シンポジウム 放送制度改革の行方 原 英史規制改革推進会議投資等ワーキング・グループ座長

主催:情報通信政策フォーラム(ICPF)
日時:7月10日火曜日18時30分から20時30分
場所:ワイム貸会議室四谷三丁目 会議室A
東京メトロ四谷三丁目駅前、スーパー丸正6階
講師
原 英史(規制改革推進会議投資等ワーキング・グループ座長)
小池政秀(株式会社サイバーエージェント常務取締役)
鈴木祐司(次世代メディア研究所所長)
司会:山田 肇(ICPF) 

冒頭、原氏が講演資料を用いて次のように講演した。

  • 所掌ごとに府省が分かれているため、「ここはわが省だが、これは別」というように各府省が反応して大きな改革が進まない。放送制度改革も総務省、経済産業省、文化庁などにまたがっているので、一向に進まない。そこで、規制改革推進会議では、関係府省と折衝し、どこが何をいつまでにやるのか改革の工程表を確定する仕組みにしている。
  • 放送制度改革は、通信と放送のさらなる融合といった技術革新と国境を越えたコンテンツ流通という国際競争に対応して、放送の事業環境や制作現場の課題を解決し、Society 5.0における放送の未来像を切り開くためのものである。
  • 投資等WGで検討の間、「放送が政権に逆らえないようにするための改悪だ」といったような記事が多く出ていたが、われわれは政治的公平を求める放送法第4条の改正などは一切議論していなかった。
  • 通信と放送の枠を超えたビジネスモデルの構築、グローバル展開・コンテンツの有効利用、制作現場が最大限力を発揮できる環境整備、電波の有効利用の四本柱が答申された。

次に小池氏が講演資料を用いて次のように講演した。

  •  AbemaTVは、ネットを使って、20チャネルのプロコンテンツを無料で24時間配信している。今、流れているコンテンツを楽しむリニア型の視聴にもオンデマンド型の視聴にも対応する。
  • AbemaTVアプリのダウンロードは3000万、月間利用者数(MAU)は1100万を超えている。35歳以下が過半数を占める。視聴形態はリニア視聴がメインで、21時から23時の視聴が多い。多くはWiFi環境で接続し、スマホでの視聴が65%を占める。他のデバイスでも視聴できるようにマルチデバイス化に動き、リモコンにAbemaTVのボタンが付いたテレビが最近発売された。
  • リリース期、立ち上げ期、成長期とビジネス戦略を変えてきた。リリース期には他の動画配信に埋もれないようにファン軸を形成するのが重要だった。立ち上げ期には看板コンテンツを作り出すとともに、チャネルごとの編成力強化に動いた。成長期には、内製帯のバラエティ・ドラマのヒット数を増やすように、また定期的に話題となるコンテンツを流すようにしている。
  • その先で、オリジナルコンテンツの強化・ニュースの充実などを図っていきたい。「麻雀見るならAbemaTV」というように一番目に想起されるメディアになるのが目標である。また、AbemaTVがプラットフォームの役割を果たすというのも目標で、外部パートナーが制作した優秀な外部コンテンツが流せれるようにしたい。

最後に鈴木氏が講演資料を用いて次のように講演した。

  • 放送の導入当時には文化の機会均等・教育の社会化・経済機能の敏活などに役割を担っていた。その後は、公共の福祉への貢献、民主主義の健全な発展などが強調された。そして今、新しい時代の放送の在り方が問われている。
  • 放送制度改革の第一歩はNHKのEテレをBSにあげることと、Eテレ番組の同時配信と見逃しアーカイブを実現することである。衛星とネット配信で「あまねく」という要求に対応できる。Eテレは99%全国コンテツであり、約2000の中継局を介した放送は非合理である。小中学校の講義で使う教育的コンテツこそVODが相応しい。
  • Eテレの地上波跡地は、ローカル局などが全国向けに週一回1時間の番組を送信するのに利用できる。ローカル局に全国発信の機会を提供するとともに、新ビシネスへの挑戦を可能にする。地域情報の全国発信の先には海外へ発信がある。放送時間枠をオークションにかけることもできる。
  • Eテレ跡地での番組の送出は地上波ネットワーク会社が行う。やがてはハードとソフトが分離され、コスト減・安定運用・新規ビジネスに結びついていく。

次いで会場参加者も加わり議論が行われた。主要点を記録する。

通信と放送の融合は進むのか

  •  AbemaTVのような動画配信がビジネスとして成長し、若者はスマホでコンテンツを視聴する時代である。NHK番組の同時配信も、できる限り多くの国民に届けるというNHKの本来意義に応えるものである。
  • スポンサーは効果に比例してしか広告費を投じない。県域放送で視聴世帯数が限られれば広告費は集まらない。民放は費用が掛かることなどを懸念しているが、県域を越えてネット配信して新しい視聴者を獲得する可能性は理解している。
  • 沖縄の民放が観光案内を流せば国内観光客が増えるかもしれないし、インバウンドも増加する可能性がある。そのようなことが新ビジネスに結びついていく。

地上波放送への新規参入は起きるのか

  • EテレをBSに上げることについて学校現場は抵抗しないだろう。見逃し配信・VODがあれば、授業の中での利用に便利だからだ。
  • できる限り多くの視聴者にリーチしたいと考えれば、動画配信事業者が地上波の跡地に参入する可能性もある。また、地上波ネットワーク会社のようにハード専門の事業者が生まれれば、ハードとソフトの分離につながっていく。
  • 電波は有効利用する必要がある。跡地は放送に利用させると限定する必要はなく、そのほうが有効なのであれば通信に用いてもよい。

放送と著作権

  • 動画配信の場合にはバックグラウンドで流す音楽一つから使用許可が必要で、テレビ局がJASRACと包括契約を結んでいるのと比べて不利な状況にある。著作権法の改正が必要である。
  • 無線放送、有線放送と技術が進歩するごとに条文を付け足して著作権法はひどい状態になっている。動画配信でまた条文を付け足すのは適切ではない。

動画配信のコンテンツ規制

  • テレビでは過剰な性表現や暴力は放送法第4条によって許されない。一方、動画配信事業者も過剰な性表現や暴力を慎む自主規制をしている。
  • コンテンツごとに、必要性に応じて、性表現や暴力の表現の程度を変える自主規制を行い、視聴者の声に耳を傾けていけば、大きな問題は生じない。