主催:情報通信政策フォーラム(ICPF)
日時:10月9日金曜日18時30分から20時30分
場所:ワイム貸会議室四谷三丁目 H会議室
東京メトロ四谷三丁目駅前、スーパー丸正4階
講師:大泰司 章(PPAP総研代表社員)
司会:山田 肇(ICPF)
冒頭、大泰司氏は次のように講演した。
- Password付きのzip暗号化ファイルを送信したのち、Passwordを送り、A(暗号化)したつもりになるP(プロトコル)、つまりPPAPが横行している。送信側にとっては手軽で、パスワードを自動で送らなければ誤送信を止められる。しかし、実態はパスワードは自動送信されている。受信者にはパスワードを探す手間がかかり、効率が悪い。受信側のマルウェアフィルタをすり抜けるという問題もある。PPAPを代替する方法の一つが電子契約サービスである。
- 契約書類にハンコを押す代わりに秘密鍵の電子署名を付加し、印影付きの書面を電子署名付きの電子ファイルで代替する。必要に応じて、印鑑証明書のように電子証明書を得ることができるのが、電子契約である。
- 電子契約のメリットはビジネスのスピードアップ(契約書の袋とじから始まる事務作業が不要になるなど)、コストが削減される(収入印紙が不要になるなど)、コンプライアンスの向上(本社で全ての契約を見ることができるようになるなど)、リモートワークが可能になるの四つである。一度使うとメリットがわかり、見積書から請求書まで取引の全プロセスに導入されることが多い。
- 電子署名の根拠が電子署名法や電子帳簿保存法である。2000年代から整備が進んできた。高額の印紙代が不要になるからと建設業界から普及し、2013年ごろにはクラウドサービスが始まった。この年を「電子契約元年」と呼んでいる。そして、2020年に新型感染症の蔓延でハンコ出社問題が起きた。
- 電子契約には当事者が自分の端末で電子署名を付加する「当事者ローカル電子署名方式」、クラウドに預けた電子署名を利用する「当事者クラウド電子署名方式」と、クラウドサービス提供者が立会人になる「立会人電子署名方式」がある。最も普及していたのが「当事者クラウド電子署名方式」だが、「当事者ローカル電子署名方式」と「立会人電子署名方式」しか存在しないような報道をメディアが続けたため、現場が混乱した。なお、政府は三つの方式のどれもが有効という見解を表明している。
- しかし、いくら電子署名を付けても、本人が署名したことが担保されないと意味はない。電子契約サービスも基準に沿ってきちんとマネジメントしていないと信頼できない。そこで、JIPDECでは電子契約サービスを審査する仕組みを提供している。
- 異なる組織間で、取引のためのメッセージを、通信回線を介して標準的な規約を用いて、コンピュータ間で交換する電子データ交換(Electronic Data Interchange)が古くから利用されてきた。セットメーカと部品メーカとの間の定型的な取引などにEDIが利用されているが、大企業中心のBtoBが主体である。一方で、電子契約は非定型的な取引や、中小企業の取引、BtoCに利用できる。
- 部品メーカは取引先のセットメーカそれぞれのためにかつてはEDI端末の用意、今はそれぞれのEDIへの対応といった負担がかかっている。統一も進んでいない。また、多くのEDIの通信回線として利用されてきたISDNは2024年にサービスを終了する。
- インボイスの電子化も問題になっている。紙で発行されたインボイスをスキャンして保存するには、税務署長の承認が必要である。一方、電子発行すれば、電子帳簿保存法に沿って保存しても有効だし、印刷して保存しても有効である。インボイス問題も発行側の電子化で前に進む可能性がある。
- 電子契約サービスをクラウド事業者が提供しているが、EDIと同様に、取引先ごとに違うクラウドサービスが利用されていると、個々に対応する面倒がかかる。これを回避するために、データ連携などが今後開発されていくだろう。
- 電子契約サービスといっても、利用開始時点でメールアドレスの成りすましが許される、また電子契約サービス自身がなりすまされるといった、いい加減なサービスには注意が必要である。サービスの質の管理には課題が残る。
- 電子契約もEDIもすべてが統合されるTrusted Transaction eXchange(TTX)が今後発展していくだろう。
講演の後で次のような議論があった。
(法人における本人確認等)契約書には「××株式会社××支店支店長 ×山太郎」といった名前が記載される。この意味では契約書には個人名が書かれる。そこで、クラウド事業者が電子契約サービスを提供する時には、法人についての真正性の確認とともに、在籍証明書の提出を求めて社員であるか確認するようにしているものもある。
(電子契約のメリット)紙の契約書は視覚障害者に読み取れない。電子契約でテキストデータが抽出できれば読み上げすることで視覚障害者も理解できる。紙よりも電子のほうが障害者等の利用に適している。
(立会人電子署名方式)公証人役場のようにヒトが契約に立ち会うという意味ではない。クラウド事業者が契約書に電子署名を付加するという意味である。クラウド事業者は契約の中身は見ない。これは通信の秘密(通信事業者は通信の中身は見ない)に似た考え方である。最近は、事業者署名型とか、指図型と言われるようになってきている。
(官公庁の利用)官公庁が電子契約をするかどうかはトップの決断次第である。一方、電子申請にはマイナンバーカードを用いて公的個人認証が付加される場合がある。公的個人認証の情報を元に官公庁は申請者の本人確認ができる。この仕組みは電子契約に類似している。
(シヤチハタの電子契約サービス)シヤチハタのサービスでは契約書に印影が表示される。これまでは印影の裏に電子署名が付加されているものも多かったが、今後は印影と電子署名を分離し、もっと分かりやすい表示の仕方を目指している。