概要
先ごろ政府は「知的財産推進計画2007」を発表した。この計画の中でかなりのページが割かれている、著作権の扱いについて、知的財産戦略推進事務局の大塚さんに解説していただく。
デジタルコンテンツの流通促進、IPマルチキャスト放送へのコンテンツ流通の促進、違法複製されたコンテンツの個人による複製問題、ネット検索サービスに係る課題などについて、政府がどのような方針で臨もうとしているか、最新の情報をうかがう。
スピーカー:大塚祐也(内閣官房 知的財産戦略推進事務局 参事官補佐)
モデレーター:山田肇(ICPF事務局長・東洋大学教授)
日時:6月26日(火) 18:30~20:30
場所:東洋大学・白山校舎・5号館 5202教室
東京都文京区白山5-28-20
入場料:2000円
レポート
政府の知的財産戦略
講師:大塚祐也 知的財産戦略推進事務局
知的財産立国への歩み(資料P.3)
政府では毎年、知財戦略を5月から6月にかけてまとめて発表している。今日は最新の2007についての発表。
発端は小泉首相が国際競争力の柱として知的財産を据えることとなり、本部が政府の中に設置されたことによる。
最初の三年間を第一期とし、基本的な制度設計を行った。現在(2007年)は第二期の二年目にあたる。
知的財産戦略本部(資料P.4-6)
仕事としては計画の作成実施、関係省庁の総合調整を行っている。
知財戦略の推進体制(資料P.7,8)
専門調査会を二つ作り、そこで具体的な活動を行う。知的創造サイクル専門調査会と、コンテンツ専門調査会。これらからの報告書をとりまとめ、計画としてとりまとめる。今日の話は後者について。
知的財産戦略本部は各省庁に横断的に被さるように構成されている。各省庁の宿題を設定し、実行するのは各省庁、という構図。事務局は20数名で、各省庁からの出向と、民間からの数名の出向で構成。
実際の実権は各省庁にあるが、問題をあぶり出すために、問題意識を刺激することが仕事。形式主義や事なかれ主義ではやってはいけない。
これまでの主な成果(資料P.9)
4年間で30本の法律を成立させてきた。
知的財産推進計画2007の概要(資料P.11,12)
内閣府の中にイノベーション25という組織が設置されている。また内閣官房ではアジアゲートウェイ構想など、アジアの活力を取り入れ日本の魅力を発信する方法の検討も行われている。
どちらもコンテンツ、知的財産が強く絡むので、知財本部の動きと連携して動きをとりまとめる形となっている。
コンテンツ産業の現状と課題(資料P.14)
コンテンツ産業の規模は13.6兆円、自動車産業が20.8兆円。それらに比べてもひけはとっていない。
市場規模及び輸出入(資料P.15-17)
しかし、GDP比で見ると、米国におとり、世界平均にも至っていない。海外の売上高でみても、日本は極端に低い。映画を思い浮かべれば実感がわくと思う。
日本にはまだ潜在力があるのではないか?
(質問・コメント)アメリカを除けば日本は平均以上。コンテンツ産業強化などと政府が旗を振る必要はないのではないか。
制作現場の実態(資料P.18-19)
切り口が変わるが、テレビ現場の制作実態で見ると、大半が中小企業によるものとわかる。契約条件における問題などにより、アニメでは年間収入300万年未満の者も多く、厳しい状況の中で行われていることがわかる。
目指すべきコンテンツ大国のイメージ(資料P.22-24)
国民が多様な環境から時間と場所を気にせずに利用する(ユビキタス環境の実現)。自らも創作活動・参加を行う(双方向性、Web2.0等のインタラクティブ要素)。
もともと日本人は創作活動への参加が好きだと考える。カラオケなどは80年代から市場が立ち上がっているが年間8000億にのぼる売り上げ、音楽CD市場よりも大きい。
時代の流れも参加型、自己表現に価値を見いだす方へと移ってきているのではないか。
人材育成。3Dを作る数学の世界、理系の才能が必要となるが、そうした技術をつかってアートなものを作るにはそれとは別の才能が必要。海外へと出たり、日本へと入ったりして、日本に蓄積されていくことが肝心。
アーティストの村上 隆の『芸術企業論』を引用したい。そもそもなぜ海外で日本のアーティストが成功しないのか。それは、海外のルールを知らないから。日本のアーティストはルールを学ぶ姿勢が足りない、かつ、日本のアーティストはお金に対する欲望が足りない。
映画『リング』などのプロデューサーは契約の重要性についてといている。日本のヒット後、ドリームワークスにリメイク権を100万ドルで渡したところ、世界での売り上げが4億ドルとなったが、最初のリメイク権料以外、一銭も入らなかった。グローバルな市場においては、クリエーターやプロデューサーだけでは成功できないため、エンタメロイヤーを輩出する必要がある。
契約。日本のドラマの契約は主役と準主役クラスしか契約書を交わさないらしい。知の創造サイクルの観点では、創造したものがしっかりと保護されなくてはならない、保護されたものが活用されなくてはならない、それによって新たな創作、という流れが生み出されなくてはならず、これらが実現されるためには、契約書が重要。
(質問・コメント)報酬を支払うという行為をとるときに契約も締結するのを忘れないようにすれば、自然とこの問題は解決するはず。何で問題として指摘されているのか理解できない。
ビジネスチャンス。単に世界に進出するという発想だけでは駄目で、世界のものを受け入れて、進出する。経産省が力を入れている「ジャパン国際コンテンツフェスティバル」はアニメ、映画などさまざまな行事を一時期に行うことで、別のイベントへの誘引をはかっている。
いろいろなお金が流れ込むための仕組み作りの重要性。それらの仕組み作り上で、クリエーターに適正な報酬がおちることを重点に。
海賊版の撲滅。海賊版はいくら売れてもクリエーターに還元されない、防止措置を提言する。
教育。創造性をはぐくむ、基本的なモラルの向上の為の、早期の段階からの教育が必要。
成長の阻害要因(資料P.25)
阻害要因は様々。(1)産業界の海外戦略の欠如。ゲーム業界だけが輸出超過、他は海外戦略が欠如している、特に放送。放送は国内向けで充分商売になっているので、海外を見るインセンティブに欠ける。放送は二次利用が前提となっていない。だが、金額ベースでコンテンツ市場に類する7割はテレビ業界がらみ。お金や才能がつぎ込まれているが、この分野が「使い切り」な点はもったいない。
(2)時代の変化に対応できない制度と業界慣行。契約が出来ていない問題、本当の意味での創作者に還元されていないのではないか。
(3)将来に目を向け、新しい産業や収益源を見つける視点の欠如。iPodや(違法なやりとりを除外した、共有サービスとしての)YouTube等の仕組みは日本では出てきにくい。
(質問・コメント)知的財産推進計画は産業振興策だが、アメリカと比べると一周遅れにしか見えない。そんな計画は無駄ではないのか。
推進計画2007の重点項目(資料P.27-31)
推進計画2007の目的は、数多くの障害を取り除くこと。第四章はすべてコンテンツ周りの話となっている。
デジタルコンテンツの流通。二年以内に法制度を整備。新聞などでかなり報道がされているが、実際には、内容についてはこれから詰めていくところで、具体的なことは決まっていない。登録制度をキーワードに、権利内容、権利の窓口を作り、流通を促進する。登録するだけだと足りないので様々な効果をつける。たとえば、任意の登録(報酬請求権)、非親告罪化、監視組織の設立などの「アメと鞭」がアイデアとしてあがっているが、提案者ごとに微妙に意見は分かれる。登録についてみても、仕組みのアイデアに幅がある。契約だと現実に立ち上がらないので、税金などの優遇などの措置も検討。すべて検討段階であることに留意してほしい。
(質問・コメント)文藝家協会やJASRACの意見で突然方針が後退したのではないか。(講師は)それは事実ではないと否定。
(質問・コメント)新しいコンテンツ流通のしくみが出来上がるたびに著作権法に条項を付け加えるのが、そもそもの欠陥。デジタル時代の著作権を一から考えるべき。(講師は)デジタルコンテンツの流通法にはそのような意図がある。流通の条件を自ら宣言できるようにするのが特徴である。
違法サイトからのダウンロードに関して、現在は私的複製で違法にはならないが、私的複製の範囲を見直す必要性があるか検討。これは批判が殺到した項目で、たとえば、違法サイトが本当に違法かどうか、わかりにくい事が指摘されている。コンテンツの利用を萎縮させてしまう、という危惧から、表現の自由の侵害、検閲になる、等数多くの批判がある。方向性としては、刑事罰については科さず、民事救済におちていく可能性は高い。
権利者不明のコンテンツの利用。アーカイブなど、権利者が見つからない場合の死蔵コンテンツの問題が発生する。権利者が分からないケースにしても数多くあり、俳優の居場所がわからない、ドキュメンタリの場合、出演者が誰か分からない、など、権利処理が行えない問題。具体的なアイデアとしては67条の「相当な努力」の軽減。しかし67条は著作者であり隣接権者については規定されていない。国際条約との関係で難しいが検討する。米国ではオーファンワークスアクトのアイデア(米では廃案になった)。著作権者の不明な場合のコンテンツの利用として、三倍額賠償、侵害は民間救済で、差し止め請求を行えないようにする、等が提案された。文化庁で今後検討予定。ただ、文化庁の範囲を超える「肖像権」について検討の余地を残す。アイデアとしては第三者機関を作って民間努力で改善する方法。
IPマルチキャスト(P.28の図参照)。知財推進計画2006での中心、昨年秋の法改正で同時再送信に限って許容。IPマルチキャストは放送と通信の中間的要素をもち、ルーターから複数のアドレスに送信する仕組みで、インターネット上に複数の同じ情報が流れている状態であり、端末からのリクエストに最も近い場所から送信されるため、自動公衆送信と比べ常にサーバからデータが流れ続けていることが特徴である。これが有線放送であるか、自動公衆送信になるのかが問題、という点が発端。有線放送と自動公衆送信となった場合では、権利処理が異なってくる。レコード制作者等にとっては報酬請求権か許諾権かが最も大きな差異。
IPマルチキャスト事業者にしてみればP.30については自主放送については一番左、再送信については一番右としてほしい。法改正では、同時再送信に関しては、一案右の扱いとした。ただし、一番右の権利なし、はあまりではないか、ということで、これは報酬請求権を与える形として、CATV、IPマルチキャスト業者にも負担を求める。IPマルチキャストは自動公衆送信権の許諾権を制限する形。
もう一つの大きな問題は自主放送について。IPマルチキャスト業者自らが制作し放送する場合の権利処理は自動公衆送信権という位置づけになっている。権利処理コストでハンディを負ったままであるのは問題ではないか。
(質問・コメント)国会テレビは平然と過去のコンテンツを自動公衆送信している。国会が違法行為をしている状況。国会が問題なのではなく、著作権法がおかしいのだ。
ネット検索サービスの問題。多くのサービスは世界中のサイトをクロールし、最適化してストレージサーバーに保存している。アメリカではフェアユースによる除外規定でセーフとされている。一方日本の著作権法では除外規定は私的複製や引用の様に、厳格に限定列挙で規定している。よって、現在の法律ではNG。
Google日本法人、Yahoo JAPANについても海外にサーバを置いている現状。遮断された場合のリスク、一社による情報のコントロールのリスク。Google八分(グローバルな八分、中国の検閲などローカル八分)は問題。
(質問・コメント)これは事実誤認。日本人による国外犯として摘発可能。しかし、それが行われないのは、著作権法のほうがおかしい(現実に対応できていない)からだ。