月日:2月27日(月曜日)
時刻:13時30分から16時00分
会場:アルカディア市ヶ谷(私学会館)
〒102-0073 東京都千代田区九段北4-2−25
登壇者と話題:
龍治玲奈(日本マイクロソフト株式会社政策渉外法務本部渉外社会貢献課長)
「避難所間情報連携システムの構築と支援」
高橋征二(熊本市総務局行政管理部情報政策課技術参事)
「被災地の地方公共団体の立場から」
鹿野順一(特定非営利活動法人いわて連携復興センター代表理事)
「東北からのノウハウ移転と民間の動き」
古橋大地(特定非営利活動法人クライシスマッパーズ・ジャパン理事長)
「熊本地震におけるドローンの活用と課題」
石谷寧希(総務省情報流通行政局地域通信振興課課長補佐)
「熊本地震における政府の情報通信分野の対応」
司会:山田 肇(東洋大学経済学部教授、ICPF理事長)
龍治・高橋・鹿野三氏の資料はこちら、古橋氏の資料はこちら、石谷氏の資料はこちらにあります。
登壇者各氏は概略次のように講演した。
龍治氏:
- マイクロソフトの災害対応は、施設(例:データセンター)をもつ「自社の責任」・「お客様への責任」・そして広く「人道支援」と多く3つのストリームに分かれて多くの部門が連携する。
- 全社対応から現地法人対応までのレスポンスレベルを決め、グローバルで連携して災害に対応している。
- 2016年熊本地震の際には、Skype無償化や社員募金などとともに、今日話題にする避難所連携のためのオフィス365のライセンス無償化を実施し、行政・NPO・大学との連携を通じて支援を展開した。
- 市長の決断があり、クラウドによって短時間でソリューションを提供できたが、それはデータを第三者に提供しないというマイクロソフトのクラウドに対する信頼をいただけたとともに、平常時からのつながり・人と人との間の信頼関係があったためである。
高橋氏:
- 熊本市の情報システムは基幹系と情報系に分かれている。発災後、罹災証明書の発行が最優先事項の一つとなり、パソコン・ネットワーク・電源等の環境がない状態にもかかわらず、先に発行日・発行場所が決まった。報道や国からの情報もあり早急に開始した経緯があり、これらの対応に非常に苦慮したが、予備や支援された機器、物資の少ない中での方々からの材料購入、設計・設定・工事・設置の人材等が何とかそろって対応できた。
- 避難所運営支援ネットワーク(Rネット)については、マイクロソフト他支援いただいた皆様との連携を通じて立ち上げることができた。一部クラウドになれていない職員からは不安の声もあがったが、本庁と避難所、避難所間の情報共有が促進され、職員にとって大きな安心感となった。
- 業務継続計画は作ってあった。しかし、実際には平時には想定していなかった業務が大量に次々と発生し、多種多様の対応が求められた。
- 今後を考えると、既存の行政情報のネットワークに加え、行政組織内ネットワークと公開ネットワークサービスの間をつなぐ地域内共有ネットワークを整備しておく必要がある。
鹿野氏:
- 震災前から地域活性化を目指して釜石市でNPO活動をしてきた。東日本大震災が発生し、津波で電柱が根こそぎもっていかれ、電気が通じない、夜間に活動できないという状況になった。
- 最初の課題は緊急物資搬送で、地元だから行き来ができる場所への輸送をNPO側で担当した。
- その後、緊急雇用創出事業として釜石仮設住宅支援連絡員事業などを受託することになり、NPOの人員が急激に増加し、ある意味で総合商社と化した。組織運営、プロジェクト管理は一人では無理になり、一方で、利用していた各種WEBサービスはスタッフが個人のアカウントを使っていたためセキュリティを含めた各種のデータの管理が困難になるなどの問題が発生した。クラウド(Office 365)の導入は、時間的なロスや意思決定の滞り、そしてセキュリティ管理やコンプライアンスの遵守等に対応する、課題解決のための対応策であった。
- 今は、東日本大震災の経験を熊本で役立ててもらおうと支援に取り組んでいる。
古橋氏:
- 本業は「地図屋」である。オープンストリートマップという制限なく利用できる地図の作成に世界中の仲間と協力して取り組んでいる。Facebookもオープンストリートマップを導入した。
- 災害時には、災害前と被災後の状況が一望するために地図情報が活用される。オープンストリートマップのグループはハイチ地震などの際に、現地に出向かずに世界中が協力して、地図情報を急ぎ作成し提供してきた。この経験が熊本でも生かされた。
- ドローンは被災後の状況を把握するのに有益であり、地図作成に利用できる。災害時にドローンを使って緊急対応するチームなので、人形劇のサンダーバードにちなんで「DRONE BIRD」と称している。
- 熊本地震の際、国土地理院はドローンで当日に撮影し、報道機関による空撮もあった。不明者の捜索にも活用された。しかし、これらのデータは公開されたのか?適切な位置情報がメタデータとして共有されているか?これらの情報が公開されなければ地図屋は活動できない。「DRONE BIRD」は出動できない。
- ドローンを活用するためには事前に自治体と防災協定を結び、訓練などにも参加しておく必要がある。大和市や横瀬町とはすでに協定を結んでいる。
石谷氏:
- 東日本大震災の教訓の一つが特性に応じた多様なメディアの活用であった。Lアラートは自治体からの情報を多様なメディアを通じて一斉に人々に伝えるシステムとして整備されている。熊本地震でも活用された。
- G空間防災システムも推進している。古橋氏の講演で指摘されたように地図情報は重要で、地域情報ポータルサイトを通じて熊本地域の住民への情報提供が実施された。
- 平時から災害対策用移動通信機器や移動電源車を準備し、緊急時に自治体に貸し出す。避難所などに無線LANを準備しておくなどの事業にも取り組んでいる。
- 災害対応のためには、平時からの備え、平時から災害時からの連続的な利用、災害時に対応した制度体系、官民の更なる連携の四点が重要である。
各氏の講演の後、東日本大震災・熊本地震から何を教訓とするか、未来に向けてどのような施策が必要かの二つのテーマで議論が行われた。
東日本大震災・熊本地震の教訓:
質問(Q):熊本でドローンが上手に使えなかったことについて、自治体としてどういう課題があるか?
回答、高橋(AT):行政として実施を決めるにも、すべての法律に詳しいわけではない。何が法的に課題かわからないので、それらの情報と共に提案していただけると助かる。
回答、古橋(AF)航空法の規制があり許可を得る必要がある。高橋氏が指摘した課題を解決するためにも事前に防災協定を結ぶ必要がある。防災協定があればDRONE BIRDは自治体の業務を代行する委託事業者として位置付けられる。防災協定には、発災後に行政サイドからの依頼で動き出すというスタイルと、民間が自発的に動くスタイルがあるが、後者のほうがよい。
Q:現場の状況を把握するというが、どういう状況を知りたかったのか?
AT:自治体職員の安否、住民の安否が最優先で必要だった。現場は混乱し、バラバラに動くこともあり、正確な情報の把握に苦労した。状況は刻々と、また多様に変わるものであり、データをリアルタイムに近い状態で共有できる仕組みが必要であった。
回答、鹿野(AK):被災地の行政職員の所在確認する仕組みが必要である。一方、住民についてはどの避難所にいるかは自主申告が前提で、登録しないと行方不明者扱いになる。今、釜石市ではドローンを飛ばし始めている。湾口部における津波の状況把握や発災直後の交通が遮断された状況下での被災状況確認などに、ドローンは有効と考えられる。
Q:熊本市災害本部では自前でLANを設定したというが、何人で、どれぐらいの規模の設定をしたのか?
AT:条件によってばらばらであるが、指揮室を例にすると4-5名で対応して、20台程度を1時間程度でセットアップできた。材料の条件、事前設定等考えると本当にばらばらであり、一箇所で半日程度かかるものもあった。
Q:何故(他社のシステムでなく)マイクロソフトを使ったのか?
AT:オンプレで既にシェアポイントを使っている。マイクロソフトとは、平常時からの会話がありある程度の情報共有はできている最速で導入できる、また、セキュリティに対しての信頼もあった。しかし、最も大きな要因は、タブレット・クラウド・通信に加え、「人」「ノウハウ」までもパッケージとされた支援が届いた事だった。
Q:ボランディアの管理にもRネットを使ったのか?
AT:ボランティア(外部との共有)には、Rネットは使っていない。
AK:情報を行政が一箇所にまとめてしまうと、かえって使いづらくなる場合がある。情報はパラレルに管理する必要もある。
未来に向けて:
Q:静岡県内では静岡警察から連絡がくる。Lアラートの予行演習と思われるが、他県もこのような利用をしているのか?
回答、石谷(AI):自治体がお知らせを平時に流しているケースはある。
AK:スマートフォンの普及率が上がり、Yahoo防災などを使って緊急災害情報が流れるようになった。
Q:ドローンの活用について防災協定を事前に結ぼうという動きは広がっているのか?
AF:ドローンを使いたいという自治体は増えている。課題はドローンを扱える人が少ないこと。それをDRONE BIRDが支援するために防災協定が大きな効果をもたらす。
コメント:業界の中での連携も必要ではないか。過去の経験から業界内でどのように対応するか事前に決めておくのがよい。NECは熊本地震の際にパソコンを支給したそうだが、これも事前に決めていることで、全国どこでも対応できる仕組みができている。
Q:熊本地震の際に医師と連絡が付かなかったので救急隊が独自判断で輸液をしたという記事が出た。これについて、どう考えるか?
AT:救急隊の行動を批判するのではなく、本当に必要であれば、人命救助に役立ったと応援するのがよい。そのような風潮が社会に広がることで、緊急時の対応が変わっていくだろう。
AK:マスメディアだけでは被災地の意見や実情は伝わらない。地域が独自でメディアを持つことが重要である。
AF:地図屋として貢献したいと思っても、東日本大震災当時は測量法によって国土地理院の地図をトレースするのは違法だった。結局、測量行為ではなく絵地図としてトレースするならよいと国土地理院が判断したが、現場判断が重要なケースがあるだろう。
AI:政府・自治体職員は法律に基づいて仕事をする必要がある。法律違反はできない。記事では、「厚生労働省は医師の指示がなくても違法性は阻却され得る」との通知を出している。緊急時の課題については、正面から法律を改正するという方法もあるが、このように行政が通知など解釈で対応するといった方法も取り得ると考えられる。