主催:センシングIoTデータコンソーシアム
日時:2025年3月26日(水曜)15:00~18:00
開催方法:会場参加(大手町3×3 Lab Future)オンライン配信
来賓としてベトナム大使館ミン参事官(科学技術室長)と日本経済団体連合会・近藤秀怜上席主幹を迎え、114名(会場57名、ネット57名)を集めた記念セミナーでは、以下のような講演と議論が行われた。本報告の文責は山田肇にある。
冒頭、「日本型標準加速化モデルについて:Rule-taker から Rule-maker へ」と題して、経済産業省国際電気標準課・小太刀慶明課長が講演した。経済産業省は2023年6月に「日本型標準加速化モデル」を策定し、従来の品質確保を中心とした 「基盤的活動」のみでなく、 市場創出のために経営戦略と一体的に展開する「戦略的活動」の重要性を提示した。
企業が標準化の重要性についてより一層意識を高め、国際標準を利用する方向で企業間での連携を促進したり、自社の標準化活動を改善したりする。それによって、日本企業が国際的なルールを守るだけ(Rule-taker)の立場から、国際的なルール(国際標準)を他に先んじて作り(Rule-maker)、先行者利益を享受するに方向に移行していくのを支援していきたい。
次いで、今回出版された国際標準について「IEC 63430規格書発行と新たな標準化の取り組み(セキュアなセンサデータストアシステムの国際標準化)」と題した講演があった。講師は、標準化を担当したIEC TC100 / TA18の国際議長・田中宏和氏(広島市立大学教授)であった。IEC 63430は、多様なIoTセンサからのデータを送受信する際のフォーマットを決めている。このフォーマットが「コンテナフォーマット」であり、多様なセンサデータの流通性・可搬性を向上させる、標準化されたデータ構造仕様である。「コンテナフォーマット」を用いれば、複数ベンダからなるウェアラブルセンサのデータを,クラウドのIoTプラットフォームで収集するのが容易になる。
次の課題がセキュアなセンサデータストアシステム(SDS)の実現である。ユーザが自らの生体センサ等で取得したパーソナルデータを、スマホやタブレットなどのエッジコンピューティングデバイスでセキュアに保存・管理するシステムを構築しなければならない。この国際標準化に乗り出すべく準備を進めている。
センシングIoTデータコンソーシアム会長の山田肇氏(東洋大学名誉教授)が「ヘルステック市場の拡大と国際標準IEC 63430」と題して講演した。健康増進、疾病予防、疾病の早期診断、治療とフェーズは異なるが、生体情報を含む多様なデジタルデータが利用される点で、フィットネスアプリ、デジタルバイオマーカー、デジタルセラピューティクスには共通性がある。デジタル技術を活用するヘルステックは健康医療介護サービスの効果を高め、効率を上げ、革新をもたらす技術である。
フィットネスアプリ、デジタルバイオマーカー、デジタルセラピューティクス個々に、さらには提供する企業ごとに個々に、センサの接続・着脱について固有に設計する手間を減らすのが「センシングIoT国際標準IEC 63430」である。ヘルステックサービス企業は設計時間が大幅に短縮されスムーズな市場参入が可能に、センサ提供企業は多くのヘルステックサービス企業に製品を販売できる機会となる。わが国が主導した国際標準IEC 63430だからこそ、わが国企業にはRule-makerとしてのチャンスがあり、わが国企業がヘルステック市場で活躍するよう期待する。
最後の講演は「逆から考える介護とテクノロジー」。東京未来大学福祉保育専門学校・東京都立産業技術高等専門学校非常勤講師の小林宏気氏は、次のように講演した。
介護を受ける人が増える一方、提供する職員数が減っていく社会情勢では、デジタルによって提供する側の職員能力を向上して、より多くの両者にサービスが提供できる。介護の生産性向上と業務負担の軽減を同時に実現することを目指す。それが介護テックである。職員には、馴化(慣れ)というメカニズムがあるが、デジタルは馴化しないので、馴化を超えて人間に気づきを促すことができる。
団塊の世代以降は、人の世話になりたくないと考える傾向がある。また、2040年には単身高齢者世帯が896万に達すると予測されている。そのような人々に、スマートホームデバイスなどの技術が一般的に利用されるようになると想定されている。介護テックを用いて「お世話される」から「自分で生きる」に変わっていく。
介護テックの開発については、厚生労働省と経済産業省の共管で支援する仕組みが生まれている。効果が実証されれば、次期介護報酬改定で反映されていく。また、スマートホームデバイスとして利用者負担での普及も進んでいくだろう。
センシングIoTデータコンソーシアム事務局長・上杉 貴氏が、2025年コンソーシアム活動について案内して、セミナーは成功裏に終了した。