概要
1996年に郵政省(当時)とNTTが持株会社方式による組織再編で合意してから、10年がたちました。ドッグイヤーでいえば、70年。この間に情報通信業界の状況は、大きく変わりました。それを受けてNTTは昨年、事実上の「再々編」計画ともいえる中期経営戦略を出しました。
これに対して、競合他社からは「独占時代への逆行だ」との批判が強く、ソフトバンクはインフラを「水平分離」して通信各社が共同出資する「ユニバーサル回線会社」構想を提案しています。
今回のセミナーでは、このソフトバンク案を提案した嶋聡さん(元民主党「次の内閣」総務相)と、NTTのOBである林紘一郎さんの討論によって、次世代ネットワーク時代のNTTのあり方を考えます。
スピーカー:嶋聡(ソフトバンク社長室長)
林紘一郎(情報セキュリティ大学院大学副学長)
モデレーター:池田信夫(ICPF事務局長)
日時:4月27日(木)18:30~20:30
場所:「情報オアシス神田」
東京都千代田区神田多町2-4 第2滝ビル5F (地図)
入場料:2000円
レポート
講演要旨
情報通信産業のような巨大な投資が必要な産業は独占されやすい構造になっている。NTTは1999年に持ち株会社による民営化が行われたが、結局現在も95%の回線はNTTが独占している。私も昨年11月からソフトバンクに入り、この情報通信産業をどうにかしようと取り組んでいる。
IP懇談会で東洋大学の松原聡さんに質問したところ、「放送と通信で第2の道路公団は作らない」と仰っていたが、我々の案は第2の道路公団を作ろうという案ではなく、民間主導で行おうという提案である。また、最近公表されているNTTの中長期経営計画を見ると、NTTの巨大化に繋がりかねないと感じ、危惧している。
「国民のために」のコンセプトの元、新しい概念が必要になっている。平等な情報アクセスは国民の基本的権利であり、過疎地や情報弱者の切捨てがあってはならない。また、現在の地域間格差の解消を図らなければならない。IT新改革戦略では「2010年までに光ファイバーなどを整備し、ブロードバンドゼロ地域を無くす」とされているが、自民党の片山さんも地元の講演で遅れを認めている。
現在、光回線では企業間の競争が進んでいないが、ADSLは基盤インフラが整っていたことや、設備開放によってサービス競争が進展したため、今では日本はブロードバンドが世界一安い国になった。これからは光ファイバーでも競争を促進し、次世代ブロードバンドを国民全員に平等に、そして安価に提供することが必要。しかし、ADSLではNTTに次いで僅差で2番手になっているソフトバンクが、光ファイバーではグラフにすら入れないほど、NTT東西が独占している。
今のアクセス通信網はいったい誰のものなのか。国民のもの?それとも企業のもの?憲法第29条1項には「財産権は、これを侵してはならない」とある。すると、これまで電電債や施設設置負担金などにより構築されてきた設備、独占的利益による設備、政府により保有・保護されてきたNTT株式などの状況を考えると、公共性の大きい日本全国6000万の回線は公のものなのではないか。
今の光回線の状況は、例えば宅配業者を例にして言うと、ヤマト運輸と郵便局と佐川急便があった場合、それぞれ1社ごとにお客さんの元に道路をひこうと言う状態。また、サービス事業者を変えると、引込み線を切ってから、新しい事業者が引込み線を設置する必要がある。これは非常に馬鹿馬鹿しい話だ。
今のNTT中期経営戦略では、2010年度には光サービスを3000万回線ひくというスケジュールになっているが、これでは政府のIT新改革戦略と大きな差があり、国民に平等なインフラを供給することは出来ない。全地域へ平等に光サービスを整備するには、民間でユニバーサル回線会社を設立する必要がある。そして、NTTを資本分離して顧客データベースも分け、一般の民間企業と競争できるようにすることが重要。
5年間で6000万回線に光ファイバーを敷設した場合、回線光化総投資額は6兆円と試算している。6兆円を20年で減価償却し、債券発行による資金調達を年利2%で元利均等償還で行った場合、20年経過時に元本、金利が完済となる回線単価水準を算出してみると、光ファイバー1回線で、月額約690円でできる。月額690円の光サービスを行えれば、6000万回線光化は実現可能になる。
よく光ファイバーは高速道路でメタル線は一般道だといわれているが、光ファイバーは舗装されていない道路を舗装道路にするということだと思う。これからの企業は啓蒙された自己利益を追求することが必要。21世紀の国際競争力と国民の未来を作っていきたいと考えている。
情報セキュリティ大学院大学副学長 林紘一郎
「この資料は前回のフォーラムのときと同じ資料なので、「なんだ、学者のクセに進展していないのか」と思われるかもしれませんが、「学者なので言うことが一貫している」とご理解いただければと思っております。
光ファイバーは永久に使われると思っている人がいるが、他にも様々な技術があり、日々進化している。
政府が1つの技術を決めて進めるべきではない。
光サービスのためのユニバーサル回線会社を作るのは、第2のNTTを作るようなもの。
もっとナショナルセキュリティーを大きく問題にすべきだ。