日時:3月10日(火曜日) 午後6時30分~8時30分
場所:東洋大学大手町サテライト
千代田区大手町2-2-1新大手町ビル1階
司会:山田肇(東洋大学経済学部教授、ICPF理事長)
講師:増田直樹(総務省自治行政局地域情報政策室長)
松下邦彦(株式会社TKC地方公共団体事業部行政システム研究センター部長)
増田氏の資料はこちらにあります
松下氏の資料はこちらにあります
増田氏は資料を用いて、概略、次のように講演した。
- 新藤前総務大臣が行政のIT化に大変熱心で、骨太の方針・日本再興戦略・世界最先端IT国家創造宣言に電子行政の推進が盛り込まれた。その流れで、地方自治体における業務の標準化・効率化に関する研究会を開催した。報告書は、先進自治体での取り組みを参考に課題解決策を提示するものである。
- 総合窓口の先進事例には、粕屋町、三鷹市、甲府市、北九州市などがある。業務フローを標準化することで、事務の効率化や住民サービスの向上が図られるようになった。人口に関わらず、導入可能であり、共通番号の導入により各自治体でさらなる検討が進むように期待している。
- 総務自治センターの先進事例として、横浜市、静岡県、大阪府を紹介する。平成20年頃でセンターの新設はひと段落ついたようだが、都道府県31団体、政令指定都市5団体などに導入されている。大規模自治体にはスケールメリットがあり、将来的には中小自治体での共同運用の可能性もある。
- 自治体クラウド等の先進事例として、神奈川県システム組合、埼玉県町村会、秋田県町村会、京都を紹介する。業務の標準化・効率化を進めていくため、カスタマイズはできるだけ抑制するのが肝要である。自治体クラウドは、特に中小自治体での導入が進んでいくと期待している。また、分散して進んでいる各地のクラウドが統合されて、より大きなクラウドになるのが、将来的な方向である。
松下氏は資料を用いて、概略、次のように講演した。
- 研究会の報告書には、ITベンダーの役割への言及がある。ベンダーは行政の遂行に必須の存在であると、書き込まれたことに大きな意義がある。
- 自治体には、基幹系サービス・各種事業・共通基盤・庁内情報系サービス・住民向けサービスと、多くの情報システムが存在し、これに応えるために、20前後のベンダーがビジネスを営んでいる。市場規模は5700億円といわれている。
- 市町村の人口規模ごとに情報システムに対する要求は異なる。できる限り安くというのが最大の条件でカスタマイズを求めない中小自治体から、オーダーメード型を好む30万人以上の大規模自治体までが存在する。
- ベンダーはオーダーメード型に対応する一方で、パッケージ型のシステムを提供している。ひとつの自治体には多数のシステムがあり、異なるベンダーが納めているものもあることから、システム間での情報連携にはカスタマイズがどうしても必要になる。一方で、帳票・データ形式などの標準化によって、カスタマイズは削減できる。
- 施行規則などがシステム化を前提にして提示されるようになれば、ベンダーが読み解く手間が省けるようになる。将来的に期待したい。
- 国が自治体システムを一元的に提供することは可能か。韓国では実現しているが、競争が減ることは進歩を阻害する恐れがある。
二つの講演後、活発に質疑応答が実施された。
総合窓口と総務事務センターについて
C(コメント):総務事務センターについて、千葉市は取り組み中である。千葉市は人口97万人で、市役所と区役所の二階建て構造だが、区でも単独の市の規模がある。この区役所分について、総務事務センターを構築中である。
Q(質問):導入による業務の時間削減効果だが、民間は業務行動を記録しているが、自治体はしていない。時間が短縮されても、他の業務に時間がとられるだけだ。時間の計測が自治体でも必要であると考え、千葉市は千葉大学と共同研究している。総務省で時間の使い方の研究をしているのか?
AM(回答、増田):大きな自治体は一つの課に二・三人の総務担当がいるので、総務事務センターをいれると当該委託分の業務量削減ができる。小さなところは一つの課に0.5人というように一人以下であって、削減がむずかしく、それが中小自治体で総務事務センターが進まない理由になっているのではないか。自治体EAのころには、事務量を具体的に測っていた。例えばそのような測定を改めて実施することもあるのではないか。
Q:同じ業務について、総合窓口なり、総務事務センターを持っているところと、同様の規模で持っていないところを比較してみてはどうか?
AM:仰るとおり。ちなみに自治体クラウドの業務量削減という点では、神奈川、北海道でなど調査される予定と聞いている。
C:人口規模5万~10万であれば標準化できるが、大規模自治体だと業務が多様化して標準化が困難。今までどおりカスタマイズになってしまう。規模別で標準化への考え方は異なるのではないか。
Q:総合窓口について、大阪では、市民が便利になったかどうかを指標化している。そちらのほうがより重要ではないか?
AM:総合窓口における住民の満足度は非常に重要な考慮すべきポイントである。今日、資料に記載していないが、それぞれの事例で満足度の調査が実施されているが、いずれも高い評価を得たと伺っている。
Q:ベンダーの役割が変わってきているのではないか? 最近は役所に非正規職員が増えて、ベンダーは運用を実質的に任されている。クラウド以上に行政コストを削減したいのであれば、ベンダーが行政サービスを提供するところまでもっていくのがよい。富士ゼロックスは戸籍システムで大きなシェアを持っており、ナレッジがベンダーに蓄積されている。
AM:総務事務センター(内部事務等)について研究会で話題になったのは、全部を外部委託するのは問題ではないかという点。実際に、各事例でも最終権限は自治体の職員に権限を留保したうえで、システムを導入している。しかし、一方に、職員のスキルが育たないのではという指摘もあった。
Q:確定申告会場にいくと、ITベンダーからの派遣職員が多い。申告期間は一か月なので、そうしないと仕事が回らない。ここでもベンダーにナレッジが蓄積されている。一方で、機微な個人情報が漏れる心配もあるが?
AM:本日の総務事務センターの事例は、あくまで内部事務であり、職員の事前同意を得るというのが前提になっている。
大規模自治体と中小自治体の相違について
Q:大きな自治体の方が、財政が豊かである。一方、提供する必要がある住民サービスの多くは規模に関係しない。小さな自治体は、貧しい中で住民サービスを提供する必要がある。そこに、標準化と効率化のニーズがあるのではないか?
AM:仰るとおり。クラウドの発想の原点である。オールインワンのパッケージを中小自治体は利用する。一方で、30万人規模以上の大きな自治体にとっては、対応するパッケージがほとんどないため、自らがシステムを作っているケースもある。今後は、大規模自治体と、周辺自治体と共同利用するといった考え方もある。
AM:小さい自治体は、パッケージに自治体の側が業務を合わせる。一方、大きいところはパッケージをカスタマイズする必要がでる。大きなところは情報処理の専門職もいる。ある政令市にお伺いすると、7割パッケージ、3割カスタマイズといった姿になっているとのことだった。
Q:人口20万人以下であれば、一つのベンダーに統一するなど、思い切ったこともしても良いのではないか? ベンダーロックインは悪いという話もあるが、住民サービスの向上という実態がでるのであれば認められるのではないか?
AM:ある県の場合、今は三つぐらいのグループがあるが、県単位でまとまるのが良いのではないか。また、県をこえた事例も出ている。将来的にはもっと効率化を進めるために、技術革新をベンダーで競うようになるのがよい。今後は、クラウド化した後の次の更新時におけるベンダー間の競争環境の確保が重要な課題になってくると考えられる。
MS(回答、松下):良いベンダーロックインはパートナーシップ。小さな自治体だと専任職員が少ない。そのなかで効率よくするためには、オールインワンパッケージを導入した方がよい。ただし、ベンダー切り替えはできるようにしておかなくてはならないが。
C:行政事業レビューで、ある省の国家機密にかかわるシステムについて、外部評価委員が一般競争入札よりも随意契約にすべきと主張したことがある。ベンダーロックインも、悪と決めつけるのではなく、一つ一つよいか悪いかを考えるべきだ。
将来的な拡大について
Q:総務省の公会計システムが共同利用の道筋をつけるのではないか?
AM:例えば、共通番号制度では、国が中間サーバーのソフトウェアを作り、自治体みんなで使うことになったと聞いている。
MS:公会計システムは、保守年限は3か年という調達条件であり、本格導入するための試験のような位置づけにすぎない。まだ、しばらく時間がかかるだろう。
Q:施行規則などを数式で書くことについて、数式は横書きで。法律は縦書きである。まず、そういうところを変えるべきではないか?
MS:これは数式だけでなく、施行規則が現場の運用に落ちていないことが問題である。施行規則を作る段階から、現場担当者やベンダーが参加することが有効である。
Q:法令にIDをふっていただけないか? 自治体の側も、条例・ガイドラインに法令IDを付けて繋げておけば、更新の必要性がすぐにわかる。神奈川県の自治体が自らのウェブサイトを調査したら、半分ぐらい期限切れの情報だったという話もある。IDでコンテンツ管理すべきではないか? 法律にも、省令にもすでに番号がついているというが、電子化されていないし、IDにしてもらえれば、法令から条例までをツリー構造でコンテンツ管理できるではないか?
AM:以前に法律案を作る仕事をしたことからも、必要性は理解できる。
Q:同一の業務について、システムを一つにするより、ベンダー間で競争させ、同一の業務に関するシステムは二つ存在あるというようにしたほうが、BCPの観点で有益ではないか?
AM:国会議員の先生から何時も言及されるのは、全国二か所の中間サーバーの事例である。基幹系でも、まずは県レベルでまとまってもらってシステムの共同利用の実施を検討すべき。その状況を全国規模で眺めれば、競争が維持されていることになる。
Q:今回の報告書は、現実的だし、正しいことを主張していると思う。なぜ12年をたたないとこういうものがでてこないのか考え直す必要がある。昭和時代からの慣性が強すぎる。自治体も団塊世代が退職すると急激に職員数が減少し、外部委託しないとまわらなくなっている。研究会の報告書をどう推進するのか?
AM:例えば、自治体クラウドは、平成22年頃から本格的に始まったものであり、自治体の取り組みだけでなく、ベンダー側からのクラウドサービスの提供が必要であり、官民連携が欠かせない。今後の報告書の推進については、地方公共団体に策定をお願いしている情報化推進計画等に標準化の施策も必ず入れていただきたいと考えている。今後、進捗状況をフォローアップしていく。自治体における標準化に関する推進団体があった方がいいのではとも、有識者から言われている。