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共催セミナー インターネット投票の実現に向けて-諸課題と検討状況 湯淺墾道情報セキュリティ大学院大学教授ほか

日時:2018年4月18日(水) 17時~19時
場所:衆議院第二議員会館多目的会議室
主催:情報ネットワーク法学会、インターネット投票研究会
共催:情報通信政策フォーラム(ICPF)
協力:ヤフー株式会社、株式会社VOTE FOR

登壇者(敬称略)
国会議員:日本維新の会・浦野靖人、希望の党・柿沢未途、自由民主党・鈴木隼人、立憲民主党・中谷一馬、民進党・牧山弘恵、公明党・三浦信祐、自由民主党・山下雄平
有識者:湯淺墾道(情報セキュリティ大学院大学)、河村和徳(東北大学)
ゲスト:大胡田誠(弁護士、日本盲人連合)、妹尾正仁(ヤフー株式会社)、市ノ澤充(株式会社VOTE FOR)
コーディネーター:山田肇(ICPF)

以下の記録の責任は山田肇にある。

湯淺氏は冒頭挨拶で「投票所での電子投票が可能になって以降ICT技術は大きく発展し、セキュアな投票環境実現という課題も解決できる見通しが出てきた」と語った。次いで、鈴木衆議院議員が基調報告を行った。主な内容は次の通り。20代の投票率の低下傾向から将来を予測すると、今の20代が60代になるころには全有権者で計算した投票率が30%台になる可能性がある。組織票の力が強くなり、有権者が意識しないうちに民主主義の根幹が脅かされていく。スタート台となる若者の投票率を上げていくことが大事で、若手議員で検討を進めてきた。主権者教育での「模擬投票」の推奨、スウェーデンの「若者協議会」にならった施策の展開などを提案したが、その中にインターネット投票も位置付けられる。若手議員が提言したのち、総務省にネット投票を検討するための委員会が立ち上がり、自民党でも被選挙権年齢の引き下げの検討が始まっている。これらの一連の活動が、若者の政治への関心の高揚、政治の自分事化につながっていけばよい。

続いてパネル討論が行われた。パネルディスカッションでのネット投票の可能性と課題に関する発言を整理すると次のとおりである。

ネット投票の可能性について

  •  ネット投票によって全年代で投票率が向上し、高齢者、離島、在外日本人に対しても役に立つ。
  • 在外日本人の有権者登録には非常に手間がかかる。まずは在外日本人向けネット投票を始めてはどうか。過疎地でもネット投票となると対象地の選定が困難だが、在外日本人を定義するのは非常に簡単である。
  • 東日本大震災の後、体育館に投票所が設置されも、実際に投票できる投票所は元の居住地といわれ投票できない問題が起きた。熊本地震の時には共通投票所を設置したが、その時は誰が投票済みであるかを確認するシステムが問題になった。こういった問題を解決する手段の延長線上にネット投票がある。
  • ネットに触ったことがない人も一定数存在する。そのため、当分は併存させる必要がある。しかし、ある程度浸透した段階で将来的にネットに統一する、といったロードマップで考えないといけない。投票所でも電子投票を導入すれば、ネット投票と併存できる。
  • 費用面についてネットが高いとする人はハード面の整備を想定していると思うが、それらを整備した上でも圧倒的にコストはネットの方が安い。1回システムを組んでしまえば、その後の運用は安価だ。

ネット投票の課題と解決策について

  • なりすましや投票の強要が問題である。これに対して、エストニアでは何度でもネット投票できるようにして、強要されても後でこっそりと入れ直せるようにしている。「なりすまし」については、マイナンバーカードを利用することで技術的・法的な問題はクリアできる。本人確認には顔認証も利用できるかもしれない。
  • 改竄の危険性は常に指摘はされているが、改竄で選挙結果が変わるという事例はない。何故なら、選挙予測等の事前情報と大きく違う選挙結果が出れば、その時点で明らかおかしいと分かるし、改竄防止の技術も大きく進歩しているからである。むしろ、暗号化技術などをどう組み合わせて使うか検討する段階にある。
  • サイバー攻撃で投票者の投票行動が外部に流出する危険への対応が必要になる。
  • 世代間ギャップの検討が求められる。インターネット投票をできない人たちと若者の間にギャップがある中で導入するには、幅広い意見を基に検討し、役所の判断だけで進めないことが肝要である。
  • 選挙終盤での候補者の行動がその後の投票行動に大きな影響を与えるという現状があり、情報が少ない段階で投票して情報が集まった段階では変更できないといった問題も生まれる恐れがある。再投票には、本人確認の問題をどうクリアするかという課題がある。
  • ネット投票のためのハード面の整備を誰が担当するのか、誰のお金で行うのか。
  • 候補者名を筆記する今の方式では読みにくい字をどのように判別するか、という問題があり、投票側、集計側、双方にとって正確な結果を得ることができる方策を検討するべきである。
  • 法的には現在でも投票所で電子投票できるようになっている。しかし古いタイプの政治家は投票の際に候補者の名前を書いてもらうことに意義を見いだしていて、「画面にどうやって名前書くのか?」といったレベルから議論をはじめる。全てをネットに移すということは現状不可能だと思う。
  • 現在は白票を投票できるが、ネット投票・電子投票にも白票を用意するのか。利便性についても、本当にネットの利便性が高いかどうかはよく考える必要がある。
  • 郵便局やコンビニで投票できる環境を整えるべき、という意見もある。郵便局等で皆が遠目で投票を見守るといった体制を整えて、自由意志での投票を担保する案も可能性がある。
  • 紙で投票するシステムの効率化も可能である。コンビニ等の投票所も増やしていく必要がある。期日前投票を導入しても長い行列で時間がかかる場合があり、改善しなければならない。
  • 少数派の意見をどう取り込んでいくかいう問題がある。例えばネット投票の方式について全国的には賛成が優勢であっても、過疎地等の意見を考慮しないで導入してよいのだろうか。

次にゲストが講演した。大胡田氏は「障害者は総計では約864万人もいるが、様々な理由により投票の機会が奪われている。ネット投票で現行制度の問題を解決できるかもしれない。また選挙公報が画像PDFで、読み上げできないのは改善が必要である。」と語った。妹尾氏は「選挙公報の情報をテキスト化してサイトに掲載する「聞こえる選挙」を提供している。選挙情報の格差を是正したい、という思いから始まった活動である。誤字脱字についてはトリプルチェックする体制を整えた。将来的に公報がテキスト化されれば「聞こえる選挙」の役目は終わる。しかし、ヤフーとしてはそれでよいと考えている。」と語った。市ノ澤氏は、情報の提供の仕方ひとつとっても標準化が重要と話した。氏名と通称をどう表示するかなど、自治体によって方針が異なる。選挙公報をテキスト化すると、公報に記載した文字の大きさによって、音声変換した際の読み上げの時間に差が発生し、公平性の問題がある。公報の作り方(フォーマット)も考えてもらわないといけない、と指摘した。

後半のパネル討論では選挙情報のオープン化について議論した。

選挙情報のオープン化について

  •  情報化の進展は公職選挙法の規程をすでに超えている状態にある。法律自体を現在の状況に適合する形に整え直さないと行けない。しかし、公職選挙法の改正は全党合意という政治的なハードルがあり、これはネット投票解禁よりも高いハードルかもしれない。
  • フォーマットや字数制限などの条件を付けて、テキスト化に進んでいけばよい。
  • 任意でも構わないので、テキストデータの提出を求めてもいいのではないか。さらに画像を入れる場合は説明キャプションのテキストデータを付けてもらうといった工夫である程度はクリアできる。テキスト化を前提とした公報を作る場合にも、世の中には作成を支援するツール・サービスは色々ある。
  • そもそも、選挙公報がどれくらい見られているのか、という疑問もある。一方で多くの大学生から「政見放送をみた」という言葉をもらうこともある。公報と放送をどのようにリンクさせていくか、そういうことも考える必要がある。
  • テキスト化を全員に強制するのは難しいと思うので、選択肢のひとつとして提供すればよい。障害者へのサポートについては、小さい選挙であればあるほど公報の電子化は効果が高いと思う。一方で、大きな選挙や選挙区については、様々な情報が様々な角度からネット・報道を通じて提供されるので、行政で対応を準備するよりは、メディアが有用である。
  • 公報のテキスト化についてだが、現在HPの届け出について任意にしているが、HPを開設している人としていない人の間で平等がある、という意見は出てきていないで、制度的・技術的には問題無いと考える。提出必須化については、アメリカなどではその方向にすすんでおり、日本もいずれはその向になっていくだろう。
  • 一連の流れを管理する選挙の現場では、候補者データと投票の連続性の観点から議論することは重要である。ICTの導入は選管毎にバラバラになると、瞬間的にはICTの導入によって不平等が拡大する可能性がある。国全体としての対応も議論しなければならない。

最後に各議員が「ネット投票は誰のために、何のために行うのか?」ということについて短く所見を明らかにした。

浦野:投票の機会を最大化して、民意のあるべきところ正しく知るため。
鈴木:投票機会の平等化、健全な民主主義の維持である。
中谷:現在の選挙制度に不備を感じている人の全てを含め、民意を政治の世界に届けるためム。
三浦:全ての人に投票するチャンスを提供するため。
山下:投票する人が少なくなると代理制の根幹が崩れる。それを改善するために投票のバリアを外していくことが大事である。
柿沢:日本ではネット投票を行うためのインフラは整っている。法定得票数ギリギリで当選していく人も居る現状を打破し、民意が政治に反映される社会を作っていく。

教育 ICT活用を教える現職教員の対応力強化策 上松恵理子武蔵野学院大学准教授

日時:2月27日火曜日18時30分から20時30分
場所:エムワイ貸会議室四谷三丁目 会議室B
東京メトロ四谷三丁目駅前、スーパー丸正6階
司会:山田 肇(ICPF理事長)
講師:上松恵理子(武蔵野学院大学)
定員:40名

上松氏の講演資料はこちらにあります。

冒頭、上松氏は次のように講演した。

日本では総務省がプログラミング教育推進事業を実施しているが、文部科学省等と連携することもなく、今年の3月で終了する。一方で、英国をはじめとする諸外国では取り組みが強化されている。今日はその状況を話す。 

BETTについて

  • 英国では、「BETTThe British Educational Training and Technology Show)」が毎年ロンドンで開催されている。Microsoftや富士通、レノボ等の大企業から小規模の企業まで多数出展しておいる。日本では東京ビッグサイトで行われる教育ICTソリューションEXPOのようなイベントであるが、日本と異なる点は教師と子どもたちが積極的に参加することである。日本では、IT企業と教員・自治体を結ぶビジネスの場として設けられているが、英国では教員が生徒を引率して会場を訪れ、それぞれが興味のあるブースを周るといった「学び」の要素が大きい。最も大きな違いは、教員自身が非常に熱心に学ぶ姿が多く見られる点である。「明日の授業で使用する教材」を研究するために、しっかり見聞きするという意気込みが感じられる。
  • 英国では博物館等を無料で観ることができる。この制度を利用して、児童生徒には課外授業の機会が多く与えられ、できるだけ実物を体験する。実物がなければVRを用いる。ICT教育について言えば、それはプログラミングをできるようにするのではなく、どのように動いているのかを理解することであり、多様なIT利用シーンを体験するために課外授業が用いられ、BRTTもその一環となっている。
  • BETT会場で現職教員の講演を聞いたが、教育学の普遍的な理論、たとえば教育目標等の分類学(ブルーム・タキソノミー)から実践内容の軸を外さないようにしていることが印象深かった。同時に、教員のリーダーシップも求められるようになった。日本の教員は均一な印象があるが、海外には教員を束ねる教員がいる。学校の中でITスキルのある教員が、教育学の普遍的理論を理解しつつ、他の教員にIT教育について教えるといった教員相互の共有の場が存在している。
  • 教員だけではなく、学習者である生徒もデータ分析する時代になってきた。個々のデータを教員が分析するのではなく、子どもたち自身が自分の学習データを分析できるようになるのがこれからの新しいフェーズである。いずれ、生徒の活動や評価が学校や国を超え行われれるようになるだろう。

教科Computingについて

  • ケンブリッジ大学のコンピュータラボラトリーは一般の大学が行っている単位制ではなく、時間制である。学士号は3年、修士号は1年のため、在学中は非常に忙しい。また、成績上位25%しか大学院に進学できない。教員一人に対して学生は一人か二人という小クラスもある。小学校でプログラミング教育が導入されたことから、かつては好きで独学でコンピュータを扱う学生がいた程度だったのが、今ではほとんどが使える状況になってきている。一方、日本には小中学校に情報の教科がない。英国では1995年から始まった教科「ICT」が2014年に廃止され、新教科Computingがスタートした。新1年生からプログラミング教育が必修と位置づけられている。
  • 教科Computingでは、他の学校にネット予約を行うことで、小学生が中学校や高校でのプログラミング授業の参観ができる。教員にとっては教え方の勉強になり、子どもたちにも興味のきっかけになる。

スイスとOECDについて

  • スイス・チューリッヒ大学情報学部長Informatics Europe代表理事であるエンリコ氏に面談した。ヨーロッパ諸国が加盟している情報学根付かせるための機関がInformatics Europeである。今はセキュリティやデジタルリテラシーも重視している。ヨーロッパには、ACMヨーロッパやボローニヤプロセス(ボローニャ合意)といった教育基準がある。こうして、国境を越えた協力や基準が進んでいる。
  • スイスの教育は州ごとに異なるが、日本同様、教員免許状更新講習の制度がある。初任者研修は23年。10年経験者研修が法定研修となっている。スイスでは高校に行くのは20%程度で、中学生の80%は専門学校や就職する。しかし、高校に行かなくても大学や大学院に入るチャンスがある。そのためプログラミングが好きな子どもは、専門学校に行った後に大学等に進学することも可能である。専門学校に行ってから大学進学する学生は非常にモチベーションが高い。また、スイスは銀行がとても多いが、大手銀行トップは専門学校から就職、その後、大学、大学院を経ているケースもある。
  • OECDEducation2030には、個々人に合わせられる学習環境、基礎的な力、識字と計算力、協働して結果をもたらす力、相互作用的で相互支援的な関係といった記載がある。

まとめ

  • 時代に合わせて柔軟に教育の枠組みを変化させる必要がある。英国をはじめ欧州諸国ではその動きが始まっている。現職教員は新しい枠組みでの教育ができるように一生懸命に勉強し続けている。一方で、他校に生徒を連れて見学に出向けたり、教材がネットに豊富にアップされていたり、教員が教員に教える相互協力の仕組みも存在する。こうして、現職教員のIT活用力が高まり、ITを活用する教育の効果も上がっていく。
  • そのような共有の仕組みの中で、プロジェクトベースドラーニングは2時間続きで行う方が、学習効率が良いといった知見が生まれてきた。教員研修もワークショップ型で実施して、評価をお互いに行うというのが一般的である。

講演後、次のような質疑があった。

ITを活用した教育について

Q(質問):シンガポールでは、タブレットを利用した教育が進んでいるのか?
A(回答):ICT教育はとても進んでいる。学習指導要領に一人一台と明記している国は多い。北欧は学習指導要領が非常に薄く、教員の裁量に任された部分が大きいので、教員が自らタブレット利用を進めている。その他先進国でも教室にPCが常設されているケース、BYODのケースがある。スマホの持ち込みが自由な国も多い。日本は平均して学習者約6人に1台しかない。
Q:ほとんどの.授業でスマホなどを使っているのか?
A:その通り。辞書や翻訳ソフトを利用したり、インターネットを使って調べ学習をしたりしている。もちろん、内容に応じて紙と鉛筆も併用している。例えばエストニアでは、教室に端末を持ち込んでいるのが普通の状況である。国語の授業はパソコンを使う。
Q:プログラミング教育ではオブジェクト指向といったことまで教えるのか?
A:そこまで教える必要はないとケンブリッジ大学の先生が述べていた。理由は先生がそれを教えるスキルに達していないこともある。また、小学校で音楽は必修だが、皆がピアニストになるわけではないのと同様に、皆がプラグラマーになるわけではなく、プログラミング的思考の基礎を身に着けておくのが重要であるという意見が多かった。学校の先生方の中には、プログラミングが好きになってもらいたいという思いもある。
Q:教科書だけ見てもイメージがわかない場合もあるのではないか?
A:インターネットも同じである。課外授業では、実物を見ることが大切にされている。体験学習にはVRを使うこともある。課外授業やネットでの学習を総合して、レポート、論文を書くことができるように、小学生にもそういった文章の書き方を教えている。 

英国での教員養成について

Q:講演資料にあったデジタルスクールハウスとは何か?
A:国の機関ではない。いろいろな会社がお金を出資して、教科Computingの授業を支えるためのワークショップを行ったり、教員の支援を行ったり、教科書を作っている。ヨーロッパには寄付や企業のお金で成り立つ公的機関が多い。教員は、困ったらそういうところにアクセスし、または、ワークショップ等に参加する。韓国では教員免許を持つICT支援員も存在するので研究授業なども企画できる。英国ではワークショップなどの企画は国が一斉に行うというものはなく国は関与していない。
Q:セキュリティは社会基盤で子供の時から学ぶという話があったが、教員育成を行うにはどうしているのか?
A:日本ではセキュリティを専門に学ぶ大学は多くない。まずは子どもにも道の渡り方を教えるようにセキュリティの概念を教えなければならない。基礎的なことはすべての子供に教える必要がある。そのためには、早期からデータの概念を理解し、それから、セキュリティを理解するというようなことが必要である。セキュリティの専門家が日本は不足しているため、とても時間がかかる。小学校から一斉に教科Computingを教えることになったため、教員育成は間に合わない部分があるが民間の機関や公的機関、OCRのような評価規準の機関のデータやテスト問題を教員が参照できるのでその点は教材もたくさんあり恵まれている。なかなか教員育成は大変である。これはイギリスを含めた欧州全体に言えることだが、大学教員よりも就職した方が高賃金のため、教員不足が課題である。

ICPF×アゴラ緊急シンポジウム 電波改革で訪れるビジネスチャンス 原 英史規制改革推進会議投資等WG座長ほか

日時:20171219日(火)183020201800受付開始)
会場:エムワイ貸会議室四谷三丁目 ルームA
160-0004 東京都新宿区四谷3-12 丸正総本店ビル6F
登壇者:
原英史(規制改革推進会議投資WG座長)
山田肇(情報通信政策フォーラム理事長)
池田信夫(株式会社アゴラ研究所所長)
真野浩(株式会社コーデンテクノインフォ代表取締役) 

原氏の講演資料はこちらにあります池田氏の講演資料はこちらにあります

「電波改革で訪れるビジネスチャンス」と題して規制改革推進会議の答申について議論するシンポジウムを開催した。以下はICPF事務局による要約である。 

すべてがインターネットに接続され(Internet of EverythingIoE)、産業・医療・交通・環境・教育・防災など多様な都市機能が統合され効率よく提供されるスマートシティが実現されようとしている。IoEやスマートシティ時代の電波利用は今までとは全く異なるものになる。新時代を展望して、電波行政の改革方針が答申として打ち出された。 

答申が強調する電波発射状況調査によって使用頻度が低い免許人・周波数帯が明らかになれば、返納させたり他の用途と共用させたりする「電波の区画整理」が実施できる。 

今までは周波数や変調方式といった物理的な規定とその上での利用形態を統合して電波免許を付与してきた。これからは物理的な規定と利用形態を分離すべきである。無線ネットワークはIP網として構築し、その上でいろいろに利用するのがよい。無線IP網自体は利用形態(サービス・コンテンツ)が異なっても変える必要はない。 

今まではある免許人が撤退したのち、次の免許人がサービスを開始するまでに長い空白期間があったが、無線IP網の形式にすれば空白期間はなくなる。同じ無線IP網のうえで多くのサービス提供者が競争するという形態での市場競争も実現できる。また、使用頻度が低い旧免許人は他社が提供する無線IP網を利用すればよい。 

無線IP網のうえを流れるサービス・コンテンツが利益の源泉である。無線IP網自体は多様なサービスを支えるインフラであり、水道事業が最低限の利益で営まれているように無線IP網から多くの利益は期待できない。したがって、無線IP網のための電波をオークションにかけても高額で落札されることはない。 

オークションの実施は電波改革の中心的な課題ではない。無線IP網を水道網のように公営で構築することすら考えられる。区画整理をして空き周波数を作り、共用を基本とした新しい利用形態を実現することが電波改革の焦点である。

テレビ放送の価値は多額をかけて制作されるコンテンツである。電波を飛ばして視聴者に届ける伝送が価値ではない。コンテンツの伝送路として無線(デジタルテレビ放送)があり、ケーブルテレビがあり、ネット同時送信が今後提供される。電波改革は、テレビ局にとっては価値の高いコンテンツを配信するルートが増えるチャンスである。ただし、著作権法が(無線)放送、有線放送、ネット送信を相互に異なって規定している点など、電波以外にも改革を求められる法制度が存在する。 

多様な利用形態の無線網の共用は公共用電波でも進めるべきである。答申では公共安全LTEの構築が提言されているが、その方向を向いた施策であり、電波の有効利用を加速する。

ビジネス 自動走行バスの現状と今後 大澤定夫氏(SBドライブ株式会社)

日時:10月24日火曜日18時30分から20時30分
場所:エムワイ貸会議室四谷三丁目 会議室B
東京メトロ四谷三丁目駅前、スーパー丸正6階
司会:山田 肇(ICPF理事長)
講師:大澤定夫(SBドライブ株式会社) 

大澤氏の講演資料はこちらにあります

大澤氏は冒頭、次のように講演した。

  • SBドライブは通信・IoTのソフトバンク、ビッグデータのYahoo! Japanと自動運転技術の先進モビリティの3社が出資して2016年に設立された自動運転ベンチャである。バス型の自動運転モビリティを目指す、交通事業者向けにBtoB事業を展開をポイントとして、自動運転の時代の運行管理を支えるICTサービスの用意を目指している。
  • バス型自動運転には、ドライバー不足、バス会社の7割が赤字、廃止路線の増加、買い物弱者が増加といった公共交通の課題解決に貢献できる可能性がある。将来的には先進国で少子高齢化が進行するため、日本の自動運転バスが海外でも活躍するビジネスチャンスがある。
  • 経済産業省の平成28年度スマートモビリティシステム研究開発・実証事業専用道路での走行を試みたが、SBドライブはその先を行く他車も走行する一般道で特定ルートを定時運行するモビリティを2018年度後半に実現することを目指している。
  • 実際の交通状況とニーズを軸に考えるため、現時点で4地域と協定を締結している。地方都市モデルとして福岡県北九州市、中山間地域モデルとして鳥取県八頭町、観光地モデルとして長野県白馬村、地方都市で地域の自動車メーカーも巻き込んだ静岡県浜松市である。また、内閣府を始めとする国家プロジェクトに参画し経験を蓄積中である。
  • 将来的には交通事業者に対するBtoBビジネスとして、サービスと車両をパッケージで提供予定である。バスによる公共交通で課題である運転手の人件費が、より低額の運行管理システム運用費に置き換えられれば、ビジネスとして認知されるだろう。これがSBドライブのビジネスチャンスである。
  • 自動運転技術は認知→判断→制御の三要素が連なって成り立っている。認知に関わるセンサ類や判断に関わるGPUなどは価格の低下が著しい。3Dマップ・GPSなど複数の組み合わせで 自己位置推定を行うことが可能になり、AIを活用した障害物認知等の信頼性が大幅に向上している。
  • 2017年3月の沖縄・南城市での実証実験はレベル2.5ぐらいで実施した。アクセルとステアリングを自動化し、海外沿いの交差点のない一般道を片道1㎞走行した。運行管理システムの動作検証、ロボットによる社内アナウンス、バス停への4cm程度の近接停車(正着制御技術)、障害物回避を実証した。交通事業者を中心にモニター-調査を実施したが、乗車前には不安との回答が大半を占めた。しかし、説明と乗車後は安心が大半を占める結果となった。

ICPF事務局注記:レベル2は部分自動運転、レベル3は条件付自動運転、レベル4は高度自動運転で、レベル3まではシステムが要請すればドライバーが対応しなければならない。

  • 6月から7月にかけて石垣島で実証実験をした。新石垣空港~離島ターミナル(片道16km)で最高速度40㎞、アクセルとステアリングを自動化したレベル2.5ぐらいである。交差点での信号待ちなど、南城市に比べて本格的な実験となった。街路樹がある道路ではGPSが検知しにくく自動走行制御がむずかしいなどの課題も発見された。
  • 7月には芝公園で、フランスNAVYA製のARMAを用いて1周150mをレベル3で走行する一般公開試乗会を実施した。ARMAは世界25カ国で10万人が乗車した世界で最も走行実績のある自動運転バスである。

講演後、次のような質疑があった。

自動走行バスの技術等に関する質疑

質問(Q): GPSが街路樹に邪魔されるという話があったが、準天頂衛星で改善されるのか? 今はトンネル内を走行できないのか?
回答(A):改善されるだろう。トンネルなどGPSを検出できない場所では縁石や白線を検出して走行する方法などがある。
Q:道路に電磁誘導のラインを敷設する方式と比べてSBドライブの自律走行方式は有利なのか?
A:走行距離が長ければ電磁誘導のラインを敷設するインフラ協調型は不利になる。しかし、自律走行といってもトンネルなどでは周囲から誘導する可能性もあり、一部分はインフラ協調方式となるだろう。
Q:NAVYAのARMAがレベル4で走行している国はあるのか?
A:スイスの観光地で走行している。

ICPF事務局脚注:スイス・ヴァレー州シオン市で自動走行バスのサービスが提供されている。

自動走行バスが発揮する価値などに関する質疑

Q:レベル2では効果がないのではないか?
A:レベル1の自動ブレーキなどがすでに自動車に装備されるようになってきた。それだけでも事故低減の効果は出ている。レベル2でも公共交通に貢献する部分はあるが、目標はドライバーが不要になるレベル4である。
Q:南城市での実証実験で乗車後も不安を感じたという回答者が出たのはなぜか?
A:回答者は主にバス事業を営む交通事業者であった。彼らの中には自分の運転と比較して不安を感じた人もいた。石垣島では一般人を乗せたが、拍手が出るくらいに好評だった。
Q:バス運用者の態勢に影響は出るか?
A:始業前点検など運用者がすべき作業は変わらない。ただ、自動走行バスの部品の消耗度などは自動測定できるので予防保全に移っていくだろう。
Q:過疎地のほうが対向車も少なく信号もない。最初のターゲットなのか?
A:その通りだが、都会での運用も目標にしている。

自動走行バスに関わる規制緩和などに関する質疑

Q:講演中の動画では、バスの運行が集中管理センタで管理されているようになっていた。集中管理センタに人が付いているのでは人件費は削減できないのではないか?
A:国は安全最優先で集中管理センタに人が付くのを求めている。道路交通法はジュネーブ条約に沿った法律であり、車の操縦は人が行わなければならない。操縦する人が必ずしも車の中にいる必要はないと警察庁は解釈して、集中管理センタ方式をガイドラインで定めている。
Q:今後、レギュラトリーサンドボックスで実証実験をする予定という話が出たが、サンドボックス内では集中管理センタ方式を外すのか?
A:安全最優先なので集中管理センタ方式である。ただ、今までは集中管理センタの監視者にも2種免許を求めていたが、これがサンドボックス特区内で緩和されるとありがたい。実車を運転するスキルが不要となれば、それだけでも経費削減に役立つだろう。

次いで大澤氏は規制等に関係する事項として次の五点を指摘するスピーチを行った。

  • 地方の自動運転に関するバス購入費の助成金、運用費に対する助成金が必要になる。2012年のEV向け充電スタンドの助成金規模およそ1000億円が求められる。
  • 信号情報を車両が取得できる環境を早急に整えて欲しい。
  • 実証実験としては専用道路、優先道路でない混在交通での推進が求められる。
  • 自動運転車に対するいたずら、迷惑行為に対する罰則強化などの法整備が必要になる。
  • 各省庁に跨る各種申請に関するワンストップ窓口の設置を求める。

助成金については、補助に頼るのではなくビジネスとして自立できる必要があるという意見、ユニバーサルサービス基金を創設して都会の利用者が負担する制度がよいという意見が会場から出た。
信号機との協調については、信号色の検出などは自動車業界全体として取り組むべきという意見と、青赤黄色で情報を伝えるのではなくデジタルで交通を制御する方向に自動車業界全体として取り組むべきという意見が出た。
申請窓口のワンストップ化については、電子申請全般の課題として解決すべきという意見が出た。