日時:7月25日火曜日18時30分から20時30分
場所:エムワイ貸会議室四谷三丁目 会議室B
東京メトロ四谷三丁目駅前、スーパー丸正6階
司会:山田 肇(ICPF理事長)
講師:角張 徹農林水産省大臣官房政策課技術政策室課長補佐
冒頭、角張氏は概要次の通り講演した。
- スマート農業に取り組む背景には担い手の減少や高齢化の進行等により労働力不足が深刻になっていることがある。果菜類や果実の収穫のように人手に頼る作業・選果のように多くの人手を要する作業・果樹の剪定やトラクターの操作など熟練を要する作業などの省力化や負担軽減が大きな課題である。
- ICT、ロボット技術を活用し得、超省力・高品質生産を実現する新たな農業がスマート農業である。超省力・高品質生産を実現、作物の能力を最大限に発揮、きつい作業・危険な作業から解放、誰もが取り組みやすい農業を実現、消費者・実需者に安心と信頼を提供の五本柱で進めている。
- 超省力・高品質生産を実現の分野では、GPS自動走行システム等の導入による農業機械の夜間走行・複数走行・自動走行等で作業能力の限界を打破する技術の開発を進めている。作物の能力を最大限に発揮の分野では、センシング技術や過去のデータに基づくきめ細やかな栽培や営農者の有益な知見との融合等により、農林水産物のポテンシャルを最大限に引き出し、多収・高品質生産を実現することが目標である。
- きつい作業、危険な作業から解放の分野では、収穫物の積み下ろしなどの重労働をアシストスーツで軽労化するほか、除草ロボットなどにより作業を自動化しようとしている。誰もが取り組みやすい農業を実現の分野では、農業機械のアシスト装置により経験の浅いオペレーターでも高精度の作業が可能とり、また、ノウハウをデータ化することで若者等が農業に続々とトライするようになるというのが目標となっている。消費者・実需者に安心と信頼を提供の分野では、クラウドシステムにより、生産の詳しい情報を実需者や消費者にダイレクトにつなげ、安心と信頼を届けようとしている。
- スマート農業の推進に向けた具体的施策では、単に技術を開発して終わるのではなく、新技術を普及させるための支援や環境づくりなどを推進している。施策は、①将来像や優先に取り組むべき課題の特定、②新たな技術の開発、現地実証、③新技術の普及、導入支援、④先進技術が導入できる環境づくりの四つのステップで構成されている。たとえば、ロボットやICTなどの技術開発企業とともに実際に開発技術のユーザーとなる農林漁業者にも参画してもらい、導入コスト等の明確な開発目標の下、効率的な技術開発及び現場実装を実施している。
- 農機の自動走行については、「未来投資に向けた官民対話」で安倍総理大臣から「農業に最先端技術を導入します。2018年までに、ほ場内での農機の自動走行システムを市販化し、2020年までに遠隔監視で無人システムを実現できるよう、制度整備等を行ってまいります。」と発言いただいた。
- スマート農業ではAI(人工知能)やIoTの活用をうたっているが、その先で農業におけるSociety5.0を実現しようとしている。データを駆使した戦略的な生産、生産・流通・販売の連携・効率化などが目標である。AIを活用した施設野菜収穫ロボット技術の開発、AIを活用した画像診断等により病害虫被害を最小化する技術などを開発している。
- 様々な農業ICTサービスが生まれているものの、相互間連携がなく、データやサービスは個々で完結していることに加え、行政や研究機関等の公的データはバラバラに存在している状況にある。このため、農業ICTによりデータを駆使して生産性の向上や経営の改善に挑戦できる環境を生み出すため、農業データ連携基盤の構築がスタートしている。連携基盤は本年中に構築される。様々なデータを統合・分析できるようになり、収量や品質の向上が可能になると期待している。また、土壌、市況や気象等の公的データや、民間企業の様々な有償データ等を整備・提供することで、データを活用した新たなサービスの提供や農家の戦略的な経営判断が実現するだろう。
- 農林水産省では、スマート農業の普及に向けてスマート農業フォーラムを開催し、また、北海道では北海道スマート農業フェアが開催され、営農者中心に約5000人が来場した。
講演の後、以下のような課題について議論が行われた。
スマート農業の効果について
Q(質問):スマート農業で省力化されるのは結構だが、苦労して作物を育てる喜びがなくなるのではないか。
A(回答):新規営農者は技術アドバイスが得られず苦労している。消費者に人気の有機農業だと、ますます苦労は多い。熟練の営農者の知識ノウハウを知的財産として新規営農者に伝えていく。
Q:ロボットが導入されて農業を効率化すると就農者が減少するという発想はないか。効率が3倍になれば農業人口は1/3で住むのではないか。
A:収穫作業などの単純労働はパートや海外からの実習生が担っている現状にあり、高齢化等によって労働力の確保が年々難しくなっている。単純労働をロボット化することを目指している。経営者としての農業者が成功するのがスマート農業の目標である。
Q:熟練技術を見える化して普及させた場合、同じようなトマトばかりにならないのか。
A:地域産品として市場に供給するためには地域でまとまった収量が必要である。産地ごとに知識ノウハウを共有して地域産品を育てるのであって、全国で同じようなトマトを出荷するわけではない。
Q:圃場における作物の生育に関する詳細な情報などは一種の個人情報ではないのか。
A:リモートセンシングは自らの圃場を管理するために用いるのが原則である。なお、収穫期には地域で協力するというような取り組みが存在するので、例えば、農協のリーダシップの下で、地域内で情報共有の合意を取って活用する取り組みなどにも活用されるのではと考えている。
Q:ICT活用の先兵として、植物工場をどう評価するか。
A:人工光・養液栽培・密閉型の植物工場は広まりつつある。しかし、一年間を通して需要を確保し続けるのは課題も残っている。植物工場で利用されている技術も取り入れ、次世代型施設園芸という植物工場一歩手前の技術を開発している。
農業データ連携基盤について
Q:農業データ連携というが、他省のデータも連携すべきではないか。
A:その通り。気象データなど多様からのデータも併せて提供していく必要があり、政府全体としての取り組みである。
Q:農業データ連携基盤の利用に資格はあるのか。もしないとすれば、海外に流出しないか。
A:ルールを策定中であり、ルールにあった人は参加できる。多くのデータから知恵をくみ取って、農業生産のアドバイスをする事業者なども利用できるようになるだろう。一方で、主要な情報は知的財産化して海外に流出しないように努める。
スマート農業の普及について
Q:スマート農業には大きな可能性があるが、若い人にこれを紹介して営農者を増やす努力が求められるのではないか。
A:その通り。農業高校、農業大学校などでもスマート農業を紹介している。また、すでに教科書にも採用されている。若い人が経営感覚を磨き、新技術を抵抗なく受け入れるようになることが目標である。
Q:スマート農業への関心に地域差はあるか。
A:農業が主要産業である北海道の関心は高い。一方、中山間地からは「そんなに大きな機械は入れられない」といった話が来る。そのため、中山間地で利用できる除草ロボットや低コスト化に向けた研究開発なども実施している。
農林水産行政全体との関係について
Q:食料自給率との関係は。
A:農林水産省は食料・農業・農村基本計画を定め、自給率を高めようとしている。その中に担い手への集中などのグランドデザインが書かれており、スマート農業はこの文脈の中に位置づけられている。
Q:林業や水産業での取り組みは。
A:林業では林業機械の自動化、育林・下草刈りの支援技術などが開発されている。水産業でも養殖場の網の自動清掃などの技術が開発中である。また、林業でも水産業でもアシストスーツの役割に期待がある。