開催日時:11月2日火曜日午後7時から最大1時間30分
開催方法:ZOOMセミナー
参加定員:100名
講演者:郡山市・品川萬里市長、保健福祉部保健所健康政策課・渡邉研也主任主査
司会:山田 肇(ICPF理事長)
冒頭、品川市長は次のように講演した。講演資料はこちらにあります。
- 郡山市の全世代健康都市圏創造事業は、政府による地方自治振興の政策ターゲットとして開始されたSDGs未来都市・自治体SDGsモデル事業に、2019年度に採択された。
- 郡山市の0歳から18歳までの人口は、年齢が低いほど少ない。18年間の間に1000人減った。9歳の子ども(2011年の原発事故の後に生まれた子ども)は、トレンドよりもいっそう少なくなっている。このように減少傾向にある子供たちに、誰一人取り残すことなく成人式を迎えさせることが、市長として最大の使命と考えている。
- 「最小律の原則」からも、一番弱いところにある青少年が元気に育つということが、日本を活性化させる。また、これはSDGsが掲げる誰一人取り残さない社会の形成にも合致するものである。
- 若い世代に焦点をあてつつ、全世代の健康増進を中心に据えてモデル事業を推進することにした。人生を送るために必死に働く(Life for Work)のではなく、人生を楽しむために働く(Work for Life)のためにも健康が大切である。
- モデル事業の成否の鍵はDX(デジタルトランスフォーメーション)にある。スマートフォンを活用しての健康増進の仕組みを作っていきたい。
続いて、渡邉氏が講演した。講演資料はこちらにあります。
- 1994年に郡山市に採用されて以来、多様な業務を経験し、2012年からは保健所で働いている。経験の中でそれぞれの業務範囲を越えた連携やデジタルの活用はむずかしいと感じてきた。
- 今は自治体SDGsモデル事業という壁を突破する活動に取り組んでいる。郡山市は中核市として2007年に保健所が設置され、医療・保健の専門家が地域のために力を合わせる態勢ができた。モデル事業の取り組みは他の自治体でも実施できないわけではないが、保健所がある郡山市ならではの取り組みになっている。
- 医療・介護情報等を多角的に分析し、科学的根拠に基づく施策や事業等を実施するのが、全世代健康都市圏創造事業である。地域住民の健康寿命の延伸と健康格差の解消を掲げ、また兼ねてより実施してきたセーフコミュニティ事業と連携して、「全ての世代が健康で生きいきと暮らせるまち」を目指している。セーフコミュニティ事業は、原因を分析して事故やけがを防ごうとしているので、根拠に基づく施策の推進を掲げるモデル事業との整合性は高い。
- 国民健康保険加入者の健診結果を蓄積し健康増進を働きかけても、その方が75歳になると後期高齢者医療制度に移り、過去のデータは参照できなくなってしまう。この例のように分断されてきた健康とそれに関わるデータを一体として扱うようにして、全住民を対象に健康増進運動や介護予防運動を展開する。それが、全世代健康都市圏創造事業のコンセプトである。
- モデル事業ではおよそ30種類のデータを活用したが、中心は10年分の健康診査受診情報である。そのほか、レセプト情報なども組み合わせて分析した。その結果、郡山市の疾病状況や介護への移行状況なども明らかになりつつある。今後の施策に活用するとともに、オープンデータとして公開する予定である。
- 初期の分析結果をいくつか例示する。まず、特定健診の受診回数が多い人ほど、医療費は少ないという傾向が明らかになった。多くの自治体のデータヘルスでも同様の結果が得られつつあるが、10年間という長期にわたって傾向を見い出したのは、郡山市がおそらく初めてである。しかし、なぜ医療費が低いのかという理由については、今後、詳細な分析が必要である。
- 健康診査の受診回数が多い集団ほど要介護(支援)認定率は低下する傾向がみられることもわかってきた。まだ理由は明らかではないし、健康診査に行けるほど元気だから要介護認定率が低いという解釈もできるので、これについても、さらに詳細な分析が必要である。また、要介護認定なしの約1割が4年後には要介護(支援)認定に、また要介護3以下の認定を受けている者の5割に介護度の進行がみられることも明らかになってきている。進行の要因が今後明らかになれば、根拠に基づいた予防施策が実施できるだろう。
- 骨折など「損傷、中毒、その他」に大分類される疾病の医療費が郡山市は全国平均の半分程度であるという分析結果が得られている。「循環器系の疾病」では、入院と入院外の医療費バランスが全国平均と違っていた。全国平均では入院医療費が入院外医療費の約二倍だが、郡山市ではほぼ同額である。入院外で治療を終了できる人が多いからなのか、それとも入院する前に死亡することが多いからなのかなど、これも今後の分析が必要である。
- 「今後分析が必要である」と繰り返してきたが、市の職員だけでは、保健所に専門職がいても限りがある。根拠に基づく施策を推進していくために、福島県立医科大学との共同研究を実施することになった。(1) SDGsの推進に関すること、(2) 健康(保健)、医療、福祉等の充実及び向上に関すること、(3) セーフコミュニティの推進に関することについて連携を実施する。(2)項で実施される医療・介護・福祉・健康等の共同研究では、郡山市は研究テーマに匿名化したデータを提供し、また研究フィールドも提供する。福島県立医科大学は研究内容を郡山市にフィードバックして、施策・事業に提言を行うようになっている。
- 福島県立医科大学とは、育児困難解消事業や「通いの場」事業に関わる共同研究を健康増進研究の一環として実施する。そのほか、重症化予防研究、介護予防研究も進めている。
- そのほか、郡山市は多くの民間企業と健康関連協定を締結している。それによって、民間の知恵もお借りして、全世代健康都市圏を創造していきたい。
講演後、以下のような質疑があった。
郡山市の健康事業全般について
Q(質問):2011年の原発事故から10年たったが、郡山市の健康施策にどのように影響を与えてきたのか。
A(回答):2011年以降に死亡者数が増えた。また、9歳児だけでなく、出生数自体が減少傾向にある。それを逆転させるよりも先に、生まれた子ども全員が無事に成人に達する施策に重点を置いてきた。全世代健康都市圏事業もその一環である。
Q:病気になった後は医療費でカバーされるが、病気になる前の健康増進には将来の医療費を削減する効果が期待される。健康増進運動は自治体が自前で実施しなければならないが、市長に考え方を聞きたい。
A:確かに重要と思うが、効果がどうあったかが明らかにならないと施策として強化できない。例えば、スマートフォンに運動記録や健康記録も収納して、それも分析できるようにする必要があると考えている。
Q:健康増進の取り組みと成果について教えて欲しい。
A:健康増進や介護予防の事業がどのような効果を生んでいるかは、まさに本事業の研究対象である。今まではそのような分析がなかったので、効果分析を全世代健康都市圏事業で行っていきたい。
Q:特定健診では、治療中の人には健康指導を行わないが、実は治療中に保健師が健康指導を行うのが大切である。このような取り組みを郡山市は行っているのか。
A:まずは健康診査を受けてもらう必要がある。そのために、昨年度、健康診査を受けなかった人へのアンケート調査を実施し、健康診査に市民が積極的に行く環境を作ろうとしている。
全世代健康都市圏について
Q:この事業は郡山市だけを視点に置くのではなく、郡山連携中枢都市圏を対象にしているが、周辺都市のデータも組み入れていくのか。また、周辺都市と健康施策についてどのように連携して、発展させていくつもりなのか。
A:中核市になった効用は保健所を設置できたことである。保健所は公衆衛生の要である。保健所を通じて周辺16市町村の健康データを把握できるようになっているので、今後、組み入れていきたい。また、周辺市町村の患者が救急車で郡山市の病院に運ばれてきている。真に救急に対応が必要な人が、救急車を利用できるようにするためにも、都市圏内の連携は重要である。
Q:医療情報データをどう活用し、どう第三者提供するかには悩みがある。根拠に基づく施策のために重要なデータ利用について、聞かせて欲しい。
A:「相当な理由があり、かつ本人の権利利益を不当に侵害するものではない」に相当するので、郡山市民から取得した、郡山市が所管しているデータを郡山市は分析できる。しかし、他の機関と連携しようとすると、個人情報保護の壁が高くなる。例えば、救急搬送された方について消防署が持つ情報と、郡山市が持つその方の治療情報の連携もむずかしい。国レベルで、今後、改善をしていくように期待している。
一方で、完全に連携できなくても、サンプルで抽出して分析できる場合がある。因果関係が明らかにならなくても、相関関係(トレンド)を知ることもできる。法改正を待つだけではなく、できることは進めていくべきである。
Q:市長は18歳までの子どもたちに焦点をあてて講演されたが、この世代は幼児期にも小中学校に通う時期にも様々な健康診断を受けている。そこから、何か注目すべき分析結果が出てきているか。
A:分析結果は後日報告したい。5歳児健診については、その後の特別支援学級への進学等にもつながるので、注目しているところである。
Q:要介護認定を受けた人が循環器系の患者である場合に、なぜなったのかを調べたところ、「体調がよい」と勝手に判断して薬を止めていた人が多かったという傾向が出ている。郡山市でも同様の結果はあるのか。
A:まだ分析には至っていない。ただ、糖尿病患者が自己判断で服薬を控える点については、民間企業と共同研究を実施しているところである。