マンション組合など)に加えて、国の機関、自治体にも付けた。重要なポイントは、同一のルール上にあらゆる組織体が乗ったことである。登記と連動し、今後は登記される組織には全て番号が振られ、文書で通知される。登記毎であって、事業所毎ではないことには注意が必要である。
  • 国税庁は、登記事務を扱う法務省からのデータを利用して、「法人番号公表サイト」を構築している。そこでは、名称・所在地・法人番号を全公開し、データはデイリーでアップデートされ、差分情報を取ることも出来る。「法人番号公表サイト」から発信している主な情報は3種類だが、詳細なデータを読み解くと、より多くの種類の情報を入手できる。また、商号の外字等のデータクリーニングも済んでいる。
  • 民間がこれを利用できるようにAPIを公開している。一部、最初にネットワーク経由で申請が必要な場合もある。データは当然、機械可読で公開されている。
  • 「法人番号」には三つの価値がある。「わかる:番号からいろいろな情報を得る事が出来る。」「つながる:法人番号をベースに他のDBとリンクできる。」「ひろがる:新しいビジネスを生み出す。」である。取引先の管理について、同一企業内なのに部署毎に管理IDがあったのを、法人番号で名寄せすることもできるようになる。これは、コーポレートガバナンスの観点から重要で、一部の企業ではすでに活用例があるが、それは社会全体に広がっていく。
  • 法人番号からいろいろな事が分かる。たとえば、日本で一番多い企業名は「(株)アシスト」で、法人名では「八幡神社」が多い。これらのことが、簡単なプログラムを書くことで把握できる。「3月末に登記官による閉鎖が多い」などもわかるので、いずれは経済指標にすることできるかもしれない。
  • 「法人インフォメーション」を進めている大きなポイントは、官庁が保有する情報を、法人番号を鍵として公開していくためだ。そのためには、半角スペースや(株)の位置によるクリーニングに手間をかけずに、法人番号で法人情報を名寄せし、機械可読にする必要がある。結果として、行政の発信する「法人情報の標準化」を進めているわけだ。それを進めて、「法人インフォメーション」から法人の調達実績、免許許認可、処分勧告、補助金、表彰など、ネガティブな情報だけでなく、ポジティブな情報も提供する。GUIよりはデータ集めに注力している。GUIの作成は複数の民間におまかせしたい。
  • 1月から「法人インフォメーション」という名称で試行開始。経済産業省情報だけでなく全省庁の法人情報を発信できるよう各省庁にも呼びかけている。取引予定のある中小企業に対する信用調査、企業存在の証明、信頼の評価、新規開拓、適格性調査、取引先、競合他社の調査などに使ってほしい。
  • クローリングによる情報収集ができないかなどは今後の課題である。他にも課題はある。搭載データの拡充。例えば、間接補助金受託企業(省庁として把握していても、電子データとして保存されていない)。「data.go.jp」との連携。法人番号と登録情報のリンケージを進め、一度登録したら他の所で再度情報を登録しなくても済むようにしたい。そのためには、提出書類等に法人番号を併記させることが重要。既にある情報に法人番号を後付けで付与するのは限界があり、併記させるようにしないとデータが貯まらない。法人基本情報の拡充(読み方、英語表記など)
  • 「法人インフォメーション」のデータの特徴は、一つ目は機械可読可能で二次利用容易であること(RDFデータモデルで構造化されていること、CSVPDFデータとしても提供できること)、二つ目は語彙基盤をIPA基盤(IMI)と連携して活用していることなどである。
  • 法人情報を取り扱うシステムの構造には、「データを提供する層」と「利用しやすくする層」がある。後者は民間に任せたい。企業独自の付加価値の追加、ビジネス化に進んでほしい。経済産業省が整備するデータ提供レイヤとGUIレイヤ(利用しやすくする層)が連携して動くことで有機的な価値が生まれる。官がGUIに中途半端に手を出すと余り良い結果は生まれないからだ。 

講演後、以下の質疑があった。

政府内での法人番号の利用について
質問(Q):政府の中では法人番号は使わないのか。国の会計システムでの取引先の指定などには組み込まれていないのか。
回答(A):推進はしているが、会計システムにはまだ入ってはいないと思う。経済産業省では法人番号を入れて促進しているが、義務ではないので他省への拡大はまだ十分でない。周囲から各自にメリットがある旨をいって欲しい。
Q:政府内の重複投資を法人番号で調べることも出来る。政府の中でもっと使えばいいのではないか。
A:もちろん政府内利用も想定している。他方、「法人インフォメーション」としては、各省が公開するオープンデータをどう取り込んでいくか、それによって利便性を示し、法人番号利用の機運を高めるのも課題である。
Q:政府の中で工程表を作り、法人番号の併記率を上げようとしているが、かなり難しいのか。
A:結局のところ、現在の「様式」がガッチリ固まっているのが悩ましいところ。特に紙ベースの様式ではスペースに余裕がないものもあるのでどうやれば入れられるのかという問題に加え、法律の改正が必要なケースもある。まずは法改正が必要ないところから進めている。
Q:経済産業省で近々電子入札を統一すると聞いているが、そこに法人番号を入れるようにするのか。
A:電子入札システムは、法人番号を登録している入札参加資格と連携しているので、連携している。入口から繋げている。
Q:開札までは電子なのに、契約以降は紙なのはどうかと思う。そこの電子化も進めて欲しい。
A:入札と契約は別。企業の方でも「紙の方がいい」というところもあり、電子契約まではいっていないのが現状。ただ、議論はしている。
Q:入札資格の確認はデータで見た方が早い。法人番号入れて、入札資格を確認できるようにするといい。
A:入札参加資格システムと電子入札システムが連携している。
Q:逆オークションも可能になる。
A:それを実現するには、全ての入札を電子化する必要がある。
Q:自治体等の調達情報と資格情報は別々に管理されているのか。
A:中央官庁の資格情報は、総務省が統一資格で管理している。そのデータはAPIで取得できる。地方自治体は、別の資格管理である。
コメント(C):入札・契約・支払いで分断されているのを統一したほうがいい。
Q:特許出願では企業に個別番号振っているはずだが。
A:その通り。ただし、過去情報の個別番号を法人番号に入れ替えるためには、最低、個別番号と法人番号間のマッピングDBは作っておかないといけない。過去情報を修正するのは大変なのでマップデータを作るのは大事である。 

自治体への拡大について
Q:中央でこの状態では地方自治体はまだまだでは。
A:その通り。
C:地方自治体はほぼ条例で決まっているので、全て変えないといけない。
A:改正が必要か、それとも、解釈でいけるのか。それぞれ事情が違う。
Q:入札資格を各自治体が参照できるようにする、という話があったと思うが。
AAPI公開しているので参照するのは難しくはないが、自治体側がそれでOKというかは別問題。
C:千葉県では県単位でそのような仕組みを作って、各市町村に申請しなくて済むようにしている。
C:全国統一がよい。そうしないと、他自治体での処分情報が共有されていないので、他の自治体で入札参加できてしまう、といった問題も起きる。
A:その観点からも自治体版「法人インフォメーション」が必要だと思う。1月スタートする「法人インフォメーション」をオープンソースで進めていて、標準的な技術しか使わないのは、将来的に地方自治体や他の行政機関に拡充していくことも想定しているため。 

法人番号の利用促進策について
Q:会社名・所在地など他の情報とともに法人番号を併記させるのではなく、法人番号だけ入れれば他の情報は自動的に挿入されるようにすれば済むのではないか。
A:名称等をアイデンティティの確認に使っているところも多く、まずは併記で進めていきたい。
Q:中小企業のような社員が少ないところでは、書類を作る度に同じ事何度も書かされることが負担になっているが。
A:その通りだと思う。重複入力の負担はなくしていきたいと考えている。
Q:法人番号のフォーマットに予備空間があるが、そこは何に使うのか。
A:現時点では特に予定はない。
Q:「法人インフォメーション」の価値が高まると、検索で出てこないような中小・個人事業主のビジネスは厳しくなる。個人事業主をDBに一括で載せるとよいのでは。
A:個人事業主でも載せて欲しい人と載せて欲しくない人がいる。現在の法人番号公表サイトは、個人事業者は、法人番号の指定の届出制の対象ではないので、そのあたりは調整が必要。
C:どの段階で番号がもらえるのかというのがポイントだと思う。
A:ヨーロッパでは、インボイスの発行が必要になるときに登録をお願いしているようだ。
QPDFで出力できるとあったが、それに電子署名はつくのか。
A:つかない。電子署名の話を出すと専門的な議論が必要になってくる。
Q:登記証明などの発行はお金がかかるので、その代替になるようであれば使われるようになるのでは。
A:登記証明の使い方による。単に登記証明を存在証明のためだけに求めていた場合、法人番号公表サイトや「法人インフォメーション」を確認したい会計担当者が検索すれば良い。ただし、例えば会計担当者が100社分を検索することは難しいので、PDFで見ていく方が簡単だと思う。PDFの信用性については、電子署名がない場合は、一般的なPDFの信頼性しかない。また、サーバ上で、PDFに電子署名した場合、電子署名法上との電子署名との乖離もある。
Q:企業の会計管理者でも大阪事業所と東京事業所でどういう取引しているとか知らないことも普通にある。
A:大手企業グループでは独自の法人番号管理を入れていて、役に立ったとのこと。それを法人番号に置き換えるだけでいい。そもそもグループ内で同じ法人番号管理を導入するのが一番大変だったが、法人番号であれば導入しやすい。
Q:国際展開は考えているか。
A:オープンコーポレートも法人番号を取り込んでいる。将来的にはオープンコートレートを経由して、海外の別のDBにつながっていく可能性がある。あとはデータ英訳(言語)の問題がある。法人情報に英語情報とかふりがな(一斉翻訳できない)のが問題である。法人番号体系自体は国際規格に準拠している。
Q:「法人インフォメーション」のAPIを使った民間の利用希望はあるのか。
A:あるし、こちらからもアプローチしている。 

法人ポータルについて
Q:法人ポータルは作らないのか。
A:利用者本位に考えた場合、単純にポータルという名称で「1箇所で全てを見られる」ことが重要なのではなく、「重複入力排除」のためのデータ統一が重要だと考えている。ポータル化(1箇所で全てを見られる)よりTell at once(重複入力排除)を重視したい。
Q分散型を想定していると。
A:そう。そのための標準プロトコルを作る。見せる方は民間に期待したい。
C:「ポータル」という名称を避けたのはそのためか。
A:そう。データ提供層と使い勝手を決める表現層は分けるべき。混ぜるとデータ提供層が特定の表現層の構造に引っ張られ、多くのニーズに応える事が困難になる。

知的財産 特許調査から始まる特許の有効活用 鷲尾裕之氏(特許戦略コンサルタント)

日時:11月9日(水曜日) 午後6時30分~8時30分
場所:東洋大学白山キャンパス6号館6302教室
東京都文京区白山5-28-20
司会:山田肇(東洋大学経済学部教授、ICPF理事長)
講師:鷲尾裕之(特許戦略コンサルタント)

鷲尾氏の講演資料はこちらにあります。

冒頭、鷲尾氏は次のように講演した。

  • リケンテクノスで技術開発、分析、知的財産の仕事をして独立した。分析研究をやっていたことが、侵害行為とは何か、どう立証するかといった知的財産業務に役立った。
  • 特許とは、「特許権」である。特許庁に出願し、特許要件というハードルをクリアしたものに権利が与えられる。そして、権利付与は原則特許庁が行う。一方、特許侵害の判断を行うのは裁判所である。特許権は発明に対して与えられるが、発明とは「技術的思想」である。特許明細書を読むというのは、技術的思想を読み取ることであり、それが、たとえば特許侵害の基準にもなる。「特許請求の範囲」に書かれているものは技術的思想である。一方、「実施例」は技術そのものである。
  • 特許審査の対象は発明であって、過去の発明と技術的思想が同一か、進歩性があるかなどが、対比される。一方、侵害を争うときには、第三者の製品、つまり現物が技術的思想の範囲(特許発明の技術的範囲)に入るかどうかが争われる。
  • パイオニア発明が出来れば事業は安泰か? 答えはNOである。後発他社は「あの発明があるから、この分野は参入できない」と思う必要はない。パイオニア発明があっても、特許要件を満たせば特許は取れる。後発他社は、先行特許と互いに侵害し合っている状態を作り出すことでその分野に入っていく。パイオニア発明をした企業は、後発他社の参入を防ぐために、最初の出願から一年半以内に改良特許を大量に出願すべきである。
  • リケンテクノスはポリ塩化ビニル樹脂コンパウンドのトップ企業で安泰なビジネスをしていたので、その頃は特許化しようという思想がなかった。その後、新素材が出て、その分野に入ろうとしたら、そこは特許重視の世界だった。そこで、技術陣と知的財産部が協力して特許化を進めていった。技術屋が特許の重要性を理解して、知的財産部を道具として使った。「知財力ランキング」で評価されたのはここである。技術屋は継続して事業として利益を作るシステムを作らなければならない。技術屋は知的財産部を使うようにするべきだし、知的財産部は技術屋の技術を理解しなければならない。
  • 特許調査とは特許地図を書くことである。その技術分野において自社の立ち位置がどこにあるか。他社の特許はどこにあるのか。他社製品も調べなければならない。自社の強み・弱みを知り、いつでも訴訟に対応出来るように準備しておくのが特許調査である。そして、侵害の事実を証明できる証拠を得るのが分析という仕事である。
  • 熱可塑性プラスチックは、分子量に分布がある、特定の長さの分子を見ても構造の分布がある、混合物である。プラスチック市場で中間加工メーカーは異なるプラスチックを溶融混練して、組成して販売する。それを成形加工メーカーが買って成形し(溶かす、流す、固める)、完成品メーカーが買って組み立てる。
  • プラスチックは、レシピが同じでも作り方次第で異なるものが出来上がる。成形条件で性能が変わってしまう。しかし、日本では製造方法の権利化は、米国の裁判におけるディスカバリのような制度がないので、侵害を争うのが難しい。そこでレシピを出願するのだが、レシピが同じでも違うものができるということは頭が痛い。何を権利化するかよく考えなければ無駄になる。自社が権利化し、他社を侵害する権利範囲は何か。それを検討する必要がある。
  • 特許調査では漏れがあってはいけない。キーワードでの絞り込みは困難で、それでも電気、通信分野と比較すれば関連特許は少ないので、いざとなったら力業に頼る。全部読むわけだ。技術者と同等の知識を持つ知的財産部員が調べて、技術者にプレゼンするのがよい。製品の現在の流れ、将来の市場の方向性を考えて、奥の深い出願をする。拒絶理由が来たら、狭いが有効な権利を取る。特許調査では、権利の安定性・行使の容易性を評価する必要がある。
  • 特許付与された権利の6割は無効化されている。私見だが、実際には、9割くらいには無効理由があると思っている。権利侵害の証明の難しい特許権も無視される。そのような情報も他社との交渉で役に立つので、特許調査で押さえておく必要がある。

講演後、次のような質疑があった。

企業経営の観点から
質問(Q):相手と交渉するために大量に特許を取ってしまう状況に陥ることもあるだろう。特許調査は力業といっていたが、実際どれくらい読むのか?
回答(A):2~3,000件は読む。これは中間加工だけの話。合成のも合わせれば15,000くらい読む。
Q:調査の時に1人で読んでいると属人的になると思うが、その知識をどのように共有していたのか?
A:PPTに定期的にまとめて、参加自由で月1でプレゼンして共有していた。研究所の月次報告会でも、月次報告書を予習しておいて出願案件、サンプル検討停止、回避設計などの議論をした。
Q:そうすると技術者も効率的に協力してくれるのか?
A:難しいケースも少しはあるので効果の向上を意図して、各部署の若手で、やる気ありそうな人を特許担当にしてもらってまず彼等に話していった。
コメント(C):キヤノンでも月1で会議をしている、とセミナーで話があった。キヤノンにしろ、リケンテクノスにしろ、特許に強い企業はそういうことをきっちりやっている、という印象がある。
Q:リケンテクノスの売上規模だと、知的財産活動にかけられるお金には限界があると思う。ほとんど弁理士と維持費に消える。それでも知的財産にお金をかけようとするのであれば、会社の将来像を考えてやる必要があると思うが、それについて経営陣とはどういう関係を築いていたのか?
A:当時の経営陣は柱であるポリ塩化ビニル樹脂の世界は、自社が国内トップメーカーとしてノウハウの世界を作って特許の世界とは一線を画していたため、知的財産のことを深くは知らない人が多かった。しかし、専門の知的財産部に最終的には任せる経営の懐の深さとそれを支える知的財産部長の能力はあった。最近は、知的財産の価値を知るスーパー技術者が経営陣に入ってきた。弁理士に頼めば権利は取りやすいが1件20万円掛かるので、重要なものだけは頼んで、後は知的財産部員で書いて経費削減をしていた。
C:リケンテクノスみたいに知的財産活動について良い評価を受けても、経営者から「お金がかかりすぎないか?」と言われてしまう。日本全体の意識を高めないといけない。

特許の権利化について
Q:年30万件くらいの審査請求を、2,000人の審査官で見ているので、見落としてそのまま特許になってしまったものもあるのでは?
A:そう思う。私もセミナー等では、拒絶理由通知に対しては面接に行くのがいいといっている。特許庁の調査は外注で行ったり、過去のものを列挙して拒絶される場合もある。手が回らなくて、権利化されることもあると思う。
Q:化学特許は特許期間20年の満期まで特許を維持するパターンが多いのか?
A:そう。途中で放棄してくれたらラッキー。まずないが。
C:移動通信の世界は10年くらいで技術が入れ代わっていくので、どんどん権利放棄している。特許の維持費が高くつくからだ。
A:プラスチックはなかなか新しい技術は出てこないので、たまに新しい素材とかが出てくると、こぞって権利化する。
Q:特許審査の際に、キーワードで読んで、審査官が「これは有効ではない」という場合がある。たとえば、無線機の技術は誰が書いても同じようにキーワードが並ぶので、そこだけ見てはじかれてしまう。
A:そういうときは、対比表を作る。審査対象となる特許出願と既存特許の構成要素を並べ、何が違うのか説明できるかが大事。審査官が読むということを考えて書いている。ただ、そこを読み取れない審査官もいるので、そういう時は面接にいって、その内容を補正書や意見書に落とし込む。そこまでやらないとダメな場合もある。
Q:読み取り方を考えるように、特許請求の範囲も織り込んで考えているということか?
A:そう。よく分かっている技術者は複数の特許に分割可能な、深みのある、将来を見越した明細書を書いてくれる。同じ権利範囲を取るにしても、審査官が納得しないようであれば、どんどん分割して、別の審査官に見てもらうようにする。分割できるようにするためには元の明細書をいかに深く書いておけるかが大事。狭い権利範囲であっても他社が実施しなくてはいけない「嫌がられる」権利をとることが肝心。

特許侵害訴訟とパテントトロールについて
Q:日本で製造方法の特許侵害立証が難しいというのは調べようがないからであって、アメリカには裁判におけるディスカバリ制度があるから有効な権利となる、という理解でよいか?
A:日本では特許権者が侵害行為を立証しなければならないハードルが高い。他社の工場に入って調べることは出来ないから。
Q:リケンテクノスは無効審判をしたことはあるのか?
A:ある。しかし、特許侵害訴訟はない。
Q:化学業界で少ないのか?
A:プラスチックの世界ではあまり聞かない。お手紙(警告書)は行き来しているようだが。
Q:会社によってはお手紙を見ないみないところもある。そのような企業は知的財産をどうとらえているのか?
A:私見だが、様々な技術分野に有効な権利を持つ企業は強気でいられる。ただし、総じて化学企業はおとなしいと感じる。もっと、ガンガン訴訟をやった方が、国際競争力向上の観点ではよいと思う。
Q:相手が製品を全く作らないとすると、侵害をいわれるだけで対抗できないのではないか?
A:そういう状況だと、理論はともかく事実上は確かにそうなる。
Q:製品を作らないところが特許を取ると非常に強い権利になってしまう、という理解でいいか?
A:それで正しい。それを防ぐ法律はあるが、機能しているとは考えにくい。
Q:通信の世界では、他社の特許を買い取って権利侵害を訴える企業(自分では作らない(パテントトロール)がいて問題になっているが、化学の世界でもそういうのはいるか。特許を取っておいて、全く別のことをしている企業はあるのか? 私の会社では、自社の主力分野(たとえば業務用無線)よりも他分野(移動通信)の特許を取った方が利益が出る。そのような考え方はないか。
A:特に聞いたことはない。ただ、リケンテクノスではオールリケンでどう特許を取るかを考えていた。