電波 技術革新と電波政策

概要

電波政策は、周波数の再配置、携帯電話事業に対する新規参入、無線LANなどのコモンズ拡大という大きな構造改革を伴いながら進めらています。これらの改革には、電子、通信、情報技術の変化にともなう必然的な要求が潜在しています。インターネットと無線を融合したビジネスを多く手がけ、総務省ワイヤレスブロードバンド推進研究会の委員でもある真野社長に問題提起をしていただき、インターネット時代の電波政策と技術課題について考えます。

講師:真野浩(ルート株式会社 社長)
モデレーター:池田信夫(ICPF事務局長)

日時:10月27日(木)19:00~21:00
場所:東洋大学白山キャンパス 5号館5202教室
東京都文京区白山5-28-20
地下鉄三田線「白山」駅から徒歩5分
地下鉄南北線「本駒込」駅から徒歩5分
入場料:2000円
ICPF会員は無料(会場で入会できます)

レポート

要旨

真野:平成電電がMIMO(マイモ)というワイヤレスの技術を使って自動販売機を利用したサービスを打ち出した。かつてYOZANが同様のサービスをやっていたり、今はライブドアが無線のサービスを打ち出しているが、技術が見え隠れする割には技量がない状態だ。最近注目を浴びているWiMAXなどは、YOZANが今年の12月から商用サービスを始めるとしている。しかし日本ではWiMAXの周波数は存在しない。なぜそんなことが起こっているのかというと、技術の変遷と政策がかみ合っておらず、根本的に技術が替わっても政策に反映されていないところが大きい。今日の話の中で言う技術の革新はインターネットの前と後であり、インターネット時代の電波政策がどんなものかを取り上げていく。

インターネットがもたらした最大の変化とはコミュニケーション形態の変化。情報の共有化を与え、サービスと構造の水平分離、供給者志向から消費者志向へ、そして自己責任の増大させたことが大きいだろう。その中でインターネットのカルチャーのキーワードは公平性であると考えている。

インターネット前のコミュニケーションは集中管理型だった。ネットワークや人間世界もそうだった。個々のエレメントにアベレージが求められ、突出したものは嫌われる傾向だった。それがインターネットの世界だと、バラバラで勝手に有機的に結びついていながらも、特定の目的に向かって結びついているというように非常にパーソナルな世界である。個が重視されながらもルールが必要であるのがインターネットの世界だ。

インターネットの特性は自立分散ネットワークであること、Simple & Stupidであること、
End to Endであること、水平分離構造であること、ベストエフォートであること。これらは最初から必然性を持って現れている。ネットワークの進化の過程の中で結果を見出している。 インターネットでは、はじめに端末とネットワークが個々に存在していた環境からお互いに繋ぎ合わせた。インターネットの立ち上がりは、元々ネットワークを持っていた人たちがお互いに相互接続を実現させようという流れだった。

相互接続が増加していくのは、必要最小限のルールの中で実現されていった。コミュニケーションに必要なルールは少なく、誰から誰への通信か明示すること、自分の友達は誰かを告知することぐらいである。インターネットは極めてシンプル&ステューピッドであると言える。

多様な参加者が相互接続性を求めて、互いに標準や規格、ルールを策定、制定し今日にいたっている。以前はスタンダライゼーションをして、標準化をして普及させていったが、既に普及しているものを繋ぐにはそうせざるを得ない。ルールを決めるよりも、大まかな合意によって決まる。これらは必然的に起こることであって流れの中で生まれてくるものである。

インターネット上では全ての通信は小包(パケット)でしかない。内容はお互いの利用者同士が決めることである。網は、すべての利用者の共有財産のため、特定のサービスと構造が密着しない。

インターネットのサービス特性はベストエフォートである。参加者全ての努力の結果として通信が成立する。サービスの形態にはホスト&ゲストもある。インデックスとコンテンツは別であって情報の場所と中身を結びつけることで商売を行っているものもあるが、コンテンツ自体はエンドto エンドで、ニュースの配信先と家庭は直接に繋がっている。

カルチャー的には自らが情報の発信者になり、自己の責任が大きくなっていく。他人を許容しない場合は孤立していき、生産力の発散を招く。一方でリスクが分散している。従来の集団指導的カルチャはリーダーに依存しているためカリスマがいれば非常に強い。集中による強大な生産力を発揮するが、一方でリスクが集中している。

インターネットが始まる前は電話のために電話のインフラが、放送のために放送のインフラがあった。インターネットが始まった頃は電話の上でインターネットがあり、せいぜい上に載るコンテンツは経済、教育までだった。光ファイバなどのインターネット用のインフラが出来てくるに従ってコンテンツも広がってきた。最終的には放送も飲み込んでいくだろう。

こういった状況の中で電波政策とはどうなっていくのか。固定通信、ブロードバンドサービス、半固定通信、移動体通信と様々な電波利用シーンがあるがワイヤレスだけの閉じた世界というものはない。つまりワイヤレスとワイヤードが融合しなければ成り立たない。しかしながら法律は電波法と通信法といったように分かれている。

従来は白山駅から東洋大学まで歩いてくるときにほとんど通信網をまたぐ事はなかった。有線系の通信網は「疎」だった。 このためワイヤレスは、長距離をカバーする必要があったし、基地局間通信のコストは高かった。最近は白山から東洋大学まで歩けばいくつの通信網をまたぐかはわからない。あちらこちらに有線通信網がある中で長距離の動かないもの同士を無線通信網で結ぶ必要は果たしてあるか。既存の有線網と無線を繋ぎ、広帯域で汎用性の高いものが必要となる。

従来は高い周波数は値段が高くて使えなかった。徐々に利用できるようになって行く課程で割り当てていった。しかしそれらの割り当てが進み空きがなくなっていく中で共用検討を始めた。しかし既存事業者に影響が出るために問題である、となった。

アナログ通信からデジタル通信になり、総務省は携帯電話やFM局などの高度化を審議した。アナログからデジタルへの進化は大きな変化はない。アナログだろうがデジタルだろうが通信が途絶えたら情報が変化するか途絶えるかである。連続通信は途切れてしまった場合、情報は変わってしまう。繋がるか繋がらないかに関して電話網は限りなくベストエフォートである。なぜなら必要な回線数だけ交換網を用意していない。100人が100対100で通信できるだけの用意はしていない。ただし繋がった場合の音声帯域は確保している。

現在のデジタルパケット通信はStore & Forwardである。パケットのリトライがとても早い間隔で行われ品質がリカバーされている。リトライの増加によって遅延が起こるがそれはアプリエーションに依存する。電波の使い方はアプリケーションによってかわるはずである。

昔は標準化させたものを普及させた。つまり標準化ありきだった。独創性より調停力が重要だった。先行者による圧倒的な資本投下による支配である。現在は作ったもの、普及したものが標準となっている。つまり独創性が必要となっている。後発者は勝ち組と負け組みの二極化が起こってくる。

研究開発体制も現在の電波政策に大きな影を落としている。上位層と下位層の異なる視点、視座から、個別に無線通信システムを設計している。これに対して、全体像を明確にし、システム設計を重視することが求められる。

電波資源の有効利用をするために、従来の用途別、長期かつ固定的周波数割り当てを改めて、一定期間毎に利用状況の見直しを行い、再配置、配分を行なう必要がある。電波政策に求められるのはテクノロジーディペンドしない電波政策、つまりモジュール化されたものが求められている。パケット交換技術、階層設計技術により、柔軟性の高い高速移動無線通信システムの開発、標準化を行なうことが望ましい。すなわち、インターネット技術により最適化されたシステムを目指す。 これらは、多様な用途に対応しながら伝送媒体に高い適応性を持っている。また、網に依存せずに新しい技術が導入されている。階層設計をすることができれば長期的に適応することが可能である。

ワイヤレスブロードバンド推進の今後として、電波資源の利用については公共財としての包括的なグランドデザインの確立が必要だし汎用技術(IP)プラットホームによる、スペクトラムとアプリケーションの垂直分離をしなきゃだめ。用途別、個別割り当てを停止して汎用的資源割り当てを推進する。事業(通信、放送)と電波の分離をするべき。その上で柔軟な電波政策の推進を計る。無線(電子通信)とネットワーク(情報処理)の融合による、研究、開発体制の確立を急ぎ、産・学、 学・学の連合によるシステム技術評価力の向上と啓蒙を進める。これらを政策に反映していかなければならない。

質疑応答

池田:ブロードバンド推進研究会はいつ結論を出すのか。

真野:年内に最終報告を出す予定。その後でパブリックコメントを求める。

池田:今までこういったやり方は取ってこなかったが?

真野:なかったですね。そういう意味では大きな変化だと思う。割り当てる電波がなくなったからであって必然的な流れだ。

池田:研究会の前提としてどの周波数を使うか、といったことは前提となっていないのか?

真野:研究会としての決まりごとはない。どのようなシーンでどのような利用が考えられるか、といったことでやっている。官僚のイマジネーションを超えるようなものはできない。

池田:実際に使う段階でどの周波数を使うかというのは問題になるのでは?

真野:そこまでの段階に至っていない。通信事業者と自営通信の戦いみたいなものが見え隠れしている。

田中:世界的に見て公共用の周波数帯は確保しているという前提だが、IPで共通化するという有効利用の観点からは、安全・安心が求められる場合どのような割り当てが必要か? 電波法が改正されたが、総務省が決めた金額をインセンティブとして課金するという流れの中で、民主党からは国が決めた額を課金するのはよくないのでは?といって声が上がっている。どう感じるか?

真野:公共利用については、例えば家庭で110番の電話機と普通用の電話機といったように2つ用意しているか。勿論していない。つまり公共用途だからと言って媒体まで二重投資する必要はない。電波もまた然りで、緊急の通信を妨げない範囲で共用することは技術的には可能である。媒体の安全・安心をどこまで求めるか、それはプライオリティコントロールしていけば良い話。排他的・独占的にしていく必要はない。
インセンティブと電波利用に関しては、道路財源の話ではないが省庁権益のような気がする。プライスを官が決めるという以前の問題として、受益者負担とするなら受益者の範囲が明確ではない。周波数に課税するのは、課税方針がテクノロジーディペンドであるといえる。

太田:ワイマックスのキャリアセンスは?

真野:プロファイルによりけり。あれば対応する。

太田:無線LANをTDDと言い切ってしまうのは?

真野:それよりもテレビの空きチャンネルでやったほうが。日本が率先してジェネラルな周波数帯を作って、免許用件は隣の帯域には漏らさず、共存ルールを決めてその他は自由だ、というものが作れればとても画期的だ。

池田:公衆無線でやる場合は1G以下の周波数が便利なのか?

真野:低い周波数は便利。浸透性もある。

原:電波政策そのものを見直す動きは。

真野:ワイヤレスブロードバンド推進研究会、情報通信委員会などがあるが、ビジョンそのものは出ている。再割り当て等、具体的にどう使うかを考えているが汎用性多様性が失われていってしまう。

田中:ジェネラルにしすぎると効率が落ちると思うが、イメージとしては現状よりは広げつつも、技術の進歩とともにさらに、といった感じなのか?

真野:全部やる必要はないが、例えば特区のようなものを作ってみて、そこで出来たものを広げていくようなシステムをトライしていくべきだ。

田中:IP網を利用していくというのは、必要性を感じていながらも個別の企業としては囲い込みをしたいと考えているため、なかなか実現しないのでは?

真野:もちろんそれはある。アプリケーションと電波の購入者がディペンドしてしまっている。

田中:多くの人が気付いていながらもビジネスのためにみんなそうしていないのか、それとも誰も気付かずに現状のほうが本当に良いと思っているのか、どちらなのか?

真野:どうなのだろうか。ワイヤレスブロードバンド推進研究会ではIP化の流れは必須であるということは明示している。

原:日本には無線のIP化をするような人はいないということか?

真野:自分から投資をするほどのインセンティブが働いていない。日本というマーケットは大きくない。ではアメリカやイスラエルではなぜ新たな技術が出てくるのかというと、ビジネスモデル・マーケットを自国だけとは考えていない。そのためある程度思い切った事ができる。日本のメーカーやキャリアはそこまで考えていない。

池田:アメリカで言われるような700Mぐらいの低い、使いやすい帯域についての意見は日本では出てこないのか?

真野:日本では誰も手を上げない。最大の問題は、総務省に限らず、審議会や委員会の委員の人選を透明化しないとクリエイション、競争は起こりえない。委員を公募にするとか、委員に対して一般からの意見募集をするよう仕組みが必要だ。