開催日時:2月22日月曜日午後5時30分から1時間程度
開催方法:ZOOMウェビナー
参加定員:100名
セミナーの内容:
濱村 進公明党衆議院議員「公明党のデジタル政策」(20分)
関根千佳同志社大学大学院客員教授「誰一人取り残さない行政DX」(20分)
登壇者による討論・ウェビナー参加者からの質問等(20分)
冒頭、濱村氏は次のように講演した。
- 衆議院議員になる前には野村総研でシステム開発をしていた。その経験もあり、公明党ではデジタル政策に関与している。
- 接触通知アプリCOCOAの不具合が問題になっている。COCOAは、保健所が濃厚接触者を調査する(積極的疫学調査)から外れた、他の人々に感染の可能性を連絡する補助ツールである。COCOAはCode for Japanが手掛けたものを政府が引き取り利用したものであり、オープンソースを政府が活用した先行事例である。COCOAの不具合を「人の命がかかっている」と批判するよりも、不具合は直せばよいので、政府システム開発に新しい在り方を示すものとして前向きに評価したい。
- デジタル庁には様々な期待があるが、まずは「国民がデジタルの恩恵を実感する」ことを実現するようにすべきだ。そのためには、国民が日常利用する地方公共団体のシステム標準化には大きなインパクトがあると考えている。
- 公明党は昨年11月13日に政府に提言を提出している。そこで強調したのは「豊かな国民生活と誰一人取り残さない社会の実現」であり、そのためにはユニバーサルデザインが前提として盛り込まれているのが重要と考えている。
- あらゆる方々にとって使いやすいことが大切である。大半の方々がデジタルの恩恵を実感できるようになれば、その先で個別に対応するというのも可能になっていく。デジタルの恩恵を授かれない人にもいろんな方がいる。使い方がわからない。障害などが理由で使えない。デジタル環境がない。これらの方々に対応していく必要があるが、今の使いにくいシステムを使うように押し付けるのは適切ではない。また、代理申請の活用もあるのではないか。また、そもそも申請するよりもプッシュ型の行政サービス提供もあり得る。これらを突き詰めていくことで「誰一人取り残さない社会」が実現すると考えている。
- プッシュ型行政サービスのアーキテクチャとして、マイナンバーとベースレジストリは必須である。このアーキテクチャが社会的に認められるためには、政府への信頼が必要不可欠である。そのためにも行政データへの適切なアクセスコントロールが重要である。
- 行政のデジタル・トランスフォーメーション(DX)も重要だが、経済社会全体のDXはもっと重要である。民間のDXに注力するためにも、日本が保有するデジタルリソースを民間の経済成長に投資しなければいけない。だからこそ、行政DXは猶予がないということだ。経済社会全体のDXはトップラインの拡大をもたらすものでなければならない。守りのIT投資から、攻めのIT投資に切り換えるべきである。
次に関根氏が資料を用いて次のように講演した。関根氏の資料はこちらにあります。
- 1993年に日本IBMでSNS(Special Needs System)センターを開設し、障害者・高齢者のICT利用を推進する仕事を始めた。1998年に株式会社ユーディット(UDIT)を創業したが、この会社は障害者、育児・介護中、高齢者など、全員がテレワークで、ICT、Webサイト、家電、オフィスなどをUD視点で評価し、改善を提案する企業である。
- ユニバーサルデザイン(UD)とは、年令、性別、能力、体格などに関わらず、より多くの人ができるだけ使えるよう、最初から考慮して、まち、もの、情報、サービスなどを作るという考え方と、それを作り出すプロセス(過程)のことである。バリアフリー(障壁除去)でなく、設計時から多様な市民の利用を前提としている。すでに、多くの企業や地方公共団体で基本理念になっている。
- ユニバーサルデザインの二大要素はアクセシビリティ(Accessibility)とユーザビリティ(Usability)である。アクセシビリティ、すなわち「使えるかどうか」では、障害や年齢、環境に関わらずその情報に接近できるか、目的へ到達できるかを評価する。ユーザビリティ、すなわち「使いやすいかどうか」では、ストレスなく目的が達成できるかの有効性、効率、満足度を評価する。
- 別府市に「おくやみコーナー」がある。親族が亡くなったときの手続にワンストップサービスで対応する。氏名等を職員が入力すると、関連する部門のデータや書類に一気に反映される。市民満足度90%以上で、職員のワークロードも改善し、政府も全国展開を支援している。これは、アクセシビリティとユーザビリティに優れた、市民目線のDXの良い例である。
- 各国ではICTのUDは大前提である。米国にはリハビリテーション法508条があり、ICT機器、ソフトウェア、Webサイト、アプリなどはアクセシブルなものしか公的調達できないし、違反すると担当者が提訴される。ADA(障害のあるアメリカ人法)と合わせて、企業に対する訴訟が頻発している。欧州にはEAA(European Accessibility Act、2019年)があり、EU各国に508条と同様の国内法整備を義務化する。SDGsの考え方では、環境と人間に良くないものは罪であり、「誰も残していかない」が基本ルールである。
- 日本にも技術基準は存在する。しかし、電子政府・自治体は使いにくい。国民目線で作られていないし、国民の声も届かない。「電子政府ユーザビリティ指針」も2014年に廃止されている。行政にもSI企業にもUDの専門家がいない。
- このような折に、「デジタル社会の実現に向けた改革の基本方針」を政府が閣議決定した。「国民の幸福な生活の実現:「人に優しいデジタル化」のため徹底した国民目線でユーザーの体験価値を創出」「誰一人取り残さない」デジタル社会の実現:アクセシビリティの確保、格差の是正、国民への丁寧な説明」と書かれている。
- 実際にはどうすればいいのか。システムのアーキテクチャを整備する必要がある。総務省提唱の「都市OS」で共通化することも解決策の一つではないか。マイナンバーをすべてのシステムの基礎にすべきであるし、ユニバーサルデザインを義務化しなければならない。
- 建築や公共交通では法律でUDを規定している。ICTのUDも法律で規定すべきである。
- DXは多様な市民の存在を前提として推進すべきである。技術の進化で、誰もが使える状況が近づいている。ノルウェーでは特別養護老人ホームでネット銀行講座を開いている。これもネット銀行が誰もが使えるようになっているからだ。世界最高齢国家日本のDXはUDを前提にすべきである。使えること、使いやすいことは「きほんのき」である。ユーザーによる評価を義務化し、BPRや業務改善とセットでデジタル変革を進めよう。
- 最後にデジタル庁に何を望むか。第一は、電子政府・自治体は「サービス産業」であるという意識を、明確に持つことである。アクセシビリティの確保、ユーザビリティの向上は義務と心得よ。第二に、高齢者の存在を、DXが進められないという免罪符にしないことだ。最初からシニアも使えるUDなDXをめざせば、誰にとっても使いやすくなる。また市民のITリテラシーを教育で底上げする、地域に使い方を教える場を増やす、このような施策も並行して進めてほしい。
二つの講演の後、参加者からの質問も含め、以下のような討論があった。
行政サービスのユニバーサルデザインについて
「行政はサービス産業である」という点で登壇者は一致した。濱村氏は、政府調達はUDが原則であり、デジタル庁を作る際にはUI/UXの専門部署を設置すべきであるという意見を表明した。
今はデジタル庁に障害のあるエンジニアを雇用するというような具体的なフェーズではないが、法案が通った後は、障害のあるエンジニアを雇用するのも進めるべきだというのが、濱村氏の意見であった。関根氏も、他国では当事者参加は当たり前のことであり、進めるべきとの意見であった。
高齢者に対する教育について
教育が必要なシステムよりも、教わらなく使えるシステムが求められるという点に登壇者は合意した。ヒトが自然な形で使えるのがUDである。その上で、濱村氏は「とはいっても、最初の入り口については、行政窓口で教える必要があるのではないか。」と発言した。
プッシュ型の行政サービスについて
マイナンバーをすべての行政で利用し、プッシュ型の行政サービスにするかということについて、住基ネットについて最高裁が一元的に管理することができる主体は存在しない、と判決したのが影響している。マイナンバーにも適用されるというのが今の解釈である。
マイナンバーに対する国民の漠然とした不安を解消するように努め、情報にはアクセスコントロールされているということなども、単にマイナンバーを使うと利便が向上するというだけではなく、説明するべきというのが、濱村氏の意見であった。
DXによる経済発展について
欧米のアクセシビリティ規制は日本企業にとっては非関税障壁であり、ユニバーサルデザインのDXは競争力の強化に役立つと、関根氏は説明した。また、障害者が自立するのも、経済が発展するのに役立つ。
濱村氏は、国内企業が生き残れる程度の規模を日本市場が有していたのが日本企業の海外進出の遅れにつながったとしたうえで、誰一人取り残さず、豊かさが実感できる社会を目指すべきとして、デジタルでできることを経営者が理解しトップラインの拡大のため「攻めのIT投資」をお願いしたいと発言して、セミナーをまとめた。