行政 客観的な根拠に基づく政策形成 宮部勝弘内閣官房行政改革推進本部事務局企画官ほか

日時:9月28日木曜日18時30分から20時30分
場所:エムワイ貸会議室四谷三丁目 会議室B
東京メトロ四谷三丁目駅前、スーパー丸正6階
司会:山田 肇(ICPF理事長)
講師
宮部勝弘(内閣官房行政改革推進本部事務局企画官)
上瀬 剛(NTTデータ経営研究所パートナー)

宮部勝弘氏の講演資料はこちらにあります。

上瀬 剛氏の講演資料はこちらにあります。

冒頭、司会(山田氏)が次のようにあいさつした。

行政策は必要性と有用性と効率性で評価されるべきである。特に有用性と効率性は数値で評価するのが適切な項目である。根拠に基づく政策形成(EBPM)は、施策の事前評価・事後評価で活用されるようになるだろう 

宮部氏から次のような講演があった。

  • EBPMに明確な定義はない。政府としても手探りの状態である。一方でイギリス、アメリカを中心に取り組みが進展している。Evidenceとは何か、これは単にDataではない。「政策がアウトカムへ影響を及ぼした因果関係」といった定義も存在している。
  • わが国では、「官民データ活用推進基本法」によって「データ活用により得られた情報を根拠にして行政は行われる」と規定された。また、統計改革推進会議で「欧米ではEvidence Baseなのに日本はEpisode Base(業界の声、担当者の印象など)で施策が実施されてきた」との指摘があった。
  • 山本行革担当大臣が統計改革を宣言し、大阪学院大学の三輪教授を大臣補佐官に任命した。それが、一連の動きのきっかけである。その後、統計改革推進会議が設置され、EBPMとともにデータの整備を促すことになった。一例がGDP統計での「サービス部門統計」の充実である。
  • 統計改革推進会議は、官房長官を議長に、行革大臣、経済財政大臣、総務大臣、財務大臣、経産大臣、日銀総裁(日銀は統計データの作成者というだけでなく、ヘビーユーザーでもある)有識者9人で構成された。
  • 体制を作り、各府省の理解も得つつ徐々に浸透させる方針が三輪補佐官から説明し、了承された。その結果、各省にEBPM推進の責任者を置く、統計の改善(問題を解決する、統計が使われているかを確認する)と、政策の改善を図るEBPMサイクルを確立するなどが提言された。
  • 各省のEBPM推進統括官が集まるEBPM推進委員会が設置された。ここで、統計等データの提供についてガイドラインを策定する。研究者からの多くの要望・苦情(データの提供が遅いなど)が寄せられてきたことも背景としている。公益性、機密保護を維持しつつ、提供を容易にする方向である。
  • EBPMの推進や統計の改善のために、どういう人材を確保・育成するかは現在検討中である。年度末を目処に検討を進める。職員には基本的なリテラシーは身につけてもらう(データ分析までできる必要はないが)。
  • 3本の矢による先行取り組みとして、秋の行政レビューはEBPMの発想でも実施することにした。事業をいくつかピックアップし、レビューを模擬セッションで試行したところ、事業の必要性と目的の明確化、手段の合理性(実施内容の妥当性、予算執行の効率性)、事業の有効性について、必ずしも良い説明ばかりではなかった。そもそも被説明変数がはっきりしないと因果関係もはっきりしないが、必ずしも被説明変数を明確にしないまま施策の立案が行われ、比較も確認もできない、といった問題がある。
  • EBPMの定着までには、試行錯誤で510年かかるだろうが、徐々に進めていきたい。

次に上瀬氏が講演した。

  • 主要国では官民をあげてデータ活用の環境整備を進めている。政策形成へのデータ活用における世界的潮流として注目されるのがEBPMEvidence Based Policy Making)である。EBPMは、エビデンスを活用し、効果的・効率的な政策運営を目指すものである。政策の運営に必要なデータの適正な処理・活用方法やデータマネジメントを実施するためのノウハウ、環境整備が求められる。
  • 財源が限られているなかでEBPMの重要性は高まっている。いかにデータを行政に取り込めるか。許認可や価格設定に活用可能性がある。行政データをデータプラットフォームに取り込み、そこに正しいノウハウを充て国民に公開する。
  • Evidence」の定義だが、明確な定義はないが、「バイアスのない方法により得たデータをバイアスのない方法で分析して得られた結果」と正樹氏らが提案している。
  • 通常EBPMで根拠として活用されるのはランダム化比較実験の結果である。他に準実験も重視される。それ出来なければ多様なリアルデータも対象とし、ICTにより分析を洗練させることで、実験を越えた知見を目指すことになる。しかし、リアルデータ比較では実際の政策効果を評価するのはかなり難しく、バイアス、ノイズの影響をいかにミスリードしないようにできるかが重要になる。
  • 米国ははるかに進んでいる。データを集め利用する環境が整備されている。個人でもクレジットの信用スコアを簡単に知ることが出来るなど、良くも悪くもデータがプラットフォームとして整備されている。一方で個人情報保護などに問題もある。英国ではWhat Works Centreによる政策レビューが行われ、執行部隊とは別に客観的に評価するシステムが整っている。日本ではデータは十分に活用されていないし、データの公開も限られている。個人情報保護の難しさ、省庁間連携のなさ、縦割り行政などが影響している。WWCでは、評価の信憑性をレイティングしている。これは日本でも導入したいものだ。評価部隊が切磋琢磨する仕組みになるからだ。
  • 米国では、莫大なデータを共有し、活用できる仕組みがある。オバマ政権後半に特に強化された。成果をだせばメリットを還元し、うまくいかなければ次の施策に繋げるという形で各省の施策を競争させている。失敗したら怒られるだけでは職員のモチベーションを保てずうまくいかない。アメとムチのバランスが重要である。
  • 労働省が失業給付期間の最小化のためにEBPMを活用した事例がある。再就職支援プログラムとの連携で失業を押さえるとともに、失業給付期間の最小化にも効果がでた。
  • ニューヨーク市では犯罪防止への取り組みが行われている。全てがEBPMによる効果ではない(ジュリアーノ市長の過激な政策等のミックス効果)が、犯罪は目に見えて減少した。2:8の法則でやるべきことを順序づけ、最大の問題を特定し、高いパフォーマンスが得られるポイントに力を集中して解決するという手順が根付いてきている。
  • 英国では、既存のデータをまずはチェックする足りなければデータを集めるデータをクレンジングする施策を評価するその結果で次の施策を実施するというサイクルを動かしている。データには、時には心理学、行動経済学的観点も含まれる。
  • EBPMの有望領域として「人口減少」関連施策を提言したい。政策効果が上がる可能性が高い。EBPMの推進にはデータ連携基盤を如何に作るかが最大の課題である。そのほか、政府がEBPMをきちんと位置づけ、EBPMへの理解を促進する必要がある。

二つの講演の後、次のような話題について質疑が行われた。

現状の取り組みに関わる質疑

質問(Q):政策評価の対象としては何が有効なのか?
宮部回答(AM):まだ手探りでやっているのだが、行政の様々な意思決定に活用できそうだと感じている。これまで各国でEBPMが発展してきた分野の代表格は、労働・教育・医療。これらはデータを多く取れ、予算規模も大きかった。それがEBPMを発展させた要因になっていると思う。
上瀬回答(AK):政策上のプライオリティがあり、かつデータが取りやすいところから始めるしかない。費用、容易度、データクオリティ、インパクト等などを考えて試行錯誤することになるだろう。逆に、国策としてやらざるを得ないオリンピック整備などに適用しても効果は見込めないのでEBPMの対象とするのは不適当である。
コメント(C): JR東日本はEBPMを推進してきた。Suicaで旅客データを収集し、それをベースに新路線の開拓など様々な事業を進めて、ビジネスを成功させた。
AM:正にそう思う。民間は切迫感があり活用の意識がある。政府のデータを公開すると、民間マーケティングなどにも活用が考えられる。
Q:人材育成の必要性はよく分かるが、それをどの範囲にどのように行うか方針はあるのか?
AM:今進めているところで確定的なものはない。現在は使う側、作る側の育成の検討を進めている。基本的なリテラシーについては役人も国民も必要があると思う。IT教育については文科省も進めている。
QEBPM推進統括官はどのくらいの役職の人物を想定しているのか?
AM:上位の審議官クラスの役職者を想定している。
CCIOの時には各省官房長が指定されたが、忙しすぎて、結局民間のCIO補佐官に丸投げされている。そのようなことにならないようにしてほしい。
Q:講演の中にDataEvidenceではないという発言が出てきたが、それは本当に正しいのか?役所のdataについては、そもそも電子化されていないという問題がある。
AM:「データ=エビデンスではない」というのは「因果関係を示せないものはエビデンスではない」という意味である。紙のデータなどでも、有用なものは電子化を進める方針。最近は申請の電子化などでデータの入力から電子化が進められている。一方で電子申請を可能にしたが、利用が進まないものもある。ともかく、大企業に紙で届け出させるとかというのは止めさせたいと思う。 

将来像に関する質疑

QAIを活用するのはいいが、AIで答えが出てもロジックモデル自体、あるいはロジックモデルの善し悪しが分からない。そのようなものを使っていいかという問題がある。うまくいっているうちはよいが、いずれ問題になるのではないか?
AKAIを何に対して使うか、どこまで使うかというのは議論の余地はあると思う。
AM:説明責任があるので、その施策を採用する際のAIのロジックが不明であれば、役人が改めて考えることになると思う。
QEBPMを自治体に展開するつもりはないか?
AM:政府もこれからなので自治体に進めるようには言いづらいが、オープンデータについては法律上自治体も進めるように規定されている。直接何かをするように、というわけではないが、将来的には自治体にも広まっていくだろう。国が持っているデータを自治体に活用してもらい、自治体が持っているデータを加えて、さらに様々な分野で活用出来るようになるのではないか。
Q:自治体への展開に際し、ありがちなのはデータのフォーマットがバラバラになったり、ツールの二重投資になったりの懸念があると思う。展開にあたっては、中央省庁が音頭をとってフォーマットやツールを決めた方がいいと思うが、検討範囲に入っているか?
AM:内閣官房の方では標準化や定義について話をしているので、そこで議論になっているかもしれない。データ整備先行になるのか、活用マインドから始まるのか。マインド自体が足りていないという部分もある。データをどう繋ぐかという点については総務省の方で検討を進めている。
Q:政府の中でEBPMにトライアルしているが、データを出せば民間が勝手にやってくれることも十分考えられる。どこまでオープン化を展望しているのか?
AM:長期的には、民間開放が進んでいくと考えている。ガイドラインにより情報を出せるようにしたいと思う。アメリカでは、統計のサンプルファイルも多く提供されており、日本でもそのようなものを整備して増やせば、活用が進むと思う。特に地方でのデータ整備の推進も上げられているので整備は進められていくと思う。
Q:民にデータが行く場合には、そのとたんにデータ提供の価格が上がって、それがボトルネックになることが考えられる。そのようなことにならないようにしてほしいのだが?
AM:普通は特定の企業だけに出すということにはならないので安心して欲しい。 

最後に司会が次のようにまとめセミナーは終了した。

行政職員がデータを用いようと思うのが第一歩。その先でデータを説明できるようになる。そこまでいけば、アメリカや英国のようにデータに基づいて政策決定できるきっかけになる。