行政 クラウド完結型社会への民間からのアプローチ 佐々木大輔freee株式会社代表取締役

日時:7月30日(木曜日) 午後6時30分~8時30分
場所:東洋大学白山キャンパス5号館3階 5301教室
文京区白山5-28-20
司会:山田肇(東洋大学経済学部教授、ICPF理事長)
講師:佐々木大輔(freee株式会社代表取締役)

佐々木氏の講演資料はこちらにあります

冒頭、佐々木氏は資料に基づき、概略次の通り講演した。

  • 企業勤めの間に優秀な経理担当社員が、一日中、領収書処理していることを目の当たりにして、問題意識を感じた。それが、freeeの創設に結び付いている。freeeは会計・給与計算などのバックオフィス業務の自動化・クラウド化を目指している。
  • 経理の処理の速さが50倍ほどになるなどの特徴があり、ソーシャルメディアでの告知から広がり始め、現在は34万強の利用者が利用している。クラウド会計ソフトのシェアNo.1である。税務申告に一度利用した利用者にアンケートしたら、来年も利用したいが96%に達したように、満足度は高い。
  • 確定申告もモバイル化したが、電子認証が必要なので、直接提出できず、紙に印刷する必要がある。会社設立の書類作成でも、取締役2名で23の書類が必要になるが、会社設立freeeを用いれば、必要な書類を5分で出力できる。ただし、いずれの場合も郵送・持参が必要で、今はそこに完全電子化への壁がある。
  • 伊豆大島には税理士が一人もいないそうだが、freeeを利用することで都内在住の税理士とクラウドでデータを共有できるようになったという。中小企業のクラウドサービス利用率は日本では23%と、米国59%より低い。しかし、freeeのようなスモールビジネス向けのクラウドサービスが増えつつある。
  • 書類を郵送・持参するといった手間のない、クラウド完結型社会が目標である。マイナンバー制度の施行と軌を一にして、行政手続きのAPI公開が始まった。この動きに合わせ、日本で初めてe-Gov APIに対応した労働保険年次更新サービスをリリースした。中小企業に負担となる、マイナンバーの安全な保管管理についても、サービスをスタートさせた。電子帳簿保存法が改正され、全ての領収書・請求書の電子保存が、2015年10月1日以降可能になる。クラウド完結型社会に向けて少しずつだが、前に動き出した。
  • クラウド完結型社会の実現に向け、今後の課題がある。法人における電子認証方法の確立・浸透が必要である。ビジネス向けのマイナポータルの設置を期待する。

講演後、二つのテーマについて質疑があった。

freeeのビジネスについて
Q(質問):シリコンバレーでの資金調達に苦労はなかったか?
A(回答):米国の場合、未来の方向性にかけてくれるので、資金調達が実現した。日本の場合には、細部まで説明をして納得してもらうのがむずかしかった。
Q:中小企業向けというが、どれぐらいの規模の企業まで対応可能か?
A:ビジネスの複雑さによる。事業部ごとにルールがある場合にはむずかしい。Freee自身の場合、120名の規模で、経理の専任がいなくても回っているし、従業員200名という顧客もいる。
Q:複数の自治体にオフィスがある場合は?
A:対応できる。書類作成まではできる。しかし、講演で説明したように、提出は手でする必要がある。
Q:税務申告の場合、税理士の関与はいるのか?
A:税理士は関与する必要はないが、税理士経由であれば、電子認証の手間を税理士が代行してくれる。
Q:言語は? 多言語に対応しているのか?
A:現状は日本語のみ。ただし、機械学習が組み込んであるので、自動的に学習していくようになっている。
Q:海外には類似のビジネスがあるか?
A:ニュージーランドのXeroは著名で、オーストラリア・英国などにも展開している。国際的に競争相手は多い。
Q:税制は毎年改正されるが、freeeでは顧客ではなく、freeeが対応する。海外展開すると、それぞれの国の税制に対応する必要が出てくるのではないか?
A:個人事業主の確定申告と、企業の税務申告は違いがある。企業会計はグローバルな標準があり、対応は容易だが、税務は別で、国ごとに制度が違う。
Q:e Gov対応が速いが、どうやってリサーチしているのか?
A:自分たちもfreeeのAPIを公開している。SaaSのベンダーではAPI公開は標準的なはずだが、日本ではまだ珍しい。風土を変えていく必要がある。

クラウド完結型社会への移行について
Q:現在はクラウド完結型社会への移行期間であるが、税理士と金融機関との連携はどうなっているか? 彼らの反応は?
A:オンラインバンクの口座があれば、freeeでの会計処理はできるので、特に連携を取る必要はない。1600の金融機関に対応している。しかし、今後は、セキュリティ的にもっと良い方法を模索するために、連携していきたい。税理士に対しては不安を解消するように説明している。若い税理士には、freeeで得られる財務情報で企業の経営を指導するといったビジネスを展開するために、freeeを顧客に売り込む積極的な方もいる。
Q:行政は手続きごとに書式を定めているが、これは本当に必要なのか?
A:データで送れたら手っ取り早いし、それで十分なはずだ。
Q:ビジネス向けマイナポータルも書式がほしいわけではないですよね?
A:APIがあればよい。
C(コメント):マイナポータルだと、ポータルサイトをイメージする人が多いので、APIという言い方が良い。
C:電子署名について疑問がある。例として、紙なら認印の手続きを電子化すると認証用のICカードが必要になる。セキュリティレベルの使い分けは必要と、CIO連絡会議で2009年に決まったことが実現できていない。
Q:政府は何やってくれるのかと聞かれる場合が多いが、政府はこれをすべきと、米国のようにがんがん言うべきではないか?
A:政府の取り組みとしては、いい方向に変わってきていると見ている。
Q:会社設立freeeでは、書類作成は5分でも、審査は2週間~1か月かかる。審査も変えさせないといけない。テンプレート化していった場合、何をチェックするというのだろうか?
A:その通り。今でも、インデントがずれているとか、そういう指摘が多い。審査業務を全面的に見直す必要がある。
Q:領収書の書式は標準化が必要ではないのか?
A:電子取引でのデジタルインボイスなら問題はない。紙の場合が問題だが、今さら標準化を求めるよりも、全面的に電子化すべきではないか。紙をスキャナで保存することについて、国税庁から領収書の大きさがわかるようにしてほしいという指摘があった。カメラ型のスキャナだと、サイズの担保ができない。下手すると定規を横においての、領収書の撮影が必要になる。紙を残すとそうなる。最初から電子化した方が良い。