概要
ライブドアは、11月から無線LANによるブロードバンド・サービス「ライブドア・ワイヤレス」を開始します。その目玉は、月額525円という低料金で最大54Mbpsの通信速度を実現することにあります。しかし、こうした無線LANによる公衆無線サービスは、過去に何度か試みられ、事業としては失敗に終わりました。ライブドアには、今度こそ成功する秘策があるのでしょうか。今回は、ワイヤレス事業の陣頭指揮をしておられる照井副社長に、その戦略をうかがいます。
講師:照井知基(株式会社ライブドア上級副社長)
モデレーター:真野浩(ルート株式会社 社長)
日時:9月29日(木)19:00~21:00
場所:東洋大学白山キャンパス 5号館5202教室
東京都文京区白山5-28-20
地下鉄三田線「白山」駅から徒歩5分
地下鉄南北線「本駒込」駅から徒歩5分
入場料:2000円
レポート
要旨
真野:インターネットの普及によって通信基盤が従来の親方が自立分散型に変化している。ところが電波政策は昔ながらのやり方が続いている。電波を利用したいという需要は増えているが、電波政策が理由で揉めている。電波でブロードバンドというかたちが期待されていながらも、ここ10年ほど普及していない。05年度下期はこの問題に集中して、ICPFでの議論を進めていきたい。
照井:プロ野球参入の件では結果的に負け、通信と放送の融合に関してフジテレビの件があった。その後、日テレが配信やると言ったり、民放連とソフトバンクが組んだりと裾野が広がった。きっかけをつくった我々としても、喜んでいる。今日話をするワイヤレスは我々が期待している分野であり、なぜライブドアがこのビジネスをやるのかということを話していきたい。
ライブドアはポータルを中心として大きくしていこうというプランを持っているが、これについては、ヤフーとヤフーBBの相乗効果がうらやましいと思っている。ライブドアというポータルを大きくするためにインフラを提供しなくてはならないと考え、ホットスポットはあるが、まだ少ないし使いにくい、ということでワイヤレスのインフラ構築を始めることを決めた。
公表した計画では、当初は山の手線内で2200箇所と言ったが、東京には電柱がなくなってきている。東京電力と話をしているなかで、2100くらいでスタートとなる。特徴はいままでにない面展開をすることと、525円で提供するということ。山手線の中に2200箇所のアクセスポイント(AP)を設置して、面積で80%をカバー。徐々に山手線の外に出て、後々は一都八県まで広げていくつもり。ほかに六本木ヒルズなどの大型商業施設をカバーすることを想定している。
IEEE802.11b/gという技術を使っているので、ひとつのAPに何人アクセスするかによるが、ベストエフォートで50Mb/sほど。発表会の際、525円でペイできるのかと質問があった。我々はあくまでポータルに誘導するために作っているようなもので、コストをユーザーに転嫁して重荷になるようでは意味がない。無線で接続する際は必ずポータルを経由する。そこでコンテンツを観ていただく、有料コンテンツにアクセスしていただく。インフラはインフラで黒字化させるが、ポータルとの相乗効果でやっていきたい。ライブドアのポータルを利用する場合は、525円すら支払っていただく必要はない。通信事業者はユーザーからペイできる金額を支払って貰わなくてはならないという観点だが、我々はポータル事業者であり視点が違う。
なぜこの無線LANサービスをいまライブドアが行うのかというと、現在のサービスはエリアが少ないことや価格面など不満が大きい。ユーザーにはとって使い方が難しいと感じるようなサービスもある。料金が安く、どこでも繋がり、スピードが速く、安定したサービスを提供する。電柱をメインとして展開しているが、もともとアステルをやっていたYOZANと組んで、電柱の権利を提供していただく。自動販売機も想定しており、自動販売機の中の在庫管理を研究されている会社とも提携することにした。液晶パネルつきの自動販売機広く設置されており、葉場所の確保という点出で展開しやすい条件が整っている。
ローミングを最大限利用していきたい。 Wi-Fiで繋がることがベストだが、利用者が繋がらないという状態を取り除くためにローミングを取り入れる。線を引っ張ってではプロバイダは赤字になってしまうがワイヤレスなら低コストで行える。無線LANというとノートパソコンをイメージする方が多いが、無線LAN対応デジカメやオーディオプレイヤなどどんどん新しい製品が出てきている。ライブドアでいうところのブログサービスの更新やストレージとしての利用、無線LAN対応のオーディオプレイヤ向けに音楽配信のスタイルを作ることも出来るはず。付加価値を作り出していくことで利用者を増やしていく。
ハードウェアの話は鶏と卵になりがちだが、まずはノートパソコン、日本では成功事例があまりないがPDA、次にオーディオプレイヤや、ソニーのPSPや任天堂のDSなどのポータブルゲーム機、ゲーム端末は我々のデバイスとしては有効と考えている。その次にITSなど、また、公共料金のテレメーターなどの情報も電波で飛ばしていければと考えている。
ライブドアは携帯電話に参入していない。携帯電話に参入していく気もない。Skypeをダウンロードできるようになっているし、他にもP2Pの通話ソフトはたくさん出てきている。これらは電話ではない。どちらかといえばインターネット上で動くたくさんのアプリケーションのうちの一つに過ぎない。結果的に電話として使う人は出てくるだろう。
ユビキタスと言う言葉がはやりだが、我々のサービスを中心に広めていけるのではないか。モバイル用途だけでなく23区の中の住宅街でも家の中にも電波が入ってくればどうか?ADSLを引いたが、実質2Mとか3Mということもある。それならばADSLを解約してライブドアワイヤレスのサービスを利用する人も出てくるだろう。学校・病院も想定している。インフラが整っていないと思われる小さなクリニックなどもあるから、電子カルテ等に対応していくために、無線のサービスをプッシュしていきたい。
iBurstについては日本では京セラがずっとやってきている。特徴は電波がキロ単位で飛び、走行中も繋がること。車の中でソフトフォンでつないで通話したが非常に快適。 Wi-Fiの技術より、もしかしたらボイスのサービスに向いているのかもしれない、と思えるほど安定している。周波数の効率も高い。オーストラリアだとシドニー、メルボルンなどでもう商用サービスは実施されている。我々としてはiBurst技術を、自治体や医療、セキュリティなどの面でも使ってほしいと考えている。教育機関など、いたるところで使って貰いたい。ただ儲かるためだけに、とは考えていない。
これは聞いた話だが、阪神大震災時にビルが倒れて、大変な状況であったが、自動販売機だけは明かりがついており、使えたとのこと。自動販売機をAPとして使うワイヤレスサービスは、災害時の通信インフラとして使えるなど面白いことが出来るのではないかと考えている。しかし、課題もある。ローミングを積極的にしていかなくてはならない。そもそもエリア拡大をしていかなくてはならない。自治体などでも取り組んでいかなくてはならないこともある。
収益構造は、コンテンツでもうけていきたい。最初はビジネスモバイラーといった層と考える。じわじわSkypeなどを通じて一般の層も広がっていくことで増えていくのではないか。法人からの引き合いもいくつか来ている。PHSは線が細いし月額料金が負担、というところで利用していただく。セキュリティ、VPN等にも取り組んでいかなくてはならない。
最終的にはユーザーに便利なインフラだと思って貰わないと意味がない。ライブドアとしてはバナーなどポータルを中心としたビジネスを考えている。決済を代行して手数料で収益を上げるなどのモデルとして。コンテンツホルダーから配信してほしいという話も聞く。
工事の計画は選挙の影響を受けてかなり遅れた。法的にどうというものではないのだが、工事が遅延しがちになった。半径100メートルほどの間隔で設置している。本当は綺麗に並べていきたいが電柱の都合などでそうもいかない。ライブドアのデータ部門は新宿にあることもあり、新宿はかなりカバーできている。電柱にライブドアのロゴが見えたら使えると思っていただければ。
今まで何社かこういう挑戦をした会社があったが、通信費で儲けるのは非常に難しい。コンテンツで儲けようとしているのが特徴だと思っている。なにかと話題を振りまく会社だが、こうした挑戦をしていきたいと思う。
質疑応答
1. MISとの相違について
会場:MISがやっていたサービスとはどこが違うのか?
真野:大まかに見れば差異はないと思う。MISが想定したのがまさに(ライブドアが試算した数字と同じ)25億だった。何に必要な金額かと言えば、山の手線内を埋める金額が25億だった。MISとしては通信費で成り立つと考えていた。
照井:全国展開すれば調達コストも下がってくる。iBurstまで手を出すと足りないが。
田中:真野さんのベンチャーであるMIS社は、資金が足りなくなって事業から撤退した。
それに対して、ライブドア社の場合は、いつまでにどの位の事業展開ができていなければ事業から撤退するというような皮算用はあるのか?
照井:具体的な皮算用はない。しかし、ライブドア社が事業から撤退する場合は、事業を他者に売って撤退するので、事業自体は継続することになる。
2. 駅、空港への設置
会場:駅・空港の設置はどのように進めているか?
照井:ケースバイケース。成田はヤフーがやっているし、地方の空港は直接話し合い。無条件で一気に進められるのは自動販売機だけだと考えている。
会場:昔MISがJRの駅に置こうとしたら紛争処理委員会から駄目が出たが、そういったことはおきていないか?
照井:駅の中におこうとはしていない。外から囲んでいく。
真野:MISの時は法律改正前だったためAPを置くことがでずサービスが開始できなかった。
会場:JRが本当に拒絶した理由は?
真野:自分達のプロパティを利用されたくないと考えた点が大きい。
会場:JRが駅構内で無線LANサービスをしていたからでもある。
真野:自分たちで儲けられると思っているところは自分たちでコントロールしたいからだろう。MISのときは一種、二種の区分けがあった。当時MISは当時社員5人。その会社に公益特権を認めたら、同様の事業者が次々と出てくることになる。それが警戒された。電波法改正が今回の国会に出ている。これから、いろいろ変わるだろう。
3. 対応する機器の範囲
会場:デジカメ、電話で無線LANを利用するとしたらライブドアのポータルを通過することはないが?
照井:組み込みます。メーカーに組み込んでもらったり販売するメーカーにのせる。ハイブリッドモデルとして考えている。全部が全部ポータル通るとは考えていない。
4. 安心して利用できるか
会場:パケットダンプされたら認証できないが?
ライブドア技術スタッフ:現段階ではSSIDとWEPという一番セキュリティレベルの低いものしか使っていない。
真野:MISはセキュリティにこだわったもの作り、「セキュリティにこだわった上で、利便性を向上していけば」というスタンスだったのに対して、NTTコムなどは、「セキュリティにこだわる前に利便性があるべきで、時代とともにセキュリティも向上していけばいい」ということだった。ただ、後者は怖い事件が起こらなければ、という前提。
会場:基地局1つあたりのグローバルアドレスはどれくらいか?
照井:ライブドア技術スタッフ:APあたり接続が最大で65くらい。それに割り振るDHCPサーバーがある。現段階で2000箇所にアクセスしてきても割り振れるだけのIPアドレスはある。
会場:ネットワークゲームなどレイテンシーの問題があると思うが
ライブドア技術スタッフ:だいたい50から100ミリ秒の間を狙っています。
5. 周波数免許の問題
真野:第三世代携帯(3G)にリザーブされている帯域に、IPモバイル、iBurst、ウィルコムなどが手をあげているが、もともと3G用のリザーブのものだから、iBurstはだめ、ウィルコムもだめ、TDDでないと駄目ということになると、IPモバイルに割り当てる。しかし事業者としてIPモバイルを見た場合、資金力、持続性の観点からいくと駄目だという見方もある。そうなるとリザーブしていた周波数が空くことになり再募集をすることになる。いかに技術にディペンドしてしまって融通が利かなくなったかという結果の好例だ。
会場:まったくそう思うけど、世界中でその帯域は3Gという合意は得られているわけですよね?
真野:例えば道路でいうなら特定の1車線を公共利用にしましょう、としたとこまでは良かったが、走る車のタイヤの空気圧まで決めてしまった、ということ。
会場:総務省がそうした理由は技術的詳細まで決めなくては世界に移動したときにそのまま利用することができないから。
真野:それはこれらのルールがレイヤー分離ができない時代に作ったから。
会場:ではなぜ第三世代で今募集しているのか?
真野:第三世代に2GHzとなっていて、それで駄目だった場合に変えるということでしょう。総務省には一年くらい延びてもいいや、という考えがあるんじゃないか?
照井:半年から一年かかるでしょうね
真野:その帯域をWi-Fiでとれるんですか?
照井:とるんです。AP2200じゃ、まだまだ足りない。
6. ローミングについて
照井:我々は努力を継続してやっていくとしかいえない。我々が設置しなくてもローミングでという考えでいる。
会場:使い勝手を追求するのであれば、本当はローミングしていくべきでは?
照井:もちろんライブドアとしてはそれやりたいけど、相手がなんというか。われわれが何万と言うAPを打って、圧倒的に数があるとなったとき、彼らが、独自にやるより僕らと組んだ方が得だ、となるタイミングがいつか来ると思う。
会場:地下鉄はAPを置く余地はないのか?
照井:ないですね。東京メトロに関しては、これ以上工事はしないでくださいということ。
真野:MISがそうだったように、既設の事業者と相互接続か、公共のものだから置いてくれ、というか2つの選択肢がある。
7. 他の技術との相互接続
真野:Wi-Fiと携帯電話のコンバージェンスが必要になってくる。総務省は固定と有線の番号ポータビリティを検討し始めた。iBurstを携帯と捕らえるのであれば、それらの相互の問題はどう考えていくか。
照井:PHSと似てはいるが、違う。我々はデータ通信と考えている。FOMAと Wi-Fiはライブドアがやるかは別として、共存していかないとならないとは思う。
会場:4Gがそろそろ出てきてますよね?2年後3年後を迎えたときにユーザーを拡大しなければならない時にはもう魅力のないものになっている可能性があるのでは?
真野:技術ではなくて、二年後、どうかということはあると思う。
会場:iBurstの方向性は従来の移動体通信の発展経緯と逆行しているのではないか?
照井:iBurstとWi-Fiと共存していくと思う。
会場:だったらPHSでもいいのでは、とはならない?
照井:PHSすらない場所もある。 Wi-Fiで数十%カバーしたあと、残りを、という感じでいいと思う。
8. Skypeについて
真野:インスタントメッセンジャーは電話ライクじゃなかった。Skypeは電話ライクだった。そこが普及の一因と思う、次はハードだろう。
会場:e-bayの買収は?
照井:われわれは日本での代理店に過ぎない。我々がもっているのは販売代理店の権利で、彼らのビジネスにどうこう言う立場にない。
会場:パワードコムがKDDIに買われたら?
照井:パワードコムの中根さんと私と堀江の三人でやったプロジェクトだったからすごく早かったこともあるが、買われたらスピードは落ちるだろうなと思う。
9. AP設置場所
真野:付ける前にやめてしまったけど、NTTの公衆電話ボックスにつける規格を作っていた。あれらの場所は使えないか?
照井:ライブドアとしては可能性がある限り拡大できることはやっていきたい。
会場:バス停は考えている?
照井:バス停より自販機の方が数は圧倒的に多い。
真野:バス停は目的が公的なものなので、意外に難しい。路線バスの許認可条件が400mだからそれ以内にあるということになる。
10. コンテンツの提供との関係
会場:コンテンツが充実していないと結局ポータルといっても通り道にしかならないのでは
照井:がんばるしかない。コンテンツの充実に関しては、ライブドアは無線LANの拡充とは別に充実させていかなくてはならない。これに関してはコンテンツプロバイダから買ってくる。
真野:ヤフーBBはブロードバンド人口を増やし、定額制を広めたことにインパクトがあった。無線LANだったらワイヤレスに向いたコンテンツがあるのではないか。