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ZOOMセミナー「自治体SDGsモデル事業 全世代健康都市圏創造事業(郡山市の地域健康経営)」 品川萬里郡山市長ほか

開催日時:11月2日火曜日午後7時から最大1時間30分
開催方法:ZOOMセミナー
参加定員:100名
講演者:郡山市・品川萬里市長、保健福祉部保健所健康政策課・渡邉研也主任主査
司会:山田 肇(ICPF理事長)

冒頭、品川市長は次のように講演した。講演資料はこちらにあります。

  • 郡山市の全世代健康都市圏創造事業は、政府による地方自治振興の政策ターゲットとして開始されたSDGs未来都市・自治体SDGsモデル事業に、2019年度に採択された。
  • 郡山市の0歳から18歳までの人口は、年齢が低いほど少ない。18年間の間に1000人減った。9歳の子ども(2011年の原発事故の後に生まれた子ども)は、トレンドよりもいっそう少なくなっている。このように減少傾向にある子供たちに、誰一人取り残すことなく成人式を迎えさせることが、市長として最大の使命と考えている。
  • 「最小律の原則」からも、一番弱いところにある青少年が元気に育つということが、日本を活性化させる。また、これはSDGsが掲げる誰一人取り残さない社会の形成にも合致するものである。
  • 若い世代に焦点をあてつつ、全世代の健康増進を中心に据えてモデル事業を推進することにした。人生を送るために必死に働く(Life for Work)のではなく、人生を楽しむために働く(Work for Life)のためにも健康が大切である。
  • モデル事業の成否の鍵はDX(デジタルトランスフォーメーション)にある。スマートフォンを活用しての健康増進の仕組みを作っていきたい。

続いて、渡邉氏が講演した。講演資料はこちらにあります。

  • 1994年に郡山市に採用されて以来、多様な業務を経験し、2012年からは保健所で働いている。経験の中でそれぞれの業務範囲を越えた連携やデジタルの活用はむずかしいと感じてきた。
  • 今は自治体SDGsモデル事業という壁を突破する活動に取り組んでいる。郡山市は中核市として2007年に保健所が設置され、医療・保健の専門家が地域のために力を合わせる態勢ができた。モデル事業の取り組みは他の自治体でも実施できないわけではないが、保健所がある郡山市ならではの取り組みになっている。
  • 医療・介護情報等を多角的に分析し、科学的根拠に基づく施策や事業等を実施するのが、全世代健康都市圏創造事業である。地域住民の健康寿命の延伸と健康格差の解消を掲げ、また兼ねてより実施してきたセーフコミュニティ事業と連携して、「全ての世代が健康で生きいきと暮らせるまち」を目指している。セーフコミュニティ事業は、原因を分析して事故やけがを防ごうとしているので、根拠に基づく施策の推進を掲げるモデル事業との整合性は高い。
  • 国民健康保険加入者の健診結果を蓄積し健康増進を働きかけても、その方が75歳になると後期高齢者医療制度に移り、過去のデータは参照できなくなってしまう。この例のように分断されてきた健康とそれに関わるデータを一体として扱うようにして、全住民を対象に健康増進運動や介護予防運動を展開する。それが、全世代健康都市圏創造事業のコンセプトである。
  • モデル事業ではおよそ30種類のデータを活用したが、中心は10年分の健康診査受診情報である。そのほか、レセプト情報なども組み合わせて分析した。その結果、郡山市の疾病状況や介護への移行状況なども明らかになりつつある。今後の施策に活用するとともに、オープンデータとして公開する予定である。
  • 初期の分析結果をいくつか例示する。まず、特定健診の受診回数が多い人ほど、医療費は少ないという傾向が明らかになった。多くの自治体のデータヘルスでも同様の結果が得られつつあるが、10年間という長期にわたって傾向を見い出したのは、郡山市がおそらく初めてである。しかし、なぜ医療費が低いのかという理由については、今後、詳細な分析が必要である。
  • 健康診査の受診回数が多い集団ほど要介護(支援)認定率は低下する傾向がみられることもわかってきた。まだ理由は明らかではないし、健康診査に行けるほど元気だから要介護認定率が低いという解釈もできるので、これについても、さらに詳細な分析が必要である。また、要介護認定なしの約1割が4年後には要介護(支援)認定に、また要介護3以下の認定を受けている者の5割に介護度の進行がみられることも明らかになってきている。進行の要因が今後明らかになれば、根拠に基づいた予防施策が実施できるだろう。
  • 骨折など「損傷、中毒、その他」に大分類される疾病の医療費が郡山市は全国平均の半分程度であるという分析結果が得られている。「循環器系の疾病」では、入院と入院外の医療費バランスが全国平均と違っていた。全国平均では入院医療費が入院外医療費の約二倍だが、郡山市ではほぼ同額である。入院外で治療を終了できる人が多いからなのか、それとも入院する前に死亡することが多いからなのかなど、これも今後の分析が必要である。
  • 「今後分析が必要である」と繰り返してきたが、市の職員だけでは、保健所に専門職がいても限りがある。根拠に基づく施策を推進していくために、福島県立医科大学との共同研究を実施することになった。(1) SDGsの推進に関すること、(2) 健康(保健)、医療、福祉等の充実及び向上に関すること、(3) セーフコミュニティの推進に関することについて連携を実施する。(2)項で実施される医療・介護・福祉・健康等の共同研究では、郡山市は研究テーマに匿名化したデータを提供し、また研究フィールドも提供する。福島県立医科大学は研究内容を郡山市にフィードバックして、施策・事業に提言を行うようになっている。
  • 福島県立医科大学とは、育児困難解消事業や「通いの場」事業に関わる共同研究を健康増進研究の一環として実施する。そのほか、重症化予防研究、介護予防研究も進めている。
  • そのほか、郡山市は多くの民間企業と健康関連協定を締結している。それによって、民間の知恵もお借りして、全世代健康都市圏を創造していきたい。

講演後、以下のような質疑があった。

郡山市の健康事業全般について
Q(質問):2011年の原発事故から10年たったが、郡山市の健康施策にどのように影響を与えてきたのか。
A(回答):2011年以降に死亡者数が増えた。また、9歳児だけでなく、出生数自体が減少傾向にある。それを逆転させるよりも先に、生まれた子ども全員が無事に成人に達する施策に重点を置いてきた。全世代健康都市圏事業もその一環である。
Q:病気になった後は医療費でカバーされるが、病気になる前の健康増進には将来の医療費を削減する効果が期待される。健康増進運動は自治体が自前で実施しなければならないが、市長に考え方を聞きたい。
A:確かに重要と思うが、効果がどうあったかが明らかにならないと施策として強化できない。例えば、スマートフォンに運動記録や健康記録も収納して、それも分析できるようにする必要があると考えている。
Q:健康増進の取り組みと成果について教えて欲しい。
A:健康増進や介護予防の事業がどのような効果を生んでいるかは、まさに本事業の研究対象である。今まではそのような分析がなかったので、効果分析を全世代健康都市圏事業で行っていきたい。
Q:特定健診では、治療中の人には健康指導を行わないが、実は治療中に保健師が健康指導を行うのが大切である。このような取り組みを郡山市は行っているのか。
A:まずは健康診査を受けてもらう必要がある。そのために、昨年度、健康診査を受けなかった人へのアンケート調査を実施し、健康診査に市民が積極的に行く環境を作ろうとしている。

全世代健康都市圏について
Q:この事業は郡山市だけを視点に置くのではなく、郡山連携中枢都市圏を対象にしているが、周辺都市のデータも組み入れていくのか。また、周辺都市と健康施策についてどのように連携して、発展させていくつもりなのか。
A:中核市になった効用は保健所を設置できたことである。保健所は公衆衛生の要である。保健所を通じて周辺16市町村の健康データを把握できるようになっているので、今後、組み入れていきたい。また、周辺市町村の患者が救急車で郡山市の病院に運ばれてきている。真に救急に対応が必要な人が、救急車を利用できるようにするためにも、都市圏内の連携は重要である。
Q:医療情報データをどう活用し、どう第三者提供するかには悩みがある。根拠に基づく施策のために重要なデータ利用について、聞かせて欲しい。
A:「相当な理由があり、かつ本人の権利利益を不当に侵害するものではない」に相当するので、郡山市民から取得した、郡山市が所管しているデータを郡山市は分析できる。しかし、他の機関と連携しようとすると、個人情報保護の壁が高くなる。例えば、救急搬送された方について消防署が持つ情報と、郡山市が持つその方の治療情報の連携もむずかしい。国レベルで、今後、改善をしていくように期待している。
一方で、完全に連携できなくても、サンプルで抽出して分析できる場合がある。因果関係が明らかにならなくても、相関関係(トレンド)を知ることもできる。法改正を待つだけではなく、できることは進めていくべきである。
Q:市長は18歳までの子どもたちに焦点をあてて講演されたが、この世代は幼児期にも小中学校に通う時期にも様々な健康診断を受けている。そこから、何か注目すべき分析結果が出てきているか。
A:分析結果は後日報告したい。5歳児健診については、その後の特別支援学級への進学等にもつながるので、注目しているところである。
Q:要介護認定を受けた人が循環器系の患者である場合に、なぜなったのかを調べたところ、「体調がよい」と勝手に判断して薬を止めていた人が多かったという傾向が出ている。郡山市でも同様の結果はあるのか。
A:まだ分析には至っていない。ただ、糖尿病患者が自己判断で服薬を控える点については、民間企業と共同研究を実施しているところである。

ZOOMセミナー「自治体システムの標準化とガバメントクラウド」 三木浩平総務省デジタル統括アドバイザー

開催日時:10月7日木曜日午後7時から最大1時間30分
開催方法:ZOOMセミナー
参加定員:100名
講演者:三木浩平氏(総務省デジタル統括アドバイザー)
司会:山田 肇(ICPF理事長)

三木氏の講演資料はこちらにあります。

三木氏は資料に沿って概略次のように説明した。なお、冒頭、三木氏は「講演資料は関連する政府の資料を収集整理した資料集であるが、考察と表記されたページには私見も書かれている」と注意を促した。

  • デジタル庁が発足した。省庁横断的な役割を担う、これまで同様の機能を担っていた内閣官房IT室よりも強い権限を持つ。これまでシステム導入は自治体の裁量に委ねてきたが、今後は仕様書の標準化が図られるとともに、設置環境もガバメントクラウドに集約される。
  • デジタル庁の組織の中で、デジタル社会共通機能グループはデジタル社会を実現するハイエンドの民間人材プールであって、その中に地方業務関係と共にクラウド、ネットワーク、セキュリティなどのチームが組み込まれた。
  • 自治体システムの標準化は「地方公共団体情報システムの標準化に関する法律」に沿って進められる。第8条は「地方公共団体情報システムは、標準化基準に適合するものでなければならない。」と義務規定になっている。所管大臣は、その所管する標準化対象事務について地方公共団体情報システムの標準化のため必要な基準を定めなければならない。また、セキュリティ等の複数のシステムに共通する基準は、デジタル庁で定める。
  • クラウド・コンピューティング・サービスも法律に規定されている。「国による環境の整備に関する措置の状況を踏まえつつ、当該環境においてクラウド・コンピューティング・サービス関連技術を活用して地方公共団体情報システムを利用するよう努めるものとする。」という記載であるが、全団体で取り組むべく予算措置等含めて推進が図られている。
  • 自治体システムの標準化にはいくつかの手法がある。全国クラウド型は、全国共通のシステムを自治体がオンライン利用するもので、マイナポータルが実例である。個別団体仕様の全国共有DB連携というのは、全国共通DBに自治体から標準データ形式で情報連携するもので、中間サーバを利用するマイナンバーのシステムが該当する。それらに加えて、標準仕様ソフト・ガバメントクラウドが今後推進される。
  • 住民情報系システム(住民基本台帳、選挙人名簿など17業務)について標準仕様書を作ろうとしている。介護保険、障害者福祉などの第一グループについては、すでに標準仕様書が発出された。第二グループとして、選挙人名簿管理、国民年金等について標準仕様書を作成中で、2022年度が期限。第一、第二グループとも、2025年までには標準仕様書を採用したシステムに移行する計画である。
  • 自治体システム等標準化検討会が組織され、自治体職員等参加して標準仕様書について議論している。ソフトウェア事業者も参加しているのが特徴で、参加した事業者が提供している業務パッケージの市場シェアを合計すると8割程度になる。
  • 標準仕様書には業務要件、業務フロー、機能要件(画面要件、帳票要件、データ要件、連携要件等)が書かれる。ひとつのイメージとしては、パッケージソフトをカスタマイズせず使うようなもの。ただし、標準仕様書ではIPAが作った標準文字基盤を使うように決めている。
  • 利用者は、マイナポータル等を通じてワンストップサービスが利用できるようになる。例えば、転出入はマイナポータルで手続きすれば、転出時の窓口訪問なくなったり、転入の予約もできる。
  • データ要件・連携要件が、自治体の業務システム間や他の行政機関等との横断的なものであることから、デジタル庁で検討が進んでいる。地域情報プラットフォーム標準仕様に定義されている他業務ユニットとのデータ受信・データ送信を拡充する方針である。
  • ガバメントクラウドの方向性は、デジタルガバメント閣僚会議配下の「マイナンバー制度及び国と地方のデジタル基盤抜本改善ワーキンググループ」で打ち出された。国・地方がともに活用できる複数のクラウドサービスの利用環境であるガバメントクラウドの仕組みの整備が予定されている。
  • ガバメントクラウドは、政府の情報システムについて、共通的な基盤・機能を提供する複数のクラウドサービス(IaaS、PaaS、SaaS)の利用環境である。アプリケーション開発事業者は、標準仕様に準拠して開発した基幹業務等のアプリケーションをガバメントクラウド上に構築する。複数の事業者がガバメントクラウドに基幹業務等のアプリケーションを構築するので、自治体はそれらの中から選択して、オンラインで利用する。仕様書は一つだが、アプリケーションは各社から提供されるので、そこに競争が起きるしくみになっている。
  • ガバメントクラウドに搭載する基幹業務システムは、各府省において標準仕様書を作成することとされている事務に係る業務システムを指す。具体的には、先に説明した、住民情報関係の17業務である。また、基幹業務と密接に連携する業務システム(例えば住民登録に付属する印鑑登録)については、ガバメントクラウドに構築することができることとしている。
  • 国は、クラウドサービス提供事業者との契約により、共通的な基盤・機能を整備する。自治体は「アプリケーション開発事業者」と利用契約を結べば、独自にサーバ等を調達することやクラウドサービス提供事業者との契約を結ばなくても、希望するガバメントクラウド上のアプリケーションを利用することができるようになる。なお、アプリケーション開発事業者はクラウドサービス提供事業者と民民で契約する方向。
  • すべての自治体向けに常態的にクラウドリソースを大規模に維持するのではなく、繁忙期と閑散期でリソースを柔軟にコントロールすることが望まれる。
  • ガバメントクラウドのセキュリティは、クラウドサービス事業者が提供する複数のサービスモデルを組み合わせて相互に接続する予定であり、政府情報システムのためのセキュリティ評価制度(ISMAP)のリストに登録されたクラウドサービスを選定・調達する予定である。
  • 10月4日に、ガバメントクラウド環境の実証事業に関する調達を開始した。自治体による先行事業に向けてクラウドサービスを提供する。なお、回線についてはまだ方針についてアナウンスしていない。
  • 自治体による移行のための費用については、J-LISに1500億円の基金を造成し、そこから補助するようにした。
  • 自治体が当面取り組むのは、システム標準化に関してカスタマイズ部分を特定したり、データの棚卸をしたりすることである。標準仕様書ではデータについても標準的なルールが採用されるので、標準的なルールに基づかないデータ(外字、団体独自の情報項目)がないか、まずは調査していただく。ガバメントクラウド対応では、データクレンジングが必要になる。不整合の発生しているデータ(特に各システムのユーザ番号・宛名番号や個人番号との紐づけ)はデータクレンジングする。運用環境の違いも確認していただく必要がある。
  • セキュリティガイドラインは見直すことになるだろう。「三層の対策」の効果や課題、新たな時代の要請を踏まえ、効率性・利便性を向上させた新たな自治体情報セキュリティ対策を検討する。

講演後、以下のポイントについて議論があった。

自治体システムの標準化について
質問(Q):標準化による国民のサービス向上として、転出入のワンストップ化のほかに何か検討しているのか。
回答(A):ライフタイム手続き(子どもの誕生、親の死亡など)のワンストップサービスを考えている。子育て系や介護系についてオンライン申請できるようにする(「ピッタリサービス)と呼んでいる)予定である。
Q:標準システムに移行するために、自治体が大きな負担を強いられることはないのか。
A:標準化する際の外字の整理などは各自治体で対応せざるを得ない。それは、外字での登録を自治体が行ってきたからである。一方、その先でガバメントクラウドを利用するようになれば標準化された形式でデータを吐き出すことができるので、他社の業務アプリケーションへの乗り換えも容易になる。
Q:標準システムへの移行に心配する声が自治体から聞こえてくるが、対策は考えているのか。
A:心配の声が聞こえてくる団体は、既に検討が進んでいる、考えている団体といえる。こういう作業が出てくるだろうと想定できるから心配が募る。心配の声を出しているのは主に政令市などで、独自のスクラッチやカスタマイズされたパッケージで動かしてきた経緯がある。一方でこれらの団体は、技術力も含めて対応するための人的資源は十分ある。
8割くらいの自治体は、まだ検討が始まっていない。国や県、ベンダーからから示されるのを待っている。説明会を重ねて認識を深めていただいている。そのうちの何割かは、統合パッケージを利用していたり、自治体クラウドを使っていたりするので、幾分難易度が低くなる。最も問題なのは、小さなベンダーがパッケージを独自で作っていた場合で、これを機に市場から撤退する可能性がある。

ガバメントクラウドについて
Q:ガバメントクラウド上の業務アプリケーションについて、提供する事業者は何について競争するのか。行政職員の利用のしやすさ(ユーザビリティ)か。
A:ユーザビリティも競争要素だが、オプション機能、例えばコンビニ交付に対応する、総合窓口に対応するといったことで競争できる。住民記録に関わるすべての機能について標準化されているわけではないので、それらの機能で特徴をアピールできる。
Q:標準仕様に則った業務アプリケーションであるということは第三者が検査するのか。
A:準拠の度合いの確認は必要ということは認識されている。どう進めるかは、全く議論されていない。システムを標準に準拠させること(SHIFT)と、ガバメントクラウドに載せること(LIFT)の順番は定まっていない。もし、SHIFTしていないものがたくさんLIFTされるようになったら、ガバメントクラウドに大きな負荷がかかる。それゆえ、標準に準拠していないアプリケーションは速やかにSHIFTするようにという指示が今後出る可能性がある。
Q:クラウドサービス提供事業者はISMAPに準拠するというが、アプリケーションを提供する事業者は準拠しなくてもよいのか。
A:ガバメントクラウドは国が直接契約するものであるので、ISMAPに準拠を求めるのは妥当である。業務アプリケーションは国が直接契約するものではない。
Q:ガバメントクラウドは、巨大な、たった一つのものなのか。
A:マルチクラウドという考え方はあるが、きちんとは定義されていない。国が調達する環境自体がマルチベンダーになっている可能性もある。また、標準仕様に沿うことが大切だというのであれば、単独クラウドもマルチクラウドのひとつとして受容するという考え方もある。この点は、今後も議論していくことになるのではないか。

ZOOMセミナー「データヘルスの今後を俯瞰する」 山本隆一医療情報システム開発センター理事長

開催日時:8月30日月曜日午後7時から最大1時間30分
開催方法:ZOOMセミナー
講演者:山本隆一氏(医療情報システム開発センター理事長)
司会:山田 肇(ICPF理事長)

山本氏の資料はこちらにあります

冒頭、山本氏は次のように講演した。

  • 医療分野でのIT活用には長い歴史がある。1950年代にはレセプト(診療報酬請求明細)の処理が始まった。1か月分のレセプトをまとめて保険者に請求するために医療機関は夜なべでの作業を強いられていたが、これを計算機で処理するものだった。医療機関の負担が軽減されるのでレセプト処理は急速に普及した。
  • 1970年代には医療費が不足するという問題が起きた。医療本体にかかる費用を減らすわけにはいかなので、事務処理の合理化のためにITを活用しようとなった。その一例がオーダリングシステムである。例えば、発生源(診察室やナースステーション)で検査依頼を入力すると院内ネットワークで検査担当に伝わるようになり、オーダを伝達する事務は合理化された。
  • その後、2005年ごろからはIT化のフルーツを取る重要性が強調されるようになった。電子カルテが生まれ、また、データを蓄積して分析するという考え方も出てきた。後者が「高齢者の医療の確保に関する法律」に基づくレセプト情報・特定健診情報等データベース(NDB)の構築(2009年)である。NDBにデータが蓄積されるにつれ成功例が生まれ、厚生労働省も自信を持ってデータ活用を打ち出すようになった。
  • NDBは法律に基づくものだが、研究開発のための第三者利用は例外扱いだった。2018年に法律改正され、研究開発利用が法律に書き込まれた。データヘルスは、NDBなどの実績を基に推進されるようになってきたのである。
  • NDBは保健局による保健者の業務改善事業だったが、介護総合データベース(LIFE)も誕生し、多様なデータベースを連結して保健医療データプラットフォームをつくることになった。保健医療データプラットフォームは予防施策の効果検証や医療・介護トータルの利用状況分析に役立つ。多様なデータからエビデンスを見つけて施策推進に役立てるというデータヘルスは今や厚生労働省全省の課題である。医療保険制度の適正かつ効率的な運営を図るために健康保険法等 が一括して改正された。
  • データヘルスをさらに推進するために、2018年ごろから改革案が検討された。そこで打ち出されたのが、医療情報を本人や全国の医療機関等で確認・利活用できる仕組みの構築、電子処方箋の実施、個人健康記録(PHR:Personal Health Records)の活用であり、それらの基盤としての、オンライン資格確認システムの構築であった。
  • 医療と介護のデータを結合しようにも、国民一人ひとりに付与されている番号が二つのデータベースで異なる。氏名のフリガナなどを頼りに結合しても間違いが起きることはわかっていたが、医療介護連携の効果を検証するマクロなデータ解析程度なら構わないという判断して、先行的に実施した。しかし、がん登録データとの結合などになると、間違いは許されない。そこで、医療等に用いる番号について検討が開始された。
  • 被保険者番号の個人番号化を進める動機付けとして、オンライン資格確認システムが検討された。マイナンバーと紐付けして保険者が医療番号を発行する。医療機関や薬局で保険証やマイナンバーカードを提示すれば、オンラインで即時に資格確認ができるという仕組みで、試行段階にある。
  • 法令で定めることで本人の同意を不要とする、医療番号を用いてのデータベースの結合は、臨床効果などのビッグデータ解析を可能にする。ただし、何でも、だれでも結合できるというわけではない。データの収集根拠・利用目的などが法律明確にされ、講ずべき安全管理措置等が個別に検討され確保され、さらに、データベースの第三者提供は当該提供スキームが法律に規定され、提供先に係る照合禁止規定など、必要な措置が設けられているものであるといった条件が付いている。
  • 人々はライフステージによって、お薬手帳、生活習慣病手帳、母子健康手帳などを用い、それぞれが異なる番号で管理されている。また、わが国には正確の異なる医療機関が多く存在し、国民はこれらの医療機関を使い分けている。その結果、個々人の医療情報が分散してしまっている。これらを統合しようと地域医療連携が試みられているが、カバーしている人口は少ない。そこで、医療等専用ネットワークを用いて医療情報を全国で確認できるようにしようということになった。
  • 医療等専用ネットワークを用いて医療情報を本人や全国の医療機関等で確認・利活用できる仕組みは、コロナ禍で重要性が増している。自宅療養の方などの医療情報が確認できれば機動的な対応が可能になる。
  • 処方箋は患者と医療の接点として重要だが、患者は複数の医療機関を用い、複数の薬局で処方してもらうのが現状であり、電子化は簡単ではない。それを改善しようと、電子処方箋も検討の俎上にある。
  • PHRも実現する。個々人はマイナポータルを通じて主に健康診断データを入手し、それを利用して医療機関に相談したり、健康増進に取り組むということができる。地域医療連携が実現していない地域に住む人々も、PHRを用いれば的確に医療サービスを受けられるようになる。
  • ただし、データの蓄積が少ない間はPHRを利用しても効果は出ない。患者も利用しようという気持ちにならない。だからこそ、できる限り早くスタートする必要がある。
  • データヘルスの先には、様々なセンサからの情報を取得して、PHRと連携させて生活習慣の改善を図るといった、Society 5.0の世界が展望される。

講演後、以下のような質疑があった。

現状に関する質疑
Q(質問):歯科でのレセプトの電子化が遅れているという情報が講演資料に掲載されていたが、高齢者の健康増進などには歯科の情報は重要ではないか。
A(回答):講演資料は古いデータだが、今は90%を超えている。歯科のレセプトには、診療自体以外の様々な記録が掲載されており、歯科を含めての医療情報の連携は重要である。
Q:医療等専用ネットワークの実証事業という話があったが、実証で終わっているのか。
A:実証事業の成果を基に現実的に使われはじめた。実証事業は役立った。
Q:地域医療連携の人口カバー率が低いのはなぜか。
A:都道府県で差がある。患者の同意のもとで実験として行っているので、地域で共有する価値を患者が理解できないと参加しない。説明に時間がかかり、医療機関にも患者にも負担になっている。今、政府は全国で医療情報を取得できる仕組みを構築しようとしているが、それでは説明も同意も手続きが簡略化される。
Q:コロナは医療連携にどのように影響を与えたのか。
A:コロナのデータもNDBに入ってきているので、分析が進んでいる。一方で患者の医療情報を利用して対応することはできていない。平時にシステムを作らなければ有事に急に利用することはできない。地域医療連携が入っている地域では、患者のスクリーニングに利用しているそうで、平時から利用しておくことが大切である。

今後の発展に関する質疑
Q:生活習慣を改善するなどには過去のデータが必要である。どのように過去データを遡及して収集するのか。
A:過去に訴求できるのは2008年以降の特定健診だけである。また、保険者には5年間の記録保存義務があるので、それも利用できる。だからこそ、早く開始するべきということを繰り返し唱えてきた。
Q:医療では世帯が重要な場合もあるが、この情報はどのように扱うのか。
A:もともと無理がある。夫婦が異なる会社に勤め、異なる保険者に加入している場合がある。診療の際に家族歴を聞き取ることしかできないし、データベース化されていない。母子健康手帳は電子化されマイナポータルに載せる予定で、その際には母子の関係はわかるが、父子は無理である。
Q:電子処方箋の実現が遅れているのはなぜか。
A:処方箋をどこにもっていっても構わないので、医療機関と薬局の組み合わせは数えきれない。厚生労働省は初期的な、簡略化したシステムの調達をかけたが、それでも応札する企業が出なかった。オンライン診療と電子処方箋とは組み合わせて推進する必要がある。急がなくてはいけない分野である。
Q:処方箋であるが用法・用量の標準化が出来ていない。問題ではないか。
A:用法については標準マスターが出来たばかりである。これから使われるようになる。ただし、医療機関でのシステム更改は五年程度ごとなので、標準マスターの利用はまだ広がっておらず、ばらばらなシステムを使っているので、薬局側に迷惑をかけていると言わざるを得ない。
Q:薬剤師としては病名や検査データもあれば、患者への指導が充実するのだが。
A:その通りで、医療機関から薬局への情報伝達も充実させる必要があると、前から唱えてきている。

医療と介護の連携に関する質疑
Q:医療と介護の連携は重要だが、介護サービスを受けるまでの介護予防がいっそう重要ではないか。医療と介護それぞれのデータだけでなく、その周辺にある生活情報も組み合わせるべきではないか。
A:介護予防は重要で、健康診断データなどを利用して健康増進を図るべきである。早く進めたほうがよい。また、生活情報も組み合わせるのは大切で、今後は運動データ等も行政が利用するというのがSociety 5.0の姿であろう。

法的課題に関する質疑
Q:マイナンバーと紐づいた情報は特定個人情報に相当するので本人が同意してもデータ連携できないと個人番号法では解釈できるが、どのように対応しているのか。
A:保険者ごとに医療番号を付与しており、保険者が変われば番号が変わるので、ある時点では個人番号と1対1に対応するが、いわゆる引き当て番号で、特定個人情報としては扱っていない。

ZOOMセミナー「医療DXに求められる規制改革」 落合孝文弁護士

開催日時:7月21日水曜日午後7時から8時30分
開催方法:ZOOMセミナー
講演者:落合孝文氏(渥美坂井法律事務所・外国法共同事業パートナー弁護士)
司会:山田 肇(ICPF理事長)

冒頭、落合氏は資料「医療情報利用の基盤整備について」を用いて次のように講演した。落合氏の資料はこちらにあります

  • 医療・健康情報は効率的・効果的な医療・健康サービスを個人が享受するために利用されるが、本人のための情報利用、医療・健康産業における研究開発、政府・自治体のエビデンスに基づいた政策形成という三つの視点を持つ必要がある。
  • 2020年に内閣官房から「諸外国の医療情報基盤制度」の委託調査を受けた。その結果について紹介する。フィンランドでは社会保険庁(KELA)が中心的な役割を担い、「My KanTa」を通じて患者データリポジトリや電子処方サービス内に格納されている自身に関する電子健康記録(EHR)を閲覧でき、また、リビングウィルや臓器提供の意思表示等も記録できるようになっている。また「FinData」によって、匿名データが研究開発等に二次活用できる。そのために、社会保険ケアサービスにおけるクライアント・データの電子処理に関する法律、電子処方箋に関する法律、バイオバンク法などを整備してきた。
  • 英国では、保険社会福祉省(NHS)のデジタル関連の組織が「spine」というシステムを用意しているが、EHRはかかりつけ医(GP)が保有するもののうち必要な部分が、spineを通じて情報連携できる仕組みになっている。二次データについても利活用できるようになっている。人口も日本の半分と、フィンランドよりも日本に近いので基盤整備の参考になるだろう。台湾では介護が社会保険に組み入れられており、この点が日本に近い。それによって医療と介護の情報連携が図られるようになっている。
  • わが国では、患者が自らの医療情報を閲覧、利用する機会が十分に確保されていない。欧州各国はGDPRで規定されるデータポータビリティのみならず、他の医療関連法規において医療情報に関する患者の権限が定められていることがある。一方で、わが国は医療機関間の連携により実施がしやすい枠組みであり、諸外国より情報が豊富とも思われるものとして、検診情報を個人健康記録(PHR)として抽出し利用できるようにしようと動きだした。本年には「民間PHR事業者による健診等情報の取扱いに関する基本的指針」が取りまとめられ、民間事業者がマイナポータルを通じてPHRを収集できるというようになった。なお、個人情報保護法改正で開示請求権のデジタル化も規定されており、医療分野ではないが個人の情報アクセスの権限は強化されつつある。
  • 同意の問題も解決する必要がある。患者が高度な判断をするのはむずかしいということで、医療情報基本法の素案作成過程では、外部機関による審査制度も検討されている。一方で、情報銀行に関するわかりやすい同意取得と個人のコントローラビリティ向上を目指した仕組みも参考になるだろう。
  • 民間事業者によるPHRサービスでは、事業者間でデータを移行できるポータビリティなども焦点の一つで、今後も議論が必要である。銀行業では、フィンテックのため、APIを公開してデータ連携が130以上の銀行が行うに至った。同様にPHRサービスでもAPI公開は一案であるものの、ポータビリティを実現するにはダウンロードなど他にもいくつもの方式があり、現実的な方法による実現に向けて検討を進めるべきである。
  • ヘルスケア領域では、同意なしで個人情報・データを利用することによって、大きな公共的価値を生み出すことができる場合がある。世界経済フォーラムでは、Authorized Public Purpose Access(社会的合意に基づく公益目的のデータアクセス)の提案も行われている。
  • 近時の政策では、同意を基調として本人のコントローラビリティを高める方向で情報利用のスキームを整備しており、これを踏まえたルールを整備する必要がある。同時に、コロナ対策における感染症法や救急医療の場合の情報連携についてはすでに運用をされる場合があるが、同意なく情報利活用を行える範囲が不明確で躊躇が生じており明確化が必要になっている。位置情報、ゲノム情報等について、公的機関等の利用やその条件を明確化することも考えられる。
  • 医療情報システムについては、網羅的に公の特定のデータベースに集約する、特定の事業者が集約するというモデルではなく、基本的には個人の同意等の適切なガバナンス・連携の枠組みを整備し、情報利用をできるようにすることが重要である。また、医療、介護、健康に関する情報利活用の全体について司令塔となる組織が必要であり、デジタル庁の内部ないし政府内の本部組織等の整備が必要と考える。

次に、落合氏は資料「オンライン診療の規制改革について」を用いて次のように講演した。落合氏の資料はこちらにあります

  • オンライン診療については、医師法の規定そのものではなく、医師法の解釈が問題である。その他、医療法や薬機法、さらには健康保険法が定める診療報酬制度が壁になっている。
  • 厚生労働省による医師法の解釈で、1997年の初期の通知以降しばらくはオンライン診療は離島へき地等に限定されていると解釈されていたが、離島へき地等は例示に過ぎない2015年に解釈の明確化がされ、2020年には、コロナ禍もあって、本格化に動き出した。解釈変更で動くため、医師法に関する法改正は必要ないという領域である。
  • オンライン診療指針では、医薬品の不適切な処方の防止に関する定めがされている。また、「オンライン診療は、文字、写真及び録画動画のみのやりとりで完結してはならない。」と定められている。患者が医療の提供を受ける場所は居宅等に限定されるが、患者の勤務する職場等も居宅等に該当することが明確化された。セキュリティについては無理のない規定となっている。
  • 診療報酬制度では、オンライン診療料が2018年に規定された。2020年には、情報通信機器を用いた診療を一層促進する方向に改正されている。オンライン服薬指導についても、2019年薬機法改正でテレビ電話等を用いて実施できることになった。
  • 処方箋は、2016年に電子的に作成・保存できるようになっている。しかし、紙媒体による引換証を必要とするなど中途半端で2019年に見直しされたが、HPKIの利用要件等で現実的に利用が進んでいない。2023年から電子処方箋の整備がさらに実施される予定であるがまだまだ課題がある。
  • コロナ禍でオンライン診療についての旧来のルールに見直しがかかった。2020年2月には慢性疾患患者に対する電話等による処方が認められ、そのほかにも特例措置が定められた。特例に沿って診療が実施されているが、ネットよりも電話の利用が多いなど、まだ、問題は残っている。オンライン服薬指導も2020年の資料では全体の5%前後に止まっている。
  • 今後の改善の方向は次のとおりである。オンライン診療の普及を妨げる低い診療報酬を改める必要がある。対象を一部の疾患に限定してきたが、特例措置で拡大しており、これを恒久化するのがよい。過去の受診がある場合や、検診情報等を医師が確認できる場合には、初診からオンライン診療を認める方向で議論がされている。

講演の後、以下のような質疑があった。

医療情報連携の促進について
Q(質問):EHRもPHRも医療記録がデジタル化されているのが前提だが、わが国では診療所への電子カルテの普及率が著しく低い。これを改善しないと、EHRやPHRは絵に描いた餅に終わるのではないか。
A(回答):一元的に集めるのか、それとも、対応できる一部が取り組めばよいのかという議論がある。講演で言及した民間のPHR事業者というのは、医療機関との連携がなくても収集できる情報から始めようという発想である。ただ、コロナ禍で保健所のシステムなどもバラバラで連携できないという問題が露呈した。そもそもデータ連携が必要という認識がなかったから、データ連携自体が行いやすいシステム設計や、それの基になる標準化に取り組んで来なかった。これは改善すべきポイントである。
Q:欧州には個人情報保護の厳格な基準としてGDPRがあるのに、医療データの連携が進んできたのはなぜか。
A:GDPRはデータの保護を求めるが、データを使うなということではない。フィンランドなどでは政府に対する国民の信頼があり、医療データ連携についての抵抗感は少ないし、データ連携によって政策目的が達成されるということが国民に理解されている。また、医療データ連携について、不適切に個人情報を利用しないような法制度やガバナンスの仕組みを一つひとつ設けているという点も理解する必要がある。
Q:個人情報の保護よりも生命の保護が優先されるべきである。それが理解できれば、公益目的のデータアクセスも許容されるようになる。欧州は、生命の保護が優先されるという点について理解が進んでいるのではないか。
A:その通りであるが、情報を利用できるというだけでは不十分で、ガバナンス、つまりきちんと利用できる範囲を法律に定めることや、一定の規律に基づく組織、システムの運用がなされ、これらが監督されることも同時に求められる。
Q:クラウド利用によって医療データ連携が進むと考えるが、法律上の制限はあるのか。
A:できるが、保守的に、情報はローカルに留めようと考える人も多いので、それを聞いた方はクラウド利用ができないと考える等の誤解が生じることもある。また、公立病院等の場合は個人情報保護条例にオンライン結合の禁止規定があると、クラウド利用が困難となる。個人情報保護法制の2000個問題が阻害要因になっている例であるが、2021年度に個人情報保護法改正により阻害を少なくするために措置がされている。
Q:個人情報は存命の人の情報を保護するものだが、亡くなった方のPHRを研究等に使うことはできるのか。
A:個人情報保護法製においては、基本的には使用できる。しかし、死者の情報も個人情報と規定している個人情報保護条例が一部に存在する。また、情報提供を行う病院側において患者の生死等がわからない場合もあると考えられ、そうすると追加での確認や同意を経ずに医療情報を匿名化してビッグデータとして解析できるようにするほうが研究としては現実的ではないかと思われる。

オンライン診療の可能性について
Q:自宅で介護を受ける寝たきりの高齢者はオンライン診療の潜在顧客だが、自ら機器(例えば、血圧計や脈拍計)を操作できないし、意思も表明できないという問題がある。家族がオンライン診療に参加して機器を操作したり、意思表示を代理したりできるのか。法律上の制限はないのか。
A:厚生労働省でオンライン診療について議論する場には在宅介護に関わる看護師等の医療従事者も参加しているので、この点についてもオンライン診療のガイドラインで配慮されている。オンライン診療に第三者が同席して代諾するのは、通常の対面診療でも同様の状況はあり得るので、認めないというルールにはなっていない。しかし、医療機器操作などの医療行為を無資格の人やコメディカルが無制限にできるということではない。
Q:そもそも、遠隔医療に消極的な人が多いのはなぜか。合理的な根拠があるのか。
A:オンライン診療が急に広まるのは問題だという立場が前提になっている場合があったと感じている。無資格者による診療というように悪用されるという意見もあるが、よく考えれば、対面診療でも同じ事態が生じているはずなので、合理性がないと考えられる。今のままの方が仕事がやりやすいというのが反対者の本音ではないか。