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協賛ワークショップ Digital for the wellbeing of people 山田肇高齢社会対応標準化国内委員会委員長ほか

共催:日本規格協会、センシングIoTデータコンソーシアム
協賛:情報通信政策フォーラム(ICPF)
日時: 12月11日(木曜日)14:30~17:25
場所:官民共創Hub(虎ノ門)

高齢者人口増加と若年層人口減少の同時進行は世界的傾向である。若年層に高齢者の世話を強いることは、経済社会の持続可能性を損なうため、解決策としてデジタル技術の活用が世界各地で進行しつつある。

国際標準化団体IECで高齢者等の自立生活支援技術の標準化が進められている。この活動に参加しているエキスパートが韓国から来日したのを契機に、ワークショップが開催された(日韓合わせて42名が参加)。

独居高齢者の生活をさりげなく支援する孫のような役割を果たすロボット「孝子」が韓国より紹介された。また、日本企業が開発したIoTセンシングとAIを組み合わせた疾病の予兆管理技術が、ブータンで市民の幸福度向上に利用されているとの報告もあった。これら実例も含めて、デジタル活用の可能性について有益な講演と活発な質疑が行われた。

山田肇氏による講演資料を掲載する。ワークショップの詳細な報告は日本規格協会から後日公表される。

セミナー「健康増進施策を定着させるために」 飯島勝矢東京大学高齢社会総合研究機構 機構長・教授

開催日時:2025年11月20日木曜日 午後7時から1時間程度
開催方法:ZOOMセミナー
参加定員:100名
講演者:飯島勝矢 東京大学高齢社会総合研究機構 機構長・教授
司会:山田 肇・ICPF理事長

飯島氏の講演資料はこちらにあります

冒頭、飯島氏は次のように講演した。

  • 今日は、健康長寿と幸福長寿の両立を目指す健康増進施策について講演する。
  • 2040年には65歳以上人口が8%を占めると予測され、社会保障やインフラの維持が困難になる恐れがある。これに対応するために、日本老年学会と日本老年医学会は、2017年に75歳以上を高齢者とする定義に再考しても良いのではないかという提言を行い、さらに最新エビデンスも蓄積したため、2024年には高齢者及び高齢社会をどのように見直していくのかという報告書をリリースした。一般国民が「自分はまさに高齢者に該当する」と感じている人の年齢分布からも、通常歩行速度の年齢分布(若返りの兆候)からも、65歳からを高齢者として扱うのには理解しにくい部分も存在すると示唆されるからだ。講演者は学会役員としてこの報告書作成に関与した。
  • また、内閣府から2024年に「高齢社会対策大綱」が閣議決定(2024年9月13日)され、その作成にも関わった。年齢に関わりなく希望に応じて活躍し続けられる経済社会の構築、一人暮らしの高齢者の増加等の環境変化に適切に対応し、多世代が共に安心して暮らせる社会の構築、加齢に伴う身体機能・認知機能の変化に対応したきめ細かな施策展開・社会システムの構築が基本的考え方である。この大綱作成にも講演者は関与し、健康福祉分野だけではなく、多面的な視点からのコメントを盛り込んだ。
  • 高齢者の健康づくりのためには、就業・所得、学習・社会参加、生活環境という多面的側面を充実させる必要があるというのが、大綱のポイントである。「健康のためには運動」といった狭い視野からの脱却を目指している。
  • 「フレイル」は加齢により体力や気力が弱まっている状態である。要介護の手前の時期だが、まだ戻せる可逆的な状態である。身体、心理・認知、社会という多面的要因によって負の連鎖が起きて、フレイルが進行する。フレイルから引き戻すには、それゆえ多面的側面から働きかける必要がある。このフレイル研究の成果が、高齢社会大綱に反映された。そして、フレイル予防は単に国民個人の問題だけではなく、地域づくりの観点からも重要であることを強調した。
  • フレイル予防をしっかりと進めるためには、「サルコペニア(筋肉減弱症)」に対する十分な知識必要とするため、フレイルと一緒に併せて啓発する必要性を唱えた。具体例として、大腿部の断面画像(CTスキャン)を比較してみると、健常者は筋肉量が多いが、フレイルの人は筋肉が減少するサルコペニアになっているとわかる。
  • ところが、今までの健康指導はメタボリック症候群を軸とした腹囲やBMIを重視しながら、メタボ対策として行ってきている傾向が高い。多くの高齢者への下肢の断面画像イメージをチェックしてみると、下記のような方々に遭遇する。例えば、しっかり筋肉はあるがBMIでやや肥満傾向(太り気味)と分類された人には、食事における多少のカロリー制限や運動習慣推奨の対策を指導する。一方で、重度のサルコペニアであるが、体格的にはBMIが正常であったため、「今の生活内容のままで良いですよ」と指導する。このような健康指導がズレてしまっているケースに遭遇する。
  • 日本人の大規模調査データ(日本の7つのコホート調査から: 日本人353,422人(男性162,092人、191,330人) 12年半の追跡)を見てみると、BMIが20台後半(具体的には25~28くらいまで)という「やや太り気味の人」の死亡リスクは高くないという事実が見いだされた。この事実に基づいて、中年層を主としたメタボ予防の基準を重視し、そのまま同基準を高齢期への健康指導の延長になっていることは大きなズレを生じてしまい、フレイル対策に関する指導内容のアップデートが必要であると主張しているわけだ。
  • 多面的な研究によって、「孤独」は肥満より健康に悪いという社会性の重要性がわかった。「社会的孤立」は29%、「孤独感」は26%、「一人暮らし」は32%、高齢者の死亡リスクを高める。
  • 閉じこもり傾向(外出1回/週未満)の高齢者の割合、家族や友人との付き合いがない高齢者の割合、体調が悪い時に身近な相談相手がいない高齢者の割合を92自治体で横断調査した。その結果、自治体間のばらつきは非常に大きかった(例えば、自治体間の差で3%~33%という大きな開きも認められた)。それゆえにこそ、高齢者と社会性を高める手法の導入には大きな可能性がある。
  • フレイル予防には「人とのつながり」が重要で、身体活動、文化活動、ボランティア地域活動を複数実施すれば、フレイルへのリスクが低減できる。また、運動習慣を持っていないが、生活活動に代表されるような非運動性活動を普段から地域でやっている方々も、フレイル予防につながることが示唆された。住民主体のフレイルサポーター活動は、生きがいを感じる地域貢献活動である。
  • 専門職主導ではなく、住民サポーター主体でフレイルサポーター活動は実施される。 この活動では、筋肉減弱(サルコペニア)も実測して「見える化」している。この活動は、サポーター自身のやりがい感、新たな生きがいにつながる。参加市民とサポーター両者の笑顔によって、フレイル予防の輪が拡がり、住民目線での啓発が進む。市民による市民のための「フレイルサポーター活動」であり、サポーターを指導するトレーナーや行政の担当部署は後方支援の役割を果たす。
  • すでに全国106自治体で実践されている。全国のフレイルサポーター、そしてトレーナー、行政が、全国で同じ気持ち同じ方向を向いて、地域を超えて仲間として活動している。サポーターは全国で同じ黄緑色のTシャツを着用し、各地の経験を語り合うネット会議を毎月開いており、全国サポーターの連帯感を高めている。
  • フレイル予防運動の結果、フレイルの認知度が高い地域に住む後期高齢者はフレイルの悪化リスクが低いといったエビデンスが明らかになり、成果が生まれてきている。

講演後、以下のような質疑があった。

質問(Q):外出が困難な高齢者宅に訪問するという形式のフレイルサポーター活動にも最近取り組むようになったという話があった。この10年間サポーター活動の普及を進める中で、どのような変化が生まれているか。
回答(A):訪問型の活動も現場から意見で湧き上がってきた。行政が協力し、行政のデータも見ながら、行政も同行して訪問活動を実施している。全国で実施されているフレイルサポーター活動は、開催場所も、その内容についても、それぞれの地域のサポーターが知恵を絞っている。住民が主体的に動いて、フレイルサポーター活動が地域に定着していくように、現場に委ねるのを基本としている。
Q:共通している部分(標準化している部分)はどこか。
A:フレイルという言葉を知ってもらい、フレイル予防の三本柱を実践するという点は共通してお願いしている。筋肉減弱を実測するだけではなく、エンタテイメント(笑顔)の要素を加える。筋肉減弱が進行している人がいたら問題を指摘するのではなく、「僕も気づく前は同じでしたよ」というように笑顔で話しかける。それによって仲間が増える。「仲間を増やしていく活動を実践しよう」という点は全国共通である。
Q:残り1600自治体に広めていくには、市町村が動く必要がある。しかし、様々な部門に関わるので説得が難しいとか、成果が出るまでに数年かかるので予算が組めないといった話を聞く。こんな逃げ口上はどうすれば突破できるのか。
A:106自治体で実践されているが、それと同じくらいの自治体とも話はしてきた。フレイルサポーター活動を実践するには、確かに多部門間の調整が必要だし、汗もかかなければならない。汗を覚悟できれば実践へと結びつく。一方、「従来の介護予防で何が悪いのか」という意見が強いと実践されない。
A:しかし、フレイルサポーター活動へ人々のニーズは強い。行政の存在がなくても住民が自ら実践するのを認めるという、いわば「第二フェーズ」の活動も、数自治体で始めている。
Q:住民がサポーターになるというが、彼らはどのようなモチベーションを持っているのか。行政はどのように働きかけているのか。
A:行政から謝金を出すのは禁止している。地域貢献をしたいという潜在意識を持っている住民の気持ちを掻き立てる、そんな働きかけがポイントである。他の活動に比べてサポーターの男性比率が高い。それは、参加したいと男性が思うようにデザインしてあるからだ。客観的な「測定」「記録」という行為も、リピータをチェックするという行為も、企業時代を思いださせるようにしている。
Q:BMI重視だけではなく、社会性を保つとうポイントについて高齢者は理解しているだろうか。テレビの健康番組も、インフルエンザ予防とか「癌にならない」とかばかりで、フレイル予防の番組はないが。
A:高齢者どころか、医療関係者にも伝わっていない恐れがある。BMIは中年層のための指標であり、高齢者に適用するのは問題があり、高齢者には物差しを変える必要がある。それを医療関係者に伝えるところから始めている。それに加えて人々にどうたどり着くか。メディアの役割を期待する。ぜひフレイル予防の番組を作ってほしい。

関連イベント「日本のバカげたデジタル化を憤る高齢者+未来の高齢者の会 第2回フォーラム」 森田 朗・次世代基盤政策研究所代表理事ほか

主催:日本のバカげたデジタル化を憤る高齢者+未来の高齢者の会
日時:11月22日金曜日 15時30分から18時15分
場所:GLOBAL LIFESCIENCE HUB 201大会議室(東京都中央区日本橋室町3-2-1 日本橋室町三井タワー7階)

イベントには45名と多くの関係者が参加し、森田 朗・次世代基盤政策研究所代表理事による「経験したことのない危機の時代 〜闇の世界に光を求めて〜」 と題する講演などが行われた。

榎並利博・行政システム株式会社行政システム総研顧問がイベント全体のまとめをJBPressに掲載された。まとめの要点は次のとおりである。

自分のデータを自分で確認・コントロールできる、行政・事業者がデータを使う際に市民が監視・説明を要求できる、データを活用して多様なサービスで市民に価値が還元される、そのような市民が主体となるデータ活用社会(データ民主主義)が真に豊かなデジタル社会である。
しかし、わが国では、新しい技術に対する国民の恐れを誤魔化すために複雑怪奇な制度や仕組みを作り上げてきた。迷路のような伏魔殿はやがて利権と化して隠蔽され、そこから国民の権利が排除され、それがまた恐怖を増幅するという忌まわしい連鎖が起きてきた。
今こそ、この「負の連鎖」を断ち切り、支配・被支配などの二元論を超えた人の関係性に基づく「新しい標準」を構築しなければならない。その鍵は一体どこにあるのか。われわれ国民一人一人が考えていかなくてはならない。

セミナー「違法・有害情報のSNSプロバイダ責任」 山本健人・北九州市立大学准教授

開催日時:2025年10月30日木曜日 午後7時から1時間程度
開催方法:ZOOMセミナー
講演者:山本健人・北九州市立大学准教授(総務省・デジタル空間における情報流通に係る制度ワーキンググループ構成員)
司会:山田 肇・ICPF理事長

山本氏の講演資料はこちらにあります

山本氏は次のように講演した。

  • 違法情報には名誉毀損などの他者の権利を侵害する「権利侵害情報」と、法令でその流通が違法とされている「その他違法情報」がある。一方、有害情報は違法情報ではないが、個人の生命・自由・財産ないし社会に有害な影響を与える情報である。ただし有害性を判断する一義的な規準はなく、広範な概念である。
  • 誤情報、偽情報、フェイクニュースは、違法情報か有害情報に分類できる。この講演では、それゆえ、違法情報・有害情報という表現を主に使う。
  • SNSの登場でメディア環境は変容した。ユーザー生成コンテンツ(UGC)と呼ばれる一般ユーザーが作成・発信する情報が増加したが、人間の認知的処理能力には限界があるため、SNS事業者が圧倒的な情報量を独自の基準で選別するようになっている。報道機関やメディア企業に所属する者によって作成・発信されるプロ性の高いコンテンツ(PGC)はSNSではUCGと並列的に表示される。収益の低下も相まって、PGCの生成基盤(伝統メディア)は弱体化している。
  • 供給される膨大な情報量に対し、私たちが払えるアテンションや時間は圧倒的に希少である。そこで、アテンションが交換財として経済的価値をもって取引されるようになった。SNS事業者は、先にも説明したように圧倒的な情報量を独自の基準で選別するが、より多くの広告収入を獲得するのは、刺激的で魅惑的なコンテンツである。その過程で、丹念な取材をもとに書かれた退屈な真実よりも、刺激的で魅惑的な偽情報/違法・有害情報のほうが経済的利益を生むようになっていった。
  • 変容するデジタル情報空間の諸問題への対処が必要であるが、決定打はなく多面的同時並行的な対策が求められている。その一つのアプローチとして、SNS事業者の媒介者責任のあり方について再考した。
  • 米国通信品位法の目的はインターネット上の「下品な」コンテンツの規制である。同法の230条はオンラインサービス事業者が自主的に、ポルノ、下品なジョーク、暴力的なストーリーなど、子どもたちを害するようなメッセージや画像をモデレートできる環境をつくるための条項である。それによって、真の政治的議論の多様性、文化的発展のユニークな機会、知的活動の多様な道筋を提供するフォーラムとなる可能性を持つインターネットの継続的な発展を促進することも同規定の目的である。
  • アメリカの通信法体系では媒介者について3類型がある。第一がコモン・キャリアで通信の秘密が適用され、自らが媒介する情報の内容を知ることはできないため、コンテンツの中身についての責任は負わない。次が頒布者で、情報の内容を知ることができるが、その内容を編集することができないものであり、情報の内容が違法であることを知っていたときのみ、その情報の流通に責任を負う。最後が発行者で、情報の内容を編集でき、情報の伝達について、原則として責任を負う。
  • 通信品位法230条は、双方向オンラインサービスプロバイダ(事業者)は発行者としての責任は負わないとした。そのうえで、憲法上保護されるか否かに関わりなく、わいせつ、みだら、好色、汚らわしい、過度に暴力的、ハラスメント的、またはその他の不快であると考える素材へのアクセスや利用可能性を制限する目的で、事業者が誠実に自主的に行った措置も免責されるとした。「インターネットをクリーンにする」パートナーとして事業者を位置付けようとしたものである。
  • しかし、裁判所の拡大解釈によって、広範な免責が認められていった。たとえば、違法なコンテンツの存在を知っていたにもかかわらず、当該コンテンツを削除しなかった場合にも免責される。事業者が、アプリケーション等により安全な機能を搭載するなどのサービス設計の変更をすべきであったのに、そうしなかった場合や、危険な商品の販売等の違法行為を助長している場合なども免責される。
  • SNS事業者のコンテンツ・モデレーションとは、以下のような行為である。コンテンツの削除、収益化の停止、真偽不明などのラベル付与、表示順位の低下、アカウント停止・終了、プロミネンス(特定情報の上位での表示)。また、厳密には異なるがいわゆるレコメンデーションも本講演では便宜的にコンテンツ・モデレーションに含める。Facebookが2022年第2四半期に914,500,000件のモデレーションを行うなど、膨大な量のモデレーションが実施されている。
  • このような状況を受け、共和党、民主党、一部学者が異なる立場から異なる見解に基づき、通信品位法230条の改革を主張している。
  • 例えばトランプ大統領は前任期の末期に、「オンライン検閲を禁ずる大統領令」(2020年5月28日)を発出し、限られた数の巨大SNS 事業者が、アメリカ人がインターネットで発信できる表現を恣意的に選別し、公共的な議論を形成する際に、人々が何を見て、何を見ないかをコントロールする強大な権力を有しているとの指摘をした。そして、通信品位法230 条が与える免責は、名誉毀損等の違法・有害なコンテンツを削除することを意図して与えられたものなので、巨大SNS 事業者が好まないコンテンツを検閲し、そのような意見を抑圧することを許すために与えられたものではないと主張した。加えて、SNS 事業者が、「誠実な」モデレーションを行っていない場合は、「発行者」として扱い免責しないとの規制を準備するように連邦通信委員会に命じた。
  • この指摘は、コンテンツ・モデレーションが恣意的になされているとの認識に基づき、中立なコンテンツ・モデレーションを実施すべきとの方向性だが、中立なコンテンツ・モデレーションは可能だろうか?  一部の党派的見解が不利に扱われないこと(中立性)やフェイクニュースや偽・誤情報、違法・有害な情報を蔓延させないこと(健全性)が期待されているが、容易にその該当性は判断できない。
  • 一つのラディカルだが、明確なアプローチはモデレーションを禁止することである。つまり、SNS事業者がモデレーションを行っている場合は免責を付与しないとする。230条廃止論やコモン・キャリア論の一部はこうした方向性と軌を一にするが、この提案は、SNS事業者のビジネスに大きな打撃を与え、ユーザーにとっても望ましくない結果となる可能性が高い。
  • そこで、モデレーションの結果ではなく、望ましいモデレーションに向けた意思と努力を免責の条件とすることを提案する。また、それを測る基準としてたとえば、次の三点を提案する。
    • 組織化:モデレーション慣行の改良を検討する常設の部局を設ける、関連するアクターとベストプラクティスなどの情報共有を行う、リスク評価や人権等への影響評価を行う
    • 透明化・説明責任:サービス設計・変更の平易な説明、定期的な透明性レポートの公表
    • 監査:アルゴリズムなどの監査(エラー率の改善傾向、ヴァルネラブルな集団を不利に扱う、あるいは偽・誤情報等を含む過激なコンテンツを過度にレコメンドするアルゴリズムを用いていないか)
  • 講演者としては、モデレーションのシステム設計の改良へ向けた介入はモデレーションの実態とも適合的であると考えている。一方で、事業者にどのような種類、どの程度の取り組みを求めるのか、誰が事業者の取り組みを免責に値すると評価するのか、評価の透明性をどのように確保するのかをより詰めて明確する必要があるといった課題もある。とはいえ、プラットフォーム規制の実効性確保を念頭に置いたとき、日本も免責条項の再設計について議論を深めるべきだ。

講演後、次のような質疑があった。

質問(Q):最後に説明された「誠実なモデレート」を評価する組織について質問したい。日本なら総務省、米国なら連邦通信委員会といった公的組織が評価すると政治的な疑念を生む恐れがある。すべてを裁判に委ねることはできないのか。
回答(A):政治的な疑念には同意するゆえ、政府による評価にも透明性が求められる。そのうえで、政府の評価についてさらに異議を申し立てたい人は、裁判に訴えればよい。
Q:テレビ放送におけるBPOのように、SNS事業者が作る民間組織に委ねるという可能性はあるのか。
A:UGCは途方もない量がある。一つ一つのコンテンツについて個別に解決していくのは限界がある。今回の提案はモデレーションのシステムの評価・改善を免責によって基礎づけようとするものであり、マクロな視点に基づいている。BPOのような仕組みをこのシステムに対する評価・提言を行う組織として設立し位置づけることはできるかもしれない。もっとも、個別のコンテンツの判断に関する深刻なエラーが発生する可能性は当然に残るので、こうしたミクロなケースへの対応は裁判的統制がまずは想起される。
Q:違法情報、有害情報と認知できる段階から削除するまでの時間で評価してはどうか。
A:権利侵害情報への対応義務については、情報流通プラットフォーム対処法で原則14日以内、その下の省令で7日以内という規定がある。こうしたタイムラインを定める方法は、その他違法情報、有害情報への対策を考えるにあたっても参考になる。この他、まずは速やかに削除する、その先でじっくり検討して復活させる場合もある、というような方法もあるかもしれない。
Q:AIとの関係を質問したい。今現在もモデレーションにAIを活用しているだろうが、技術進展でより精緻なモデレーションができるのではないか。
A:AIは活用しつつも最終的には人間が判断するプロセスを挟む場合もあるというのが現状である。この先に学習量が増えていけば、AIの精度は上がるだろう。その段階になれば、AIによるモデレーションの精度等を技術的に検証できる。つまり、精度も監査できるようになるので、誠実なモデレートの評価という仕組みに組み込めるだろう。
Q:先生は総務省の検討会に参加されているが、そこでもこのような議論が行われているのか。
A:総務省では免責の条件を再検討するという議論はされていない。ハードロー、あるいはソフトローとしてどのような方法が適切かを議論している。立法事実があり事業者の義務を明確に規定できる場合には立法化のハードルは高くないが、とくに有害情報の対策については法律で踏み込んだ規定をするのには限界がある。
Q:このコンテンツに対して、このようにモデレーションを実行しているなら免責であるという範囲を定めるのは難しい。SNS事業者が発行者と見なされるケースもあると思うが。
A:免責の範囲が定まらないと立法は難しいという指摘に同意する。もっとも、免責が特権であると整理できれば、特権付与の条件設定は直接義務を課すよりもハードルが下がるのではないかと考えている。SNS事業者は何をどんな順番で届けるかはコントロールしているが、コンテンツの内容にまで手を入れているわけではない。「発行者」とすべきかについてはもう少し慎重に考えたい。
Q:何とか類型化する努力を重ねないと、立法化にまで至るのは難しいだろう。
A:基本的には同意しているが、細かなラインを引くと、すぐに時代遅れになるという問題もある。このバランスをとることも課題である。