開催日時:2024年3月5日火曜日 午後7時から1時間程度
開催方法:ZOOMセミナー
講演者:小木曽稔・株式会社政策渉外ドゥタンク・クロスボーダー代表取締役
司会(山田肇理事長)が次のように挨拶してセミナーがスタートした。
- OECDの電子政府ランキングでわが国は33か国中31位と評価された。デジタル化について決意が乏しく、細切れの対応に終始しているのが悪い評価の原因だった。ライドシェアも同様。古い制度を残して細切れの対応をしているように見える。どうしたら、すっきりとライドシェアが導入できるのだろう。今日は小木曽氏に講演いただく。
小木曽氏は概略次のように講演した。
- ライドシェアの定義は、たくさんあるが、一般ドライバーが自家用車を利用して提供するサービスであって、容易に有償運行が可能で、変動運賃を利用できるものとしているのが規制改革推進会議の中間答申。その定義によれば、OECD加盟38か国中25か国(スペイン、フランス、ドイツ、オランダ、フィンランド、アメリカ、イギリス等)ですでに実現している。
- 道路運送法78条によって、有償で事業を行う場合、自家用車の使用は禁止されている。ただし、78条には例外規定が三つある。第一は災害時、第二は非営利団体が運行主体となるもの、第三は公共の福祉のためにやむを得ない事情がある場合である。
- 昨年末にこの問題について政府の方針が決定した。方針の4本柱は①タクシーの規制緩和、②道路運送法78条2号(非営利団体による運行)の制度改善、③道路運送法78条3号(公共の福祉のための運行)による新制度、④ライドシェア新法の議論である。
- 現時点では、78条2号の制度改善と、78条3号による新制度の内容の確定作業が進んでいる。一方、ライドシェア新法については、6月まで規制改革推進会議で議論予定である。
- 78条2号については、交通空白に時間の概念も入れ夜間に非営利団体がサービスを提供できるようにする、一定程度ダイナミックプライシングを導入するなどの改善が図られる。
- 78条2号については、石川県加賀市、小松市などですでにサービスが開始し、自治体ライドシェア研究会の会員数は108自治体に達している。
- 78条3号については、供給が需要に追い付かないときにタクシー会社によって運行できるようにしよう、というのが国土交通省の考え方である。しかし、供給も需要も、タクシー配車アプリでのデータが一定程度あるものの全体として実は誰も測定できていない。これが問題である。ドライバーについて、国土交通省やタクシー業界は雇用契約を考えている。
- 78条3号については、4月からの開始を見込んでタクシー会社が乗務員の募集を始めている。都内の業界団体はすでにガイドラインを作成し、公表している。公共の福祉のためにタクシーが不足する時間帯(平日朝7時から10時、金曜日の16時から20時など)を指定して実施する考えである。ドライバーとはパートとして雇用契約を結ぼうとしている。
- 神奈川県はまずは78条2号によって実証実験を開始し、その様子も踏まえ、本格的には78条3号に期待しているようだ。営利事業の一環として78条3号で対応できるなら非営利の2号の必要性はなくてもいいのではないかとも考えられるが、ここには官と民の役割分担の揺れも感じられる。大阪府は78条3号をタクシー会社以外にも委ねようというのが提案であったが、万博対応のためどうするかは未知数。
- ライドシェア新法について、まずは必要性と相当性を考える必要がある。必要性はドライバー不足など明らかだが、相当性、特に安全の確保についてはきちんと新法で規定する必要がある。規制改革推進会議は、昨年12月26日の答申の中で、安全対策のための規制の導入を打ち出した。
- 地域交通問題については、人口減少等を踏まえ、平成19年に地域交通法を制定し、また平成25年には交通政策基本法を制定した。国交省は、ラストワンマイル問題を議論するため、昨年2月から議論を開始し、5月に運用改善案をまとめていた。いま議論されている78条2号及び3号の議論は、このときの運用改善案がもとになっている。例えば78条3号の新制度は、お歳暮時期などでの緊急対応のため物流事業者が既に行っているものと同様である。
- 地域交通法では、地方公共団体に地域公共交通のマスタープラン作成を努力義務として課している。しかし、公共交通について地方公共団体には権限がない。都市計画については権限があるのに、公共交通にはないというのが矛盾の原因になっている。
講演の後、次のような質疑があった。
質問(Q):78条3号は次のように書かれている。「公共の福祉を確保するためやむを得ない場合において、国土交通大臣の許可を受けて地域又は期間を限定して運送の用に供するとき」 誰が国土交通大臣の許可を受けられるかという主語が書かれていない。それをタクシー会社と読み取るのは、国土交通省の勝手な解釈ではないか。
回答(A):法文上は確かに許可を受ける主体は明確になっていないが、そもそも3号の趣旨がタクシー事業許可制度の例外となっているのでおのずと限界があると考える。正面からライドシェア事業を認めるには新法での対応が必要というのが、私がずっと前から言ってる見解である。
Q:ドライバー不足で困っている地方への対策としてのライドシェアと、都市部でのライドシェアは別の課題と考えるべきではないか。
A:その通り。都市部、普通の地方部、そして過疎地と三つに分けて、公共交通の在り方を議論するのがよい。
Q:ライドシェアを導入した他国でも、依然としてタクシーサービスは存在している。ライドシェアとタクシーはどのように棲み分けているのか。
A;日本のタクシーはしっかりしているが、他国ではひどいタクシーも多い。ライドシェアが導入されて、タクシーが底上げされ、併存しているといったこともあると思う。ただし併存してない国もある。併存については、しっかり調べる必要がある課題と受け止めた。
Q:ということは、わが国で導入しても魅力は乏しいし、価格差もあまりないのであれば、普及しないのではないか。何を国土交通省は心配しているのか。
A:国土交通省が恐れているのは、ライドシェアによってタクシーが駆逐されてしまうこと。求めるゴールは地域の足を確保することであり、そのためにライドシェアをいれたのに、ライドシェアにタクシーが駆逐され、供給面で安定性があるとは思えないライドシェア一本の依存体制になった場合、地域の足の確保という意味で本末転倒ではないかという考えであると思う。
コメント(C):タクシーに乗るとドライバーが高齢者であることが多い。とても心配になる。ライドシェアは必然ではないか。
C:ライドシェアだけでなく、自動走行バスの導入なども検討すべきだ。海外では、ゆっくり走る自動走行バスが住民の足になるだけでなく、子どもたちが技術に関心を持つきっかけになっている。
C:自動走行バスは過疎地の公共交通手段になりえる。積極的に導入するのがよい。
C:自動走行バスだけでなく、MaaS、GOやS RIDEなど、交通にもデジタルが導入できる。デジタルを前提として、地域公共交通のマスタープランを作成し、地域が主体となってこれを推進する仕組みが求められる。